2015年4月21日、個人向け金融情報サイト、「フール・ドットコム(Fool.com)」を運営するモトリー・フール社は、「エクセロン社は秘かに原子力発電の終焉を認めたのか?[1]記事全体にアクセスするにはモトリー・フール社のメンバーになる必要がある(無料)。」という記事を出した。この記事は2週間遡ってエイプリルフールの日に発表されるべきであった。中味のない見掛け倒しの見出しのもと、エクセロン社のガスタービン設備の購買に関する浅薄で歪んだ見方と、同社の多数の原子力発電所はガスタービンで置き換えるべきだ、という馬鹿げた意見が出ている。本稿では、このモトリー・フールの記事を詳しくとりあげる。
ガスタービン購入は、最近秘密裏に行われたのではない
この記事の見出しは、エクセロン社がごく最近、秘かにガスタービンを購買したと示唆している。しかしこの購買は、実は6カ月以上も前にウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙の記事「エクセロン社、テキサス州発電所を増設へ[2] WSJ紙を定期購読していなければ、この記事は有料である。」で取り上げられている。エクセロン社は、テキサス州のコンバインド・サイクル(CCGT)発電所(100万kW)2基用としてGE社の新型ガスタービン4台を購入した。
ガスタービンは発電所ではない
この記事ではGE社製7HA型ガスタービン4台が200万kWの発電所と同じであるかのように書いているが、これは誤りである。GE社製7HAガスタービンのウェブページによれば、同機1台を単純サイクル・ガスタービンとして使用した時の出力は約30万kWであって、ガスタービン4台の合計出力は約120万kWに過ぎない。これらのタービンをCCGTで大型発電所の一部機器として活用することで1台当たり約50万kWの発電が可能となる。
コンバインド・サイクル発電所はガスタービンより高い
この記事は、ガスタービン4台の値段である5億ドルを200万kWの発電所の総費用と誤解している。もしそうであるなら、この設備の資本費は250ドル/kWとなる。このモトリー・フール社の記事が出される約1週間前、米国エネルギー省エネルギー情報局は年次エネルギー展望(2015年版)を公表しており、そこではCCGT発電所の資本コストは約1,000ドル/kWと想定している。この2015年版年次エネルギー展望の想定を当てはめるなら、エクセロン社がCCGT発電所2基を建設する費用は5億ドルではすまず、20億ドルかかることになる。
資本費は、発電コストの一部にすぎない
この記事では、様々な電源につき資本費だけを見て不適切な比較をしている。仮に記事で示された資本費が正しかったとしても、こうした比較はそもそも間違っている。ガス火力発電所で原子力発電所と同量の電力量を発電する場合、膨大な天然ガスを燃焼させる。様々な電源を比較する場合には均等化発電原価(LCOE: Levelized Cost of Electricity)を用いて比較するのが正しいやり方である。2015年版年次エネルギー展望のLCOE現況の表1によれば、その推定値は以下のとおりである。
- CCGT (設備利用率:87%) 6.63¢/kWh
- 改良型原子炉 (設備利用率:90%) 9.61 ¢/kWh
CCGTと原子力のLCOEの差は、資本費の差よりはるかに小さい。
既設原子力発電所資本費の埋没費用(サンクコスト)は無視できない
モトリー・フール社の記事では、ガスタービンの資本費とボーグル原子力発電所3、4号機新設計画の資本費を比較して、エクセロン社は所有する多数の原子力発電所全体をガスタービンで置き換えるべきである、という提案で締めくくっている。たとえモトリー・フール社が仮に電源毎の資本費の意味を正しく理解しているとしても、エクセロン社がすべての原子力発電所をガス火力発電所で置き換えるべき、などという提案をすること自体が全く馬鹿げている。
既設の原子力発電所はすでに建設され、これらの発電所への資本投資はすでに終わっている。つまり、既設原子力発電所を新設CCGT発電所で置き換えるということは、原子力発電所の運転・燃料費(2015年版年次エネルギー展望では2.4¢/kWhとされる)をCCGT発電所の全費用(即ち前出の均等化発電原価6.63¢/kWh)で置き換えることを意味する。なお、既設原子力発電所を新設単純サイクル・ガスタービンで置き換えるのは、馬鹿げているを通り越してもっと悪い。
現実のニュース―新規発電所は建設中である
2014年のWSJ紙の記事が現実を伝えている。そこでは、エクセロン社の投資は「米国の他の地域での電力需要が引き続き低迷している中」、「電力需要が伸びている」テキサス州市場での「新規発電設備容量の必要性」を満たすために行われた、とされている。テキサス州の成長する電力市場における市場本位の発電所投資対象としてCCGTをエクセロン社が選択したことは、2015年版年次エネルギー展望の内容と完全に整合した判断である。
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