原子力産業新聞
NECG Commentary
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デービス・ベッセ原子力発電所

28 Apr 2016

米国の電力自由化州の原子力発電所は卸売電力市場への売電で損失を出している。このため2基が早期閉鎖を決め、更に十数基の発電所にもその恐れがある。デービス・ベッセ原子力発電所を救済すべくオハイオ州が最近とった規制上の政策措置は実効性があるものだが、その適用にはまだ難関が待ち受けている。デービス・ベッセ原子力発電所を巡る込み入った事例とそれに関連する議論は同発電所の将来にとって(そして自由化環境下に置かれ、同様の問題に直面するかもしれない他の原子力発電所にとっても)大変に重要なものである。またこの事例は他州の類似事例に対して重要なガイドラインを与えるものである。

オハイオ州公益事業委員会の裁定

2016年3月31日、オハイオ州公益事業委員会(PUCO)はデービス・ベッセ原子力発電所を経済的理由から早期閉鎖することを回避すべくファーストエナジー社が申請していた電力売電契約申請を認可した。[1]PUCO Docket 14-1297-EL-SSO 137ページからなる「見解ならびに裁定」は2年間にもわたる喧々諤々の議論の結果、まとめられたものである。この政策措置は今後8年間にわたって以下を適用するものとなっている。

すなわち、もしもPJMの市場価格が高ければ、出た利益分だけ需要家の電力価格は安くなり、逆に市場価格が安ければRRS条項によって全需要家の料金はその分高くなる。この政策措置を適用することによって、長期的にデービス・ベッセ原子力発電所を信頼度の高いベースロード電源として活用することが可能となる。またこの政策措置は、小売電力価格の変動性を減じ、将来の小売価格の上昇を抑制し、電力システムの信頼性を向上させ、地元雇用を確保し、結果としてオハイオ州の経済成長と発展を促進するものと言える。しかしこのPUCO裁定については、ヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジー社との間に係争があり、最近、米国最高裁が下した決定が先行する判例となる可能性があり法廷で争われることが必至と考えられている。また合わせて米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は本件に関連してこれまで認められていた売電契約についての規制適用除外を無効とする命令をファーストエナジー社に対し発出しており、この政策措置の実適用はまだ行われていない。

関連売電契約への規制適用除外を無効とする米国連邦エネルギー規制委員会の命令

2016年3月31日付でPUCOが認可した売電契約に関連して、FERCは4月27日、関連売電契約につきファーストエナジー社傘下の非規制下にある発電会社に対し、それまで認めていた規制適用除外を無効とする命令[2] FERC Docket No. EL16-34-000 を発出した。このFERCの命令は複数の電力会社からの提訴があったことに応えたものであった。[3]Complainants in Docket No. EL16-34-000 are the Electric Power Supply Association, the Retail Energy Supply Association, Dynegy Inc., Eastern Generation, LLC, NRG Power Marketing LLC, and GenOn Energy … Continue reading米国における電力改革は連邦レベルと州レベルの処置が混在したものとなっている。卸取引は大量の電力が州境とは無関係に送電線でやりとりされることから州間取引であると見做されており、米国内の全ての卸電力取引は連邦機関であるFERCの規制下にある。オハイオ州は電力自由化州だが、そこでは垂直統合された電力会社の存在を許しており、一部の州のように発電所資産の完全分離を要求するのではなく、発電所資産は非規制環境下にある子会社に移すことが一般的に行われている。                                 

米国ではFERCだけが関係会社間の卸電力契約についての規制権限を有している。FERCは卸売電契約内容が一定の基準を満たしているかどうかを評価し、卸価格を受け入れざるを得ない小売需要家を保護し、各社がその立場を濫用することを防止し、また取引価格が市場ベースで決定されていることを確認することとなっている。当初、ファーストエナジー傘下の非規制環境下にある発電子会社はその価格を受け入れざるを得ないような小売需要家を自らが有していないことから、こうした規制適用は免除されることとなっていた。しかしFERCに対しての提訴において、PUCOが決めた政策措置では、ファーストエナジー社傘下の規制環境下にある各社が、デービス・ベッセなど非規制環境下にある発電会社から買電し、それをPJMの卸市場に転売しなければならなくなることが問題だとされた。こうした転売が損失を生む場合、損失分は付帯条項に基づき規制下にあるネットワークの追加料金として州内全ての小売需要家が負担することになる。オハイオ州の小売需要家は競争関係にある各社の中から電力会社を自由に選ぶことができるが、一方で全ての小売需要家は規制下にあるネットワークの料金を負担することになる。だからこの政策措置は実際にはファーストエナジーの非規制環境下にある発電会社がその価格を受け入れざるを得ないような需要家を直接保有することを意味する。また提訴では、もしこの政策措置を適用すれば本来は廃止措置に入るはずの(例えばデービス・ベッセなどの)発電所が運転を継続することとなり、また見かけ上PJMの卸電力価格を押し下げることになる、との主張がなされた。しかしFERCはこのPJM電力市場に対して悪影響を与えるかもしれないという主張については命令発令の対象となった規制適用免除とは無関係であるとして却下している。

ヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジーマーケティング社との係争

新規天然ガス発電所建設に対しインセンティブを与えるメリーランド州の政策措置は無効であるとした下級審判決について、米国最高裁は2016年4月19日、全員一致で下級審判決を支持する決定を下した。メリーランド州の政策措置は、卸売電力市場に対して米国内で唯一FERCだけに認められている規制権限を侵害するものであった。PJMの容量市場で新規発電所の容量販売を行うデベロッパーに対して「差額契約条項」を適用するとしたメリーランド州の政策措置に限って最高裁はそれを無効とする決定を行った。メリーランド州の政策措置では容量市場の保証価格を定め、PJMの入札価格と保証価格の差額が出ればその差額はメリーランド州内の小売需要家に転嫁してデベロッパーに対し補填を行い、当該発電所の容量に対する価格を保証することとなっていた。一方でこの最高裁の決定は各州が「クリーン電源」を含む新規発電所建設に対してインセンティブを与えることについては肯定するものであった。この決定は範囲が限定的であり、メリーランド州の政策措置と同様のものは避けるべきということはあるにせよ、他州における事例をどう判断するかについてはさしたるガイドとはならないかもしれない。オハイオ州の政策措置に対して最高裁決定がどのような影響を与えるのか、あるいは下級審が他の事例に対してこの決定をどのように適用することになるのかは未だ明確となっていない。またFERCが持つ卸売電力市場に対する規制権限と、州が持つ小売市場に対する規制権限の間の線引きはさらに曖昧なものとなっている。この決定を見ると各州政府ならびに電力規制当局が自州の電力産業界を自ら管理するという伝統的役割はこれまでよりも色薄いものとなっている。

この決定については以下の三つの文献を読むことをお勧めする。一つ目はロバート・ウオルトンがトラビス・カヴラ全米公益事業委員協会会長の協力を得てまとめた「ユーティリティドライブ」である。二つ目は何故、再生可能エネルギー活用義務化やニューヨーク州のクリーンエネルギースタンダードなど類似の政策措置促進が最高裁判決によって阻害されるべきではないかについて天然資源保護協会がまとめた資料である。三つ目はこの最高裁決定が如何にFERCの権限を強化することになるかについての「米国最高裁Blog(SCOTUS Blog-Supreme Court of the United States Blog)」の分析である。

 

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脚注

脚注
1 PUCO Docket 14-1297-EL-SSO
2 FERC Docket No. EL16-34-000 
3 Complainants in Docket No. EL16-34-000 are the Electric Power Supply Association, the Retail Energy Supply Association, Dynegy Inc., Eastern Generation, LLC, NRG Power Marketing LLC, and GenOn Energy Management, LLC.

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