原子力産業界では、原子力発電は温室効果ガスを排出しないなど、大きな公益が存在するにもかかわらず、財務状況の悪化により原子力発電所の運転や新しい原子力発電所への投資を断念する動きが見られる。新しい政権が誕生し、米国の原子力産業を救済する道があるか、また、どのようにすれば救済できるかを見極める好機となっている。
存亡の危機と市場の失敗
最近、イリノイ州のZEC(炭素排出ゼロクレジット)給付を、既成の卸売電力市場の存在を脅かす州承認の助成金、と批判するレポート[1]2017年1月9日FERCへの報告書(記録番号EL16-49-000)がFERC(米国連邦エネルギー規制委員会)に提出された。皮肉なことに、これらのZEC給付は、既成の卸売電力市場で赤字を出しながら運転を続ける原子力発電所が存亡の脅威にさらされるのを回避するために設けられたものであった。化石燃料を使用する発電事業者は、コスト負担を負うことなく二酸化炭素を排出することが認められているにもかかわらず、原子力発電所が二酸化炭素を排出しないことに対する対価を脅威とみなすことも皮肉に思える。ZEC給付は、電力部門での炭素排出量削減を促す1つの方法である。
どうしてこのような事態を招いたのか?
事業者には、原子力発電所は温室効果ガスを排出しないなどの大きな公益が存在するにもかかわらず、財務状況の悪化により原子力発電所の運転や新しい原子力発電所への投資を手控える動きが見られる。安い電力市場価格、原子力がもたらす多大な公益に対する対価の欠如、電力事業に対する米国市場のアプローチが組み合わさって、米国の原子力発電は機能不全に陥っている。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス社、エンバイロンメンタル・プログレス社などの情報分析会社は、米国の多くの原子力発電所が損失を被っていると見ている。原子力発電市場の機能不全は、米国におけるすべての電力産業のアプローチの問題となっている。
マーチャント原子力発電所(編集部注:本コメンタリー末尾参照)-マーチャント原子力発電所は、組織化された電力市場に参加している。マーチャント原子力発電所にとって、電力市場への電力と発電容量の販売から得られる収入が運転コストを下回った場合、原子炉を早期に閉鎖することで赤字経営に歯止めをかけることになる。早期閉鎖を最初に行った原子力発電所は、マーチャント原子力発電所(すなわちキウォーニ発電所とバーモント・ヤンキー発電所)であり、2016年のニューヨーク州とイリノイ州のZECプログラムが適用された原子炉はマーチャント炉である。
規制下にある原子力発電所-原子力発電所の中には、規制下にある電力会社のものもあり、それらの原子力発電所は、運転コストと投資利益を需要家が支払う電気料金から回収する。規制下にある電力会社と規制当局は通常、短期的な料金への影響のみに目を奪われるのではなく、長期的な見通しに立ち、原子力発電のすべての特性とそれがもたらす公益の価値を考慮する。しかし、原子力発電所の運転コストが電力購入コストより高ければ、電力会社、または州の電力規制当局は、原子力発電所を早期に閉鎖したほうが需要家の電力料金を安くできる、と判断するかもしれない。
公共事業者所有の原子炉-政府、市町村の電力会社、協同組合、その他の公的電力会社が所有する原子力発電所は、顧客から費用を回収する。規制下にある電力会社と同様に、公的電力会社は、長期的観点に立ち、原子力発電のさまざまな特性と公益の価値を考慮する。しかし、2016年のフォートカルホーン原子力発電所の早期閉鎖は、原子力発電所の運転コストが電力購入コストを上回る場合、原子力発電所を早期に閉鎖したほうが、顧客/組合員の電力料金を引き下げることができることを示している。
何ができるか?
原子力発電市場の失敗[2]NECGコメンタリーNECGコメンタリー第14回参照による存続の危機に対処する方法[3]2016年ANS原子力ツールキット参照はいくつかある。
これまでに次のようなアプローチが成功している。
- 原子力発電所を所有する規制下にある電力会社、公的電力会社は、原子力発電がもたらす公益、その他の特性を理解しており、それぞれの発電ポートフォリオに原子力発電所を組み込んでいる。
- ニューヨーク州とイリノイ州でのZEC給付によって提供される直接的対価が、一部のマーチャント原子力発電所の運転継続を可能にしている。しかし、他の州(例えばバーモント州とウィスコンシン州)では、原子力発電所が早期閉鎖に至っている。
- アイオワ州がデュアン・アーノルド原子力発電所の長期電力調達契約(PPA)の延長を承認したことで、このマーチャント発電所は運転を継続することができた。
その他のアプローチには、連邦政府の一定の関与が含まれる。
- 早期閉鎖の脅威にさらされている原子炉の政府による買い入れと、新規原子力発電所への政府の投資
- 再生可能エネルギー生産税控除などの税控除による既存の原子力発電所の収益改善も、原子力発電所の収益性を維持する1つの方法と考えられる。
- 政府による原子力発電所からの電力購入、おそらくは連邦電力購入クリーン・エネルギー義務を通じて、収益を上乗せすることが考えられる。
- 原子力発電所の収益を改善する炭素税を制定する
結論
米国では、原子力は、市場で他の電源と競合し合う電源の1つに過ぎないと考えられており、原子力発電所は、電力システム上の便益、公益、国家戦略的便益を有する電源であると評価され、それに基づく対価を受けることができないため、米国の原子力産業は存亡の危機に直面している。既存の原子力発電所の運転継続に道を開き、新しい原子力発電所を支援する政府の支援がないかぎり、米国の原子力産業は死を迎えることになるだろう。
(編集部注)
「マーチャント原子力発電所」:電力市場自由化環境下にある原子力発電所
脚注
↑1 | 2017年1月9日FERCへの報告書(記録番号EL16-49-000) |
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↑2 | NECGコメンタリーNECGコメンタリー第14回参照 |
↑3 | 2016年ANS原子力ツールキット参照 |
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