英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は 2018 年 1 月に小型炉資金調達ワーキンググループ(EFWG[1]The Expert Finance Working Group on Small Reactors)を設置した。BEIS は EFWG に、小型炉建設計画に対し民間資金を募る上で必要となる主要な政策案と市場の枠組み、ならびにその英国議会での審議に資するための提言案につき諮問した。原子力資金調達の専門家で NECG のアフィリエイトでもあるアムジャド・ゴーリ氏はこの EFWG の主要なメンバーの一人であった。
「小型炉資金調達のための市場の枠組み」はこの EFWG での何か月にもわたる議論を経て取りまとめられた報告で、小型モジュール炉(SMR)建設計画とその資金調達を市場メカニズムに基づいて円滑に進めるための政策案を英国政府に対して答申したものである。
NECGのアフィリエイトであるアムジャド・ゴーリ氏はEFWG の主要なメンバーの一人として、そのエネルギー・原子力分野の資金調達についての専門性を発揮して同報告取りまとめに貢献した 。
EFWG 報告とその提言は SMR を産業として確立させるのに必要となる SMR 初号機の建設計画に焦点を当てたものである。
A. EFWG 報告
以下は EFWG 報告を短くまとめたものである。これだけで実際の報告を読むのに代えることはできないから詳細については原文を参照されたい。EFWG での検討は小型炉建設計画に対して民間の投資資金募集の可能性を評価するべく行われた。
第 2 章では英国政府の意欲的な低炭素化政策である「クリーン成長戦略」達成のために、いかに小型炉がクリーンで安全、かつ経済的にも魅力あるか、そしてその実現のためには民間部門の投資が必要であることが併せて示されている。しかし現実には市場の失敗の問題があって民間投資が行われることにはならないので、小型原子力プロジェクトの初号機建設計画では、まず英国政府が先鞭をつけるとともに成し遂げ、産業界を支援すると
いう英国政府の役割が不可欠であることが示されている 。
第 3 章では SMR が持つ将来的なメリット(例えばモジュール化やリードタイム短縮化によるコストダウン)について、大型炉と比較しながら解説がされている。そうしたメリットは技術開発ならびに製造能力確保が適切になされれば一層大きなものとなる。
第 4 章では SMR に関する技術開発、製造能力確保、および建設計画立案のどれをとってもコーポレートファイナンスあるいはプロジェクトファイナンスによる資金調達が必要となることが示されている。
第 5 章では小型炉建設計画が持つリスク特性を考えると大型炉建設計画よりは投融資の機会を得やすいと考えられることが示されている。
第 6 章では世界各地のエネルギー関係施設等の建設計画実例を踏まえ、小型炉への資金調達方法を 9 種類に類型化して示したうえで、リファイナンスの可能性についても検討がなされている。
第 7 章では英国政府に対する以下の 7 点からなる提言がまとめられている。
- 初めから技術の選択肢を狭めて決めつけるのではなく、政策や市場の枠組みを通じて実現を図る。
- 初めから技術の選択肢を狭めて決めつけるのではなく、政策や市場の枠組みを通じて実現を図る。
- 小型炉の初号機建設計画は 2030 年までに市場に投入できるよう注力する。
- 革新的な小型炉製造サプライチェーン確立に向けた計画を主導的に作る。
- 規制当局の協力を得ながら小型炉建設計画に関する最適かつ柔軟性に富んだ安全審査プロセスを作り上げる。
- 小型炉の初号機建設サイトを政府が準備し、小型炉建設を行う事業者のリスクを低減する。
- 小型炉の初号機建設計画の資本費を低減させ、また民間投資家のリスクを一部分担して負う。
付録 A には EFWG のメンバー、報告作成の手順、および報告の根拠となる資料を提供した関係者名が記されている。
付録 B では大規模建設計画(すなわち大型炉建設計画)ではどうして工期遅延や費用超過が発生するのか、リーズ大学ジョルジオ・ロカテリ博士が解説をしている。
付録 C では設計、製造、建設の 3 段階について詳細なリスクマップを示し、どこにどんなリスクがあるかを実際に示している。これらは IAEA の一般的なリスクマップ表示手法に基づいている。
付録 D では第 6 章で示された 9 種類の資金調達方法の詳細な内容が示されている。
B. 評価
英国政府が報告の提言内容を承認しそれが実行に移されたとしても、最初の小型炉が実際に建設され、SMR のバリューチェーンと製造能力が英国内で確立されるまでには長期間を要することになる。
市場だけに依存していても原子力産業が発展成長することにはならず、原子力推進のためには政府が大きな役割を担うことが必要となることが本報告で再び示されていることが重要なポイントである。この EFWG 報告の提言では原子力産業は国有化すべきだ(例えば中国、ロシアなどのように)というところまでは踏み込んでいないが、原子力産業における市場の失敗については注記されている。
アムジャド・ゴーリ氏は以下の通り述べている。
「原子力建設計画立案と資金調達の仕組みを市場だけに委ねて考えるのは不適切だ。小型炉建設計画を具体化し産業界を支援するためには、具体的プロセスの一つ一つについて政府が措置を講じていくことが必須である。」
脚注
↑1 | The Expert Finance Working Group on Small Reactors |
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