電力部門の炭素放出量を減少させる上で、原子力発電の活用は非常に効果的だ。炭素放出量を減少させる上で費用対効果が最も大きな手段は既設原子力発電所をできるだけ長期にわたって運転し続けることだ。にもかかわらず、米国内の複数の既設原子力発電所が早期閉鎖され、さらに他にも早期閉鎖されそうな発電所が多くある。この市場の失敗に対して合衆国政府には動きがなく、各州政府のみが対処をはかっているようにしか見えない。
最近の経緯
2013年以降、3基の既設原子力発電所が純粋に経済的な理由から閉鎖されている。キウォーニが2013年5月に、バーモントヤンキーが2014年12月に、そしてフォートカルホーンが2016年10月に閉鎖された。これらの発電所では自由化市場からの収入では発電所の運転費用を賄うことができなかった。
さらにこれらの発電所の他、クリスタルリバーとサンオノフレの2発電所が大規模保修のコストがかさんだことで早期閉鎖されている。クリスタルリバーは2013年2月に、またサンオノフレは2013年6月に閉鎖された。もしも原子力発電所が生む電力の価値がもっと高く評価されていたとすれば、これらの発電所を所有する電力会社はそうした大規模保修の費用を支出してでも全出力で再度稼働させることが正当化できる、と考えたかもしれない。
ニュージャージー州のオイスタークリーク原子力発電所は2018年に早期閉鎖された。許認可上、同発電所は2029年までの運転が可能であった。またエクセロン社とニュージャージー州は、2019年までは多額の費用を要する冷却塔の追加設置を行うことなく運転することで合意していた。しかしエクセロン社はその期限よりも1年前に閉鎖を決めた。
その他にもニューヨーク州のナインマイルポイント、フィッツパトリック、ギネイ、イリノイ州のクリントン、クアド・シティーズなど、経済的理由で早期閉鎖が予定されている既設原子力発電所がいくつかある。そうした早期閉鎖計画の発表を受けてニューヨーク州とイリノイ州はゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)プログラムを策定し施行した。危機に瀕していた両州のこれら原子力発電所はZECプログラムによる追加収入があったおかげで運転が継続されている。ZECプログラムは市場の失敗に終止符を打つために政府が取る適切な措置であると言える。
本コメンタリーでは、ここ過去1年ほどの間に原子力発電所の早期閉鎖防止のために何がなされ、また何がなされなかったのか、最新情報をとりまとめてみたい。
合衆国レベルのアクション
合衆国レベルで原子力発電所の早期閉鎖を防止するためにこれまで取られた施策はほとんどない。イリノイ、ニューヨーク両州のZECプログラムを是とした控訴審決定は最高裁に上告されている。エネルギー省(DOE)が提案していた電力システム系統信頼度・レジリエンス向上のための価格設定ルール化(レジリエンス・イニシアティブ)の検討は中断され、追加措置検討も保留されている。NRCへの運転期間延長申請(1度目の合計60年間運転、2度目の合計80年間運転とも)は順調に審査が行われている。
最高裁
ニューヨーク、イリノイ両州のZECプログラムはその是非を巡って裁判所で訴訟となっている。これまでのところ裁判所はZECプログラムを中止すべきとの申立てを却下している。しかし連邦第7巡回区控訴裁判所が下したイリノイ州のZECプログラムを是とする決定を不服として、2019年1月に複数の発電会社が共同で最高裁に上告を行った。だがこのイリノイ州のZECプログラムについての控訴審決定や、ニューヨーク州のZECプログラムを同様に是とした連邦第2巡回区控訴裁判所が下した決定を最高裁が覆す可能性は低いと電力業界は見ているように思われる。もしもこれら控訴審決定が覆されることとなれば、先行判例であるヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジーマーケティング社間の係争[1]訳注:Nuclear Economics Consulting Group コメンタリー第 13 回「デービスベッセ原子力発電所」でも本決定について触れられている。に関する最高裁決定をも覆すこととなり、多くの州で実施されている再生可能エネルギーに関するプログラムについても問題を引き起こすことになる可能性があると思われる。
DOEのイニシアティブ
2017年9月、米国エネルギー省(DOE)は米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)に対し、電力システムのレジリエンス維持を目的とした規則制定予告(NOPR)を送付した。このNOPRは当該発電所サイト内に90日分の燃料備蓄を有する発電所(すなわち原子力発電所やほとんどの石炭火力発電所)に対してそのコスト回収を保証するものであった。しかしFERCはこのNOPRを却下し、代わりに各地域の市場/電力システム運営者に対し電力システムのレジリエンス問題を評価することを要求した。
2018年、ファースト・エナジー社はDOEに対し、PJM内にある石炭火力と原子力発電所についてコスト回収を可能とする緊急指令を発令するように要請した。この要請ならびにDOEのNOPRについて再度検討することについては、現時点でも保留されたままであり、これ以上検討はされない可能性もある。
NRC
NRCの状況には既設原子力発電所にとっていくつかの朗報がある。いくつかの既設原子力発電所はさらに長期間の運転が可能となるかもしれない。米国内ほとんどの原子力発電所は既に1回目の20年間の運転期間延長を申請し、認可を得ており、その結果合計60年間の運転が可能となっている。
NRCが審査中であったシーブルックの1回目の運転期間延長申請は2019年3月12日に認可された。
またNRCは2回目の運転期間延長申請の審査も開始しており、これがもしも認可されれば原子力発電所は合計80年間にわたって運転可能ということになる。フロリダ州のターキーポイント、ペンシルバニア州のピーチボトム、バージニア州のサリーの各原子力発電所はこの2回目の申請を既に提出しており、またバージニア州のノースアナも2020年には申請を行う予定である。
各州の出来事
アリゾナ州
アリゾナ州では2018年の住民投票の結果、再生可能エネルギー利用促進に関するプロポジション127が否決された。プロポジション127は州内電力各社が2030年までに最低でも50%の電力を再生可能エネルギーで調達することを求めるもので、この再生可能エネルギーの定義には原子力は含まれていなかった。このプロポジション127否認は、もしもそれが可決され施行されたならば早期閉鎖されることになると考えられていたパロベルデ原子力発電所にとってみれば好結果であった。
カリフォルニア州
2018年のはじめ、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)は、ディアブロキャニオン原子力発電所の所有者であるパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)社がNRCに対して20年間の運転期間延長申請は行わず、NRCの運転認可が切れる2024年と2025年に同発電所1、2号機を閉鎖することを承認した。
このPG&Eとの合意では、ディアブロキャニオンからのクリーンな電力がなくなった分は、他の炭素放出量ゼロの電源で代替されることとしている。しかしディアブロキャニオンからの電力を代替する手段の詳細や、そのコストの大きさについてはこれから検討される予定の「総合電源供給計画」の結果をみてみないと分からない。
カリフォルニア州は炭素放出量削減に対して積極的な目標(すなわち2045年までに全電力量を炭素放出量ゼロの電源で賄う)を設定しているが、ディアブロキャニオン原子力発電所を早期閉鎖することでこの目標達成はさらに難しくなった。
コネチカット州
2019年3月15日、ミルストン原子力発電所の所有者であるドミニオン・エナジー社は、コネチカット州の炭素放出量ゼロの発電容量を導入するプログラムについて合意に達したと発表した。
コネチカット州規制当局はミルストン発電所が早期閉鎖されるリスクがあると結論づけた上で炭素放出量ゼロの発電容量入札を行い、今後10年間分についてミルストン発電所が落札した。
イリノイ州
イリノイ州では州のZECプログラムの結果、クアド・シティーズ、クリントン両原子力発電所の早期閉鎖をうまく防止することができた。
2019年のはじめ、エクセロン社がイリノイ州で所有するその他の3原子力発電所(つまりドレスデン、ブレードウッド、及びバイロン各原子力発電所)も早期閉鎖の可能性に直面しているという報道があった。この3発電所の容量市場での契約では、ドレスデンは2021年、バイロンとブレードウッドは2022年までは閉鎖できないことになっている。
本件についてはエクセロン社と州関係者との間で交渉が続いている。
他方、同州では積極的な再生可能エネルギー導入(つまり2030年までに45%、2050年までに100%)に向けた新たな州法案が提案されている。この再生可能エネルギーの定義には原子力は含まれていない。
アイオワ州
デュアン・アーノルド原子力発電所の1回目の運転期間延長は既に認可されており、2034年までの運転が可能となっている。
アイオワ州電力委員会は2013年、同発電所の電力売買契約を2025年まで延長することを承認した。しかし2018年、同委員会は、この電力売買契約を2020年までとする和解契約を承認し、デュアン・アーノルドは2020年に閉鎖されることとなった。
マサチューセッツ州
ピルグリム原子力発電所は1回目の運転期間延長の認可を得ており2032年まで運転が可能である。
しかしピルグリムは2019年6月に閉鎖されることになった。所有者のエンタジー社はピルグリムをホルテック・インターナショナル社に売却することで合意しており、以降ホルテック社が廃炉作業を実施することになる。
ミシガン州
パリセード原子力発電所は1回目の運転期間延長の認可を得ており2031年まで運転が可能である。
しかしパリセードはコンシューマー・エナジー社との電力売買契約が終了する2022年に早期閉鎖されることとなっている。所有者のエンタジー社は原子炉停止後、パリセードをホルテック・インターナショナル社に売却することで合意しており、以降ホルテック社が同発電所の廃炉作業を引き継いで実施することになっている。
ミネソタ州
プレーリー・アイランド原子力発電所は既設原子力発電所のなかでも比較的高コストであり(つまり小型でかつ単機の発電所であり)、電力市場価格が低い価格で推移する中、潜在的にみて経済的理由で早期閉鎖される恐れがあると考えられている発電所の一つである。
2019年のはじめ、ミネソタ州は2050年までに同州の電源からの炭素放出量をゼロにするという脱炭素化計画法案を提案した。同州のプレーリー・アイランド及びモンティセロ原子力発電所を所有するエクセル・エナジー社も2030年までに炭素放出量を80%削減し、2050年までに同社電源からの炭素放出量をゼロにする同社独自の計画を持っている。この両者の計画では原子力発電所の稼働を含めて考えているように見受けられるが、そこにはいくつかの問題点がある。つまり、
- ミネソタ州の原子力発電所は2050年以降も長期にわたっての運転はできないかもしれない。プレーリー・アイランド1、2号機の運転開始は1974年であり、両号機とも1回目の運転期間延長申請の認可を得ており、運転許可はそれぞれ2033年と2034年まで延長されている。もしもこれらの2基が2回目の運転期間延長認可を得るとすれば(申請はまだ提出されていないが)、両号機はそれぞれ2053年と2054年までは運転を継続できるかもしれない。
- しかし実際に州議会に提出された脱炭素目標実施法案(HF1956)の「脱炭素電源」の定義から州内の既設原子力発電所は除外されている。
- この実施法案では州内の新規原子力発電所は脱炭素電源として認めることになっていると思われる。しかしながらミネソタ州では新規原子力発電所建設は禁止されていることから、この禁止を解除する法案が現在議論されている。
ミネソタ州やエクセル・エナジー社の脱炭素電源化計画は、州内既設原子力発電所は早期閉鎖はされないかもしれないと期待を抱かせるものではあるが、これらの計画が本当に実施に移されるか否かは不透明である。
ニュージャージー州
ニュージャージー州は2018年、同州公益事業委員会(NJBPU)に対してZECプログラムを立案、施行することを要求する法案を可決した。NJBPUは同年11月、ZECプログラム案を承認、ZECの施行手続きを開始した。パブリック・サービス・エンタープライズ・グループ社(PSEG社)は所有する3基の原子力(つまりホープクリーク、セーレム1号機、2号機)についてZECの申請を行った。
NJBPUはこの申請内容を審査し公益事業委員会スタッフ並びにコンサルタントが評価結果を取りまとめ、2019年4月の委員会で報告する予定となっている。
このニュージャージー州のZEC施行手続きは、その評価結果が公表される前に世論で取りざたされることとなった。同州公益料金協議会が、PSEG社の原子力発電所はZEC給付金の対象とすべきではない、との意向を公にする一方、PSEG社は、もしもZEC給付金が得られないならば原子力発電所は早期閉鎖する、と断言している。
このニュージャージー州のZEC法とそれに基づくNJBPUによる同法の施行手続き実施は、PSEG社が所有する原子力発電所の早期閉鎖を防止し得る方策を提供するものではあるが、この手続きもまだ全てが完了したわけではない。
ニューヨーク州
エンタジー社はインディアンポイント原子力発電所2、3号機をそれぞれ2020年と2021年に早期閉鎖すると公表している。
エンタジー社は両号機の当初認可の運転期限である2013年と2015年から5年以上も前の2007年にNRCに対して両号機の運転期間延長申請を行っていた。この延長申請がNRCで審査中であったことから、当初認可の期限が切れた後も両号機は運転を継続していた。
2018年、エンタジー社はニューヨーク州並びに運転期間延長に反対していた環境保護団体との間で、運転延長期間を短縮する補正申請を行うことなどについて合意に達した。NRCはこの短縮された運転期間延長申請を認め、両号機はそれぞれ2024年、2025年まで運転が可能となった。
インディアンポイント原子力発電所2,3号機が閉鎖された後、エンタジー社は同発電所全体を廃止措置を実施する他社に売却するものと考えられている。
オハイオ州
ファーストエナジー社はオハイオ州内の2基の原子力発電所を早期閉鎖すると発表している。州もしくは連邦政府から追加の収入を得ることができないなら、デービスベッセ原子力発電所は2020年に、またペリー原子力発電所は2021年に閉鎖するとしている。
これらの原子力発電所はこれまでも存在の危機にさらされてきた。2016年に州が発案したこれらの号機を再度料金規制下に置く案は結局認められなかった。2018年初頭、ファーストエナジー社は同社の原子力発電所(ならびに石炭発電所)に追加の収入をもたらすような緊急指令を法令に基づき発令してくれるようエネルギー省(DOE)に対して請願を行った。DOEに対してこの請願が行われて間もなく、ファーストエナジー社傘下で同社の原子力発電所を保有し競争市場で売電している子会社であるファーストエナジー・ソリューションズ社は連邦倒産法11章(チャプター11)による倒産手続きに入った。
2018年にはオハイオ州内の原子力発電所に対して追加の収入源を確保するような立法措置が検討されるのではないかと予想されるに至った。過去、オハイオ州内の原子力発電所の早期閉鎖を防止するために払われた州の努力はいずれも失敗に終わっており、この新たな計画もまた強い反対に直面するものと考えられている。もしも法案が再生可能エネルギーも対象として含みうるものとなるなら、法案の支持を獲得する一助となる可能性はある。
ペンシルバニア州
ファーストエネジー社は、もし追加の収入が確約されない場合は州内にある自社のビーバーバレー原子力発電所2021年に閉鎖するとの計画を公表している。
エクセロン社も、もし追加の収入が確約されない場合はスリー・マイル・アイランド1号機(TMI 1号機)を2019年に閉鎖するとの計画を公表しており、最速ケースでは2019年6月(すなわち同社が原子燃料手配を行う必要がある時期)には同号機を2019年9月に閉鎖することを決定するかもしれないとしている。
2019年3月、ペンシルバニア州公益事業委員会のアンドリュー・プレイス委員は、原子力発電所に対する政策上の選択肢をまとめた報告書を州議会議員に配布した。2019年3月10日には、2004年制定の法令で定めた再生可能エネルギーについての処置や補助金を同様に原子力発電所にも適用するべきとする、危機的状況にある州内の原子力発電所を救う可能性がある法案が提出された。
しかしペンシルバニア州内原子力発電所の早期閉鎖防止に有効な立法措置をとろうとしたこれまでの努力はいずれも失敗に終わっており、この新法案もまた強い反対に直面している。
ウイスコンシン州
ウイスコンシン州では電力会社に対し2050年までに炭素放出量ゼロを達成することを要求する政策が提案されている。州の政策の具体的内容にもよるが、この政策が実現すればポイントビーチ原子力発電所の存続への一助となるかもしれない。しかしながら、ポイントビーチは1回目の運転期間延長の認可をNRCから受けてはいるが、その運転許可も2030年5月に期限を迎えることとなっており、同発電所は2030年以降は運転できない可能性もある。仮にポイントビーチが今後2回目の運転期間延長の申請を行い認可を得たとしても、運転期間は2050年までにしかならない。
まとめ
米国内の既設原子力発電所を見てみると、いくつか明るい見通しもあるものの、足元で迫られる判断の結果次第によっては今後、複数の発電所が早期閉鎖されてしまう可能性もある。既設原子力発電所の早期閉鎖に歯止めをかけるような政策提言が合衆国レベルで行われる動きはこれまでのところない。このため、各州が独自の施策を考えざるを得ない状況となっている。
以下の表は早期閉鎖が予定されている既設原子力発電所と、早期閉鎖の危機にさらされている主要な発電所を取りまとめたものである。
(編集部注記:ミルストン発電所については、2019年3月15日に価格合意が整ったことで、当面の早期閉鎖は回避。参照;原子力産業新聞2019年3月22日号)
ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。
お問い合わせ先:Edward Kee +1 202 370 7713 edk@nuclear-economics.com
脚注
↑1 | 訳注:Nuclear Economics Consulting Group コメンタリー第 13 回「デービスベッセ原子力発電所」でも本決定について触れられている。 |
---|
お問い合わせ先
Edward Kee +1 202 370 7713
edk@nuclear-economics.com