原子力産業新聞
NECG Commentary
31

米国の再エネ補助金を見直す時が来た

17 Sep 2020

政府の補助金がクリーンな米国電力システムの実現、そして米国原子力発電事業の障害となって立ちはだかっている。

米国ではきちんと保守維持されてきた原子力発電所が早期閉鎖され、新規建設もほとんどなく、原子力は苦闘が続いている。

そうした苦闘の核心に横たわっているのは「賭けは負けだった」という事実だ。即ち、規制当局や政策決定者達は「電力市場を自由化すれば、市場の力で電力セクターは社会のニーズに対して最適のサービスを提供することになる」という札に賭けた。

しかし残念なことに、自由化電力市場はその目指すところには遥かに及ばないものでしかなかった。経済学理論によれば、「市場の失敗」があった時には「賢明な規制」を行うべきだとされる。しかし、それに代えて米国ではエネルギー補助金付与の政策がとられたが、それは「賢明な規制」にとって代われるようなものではなかった。

エネルギー補助金の論理

エネルギー補助金は市場が向く方向を変えて、社会にとって好ましくない状態に至るのを防ぐためのものだ。ある技術が商業化される初期段階では、投資・開発を促進し、また、まだ揺籃期にある産業を競争から保護するためによく補助金制度が活用される。エネルギー省を創設したカーター政権では、代替燃料や後の再生可能エネルギーへの支援が行われたが、それは主にこの後者の目的を意図して実施されたものだ。米国の輸入石油への依存度を低減させることができる技術は何であれ、そのために消費者が最終的に負担する額以上の価値があるものと考えられた。そうした産業を支援し開発を促進することは、米国にとり最善の方策であると考えられていた[1]Mona L. Hymel and Beth S. Wolfsong, “Americans and their “Wheels”: A Tax Policy for Sustainable Mobility,” Arizona Legal Studies, Discussion Paper 06-15, (2006).

再生可能エネルギー(再エネ)への補助金付与を提唱する人達は、「市場の失敗」への対処だとしてお決まりのシナリオを主張する。つまり、再エネはクリーンなエネルギーだが、再エネがエネルギー供給以外にもたらす追加の利益(温室効果ガス放出量が極少であること)は電力市場価格には含まれておらず、再エネは本来あるべき水準よりも低い利潤しか上げることができない、というものだ。

そこで米国連邦政府ならびに州政府は、投資への税控除や発電量への税控除、固定価格買取制度(FIT)、再エネ導入基準スタンダード(再エネ・ポートフォリオ・スタンダード)などで市場に介入し、この「市場の失敗」に対処しようとした。こうした再エネへの補助金付与の結果、再エネへの投資が促進され、実際、再エネの量は補助金付与の期間を通じて大きく増加し、既存のエネルギー源と比較しても再エネの発電コストは競合可能なレベルになってきた。再エネ補助金は、その成果を出したように見えた。

エネルギー補助金の問題点

しかし深掘りして考えてみると、この補助金付与には様々な大きな問題があり、それら問題点の多くは、補助金が原子力発電へ与えた影響を考えてみるとより明確に見えてくる。簡潔に言うなら、米国のエネルギー補助金制度は非効率で、誤った方向に産業を導くものであるばかりか、多くの点でまぎれもなく有害なものである。

そもそもエネルギー補助金が何を目指すものであったのかを考えてみよう。米国政府の再生可能エネルギー支援は、しばしば温室効果ガス(GHG)排出削減のための努力の一つであるとされているが、例えその効果があったとしてもそれは大変にお粗末なものでしかない。

再エネ補助金の目指すところは、大変に視野の幅が狭く、役立たずでしかない。つまり、再エネ補助金は近視眼的に再エネ建設を最大化することだけを目指したものでしかない。我々の直感に反して、それはGHG放出減少というそもそもの目標達成をしばしば妨げるものにすらなる。その主な理由は、ほとんどの再エネ電源の持つ間欠性にある。つまり、再エネの発電量は予見不可能で、しかも一日を通して発電はできない。従って如何に多数の風力や太陽光発電所を建設したとしても、結局のところ電力ネットワークはベースロード発電所に依存せざるを得ない。市場の失敗の結果、十分な原子力発電容量は確保できず、その他の大規模エネルギー源にも様々な技術的問題があるから、多くの場合、そうした役割は火力発電所によって担われることになる。エネルギー補助金はそうした背景に内在している市場の失敗を解決することはできず、炭素ゼロというジグソーパズルを埋めるピースのうち、再エネという一つのピースだけに恩恵を与え、他のピースである原子力を衰退させる幅狭なものでしかない。

「エネルギー・エコノミクス誌[2]Richard G. Newell, William A. Pizer, and Daniel Raimi, “US federal government subsidies for clean energy: Design choices and implications,” Energy Economics, Vol. 8, (May, 2019).」に研究者が投稿した記事によれば、純粋に経済的な議論(政治的な論点は含まれないと思われるが)に基づくならば、政策の焦点はポイントを絞って狭めるのがよく、発電所建設完了によってもたらされる物理的な結果に相応する補助を与えれば、政府の政策がレバレッジを効かせて市場に対し影響を発揮でき、その結果、環境を改善する上で補助金の効果は最大化できる、としている。

しかし実態を見るなら、冒頭に写真があるカリフォルニアのイバンパ発電所をはじめとして、太陽光投資の税控除や連邦の債務保証で建設された発電所は当初計画された出力を出すことができず、失敗に終わっている。それら連邦政府による太陽光支援策と、カリフォルニア州による再エネへの支援策が相まって、カリフォルニア州では太陽光発電がブームとなって大きく増加したが、それは最近のブラックアウトの背景原因となっていると指摘されている。

実際に大気汚染が発生している最前線に目をやってみても、米国政府の政策は右手がどういう動きをしているかを全く理解せずに、左手で何かをやるような支離滅裂な状態になっている。現在の連邦政府による化石燃料への補助金は、「環境・エネルギー研究所[3] Clayton Coleman and Emma Dietz, “Fact Sheet: Fossil Fuel Subsidies: A Closer Look at Tax Breaks and Societal Cost,” Environmental and Energy Studies Institute, (July 29, 2019).」によれば年額200億ドルにもなるとされ、そのうち40億ドルはひどい大気汚染をひきおこす石炭産業に対して支払われている。過去、エネルギー補助金は有害な汚染を削減するというよりは、エネルギーセキュリティ確保や付随して生じる経済効果に焦点を当てて運用されてきた。

エネルギー補助金は、電力市場のあり方も歪める可能性がある。ある種、電源の質に着目した再エネ補助金(例えば主に風力の発電量に対する税控除)やFITは再エネプロジェクトから得られる収益を実効的に増加させる効果がある。しかし電力スポット市場の設計と重ね合わせると、このことは電力市場価格を歪めることになっている。電力市場では、発電事業者は受け入れても良いと思う価格で入札を行い、入札価格が低いところから需要量まで順に落札し、最後の(一番高値の)落札価格(スポット価格)が全ての落札者に対して支払われる。

その結果、しばしば再エネ事業者は負の価格で、つまり落札すれば金額を支払ってでも電気を引き取ってもらうように入札する動機づけがされることになる。これは直感に反するが、補助金制度が再エネ事業者が発電機を運転している時に限って発電量に対して補助金が支払われる、という仕組みになっているためである。そうした補助金の与え方は電力のスポット価格への下降圧力として作用し、全ての発電事業者を苦しめることになる。しかし、そうした事態になっても再エネ事業者は、補助金を得ることで利潤をあげることができる。それでも再エネが利潤をあげていることは、新規の再エネ建設計画投資が依然活発であることからも読み取れる。再エネ補助金の仕組みはその目標を達成しつつあるが、それが意図していない副作用は深刻なものとなり得る。

巻き添えの被害

現在の再エネ補助金制度の大きな問題点は、それによって他の発電事業者が被害を被るということにある。例えば、自由化電力市場で運転している原子力発電所は市場で売電して固定費回収を行っているから、その経済性は市場のスポット価格次第ということになる。市場価格が損益分岐点を下回れば、原子力発電所は損失を出すことになる。そうした事態になれば、所有者は財務的損失を回避するために発電所を廃止するのが普通である(例えばキウォーニ発電所やバーモントヤンキー発電所など[4]NECG Commentary #27 今も続く米国原子力の危機を参照されたい)。米国では原子力発電所は一旦廃止してしまうと、物理的には更に何十年も稼働が可能であったとしても再稼働させる道はない。再エネの発電量に関連付けて支払われる補助金の類でスポット価格が下降圧力を受けることは、原子力発電所にとっては致命傷になり得る。

このことはもっと憂慮されてよいことだ。原子力発電所は価値ある物的資産である。地域には熟練度の高い雇用を生みだし、高い信頼度の電源であり、排出ゼロの電力を大量に生産できる。プラント寿命を通じたGHG排出量をみても、風力や太陽光に遜色ない低炭素電源であるうえ、間欠的な再エネでは達成不可能な信頼度高い電力を供給できる。原子炉は天候の晴雨や風の有無によらず、90%以上の稼働率でベースロードの電力を供給できる。

このため、実際にもしも原子力発電所が廃止されたとしても、その分の電力は再エネで置きかえられることにはならない。と言うよりは、それは絶対に不可能だ。廃止された原子力の電力は、他の最も安価でかつ信頼度が高い電源、すなわち炭酸ガスを放出する天然ガス発電所がとって代わって発電することになる。だから、原子力発電所が廃止されれば、必ずGHG排出量は増加することになる。

より優れた手法

米国の再エネ補助金が引き起こしている問題への解決策は、既に分かっている。現在原子力が直面している問題全てを補助金政策の誤りに帰すことはできないが、現在の補助金制度はGHG排出を低減させようという目標に照らして考えると、非効率で場合によっては極めて有害なものである、という事実は厳然として残る。

連邦政府及び州政府は再エネ補助金について系統的な再評価を行うべきである。そしてその再評価は、単に再エネ電源の建設量を増やすことだけに焦点を当てたものではなく、電力セクターからのGHG排出量を減らすことができるような補助金制度を作り上げることに焦点を当てるべきである。そしてその暁には、連邦政府は化石燃料への補助金を段階的に廃止すべきであり、その原資は取り分けて将来の国営原子力建設計画に融資することが、その次のステップとなるであろう。

そのためには重なり合いながら、相互に補完できる調和のとれた一連の政策が必要となることは明らかである。そうした一連の政策は市場を歪めるものであってはならず、技術的にも明確で、長期にわたって安定的かつ予見可能なものでなければならない。原子力発電所は一旦建設すれば何十年にわたって稼働するものだから、長期的に予見可能な補助金制度が原子力にとっては特に重要である。

この政策の核の一つとして、炭素税か排出権取引によって全国大でのGHG排出に対する価格付けを行うべきである。そうした政策を取れば、これまでエネルギーに価格が付くようになってからずっと化石燃料を利してきた化石燃料の負の外部性を効果的に内部化することが可能となり、原子力発電や再エネ発電にとってはプラスの効果を生み、さらに社会全体にとってみてもそれはプラスの効果を生むものとなる。

変革の潮時だ

米国連邦によるエネルギー補助金制度を再考すべき時期はもうとっくに過ぎている。米国連邦政府は明確なゴールを持っていないように思われ、現在施行されている自由化市場を活用するやり方は失敗であり、社会にとって最善なものとはなっていない。この失敗を解決するには政府の措置が必要であるが、その措置は適正なものでなければならない。現在の補助金政策は、破たんしつつある。

今回のNECGコメンタリーはジェームズ・バウチャー[5]James Boucher is an NECG Associate that is completing coursework at the London School of Economics.が執筆した。

 

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脚注

脚注
1 Mona L. Hymel and Beth S. Wolfsong, “Americans and their “Wheels”: A Tax Policy for Sustainable Mobility,” Arizona Legal Studies, Discussion Paper 06-15, (2006).
2 Richard G. Newell, William A. Pizer, and Daniel Raimi, “US federal government subsidies for clean energy: Design choices and implications,” Energy Economics, Vol. 8, (May, 2019).
3 Clayton Coleman and Emma Dietz, “Fact Sheet: Fossil Fuel Subsidies: A Closer Look at Tax Breaks and Societal Cost,” Environmental and Energy Studies Institute, (July 29, 2019).
4 NECG Commentary #27 今も続く米国原子力の危機を参照されたい
5 James Boucher is an NECG Associate that is completing coursework at the London School of Economics.

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