キーワード:福島
-
ALPS処理水海洋放出後初 IAEAレビュー終了・年内に報告書
福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に関するIAEAレビューミッションが10月27日、4日間の日程を終了した。今回のミッションは、2022年2月以来、6回目で、2023年8月24日に海洋放出が開始されてからは初となる。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉日本を訪れたIAEAタスクフォースチームは、リディ・エヴラール事務次長、グスタボ・カルーソ氏(原子力安全・核セキュリティ局調整官)を含む、7名のIAEA職員の他、アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、中国、フランス、ベトナム、マーシャル諸島、ロシアの9名の国際専門家で構成。日本滞在中、経済産業省、原子力規制委員会、外務省、東京電力との会合を通じ、海洋放出開始後のモニタリング状況、放出設備の状況などについて説明を受け、意見交換を行うとともに、25日には現地調査を実施。ALPS処理水の海洋放出の安全性について、IAEA国際安全基準に基づき技術的議論を行った。今回のミッションに関しては、年内に報告書をまとめる予定。レビュー開始に先立ち、23日にフォーリン・プレスセンターで外国人記者団らとの会見に臨んだエヴラール事務次長はまず、7月にIAEAが公表したALPS処理水の安全性レビューに係る包括報告書に言及。海洋放出計画に関し、「国際安全基準に合致しており、人および環境に対して無視できるほどの放射線影響だ」と、あらためて強調した上で、IAEAとして、海洋放出中・放出後を通じ、引き続き安全性評価にコミットしていく姿勢を示した。同氏は、ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と上川陽子外相が9月の国連総会に伴う渡米中、署名したALPS処理水に係る日本・IAEA間の協力覚書についても紹介。IAEAによる確認・評価に関する枠組みを設定したもので、専門家の日本駐在、独立した裏付け(サンプリング・分析)、アウトリーチ・広報活動などを盛り込んでいる。会見には、ドイツ、フランス、スペイン、ロシア、シンガポール、韓国、中国の外国人記者が参加。エヴラール事務次長は、「独立性、客観性、透明性を確保することで、国内外の信頼醸成につながるものと考える」と、IAEA安全性レビューのスタンスを強調したALPS処理水の海洋放出は、10月23日に2回目が終了。11月2日に3回目の放出が始まる予定。
- 30 Oct 2023
- NEWS
-
福島第一燃料デブリ取り出し 充填固化工法も
福島第一原子力発電所の廃炉に係る技術的支援を行う原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は10月18日、「技術戦略プラン2023」を公表。3号機に関して概念検討が進められている燃料デブリ取り出し規模の拡大に向け、気中工法、冠水工法に加え、新たに充填固化工法も提案した。充填固化工法は、固体の充填材によって燃料デブリを一旦固めて安定化させ、掘削などにより、燃料デブリを構造物や充填材ごと回収する手法だ。充填固化によって燃料デブリを安定化でき、充填材が一定の遮蔽の役割を果たすといった利点があるものの、充填材の種類や充填範囲の検討や、固められたものの掘削・切断・回収方法の技術的検討などが今後の課題となる。東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの小野明プレジデントは、26日の定例記者会見で、充填固化工法の一番の利点として、作業時にダストの舞い上がりを抑えられる可能性など、被ばく抑制の観点から優位性をあげる一方で、廃棄物が大幅に増えることを懸念。NDF提案の3工法に関して、現時点では「一長一短」との認識を示した。「技術戦略プラン2023」公表に先立ち、NDFの山名元理事長は10月10日、資源エネルギー庁主催の廃炉・汚染水・処理水対策に関する地元評議会で、NDFの技術評価委員会における検討結果として、燃料デブリの大規模取り出しに向けた3工法について説明。その中で、同氏は、「世界的にも前例のない技術的挑戦で、長期にわたる廃炉の成否を決める」と述べ、その技術的困難さとして、格納容器の内部が非常に高線量で、人は近づけず、機器もダメージを受けるそのため、建屋内では短時間しか作業ができない燃料デブリの性状や分布などがまだ十分にわかっていない――ことをあらためて強調した。その上で、3工法に関し、「それぞれ利点と課題を持っている。現時点ではまだ優劣を付けられる状態にはない」とするとともに、「これら以外の工法や3工法の組合せも考えられる」と、さらなる検討の余地があることを示唆した。なお、燃料デブリ取り出しについては、中長期ロードマップに基づき、2号機を手始めに、2023年度後半目途に少量での試験的な取り出しに着手することとされており、アーム型装置を格納容器内に挿入するための貫通孔(X-6ペネ)ハッチの開放作業が10月16日に完了。入り口付近が堆積物で覆われていることが確認された。
- 27 Oct 2023
- NEWS
-
IAEAの海洋モニタリング開始 中国も参加
福島第一原子力発電所周辺の海洋試料を採取し分析を行う、モナコ所在のIAEA海洋環境研究所(MEL)の専門家一行が、10月16~23日の日程で調査を開始した。日本の海域モニタリングの信頼性・透明性確保に向け、IAEAや国内外分析機関による分析結果を比較評価するもので、2014年より継続実施されている。〈外務省発表資料は こちら〉今回、さらなる透明性向上の観点から、IAEA/MELに加え、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の専門家も新たに参加する。中国の参加に関し、日本サイドとして同調査をリードする原子力規制委員会の山中伸介委員長は、11日の定例記者会見で、「IAEAの客観的モニタリングについて、中国も含めた第三者が加わったことで、より中立性、透明性、公平性が高まった」と、期待を寄せた。調査期間中、専門家一行は海水・海底土、水生生物・水産物などの試料を採取。評価結果は、IAEAが別途、実施しているALPS処理水の取扱いに関する安全性レビューの裏付けにも資する。例えば、水産庁が参画する水産物の採取については、福島県で漁獲される6種程度を予定しており、19日にいわき市沿岸で採取した後、20日に海洋生物環境研究所(千葉県御宿町)で分析状況の確認を行う。直近、2021年度実施分の報告書では、「日本の分析機関の試料採取方法は適切であり、高い正確性と能力を有している」と、評価されている。ALPS処理水の海洋放出は8月24日~9月11日の初回分が終了し、続く2回目が10月5日から約17日間の予定で行われている。海洋放出開始後、初となるIAEAの安全性レビューミッションは、10月24~27日に来日する予定。今回、調査を行うタスクチームには、IAEA職員の他、独立した立場で参加するアルゼンチン、豪州、カナダ、中国、フランス、韓国、マレーシア、マーシャル諸島、ロシア、米国、英国、ベトナムの各国出身の国際専門家11名が含まれる。
- 16 Oct 2023
- NEWS
-
原産協会・新井理事長 処理水放出「着実に安全に」
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は10月6日、記者会見を行い、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出について発言した。8月24日から17日間かけて行われた1回目の海洋放出は、安全かつ着実に実施され、海域モニタリングや魚のトリチウム濃度分析においても異常値は検出されておらず、10月5日からは2回目の放出が始まっている。今のところ、福島県内魚介類の価格低下はみられず、むしろ「常磐もの」の流通量が不足していることから、新井理事長は、「全国の多くの方々が福島を応援している」と、原子力産業に携わる立場から謝意を表した。一方で、中国や北朝鮮による科学的根拠によらない主張や、中国による日本の海産物輸入の全面停止を「大変遺憾に思う」と非難。特に、北海道産ホタテへの影響を憂慮した。さらに、新井理事長は、先般、開催されたIAEA総会(ウィーン、9月25~29日)への出席、「原子力とグリーントランスフォーメーション(GX)」をテーマとする日本ブース展示について紹介。そのオープニングセレモニーは、高市早苗内閣府科学技術担当相の「処理水海洋放出を科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要」とのスピーチで幕を開け、浜通り地方の日本酒を来訪者に振る舞い福島の復興をアピールしており、「好評だった」と所感を述べた。その上で、新井理事長は、処理水の海洋放出に関し、「何十年にもわたって続く長い取組」との認識をあらためて示し、「東京電力が着実に安全に海洋放出を継続することが大前提であり、その上で、一日一日、異常がないというデータが積み重なっていくことが極めて重要」と強調した。また、新井理事長は、9月29日に資源エネルギー庁と共同で公開したウェブサイト「原子力サプライチェーンプラットフォーム」について紹介。日本国内では、1970年以降に運転開始した原子力発電所の多くで、原子力技術の国産化率が90%を超えるなど、国内企業にその技術が集積されており、国内の発電所の安定利用や経済・雇用に貢献してきた。しかしながら、東日本大震災以降は、再稼働の遅れや新規建設プロジェクトの途絶により将来の事業見通しが立たず、重要な技術を持つ中核サプライヤーの撤退が相次いでいる。こうした状況を踏まえ、3月に原子力サプライチェーンの維持・強化を目的とした「原子力サプライチェーンプラットフォーム」が資源エネルギー庁により設立され、原産協会が共同事務局を務めることとなった。このたび公開したウェブサイトでは、人材や技術の維持・強化に向けた各事業者の取組事例、補助金・税制に関する紹介の他、海外の建設プロジェクトへの参画に向けた情報公開を行っていく。
- 10 Oct 2023
- NEWS
-
明日まで開催「ホタテ祭り」 東京電力
東京電力は、安心・安全な北海道・三陸常磐エリアの水産物をPRし、国内での消費拡大を推進すべく、JR御徒町駅前・おかちまちパンダ広場(東京・台東区)で、「緊急プロジェクト! ホタテ祭り in おかちまちパンダ広場」を10月5日まで開催している。日本の国産水産物は、中国政府による輸入停止措置の影響により大きな打撃を受けている。現在、特に、国産ホタテが行き場を失っており、漁業関係者を中心に損害が発生している状況だ。今回のイベントでは、北海道産ホタテを中心に加熱調理し販売。「1トン相当のホタテ(殻付きで約5,000個)を食べつくす!」を目標に、ホタテに合うお酒として、福島県産の地酒やクラフトビールも提供。立食も可能だが、ゆっくりと北海道・三陸常磐の味を堪能してもらえるよう、テーブル席(要予約)が用意されている。ホタテは定番の浜焼き屋台販売がメイン。会場直近のJR御徒町駅高架ホームにまで、熱々の香ばしさが漂い、背中にホタテ貝を描いたネイビーブルーのTシャツに身を包むスタッフらの威勢の良い呼び込み声が聞こえてくる。東京・六本木のスペイン料理店「アサドール エル シエロ」もキッチンカーを出店し洋食風に調理し販売。イベント初日の3日、16時の開場前から入場待ちの行列ができ、開始後2時間ほどで用意されたホタテは完売する大盛況ぶりだった。開催時間は、4日が16~21時、5日が16~20時(ラストオーダー19時30分)。雨天決行・荒天中止。〈詳細は こちら〉
- 04 Oct 2023
- NEWS
-
「社説ワースト3」その後 共通項は「福島への温かい眼差し」の欠如
二〇二三年九月二十七日 福島第一原子力発電所の処理水の一回目の海洋放出が無事終わり、近く二回目の放出が始まる。懸念された国内の風評被害はいまのところ、起きていない。だが、安心は禁物だ。メディアが風評に加担する恐れがあるからだ。以前に書いた「地方紙の社説ワースト3」は、その後、どう変わったのだろうか。いまなお「汚染水」にこだわり このコラムで今年一月、地方紙の社説を取り上げた。ワースト1は琉球新報の社説(二〇二二年五月二十一日)だった。当時、琉球新報は「『汚染水』放出は無責任だ」と主張し、「汚染水」という言葉を使っていた。それから一年余りたった今年七月四日の社説の見出しは「原発『処理水』放出迫る 強行は重大な人権侵害だ」だった。「汚染水」から「処理水」に変わっていた。しかし、中身を読むと処理水という言葉について、「『希釈した汚染水』というのが妥当ではないか」となおも汚染水という言葉にこだわりを見せていた。 さらに、「中国政府の『日本は汚染水が安全で無害であることを証明していない』という批判を否定できるだろうか」と書き、中国政府の心情をくみ取った形で「汚染水」という言葉を使った。やはり何としても「汚染水」と言いたい心情が伝わってくる。 そして、放出が翌日に迫る八月二十三日の社説では、中国の輸入禁止措置にも触れ、「放出開始前の対抗措置は強硬な手段だが、それだけ懸念が根強いのだろう」と書き、ここでも中国の心情に寄り沿うかのような内容だ。さらに「いくら安全だと説明されても、放射性物質が及ぼす影響への恐れは簡単に払拭されない」と書き、海洋放出に納得できない心境を吐露する。 この八月二十三日の社説には、さすがに「汚染水」という言葉は出てこない。ここへ来て「汚染水」という言葉を使い続けると世論の反感を買うと考えたのだろうと推測する。「トリチウムが残る限り汚染水である」と言っていた昨年五月二十一日の社説に比べると、言葉の上では改善された跡が見られるが、社説の論調自体は依然として、海洋放出によって魚介類に影響があるかのようなニュアンスを伝えている。立憲民主党の一部議員と通底 中國新聞はどうか。昨年七月二十四日の社説では「処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない。…政府は『原発の排水にも含まれている物質』と危険性の低さを強調するが、体内に蓄積される内部被曝(ひばく)の影響まで否定できるものではない」と書いていた。まるで内部被ばくが起きるかのような論調だ。 一年余りたった今年八月二十三日の社説では、内部被ばくという言葉は出てこないが、相変わらず漁業者の反対を楯に「このまま放出に踏み切れば、将来に禍根を残す」と手厳しい。そして、「約千基のタンクが廃炉作業の妨げになっているのは確かだ」と言いつつも、「政府もIAEAも『国内外の原発の排水にも含まれる物質』と説明するが、通常運転の原発の排水と、デブリに触れた水では比較になるまい。トリチウム以外の放射性物質も完全に取り除けるわけではない」とやはり放射性物質の影響があるかのような主張だ。 「比較になるまい」という突き放した言い方がとてもひっかかる。この言葉から類推すると、中國新聞は「事故を起こした日本の処理水は海外の処理水に比べて危ない」と言いたいことが分かる。立憲民主党の一部議員は「海外の処理水と日本の処理水は異なる」という理由で「汚染水」という言葉を使い続けている。中國新聞は汚染水という言葉こそ使っていないものの、立憲民主党の一部議員と相通じる思考をもっていることが分かる。説明責任はメディアの側にある 中國新聞は九月四日の社説でも処理水問題を取り上げた。「処理水を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」と評価したと殊更に強調するだけでは、好転しない。トリチウム以外の放射性物質も含まれる点や、その長期的な影響など、重ねて検討が必要な要素は多い。海洋放出が妥当なのかを検証しつつ、責任を持って説明を続ける姿勢が日本政府には求められる」と書く。処理水という言葉を使っているものの、長期的には処理水の影響が人や環境に及ぶかのような内容だ。 海洋放出が妥当かどうかはすでに政府内で検証され、政府は幾度も海洋放出の妥当性に関する説明を行ってきた。いまこの時点で中國新聞が「海洋放出が妥当ではない」と主張したいならば、その根拠を示す説明責任は中國新聞の側にある。海洋放出を批判する論説があってもよいだろう。だがそれを書くからには、どのような長期的な影響があるかについて科学的なデータを示しながら、詳しい情報を示してほしいものだ。「さすが中國新聞は違う」と科学者を唸らせるくらいの重厚な社説なら大歓迎である。 しかし、ただ脅すような言葉を並べているだけの主張では、福島産の魚介類に悪いイメージ、つまり風評被害をもたらすだけだ。海洋放出は社会的合意の問題 佐賀新聞はどうか。昨年七月二十三日の社説では、処理水について「トリチウムなど取り切れない放射性物質が含まれる汚染物質であることに変わりはない」と書き、さらに「海洋放出に関してより重要なのは、これらの科学的、工学的な評価ではなく、社会的な合意という問題だ。東電は『地元の合意なしには放出はしない』としている…」と書いていた。 約一年たった今年八月二十三日の社説では、昨年の「地元の合意なしには放出はしない」という部分が「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず…」となり、誤りだった「合意」は正しい「理解」という言葉に訂正されていた。ただ、どの読者もそうした知らぬ間の訂正に気づいていないだろうと思う。筆者は昨年と同じ共同通信の論説委員だ。 今回の社説は東京電力と政府への批判が大半を占めた。「…詳細な科学的、技術的な議論もないまま、三百四十五億円もの国費を投じて建設された凍土壁の効果も限定的だ。今回、過去の約束をほごにせざるを得なくなった最大の原因は、政府や東電が長期的なビジョンなしに、このようなその場しのぎの言説と弥縫(びほう)策を繰り返すという愚策を続けてきたことにある。…被災者の声を無視した今回のような事態を目にし、復興や廃炉を進める中で今後なされる政府や東電の主張や約束を誰が信じるだろうか。首相は今回の決断が将来に残す禍根の大きさを思い知るべきだ」。 海洋放出の問題は社会的合意の問題だとして、政府や東京電力の姿勢を批判するのはよいとしても、問題が科学的な評価ではないというならば、海洋放出に反対ではあっても、「福島産の魚介類に風評を起こしてはいけない。食べて応援しよう」くらいの一文があってもよさそうだが、この社説からは福島への温かい心情が全く伝わってこない。 不思議なことに同じ佐賀新聞でも、九月八日の社説は同じ処理水を論じていながら、論調はかなり違っていた。日本からの水産物の全面輸入禁止措置をとった中国に対して、「今回の中国の措置は、科学的根拠を欠き、貿易によって圧力をかける「経済的威圧」で、責任ある大国にふさわしい振る舞いにほど遠い。日本側が即時撤回を要求したのは当然だ。交流サイト(SNS)をきっかけに、中国から日本への嫌がらせ電話が殺到したのも常軌を逸しており、それを抑えようとしなかった中国指導部の姿勢も合わせ〝嫌中感情〟が増幅した…」と書いた。最後の筆者名を見ると、先に紹介した2つ(昨年七月二十三日と今年八月二十三日)の社説とは異なる記者だと分かった。同じ共同通信でも筆者が違うと、こうも論調が違うのかと驚くばかりだ。福島への温かい眼差しが見えない 今年一月のコラムでも書いたように、地方紙はおしなべて海洋放出に批判的なトーンが目立つ。北海道新聞は社説(八月二十六日)で「政府は風評被害で水産物需要が落ち込んだ際に、漁業者団体の一時的買い取りや冷凍保管を基金から全国的に支援するという。これでは問題の先送りだ。食卓に並ぶ見込みもつかぬまま金だけ渡すやり方は漁業者の誇りを傷つけよう。人材難に拍車がかかり水産業を衰退させかねない」と書いた。 政府はお金だけを渡すやり方をしているわけではない。各地でさまざまな支援イベントを行い、福島産などの水産物が食卓に並ぶよう努めている。北海道新聞の社説はどう見ても傍観者的である。水産業の衰退が心配なら、新聞社自らが支援キャンペーンをはって、漁業者が誇りをもてるようにすることのほうが大事なのではないだろうか。 地方紙の社説の多くを読んでいて常に感じるのは、すべての責任は政府や東京電力にあり、自分たち(メディア)は関係ないといった傍観者的な立ち位置だ。海洋放出に関して、「汚染」と書けば、結果的に「福島の海は汚染され、そこの水産物は危ない」という差別的なメッセージを送ることになるという想像力が足りないように思う。福島に自分の家族や友人・知人が住んでいたら、軽々に「汚染」と口にするだろうか。結局のところ、福島への温かい眼差しが足りないのだ。これが地方紙の多くの社説に見る最大の問題点だと悟った。
- 27 Sep 2023
- COLUMN
-
社員向け販売会に国産ホタテ加工品も 東京電力
東京電力は9月13日、東京都千代田区の本社本館で、福島県産品・宮城県産品を中心に取り扱う社員向け販売会「復興大バザール」を開催した。会場には僅か3時間のうちに750名の社員が詰めかけ、完売。レジ待ちの行列で一時、入場が制限されるなど大盛況だった。同社は2013年3月より、社員食堂や社内販売会などで福島県産品・宮城県産品を取り扱い、被災地の復興を強く後押ししてきた。87回目となる今回の販売会では特に、通常品目である農産品、農水産加工品、菓子、酒類に加え、宮城県産・北海道産の「国産ホタテ加工品」も登場。特設コーナーでは、同社の小早川智明社長自らが売り場に立ち、会場にいる社員に国産ホタテ加工品を試食販売するなど、ALPS処理水放出にともなう中国の禁輸措置などを踏まえ、同社としても、影響を受ける水産品の販売支援を拡大していく強い意欲を示した。会場の社員たちは「微力ながら福島の商品を買うことで応援したい」、「品揃えがデパートの物産展並みに豊富で、毎回楽しみ」と述べながら買い物を楽しんでいた。小早川社長は「福島第一での事故当初から、会社を挙げて、食べて応援する取り組みを進めている。社員全員が福島や三陸常磐ものの美味しさを実感し、日頃から、食べて応援している」と強調。そのうえで、「風評に打ち勝つため、社内販売会や食堂、イベントでの即売会など、東京電力グループを挙げて取り組んでいきたい」と、力強く語った。
- 13 Sep 2023
- NEWS
-
もはや「ポリコレ」扱いの処理水、そのリスクの相場観を知っておこう!
二〇二三年九月十三日 「処理水」か「汚染水」かをめぐって、政治の世界で争いが起きているようだが、この件は立憲民主党代表の一声で決着がついたといえよう。これからは、処理水の海洋放出によるトリチウムのリスクをいかに分かりやすく伝えていくかが課題だ。新聞ではあまり報じられていないリスクの相場観を考えてみたい。泉氏の発言は歴史的な転換点 八月二十四日、福島第一サイト内のタンクに貯蔵されている処理水の海洋放出が始まった。その一連の報道で一番注目したのは、野村哲郎農相(当時)が八月三十一日に「汚染水」と失言したことへの野党の反応だった。立憲民主党の泉健太代表は九月一日の会見で「不適切。今、放出されているものは処理水だ。所管大臣として気が抜けた対応で資質が感じられない」(産経新聞など参照)と批判した。 いつものことながら、岸田政権を批判する狙いで言ったのだろうが、「大臣としての資質が感じられない」という言い方を聞いて、とっさに同じ立憲民主党の中で堂々と「汚染水」と呼んで反対デモを行っている議員の姿が思い浮かんだ。 同じ政党にいる仲間よりも先に与党の大臣に向かって、「汚染水ではない。処理水でしょう」と詰め寄った意義はとてつもなく大きい。個人的には、この泉氏の発言は処理水報道の歴史に残る大転換点だとみている。 敵方の与党大臣に向かって、「資質が感じられない」と言った以上は、「汚染水」と呼んでいる仲間に対しても「あなたたちは議員の資質が感じられない」と言わねば帳尻が合わない。おそらく泉氏は、韓国の野党と一緒になって、処理水の海洋放出に反対するデモに加わっている一部議員に対しても、暗に「資質が感じられない」と内心では思っていたのだろうと勝手に空想をふくらませた(もっとも一部議員から見れば、泉氏の発言のほうが失言だと思ったかもしれないが)。 野村農相の失言に対して、中国政府は「事実だから」と擁護した。だが、さすがに社説で海洋放出反対を書いた主要な新聞でさえも、「野村農相の発言は事実なのだから、謝罪する必要はない。汚染水と呼んでいる一部議員のほうが正しいのだから、泉氏の批判は的外れだ」といった論陣を張ったケースは見られなかった。主要新聞は泉氏と同じく「処理水」に同意したわけだ。 政府を批判する立場の最大野党の立憲民主党代表が「処理水だ」と断言(お墨付きを与えた)してくれたおかげで、もはや「処理水」は最近のはやり言葉で言えば、良い意味でポリティカル・コレクトネス(直訳すると政治的正しさ=ポリコレ)並みに昇格したと言ってよいだろう。九月八日に開かれた衆参両院の閉会中審査で野村農相が再度、謝罪した際に野党から追及がなかったことを見ても、もはやポリコレ確定となったようだ。 泉氏の発言は、野村農相の失言がなかったならば、聞けなかった可能性が高い。その意味では野村農相の失言は、泉氏の歴史的な発言を引き出した点において、偉大なる怪我の功名といえよう。 泉氏の発言とそれを批判しなかった主要新聞のおかげで今後、言論と政治の世界では「処理水」は確たる言葉として流布していくだろうと予測する。トリチウムは核実験で一九六二年がピーク とはいえ、メディアに身を置く私としては、一部議員や記者、市民が「汚染水」だと公言すること自体は言論の自由があり、認めたい。発言まで禁止したら、それこそ自由のない、どこかの独裁国家と同じ三流国家になってしまう。大事なのは、汚染水だといっている人たちの言動に煽られないことだ。 では、海洋放出に伴うトリチウムのリスクを分かりやすく伝える方法はあるのだろうか。ここで大事なのは、リスクのおおよその大きさをイメージできる「リスクの相場観」をもつことである。 そこで紹介したいのが、二枚の図だ。ひとつは、環境省がホームページの「第2章 放射線による被ばく 身の回りの放射線」という解説欄に載せている「トリチウムの放射性降下物の経時的推移」と記された図だ(図1)。これを見ると、中国などが核実験を盛んにやっていた一九五〇年代~六〇年代には、いまとは比べものにならないくらいに、トリチウムを含む放射性降下物が地球全体に降り注いでいたことが分かる。トリチウムによる個人の平均被ばく線量がピークに達したのは一九六二年で、その量は七・二マイクロシーベルトに達していた。当時は、放射性セシウムやストロンチウムなども環境中に放出されていた。 一九六二年と言えば、東京オリンピックが開かれる二年前だ。愛知県犬山市に住んでいた私は小学五年生だった。学校の先生や親から「雨に当たらないように。髪の毛が抜けるから」と言われていたのを思い出す。当時はトリチウムが雨に混じって落ちていたのだ。現に一九六三年には、降水中のトリチウムの濃度が一リットルあたり百ベクレルを超えていた(日本原子力学会誌「アトモス」Vol.60など参照)。また、私たちはいまよりも濃度の高いトリチウムが含まれた飲み水を飲んでいたのだ。 その後、個人の被ばく線量は少なくなり、一九九九年になって、ようやくピーク時の七百分の一の〇・〇一マイクロシーベルトに下がった。つまり、私のケースで言えば、生まれてから高校を卒業(一九七〇年)するまで、いまよりもはるかに多いトリチウムにさらされていたということだ。核実験でも悪影響はなかったようだ では、一九六二年のピーク時に浴びていた七・二マイクロシーベルトとは、どれくらいの大きさだったのだろうか。資源エネルギー庁によると、福島第一の処理水が海に放出されたあとの被ばく線量は、多めに見積もっても、おおよそ〇・〇二マイクロシーベルト(〇・〇〇〇〇二ミリシーベルト)と推計されている。私が子供のころに浴びた七・二マイクロシーベルトは、その約三六〇倍にあたる。 ちなみに、〇・〇二マイクロシーベルトは、私たち日本人が自然界で浴びている自然放射線(宇宙線やラドン、大地、食物など)からの被ばく量(約二・一ミリシーベルト)のおおよそ十万分の一前後に過ぎない。処理水放出によるトリチウムのリスクがいかに小さいかが分かるだろう。 核実験で降り注いだトリチウムの影響について、環境省は同ホームページ(二〇二一年三月三十一日更新)で次のように解説している。 「トリチウムの公衆被ばくの影響に関して、これまでの疫学研究からは、トリチウム特有のリスクは確認されていません。また、一九六〇年代前半の核実験が盛んな時期以降においても、小児白血病の増加が認められていないことより、トリチウムの健康リスクが過小評価されている可能性は低いとされています」。 核実験の影響をもろに受けた私は幸いながら、新聞社を退職(二〇一八年)するまで健康を害することもなく、仕事を全うすることができた。「当時のトリチウム濃度が高かったのだから、いまの程度なら我慢すべきだ」と受忍論を主張しているのではない。海洋放出後のトリチウムのリスクを知る上で、過去の状況を知ることは、リスクの相場観を持つのに役立つのだということだ。イオンの自主基準は七千ベクレル もうひとつの図は、流通最大手イオンが公表している図だ(図2)。「福島鮮魚便」と称して、福島県内で水揚げされたヒラメなどを積極的に販売しているイオンは八月下旬、「これからも福島県産水産物を応援してまいります」とコメントしたうえで、トリチウムの自主検査を実施して、その結果をサイト上で公開すると公表した。 注目したいのは、国際的な基準よりも厳しい「自主基準」を設定した点だ。その自主基準を超えた場合には販売を見合わせるという。 イオン独自の自主基準値は、一リットルあた七千ベクレルである。世界保健機関(WHO)の飲料水に関する一リットルあたり一万ベクレルよりも低い。魚に含まれる水分をどのように測定して検査するかまでは分からないが、イオンのホームページによると、仮に七千ベクレルを毎日摂取し続けたとしても、国際的に安全管理目安とされる年間 一ミリシーベルト(追加被ばく線量)の十分の一になるよう設定したという。つまり、イオンの自主基準はより安全サイドに立った数値といえる。公開された図では、国際的な基準値と自主基準値と魚介類のトリチウム濃度の数値が視覚的に分かる。 これまでに福島県沖で検査された魚介類のトリチウム濃度はいずれも検出限界(百ベクレル)以下である。食品に関するトリチウムの公的な基準値はない。イオンが自主基準を設定して安全な魚介類を提供することは、消費者に安心感を与える上でもその意義は大きい。 東京電力は処理水に含まれるトリチウムの濃度を一リットルあたり千五百ベクレル未満で放出している。イオンの自主基準と比べても低いことが分かる。これもリスクの相場観を知る上で参考になるのではないか。
- 13 Sep 2023
- COLUMN
-
水産業支援 基金総額1,000億円超へ
福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を理由に、一部の国・地域が輸入規制を実施している。それに対抗するため、政府は9月5日、水産業への緊急支援に向け、2023年度予備費から207億円の充当を閣議決定した。既存の基金800億円と合わせ、総額1,007億円の予算措置が図られることとなる。ALPS処理水の海洋放出が8月24日に開始され、東京電力は同日、これに伴う外国政府からの禁輸指示に対する国内事業者への賠償について発表。政府としては、全国の水産業支援に万全を期すべく、既に800億円の基金で対応している。岸田文雄首相は8月31日、それらに加え、特定の国・地域に依存した輸出市場の分散、世界の和食ブームをとらえた生業・事業の発展を促すべく、関係閣僚に対し、水産業を守る支援策について、政策パッケージの取りまとめを指示した。これを受け、農林水産省、経済産業省、復興庁、外務省は9月4日、国内消費拡大・生産持続対策風評影響に対する内外での対応輸出先の転換対策国内加工体制の強化対策迅速かつ丁寧な賠償――を5本柱とする政策パッケージを発表。このほど閣議決定された207億円の予算措置は、この政策パッケージの一部で、輸出減が顕著な品目の一時買取り・保管や新規販路の開拓、加工・流通業者の機器導入、人材活用の支援などに充てられる。2022年の水産物輸出額は総額3,873億円。国・地域別には、中国(食用)が836億円、香港(同)が498億円で、この2か国・地域(同)で全体の3割を占めている。そのうち、中国で輸出額の大半を占めるホタテは、中国で殻むき加工後、米国や東南アジアに輸出されている量も多いことから、今回の予算措置を通じ、国内における殻むき機の導入支援や、その人員確保など、加工体制を整備し直接販売できるようにする。この他、ふるさと納税を活用した国内消費拡大運動の展開などにも充てられる見通し。松野博一官房長官は、9月5日の記者会見で、日本産食品について、「安全性は科学的に証明されている」と強調し、輸入規制を講じている国に対し早期撤廃を求めていく考えをあらためて述べた。
- 05 Sep 2023
- NEWS
-
復興庁 震災から10年間の取組を総括
9月1日の「防災の日」をとらえ、復興庁は8月29日、報告書「東日本大震災 復興政策10年間の振り返り」を公表した。昨秋からの有識者による議論も踏まえ、2011年3月の東日本大震災発災から「第1期復興・創生期間」((2011年7月に政府が決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づき設定された「集中復興期間」(2011~15年度)に続く「復興・創生期間」(2016~20年度)を指す。現在「第2期復興・創生期間」(2021~25年度)にある。))が終了した2021年3月末までの概ね10年間について、復興に係る国の制度・組織や取組の変遷、施策の趣旨や経緯、その評価・課題を取りまとめたもの。同書では冒頭、発災からの10年間を振り返り、被災地の復興は着実に進展し、地震・津波被災地域では、住まいの再建やインフラ整備が概ね完了したと概括。一方で、引き続き、被災者の心のケアや水産加工業の売上げ回復などの課題が残されており、中長期的な対応が必要な原子力災害被災地域では、本格的な復興・再生に取り組んでいる状況との認識を示している。特に、原子力災害からの復興については、「わが国が経験したことのない試練であり、政府としても多くの課題に直面しながら、どのように復興を進めていくのかが模索され、現在においても中長期の課題となっている」と強調。東日本大震災以降も日本は多くの災害に見舞われてきたが、南海トラフ地震など、将来、予想される大規模災害を見据え、「東日本大震災で行われた数々の政策や取組が必ず参照される」と、同書をもとに復興に備えておくよう促している。福島第一原子力発電所事故に関しては、「原子力災害固有の対応」として章立て。事故の概要、避難指示の経緯と帰還・移住の促進・生活再建、除染、放射線の不安対応、食品の安全性確保、風評払拭、産業創生などの取組について整理している。帰還困難区域では今なお避難指示が継続しており、被災地の住民意向調査から、「避難指示解除が遅れると居住率・帰還率が下がる傾向にある」などと指摘。その上で、「復興のステージが進むにつれて生じる新たな課題や多様なニーズにきめ細かく対応しつつ、本格的な復興・再生に向けた取組を行う必要がある」と述べている。具体的には、地震・津波被災地域と共通する事項の他、それぞれの地域の実情や特殊性を踏まえながら、廃炉・汚染水・処理水対策福島県内で発生した除去土壌に係る中間貯蔵施設の整備・管理運営、30年以内の県外最終処分避難指示が解除された地域における生活環境の整備特定復興再生拠点区域外の避難指示解除「福島イノベーションコースト構想」の推進「福島国際研究教育機構」の整備――などの取組を今後も進めていくとしている。
- 04 Sep 2023
- NEWS
-
もやもや感の正体
8月24日、福島第一原子力発電所廃炉作業に伴う処理水の海洋放出が始まりました。その結果自体は、多くの方にとり予測通りの結果であったと思います。それにもかかわらず処理水問題は様々な立場の方に、何とも言えない「もやもや感」を残しているのではないでしょうか。興味深いことに、多くの方がその不満足感の原因を「コミュニケーション不足」に帰しています。「十分な時間を尽くしていない」「十分なステークホルダーが関わったとは言えない」「住民から十分な合意を得ていない」処理水の議論が始まった当初から繰り返されてきたこの批判が今も続いていることに、私はやや違和感を覚えます。なぜならまるで「コミュニケーション」や「合意形成」が、目的として独り歩きしているかのように聞こえるからです。しかし当たり前のことですが、コミュニケーションや合意形成は、手段とプロセスであって目的ではありません。コミュニケーションの「何」が足りないのかコミュニケーションが手段として成立するためには、「場」と「技術」と「目的」が必要です。福島のコミュニケーション不足について語られるときには、時間やステークホルダーといった「場」の不足が指摘されることが多く、技術と目的の不十分について論じられることは少ないように思います。しかし実際には、目的を見失った議論が迷走していることこそが問題なのではないでしょうか。たとえば海洋放出される処理水やトリチウムについて話し合うときに、ある場所では「トリチウムに人体影響はほとんどない」「いや、細胞内に取り込まれればβ線であっても危険だ」という「トリチウムの人体影響」についての議論が起こり、別の場所では「どんな微量の放射能であっても、海洋に放出されれば風評被害は免れ得ない」「でも処理水を貯蔵するタンクを増やし続ければ地域全体の風評被害につながる」という社会的影響への懸念が対立し、さらに別の場所では「政府は結論ありきで人の話を聞いていない」「丁寧に耳を傾けてはいるが現実的な案が出てこない」というコミュニケーション技術への批判が繰り返されています。このことからも、「処理水をどうするか」という漠然としたテーマで議論が行われることにより、コミュニケーションが方向性を見失っていることが窺えます。目的が明確でなければ、何に対して「住民の合意を得る」のかの解釈は、個々人に委ねられます。その結果、皆が好き勝手な話題を持ち寄り、密なコミュニケーションを行っているという幻想を抱いたまま、かみ合わないまま議論が対立だけを生んでいく。震災後の福島では、そんな状態が幾度となく繰り返されてきたように思います。処理水問題の土台処理水問題について議論の目的を整理してみれば、溜まり続けている処理水を溜め続けるのか、それともどこかに処分するのか処分をするとすればどのような方法を取るのかという極めてシンプルなものです。ただし、このシンプルな内容を議論するためには、まず初めに下記についての偏見なくかつ平等な情報共有がなされる必要があったと思います。溜め続ける方法・処分する方法の全ての選択肢各々の選択肢についての現状での利点・欠点各々の選択肢で一番リスクを負うのはどのような人々なのかリスクを低減する方法やリスクを負う人々へ補償する方法はあるのか現状の技術の不確定要素は何かその中でイノベーションによって変わり得る要素はあるのか不確定なイノベーションに賭けるリスクは他のリスクとどのように違うのかこれらを共有して初めてすべての人が同じ土俵に上がり、議論が始められるのではないでしょうか。もちろんこれらの選択肢は何度も話題に上げられています。しかし最初の知識共有について重要なことは、その場で決して賛否や「べき論」を混入させないことです。多くのコミュニケーションの場では、すべてを俎上に挙げる前から早急に賛否の議論が起こり、安易に「政府の意向」「住民の意向」「海外の常識」「実現可能性」などの主観的に基づく分断が起きていたと思います。ブレインストーミングの原則が守られなかった、という点では、確かに処理水問題は「コミュニケーション不足」であったのでしょう。しかしそれは時間の問題ではなく、「技術」と「目的」の問題だった、というのが私の意見です。技術なく場を設けても、目的なく技をふるっても、そのコミュニケーションからは何も得られないのではないでしょうか。コミュニケーションは夢の道具ではないしかし、たとえ技術と目標が完璧であっても、コミュニケーションが満足度を上げるという保証はない、という点にも留意が必要です。今回の処理水問題でもう1つ気になった点は、コミュニケーションさえ上手くいけば物事が解決したかのような空気感が広がっていたことです。人々の不満を「コミュニケーション不足」のせいにすることで、「誰かが損をしなければならない」という本質が語られないまま議論の停滞が生じているのではないでしょうか。リスクコミュニケーション、特に特定の人にリスクを負わせる議論は、決着はつかないことがほとんどです。比較や交換が不可能な性質の異なるリスクが絡み合う中、万人が同意することはありえないからです。むしろ大勢にとっての落としどころが、少なからぬ方に不本意な結果となる場合の方が多いでしょう。そう考えれば、議論の結果だけを見ていても「なし崩し的に決定された事項」と「コミュニケーションを尽くしても不本意な結果に終わった事項」との間に差異は認めにくいということになります。つまり本来コミュニケーションを尽くすべきであった状況も「それ以外に選択肢がなかったのだから、仕方ないではないか」という結果論で済ませてしまうこともできてしまうのです。コミュニケーションについての反省が難しい点はここにあります。 「もやもや感」の正体は?では、コミュニケーション不足と、不本意な結果に終わるコミュニケーションとの差は何なのでしょうか。それはリスクを負う方々が「自分たちは何に負けたのか」を認識できることではないかと思います。どんな利害やパワーバランスによってその選択がなされたのか。そこにはどのような葛藤と逡巡があったのか、なかったのか。それが分かって初めて、住民の方も堂々と「結果ありきの議論だった」「コミュニケーションはガス抜きの場としか認識されなかった」と批判することができます。しかし現状では、本当に結果ありきだったのかさえはっきりしないまま、空気を読んだ批判しかできないのです。今私たちが感じている「もやもや感」の正体は、そんなところにあるのではないでしょうか。コミュニケーションは結果ではない。逆に言えば、海洋放出という「結果」が明らかになった今でも、コミュニケーション不足の改善は可能だということでもあります。「コミュニケーションさえきちんとしていれば物事は解決していたのに」結果だけ見て漠然とした詠嘆で終わることなく、これからも議論が続くことを祈っています。
- 04 Sep 2023
- COLUMN
-
中国の理不尽な全面禁輸措置で「風評被害」の風向きが変わり始めた
二〇二三年九月一日 福島第一原発の処理水の海洋放出が八月二十四日、始まった。どの新聞を見ても、大きな懸念は「風評被害」だった。だが、中国が日本からの水産物輸入を全面的に禁止したことで、風向きが変わってきた。その後のテレビを中心とする報道を見る限り、今後の課題は国内の風評被害というよりも、いかに日本の国民が福島および国内産の水産物を買い支える連帯精神を発揮できるかどうかにかかってきたようだ。テレビのバラエティ番組が風評被害の抑制に貢献 毎週日曜日午前に放送されるTBSのジャーナリズム・バラエティ番組「サンデージャポン」(八月二十七日)を見ていて驚いた。風評を抑えようとする意図がはっきりと見えた番組構成だったからだ。日本からの水産物輸入を全面禁止した中国に対して、日本よりもはるかに多くのトリチウム量を放出している中国の原子力発電所の地図(フリップ)を見せたのだ。ゲストのタレント女性は「中国が日本よりも多くのトリチウムを放出していることを初めて知った。こういう情報をみんなが知ればよいのに」といった内容のコメントを寄せた。 さらに、同番組に専門家として出演した小山良太・福島大学教授は「通常の原子力発電所や再処理工場でもトリチウムは放出されている。これはあまり報じられてこなかったが」と話し、福島だけが特別ではなことを強調していた。 驚きは続いた。実業家の堀江貴文氏が自身のYouTubeチャンネルで、「アホが大騒ぎしている。こいつら本当に頭が悪すぎて、薄めるっていう概念が理解でないみたい。…お前ら中学からやり直せ。化学の教科書を読め…」と、内外の海洋放出批判を一喝する映像を公開したのだ。同映像は「サンデージャポン」の中でも紹介された。個人的な印象だが、堀江氏が怒りをあらわにしてまで、処理水の安全性に問題はないと訴える姿は、風評を打ち消す効果がかなりあると感じている。堀江氏があそこまで怒るからには、自身の意見に相当の自信があってのことだろう。この堀江氏の映像はエンタメ系やスポーツ新聞系のネットニュース(写真参照)でも紹介された。この威力は無視できないほど大きいだろう。 週明けて、八月二十八日に放映されたTBSの「ひるおび」でも処理水問題が特集として取り上げられた。番組全体のトーンは、中国が科学的根拠を無視して、無理難題を押し付けてくるという印象を伝えたように思う。ゲストの若い女性が「処理水(トリチウムの濃度)が国際基準を下回っていることはIAEA(国際原子力機関)も認めている。国際基準を守っているのに、なぜ中国はここまで批判してくるのか」といった内容のコメントを話した。 聞いていて、「中国だって、トリチウムを海へ放出しているのに、日本に文句をいう資格はないよね」といったメッセージに聞こえた。そこまで中国が文句をつけるなら、中国に依存せずに日本国内で水産物を消費すればよい。そんな気持ちを生じさせる番組だった。 これらの放送は、専門知識のない一般視聴者に対して「処理水は心配なさそうだ」という十分なメッセージを送ったのではないか。中国の強硬措置で連帯心喚起か? 風評被害は一般に、国内の大手スーパーなどによる「福島産の魚介類を販売しない」といった具体的なアクションと、それに同調するメディアと、消費者の連鎖が重なって生じる。ところが今回は、新聞やテレビ報道を見ている限り、そのような動きは一切出ていない。逆に、中国の理不尽な輸入禁止措置がオモテに出てきたことで、「負けてなるものか!」と、団結心を呼び起こすような声が強い。 現に、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏はフジテレビ『日曜報道THE PRIME』(八月二十七日)で、強硬な中国に対して「武力を使わない、ある意味、中国との戦(いくさ)ですよ。いままで日本は、こういうときに黙っていたけど、ここは絶対に勝たないといけない」と持論を述べた。橋下氏は、「僕、ホタテ大好きなんで、食べますよ。国民のみなさん、朝昼晩、必ずホタテをひとつ食べるとか、給食で使うとか」とも述べている。これを機に食料安全保障を強化することも可能だという見解はSNSで賛同が多かったようだ。 今回の中国の強硬措置で多くの日本人は、橋下氏と似た気持ちになびいたはずだ。何を隠そう、私も同様の気持ちを抱いた。 いまこそ日本は連帯心を発揮すべきだといったトーンは、八月二十八日夜に放映されたNHKの「クローズアップ現代」の処理水特集でも見られた。桑子真帆キャスターの「今後、日本はどうすればよいか?」との問いに対して、開沼博・東京大学大学院情報学環准教授は「中国への水産物の輸出額は千六百~千七百億円なので、国民一人が福島産の魚介類を一年間で千六百~千七百円、余分に買えばよい」と提案した。 この極めて分かりやすい具体的な提案を聞き、「そうだ。その通りだ!」と拍手喝采を送りたい気持ちになった。新聞はもっとこういう具体的な提言を盛り込んだ記事を、どしどし載せるべきだと感じた。 福島への応援を呼び掛ける訴えは、八月二十六日に放映された読売テレビの報道番組「ウェークアップ!」でも見られた。キャスターの野村修也・中央大学法科大学院教授は中国の禁輸措置を念頭に「いまこそ福島産魚介類を対象に、Go To Eat キャンペーンをやるべきだ」と提唱した。全くその通りだ。 岸田首相はいますぐ、「福島産魚介類を対象に大々的に『Go To Eat キャンペーン』をやります。みなさんの力で福島の復興を支えましょう」と強烈なメッセージを発信すべきだろう。その力強いリーダーぶりを見せれば、支持率も上がるだろう。朝日新聞や毎日新聞も 新聞は相変わらず、これまで述べてきた通り、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の三陣営と読売新聞、産経新聞の二陣営に分かれ、前者の陣営は放出反対を訴える漁業者の声を大きく取り上げている。しかし、中国の傍若無人ぶりが見えてきたことで様相は少し変わってきた感じがする。 朝日新聞は八月二十五日付朝刊で、処理水放出に反対する漁師や市民団体の動きとともに、風評被害を防ごうとする企業の活動についても、三つの事例を二段見出しで紹介した。これまではあまり見かけなかった記事だ。 毎日新聞の社説(八月二十六日)は、中国が水産物を全面禁輸したことに、明確に反対する主張を載せた。その理由が面白い。「トリチウムを含む水は、中国など各国の原子力施設から海や河川に放出されている」と書いた。中国がトリチウム水を放出していることをもっと以前から大々的に書いてほしかったが、さすがに中国の身勝手な振る舞いがここまでくると「中国もトリチウムを放出しているじゃないか」と言いたくなるのだろう。そして、同社説は「国際原子力機関(IAEA)は包括報告書で国際的な基準に合致すると処理水の安全性にお墨付きを与えている。日本政府は専門家による協議を呼びかけてきたが、中国は拒んできた」と書いた。一般的に新聞は「お墨付き」という言葉を否定的かつ皮肉っぽく解釈して記事を書く習性がある。ところが、中国の理不尽さに対抗するための武器として、この社説ではIAEAのお墨付きという言葉を肯定的にとらえている。 やはり中国の全面禁輸措置は日本人の連帯心に火をつけたのではないか? もはや国内の風評被害云々よりも、威圧的な中国に負けてなるものかとの気持ちが強くなっている。私のように、「福島産を買って応援したい」と思っている人は多いはずだ。ただ、いつ、どこで、どういう支援イベントがあるかが分からない。新聞はぜひとも、具体的な支援イベントの告知をどしどし載せてほしい。いまこそ新聞の力を見せるときだ。
- 01 Sep 2023
- COLUMN
-
処理水海洋放出 引き続きIAEAと連携
8月24日に福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始された。〈既報〉西村康稔経済産業大臣は25日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談。廃炉が完遂するまで日本政府として責任をもって取り組んでいく考えを述べた上、引き続き長期にわたるIAEAによる安全性確保への協力を要請。また、林芳正外務大臣も同日、グロッシー事務局長と会談し、ALPS処理水の安全性確認に係る日本・IAEA間の協力・連携関係を対外的に示す文書を早期作成・公表することで一致した。ALPS処理水の安全性に関しては、IAEAが7月に「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出している。ヨークベニマル各店舗に掲示されているポップには、関係省庁と並び弊紙記事へのリンクもまた、西村経産相は8月24日に放出後の東京電力、環境省、水産庁による海水や魚のトリチウム濃度の分析結果の公表とともに、地元水産業の風評影響に備えた対応や漁業者らの生業の継続支援に取り組むとの談話を発表。28日には、太田房江副大臣とともに、福島県を訪問し、東日本大震災被災地の水産物「三陸・常磐もの」の魅力発信・消費拡大に向けた取組の一環として、県内の流通・小売事業者との意見交換・試食イベントを福島市内のスーパー「ヨークベニマル南福島店」で行ったほか、復興再生に関する地元関係者との協議会に出席。「ヨークベニマル」では、ALPS処理水の安全性を科学的根拠に基づき説明すべく、「連携しながら県産品の魅力発信に力を入れていきたい。安全性を確認しデータを公表することが一番の風評対策になる」と強調。海洋放出後に福島県相馬市で水揚げされたヒラメやホッキ貝の刺し身を試食するなどした。東京電力は、24日のALPS処理水の海洋放出開始後に、発電所から3km以内の10地点で海水試料を採取。すべての地点でトリチウム濃度は検出下限値(10ベクレル/リットル程度)未満であることが確認された。なお、海水による希釈後のトリチウム濃度は1,500ベクレル/リットル未満とされている。東京電力は、海洋放出の状況を知りたいというニーズに応え、ALPS処理水に関するポータルサイトを刷新。経産省も、福島第一原子力発電所近傍における海水中のトリチウム濃度の分析結果について、「異常なし」は青丸表示、「放出停止判断レベルを超える」ときは警告表示と、一目でわかるウェブサイトを公開した。
- 28 Aug 2023
- NEWS
-
日本科学未来館コミュニケーターが震災伝承施設の訪問記
科学未来館コミュニケーターの青木皓子さん©科学未来館関東大震災から間もなく100年。「もしも明日大きな地震が発生したら、どんなことが起きて、私たちはどう行動すればいいのだろう」、日本科学未来館科学コミュニケーターの青木皓子さんは、ブログ(前編、後編)を通じ問いかけている。青木さんが訪れた震災伝承施設©科学未来館2011年3月11日に発生した東日本大震災を例に、青木さんは、「普段の生活では意識することが難しい過去の災害を振り返り、未来を考える」ための震災伝承施設として、「いわき震災伝承みらい館」(いわき市)、「東京電力廃炉資料館」(富岡町)、「とみおかアーカイブ・ミュージアム」(富岡町)、「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)、「震災遺構 浪江町請戸小学校」(浪江町)、「原子力災害考証館 furusato」(いわき市)を訪れた。実際に行ってみることで、「震災がもたらした被害とそこから得られる教訓を学ぶだけでなく、被害の様相や伝承すべきことが、地域や人によって実に多様であるという気付きがあった」という。2日間の福島県への旅で、青木さんが最初に訪れたのは「いわき震災伝承みらい館」。いわき市は、東日本大震災(本震発生)から丁度1月後の4月11日、再び震度6弱の「福島県浜通り大地震」に見舞われた。同館では、地盤がずれ落ち出現した大きな地層の剥ぎ取り標本などを展示。「災害は誰にでも起こり得るもの。展示を見て、いい意味で『怖い思い』をしてもらうことで、家族と話をしてもらうきっかけとなれば」と、箱崎智之副館長の言葉だ。青木さんは、「本震の後の混乱が続く中で発生した地震が、震災後の復旧活動に与える影響はとても大きかったと感じ、いわき市の被災体験を知ることが自分にとって一つの教訓となった」と、また、津波被害に見舞われた中学校の黒板の卒業式寄書きなど、発災当時の実物展示を見て「当たり前にそこにあった日常を感じる」と、語っている。東京電力廃炉資料館©東京電力続いて訪れたのは「東京電力廃炉資料館」。福島第一原子力発電所事故からおよそ7年半後の2018年11月にオープンした同施設は、福島第二原子力発電所のPR施設だった「エネルギー館」の建物および既存の展示機材を流用し、映像やジオラマを通じて、事故の反省と教訓を伝承するとともに、廃炉の取組全容と進捗状況をわかりやすく説明している。見学は案内ガイド付きのツアー形式が原則だ。事故当時の状況について解説を受けた青木さんは、「事実を科学的にとらえ、分析した結果を伝えていくことの重要性を感じる」と、話している。また、同じ富岡町にある「とみおかアーカイブ・ミュージアム」では、住民の避難誘導に当たっていた最中に津波に巻き込まれたパトカーなど、実際に被災した現物資料が数多く展示されており、「思わず言葉を失ってしまう瞬間もあった」という。「複合災害を地域の歴史に位置づける。」を目標とする同館では、避難生活の長期化に係る資料も多数。「震災遺産」とされる展示を見て、青木さんは、「町の歴史・文化の一部として東日本大震災が語られている」などと、来館の感想を述べている。2日目は、まず「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問。同館の位置する双葉町は、2020年3月に大熊町、富岡町とともに、帰還困難区域では初となる避難指示の一部解除がなされ、これに伴いJR常磐線が全線復旧。その半年後にオープンした同館は、原子力災害に焦点を当てており、展示エリアに常駐するアテンダントスタッフとの対話も通じ、福島第一原子力発電所事故について理解を深められる点が特徴だ。様々な場所で震災を経験した「語り部」による講話も行われており、青木さんは、「経験を共有することで、自分の中に新たなとらえ方が生まれる感覚とその重要性を感じた」と話している。いわき湯本の旅館一室に開設された「原子力災害考証館 furusato」、公害病のアーカイブ施設も参考としている©科学未来館続いて訪れた「震災遺構 浪江町請戸小学校」は、津波の脅威を真正面から扱うことで防災意識の向上を促す。壁や床の崩れ落ちた校舎内を目の当たりに、青木さんは、「より現実のものとして、自分に訴えかけてくる感覚を得た」と話している。温泉旅館の一室を用いた民間施設「原子力災害考証館 furusato」は、個人の経験に着目。行方不明者の捜索を避難指示により断念せざるを得なかった被災者による展示品などを見て、「震災や原発事故で生活が変わった人はたくさんいるが、公的資料館では、一人一人の物語をすべて扱うことはできない」と、社会教育施設に係る課題を投げかけている。青木さんは、一連の震災伝承施設の訪問を通じ、「自分の防災意識を見直すことにつながり、未来を考える時間となるのでは」と述べている。日本科学未来館の科学コミュニケーターは、科学技術に関心を持つ一般の人から募る任期制職員で、展示フロアでの対話・実演、イベントの企画・制作、ブログを通じた科学情報の発信などを行う。
- 25 Aug 2023
- NEWS
-
福島第一 ALPS処理水の海洋放出開始
東京電力は8月24日13時過ぎ、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を開始した。〈東京電力発表資料は こちら〉同社では、22日に行われた福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する関係閣僚会議が示したALPS処理水の海洋放出の開始時期に係る判断を受け、準備に着手。風評影響を最大限抑制すべく「海洋放出の実施に当たっては、周辺環境に与える影響等を確認しつつ、慎重に少量での放出から開始」とする政府の基本方針に従い、当面の間、第1段階「希釈後のALPS処理水のトリチウム濃度を確認」、第2段階「設備の健全性および運用手順を確認するための放出」の2段階に分けた放出を計画。初回放出の第1段階として、同日、ALPS処理水が想定通り希釈されていることを確認するため、ごく少量のALPS処理水(約1㎥)を海水(約1,200㎥)で希釈し、放水立坑に貯留した後、放水立坑の水を採取しトリチウム濃度を測定。その結果、24日までに分析値が1,500ベクレル/リットル(国の規制基準の40分の1)を下回っていることが確認され、今朝の気象・海象を踏まえ第2段階に移行した。2023年度の計画では、約7,800㎥ずつ計4回の放出が行われ、トリチウム総量は約5兆ベクレル(事故前の放出管理値は年間22兆ベクレル)となる。初回放出分は1日当たり約460㎥、約17日間で実施する見通しだ。東京電力では、データ公開に努めるべく、ALPS処理水の海洋放出における各設備での状況を1つにとりまとめたポータルサイト「ALPS処理水 海洋放出の状況」を開設した。なお、同社では23日、ALPS処理水の海洋放出開始に関する社内体制の強化に向け、関係部署を横断的に統括する体制を整備すべく、社長直轄の「ALPS処理水統合対策プロジェクトチーム」、および「ALPS処理水影響対策チーム」を設置。小早川智明社長は、これまでより頻度を上げて現場に足を運び、状況を確認することとしている。今般のALPS処理水の海洋放出開始について、原産協会の新井史朗理事長は、「福島第一原子力発電所の廃炉の大きな一歩となる」とのメッセージを発表した。
- 24 Aug 2023
- NEWS
-
「三陸・常磐もの」消費拡大へ 食べて応援
三陸・常磐地域(青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉)の水産業支援に向け産品の消費拡大を図る「三陸・常磐ものウィークス」が、7月15日~9月30日の日程で実施されている。昨年末、経済産業省が復興庁・農林水産省と協力し立ち上げた官民連携の枠組み「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」(全国約1,000の企業・自治体・政府関係機関等が参加)によるもので、2023年2~3月に続く第2弾。同ネットワークでは、期間中、参加企業らの社内食堂のメニュー提供、弁当購入、キッチンカー巡回などを通じた地域産水産物「三陸・常磐もの」の積極的な消費を支援している。同ネットワークが参加企業らの会議・懇談会向けに紹介している「三陸・常磐もの」を使用した弁当は、一般の人も購入が可能。例えば、野村哲郎農水相が執務室で賞味した「福島産ホッキ貝入りほっき飯御膳」は、東京23区内を配達エリアとするデリバリー「すし割烹 赤酢と鮨」が販売しておりウェブサイト上でも購入できる。「やみつきカレーうどん(鹿島灘しらす入り)と岩手県産本わらび餅」などを提供するデリバリー「Haco chef」は、全国に個別配送が可能で、在宅でのオンライン親睦会にも利用できる。幹事が各地の参加者から好みの店・メニューを集約・一括注文し、指定時間に個別に配達する新しいタイプのデリバリーだ。都内の石油会社では、7月に渋谷区内のエスニック料理「TOMBOY」との協力でキッチンカーを出店(社内・近隣ビル向け)し、「常磐ものパッタイ」、「伊達鶏のグリーンカレー」などを提供。同社のキッチンカー出店は5、6月に続き3回目となる。「TOMBOY」では、港区赤坂、渋谷区道玄坂の各店舗で、9月30日まで「常磐ものグルメフェア」を開催している。「下町上野ふるさと盆踊り大会」で楽しめる福島の美味(東京電力発表資料より引用)東京下町の意気込みも注目される。葛飾区に店舗を置く「SOMY’S DELI」では、宮城県金華サバなどの「三陸・常磐もの」を使用した10種類の弁当を用意しており、いずれもコンパクトな容器に簡素な盛付けでアウトドア用にもうってつけ。東京23区内への配達の他、店舗での購入も可能。また、上野松坂屋では、8月22日まで、地下の食品売り場イベントスペースで「ふくしまフェア」を開催中。福島県産の野菜・果物、米、地酒の他、ご当地グルメ「なみえ焼そば」などを販売。これに合わせ、18~20日には、JR御徒町駅南口駅前広場で「下町上野ふるさと盆踊り大会」が予定されており、出来立ての福島の美味・お酒を楽しめる屋台群「『おいしいふくしま』てんこ盛り!」も出店される。
- 18 Aug 2023
- NEWS
-
原子力学会 福島第一の廃炉廃棄物について考えるシンポ
ファシリテーターの土屋氏(左)と議論に参加する学生たち福島第一原子力発電所の廃炉で発生する放射性廃棄物の取扱い、エンドステート(最終的な状態)について考える日本原子力学会主催のシンポジウムが8月12日、東京大学・本郷キャンパスで開催された。同学会の福島第一原子力発電所廃炉検討委員会では、廃棄物検討分科会を設置して専門的議論を行ってきた。同分科会は、2020年に取りまとめた中間報告の中で、「通常の原子力発電所とは異なり、物量・放射能濃度・物理化学的な性状の範囲が広く、多種多様である」ことから、放射性廃棄物の低減に向けた取組の早期実施、エンドステートに係る議論の必要性などを提言している。同中間報告では、福島第一原子力発電所廃炉のエンドステートに関し、「福島復興の将来像をどう考えるのか」という課題との関連性や、ステークホルダー間での話し合いの重要性も指摘しており、今回のシンポジウムでは、学会の専門家だけでなく、工学系の学生、報道関係者を交えてパネルディスカッションを行った。議論に先立ち、原子力学会の新堀雄一会長(東北大学大学院工学系研究科教授)が福島第一原子力発電所で発生する廃棄物の課題について講演。燃料デブリ取り出しに入る現段階において、物量の再見積もり、クリアランスレベル・再利用、サイト修復など、エンドステートを見据えた廃棄物管理シナリオを検討しておく必要性を述べた。報道関係者も登壇し学生たちと対話パネルディスカッションは、土屋智子氏(複合リスク学際研究・協働ネットワーク理事)がファシリテーターを務め、学生パネリストとして、北海道大学大学院エネルギー環境システム専攻の鎌田勇希さん、東海大学大学院工学系研究科の地井桐理子さん、福井大学工学部の川瀬里緒さん、福島高専機械システム工学科の高橋那南さんが登壇。報道関係からは、日本経済新聞編集委員の安藤淳氏、毎日新聞週刊エコノミスト編集部の荒木涼子氏、読売新聞科学部の服部牧夫氏、共同通信科学部の広江滋規氏、朝日新聞科学みらい部の福地慶太郎氏が登壇。いわき市出身で「震災発生時、幼稚園生で何が起きたのかわからなかった」という高橋さんは、現在、ロボット研究に取り組んでおり、「将来は廃炉に貢献したい」と話した。高レベル放射性廃棄物処分に係る技術・安全評価や社会受容について研究しているという鎌田さん、地井さんは、福島第一原子力発電所の廃炉に関し、それぞれ「40年後、本当に終わるのか」、「専門家と国民とのコミュニケーションが大事」と発言。これに対し、原子力関係を取材してきた記者として広江氏は、学会の活動がメディアで十分取り上げられていない現状に触れた上で、「『サイトの部分利用ができるのは何十年後』とか、具体的に示すべき」と、ステークホルダーの関与に向け、時間軸を明示する必要性を指摘。荒木氏は、ALPS処理水の理解を図るデジタルサイネージ広告を例に、「考えるきっかけ」を与え「わかりやすい言葉」で語る重要性を強調した。福島の復興に関し、地元勤務の経験を持つ福地氏、服部氏は、ふたば未来学園(広野町)を拠点に世代・地域・立場を超えて語り合う「1F地域塾」、現地を見て学んでもらうスタディツアー「ホープツーリズム」をそれぞれ紹介。福島第一原子力発電所事故をきっかけに原子力・放射線に関心を持ったという川瀬さんは、自身が在学する福井県、出身の岐阜県に立地する原子力施設が電力消費地に知られていないことをあげ、「まずは自分事として考えることが重要」と主張した。安藤氏は、長期にわたる廃炉プロセスの理解に関し、「情報を中立的に出して、シナリオを一緒に考え、『自分が意思決定に関わった』と一人一人が思えば納得感につながる」と強調。土屋氏は、「廃炉にかかわらず原子力では信頼を壊さぬよう色々な事業を進めてもらいたい」と述べ、議論を締めくくった。
- 16 Aug 2023
- NEWS
-
EU他 日本産食品の輸入規制撤廃
欧州連合(EU)は8月3日、福島第一原子力発電所事故以降、日本産食品に課してきた輸入規制を撤廃した。7月13日にベルギー・ブリュッセルで行われた日EU定期首脳協議において公表され、関係規則が発効したもの。〈既報〉また、ノルウェーとアイスランドも8月3日、同様に、関係規則に係る国内手続きが完了し、日本産食品に対する輸入規制を撤廃した。両国とも漁業が盛んで捕鯨国でもあることから、こうした国々の動きは、被災地復興を後押しするとともに、韓国、中国、台湾、香港などで依然として、継続している日本産食品輸入規制の緩和・撤廃や、日本の水産業に対する海外からの理解につながることが期待される。これで、55か国・地域で行われてきた日本産食品の輸入規制は、9か国・地域に減少した。松野博一官房長官は8月3日午前の記者会見で、欧州諸国による規制撤廃の動きを歓迎する一方、「一部の国・地域において規制が維持されていることは残念」とした上で、「政府として、日本産食品については、厳格な安全対策を講じ、『科学的見地からすべて安全性を確保している』ことを引き続き丁寧に説明していく」と述べた。原産協会の新井史朗理事長は、7月27日の記者会見で、EUの規制撤廃について「福島の復興を後押しするものであり、大いに歓迎する」とした上で、ALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の海洋放出を理由とした中国や香港における放射性物質検査強化の動きに関し「環境や人に影響しない科学的根拠に基づく放出であることを、粘り強く国際社会に訴えていく」必要性を強調している。
- 03 Aug 2023
- NEWS
-
筑波大 降雨による空間線量率の変動でモデル開発
筑波大学の研究グループは7月24日、降雨による空間線量率の変動を推定するモデルを開発したと発表した。福島県内2地域での土壌水分量と空間線量率の観測結果から比較・評価を行い得られたもので、原子力災害被災地の環境回復を正確に定量化する指標となり得る研究成果だ。〈筑波大発表資料は こちら〉同研究では、福島第一原子力発電所事故以降、物理的減衰や除染により福島県の森林の空間線量率が順調に減少してきたものの、降雨後の低下や乾燥時の上昇など、一時的な変化もみられていることに着目。降雨後の空間線量率の低下は、土壌水分量が増え遮蔽効果が高まることによると予想されており、土壌水分量の変化と空間線量率の関係を調べるため、現地で観測を行った。観測は、空間線量率が5.0マイクロSv/時を超える浪江町の森林(2021年)と、除染が実施され空間線量率が1.0マイクロSv/時の川内村の森林(2019年)で実施。気象庁の降雨量データをもとに算出した「実効雨量」を用いて降雨による影響について評価・分析を行った結果、浪江町では土壌水分の増加とともに空間線量率が減少しており、その変化を降雨量から説明できた。また、空間線量率の低い地域である川内村についても、「実効雨量」から土壌水分の推定が可能だったが、はっ水性(水をはじく性質)を考慮する必要性が示された。研究グループでは、今後の展開に向け、地表面における放射性セシウムの存在量や、はっ水性の評価とともに、日射量や気温の季節差を踏まえ、年間を通した観測も必要となるとしている。今回の研究をリードした筑波大放射線・アイソトープ地球システム研究センター・恩田裕一教授は、これまでも、他大学・研究機関との連携により、福島の環境回復に関し、科学的視点からチョルノービリと比較した評価・分析などを行ってきた。
- 01 Aug 2023
- NEWS
-
原産協会理事長 ALPS処理水の理解「粘り強く国際社会に」
原産協会の新井史朗理事長は7月27日、記者会見を行い、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の海洋放出に関して、粘り強く国際社会へ訴えていく考えを明らかにした。新井理事長は、IAEAが4日に公表したALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書の示す「海洋放出へのアプローチ、並びに東京電力、規制委員会、日本政府による活動は国際的な安全基準に合致している」、「計画されている海洋放出が人および環境に与える放射線の影響は無視できる水準である」との結論について、「グローバルスタンダードな評価として、わが国にとって大変心強いものだ」と強調。一方で、放出完了までに長い期間を要することから、「的確な運転操作の継続と設備の劣化などへの対応も必要」として、高い透明性の確保に加え、中長期的な課題に対する検証、国内外にある様々な不安や懸念に向かい合い続けることの重要性をあらためて述べた。中国における海洋放出を理由とした日本からの輸入水産物の放射性物質検査を強化する動きに関し、「運転中プラントからの放出と同様、環境や人に影響しない科学的根拠に基づく放出であることを、粘り強く国際社会に訴えていかねばならない」と強調。ウェブサイトを通じた情報発信や、中国、韓国、台湾の原子力産業団体で構成する「東アジア原子力フォーラム」を通じた対話など、原産協会によるこれまでの取組に言及し、今後も「原子力産業界をあげて、廃炉と復興の両立を支援していく」との姿勢を示した。海洋放出への社会の理解について問われた新井理事長は、廃炉と復興の両立と、再稼働した原子力発電所の地道な安全・安定運転が信頼回復の一歩と述べた。風評被害対策に関しては、電気事業連合会による全国大の水産加工品消費・売上げ振興策に言及した。この他、高温ガス炉実証炉の基本設計を担う中核企業として資源エネルギー庁より25日に三菱重工業が選定されたことについて、高温熱を用いた水素製造の可能性や立地の課題に関し質疑応答がなされた。〈理事長メッセージは こちら〉なお、三菱重工は、2030年代の運転開始を目指す高温ガス炉実証炉の建設に向け、研究開発および設計、建設までを一括して取りまとめていく。同社は、日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」による水素製造の実証試験を進めており、今回の中核企業への選定を受け、「これまでの高温ガス炉開発における当社の豊富な実績や研究開発への積極的な取組、高い技術力などが評価された」と、コメントしている。
- 28 Jul 2023
- NEWS