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エネルギー価格と日本に忍び寄るインフレのリスク
世界的にインフレの懸念が高まりつつある。例えば米国の場合、新型コロナ禍前の2019年までの20年間、消費者物価上昇率は年平均2.1%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアベースでは2.0%だった。それが、昨年12月は総合指数が前年同月比7.0%、コア指数は5.5%上昇した。総合指数は39年ぶり、コア指数も30年ぶりの高い伸びだ。欧州主要国でも軒並みインフレ圧力が急速に強まっている。この物価上昇について、当初、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、新型コロナ禍からの景気回復期における「一過性の現象」と指摘していた。しかしながら、このところは見方を変え、インフレが長期化するリスクを懸念しつつある。FRBは、新型コロナ禍への対応で実施した歴史的緩和の方針を既に転換し、米国の金融政策を決める3月15、16日の次回連邦公開準備委員会(FOMC)で利上げに踏み切るとの見方が大勢だ。世界的にインフレ圧力が強まりつつある背景については、様々な要因が考えられる。そのなかで、最も根本的な変化は、国際社会が「グローバリゼーション」から新たな「分断の時代」へ突入したことではないか。 ゲームチェンジャーとしての新型コロナ過去60年間における主要国の消費者物価上昇率を振り返ると、1960~80年代はインフレの時代だった(図表1)。一方、1990~2010年代は物価安定の時代だ。2つの時代の境目で起こった象徴的な事件は、1989年11月のベルリンの壁崩壊、そして1991年12月の旧ソ連消滅だろう。それ以前は東西冷戦期であり、世界のサプライチェーンは統一されておらず、米ソ両ブロックが陣地獲りと資源の争奪戦を繰り広げていた。さらに、2回の石油危機に象徴される地域紛争が資源価格を高騰させ、世界経済を極度のインフレに導いたのである。ちなみに、第1次石油危機のきっかけは、1973年10月6日、エジプト、シリアを主力とするアラブ連合軍が、ゴラン高原に展開するイスラエル軍を攻撃して始まった第4次中東戦争だった。この時、アラブ諸国を支援していたのは旧ソ連であり、イスラエルは米国を後ろ盾としていたのである。しかしながら、旧ソ連が消滅して以降、世界は唯一の覇権国になった米国を軸として単一市場の形成に向け大きく動き出した。特筆されるのは、1995年に設立された世界貿易機構(WTO)を中心に国際的な通商ルールが確立されるなか、中国、東南アジア諸国、メキシコなどが急速に工業化し、その供給力によって需要超過の米国もインフレから解放されたことだろう。一方、冷戦下で米国への輸出により高成長を遂げた日本は、新興国に対し競争力を失って過剰供給による構造的なデフレに陥った。もっとも、30年間に亘って続いてきたグローバリゼーションの時代は、新たな転換点を迎えようとしているのではないか。その表面的な契機は新型コロナ禍だ。中国の武漢市で発生したと言われるこの国際的な疫病が米国へ飛び火した2020年初頭以降、ドナルド・トランプ大統領(当時)は急速に対中批判を先鋭化させた。それ以前は貿易収支の不均衡で対中圧力を強めていたものの、自身の別荘であるフロリダ州のマールアラーゴへ習近平中国国家主席を招待するなど、両国関係はむしろ良好だったと言える。しかし、自身の再選を目指す大統領選挙まで1年を切った段階での新型コロナの感染急拡大により、トランプ大統領は中国への姿勢を大幅に硬化させた。ただし、新型コロナはあくまで象徴的出来事であり、米中対立の本質は中国が将来において米国から覇権を奪取する意図を隠さなくなったことではないか。近年における人民解放軍の急速な近代化と東シナ海、南シナ海、フィリピン海への海洋進出、国家による支援を後ろ盾とした国営企業による通信、半導体、人工知能(AI)など最先端技術の開発、そしてアジア・太平洋、アフリカ、中南米などにおける外交・経済両面でのプレゼンスの拡大は、米国にとり中国による挑戦と見えても不思議ではない。経済的交流がほとんどなかった東西冷戦時代の米ソと異なり、現代の米中両国は相当規模での相互依存関係を築いてきた。例えば、米国にとって中国は最大の農産品の輸出先であり、中国は発行された米国国債の約5%を保有している。従って、米中が覇権を争うとしても、1950〜80年代と同じタイプの冷戦にはならないだろう。しかし、米国と中国による新たな分断の時代は、30年間続いた世界的な物価安定の終焉を意味する可能性がある。好例はウクライナ情勢だ。2月4日、北京冬季五輪の開幕式に合わせて行われた中ロ首脳会談において、習近平国家主席は中国はロシアが最も懸念する北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対の立場を鮮明にし、ウラジミール・プーチン大統領は台湾を中国の領土であると再確認した。エネルギー部門を含めた中ロの連携強化は、ウクライナ情勢などを通じて国際的な資源価格の高騰の背景となり、インフレ圧力を強める可能性がある。また、習近平政権は新たな経済政策の目標として「共同富裕」を掲げた。その直接的なイメージは貧富の格差の是正だろう。もっとも、本質的な狙いは個人消費主導の経済成長ではないか。消費拡大は、国民の生活水準向上であり、即ち一党独裁制を敷く共産党への国民のローヤリティを高める道に他ならないからだ。加えて、世界最大の人口を使って世界中から財貨を購入することにより、米国と同様、世界経済における中国の存在感の向上、国際社会における発言力の強化を狙っていると見られる。問題は14億人の消費水準向上が世界の資源需要に与えるインパクトだろう。エネルギーや食料の需給関係が引き締まり、国際的な価格の押し上げにつながることで、インフレの油に火を注ぐ可能性がある。本質的な要因ではないにせよ、新型コロナ期を転換点、即ちゲームチェンジャーとして、米中両国は次世代の覇権を巡り対立を深める時代に入ったようだ。結果として、今後、世界的な地域紛争の激化と資源の争奪戦、サプライチェーンの寸断による製造・物流コストの上昇などの現象が起こり、インフレ圧力が恒常化するリスクを考えなければならないだろう。 日本が物価安定を飛び越してインフレに陥るリスク2012年12月26日、第2次安倍晋三内閣が発足した。同年9月26日の自民党総裁選以降、安倍氏が訴えたのはデフレからの脱却だ。2013年1月22日、『政府・日銀共同声明』により日銀は「安定的な物価目標」として初めて生鮮食品を除くコア消費者物価で前年同月比2%のインフレターゲッティングを導入した。さらに、3月に就任した黒田東彦総裁の下、日銀は「量的・質的緩和」を採用、この政策は金融市場で好感され、円高の是正と株価上昇が急速に進んだのである。もっとも、肝心の物価目標については、世界の主要中央銀行に類を見ない大胆な金融緩和を続けてきたにも関わらず、消費税率引き上げの影響が反映された時期を除けば、この9年間で1度も達成されたことがない。今年1月21日、総務省は昨年12月の消費者物価統計を発表した。それによると、総合指数が前年同月比0.8%、生鮮食品を除くコア指数が同0.4%、それぞれ上昇している(図表2)。依然として目標には全く届いていないのだが、翌22日付けの日本経済新聞は、『インフレ率、春2%視野 資源高が暮らしに波及』との見出しでこの件を報じた。つまり、今後、急速に物価が上がる可能性を日経は指摘したのだ。その背景にあるのは、特殊要因が剥落(はくらく)し、世界的なインフレの影響が日本にも波及するシナリオだろう。米国の消費者物価と異なり、日本の統計ではエネルギー価格がコア指数に算入される。12月の消費者物価統計を詳しく見ると、コア指数に対する寄与度はエネルギーが+1.2ポイント、通信は▲1.6ポイントだった(図表3)。つまり、エネルギーがコア指数を1.2ポイント押し上げる一方、通信は1.6%押し下げ、エネルギー、通信以外が0.8ポイント押し上げたことになる。通信がコア消費者物価全体を大きく下げる方向へ寄与しているのは、菅義偉前首相の政策に依ると言っても過言ではない。第2次安倍政権の官房長官時代から通信料金引き下げの必要性を強く主張し、2020年9月の自民党総裁選挙では公約の柱とした。内閣総理大臣就任後、業界に価格体系の見直しを迫り、2021年3月より大手3社はデータ容量20GBの新たな料金プランを導入している。サービスの開始日は、ソフトバンクの“LINEMO”が同3月17日、auの“povo”は同23日、ドコモの“ahamo”は同26日だ。2021年の消費者物価統計における通信の価格を見ると、2月は前年同月比1.1%の上昇だったが、新プランが始まった3月は同0.7%下落し、4月は新価格体系による実質的な値下げがフルに寄与した結果、同24.6%の大幅な低下となっている。2021年12月の消費者物価統計では、通信の下落率は34.3%に達していた。新料金プランの導入から1年が経過するため、今年4月以降、この通信による消費者物価への影響が解消される。結果として、2022年度については通信価格による消費者物価全体への寄与度は概ねゼロになるだろう。マイナスの寄与度がなくなることで、通信部門は実質的に消費者物価を押し上げる見込みだ。一方、1月17、18日に開催された政策決定会合に伴い、日銀は年4回の『経済・物価情勢の展望(展望レポート)』を発表した。それによると、総裁、2人の副総裁を含む政策委員9人の物価見通しの中央値は、2021年度のコア消費者物価上昇率が前年度比横ばいで昨年10月から据え置かれる一方、2022年度は前回の0.9%から1.1%へ、2023年度も同じく1.0%から1.1%へ、いずれも小幅ながら上方修正されている。日銀は、展望レポートのなかでエネルギー価格が落ち着くことにより、通信とは逆の効果をもたらすと指摘した。黒田総裁は、会合後の記者会見で「利上げを検討しているか」と聞かれ、「一時的な資源価格の上昇に対応して、金融引き締めを行うことは全く考えていない」と答えている。ただし、足下、原油市況はWTI先物価格が1バレル=90ドル台に達し、じり高歩調を崩していない。今後についても、世界的な脱化石燃料化の潮流の下で新たな開発への投資が難しくなっている上、国際社会の分断により中東やウクライナにおいて地政学的な緊張が高まり、むしろ石油、石炭、天然ガス価格は上昇を続ける可能性がある。消費者物価指数統計におけるエネルギーのコア消費者物価への寄与度は、概ね原油市況と連動してきた(図表4)。今後、価格の上昇率は縮小しても、原油価格のじり高歩調が続けば、天然ガスや石炭を含めた燃料コストの上昇により、エネルギーの物価全体への寄与度はプラス圏を維持するのではないか。その場合、前述の通り4月になれば通信価格値下がりの影響がほぼ解消される一方、エネルギー価格はコア消費者物価指数を引き続き押し上げることになる。他方、エネルギーや通信を除く広範な分野において、日本国内でも値上げの動きが顕在化してきた。国際的なインフレ圧力により、昨年12月の企業物価は前年同月比8.5%上昇した(図表5)。これまではコスト削減努力により消費者物価への転嫁が抑えられてきたものの、企業にとって今後も値上げを我慢するのは難しいだろう。つまり、通信・エネルギー以外の分野のコア消費者物価上昇率に対する寄与度は、今後、プラスの幅を拡大する可能性が強い。結果として、日経の記事が指摘していたように、4月以降、コア消費者物価上昇率が日銀の安定的目標である2%を超える事態も起こり得るのではないか。必要なエネルギー政策の再構築中央銀行が2%の物価目標を提示し、それに向けてマネーの供給を大幅に増やすと、世の中のマインドがインフレ期待に転換され、物価上昇前に消費や投資をしようとする動きが強まって実需が拡大、結果的にインフレターゲットが実現する…これが量的・質的緩和に関して日銀が描いてきたシナリオだ。つまり、内需が盛り上がるなかでの適度なインフレであり、当然、賃金が物価を上回るペースで上昇するため、好景気が持続する。しかしながら、現実に日本経済が直面しつつあるのは、資源高などにより、国内で価格転嫁が避けられなくなって起こるインフレのリスクだ。このケースでは、石油などの購入価格が値上がりするため、海外への支払いが増えて日本の富が流出する。当然、賃上げは難しく、日本の平均世帯の購買力が低下するため、インフレと不況が同居するスタグフレーションになる可能性も否定できない。1973年の第1次石油危機に端を発した「狂乱物価」は、正にそうしたスタグフレーションの典型的な状態だった。もっとも、1974年の消費者物価上昇率は23.2%だが、賃上げ率はそれを上回る25.5%に達し、実は消費者(=勤労者)の実質購買力は低下していない。日本経済が青年期で人口が増加し、内需も旺盛だったからだろう。さらに、この危機下において日本は短期間に産業構造の転換を成し遂げ、1980年代における自動車や電気製品・部品の輸出拡大への基盤を築いたのである。また、エネルギー戦略を見直し、燃料資源の海外依存度を低下させるため、原子力発電所の建設を強力に推進した。現在の日本経済には1970年代のような体力はなく、国際情勢も大きく変化している。人口が減少するなかでのスタグフレーションは、日本の消費者の実質購買力を失わせる結果、生活の質が大きく低下しかねない。マクロ的に見ても、それは縮小均衡のシナリオだ。そうしたリスクを軽減するためには、財政・金融政策や成長戦略の見直しだけでなく、エネルギー政策も再構築する必要があるのではないか。特に長期的な化石燃料の価格上昇を想定し、カーボンニュートラルと経済安全保障を両立させなければならない。岸田文雄政権には、2011年3月の東日本大震災以後に止まってしまった時計を再稼働させ、原子力政策の推進を期待したいところである。
- 28 Feb 2022
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日本が学ぶべきウクライナの教訓
ウクライナ情勢がにわかに緊迫の度合いを増した。10万人とも言われるロシア軍がウクライナとの国境に集結したことで、米国、欧州主要国は同国による侵攻を強く牽制している。1月24日、米国のジョー・バイデン大統領は、国防省に対し北大西洋条約機構(NATO)即応部隊へ8,500人規模の米軍増派を短期間で行えるよう準備を命じた。さらに、同大統領は、2月2日、それとは別にノースカロライナ州フォートブラッグ陸軍基地からドイツ、ポーランドへ2,000人を派遣、ドイツの駐留米兵1,000人をルーマニアに再配置することを決めている。ロシアがウクライナへ圧力を強めているのは、同国がNATOへの加盟を求めているからだろう。1991年12月25日、ミハエル・ゴルバチョフ大統領が旧ソ連の消滅を宣言した。「ソ連」は即ちソビエト社会主義共和国連邦の略称であり、同国は15の社会主義共和国による連邦国家だったわけだ。この15か国の中心はロシア社会主義共和国だが、残る14か国のうちウクライナ社会主義共和国が今のウクライナ、白ロシア社会主義共和国がベラルーシに他ならない。改めて言うまでもなく、ウクライナは旧ソ連領であり、今はロシアと1,576㎞の国境で接する隣国である。ちなみに、1917年の革命以前における帝政ロシアは、ウクライナの大半、ベラルーシ以外にもポーランドのほぼ全域、フィンランドなども領土としていた。旧ソ連は帝政ロシアの一部を独立させたが、その多くは第2次大戦後に親ソ東ヨーロッパ諸国としてワルシャワ条約機構を構成したことは周知の事実だ。1989年11月のベルリンの壁崩壊で東欧各国の民主化が進み、旧ソ連の消滅と共に15共和国がそれぞれ独立、エストニア、ラトヴィア、リトアニアのバルト3国は2004年5月にEUに加盟した。一方、残りの12か国はロシアを中心に独立国家共同体(CIS)と呼ばれる緩やかな国家連合へ移行したのである。もっとも、ウクライナ、トルクメニスタンはCIS憲章を批准せず準加盟国の扱いとされた。また、旧グルジア、現在のジョージアは同憲章を批准したものの、南オセチアを巡る領土問題で2008年8月12日に批准を撤回、同29日にはロシアと断交してCISを脱退している。さらに、ウクライナも2014年のクリミア危機により同年3月19日にCISからの脱退を宣言した。前日にロシアがウクライナ領内であったクリミア自治共和国及びセヴァストポリ特別市の編入を決めたことへの対抗措置に他ならない。もっとも、両国関係はそれ以前からかなり悪化していた。ウクライナがロシアとの対立を表面化させたのは、2005年1月から2010年2月かけてのヴィクトル・ユシチェンコ大統領の時代だ。親米欧派の同大統領はEUのみならずNATOへの加盟を目指してロシアを刺激した。ロシアにとり、西隣のウクライナは旧親ソ国であったポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどと共に西欧との緩衝地帯になっている。皇帝ナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍、アドルフ・ヒットラー総統のドイツ軍に侵攻され存亡の危機に立たされたロシアとしては、ウクライナのNATO加盟は安全保障上の大問題なのだろう。また、ロシアが編入を宣言したセヴァストポリには、伝統的にロシア海軍黒海艦隊の母港として海軍基地が置かれてきた。さらに、旧ソ連時代、ウクライナには多くの軍事産業が集積しており、ウクライナ国営ユージュマス社はロシアの大陸間弾道弾(ICBM)のエンジン、同じく国営アントノフ社は大型輸送機を製造、ロシアの軍事力の重要な部分を担ってきたのである。そうした歴史的・軍事的事情が、ロシアの対ウクライナ政策に大きく影響していると見て間違いないだろう。 危機ムードの醸成を図るロシアの真意旧ソ連崩壊以降、ロシアはエネルギー資源に乏しいウクライナとの関係を維持するため、天然ガスを国際市況に対して割安な価格で供給した。また、ロシアからウクライナ経由で西欧に天然ガスを供給するパイプラインの通過料収入は年間30憶ドルに達し、ウクライナ政府の歳入の7%程度を賄っていたのである(図表1)。しかしながら、ユシチェンコ政権の親米欧路線に対抗して、ロシアはウクライナ向けの天然ガス輸出に関して市場価格への引き上げを図り、これが新たな両国の緊張関係の火種になった。ロシアとウクライナはこの天然ガスの価格を巡る問題で衝突を繰り返している。ロシアが究極の対抗措置としたのが、ウクライナを通らず、ドイツ、イタリアなどに天然ガスを供給するパイプライン網の整備に他ならない。元々、ウクライナを経由しないルートとしては、ロシアのミンスクからベラルーシ、ポーランドを通ってドイツに至る「ヤマル・ヨーロッパ」があった。これに加えて、2005年に西シベリアで生産された天然ガスを黒海経由でトルコへ輸送する「ブルーストリーム」、2011年にバルト海を通過してドイツへ直送する「ノルドストリーム」を開通させている。さらに、2020年には黒海経由でトルコから南ヨーロッパへ至る「トルコストリーム」が稼働し、昨年はノルドストリームに並行する「ノルドストリーム2」が竣工した。ノルドストリーム2はまだ稼働していないものの、2010年に1,200億㎥だったウクライナ経由での欧州向け天然ガス輸出量は、2017年は850億㎥へ減少、2021年は450億㎥程度まで落ち込んだと見られる。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、クリミア・セヴァストポリの編入後も、経済・軍事両面でウクライナへの締め付けを強化してきたわけだ。他方、ドイツの政権交代でノルドストリーム計画を推進してきたアンゲラ・メルケル首相が退任、オラフ・ショルツ新首相はEUと共にノルドストリーム2の稼働に慎重な姿勢を崩していない。ロシアは、ウクライナへの牽制に加え、EU主要国にプレッシャーを掛ける意図もあって、欧州向けを中心に天然ガスの輸出量を抑制している模様だ(図表2)。NATOの拡大阻止と欧州への安定的な天然ガス販路の確保───これがウクライナ国境に大きな軍事力を展開したプーチン大統領の意図なのではないか。 ロシアに依存する欧州のエネルギー事情昨年10月31日から11月13日、英国のグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、石炭の段階的使用削減が決まった。地球温暖化抑止に積極的な欧州は石炭に極めて厳しい姿勢で臨み、ドイツも石炭・褐炭による発電を2038年までにゼロにすると公約している。一方、EUの執行機関(内閣)である欧州委員会は、2月2日、地球温暖化抑止に貢献する持続可能な経済活動の分類、即ち『EUタクソノミー』の「グリーン・リスト」に脱炭素化に貢献する投資先として原子力発電と天然ガスを加える法案を正式に発表した。欧州理事会(首脳会議)と欧州議会で審議し、年央にも可否を決定する。現実的な立場に立てば、石炭の使用を削減する場合、代替的なベースロードの確保は必須だ。原子力と天然ガスを選択するのは合理的な判断だろう。欧州ではドイツを中心にロシア産天然ガスへの依存度が高く、地球温暖化抑止のための石炭の使用削減でさらにその傾向は強まるだろう(図表3)。特に昨年夏は異常気象によりスペイン、英国などで風力発電が機能不全に陥った。結果としてさらに天然ガスの需要が拡大している。もっとも、ウクライナ危機により、EUは新たな問題に直面した。欧州で消費される天然ガスの30~40%を供給してきたロシアの圧力が強まっているからだ。特に天然ガスの調達でロシアへの依存度が高いドイツは、電力価格などが高騰し経済的な苦境に追い込まれつつある(図表3)。2019年の平均が4.80ドル/100万Btuだった欧州の天然ガス価格は、昨年12月21日、59.67ドルの史上最高値を付けた(図表4)。1月は28ドル台へ調整したものの、新型コロナ禍前と比べて6倍になっている。その結果、昨年12月、ドイツの消費者物価上昇率は前年同月比5.3%に達し、1992年6月以来、約30年ぶりの高水準になった。また、日本の輸入するLNGもその影響を受け、市場価格が急上昇している。2月3日、ブルームバーグはロシアがウクライナに侵攻するリスクを念頭に、日本などが購入契約を結んだLNGの一部を欧州へ提供できないか、米国政府が関係国に打診したと報じた。ウクライナ危機はアジアに飛び火し、世界的なインフレ圧力となる可能性がある。再生可能エネルギーによる発電比率が総発電量の50%に達したドイツは、脱石炭化のみならず、今年中に3基の原子力発電所を全て止める計画だ。もっとも、原子力と石炭火力は依然として同国の総発電比率の40%近くを賄っており、それを全て再エネで代替することは困難だろう。畢竟、脱原子力を先送りするか、それとも燃料コストの上昇に耐えて天然ガスの利用を拡大するか、実質的に二択を迫られた状態にある。このドイツを象徴とする欧州の苦境は、プーチン大統領の描いたシナリオ通りと言えるかもしれない。ロシア経済も良い状態ではないものの、エネルギー価格の高騰によりインフレ懸念の高まる欧州と我慢比べをすることで、米国とEUの関係に楔を打ち込み、欧州におけるロシアの発言力を強化できる可能性があるからだ。言い換えれば、ドイツをはじめとしたエネルギーのロシア依存度の高さが、ウクライナ危機を招いた一因と考えるべきだろう。 ウクライナ問題が示す日本のあるべき経済安全保障少なくともこれまでのところ、米国のウクライナ問題への対応が効果的であるとは思えない。バイデン大統領は、昨年7月21日、ホワイトハウスで退任を間近に控えたドイツのメルケル首相(当時)と会談、その際の共同声明でノルドストリーム2の建設を実質的に容認した。また、同9月1日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談では、ウクライナのNATO加盟に慎重な姿勢を示している。さらに、12月8日、同大統領は記者団の質問に答え、ウクライナ有事の場合、「米国が単独で軍事力を使うことは検討していない」と語った。米国は東アジアにおいて中国との覇権争いに注力しており、アフガニスタンから撤退したのと同様、欧州への介入もできれば避けたいのだろう。そうした姿勢をプーチン大統領に見透かされ、ロシアはウクライナへの圧力を今年に入って一段と強めた。バイデン大統領はNATOの結束を維持し、米国の指導力をアピールする意味で、欧州への米軍増派を決定せざるを得なかったのではないか。また、ロシアのみならず、プーチン大統領個人への経済制裁の可能性を示し、ロシアによるウクライナ侵攻を牽制した。ただし、ロシアがウクライナに軍事行動を起こすとの見方には疑問が残る。2014年に軍事上の要衝であるクリミア・セヴァストポリを既に実効支配しており、ロシアにとってウクライナへ侵攻するのはリスクに対するリターンが見合わないからだ。従って、プーチン大統領やセルゲイ・ラブロフ外相が繰り返しているように、ロシアにとって安全保障上の大きな脅威であるウクライナのNATO加盟阻止が国境に軍事力を集結した目的だろう。加えて、ノルドストリーム2を稼働させ、ウクライナを経由せずに欧州へ向けての天然ガス供給の強化を図る意図と見られる。今回のウクライナ危機は、実は日本にとっては大きな教訓と言えるのではないか。エネルギー供給とその運搬ルートの安全確保を他国に依存する場合、経済のみならず安全保障上の大きなリスクになり得ることが示されたからだ。ドイツ、イタリア、スペインなど欧州主要国は正にその脅威に晒され、燃料価格の高騰を一因とするインフレに苦しんでいる。プーチン大統領は、このままウクライナ国境でにらみ合いを続けることにより、EUから妥協を引き出す意向なのではないか。1941年12月8日、日本が対米国、英国、オランダ、中国に宣戦布告を行って第2次世界大戦に参戦を決断したのも、オランダ領インドシナ(現インドネシア)の油田地帯へ侵攻したことで、原油調達の8割を依存していた米国から石油禁輸措置を受けたことが背景だった。戦時中、日本軍はパレンバンなどの油田の生産能力を回復させたが、本国へのシーレーン上で輸送船が攻撃され、結局、持久戦においてじり貧に陥ったのである。日本が資源に乏しいことは戦前と変わっていない。エネルギーに関しては、再生可能エネルギーの強化が喫緊の課題だ。ただし、再エネ優等生のドイツですら、ウクライナ情勢でロシアの脅威に晒されている。島国である日本は、地政学的な違いを踏まえた上で、現在の欧州情勢から多くを学ぶべきだろう。再エネには安定したベースロードが必須である上、脱化石燃料も同時に進めなければならない。そうした様々な制約条件を考えれば、原子力発電を継続し、発電所の建替え、新設に踏み切ることこそ、岸田政権が掲げる「経済安全保障」に即したエネルギー政策と言えるのではないか。
- 07 Feb 2022
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ロシア、建設中MBIRの炉内機器の試験組立を実施
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のエンジニアリング部門であるアトムエネルゴマシ社は1月25日、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードで2015年から建設中の「多目的高速中性子研究炉(MBIR)」のために、炉内機器の試験組立をロストフ州ボルゴドンスクで実施したと発表した。熱出力15万kWのMBIRでは、幅広い原子炉研究や照射研究の実施が計画されており、1969年から同じくディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)内で稼働している高速実験炉「BOR-60」の後継炉となる予定。冷却材として液体ナトリウムを、燃料にはウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料か窒化物燃料を使用するが、鉛や鉛ビスマスといった異なる冷却材環境での照射試験が可能である。ロスアトム社によるとMBIRが完成すれば、核燃料サイクルの確立に不可欠な高速炉など、第4世代の原子力発電システムの開発が大きく進展する。また、原子力を長期的に活用していくための広範な研究課題の解決や、新型核燃料の研究開発など、文字通り多目的に利用することができる。現地の報道では、MBIRで物理試験が行われるのは2027年末になるとみられている。MBIRの総工費は10億ドルと言われており、2010年にロスアトム社のS.キリエンコ総裁(当時)は、国際原子力機関(IAEA)が革新的原子炉や燃料サイクルの導入環境整備を支援するため創設した国際フォーラム「INPRO」の枠組み内で同炉を開発することを提案。同炉の設計と建設をロシアのRIARが受け持つ一方、実験や追加機器に要する経費は、MBIRを中核設備とする「国際研究センター(ICR)」に参加を希望する国々が負担することになった。今回の試験組立は、アトムエネルゴマシ社に所属するAEMテクノロジーズ社のボルゴドンスク工場で行われ、総重量164トンという6つの機器を使用。まず特別に設計された深さ20mのケーソン(円筒状の構造物)内部に、支持リング付き・重さ83トンの原子炉容器をクレーンで設置。同容器内には直径3.2m、重さ45トンのバスケットを据え付けており、これによってMBIR内を出入りする冷却材の流れを制御・分離した。また、機器類の内部には3種類の防護スクリーンを貼り、高温になった冷却材の熱から原子炉容器を防護。これらの要素設備をすべて接続した上で、性能や組立具合、接続性能、全体の調整具合などを点検したもので、今後はディミトロフグラードへの出荷に向けて機器類の点検や保護包装を行う計画だとしている。(参照資料:アトムエネルゴマシ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Jan 2022
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ロシアでRBMKのクルスク1号機が永久閉鎖
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は12月20日、モスクワの南約500kmに位置するクルスク原子力発電所で、約45年間稼働した1号機(100万kWの軽水冷却黒鉛減速炉=RBMK)を19日付で永久閉鎖したと発表した。発表によると、同炉は1976年12月に送電開始して以降、2,510億kWh以上の電力を発電。これはクルスク地域における総電力消費量の約30年分に相当する。同発電所全体では、全4基のRBMKでこれまでに9,870億kWh発電したとしている。これらの4基はすべて、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所と同型の「RBMK-1000」設計であり、ロシア国内ではクルスク発電所のほかにもレニングラード、スモレンスクの両発電所で同じRBMKが稼働中。これらは今後10年以内に運転期間が満了するため、3つの発電所では現在、稼働しているⅠ期工事のリプレースとして最新鋭のロシア型PWR(VVER)をⅡ期工事で建設する計画が進められている。レニングラード発電所では、革新的技術を用いた第3世代+(プラス)の120万kW級VVER設計「AES-2006」がⅡ期工事1号機として2018年10月から、2号機については今年3月から営業運転を開始した。クルスク原子力発電所では、「AES-2006」設計の技術面や経済面で一層の最適化が図られたという出力125.5万kWの「VVER-TOI」設計をⅡ期工事の1、2号機に採用、それぞれ2018年4月と2019年4月に本格着工した。VVER-TOIではAES-2006と同じく運転期間が60年に設定されているほか、受動的な安全システムを全面的に装備。コア・キャッチャーや、大気の自然循環で炉心を冷却する受動式残留熱除去装置が組み込まれている。クルスクⅡ期工事1、2号機はVVER-TOIのパイロット・ユニットという位置づけであり、ロスエネルゴアトム社はⅠ期工事の4基の閉鎖時期に合わせてこれらの運転を開始すると表明。現時点でⅡ期工事1号機は2022年の後半に起動、同2号機については2024年8月に営業運転を開始すると見られている。VVER-TOI設計はまた、スモレンスク発電所のⅡ期工事、および新規サイトのニジェゴロドやセベルスク原子力発電所で採用が決定している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Dec 2021
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ロシアTVEL社が陸上SMR用の試験用燃料集合体を製造
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は10月21日、極東のサハ自治共和国内で建設を計画している同国初の陸上設置式小型モジュール炉(SMR)向けに、傘下の燃料製造企業TVEL社が試験用燃料集合体を製造したと発表した。ロスアトム社の国際事業部門であるルスアトム・オーバーシーズ社(JSC RAOS)は、2028年までにサハ共和国北部のウスチ・ヤンスク地区ウスチ・クイガ村で、電気出力5.5万kWの陸上設置式SMR「RITM-200N」を完成させる方針。このため、今回の試験用燃料集合体は、モスクワ州エレクトロスタリにあるTVEL社のエレマシュ工場で製造された。TVEL社は2025年にもエレマシュ工場で同SMR用燃料集合体の製造を開始し、2026年には初回装荷分の燃料一式を製造する予定。これに先立ち製造した今回の試験用燃料集合体は、ダミー燃料とともに様々な照射前試験や研究に使われる。ロスアトム社の発表では、陸上設置式SMRの建設は(サハ共和国の首都である)ヤクーツク北部の北極帯で採算性が見込まれるプロジェクトを実施する際、電力供給など主要インフラの課題克服に有効と期待される。建設予定の「RITM-200N」では、取り換えることが出来ない機器の供用期間が約60年であるため、約60年間は信頼性の高い電力を安定した価格で同地に供給できるとした。同社によると、大型炉の建設は都市部の基幹送電網が届かない遠隔地域では合理性(優位性)が乏しく、SMRこそ持続可能で信頼性の高い電力供給に最適なオプションになる。SMRはさらに、老朽化したディーゼル発電所や石炭火力発電所をリプレースしてCO2の排出量を削減できるなど、数多くの長所があると強調している。ロシアでは2020年5月、電気出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基搭載した海上浮揚式原子力発電所(FNPP)の「アカデミック・ロモノソフ号」が、極東チュクチ自治区内の湾岸都市ペベクで商業運転を開始した。ロスアトム社傘下のOKBMアフリカントフ社はこれに続いて、「KLT-40S」の特性をさらに生かしたSMRシリーズ「RITM」を開発。熱出力17.5万kW~19万kWの「RITM-200」は、ロシアの原子力砕氷船に搭載した小型炉のこれまでの運転経験を統合したもので、同炉を2基搭載した最新の原子力砕氷船「アルクティカ」はすでに試験航行を終え、昨年10月に北極海航路で正式就航した。「RITM-200」を2基ずつ搭載する原子力砕氷船「シビル」と「ウラル」の建造も、現在進行中である。この「RITM-200」は、FNPPに搭載する「RITM-200M」(電気5万kW)と陸上に設置する「RITM-200N」の2種類に分類されるが、サハ共和国内での「RITM-200N」建設計画については、ロスアトム社とサハ共和国政府が昨年12月、同炉が発電する電力の売買価格で合意に達した。また、ロシア連邦の環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は今年8月、この計画に対して建設許可を発給。建設に必要な環境影響声明書の作成や様々な調査の大部分がすでに完了し、サハ共和国内で公開ヒアリングも開催済みであることから、ロスアトム社は2024年にも「RITM-200N」を使ったSMR発電所の建設を開始するとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 26 Oct 2021
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ロシアのレニングラードII-2号機に営業運転許可
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は3月11日、サンクトペテルブルク西方のレニングラード原子力発電所6号機(II期工事2号機、119.9万kWのPWR)に対し、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が10日付けで営業運転を承認したと発表した。今月末までに正式な文書手続きを完了し次第、同炉は営業運転を開始する見通しである。同炉は第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」を採用し、2010年4月に本格着工した。2020年9月に起動プロセスの最終段階である「最小制御可能出力(MCP)」レベル(*原子炉が臨界条件を達成する段階において、核分裂連鎖反応を安定した状態で維持するのに必要な1%未満の出力)に達した後、翌10月には国内送電網に接続されていた。同設計の採用炉としてはロシア国内で4基目であり、稼働中の大型商業炉としては34基目になる。レニングラード原子力発電所では、チェルノブイリ発電所と同型の100万kW級軽水冷却黒鉛減速炉(RBMK)が4基、I期工事として稼働していたが、2018年12月と2020年11月に1、2号機がそれぞれ45年間の営業運転を終えて永久閉鎖された。II期工事の1、2号機はこれらのリプレース用として建設されており、ともに「AES-2006」設計を採用。同発電所の5号機であるII-1号機は2018年10月に営業運転を開始した。また、これに先立つ2017年2月に「AES-2006」を世界で初めて採用したノボボロネジ原子力発電所II期工事1号機が、さらに同型のノボボロネジII-2号機も2019年10月に営業運転を開始している。レニングラードII-2号機に関しては、昨年11月から4か月間にわたり異なる4段階の出力レベルでの起動プロセスの試験を重ねて来た。3月9日に15日間の最終総合試験が完了し、定格出力による運転に問題のないことが確認された。これにともないROSTECHNADZORは今回、同炉がロシアの技術規制と建設プロジェクトの設計要件に適合しているとの声明文を発表。営業運転の開始承認を受けて、同発電所のV.ペレグダ所長は「運転期間全体を通して、新しい原子炉は安全かつ持続的に操業できる」と明言した。営業運転を開始するまでに同炉は20億kWh以上発電する見通しだが、ロスアトム社の試算では、税金その他の経済効果として同炉はレニングラード州に年間30億ルーブル(約45億円)以上をもたらすことになるとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Mar 2021
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ロシアのTVEL社、鉛冷却高速実証炉用の窒化物燃料を開発
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の燃料部門であるTVEL社は3月1日、計画中の鉛冷却高速実証炉「BREST-300」に使用するウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の設計が、モスクワ市にある同社の「ボチバール・ロシア無機材料研究所(VNIINM)」で完成したと発表した。TVEL社の子会社でトムスク州セベルスクにある「シベリア化学コンビナート(SCC)」では、すでに年内の完成を目指して「BREST-300」用のMNUP燃料製造加工プラントを建設中。MNUP燃料は同施設の完成を待って、商業生産されることになる。核燃料サイクルの確立を目標に掲げるロシアは、実績豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)の研究開発と並行して、鉛冷却高速炉(LFR)の研究開発も「ブレークスルー(PRORYV)プロジェクト」で進めている。同プロジェクトではSCC内に「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を建設することになっており、その主要3施設として電気出力30万kWの「BREST-300」とMNUP燃料製造加工プラント、および「BREST-300」専用の使用済燃料再処理モジュールを併設することを計画している。今回の発表によると、TVEL社は今後もMNUP燃料の研究開発を継続し、燃焼による損傷の発生を抑える次世代のMNUP燃料を開発する方針。これは将来的に「BREST-300」の使用済燃料を再処理し、新燃料として再加工することを見据えたものになる。窒化物燃料を組み込んだ試験燃料集合体の照射試験は、2014年からベロヤルスク原子力発電所の高速原型炉「BN-600」(60万kW)で行われており、VNIINMは「BREST-300」用MNUP燃料の健全性試験ではすでに大幅な改善が見られたとしている。「BREST-300」用窒化物燃料の研究開発はまた、出力120万kWの商業用ナトリウム冷却高速炉「BN-1200M(=「BN-1200」のアップグレード版)」における窒化物バージョンの炉心開発にも大きく貢献。2022年には「BN-1200M」タイプの試験燃料集合体を「BN-600」に装荷して、健全性試験を実施する予定である。なお、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は2月10日、SCC内で「BREST-300」を建設するための許可をSCCに発給した。ロスアトム社は同炉を2026年末までに完成させる方針で、2019年2月には原子炉建屋とタービン建屋、および関連インフラ設備の総合建設契約をエンジニアリング企業のTITAN-2社と締結。同炉は世界でも初の鉛冷却高速炉になると強調している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Mar 2021
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ロシアの高速実証炉「BN-800」、MOX燃料のみで燃料を交換
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は2月24日、出力88.5万kWの「高速実証炉(BN-800)」として2016年11月から営業運転中のベロヤルスク原子力発電所4号機で、燃料交換時に初めてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料のみを装荷したと発表した。これらの作業を終えた同炉は再び送電網に接続され、運転を再開している。運転開始当初、同炉の炉心はウラン燃料とMOX燃料のハイブリッド炉心となっており、2020年1月の初回の燃料交換時にMOX燃料集合体を18体装荷。今回新たに160体のMOX燃料集合体をウラン燃料集合体と交換したことから、同炉の炉心は三分の一までMOX燃料になった。ロスアトム社は今後の燃料交換でもMOX燃料のみを装荷していく予定で、2022年には同炉は「フルMOX炉心」で稼働することになる。高速実証炉である4号機の主な目的は、高速炉を活用した核燃料サイクルの様々な段階の技術をマスターすることで、同発電所のI.シドロフ所長は「原子力産業界における戦略的目標の実現に、また一歩近づいた」とコメント。「MOX燃料を使用することによって、燃料製造に使われない劣化ウランも含め、原子力発電の材料資源であるウランが有効活用されるほか、別の原子炉から出た使用済燃料を再利用することで長寿命核種など放射性廃棄物の排出量を削減できる」と強調した。ベロヤルスク4号機の初期炉心には、ディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)が製造したMOX燃料集合体が含まれていたが、取り換え用のMOX燃料は、クラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクにある鉱業化学コンビナート(MCC)が製造した。原材料は、ウラン濃縮後の劣化六フッ化ウランから生成した劣化ウラン酸化物と、ロシア型PWR(VVER)の使用済燃料から生成したプルトニウム酸化物である。MCCで産業規模のMOX燃料を製造することは、2020年までを視野に入れたロシア連邦政府の目標プログラムに設定されており、ロシアの原子力産業界はMCC内にMOX燃料製造施設を設置するため、広範な協力体制を敷いている。これらの調整役を担うロスアトム社傘下の核燃料製造企業TVEL社によると、MCCでは2014年に6t/年の製造能力でMOX燃料製造施設の試運転を開始。最終的に60t/年の製造能力を目指しているが、2018年後半からは「BN-800」向けに取り換え用MOX燃料の連続製造を始めている。なお、TVEL社の担当副社長によると、MCCではBN-800用MOX燃料の製造と並行して、ロスアトム社の専門家チームが同様にMOX燃料の製造技術開発を続けている。VVERの使用済燃料から抽出したプルトニウムで新燃料を製造する技術はすでにマスター済みで、全自動の無人設備を使って最初のMOX燃料集合体が20体完成。原子炉への装荷に向け、検査もクリアしたと伝えている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Feb 2021
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ロシアのRBMK原子炉、レニングラード2号機が永久閉鎖
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月10日、レニングラード原子力発電所で2号機(100万kWの軽水冷却黒鉛減速炉)が45年間の運転を終えて、永久閉鎖されたと発表した。同発電所では、チェルノブイリ発電所と同型の100万kW級RBMKを4基稼働しており、45年間稼働した1号機を2018年12月に永久閉鎖し、今回2号機を閉鎖する。これらは第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」で順次リプレースされることになっており、同設計を採用したII期工事1号機はすでに2018年10月末に営業運転を開始、II-2号機についても今年10月22日に初めて国内送電網に接続している。発表によると、ロシアで永久閉鎖された原子炉はロシア連邦の規制・規則に基づき、核燃料が抜き取られるまでは「発電せずに運転中」の状態とみなされる。抜き取りが完全に終了するまで約4年を要する見通しで、この間に発電所では廃止措置で使用する技術の確定など、廃止措置プロジェクトの実施準備を進めることになる。ロスエネルゴアトム社のA.ペトロフ総裁は、「レニングラード発電所では原子炉の世代交代が完璧に進められており、2号機の閉鎖に合わせて第3世代+のII-2号機が試験運転を実施中だ。消費者は原子炉がリプレースされたことすら気づかないだろう」と述べた。ロスエネルゴアトム社によれば、最新設計の「AES-2006」では「RBMK-1000」に対して技術的に様々な改良が施されている。出力が20%向上したほか、公式運転期間もこれまでの30年から2倍の60年に拡大。レニングラード発電所のRBMK×4基も30年が経過した後、機器の大規模な点検・補修プログラムが行われ、4基すべてについて追加で15年間の稼働が許可された。同発電所はロシア北西地域では最大の発電所であり、近年はレニングラード州や州都サンクトペテルブルクにおける総発電量の56%以上を賄っている。120万kW級のVVERが2基送電開始した時点で、引き続き約60%を賄うことになると同社は予想している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Nov 2020
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米国、ロシアからのウラン購入について「反ダンピング調査停止協定」の20年延長を決定
米商務省は10月6日、今年の年末で満了する予定だった「ロシアからのウラン購入に関する反ダンピング課税調査の停止協定」を2040年まで延長するなど、同協定案の中の複数項目での修正でロシアの原子力総合企業ロスアトム社と合意し、双方がそれぞれの政府を代表して同協定の最終修正版に調印したと発表した。延長された同協定の有効期間中は米国内ウランのロシア産ウラン割合が軽減されることから、商務省のW.ロス長官は「米国の原子力産業界の再活性化につながるとともに、米国の戦略的な利益を長期的に満たすものだ」と評価。トランプ政権が推進する「アメリカ・ファースト」政策が、国際的な通商協定においてさらなる成功を納めたと強調している。米国は1980年代の後半、国内の濃縮ウラン所要量の約12%を輸入しており(※注1)、輸入分の約10%がソ連製の濃縮ウランだったと見られている。分量としてさほど大きいものではなかったが、国内のウラン採掘業者は1991年11月、「ソ連が濃縮ウラン輸出でダンピングを行っている」と商務省に提訴。商務省はその直後に崩壊した旧ソ連邦のカザフスタンやウクライナ、ロシア等に対し、ダンピング停止協定に署名させている。同省はまた、1992年にこれ以上の反ダンピング課税調査の実施を中断する一方、これらの国からのウラン輸出量を制限することを決めていた。今回更新された「反ダンピング課税調査の停止協定」では、修正案がパブリック・コメントに付された9月11日時点の内容が踏襲されており、以下の項目が含まれている。・現行協定を少なくとも2040年まで延長して、ロシア産ウランの輸入量を定期的にチェック。それにより、潜在的可能性として米国の原子燃料サイクルのフロントエンドが損なわれることを防ぐ。・現行協定では、ロシア産ウランの輸入量を米国の総需要量の約20%までとしていたが、今後20年間でこの数値を平均約17%まで削減、2028年以降は15%以下にする。・既存の商業用ウラン濃縮産業の保護策を強化し、同産業が公平な条件の下で競争できるようにする。・国内のウラン採掘業者や転換業者の保護でかつてない規模の対策を講じる。現行協定でロシアは、濃縮役務のみならず天然ウランと転換役務の販売で輸出割り当て枠一杯の利用が許されていたが、修正版ではこの割り当て枠の一部のみ利用が可能。ロシアが輸出できるのは平均で米国の濃縮需要量の約7%相当、2026年以降は5%以下となる。・商務省が今回の協定延長交渉を実施していた時期、あるいはそれ以前に米国の顧客が締結済みだったロシア産ウランの購入契約については、それを全面的に履行することが許される。(参照資料:米商務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)(注1)出典:広島大学平和センター・友次晋介氏「ロシア解体核兵器の平和利用―メガトンからメガワット計画再訪」
- 08 Oct 2020
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ロシアで建設中のレニングラードII-2号機、最小制御可能出力レベルに到達
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は9月1日、サンクトペテルブルク西方のレニングラード原子力発電所で建設しているⅡ期工事2号機(119.9万kWのPWR)が、起動プロセスの最終段階となる最小制御可能出力(MCP)レベルに初めて到達したと発表した。MCPレベルとは、原子炉が臨界条件を達成する段階において、核分裂連鎖反応を安定した状態で維持するのに必要な1%未満の出力のこと。同炉の起動プロセスは最初の燃料を装荷した今年7月19日から段階的に進められており、MCPレベルではシステムの安全性など様々な要件が遵守できているか、50項目以上の試験を通じて炉心の物理的パラメーターを確認する。その後は連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)から起動許可を取得して、同炉で出力を徐々に上げていく試運転と包括的な試験を実施、すべての運転パラメーターについて最終確認を行う計画である。2021年に営業運転が開始されれば、同炉はロシア国内で稼働する大型商業炉としては34基目になる。レニングラード原子力発電所では、チェルノブイリ原子力発電所と同型の軽水冷却黒鉛減速炉(RBMK)設計を採用した2~4号機(各100万kW)がⅠ期工事分として稼働中で、2018年末に同じ設計の1号機が永久閉鎖されている。これらは、Ⅱ期工事で建設された1号機(2018年10月から営業運転中)と今回MCPレベルに達した2号機、および計画中の3、4号機で代替していくことになっており、いずれも第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」が採用されている。「AES-2006」の初号機としてはすでに、ノボボロネジ原子力発電所のⅡ期工事1号機が2016年8月に営業運転入りしたほか、同型の2号機も2018年3月から営業運転中。また、近隣のリトアニアとポーランドに挟まれた飛び地のカリーニングラードでも、同設計を採用したバルチック原子力発電所1号機の建設が2012年2月に始まった。しかし、これに続いて同年6月に着工した同型設計の2号機は、近隣諸国への売電が見込めなくなったことから建設工事が停止されている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Sep 2020
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ハンガリー:パクシュII期工事で建設許可申請
ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)は6月30日、国営MVMグループのパクシュII開発会社からパクシュ原子力発電所II期工事の建設許可申請書を受領したと発表した。この増設計画では、国内唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の隣接区域に第3世代+(プラス)の先進的な120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を2基建設することになっており、HAEAは翌7月1日から審査手続を開始。12か月後には最終的な判断を下すが、必要であればさらに3か月を審査に費やすとしている。一方、パクシュII開発会社では「建設前サイト準備許可」を取得できれば2021年初頭にも地盤の工事を開始できると予想。最短で同年9月に主要建屋の建設許可を取得し、本格的な建設工事を始められるとしている。パクシュ発電所I期にあたる4基はいずれも出力50万kWのVVER-440で、これらでハンガリーの総発電電力量の約半分を賄っている。また、これらの原子炉ではすでにVVERの公式運転期間である30年が満了したため、追加で20年間運転期間を延長する手続が完了した。II期工事で建設される5、6号機は最終的にI期の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月にこの増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意したほか、同年12月には双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点、およびEU域内の競争法における国家補助規則との適合性について調査を開始。2017年3月までにそれぞれについて承認裁定が下されたものの、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年遅延している。HAEAは2014年に同計画についてサイト調査とその評価作業を実施する許可を発給したほか、2017年にはサイト許可を発給した。2つの事務棟や作業員100名分の食堂とキッチン、作業用建屋、資機材の貯蔵建屋など建設工事に必要な建屋の建設許可も発給済みで、パクシュII開発会社は昨年6月に建設工事の準備作業として、80以上のこれら付属施設の建設工事を開始している。今回、パクシュII開発会社が提出した建設許可申請書は28万3千ページに及んでおり、HAEAは審査を効率的に行うために専用の作業プログラムを開始した。複数の法規が関係することから、HAEAのスタッフ180名のうち半数以上がこの審査に関与することになる。HAEAはまた、外部専門家の意見を取り入れるため、年末に国際原子力機関(IAEA)の技術安全レビュー(TSR)調査団を招聘する計画。申請書の中心部分である予備安全解析書を独立の立場の国際的な専門家に評価してもらうことが目的であり、調査団はIAEAの安全基準に対するパクシュ5、6号機の適合性について報告書を作成。HAEAはこの報告書に基づいて最終判断を下すことになる。なお、建設許可申請書の提出後3か月が経過すれば、パクシュII開発会社は関連するその他の許可も申請することができる。今年行われた原子力安全条例の修正にともなうもので、建設サイトの土壌改良やベースマット部分の掘削といった特定のサイト準備活動、および原子炉圧力容器のような長納期品の製造に関する許可申請などがこれに相当するとしている。(参照資料:HAEA、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Jul 2020
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ロシアが「ブレークスルー計画」で燃料製造ユニットへの機器設置開始
ロシア国営原子力総合企業ロスアトム社傘下の燃料製造部門であるTVEL社は6月15日、シベリア化学コンビナート(SCC)で建設している窒化物燃料製造ユニット(FRU)で、主要機器の設置を開始すると発表した。作業の完了までには、1年半かかるとの見通しを明らかにしている。FRUは、同じエリアで建設準備中の鉛冷却高速炉(LFR)パイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)専用の燃料製造施設となる。これらに同炉の使用済燃料再処理プラントを加えた3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)計画」の主要施設であり、同社はこのプロジェクトにより、固有の安全性を有する高速炉で天然ウランや使用済燃料を有効利用するという「クローズド原子燃料サイクルの確立」を目指している。またPDECを通じて、開発実績の豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えて、LFRの研究開発も並行的に進める考えである。SCCはシベリア西部のトムスク州セベルスクに位置するTVEL社の子会社で、FRUへの機器設置は燃料棒生産ラインの除染セクションから開始する。FRU全体で40品目以上の機器を据え付ける計画で、総重量は約110トンに達するとした。SCCでPRORYV計画を担当するA.グセフ副総裁は、「設計から設置に至るまで世界的にも特殊な機器を使用するため、この種の施設で典型的な手法を使うことはできない」と説明。主要な技術装置の設置については4Dモデリングを使ったデジタル方式で予め準備されており、これによって作業手順の合理化を図るとともに機器に不具合が発生するのを抑えられるとしている。なお、TVEL社は2019年12月、「BREST-300」の原子炉建屋とタービン建屋、および関連のインフラ施設を2026年末までに建設するため、発電施設のエンジニアリング企業TITAN-2社と263億ルーブル(約407億円)の総合建設契約を締結した。また、今年1月にはSCCの化学・冶金プラントで、LFR用のウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の試験燃料集合体が完成。原子炉試験を実施するため、複数の高速炉が稼働するベロヤルスク原子力発電所に移送すると発表している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Jun 2020
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ロシアの海上浮揚式原子力発電所が営業運転開始
ロシア国営民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社は5月22日、世界で唯一の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)として、ロシア極東地域チュクチ自治管区内のペベクで試運転中の「アカデミック・ロモノソフ号」が営業運転を開始したと発表した。同社のA.ペトロフ担当理事が、FNPP建設プロジェクトは無事に完了したとして関係する法令に署名、同FNPPは同日付で世界最北端に位置する同国原子力発電所の一つに正式承認された。アカデミック・ロモノソフ号は、電気出力3.5万kWの軽水炉式小型炉「KLT-40S」を2基搭載するバージ型原子力発電所(タグボートで曳航・係留)で、合計出力は7万kWである。全長140m、幅30m、総重量2万1,500トンで耐用年数は40年間。燃料資源が乏しくその輸送も難しい場所での利用に適しているほか、大型河川の川床にも係留可能なため、ロシア極東地域のみならずアジア太平洋地域の島嶼部などで利用することができる。同FNPPの建造は2007年4月にモスクワ北部のセベロドビンスクにあるセブマッシュ・プリドプリヤチェ造船所で始まったものの、2008年からはサンクトペテルブルクのバルチック造船所(BZ)に移管された。当初はカムチャツカ半島のビルチンスクで送電インフラに接続される予定だったが、ロスエネルゴアトム社の親会社であるロスアトム社は2015年にチュクチ自治管区政府と協定を結び、最初のFNPPであるアカデミック・ロモノソフ号は同地区のペベクに係留されることになった。アカデミック・ロモノソフ号は2018年4月、燃料を装荷しない状態でサンクトペテルブルクを出港し、同年10月に経由地である北極圏のムルマンスクで燃料を装荷。2019年8月には曳船に伴われてペベクに向けて出航し、9月に同地へ到着。その後12月より、ロシア本土の送電網から隔絶されたチャウン・ビリビノ系統に送電を開始していた。今回の全面的商業利用の開始に先立ち、規制当局はアカデミック・ロモノソフ号で点検を実施した。その結果に基づき、連邦・環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は「プロジェクトのあらゆる要件を順守した上でFNPPが建造された」として基準適合証を発行。これに加えて、環境管理分野の活動を監督・管理する連邦・天然資源監督庁(ROSPRIRODNADZOR)も同プロジェクトを承認。これらの承認により同FNPPは、衛生面や環境面、疫学面、防火安全面等について、すべての要件と連邦基準を満たしていることが保証された。アカデミック・ロモノソフ号は送電開始以降、すでに4,730万kWhを発電してチャウン・ビリビノ系統における電力需要の20%をカバー。同系統にこれまで電力供給してきたビリビノ原子力発電所(出力1.2万kWのEGP-6×3基)が順次閉鎖されていくのにともない、同FNPPがチュクチ自治管区の主力エネルギー源になるとしている。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 May 2020
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ロシアの専門家審査会、海上浮揚式原子力発電所用防護インフラの建設を承認
ロシア建設省傘下の設計評価機関である国家専門家審査会(Glavgosexpertiza)は4月15日、極東地域北東部のチュクチ自治管区内ペベクで、昨年12月に送電を開始した世界初の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)「アカデミック・ロモノソフ号」の水利・港湾・物理的防護の各機能を含むインフラ全体の審査結果を承認すると発表した。施設の設計書や建設プランの工事測量結果を審査した上で、FNPPを防護する特別な機器等の保管・活用設備などをペベク海峡沿岸に建設する計画に肯定的結論を出したもの。これらの施設では具体的に、モーターボートやオフロード用の車両、小型そりといった機器を収納するほか、モーターボートを係留する固定式船渠(ドック)や雪上そり用スロープ、照明塔、配管の架台、外部の熱電供給網や通信網との接続設備等が建設される。Glavgosexpertizaの専門家はまた、これらの建設コスト見積もり額の信頼性をチェックしており、FNPPから沿岸区域の供給網に電力や熱エネルギーを確実に送る技術についても確証を得たとしている。「アカデミック・ロモノソフ号」は出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基搭載しており、ロシア領の約半分を占める北部の遠隔地域や、それに類する地域への熱電供給に最も適した設備と考えられている。Glavgosexpertizaは、FNPPを建設したことはチュクチ自治管区全体のみならずペベク市にとっても非常に重要であると指摘。この区域で順次閉鎖されていくビリビノ発電所(1.2万kWのEGP-6×3基)の商業炉やチャウンスカヤ熱電併給発電所に代わってFNPPはエネルギーを供給するだけでなく、金銀や銅、非鉄金属といった資源を豊富に有するチャウン-ビリビノ産業ハブにとっても重要なエネルギー供給基盤になるとした。また、同区域で化石燃料の輸入依存度を軽減して電熱料金の増大を抑えるとともに、同区域における人口問題や環境状況など社会的条件を改善する一助にもなると説明している。(参照資料:国家専門家審査会の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Apr 2020
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ロシア、バングラデシュの建設サイトのロシア人にチャーター機手配
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月7日、バングラデシュ初の原子力発電所サイトで建設工事に従事する4,000名以上の作業員のうち、新型コロナウイルスの感染拡大にともないロシアへの一時帰国を希望する178名にチャーター機を手配したと発表した。同国では、首都ダッカの北西160kmの地点でルプール原子力発電所1、2号機(各120万kW)がそれぞれ2017年11月と2018年7月に本格着工。これらでは国際的な安全要件をすべて満たした第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)設計「ASE-2006」を採用しており、同国の原子力導入初号機となる1号機は2023年、2号機は2024年の営業運転開始を予定している。今回、下請け企業社員を含む一部の作業員が一時的に帰国するものの、建設プロジェクトをスケジュール通り遂行する上で支障はないとロスアトム社は強調している。同工事はロスアトム社傘下のASEエンジニアリング社が請け負っており、同社の本拠地ニジニ・ノブゴロドには6日夜、ロシア連邦政府の許可を受けた最初のチャーター機がダッカから帰国希望者を乗せて到着した。これらの帰国者すべてにコロナウイルス検査が義務付けられ、その後は2週間にわたって地元の医療管理付き診療所で隔離されることになる。発表によると、建設サイトではコロナウイルス感染の蔓延を防ぐために様々な対策が講じられている。サイトの正面玄関や事務所ビルの入口、食堂など複数の場所で作業員の体温を遠隔検温する体制を導入したほか、すべての事務所スペースを消毒、雇用者全員に対してマスクを支給した。ロスアトム社としては、ウイルス感染の世界的拡大がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限にとどめるとともに、契約書に明記された完成日程を順守するため、あらゆる手段を講じるとしている。同社のA.リハチョフ総裁による4月1日付の声明文では、ロスアトム社関係の感染者はこれまでに4例報告されており、1名は同社がハンガリーで進めているVVER建設計画の関係者(ハンガリー人)。残り3名はロスアトム社傘下の民生用原子力発電公社の職員だが、同社が関わるすべての都市では追加的な医療措置や組織的対策が取られている。同総裁はまた、国外の原子力発電所建設計画に携わるロシア人で、一時帰国を希望する者には数日以内にその機会が与えられるとも述べていた。なお、在バングラデシュの日本大使館によると、同国政府は感染の拡大防止目的で国際線フライトの乗り入れ停止措置を4月14日まで延長したが、対象国・地域のなかにロシアは含まれていない。また、日本貿易振興機構(JETRO)の現地通信は、バングラデシュにおける6日時点の感染者数は合計123名で、このうち12名が死亡したことを伝えている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①(英語)、②(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 08 Apr 2020
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ロシアで送電開始後40年経過した高速原型炉の運転期間を5年延長
ロシアの民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社は4月1日、同国中央部スベルドロフスク州のベロヤルスク原子力発電所で、3号機として1980年から稼働しているナトリウム冷却高速原型炉「BN-600」(FBR、60万kW)の運転期間が2025年まで5年間延長されたと発表した。同発電所で実施した研究の結果から、BN-600は技術的に2030年まで運転継続可能であることが実証されたと所長のI.シドロフ氏は明言している。ロスエネルゴアトム社と同じく、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社傘下の設計会社アトムプロエクト社が現在、同炉の運転をさらに延長するための投資プロジェクトを策定中であり、2024年にこの作業を完了する予定。ロスエネルゴアトム社はこれを受けた後、同炉の運転を2025年以降2040年までの期間、運転継続するための申請書を連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)に提出する方針である。ロシアは国内のエネルギー需要を満たしつつ、天然ウランと使用済燃料の有効活用が可能な核燃料サイクルを確立するため、高速中性子炉の実用化を進めている。「BN-600」に加えて電気出力1.2万kWの高速実験炉「BOR-60」が1969年12月からディミトロフグラードで稼働しているほか、80万kW級の高速実証炉「BN-800」もベロヤルスク4号機として2016年10月から営業運転中。120万kW級の商業用高速炉「BN-1200」(ベロヤルスク5号機)についても建設準備が進行中である。また、これらのナトリウム冷却高速炉開発と並行して、鉛冷却高速炉の研究開発も進めるという「ブレークスルー(PRORYV)」プロジェクトでは、出力30万kWの鉛冷却高速実証炉「BREST-300」をトムスク州セベルスクのシベリア化学コンビナート(SCC)で建設することになっている。「BN-600」の運転開始当初に許された運転期間は30年間で、ロスエネルゴアトム社は30年目に当たる2010年に運転期間を2025年まで15年間延長することを計画。2009年に、安全性関係すべてをカバーする大規模な設備の最新化プログラムを開始した。空気熱交換器を使った緊急冷却システムやバックアップ用の制御盤を設置するなど、機器類の点検とアップグレードで膨大な作業を実施。2010年には最新の安全基準に完全に適合していることが確認されており、同社はこれに基づき運転期間の15年延長が可能と考えていた。しかしROSTECHNADZORは、交換できない機器の能力実証を追加で要求した後、2020年まで10年間だけ運転の延長を認める許可を発給。ロスエネルゴアトム社によると、その後これらの関係作業はすべて完了しており、同国のエンジニアリング企業で元実験機械製造設計局のOKBMアフリカントフ社や構造材中央研究所「プロメティ」は、同炉で運転をさらに継続することは技術的に可能との結論を明示。これに基づき、ROSTECHNADZORが2025年までの延長を承認している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Apr 2020
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ロシア、国内外で運転・建設中の原子力発電所におけるコロナウイルス対策でさらなる警戒強化
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は3月26日、新型コロナウイルスによる感染への対応についてA.リハチョフ総裁の声明文を発表し、原子力発電所における安全確保と同社傘下の全組織の従業員およびロシア一般国民の生命と健康の防護で最優先の対策を取っていると表明した。安全性の確保はロスアトム社にとって重要な価値基準であり、従業員の健康に影響するコロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)など、様々な筋書きに応じて如何なる緊急事態についても常に対応策を敷いている点を強調している。同総裁によると、ロスアトム社は現在、国内すべての原子力発電所で従業員の定期健診など複数の追加的措置を導入した。出来るだけ多くの従業員が互いに距離を置いて作業できるよう手配したほか、個人用のウイルス防護製品や保護具を大量に調達。関係する生産設備や車両を繰り返し消毒しており、すべての出張/旅行を原則キャンセルとした。また、従業員の健康状態については、施設が立地する地元当局との緊密な連携によりモニターしている。同総裁はまた、多くの国でコロナウイルスによる感染が拡大しているものの、輸出原子炉を建設中の国のすべてで同様の措置を取っていると説明。作業員を防護するため建設サイトでは最も厳しい対策が敷かれており、ロスアトム社はその国の政府や疾病管理サービス当局の勧告に従っている。また、地元の当局が隔離対策や従業員の退避策を導入した場合に備えて、感染拡大防止策を強化する準備も全面的に進めている。さらに、この健康上の危機がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限に抑えるとともに、契約書に規定されたスケジュールを完璧に順守できるよう、あらゆる事前の注意対策を取っていると述べた。ロスアトム社は現在、ロシア国内で3基の大型商業炉を建設中であるほか、2基の小型炉を搭載した海上浮揚式原子力発電所が昨年12月から試運転中。海外ではバングラデシュやベラルーシ、トルコ、フィンランド、ハンガリー、インド等で請け負った合計36基の原子炉建設プロジェクトが様々な段階に達している。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Mar 2020
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ロシアで稼働中の高速実証炉「BN-800」に初回取替用MOX燃料を装荷
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は1月28日、ベロヤルスク原子力発電所で2016年10月から営業運転中の高速実証炉「BN-800」である4号機(FBR、88.5万kW)に、初回分の取替用ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料集合体装荷したと発表した。同炉は燃料交換を含む定期検査を終え、すでに運転を再開している。運転開始当時、同炉の初期炉心はウラン燃料とMOX燃料の両方が含まれる炉心であり、今回の取替により炉内のMOX燃料集合体は合計18体となった。民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社とロスアトム社の燃料製造子会社であるTVEL社は、今年中にさらに180体のMOX燃料集合体を同炉に装荷し、2021年末までには残りすべてのウラン燃料をMOX燃料に交換。ロシアの歴史上初めて、フルMOX炉心で運転を行うとしている。高速炉用のMOX燃料を産業規模で生産することは、2020年までを展望した「ロシア連邦目標プログラム」の目標の1つに指定されていた。ここでは高速炉とクローズド核燃料サイクルの技術開発が最優先に行われており、ロスアトム社は「熱中性子炉と高速炉をセットで稼働」という2つの要素を持つシステムに原子力発電を移行させる戦略である。同社はこれらによって(1)原子力発電所の燃料物質の量を飛躍的に増加できる、(2)使用済燃料をただ貯蔵しておくのではなく、リサイクルが可能になる、(3)施設内に蓄積されている劣化ウランとプルトニウムを有効利用できる――など、様々な重要タスクが解決されるとの認識を示している。ベロヤルスク4号機の初期炉心は、モスクワ州エレクトロスタリにあるTVEL社のエレマシュ工場で製造されたウラン燃料集合体と、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)で製造されたMOX燃料集合体で構成されていた。今回のMOX燃料集合体は商業炉の使用済燃料から生成されたプルトニウム酸化物と、ウラン濃縮後の劣化六フッ化ウランから生成された劣化ウラン酸化物を材料に、クラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクにある鉱業化学コンビナート(MCC)で製造されたもの。MCCでは2013年8月にBN-800用のMOX燃料製造施設(定格製造能力:60トン/年)が本格着工、2014年12月から製造能力6トン/年の規模で運転が始まり、取替用MOX燃料一式については2018年後半から製造開始したとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Feb 2020
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ロシア:「ブレークスルー計画」で高速炉用ウラン・プルトニウム混合窒化物燃料の試験体 完成
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の傘下企業で燃料製造を専門とするTVEL社は1月20日、子会社であるシベリア化学コンビナート(SCC)の化学・冶金プラントで、鉛冷却高速炉(LFR)用ウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の新しい試験燃料集合体が完成し、受け入れ試験が完了したと発表した。試験燃料を使って製造した燃料棒4本が、それぞれ試験燃料集合体に組み込まれたもので、今後は原子炉試験を実施するため、今年の第1四半期中に複数の高速炉が稼働するベロヤルスク原子力発電所に移送するとしている。発表によると、これらの試験燃料(ETVS-22、ETVS-23、ETVS-24)は実際の操業時に近い条件下で製造されている。核燃料サイクルの確立に向け、実績豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えてLFRの研究開発も並行して実施するという「ブレークスルー(PRORYV)プロジェクト」の一環として開発されたもので、2011年に始まった同プロジェクトでは、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」として電気出力30万kWのLFRパイロット実証炉「BREST-300」をSCC内で建設するほか、同炉用のMNUP燃料製造加工モジュールと専用の使用済燃料再処理モジュールも併設予定。今回完成した燃料の技術は、燃料製造加工モジュールで活用されることになる。ロスアトム社はまた、PDEC建設の第2段階として「BREST-300」を2026年末までに完成させるため、昨年12月に総額263億ルーブル(約465億円)の総合建設契約をTITAN-2社と締結している。「BREST-300」用試験燃料集合体の原子炉試験は、すでに出力60万kWのベロヤルスク3号機(BN-600)で始まっており、今回完成した燃料の原子炉試験はこれに続いて行われる。燃料の受け入れに関する専門委員会では、TVEL社の代表のほかにロシア無機材料研究所(VNIINM)、エネルギー技術研究所(NIKIET)、実機機械製造設計局(OKBM Africantov)などの専門家が出席。これらの委員は最新のMNUP試験燃料集合体について、定性的・定量的な特性や溶接部の品質、設計文書との適合性、燃料集合体としての構造や表面部分に放射能汚染がないか、等をチェックし、これらが技術文書と設計文書の要件を完全に遵守していることを確認した。 (参照資料:TVEL社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月22日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Jan 2020
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