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トルコのエネルギー相、シノップ原子力発電所建設計画で他のサプライヤーを検討中
トルコのF. ドンメズ・エネルギー・天然資源相は1月20日、三菱重工業と仏アレバ社(現フラマトム社)の合弁企業ATMEA社が110万kWのPWR×4基を供給予定だった黒海沿岸のシノップ原子力発電所建設計画について、別のサプライヤーに建設を依頼する可能性があることを同省のウェブサイトで明らかにした。同計画については、主要パートナーの三菱重工が実行可能性調査を実施してトルコ側に提出したが、建設予算と完成スケジュールの調査結果は同省の期待に添うものではなかった。このため同省は現在、建設パートナーの再評価を行っているところで、パートナーを変えて計画を進める事を検討中だとしている。4基分で総額200億ドルのシノップ計画では初号機を2017年に着工し、2023年に運転開始することが予定されていた。しかし、安全対策費の高騰などから総事業費が当初予定の2倍以上になるとの見方が広がり、発電電力の買取でトルコ電力取引・契約会社(TETAS)が支払う価格ではコストの回収が難しくなった模様。これにともないメディアでは、建設計画の受注が内定していた三菱重工業らの国際企業連合から伊藤忠商事が撤退したことや、三菱重工自身も建設を断念したことなどが1年以上前の段階で報じられていた。一方、ロシアが受注したトルコ初のアックユ原子力発電所(120万kW級のロシア型PWR×4基)に関しては、2018年4月に1号機が本格着工して以降、建設計画は順調に進展。ロシアの建設事業者は昨年12月、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約を国営送電会社(TEIAS)と締結した。同炉は2023年に運転開始予定だが、その約1年後に運転開始する2号機についても、トルコの規制当局が昨年8月に建設許可を発給している。ドンメズ・エネルギー・天然資源相によると、2号機の建設工事はまもなく開始されることになっており、続く3号機についてもプロジェクト企業が昨年、建設許可を申請。トルコの規制当局が現在、同炉の部分的建設許可の発給作業を進めているとした。この許可の下では、原子炉系統の安全性に関わる部分を除き、すべての建設工事が可能になる。(参照資料:トルコのエネルギー・天然資源省(トルコ語)、半国営アナトリア通信(英語版)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 21 Jan 2020
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ロシアが開発した世界初の海上浮揚式原子力発電所、極東ペベクで送電開始
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は12月19日、世界初の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)「アカデミック・ロモノソフ号」(=写真)が極東地域北東部のチュクチ自治区管内、ペベクの隔絶された送電網に送電を開始したと発表した。同社のA.リハチョフ総裁は「これにより、このFNPPは世界で初めて小型モジュール炉(SMR)技術に基づく原子力発電所になった」とコメント。ロシアのみならず、世界の原子力産業界にとって記念すべき節目になったと評価、極東地域でペベクという新たなエネルギーの中心地を生み出す大きな一歩を踏み出したとしている。FNPPは2018年4月、建設場所であるサンクトペテルブルクのバルチック造船所から、燃料を装荷しない状態で出港。同年10月に経由地である北極圏のムルマンスクで燃料の初装荷を完了し、運転開始前の包括的な試験を実施した。今年3月、FNPPに搭載されている出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」2基で出力100%を達成し、同ユニットの主要機器と補助機器、および自動プロセス制御システムで安定した運転性能を確認。8月下旬には、砕氷船1隻と曳船2隻にともなわれて、最終立地点のペベクに向けてムルマンスクを出発しており、9月初旬に到着していた。初併入に先立ち、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)はFNPPに対して、運転許可と送電網への接続許可を発給している。また、これに至るまでにロスアトム社は、FNPPからチュクチ自治区の高圧送電網に電力を送る陸上施設を完成させたほか、熱供給システムの建設で膨大な作業を実施したと説明。このシステムにFNPPを接続する作業は、2020年に完了予定だと述べた。ロスアトム社によると、「アカデミック・ロモノソフ号」は将来、一群のFNPPを陸上設備とともに建設するパイロット・プロジェクトに相当する。出力30万kW以下のSMRであれば、ロシア北部や極東地域における遠隔地、送電網の規模が小さい場所、あるいは送電網自体が来ていない場所であっても、電力供給が可能になるとした。SMRはまた、燃料交換なしで3年~5年間運転を継続できるため、交換コストをかなり削減することができる。遠隔地でよく用いられる再生可能エネルギーの場合、出力の変動を高額で環境汚染度の高いディーゼル発電や燃料電池で補わねばならないが、SMRは電力多消費ユーザーに対しても途絶することなく、確実に電力の供給が可能。このような利点からロスアトム社は、SMRの輸出も視野に入れていることを明らかにした。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月19日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Dec 2019
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韓国の官民原子力使節団、ロシアの海外原子力事業に参加申し入れ
韓国の産業通商資源部(MOTIE)は12月12日、官民合同の原子力貿易使節団が10日から12日までモスクワを訪問し、ロシアが世界中で展開する原子力事業のサプライ・チェーンに韓国原子力産業界が参加を申し入れたことを明らかにした。ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と実施した「ハイレベル協議」、およびロシアと韓国双方の原子力発電企業約60社による「共同原子力発電協力セミナー」などを通じて、両国の原子力産業界がグローバルなサプライ・チェーン協力を強化することで、双方の産業競争力を高めることを呼びかけたとしている。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は2017年6月、国内の原子力発電所を徐々に削減して2080年頃までに脱原子力を達成すると宣言する一方、原子力輸出については産業界を積極的に支援する方針を表明。国内で原子力の有望分野が廃止措置や放射線関係に限られていくなか、産業界と人材を維持する観点から政府は原子力輸出等への産業構造転換を促している。原子力貿易使節団の派遣は、9月の「原子力発電輸出戦略協議会」でMOTIEが発表した「原子力発電の全段階における輸出促進案」のフォローアップ措置となるもの。すでに11月下旬にチェコ、今月初旬にはポーランドに派遣済みであり、今回のロシアへの派遣は3回目になると説明した。発表によると、ロシアへの官民合同使節団はMOTIEの原子力発電産業政策官に加えて、韓国の原子力発電輸出産業協会(KNA)、韓国水力・原子力会社(KHNP)、斗山重工業、現代エレクトリック社、および原子力発電所資機材関連の中小企業19社の代表者で構成された。「原子力発電の全段階における輸出促進案」は、主要政策として(1)全ての段階で顧客の特別仕様の輸出戦略を取る、(2)「チーム韓国」方式で全方位の海外マーケティングを展開する、(3)輸出の支援環境で技術革新を図る――を打ち出しており、これに基づき11日にロスアトム社との「ハイレベル協議」を開催した。同協議では、MOTIEのシン・ヒドン原子力発電産業政策官とロスアトム社側からK.コマロフ副総裁が出席し、双方の原子力輸出政策を共有したほか、ロシアの各種海外事業における協力案、協力体系の構築案などを議論。シン原子力発電産業政策官は、「業界間で実質的な協力を議論するため、官民すべてが参加する定例的な協力の機会の設定が重要だ」と述べ、双方がそのための実務協議を進めていくとした。また、双方の原子力産業界の約60社から合計150名以上が参加した「韓ロ共同原子力発電協力セミナー」と、「韓ロ原子力発電協力の夜」では、大規模な海外原子力事業を展開中のロシアに対し、韓国側は欧州と米国の両方で設計認証を取得した韓国製原子炉「APR1400」の安全性をアピール。高い技術力を持った韓国の原子力産業界は、ロシアの最適なパートナーであると強調した。ロシアの機器調達システムや参加企業、製品、技術なども紹介され、双方のサプライ・チェーンの連携に向けた情報交換と質疑応答を実施。これにともない、参加企業間で100件以上の事業協力相談が行われたという。さらに、両国の企業同士、および韓国の原子力発電輸出産業協会とロシアの商工会議所の間で協力覚書を2件締結。MOTIEはこのような事業協力セミナーや使節団の派遣を2020年から定例化し、長期的観点の下で協力の基盤を構築しつつ、定例的な官民合同協議のチャンネルを早期定着させるために努力していくとしている。(参照資料:MOTIE(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 17 Dec 2019
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イランのブシェール発電所でロシア企業が2号機を本格着工
国連安保理の5か国とドイツ、および欧州連合が2015年にイランと結んだ「核合意」から米国が離脱し、イランもウラン濃縮量を拡大するなど、同合意が崩壊の危機に瀕するなか、ロシアの国営通信社を母体とするRIAノーボスチ通信社は11月10日、商業規模の原子力発電所としては中東唯一というイランのブシェール発電所で、2号機(PWR、105.7万kW)の原子炉系統部分に最初のコンクリート打設が行われたと報道した。イラン駐在のロシア大使館から得られた情報だとしており、イラン原子力庁(AEOI)のA.サレヒ長官と、建設工事を受注したロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のA.ロクシン第1副総裁は、双方が署名した記念のコンクリート・キューブ(立方体)を交換。ブシェール発電所がイランの長期計画通り、現在稼働中の1号機に続き、2、3号機が2026年までに運転開始すれば、AEOIは同国の原子力発電設備容量が300万kWを越えると指摘している。イラン南西部に位置するブシェール発電所では、2011年5月にイラン初の商業炉となる1号機(PWR、100万kW)が初めて臨界条件を達成し、同年9月から国内への送電を開始。建設工事を請け負ったロスアトム社傘下のNIAEP-ASE社は、2016年4月に同炉をイラン側に正式に引き渡した。2014年11月にロスアトム社は、同発電所Ⅱ期工事となる2、3号機の増設契約をイランの「原子力発電開発会社(NPPD)」と締結した。これと同時に、両国間の既存の協力協定を補完するための議定書にロスアトム社とAEOIは調印。ここでは、同発電所でロシア型PWR(VVER)をさらに2基、その他のサイトでも4基をターンキー契約で建設することが明記された。これら8基の原子燃料はロシアが供給するとともに、使用済燃料も再処理・貯蔵のためにロシアが引き取る約束。両国の協力は平和利用分野に限定され、国際社会が危惧する核兵器開発への転用疑惑は払拭されるとしている。ロスアトム社は、ブシェール発電所Ⅱ期工事の起工式を2016年9月に執り行っており、2、3号機は1号機と同様100万kW級のVVERになると説明。最新の安全性能を有する第3世代+(プラス)の「AES-92」設計を採用するため、動的と静的両方の安全システムや二重の格納容器が装備されるほか、欧州電力会社要求事項(EUR)の技術要件にも適合するとした。2号機用の地盤掘削作業などはすでに2017年に始まっており、これまでに300万立方m以上の土砂が掘削され、ベースマットには3,000トンの鉄筋コンクリート、35万トンものセメントを使用。最初のコンクリート打設を実施したことにより、AEOIは建設プロジェクトの約30%が完了したことになると強調している。(参照資料:RIAノーボスチ通信社(ロシア語)、AEOI(アラビア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Nov 2019
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ロシアで第3世代+の120万kW級PWR、ノボボロネジII-2が営業運転開始
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月1日、モスクワの南約500kmに位置するノボボロネジ原子力発電所で、II期工事2号機(PWR、115万kW)が予定より30日前倒しで営業運転を開始したと発表した(=写真)。出力3万kW以上の商業炉としては同国33基目のもので、これにより原子力発電設備容量は3,000万kWを越えた。また、ロシアで開発された第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」としては、2017年2月と2018年10月にそれぞれ営業運転を開始した同発電所II期工事1号機(118万kW)、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事1号機(118.8万kW)に次いで国内3基目となる。ベラルーシやバングラデシュ、トルコなどでは、すでに同設計を採用した原子炉を建設中であるほか、ハンガリーやフィンランドでも計画中。中国で建設する話も提案されている。ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は、ノボボロネジ発電所で完成した2基を参考炉として、海外で同設計をさらに建設していく考えである。ロスアトム社によると、同設計は第2世代の100万kW級VVER「VVER-1000」と比較して、経済面と安全面で数多くの利点がある。出力が20%向上した一方、必要とする運転員は30%~40%削減され、公式の運転期間も「VVER-1000」の30年から60年に倍増。さらに20年間、延長することも可能である。2009年7月に本格着工したノボボロネジII-2号機は、同発電所I期工事のVVER×5基(1号機:21万kW、2号機:36.5万kW、3、4号機:各41.7万kW、5号機:100万kW)から数えて7基目にあたるが、1号機から3号機は1984年から2016年までの間に永久閉鎖されている。II-2号機では今年2月に燃料が装荷され、3月に初めて臨界条件を達成。5月には送電を開始しており、営業運転を開始するまでに25億kWhを発電した。また同炉により、ロシア中央連邦管区の原子力発電シェアは27%に増加。同管区における経済成長を一層促進しつつ、CO2も年平均で400万トン分、排出を抑えられるとしている。(参照資料:ロスエネルゴアトム社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月1日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Nov 2019
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ロシア:事故耐性燃料の原子炉試験で第一段階が完了
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の傘下で、核燃料の濃縮・転換・成型加工を担当するTVEL社は10月31日、同国で初めて軽水炉用に開発した事故耐性燃料(ATF)の原子炉試験で第一段階が完了したと発表した。同社は今年1月、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードにある国立原子炉科学研究所(RIAR)で、ロシア型PWR(VVER)用と外国製PWR用の実験集合体2体を、所内のMIR材料試験炉に装荷。同炉の水流ループで設計外事象発生時のATFの耐性を試験するため、それぞれ2種類の燃料ペレットと被覆管を使って、合計4通りの異なる材料を組み合わせたATF燃料棒を1体に付き24本ずつ組み込んでいた。同社は今後、原子炉試験をさらに拡大していく方針で、2020年はATF燃料棒を含めた(取替用燃料1回分の)実験集合体を商業用の100万kW級VVERに装荷する計画。また、新たな有望材料を燃料ペレットと被覆管に組み合わせて、最適なATFを模索していくとしている。今回の原子炉試験でTVEL社は、被覆管としてジルコニウム合金にクロムをコーティングしたものと、クロムとニッケルによる合金製を使用。燃料ペレットについては、従来型の二酸化ウラン製のものに加え、高い密度と熱伝導率を持つウランとモリブデンの合金を使った。初回の照射サイクルを終えたこれらの実験集合体は、すでにMIR材料試験炉から取り出されており、モスクワにあるロシア無機材料研究所(VNIINM)の専門家が予備的な試験を実施。その結果、燃料棒の形状や被覆管表面に変化や損傷は認められなかった。また、それぞれの燃料集合体から燃料棒を何本か抽出して照射後材料科学研究を行っているほか、未照射の燃料棒をさらにMIR材料試験炉に装荷する試験も実施中だとしている。ロシアのATFコンセプトは、冷却材の喪失など、原子力発電所で過酷な設計基準外事象が発生した際の耐性を高めることが主な目的。炉心からの崩壊熱除去に失敗した場合でも、ATFは蒸気とジルコニウムの反応によって水素が発生するのを抑えつつ、長時間にわたって健全性を維持するよう設計されており、ATFは原子力発電所に全く新しいレベルの安全性と信頼性をもたらすとTVEL社は指摘している。(参照資料:TVEL社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Nov 2019
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ハンガリーのパクシュⅡ期工事で仏独企業連合が自動プロセス制御システム納入へ
ハンガリーでパクシュ原子力発電所5、6号機(Ⅱ期工事)の建設計画を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は10月22日、同社の子会社を通じて、両炉用の自動プロセス制御システム納入契約を仏フラマトム社と独シーメンス社の企業連合と締結した(=写真)。同建設計画では今年6月、サイトにおける準備作業の一環として補助建屋や事務棟、倉庫など80以上の関係施設の建設工事が始まったが、建設許可はまだ発給されておらず、原子炉系統部分で最初のコンクリート打設が行われるのは早くても2021年になると見られている。仏独の企業連合は今回、競争入札の末に自動プロセス制御システムの製造と納入を請け負っており、このほかに、情報セキュリティ関係の要件遵守など、同システムの認証手続きも実施する。フラマトム社は長年にわたり、ロシアの原子力発電所で自動システム関係のプロジェクトに携わってきたため、計測制御(I&C)系関連で同社が蓄積してきた専門的知見を、欧州で建設されるロシア型PWR(VVER)にも活かしたいと述べた。パクシュ発電所はハンガリー唯一の原子力発電施設で、出力50万kWのVVER(VVER-440)4基により、同国の総発電量の約半分を賄っている。1980年代後半に運転開始したこれらの原子炉は、すでにVVERの公式運転期間である30年が満了、プラス20年の運転期間延長手続が完了している。Ⅱ期工事で建設される第3世代+(プラス)の120万kW級VVER×2基は、最終的にⅠ期工事の4基を代替することになる。ハンガリー政府は2014年1月、この増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意した。同年12月には、双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結している。実際の建設工事は、ロスアトム社のエンジニアリング部門「ASEエンジニアリング社」が進めていくが、自動プロセス制御システムの機器管理など、パクシュⅡ期工事の全段階における技術管理と統合作業については、ロスアトム社傘下の「ルスアトム自動制御システムズ(RASU)社」が担当。仏独企業連合と結んだ契約も、RASU社のA.ブッコCEOがロシア側を代表して調印しており、欧州の顧客が課される高い要件を確実にクリアできるよう、同企業連合とともに全力を尽くすと述べた。RASU社は原子力発電所の電気工事分野で、自動制御システムや統合工学ソリューションの開発経験を長年にわたって蓄積。パクシュⅡ期工事では、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事のVVER-1200を参考炉とし、自動プロセス制御システムの製造と納入、起動までのプロジェクトを包括的に実施することになる。(参照資料:ロスアトム社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月23日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Oct 2019
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米国原子力輸出の道路閉鎖
輸出市場に通じる道で米国原子力産業各社は「道路閉鎖」に直面している。商業上の課題や核不拡散問題を解決するよう米国政府が様々な措置をとらなければ、米国原子力産業各社はもはやロシア、中国などの国営企業と今日の世界原子力市場で競争するのは困難となっている。今、サウジアラビアは世界の原子力産業界に対し絶好の機会を提供している。元々サウジアラビアは電力需要の伸びに対応するために16基以上の原子力発電所を建設し、電力システムを石油時代後には、よりクリーンなものに変革し、かつサウジ経済に高度技術を持つ雇用を創出する計画だった。この計画は今は若干縮小され数基の原子力発電所を建設することとなっている。このサウジで初となる数基の原子力発電所を受注できれば、受注者はリヤドが引き続き建設する可能性がある多数の原子力発電所建設についても強い立場を獲得することができる。現在、サウジアラビアへの原子力発電所輸出については5社が競合しており、米国ウエスチングハウス社がロシア、中国、フランス、及び韓国の各国営原子力企業と対抗しながらの競争を繰り広げている。数十年前、米国は原子力技術の世界のリーダーだった。当時は米国内にある多数の原子力発電所での運転経験と、それらによって実証された原子力産業の実力を基盤に、輸出市場でも成功をおさめてきた。今日の米国原子力産業界は、国内原子力産業の能力を維持し、かつ将来の輸出市場でも自らの地位を保つことができるよう、輸出市場で原子力発電所を売り込むことに力を注いでいる。米国原子力産業界は、民間の株主が所有する企業群から成り立っているが、これらの企業群は原子力発電所の輸出市場で主に次の2つの「道路閉鎖」に直面している。米国原子力産業各社は、他国の国営原子力企業が提案する魅力的な商業条件と対等な条件提示をすることが困難である。米国は核不拡散につき制約的な政策をとっているため、さほど厳格な要求を示さない他国と比べ、原子力の輸出が制限を受ける可能性がある。商業条件に関する課題米国原子力メーカーが提案する新規炉の設計そのものは大変に優れたものではあるが、競合する他の国営原子力企業が提案する設計と比べ、その設計だけをもって抜きん出て本質的にベストだ、と言える程のものでもない。米国では原子力産業界やその原子力輸出について市場主導型のアプローチをとっているのに対し、中国、ロシアなどの国営原子力企業はより大きな政府間(G2G)関係の一部として原子力を捉えている。それらの国営原子力企業が輸出するに際しては、政府間借款による原子力発電所建設計画への資金提供に加え、より好条件の価格提示や完成までのリスクを受注側が引受けるなどの提案がなされていると考えられる。これら国営原子力企業は自国内の原子力建設計画を原子力輸出の下支えにしながら輸出を行っている。そうした国々では国内原子力産業界のチャンピオンである国営メーカーと国営電力会社が手を組んで自国内の新規原子力発電所の設計・開発、建設を行っている。また自国内での複数の新規原子力建設を通じて、それらの国営原子力企業は原子力に関する経験を蓄積し、自らの原子炉設計を実物で実証し、さらに国内原子力産業内にそれらを通じて実証したサプライチェーンを構築している。これらの全てが原子力輸出を後押しするものとなっている。そうした国営原子力企業は輸出市場で外貨を稼ぎ、国内原子力産業各社に雇用を創出し、輸出先から長期にわたりプラントサービス業務や燃料供給業務を受注する構造を作りあげ、より高い視野から見た各国の地政学的な目標達成にも貢献している。 最近、中国やロシアの国営原子力企業は大きな力をつけており、企業の実力や市場での提案内容を見ると、今や米国の民間原子力企業は水をあけられ、その差はさらに広がっている。ロシアの垂直統合された原子力企業であるロスアトム社は、ロシア国内に留まらずグローバル市場でもロシアのシェアと影響力を維持・拡大することを目標に据えたロシア・エネルギー政策実行の主要プレーヤーである。バングラデシュ、ベラルーシ、中国、エジプト、フィンランド、ハンガリー、インド、イラン、トルコ、ウズベキスタンなどの各国でこうしたロシアの原子力プロジェクトが現在進められ、あるいは計画されている。ロシア国内では初の浮上式原子力発電所の完工や原子力砕氷船群の増強に向け投資が進められている。また世界の原子燃料市場でもその存在感を増しており、いくつかの革新型原子炉開発も同時に進められている。中国が原子力産業に参入してきたのは比較的最近のことだが、国内エネルギーインフラ部門への国家資金投入や 「一帯一路」構想など国内外での活動を活用しながら、国内の原子力企業群を統合させている。中国は壮大な原子力発電所輸出計画をもっており、パキスタンでは既に建設が行われ、アルゼンチンとも交渉が進行している。また英国でも複数の計画が動いている他、サウジアラビアが原子力ベンダーを絞り込んだリスト(ショートリスト)にも名前を連ねている。中国国内では原子力発電所数を急増させることに投資が振り向けられているが、加えて複数の革新型原子炉開発計画や浮上式原子力発電所の開発、原子力砕氷船の開発も進んでおり、さらには原子力航空母艦の建造にも野心を持っているとされる。このようにロシア、中国の両国とも欧州、ユーラシア、アフリカ、南米の諸国において、原子力による地盤を築こうとしている。2019年2月に行われたトランプ大統領と米国商用原子力産業企業との意見交換ではいくつかの点が強調されている。すなわち、米国国内原子力産業界は米国政府の支援を必要としており、特に米国商用原子力産業界は輸出市場における米国政府の支援が必要であること、そして革新型原子炉技術開発を通じて米国が再び世界で原子力産業のリーダーシップを獲得すべきであることが強調されている。輸出市場で米国が他国の国営原子力企業と競争するには、米国政府が国内原子力発電事業(既設原子力発電所の他、新規原子力建設も含め)と原子力技術のイノベーションを支援し、さらに原子力の輸出も支援するような国家としての原子力戦略を立案し実行に移すことが必須である。米国内の原子力発電所数は依然として世界最大ではあるが、もはや輸出市場において米国企業を支援し得るものとはなっていない。ロシアや中国では国内で原子力発電所建設が継続的に行われている一方、米国国内では新規原子力発電所建設がほとんどないことから、輸出市場では米国原子力産業各社への信頼は消失してしまっている。数少ない新規原子力建設計画の一つであるボーグルでの建設費用や工期に関する問題や、サマーの建設中止などの経緯はどう見ても秀逸とは言い難い。こうした問題に加え、米国では既設発電所が早期閉鎖されていることから米国原子力産業界全体の評価が低下するリスクに陥っている。輸出市場で戦っている米国原子力企業各社には、他国の国営原子力企業が活用しているような政府保証による資金調達などの道は開かれておらず、ロシアや中国と対等な立場で競争することはほぼ不可能となっている。他国の国営原子力企業が提示している条件と比較してみると、米国海外民間投資公社(OPIC)や新たに設置された米国開発投資公社(USDFC)による支援だけでは不十分である。米国やその他の国々で革新型原子炉技術の研究開発が進められているが、そうした革新型原子炉の概念も、実際の原子力発電所建設計画で採用され実証されてこそ、はじめて商用原子力発電所の一選択肢となり得るものである。つまり、その概念が適切なもので、これまでの原子炉設計と比較しても追加価値(例えばより高い安全性、高い経済性、柔軟な運転などの様々な特性についての価値)を生み、その革新型原子炉設計が将来の原子力発電所投資に際しての一つの選択肢となり得る基盤を有するものであることが実証計画によって実際に示されることになる。しかし不幸なことに米国内においては新規原子力を建設できる可能性はもとより不透明である。通常の原子力発電所建設計画でさえリスクやコスト問題がある上に、革新型原子炉の初号機という技術リスクが積み重なるような新規建設の可能性はさらに低いと言える。もしも米国政府が他国の国営原子力企業の例に倣って、米国内でそうした革新型原子力発電所に出資し、1基あるいは、複数基建設を行うことになれば、革新的概念を商業的に実現する方向で大きな支援となり得る。米国内での建設計画実現が、輸出市場での米国の革新型原子炉販売に対する強力な宣伝効果となるであろう。このことは米国の天然ガス輸出と比較してみると良い。米国の天然ガス輸出は国が直接出資しているわけではない。世界の天然ガス市場で米国が(例えば、破砕によるガス抽出技術開発や液化施設への投資などを通じて)成功を収めているのは主に民間企業によるところが大きいが、経済的、地政学的見地から米国政府が天然ガス輸出を積極的に推進していることがその背景にはあることは軽視できない。原子力についても、最低限でもガス業界が得ていると同等の水準で国内事業や輸出促進に関して政府が関与していくことが必要である。米国政府は米国の商用原子力発電業界を支援し維持していくための施策を施すべきである。米国内既設原子力発電所が技術的には今後さらに数十年もの運転が可能であるにもかかわらず、経済的理由から閉鎖されてしまうことを未然に防止し、既存の原子炉設計による新規原子力発電所建設を支援し、かつ米国内の革新型原子炉設計の実証計画を支援する、などの施策を米国政府は取る必要がある。また米国政府は米国原子力企業が原子力の輸出市場で競争するに際して、各社を支援するべきである。米国が原子力発電所を輸出し、関連物資やサービスも提供することになれば、原子力発電所の運転期間である60年間もしくはそれ以上の長期にわたって当該国と政治的に良好な関係を築くことができる。核不拡散問題商業条件に関する課題解決に加え、米国の原子力技術、燃料、及び関連サービスの輸出についての政策も見直す必要がある。このことは輸出に際して、米国の核不拡散に対する考え方を当該国が受け入れることを要求していることと密接に関係している。米国の核不拡散政策のため、米国からの輸出に際して、当該国のウラン濃縮などの活動を禁止するなどの強制力がある核不拡散協定締結を求めるという制約がかけられている。数十年前、米国が原子力発電技術のリーダーであった頃は、核不拡散協定(いわゆる123協定((訳注:1954年原子力法第123条(他国との協力)に基づく協定)))の締結に応じた国だけに原子力発電技術を輸出することで、原子力技術の輸出を活用しながら米国の核不拡散に対する考え方を世界に広めていた。一部の国々(例えばUAE)は核兵器開発計画に転用される可能性があるウラン濃縮や燃料再処理技術獲得を制限する内容の123協定締結を要求された。これは123協定の黄金律と呼ばれてきた。米国はこれによって締結国が核兵器に手を伸ばす可能性を封じる一方、米国各企業は原子力技術、燃料やサービスを締結国に売ることができた。しかしながら、今や米国原子力産業各社はそうした制約を相手国に要求しない国々とグローバルな競争を繰り広げる状況になっており、米国の核不拡散政策は現状とうまく整合しないものとなっているように思われる。米国の原子力技術に関連する濃縮と再処理だけを対象とする標準的な123協定と比べ、サウジアラビアに対しては当該国の濃縮と再処理を一切禁止するという、より強固な123協定締結を要求しようという米国内の強い黄金律へのこだわりは、原子力発電プラント輸出市場での米国成功の足かせとなってしまうかもしれない。これに対してロシアや中国は原子力発電所輸出に際して、既存、将来計画を問わず、こうした制約は課していない。この米国の核不拡散に対する考え方は、新たに原子力を開発する国々が自国内で燃料サイクルを完結させることは認めず、当該国は世界の市場に依存しながら燃料を輸入するべきで、またそうしなければならない、ということを前提にしたものである。理想郷では輸入燃料と世界市場に依存していくことも可能なのかもしれない。だが、それは非常に大規模な原子力発電所への投資についてさらに大きなリスクを追加することになるであろう。(例えば燃料がなければ発電はできず、資産価値は無に帰し、さらに電力系統も崩壊するかもしれない。)しかし、新規に原子力を導入する国々は、原子燃料の供給安定性確保の観点からウラン濃縮をあきらめることには抵抗を示している。新規原子力発電所建設計画を有する国が、燃料供給の安定性を考えて自国の原子力発電所の運転寿命期間を通じて原子燃料を自ら確保しようとするのは正当な懸念からというべきである。そうした国々は単なる調達上の商業的懸念に留まらず、国家としてインフラ構築の懸念、関心も有している。包括的な原子燃料の供給安定性の評価を行うとするならば、自国内に燃料製造能力(すなわちウラン濃縮を含む能力)を確保することも選択肢の一つとして検討を行うこととなる。米国の原子燃料の供給安定性確保は、その大部分が原子力発電所の所有者である電力会社に委ねられており、電力はこの問題は商業的な問題、即ち原子燃料調達の戦略を通じて達成すべき問題であると捉えている。しかし、米国の原子燃料製造能力は衰退傾向にあり、米国においてすら原子燃料の供給安定性確保に関して懸念が示されている。米国では原子燃料のウランの大部分(すなわち約95%)は輸入されており、2018年に行われたウラン輸入に関する232条調査((訳注:米国1962年通商拡大法232条(国家安全保障を理由に貿易相手国に対する制裁を可能にする)に基づく調査))ではこの輸入ウランに依存していることで引き起こされる国家安全保障上の問題に焦点があてられた。最後まで残っていたイリノイ州のハネウェル社のメトロポリスウラン転換工場が2017年に稼働を停止し、米国内には稼働中のウラン転換工場はなくなってしまった。米国内の濃縮ウラン製造能力は、外国企業であるウレンコ社が国外の濃縮技術を使ってニューメキシコ州に作った工場のみである。その中、2019年に米国エネルギー省が計画した「高含有率低濃縮ウラン(HALEU)実証計画」((訳注: High-Assay Low Enriched Uranium (HALEU)、5~20%程度の濃縮度を持つ低濃縮ウラン。革新型原子炉などでの活用が念頭に置かれている。))は米国起源の技術によるウラン濃縮能力を一部再構築することになると考えられる。原子力発電所を建設したいと考えている国々が持っている原子燃料の供給安定性に対する懸念を減じ、さらには払拭することができるならば、それらの諸国が感じている自国内でのウラン濃縮能力確保の必要性について再考を促す上で効果がある。こうした点を念頭に置いて、米国は原子力発電所の輸出と関連付けられた新たな原子燃料の供給安定性確保の仕組みを創り出すべきであり、米国のこれまでの極めて厳格な核不拡散政策に基づく制約については、原子燃料供給安定性に対して合理的な配慮を払うことに力点をおいたものに進化させていく必要がある。結論原子力を保有するということは、エネルギーの多様化、エネルギーの自立、クリーンで信頼度高いベースロード電源の獲得など原子力が持つ様々な便益を享受する特別なクラブに当該国が入会するということである。原子力発電所を建設したいと考えている諸外国は、米国の原子力発電技術を使いたいと考え、また米国とより深い関係を構築したいと思っているとしても、そのためには他の国営原子力企業が提示するより魅力的な商業条件や、ウラン濃縮に対して制約を課さないなどの好条件を拒絶する必要があり判断に窮している。商業条件に関する課題と核不拡散問題に関する問題を解決するための何らかの施策を米国政府がとらなければ、原子力発電輸出を通じて得ることができるであろう長期にわたる外交、国家安全保障上の効果全てを米国の競争相手諸国に譲ることになってしまう。今や列強各国が競争する時代になっており、他方で中国やロシアの国営原子力企業はそうした点を主要な強みとして輸出を行っている。 本コメンタリーはメリサ・S.ハーシュとエドワード・キーが執筆した。本コメンタリーの要約版は大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)のエナジー・ソース欄で公表されている。 PDF版 ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。
- 25 Mar 2019
- STUDY
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トルコの視点
本稿は、東京のMathyos社のトム・オサリバン氏によるゲスト投稿である。2015年4月2日、日本外国特派員協会(FCCJ)の記者会見でアフメット・ビュレント・メリチ駐日トルコ大使が「中東における最近の動向とトルコの視点」という演題で講演を行った。以下は同会見に出席したオサリバン氏による内容の紹介である。トルコの原子力計画トルコの新規原子力発電プロジェクトでは外国企業が発電所を建設・所有・運転(BOO)することとなっている。そうした計画を促進するに際してはトルコ政府が果たす役割が重要なものとなる。トルコの原子力発電計画におけるBOOは、英国において自由化市場の中で新規原子力を開発する際に採用された方式(例えば、ヒンクリー・ポイントC発電所の方式)と類似している。トルコ方式では、原子力発電所が運転開始した以降の一定の期間、その発電電力量の一定割合については電力売買契約で原子力発電所の所有者からの買電を保証した上で、さらに残りの電力量は所有者がトルコ電力市場で売電し追加で収入を得ることができる。トム・オサリバン氏は、トルコの原子力発電の必要性について説明した駐日トルコ大使による先週の東京での講演内容について以下の通り報告している。トム・オサリバン氏の報告昨日、筆者は記者仲間と共に、FCCJで駐日トルコ大使のアフメット・ビュレント・メリチ氏と過ごす機会に恵まれた。世界のエネルギー供給を考える場合、トルコはエネルギー輸送上、最も重要な経由国の1つであり、この機会はとても喜ばしく時宜を得たものであった。メリチ大使は、中東における地政学的最新状況について講演し、幸いにも、トルコのエネルギー事情、ならびに地中海や欧州への石油・ガス供給の経由国としてトルコが果たす重要な役割について長い時間を割いて話された。大使は駐日大使に就任される前、イスラエル、イラン、およびウクライナで勤務されていた。また駐日バーレーン大使も昨日の会見に出席し議論に参加された。トルコの名目GDPは、日本の5分の1であり、1人当たり名目GDPは、1万1,000ドル(日本の約3分の1)である。日本とトルコ間の年間貿易額は、約40億ドルと、それほど多くない。トルコは、NATOのメンバーである。日本は、トルコに対してこれまで累計約40億ドルの融資・無償資金援助を提供している。トルコの資源別エネルギー消費量は、石油は日量約80万バレル((これは、以前の数字から訂正された))(日本の石油消費量の約4分の1)、天然ガスは年間450億m3(日本の天然ガス消費量の約40%)、また、石炭は年間約1億トン(日本の石炭消費量の約50%)である。以下はトルコのエネルギー開発に関して筆者(トム・オサリバン)が要約したものであり、大使の見解を必ずしも反映していないかもしれない。今週は、以下の3つの理由からトルコにとって極めて重要な週だった。まさに前夜、国連安全保障理事会常任理事国5か国とドイツはイランとの間で原子力・制裁協定を締結した。トルコはイランと500 kmにわたり国境を接しており、イランはトルコの主要な石油・ガス供給国の1つである。この協定によって、イランに対するEU、米国および国連の金融・エネルギー制裁が段階的に撤廃される可能性がある。ブレント原油価格は、今朝すでに2ドル/バレル下がった。トルコは今週、過去数十年で最悪の停電を経験し、イランとの隣接県を除くすべての県が影響を受けた。トルコ議会は今週、黒海沿岸に日仏企業連合の原子炉4基を総額約200億ドルで建設することを承認した。一方ロシアは地中海沿岸に4基の原子炉を総額200億ドルで建設する予定である。これにより新規原子炉建設に関してトルコは中国に次ぐ世界2番目の地位を占めることになる。トルコ東部国境はシリア、イラク、イラン、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアと接しており、西部国境はブルガリア、ギリシャと接している。トルコは地政学的に見て、今最も課題が多く難しい地域に位置している。中東(マグレブを除く)の人口は、3億7,100万人で、1990年から2010年にかけ61%増加しており、人口増加率が世界で最も高い地域の1つである。トルコは現在、170万人のシリア難民を受け入れており、これまでの受け入れ費用は53億ドルに達している。推定ではさらに1,100万のシリア人が大規模な人道的支援を必要としている。トルコは、エネルギー資源に乏しく、国内産の石油・ガスの供給量はわずかであり、石炭資源のほとんどは、無煙炭である。トルコへの主要なエネルギー供給国は、ロシアとイランの2か国であるが、両国とも現在、制裁措置を受けている。トルコは、石油とガスの供給国数を増加させ、民生用原子力発電所を建設し、再生可能エネルギー・ポートフォリオを拡大させることで、エネルギー安全保障を確保向上させ多様化させることを政策目標としている。日本と同様、トルコは地震国であり、原子力施設の建設には様々な課題がある。国内消費用の石油とガスの全量は、ロシア、イラン、およびカスピ海沿岸地域からパイプラインを通して輸入されている。トルコのボスポラス海峡経由で、ロシアとカスピ海沿岸地域から欧州向けに1日当たり約350万バレルの石油がタンカー輸送されている。ボスポラス海峡は、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、スエズ運河に次いで世界で4番目に過密な輸送通路である。トルコの地中海港湾都市ジェイハンは引き続き、欧州に輸出される中東の石油とガスの主要な通過地点となっている。クルド人情勢は引き続き、トルコにとって重大な外交上の難題である。EU加盟に関する交渉は続いているが、トルコとEUの双方の関心が薄れてきており、交渉は現在、ウクライナ/クリミア危機によってさらに複雑化している。トルコは引き続き、ロシアによるクリミア侵入に反対している。石油価格の低下はトルコにとって好ましく、これにより中東輸出国は、経済の多角化を促される可能性がある。イラクとシリアの国境は、この地域の歴史的な民族・宗教構成を反映させて今後はもっと柔軟性を持って風通しの良いものにする必要があるかもしれない。お問い合わせ先:Tom O’Sullivan : +1 (202) 370-7713 tomosullivan@mathyos.com PDF版
- 06 Apr 2015
- STUDY