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英国政府、WH社製高速炉など次世代の先進的原子炉技術開発に4000万ポンド投資
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月10日、次世代の原子力技術開発を促進するとともに、英国全土で関係の研究開発と製造で雇用を創出するため、合計4,000万ポンド(約54億1,400万円)を投資すると発表した。その中でも、3つの先進的モジュール式原子炉(AMR)の開発を重点的に加速する方針で、米国籍のウェスチングハウス(WH)社が北西部のランカシャー州で開発中の鉛冷却高速炉、URENCO社の子会社がチェシャー州で実施している小型高温ガス炉開発、トカマク・エナジー社が南部のオックスフォードシャー州でオックスフォード大学と進めている先進的核融合炉開発には、それぞれ約1,000万ポンド(約13億5,000万円)の支援提供を約束。今後数十年にわたって低炭素な電力や熱、水素その他のクリーン・エネルギーを供給していくための技術開発を促進し、2050年までに温室効果ガスの排出量で実質ゼロ化を目指すという英国のクリーン経済復興を後押しする考えである。これらの投資は、BEISが2018年に公表した民生用原子力部門との長期的戦略パートナーシップ「部門別協定」の重要な一部分となる。同協定でBEISは、国内エネルギー・ミックスの多様化と原子力発電コストの削減を図るため、産業界からの投資金も含めて2億ポンド(約271億円)を確保。このうち5,600万ポンド(約75億8,000万円)をAMRの研究開発に宛てるとしていた。今回、BEISが資金提供する3つのAMR設計は従来型原子力発電所よりも非常に小さく、核反応の過程で発生する高温の熱を利用する設計。その小ささにより遠隔地での利用が推奨されるものの、中規模都市用としても十分な量の発電が可能である。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相によると、AMRはCO2排出量と地球温暖化への取組において重要部分を担う可能性が高く、3つのAMR設計への投資決定により開発企業が立地する3州では新たな雇用が直ちに創出されるのみならず、今後数十年にわたって環境防護関係の雇用が数千人規模で生み出されることになる。BEISはまた今回の投資決定を通じて、これらの技術が民間部門の投資家にとって一層魅力的なものになる点を保証。産業界の原子炉技術開発に十分な投資を行えば、将来のモジュール式原子炉開発の拡大に向け、サプライチェーンの構築にもつながるとした。なお、残りの1,000万ポンドのうち、BEISは500万ポンド(約6億7,700万円)を以下の英国企業に投資すると決定した。これらの企業は、国内外のモジュール式原子炉建設プロジェクトに対し、先進的な原子炉部品を製造する新たな手法を開発中。例としては、チェシャー州でURENCO社の子会社であるU-バッテリー社製のAMRを建設現場から離れた場所で製造する方法の概念開発・実証等に110万ポンド(約1億4,900万円)、ヨークシャー州のシェフィールド・フォージマスターズ社に対し、肉厚断面の大規模電子ビーム溶接に800万ポンド(約10億8,300万円)、ダービーシャー州でロールス・ロイス社の潜水艦製造に140万ポンド(約1億9,000万円)、グロスターシャー州のEDFエナジー社に137万ポンド(約1億8,500万円)、などとなっている。また、これらを除いた500万ポンドに関してBEISは、英国の原子力規制体制の強化に向けて投入すると表明。英国が先進的原子力技術の開発と建設を目指すなか、それらを最も頑健かつ安全なものにすることを保証するためだと説明している。BEISによれば、2050年までに英国の原子力産業全体で同国経済に年間96億ポンド(約1兆3,000億円)貢献することが可能であると近年の研究により判明。約13万人分の雇用を支えるとともに、AMR技術を輸出する可能性もかなり創出されるとしている。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 13 Jul 2020
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英NIA、CO2排出量の実質ゼロに向け原子力ロードマップ作成
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Jun 2020
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英国政府の世論調査で「CO2排出量実質ゼロ」の概念をある程度理解は35%
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月7日、四半期ごとに約4,000人の英国民を対象に実施しているエネルギーや地球温暖化に関する最新の世論調査で、CO2排出量「実質ゼロ(net zero)」の概念をある程度理解している層は35%と発表した。英国では昨年6月、国内すべてのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ目標とする法的拘束力のある法案が可決・成立しており、今年3月に実施した今回(33回目)の調査ではその認知度に関する質問項目が新たに加えられた。その結果、インタビュー形式の質問を受けた大半(64%)の英国民がこの概念について「全く聞いたことがない」と回答。一方、認識があるとした35%のうち、3%が「非常によく知っている」、9%が「ある程度知っている」、13%が「少し知っている」、10%は「聞いたことならある」に分類されている。各種のエネルギー源のなかで原子力を支持する人の割合は、42%だった2014年9月の調査以降、継続して減少傾向を示しており、今回は最も低いレベルの32%だった。「原子力を支持しない」人の割合が23%と安定しているのに対し、「原子力には反対も支持もしない」人の割合が2012年9月の調査(34%)以降、徐々に上昇。昨年3月に38%だった数値は今回、回答者の中で最も割合の大きい41%に増加していた。地球温暖化に関する設問では、回答者の76%が懸念を表明したものの、昨年3月にピークだった80%からは若干減少。76%のうち「非常に心配」と答えた人は35%で、「ある程度心配」とした人の割合は41%だった。また、回答者全体の約半数(47%)が「地球温暖化は人的活動に起因する」と回答。そのうち17%が「全面的に人的活動に起因する」としたのに対し、30%は「主に人的活動による」と答えており、最初にこの設問を加えて以降、最も高いレベルで推移中だとしている。(参照資料:BEISの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 May 2020
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EDFエナジー社、コロナウイルスの影響でサイズウェルC原子力発電所の申請書提出を延期
仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Mar 2020
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英ロールス・ロイス社、トルコで同社製SMRを建設する可能性調査で国営電力と覚書
英国のロールス・ロイス社は3月19日、開発中の小型モジュール炉(SMR)をトルコ国内で建設する際の技術面と経済面、および法制面の適用可能性評価を実施するため、関連企業や団体8社と結成した国際企業連合を代表して、トルコ国営発電会社(EUAS)の子会社のEUASインターナショナルCC(EUAS ICC)社と協力する了解覚書を締結した。同覚書ではまた、SMRをトルコ側と共同生産する可能性も探ると明記。トルコは大型原子炉に加えてSMRも建設し、クリーン・エネルギーによる経済成長を支えていく考えだ。ロールス・ロイス社とトルコ政府エネルギー部門との協力は2013年に遡り、その際はエネルギー天然資源省およびイスタンブール工科大学とともにサプライチェーンの調査に着手した。今回の発表はトルコに低炭素なエネルギーシステムを導入する一助となるほか、トルコと英国間の強力な連携関係構築に向けて新たな1ページが刻まれると強調しているロールス・ロイス社の企業連合には、仏国を拠点とする国際エンジニアリング企業のアシステム社、米国のジェイコブス社、英国の大手エンジニアリング企業や建設企業のアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社のほか、溶接研究所と国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)が参加している。今回の覚書で同企業連合は具体的に、SMR建設に関わる技術や許認可、投資等の状況および建設プロセスの見通しなどを重点的に調査、トルコのみならず世界中の潜在的な市場についても検討する。SMR用の機器はサイト内の全天候型施設で迅速に組み立てられるよう、規格化して工場内で製造する方針で、天候によって作業が中断されなければコストの削減につながるほか、作業員にも良好な作業条件が保証されると述べた。合理化された先進的な製造工程により効率性も徐々に改善されていき、結果的に初期費用の大幅削減と迅速かつ予測可能な建設と起動が確保されるとしている。ロールス・ロイス社のD.オル理事(=写真左)は、「地球温暖化への取組は最も差し迫った長期的課題であるとともに、経済的には重要なチャンスにもなり得る」と指摘。同社製SMRであれば迅速かつ適正価格で建設が可能であり、数万規模の雇用を創出する魅力的な投資機会となるほか、今後数十年間にわたってトルコの繁栄と生活の質の向上が約束されると述べた。EUAS ICC社のY.バイラクタルCEO(=写真右)は、「原子力で電源の多様化を図ることが我々の展望であり、そのためにトルコの社会経済に貢献する持続可能な原子力産業を開発したい」とコメント。トルコはすでに、パートナーであるロシアと大型原子力発電所(120万kW級PWR×4基)を地中海沿岸のアックユで建設中だが、価格面での競争力は重要な指標になるとした。またSMRの実行可能性については、その研究開発を継続的にモニターしていくとしている。なお、ロールス・ロイス社はすでに2017年11月、同社製SMRをヨルダンで建設する技術的実行可能性調査の実施に向け、ヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結済みである。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Mar 2020
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英ロールス・ロイス社、2029年までにSMR初号機の完成目指すと表明
英国で小型モジュール炉(SMR)の開発企業連合を率いるロールス・ロイス社のP. ステイン最高技術責任者は1月24日、同国の公共放送局BBCのインタビューに答え、2029年までに同社製SMR初号機の完成と運転開始を目指していることを明らかにした。同社の企業連合には、国内の大手エンジニアリング企業や建設企業であるアシステム社やアトキンズ社、レイン・オルーク社などが参加。発表によると、英国原子力産業界はSMRのような小型原子炉であれば、工場で大量生産して設置場所までトラック輸送ができ、洋上風力発電のような再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コスト化が可能と認識している。ステイン氏は、ヒンクリーポイントC原子力発電所の大きさの16分の一程度というSMRを約10エーカー(約4万平方メートル)の敷地で建設できるとしており、カンブリア地方やウェールズ地方など、閉鎖済みの原子力発電所も含めた3地点で10~15基のSMR建設を計画中だと述べている。英国ではエネルギー気候変動省(DECC)(当時)が2016年3月、英国にとって最適なSMR設計を特定するためのコンペを開始し、SMR技術の開発業者や電気事業者、潜在的投資家等から関心表明(EOI)を募った。2017年12月に同コンペの終了後、DECCを改組して発足したビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、先進的モジュール炉(AMR)の実行可能性・開発(F&D)プロジェクトで改めてコンペを実施。2018年6月に民生用原子力部門との戦略的パートナーシップとなる「部門別協定」を発表した際、BEISはAMRの研究開発資金として5,600万ポンド(約79億8,000万円)を充てるとしたほか、同年9月にはこの中から400万ポンド(約5億7,000万円)をコンペの第1フェーズで選定した企業8社の実行可能性調査用に提供するとしていた。この8社の中にロールス・ロイス社は含まれなかったが、同社はこれとは別枠で2019年11月、BEIS傘下の戦略的政策研究機関「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」から、英国政府の「産業戦略チャレンジ基金」の中から初回の共同投資金として1,800万ポンド(約25億6,000万円)を受けることが決定。同社はまた、ヨルダンで同社製SMRを建設するための技術的実行可能性調査実施に向け、2017年11月にヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結した。2018年2月には、風力や太陽光よりも競争力のある英国型SMRの実証モジュールを開発するため、ロールス・ロイス社が産業界側の窓口を勤める英国政府の「先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)」と契約を結んでいる。今回の発表でロールス・ロイス社は、「過去数年間に複数の大型炉建設プロジェクトが資金調達問題により凍結されたが、再生可能エネルギーのコストが急落するなか、SMRでコスト削減の可能性があることは、資金面で苦戦を強いられてきた原子力産業界にとって珍しく明るいニュースだ」と指摘。コスト削減の秘訣は、先進的デジタル溶接法やロボット組立等で予め製造したパーツを建設サイトで組み立てることであり、このように原子炉建設費を大幅に削減することで、電気料金を一層安く抑えることができると強調した。同社はまた、SMRの輸出で大量生産によるスケールメリットを実現し、コスト面の障害を克服したいと表明。これに関しては地元メディアの情報として、2,500億ポンド(約35兆6,000億円)規模の輸出市場で出力44万kWの同社製SMRの建設コストを約17億5,000万ポンド(約2,500億円)と試算した上で、は1MWhあたり60ポンド(約8,500円)を下回ること、すでに複数の外国政府から書面で関心表明があり、交渉中であると同社が述べたことが伝えられている。(参照資料:BBCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月24日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Jan 2020
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英エンジニアリング企業、政府のCO2実質ゼロ化目標達成に向け原子力等の重要性訴える
英国を本拠地とする世界的建設エンジニアリング企業のアトキンズ社は、このほど「CO2の実質ゼロ化に向けて」と題する報告書を公表し、国内すべての温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロにする英国政府の目標を達成するには、国内エネルギー・ミックスに原子力や二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)等が含まれるよう改革することや、そのための大規模投資が必要になると英国政府に訴えた。同社は、EDFエナジー社がサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(160万kW級のPWR×2基)建設計画で、建設作業の最初のプログラムとなる開発準備基本設計契約を昨年7月に受注したほか、日立製作所が凍結したウィルヴァ・ニューウィッド計画(135万kWの英国版ABWR×2基)では、支援企業の1つとして近隣海底の調査などを行っていた。今回のレポートで同社は、近年世界で進展中のCO2排出抑制努力だけでは、世界の平均気温が人々の生活様式や安全性に影響するレベルまで上昇するのを食い止めることは出来ないと指摘。このまま行けば、2100年までに平均気温は3.2度C上昇するとの国連環境報告の見方を、改めて提示している。英国では昨年6月、世界主要7か国の中では初めて、国内GHG排出量の実質ゼロ化を法的拘束力のある目標として掲げた法案が可決・成立した。地球温暖化がもたらす破壊的な影響の根拠と各国の政治的な約束が明らかになるなか、GHG排出量は今後も増加し続けると同社は予測。破壊的影響の根拠や関連のデータが蓄積されるにつれ、人類がこれまで取ってきたアクションに限界があることが分かっており、小出しの対応では最早、破壊的影響を抑えるには不十分だとした。このため同社は今回の報告書を通じて、英国による実質ゼロ化の目標達成を妨げる技術的要素をどのように解決すべきか、詳細な技術レポートや一連のブログ記事により英国のエネルギー・ミックスを考察し、同社の考え方を具体的に説明している。同社によると、英国は地球温暖化への対応政策やアクションで世界のリーダー的役割を果たしており、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという法的な約束の下、地球温暖化のリスクに効率的に対応するため、先進各国の誓約すべてを統率し続ける方針。今後数か月間でエネルギー・システム開発における既存の中心政策を補完し、2020年の早い時期にインフラ部門や輸送部門にも焦点を当てたいと述べている。同社は今回の報告書で、英国のエネルギー・システムで2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化することは可能であるが、エネルギー・システムの構造変革で柔軟なアプローチを採るべきだとしており、現時点で2050年以降の最終的なシステムを決定することは難しいと指摘。今後数年間の判断でCO2の実質ゼロに向けた市場の枠組が設定されるため、あらゆる選択肢はオープンにしておかねばならないとした。次に、CO2を実質ゼロ化したエネルギー・システムは構造が高度に複雑になるため、効果的なバランスを保つことが重要であり、政府の介入なしで合理的なシステムを維持することは難しいと説明。発電やインフラ、輸送の各部門にわたり2050年のエネルギー・システム全体を計画・合理化するため、「エネルギー・システム・アーキテクト(ESA)」のような機関を創設する必要があるとしている。このようなエネルギー・システムの電源として、同社が最初に言及しているのが原子力で、英国をCO2排出量実質ゼロに導く上で、クリーンさや信頼性の高さなど原子力が果たす役割は重要だと強調。国内の天然ガス生産が先細るなか、原子力は唯一、低炭素な電力供給を確実に約束できるとした上で、英国政府は原子力発電の開発戦略に一層重点的に取り組む必要があるとした。同社はまた、原子力発電所の建設にともなう資金の調達やリスクの軽減で、革新的な手法を開発すべきだと断言。原子力は技術面のリスクは小さいものの、近年の資金調達モデルには大きな問題があると述べた。英国では現在ヒンクリーポイントC原子力発電所を建設中であり、サイズウェルCとブラッドウェルB原子力発電所計画も含めると、合計840万kW分の計画が進展中だとしている。(参照資料:アトキンズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月13日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Jan 2020
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英国の戦略的研究機関「UKRI」がSMR開発企業連合に初回の資金投資
英国で小型モジュール炉(SMR)開発の企業連合を率いるロールス・ロイス社は11月5日、同国の準自治的非政府組織で戦略的政策研究機関の「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」から、英国政府の「産業戦略チャレンジ基金」のうち1,800万ポンド(約25億2,000万円)を受領したと発表した。これは、国内初のSMRを予備設計している同企業連合への、4年にわたる共同投資金の初回分となるもの。ロールス・ロイス社は英国全体の計画として、2050年までに最大で16のSMR発電所を国内で建設できると考えており、これにより最大4万人分の雇用が創出されるとともに、英国経済に対する貢献は520億ポンド(約7兆3,000億円)、輸出への貢献は2,500億ポンド(約35兆円)にのぼるとした。また、必要な法制やサイト選定プロセスなど、許認可手続や支援措置が順調に進めば、2030年代初頭から最初のSMRで信頼性の高い低炭素なエネルギーを得られるとしている。UKRIは2018年4月、革新的技術開発企業に研究開発費などの助成を行う英国政府機関「イノベートUK」、科学政策を調整する政府外公共機関である国内7つの「英国研究会議(RCUK)」、および大学の研究活動や知識交換活動への助成を担当する「リサーチ・イングランド(RE)」を統合して設立された。UKRIの投資金は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の科学予算を通じて提供されている。英国では今年6月、国内すべての温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が可決・成立した。この目標を達成するには、政府と産業界との協力が不可欠であるとの認識から、BEISは7月、新規原子力発電所建設プロジェクトの資金調達モデルとして検討中の「規制資産ベース(RAB)モデル」について、実行可能性の評価結果をパブリック・コメントに付した。また、革新的技術を用いたSMR原子力発電所の建設に対し、政府資金の中から最大で1,800万ポンドの投資を提案していた。ロールス・ロイス社の企業連合は、国際的な原子力エンジニアリング・研究開発サービス企業のアシステム社とアトキンズ社、建設土木企業のBAMナットル社とレイン・オルーク・グループに加えて、英国溶接研究所(TWI)、国立原子力研究所(NNL)、先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)などで構成される。ロールス・ロイス社によると、同企業連合が計画しているコンパクト設計の原子力発電所であれば、既存の原子力サイトへの輸送前に機器類を工場で製造し、サイト内の雨よけのある場所で迅速に組立てることが可能。天候による作業の中断を回避できるためコストの削減につながり、標準化・合理化された機器製造プロセスの活用により効率性も徐々に向上していくとした。また、各発電所の目標建設コストとして、同社は5つ目までは18億ポンド(約2,500億円)を設定、それぞれの運転期間は60年を想定している。今回の投資金は、規制当局が実施する包括的設計審査(GDA)の準備に宛てられるほか、革新的技術の開発推進と実現に向けた最終意思決定に活用される。ロールス・ロイス社のP.ステイン最高技術責任者は、「官民が連携することで、2050年までのGHG排出量実質ゼロ達成に向け、持続可能で適正価格かつ効率的な方策を見つけることができる」と強調。「政府との連携作業は、英国経済の低炭素化に向けた、また、英国社会にとって極めて重要な電力需要量を満たすための重要な一歩になる」と述べた。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月7日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Nov 2019
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英産業連盟、SMR等の原子炉新設に向け財政支援モデルの構築を政府に提案
英国最大の産業組織で日本の経団連に相当する英国産業連盟(CBI)は11月4日、国内の温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げた英国にとって、「クリーン・エネルギー産業中心の経済成長に向けた投資の促進」といった国家的なアクションが緊急に必要とする報告書を公表した。発電部門においては、再生可能エネルギーに加えて原子力に対する支援を(12月の総選挙後の)次期政権に要請する考えで、2030年までに小型モジュール炉(SMR)の初号機を完成させるため、新設計画への資金調達用に「規制資産ベース(Regulated Asset Base=RAB)モデル」を構築すべきだと強調している。英国は2020年11月の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)を国内で開催予定であり、CBIによれば、GHGの削減で英国が世界的リーダーとなるための国際的協調活動と並行して、長期の国家的アクションの重要性を実証することになる。このため、直面している事態の複雑さと早急に動く必要性等に鑑み、ビジネス界が今後10年間で加速していくアクションに対し、政府による支援策の中でも優先すべき決定項目のいくつかを今回の報告書の中で指摘した。分野としては具体的に、(1)CO2の削減に向け輸送部門全体で必要となる(電気自動車の導入など)重要な変更事項の促進、(2)熱源の低炭素化とエネルギー効率の改善、に加えて(3)発電部門におけるCO2排出量の削減――など。(3)の中でCBIは、SMRの初号機建設を支援する資金調達の枠組整備を挙げた。政府は新規の原子炉建設に対する支援方針を明確に表明しているが、それは適正なコストでの建設であり、その他の低炭素電源に対してもコスト面の競争力を実証しなくてはならない。また、資金調達の新たなアプローチにより、将来的な原子炉建設プロジェクトでコストを削減できることも判明した。この点に関してCBIは、「RABモデル」を詳細に検討する方向性を支持しており、これにより建設期間中のリスク共有と収益確保の可能性が高まるとした。RABモデルはまた、資本コストの大幅な削減により、電気料金の削減という形でエンド・ユーザーに利益をもたらすことも可能。CBIは、政府が「環境と社会およびガバナンス(ESG)を考慮した責任投資」の中に原子力を含める努力を続けるべきだと指摘している。CBIはまた、従来の大型炉に加えてSMRも、コスト面や革新的技術の側面で英国のエネルギー・ミックスに貢献できる可能性があるとした。もちろん、2030年までに初号機の運転開始を可能とするためには、政府が時宜を得たタイミングで行動する必要がある。CBIによると、この目標の達成に向け、政府は可能な限り早急にSMRの建設サイトを特定しなければならず、SMRへの将来的な投資を支えていく政策面での支援も必要。政府はまた、今後のSMR建設プロジェクトでコストを削減するためには、サイト許可が継続的に発給されるよう規制手続の整備を確実に進める必要があるとしている。今回の報告書に関してCBIのC.フェアバーン事務局長は、「温暖化防止への取組みで残されている時間を考えると、我々はこれまで以上に迅速、かつ一層踏み込んだ取り組みが必要で、これからの10年間は非常に重要な時期だ」と指摘。「技術開発が急速に進展しコストも低下しているため、CO2排出量の実質ゼロという目標達成は可能だが、ビジネス界だけで成し遂げることはできない。目標達成までのあらゆる段階で、政府と連携することが必要だ」と訴えている。(参照資料:CBIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Nov 2019
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英政府、最終処分場建設プログラムで「国家政策声明書」を発行
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月17日、高レベル放射性廃棄物等の深地層処分インフラ設置に向けたプロセスで、プロジェクトの実施に必要な開発合意書(DCO)の発給審査の基礎となる「国家政策声明書(NPS)」を発行したと発表した。イングランド地方における同インフラ設備(深地層処分場と深地層調査用ボーリング孔)の開発については、BEISが2018年1月から4月にかけてNPSの案文を、建設サイトの選定プロセス提案文書とともに公開協議に付した。得られたコメントを勘案したNPS案文は、同年の夏に議会の上下両院、および関係委員会による精査が完了、今年7月からは改定版が再び議会審議にかけられていた。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相はNPSの発行について、「議会審議プロセスの最終ステップであり、高レベル廃棄物の管理で英国が解決策を見出す重要な節目になる」と指摘。そのような廃棄物を安全・確実に管理するインフラの「必要性」がNPSでは明確に説明されており、計画審査庁が深地層処分インフラの開発でDCOの発給判断を下す際、適切かつ有効な枠組を提供することになるとした。 また、今回のNPSでは2008年の計画法に従い、同NPSが持続可能な開発に貢献するとともに、気候変動の影響緩和と適応、景観等への配慮がなされていることなどを保証する「持続可能性評価(AoS)」の結果と、サイト選定で考慮すべき点などを考慮する「生息環境規制評価(HRA)」の結果が含められた。ザハウィ・ビジネス産業担当相はこれら2点についても最終版を発行し、BEISのウェブサイト上に掲載したことを明らかにした。今回のNPSによると、高レベル廃棄物を深地層処分場で長期的に管理することは、技術的、倫理的および法的側面からも必要なものであり、最良の処分方法であるという点では国際的に圧倒的合意が得られている。その他の処分方法についても検討が行われたが、いくつかの側面で適切でないことが判明。仮に、高レベル廃棄物のいくつかのカテゴリーで他の管理オプションを進めた場合でも、現実的な将来シナリオにおいてはやはり、深地層処分場が必要になるとしている。(参照資料:BEISによる議会声明、発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Oct 2019
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英国の主席原子力検査官、既存炉の経年化問題に注意喚起
英国原子力規制庁(ONR)のM.フォイ主席原子力検査官(CNI)は10月11日、国内の原子力発電施設や原子力産業界における2018年4月から2019年3月まで1年間の実績について、自身の見解を年次報告書に取りまとめて発表した。それによると、国内の原子力発電事業者は全体として、従業員その他の国民を防護するために高い基準を満たしている。一方、産業界が一層の注意を払うべき重要分野として、既存の原子力発電施設の経年化が大きな課題になっていると指摘。同分野に引き続き重点的に取り組むとともに、災害等に適切に対処し安全・確実な運転が続けられるよう、プラントや人員、手続き等への継続的な投資が求められると訴えている。今回の報告書は、今年6月にONRとして公表した運転実績等に関する年次報告書を補う内容で、この種の報告書としては初めて。国内原子力産業の安全・セキュリティや保障措置実績に対して、権威ある独自の見解を提示している。報告書はまず、良好な進展が見られるいくつかの分野について詳細を説明。これらには、セラフィールド原子力複合施設におけるリスクと危険性の軽減、閉鎖済みのブラッドウェル原子力発電所が廃止措置作業において「安全貯蔵」期間に移行したこと、建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所で最初のコンクリート打設に合意する文書を発行したこと、などを紹介した。これに対してフォイCNIは、今後も継続して取り組まねばならない数多くの課題の中から、以下のものを取り上げて強調した。国内で稼働する全15基の原子炉のうち14基を占める改良型ガス冷却炉(AGR)の中でも、炉心の劣化兆候が最も顕著なハンターストンB原子力発電所(64.4万kWのAGR×2基)で精査を継続した。経年化関係の広範かつ複雑な問題により、昨年2基とも運転を一時的に停止したダンジネスB原子力発電所(61.5万kWのAGR×2基)で規制上の監視を強化した。セラフィールドにある経年化が進んだプルトニウム貯蔵施設では、管理会社のセラフィールド社や原子力廃止措置機構(NDA)および政府からの継続的な投資と取組みが必要である。 フォイCNIはまた、今後の重要課題として、次の3点で実績の改善を原子力産業界に特別に提起している。それらは、(1)経年化した施設の管理、(2)原子力発電所の非原子力部分における国民の健康と安全性の確保、(3)原子力セキュリティに対する総体的アプローチの実行--である。同CNIは「安全・セキュリティ面で、原子力産業界が全体的に高い基準を遵守し続けていることには満足している」とした。その上で、「目標に達していない事業者等については、持続的な改善を求めてONRが努力を傾注する」とした。原子力産業界が今後一層留意するべき分野については、施設の経年化問題に加えて、「産業界のある部門では、発電所内の非原子力部分における国民の健康と安全の確保で実績の低下が認められ、その改善に向けた取り組みが改めて必要になっている」と同CNIは指摘した。また英国では、セキュリティ要件を満たすために原子力事業者が提案した手法をONRが評価する際の指針として、「セキュリティ評価原則(Security Assessment Principles:SyAPs)」が策定されているが、産業界全体でONRが同原則を活用することは、セキュリティ問題に関わる安全文化面の変更や組織の責任の祖h材問題などを改善する上で、実質的な機会になると同CNIは説明している。(参照資料:ONRの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」
- 17 Oct 2019
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英国の原子力新設を目指すRABモデル
2019年7月、英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は英国内での新規原子力発電所建設向け投資実現を目指す規制資産ベース(RAB((RAB model : Regulatory Asset Base model)))モデルについて意見公募を開始した。このNECGコメンタリーはこの意見公募に対する我々の見解をまとめたものである。このNECGコメンタリー第30回は2019年7月に出された英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省のRABモデル意見公募に対する我々の見解であり、以下の内容からなっている。要旨議論の背景RABモデルに関する論考結論I. 要旨電気事業改革が進む中、英国において新規原子力発電所建設への投資を実現させることは大きな課題であり、この課題に対する単純明快で簡単な解決方法はない。RABモデルは枠組みを適切に構築した上で実運用されるならば有益な手段となり得るが、いくつか課題もある。すなわち、RABモデルは、複雑であり実運用は困難なものとなる可能性がある英国原子力発電事業のあるべき姿を的確に反映できない可能性がある英国内の電気事業や電力市場のあり方を広範に再評価し、全体的に再構築することなくして適切なものとはならない可能性がある期待されているような原子力新設への投資にはつながらない可能性があり、仮にそれが実現したとしても、EdFや中国のCGNのような海外国営企業以外には建設を行う主体は出てこない可能性もあるこの意見公募の質問項目についてNECGは以下のような見解を持っているが、これらは本コメンタリーの以降の章で解説を加える原子力新設への投資を実現させる上での諸課題とも密接に関係している。質問1:RABモデルは新規原子力建設に対する投資を引き起こし、かつ需要家や納税者の負担に見合う価値をもたらすモデルとなっているか? 質問2:モデルで示された経済的規制の枠組みを構成する各要素について何か意見はあるか? 質問5:ここに示した原子力新設に対するRABモデルに基づいて行われる具体的な収支設計がどのようなものになるかについて意見はあるか?これ以外の本案を代替する他のモデルで我々が検討を行うべきものはあるか? 質問6:原子力に対するRABモデルの下で新規原子力建設を評価した上で、それが需要家や納税者の負担に見合うものかどうかを判断しようとするこの手法に対して何か意見はあるか?これらの4つの質問(つまり質問1,2,5,及び6)のいずれもが提案されたRABモデルは完璧で実運用可能な手法であり、それにより英国内で十分な容量の新規原子力発電所建設が行われ、いわゆる「原子力ギャップ」を埋め合わせることができる、という前提に基づいている。だがNECGはこの前提には同意でない。これらの質問に答えるにあたっては、まず本稿で後述するような問題点や疑問点が解明されなければならない。質問3:ここで提案された手法で需要家の利益はうまく保護されることになるかどうかにつき何か意見はあるか?需要家の利益を保護するために何か他に考慮すべき事項はあるか? 理屈から言えば提案されたRABモデルには需要家の利益を保護することになる諸特性が含まれていることは事実だが、現実問題としてみるなら提案されたRABモデルではそれが実現しない可能性があることをNECGは懸念している。いずれにせよ提案されたRABモデルを構築し実適用しようとすれば多大な労力を費やす必要があり、しかもそれによっても期待される水準や形をもって新規原子力発電所建設に対する投資は行われないかもしれない。質問4:CfD(差金決済)モデル((訳注:CfDについては過去本コメンタリー第6回、第10回、第24回、第26回などで解説されている。))と比べ、RABモデルを使えば需要家の総負担額は小さくなると予想されるならば、需要家もリスクを分担して負担するというRABモデルは需要家にとっても価値があるものだ、という点について同意できるか?理屈上の答えはその通りである。しかしながらこの質問はどちらのモデルでも新規原子力発電所建設の投資が実現することを前提としているが、この前提は正しくないかもしれない。ヒンクリー・ポイントC号機新設のために取られた奨励策(すなわちここで言及されているCfDモデル)はホライズン社やニュージェネレーション社(NuGen)の新設計画などではうまく機能しなかった。以下で論評を加えるとおり、提案されたRABモデルでは、その内容を見直し、かつ更なる支援策を追加しない限り、新規原子力発電所建設の投資は行われない可能性があることをNECGは懸念している。II. 議論の背景英国は炭素放出量や系統信頼性に関する長期的政策目標を達成するため、新規の原子力発電所建設を必要としている。原子力発電は実証済みかつ大規模で給電指令可能な電源であり、負荷追従運転も可能である上、環境への炭素放出量は極めて小さく、燃料サイクルが可能で国家エネルギーセキュリティ上も有益で、環境上も所要土地面積が小さく、高エネルギー密度で、さらに長期間運転可能なインフラ資産であるなどの特徴を有している。英国では新規原子力発電所建設に際しては、諸外国の国営企業も含む民間からの投資を惹起するような奨励策を取る政策がとられている。ヒンクリー・ポイントC号機の新設計画を担っている((訳注:ヒンクリー・ポイントC号機はフランス電力(EdF)が建設中。EdFは仏国政府が8割以上の株式を所有している。))ような原子力関連の国営企業はリスク選好的で、国家レベルのリソースを振り向けることも可能であるなど、純民間ベースで新規原子力発電所の開発投資を検討している普通の企業とは大きく異なった特性を有している。ヒンクリー・ポイントC号機で活用されたCfDモデルは主に運開以降の収支水準とその確実性に関するリスクを解消することに焦点を合わせたものであり、運開までのリスクについては、当該海外国営企業とその所有者である政府がリスクを取ることを前提としている。そうした政治的環境の中で行われる交渉を通じて新規原子力発電所建設を進めることに英国が満足しているのであれば、RABは新規原子力建設に対する投資をもたらす上で適切なベースとなり得るし、そこでは英国国民がより大きなリスクを背負うことになるから原子力発電所建設主体にとってみれば潜在的に((このシナリオでは市場競争はないから、何が公平か、適正な価格や適正なリスクは如何ばかりのものであるかについて評価をすることは困難である。むしろここで約定される結果は原子力以外の他の電源のコストとの比較で決まる可能性が高い。(つまりどれだけ払う気になるか、という価格で決まることになる。)))CfD手法よりも好ましいものとなり得る。理想の世界では電力市場が出す答えが原子力についても新規投資を促す動機づけとなるとされるであろう。だが電力自由化された現実の社会を見れば、長期にわたる収入を確実なものとする市場外での補助金などなしに、市場だけで原子力発電のように資本費が大きい新規電源に対する投資を促すに十分な経済的な動機づけが与えられるということにはならない。その理由として少なくとも以下の4点をあげることができる。新規原子力発電への投資を後押しするには、自由化された電力市場で決まる短期的な電力価格は余りに安くかつ不確実である。電力市場価格は原子力発電所がもたらす公益(例えば、無炭素電源、エネルギーセキュリティ、エネルギー供給多様性など)の価値を評価、反映することはほとんできない。最近の原子炉は長寿命の資産(認可期間は60年で100年位までは寿命延長が可能)だという点が経済モデルには取り込まれておらず、運開後約30年以降の資産価値を評価、認識することができない。初期投下資本が大きいが極めて長期にわたって運転を続ける新規原子力発電所への投資資金確保は銀行融資になじまない。金融市場は原子力発電所新設への投資を好意的には捉えておらず、その結果、新規原子力発電所への投資に際しては追加の財政的支援策やリスク減少対策が必要となる。こうした課題に対して英国政府がこれまでとってきた施策はある程度は有効なものであったが、いわゆる「原子力ギャップ」を埋めるに十分なほどの新規原子力発電所への投資をもたらすことにはなっていない。新規原子力発電所建設に関する課題は多くあるが、いくつかをあげるなら、投資が大規模でかつ長期にわたること、設計・建設期間が長期にわたりそこには多くの不確実性があること、最近の新規建設を見ても実績は好ましいものではないこと、原子力規制が持つ複雑さ、そのために要する費用や期間、そして予見可能性の低さ、そして運開したとしてもその後の収支が不確実であることなどがある。原子力発電所完工までのリスクを考えてみても、工期遅延、建設費用増加や、完工以前に廃止されてしまうリスクなどがある。仮に運開以降の料金収入を高くする措置が取られたとしても、プロジェクトにまつわるこうした様々なリスクを考慮してみると、投資家にとって原子力発電所建設計画から適正規模の利益を得ることはできなくなる可能性がある。このRABモデルはこうした課題解決を目指したものではあるが、全ての関係者にとっても満足が行き、かつ一般の利益も保護できるよう、その内容を具体化し、取り決めとしてまとめるには、さらに大規模かつ複雑なプロセスが必要となるものである。こうしたRABモデルの内容を監視・管理するという重要な仕事を実施するには、新たな規制機関を設立する必要がある。RABモデルの詳細やその実運用の内容にもよるが、その規制を受ける原子力発電所の建設・運営主体は、適正な利潤を得つつその原子力発電所への投下資本を回収し、また原子力発電所の運転費用を回収することができるようになるかもしれない。また同時に電気料金を支払う需要家(すなわち料金規制を受けた電力の需要家)は予め定められた範囲((この規模は協定で事前に定め、以降もその実績について原子力発電所を監督する料金規制当局が監視継続することになる。(米国の規制州で州料金規制当局が「適正さ」について監視を行うのと同じ仕組み)))で完工リスクを背負うことができる可能性もある。しかしながら、建設費用増加や建設計画そのものが頓挫するリスクまで考えると、それへの対処は極めて困難性の高いものとなるであろう。原子力発電所の建設主体やそれに連なるサプライチェーン各社にしてみれば、もしもそうしたリスクがカバーされないとなれば、原子力新設にまつわる基本的課題は解決されていない、ということになってしまう。他方、もしも大きな制約なしにこうしたリスクがカバーされているとするならば、原子力発電所建設主体が無能で怠慢であることについてのリスク全てを需要家側が背負わされることになるかもしれない。III. RABモデルに関する論考一般論として言うなら、RABモデルは英国政府が原子力発電所建設に関する課題を解決し、新規原子力発電所建設への投資を期待される水準で呼び込むための取り組みの一つの手法であるが、そこにはいくつかの大きな制約があるとNECGは考えている。A. 何故RABに止まるかCfD手法の限界を考えるなら、英国が新規原子力への投資を動機づけるための手法を変更しなければならなない状況にあることはNECGにもよく理解できる。英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省が過去行った「エネルギー・インフラに関する資金調達に関する調査」へのNECGの回答でも述べたとおり、NECGは規制資産ベースの手法を含めこの問題に対して一連の見解を有している((https://nuclear-economics.com/wp-content/uploads/2019/07/2019-04-02-NECG-Submission-to-UK-Inquiry-Financing-Energy-Infrastructure.pdf を参照のこと。))。もしもRABモデルで数基の新規原子力発電所建設の投資を実現させたいと英国が真剣に考えているとしても、それは新規原子力発電所建設に対しさらにより直接的に英国政府が果たすべき役割を考えるための小さな第一歩でしかない。これよりもより単純で、より効率的、かつ迅速、確実で、より柔軟な手法は、新たに「国営新規原子力発電所建設会社」を設立することである。この新しい企業体は新規原子力発電所建設計画の立案から営業運転段階まで出資者兼所有者として、「国王陛下の政府」とともに設計・建設段階のあらゆるリスクを背負い、またその利益を享受することとなる。こうした新国営会社を設立すれば英国政府は新規原子力発電所建設計画を最適化することが可能となり(すなわち、サイト選択、建設時期、新設容量、資源配分、様々な教訓反映などを最適化でき)資本費を大幅削減できる可能性があり、同時に英国政府はそれによって大変に有効な手段を手中にすることができると考えられる。そうして一旦発電所が完工すれば運転準備が整った原子力発電所そのものを市場のオークションで売却することも可能となるであろう。こうした手法にはいくつかの市場競争的な要素を取り込むことも可能である。例えば、新国営企業が発注する原子力発電所の設計・建設業務、機器納入、プロマネ業務などを競争で調達する英国政府が債務保証をつけた上で行う資金調達を競争で行う完工し運転可能な原子力発電所を、適切な収入額確保策(CfD,RAB,買電契約、あるいは重要インフラ契約など)を付した上で民間投資家に対してオークションで売却するそうした収入確保策はオークション実施の5年とか10年前に決めるのではなく、オークション実施時点の市場状況を踏まえて定めるなどである。英国政府が提案しているRABモデルはこうした「国営企業モデル」に照らしてベンチマークしてみる必要がある。B.英国原子力発電事業をどうしたいのか?RABモデルを検討するのであれば、英国原子力発電事業をどのような形にしたいのかについても併せて考える必要がある。数基の新規原子力発電所建設でもよいと考える場合――もしも英国政府がこれから1ないし2基程度の新規原子力発電所が建設されればそれで十分であり、かつそれらが海外国営企業によって建設、所有されていてもかまわない、と考えているのであれば、既存のCfDや、ここで提案されているRABモデルはいずれも実現可能な選択肢となるであろう。いずれの手法をとるにせよ、それぞれの新規原子力発電所建設計画ごとに、英国政府は発電所所有者となる他国の政府と条件交渉を行うこととなると考えられる。そうした商業条件交渉で定められる詳細がどうなるかにもよるが、RABモデルはCfD手法よりは電力料金が安価となる可能性はある。新たに多数の原子力発電所を建設したいと考える場合――もしも英国政府が競争環境実現、新規の出資者確保、政治的介入の極小化、あるいは新たな原子力発電事業の構築が重要であると考え、海外国営企業が所有する1ないし2基程度の新規原子力発電所に止まらず、更に多数の新規原子力発電所建設を実現させたいと考えるのであれば、より長期的に主要な課題解決が可能となる新たなやり方が必要となる。 新規原子力に出資する企業は誰であれ、将来の収支リスクに対する何らかの保証を求めることになる。CfD手法でもRABモデルでもそれを保証することは可能ではあるが、RABモデルの方がより安価でかつより柔軟にそれを実現できる可能性がある。また新規原子力に出資する企業は完工リスクへの対処支援策も必要としている。RABモデルはそれに対して基本的に有効ではあるが、有効かどうかは誰にどのようにリスクを分配して負わせるかによる。RABでは、どこまでの費用を規制上の協定に含めるのか(つまり、投資決定以前の設計開発費用、原子力発電所着工以前のプロジェクト費用、運開までの建設費用など、どこまでを含めるのか)、そしてお粗末な事業者の責に帰するような問題や完工できないリスクなどを誰がどれだけ分担して負担するのか、などが重要なポイントとなる。NECGの意見を言うならば、長期的に原子力発電事業の基盤を形成したいとして新たにRABモデルを原子力発電所に適用するのはあまりに困難かつ複雑であって、RABモデルの交渉を通じて実現できる原子力発電所は精々ないし2基程度に止まるのではないかと考えられる。一方、国営新規原子力発電所建設会社を新たに設立する手法は新規の原子力発電容量を生み出すより直接的やり方であると言える。C.RABモデルは機能するか?英国において新規原子力発電所への投資を呼び込むようなRABモデルを構築し実運用に移すには膨大な作業が必要であり長期間を要するから、その間には政治的、あるいは社会的な反対運動に直面することがあろう。そして最も重要なことは仮にそれができたとしても、期待されている水準や形で新規原子力発電所への投資は起きないかもしれない、という点である。米国のように料金規制下に原子力を置くやり方は、過去長期にわたり新規原子力発電所建設の投資をうまく呼び起こした実績はあるものの、今や同様に様々な課題に直面している。バランスが良く、需要家や原子力発電所への出資者を含む多くの関係者が目指すものを達成できるRABモデルを具体的に構築し実運用に移す作業は多大な労力を要する。こうした作業はRABモデルが複雑であることからより困難なものとなる可能性がある。さらにそうしたRABモデルが出来てたとしても、一体誰が英国内で新規原子力発電所建設に対して投資を行うのかは明確とはなっていない。この英国のRABモデルでは新しい主体が参入して新規原子力発電所建設を行うことが前提となっているように見える。概念的に言えば、ホライズン社やニュージェネレーション社の建設計画も、仮にRABモデルが存在していればその下で進められたことになった可能性もある。しかし新規原子力建設では企業形態が時間とともに大きく変化せざるを得ない。つまり原子力産業界の一企業がまず一念発起して発電所建設を行う主体となり、さらに発電所の設計、調達、建設を行う主体となった上で、主体として長期的な投資を決定し、最後は運転を行う主体となる、という企業形態の変化を一企業が遂げなければならない。この時間とともに企業形態の大変革が必要となるという課題は、ただでさえ多様で困難な課題を伴う新規原子力発電所建設にさらに大きな課題を追加することになる。もしも英国のRABモデルが米国の料金規制を受けている原子力発電会社(例えばエクセロン、デューク、エンタジーなど)に照準を合わせているのであれば、どうしたらそれら各社に対して英国の新規原子力への投資を促すことができるかにつきより近くから焦点を合わせて検討を行うべきである。米国内の既設運転中の原子力はほとんどと、現在建設中の1基はいずれも料金規制を受けた電力会社が投資を行って建設されたものである。比較的少数基の新規原子力発電所建設計画のためだけにRABモデルの詳細について交渉を行うのであれば、具体的内容を構築し実運用までこぎつけるのに必要となる多大な労力と時間が果たして正当化できるのか、という疑問を引き起こすであろう。もし英国がRABモデルを導入しても、引き続き海外国営企業しか英国で新規原子力建設を行わないというのであるなら、CfDなど他の手法によってそれを建設する方がよほど簡単かもしれない。D.長期にわたって安定な仕組みが必要だRABモデルに限らず英国内で新規原子力発電所への投資を呼び込むためにどのような手法を取るにせよ、原子力発電所建設主体からすれば、完工リスクと収支リスクに対して何らかの対処が取られていることが必須となる。RABモデルで、もしもその具体的内容が適切に構築され、あるいは設計・建設段階を通じ英国政府の関与が保証されるならば、完工リスクについては対処が可能だ。収支リスクについては、実収入が得られるのは原子力発電所が完工し営業運転が開始された後の話ではあるが、建設の初期段階(できれば建設計画立案前、遅くとも投資決定前)の時点から、将来、長期にわたり安定した収入が確保できることを明確化することで対処を取ることができる。こうした将来の収入は信用度の高い相手方との間で確約されている必要がある。ビジネス・エネルギー・産業戦略省の意見公募のウェブサイトを見ると、RABモデルを「既存のCfDモデルと併用し、将来の新規原子力発電所の建設資金を調達する」可能性が示唆されている。つまり営業運転開始後の収入としては、異なった仕組みに基づく少なくとも2つの収入源があることになる。つまりRABモデルに基づく資本費回収分に加え、電力販売につきその時点の電力市場価格とリンクして支払われるCfD分の2つの収入源があることになる。原子力発電所建設の投資決定に際してはこの2つの収入源を合わせて評価する必要があるから、複数の収入源が存在することは、英国政府や規制当局そして原子力発電所建設主体のどこから見ても協定内容を一層複雑化させることになる。原子力発電所の建設・運転を行う企業はまず運開当初の収支がどうなるかに焦点を当てて検討をすることになるが、併せて、将来寿命延長を行う可能性も含め、原子力発電所の運転期間全体を通した収支がどうなるかについても当然懸念を持つことになる。電力市場価格の状況にもよるが、運開後、しばらく経てば(すなわち借入金が完済されれば)電力市場での買電収入により大きく依存しながら運営することも可能となるかもしれない。しかしながら、米国の電力自由化環境下にある原子力発電所の実態が示す通り、電力市場からの収入だけでは当座の運転資金すら賄うことができず、さらに将来、よりボラティリティが高い分散型の市場環境に移行していけばその傾向はなおのこと強まる可能性もある。E.完工リスクの分担どのような原子力発電所建設計画であれ、完工リスクへの対処は大きな課題となる。完工リスクとは建設期間が予定を超過し、あるいは建設費用が計画額を上回るリスクである。原子力産業界の実績を振り返ってみれば、これは現実に存在する大リスクである。RABモデルはこの完工リスクを分担して負担する仕組みとなっている。このRABモデルの具体的仕組みの決め方によっては、原子力発電所建設主体となる企業が投資決定し、建設を開始し、建設費用超過や工期遅延を引き起こしたとして、それがどの程度の規模となるのかすら不明な時点で、ともかくそれによって資本費が増加すればその分は協定で補填される、ということになる可能性もある。他方、原子力発電所建設が完工した場合に限ってこうした補填がなされるというような仕組みとなる可能性もあるが、建設主体にとってみれば努力して完工しても損失が明確な場合すらでてくるかもしれない。だからRABモデルの具体化に際しては、原子力発電所建設計画で費用超過や工程遅延が発生した場合、建設主体と規制当局との間で以下の判断についてどのようにして合意するのか、予め明確に手順を定めておく必要がある。協定上の資本回収総額を増額した上で、原子力発電所建設は計画通り進めるあるいはその時点までの出費を回収した上で原子力発電所建設計画は中止するF.建設工事期間RABモデルでは建設工事期間中も投資額に対応して費用回収が認められているから原子力発電所建設主体にとってみれば経済的なリスクはその分小さくなる。英国内や米国の一部の州(例えばジョージア州)では何も措置がなければ建設期間中はただ積みあがるだけの投資に対する未払い利息分を帳消しにするような料金設定を行うことで資金調達コストを減じた実例もある。しかしながら、英国内の自由化電力市場の状況と原子力発電所新設のタイミングを考え合わせると、こうした収益計上は税務や会計処理上の扱いから効果が削がれてしまう可能性もある。(例えば建設期間中の未収収益は債務と認定されてしまうなど)G.原子力発電所建設の設計開発費用は重要な課題原子力発電所建設では投資を決定し建設を開始するまでに、設計、許認可取得、建設場所の手当て、エンジニアリングなど様々な種類の設計開発費用が発生する。RABモデルの協定で原子力発電所の資産価値を定めるに際してはこれら全ての費用を含める必要がある。そこで問題となるのは新規原子力発電所の経済性がどうなるかを明確に描くには、こうした設計開発費の一部、場合によってはその全てを実際に費やして検討を行う必要があり、それができて初めてRABやCfDなどの協定の締結も可能となり、ひいては最終的な投資判断を行うことも可能となるということである。だから場合によっては建設主体が相当額の設計開発費用をつぎ込んでしまった後に建設中止を決断するような場合もあり得る。原子力発電所が完工し運開した場合に限ってこうした設計開発費用の回収が認められるとするならば、建設主体にとってみれば原子力発電所設計開発のプロセスはリスクがより大きくさらに不確実なものとなってしまう。仮に原子力発電所建設計画が中断された場合でも建設主体がこうした費用を回収できるかのどうか、仮にできるとしてその仕組みをRABモデルの中にどのように組み込むことができるのか、について英国は更に検討を加えるべきである。そうした検討を加えることは、実際に英国内で原子力発電所建設計画が進捗し、投資決定が成功裏になされることにつながっていく可能性を増すもの言える。例えば米国内の一部の州では料金規制下にある電力会社が原子力発電所建設を選択肢として考え設計開発を行う費用を料金算定に含めて料金で回収することを認めているところもある。一部の例ではNRCの許認可を事前に得るために要した費用も料金に算入が認められている。他方、もしもこうした仕組みがあまりに寛容に過ぎれば、準備が不十分な建設主体までもが発電所建設に突き進み、実プロジェクトが開始された後に様々な困難に直面するような事態も考えられる。H.RABモデルは単純なものとし他のプログラムとリンクしたものとすべきだ一部の人達は既に気付いているとおりCfDの仕組みは膨大かつ複雑で理解するのも困難な文書や協定から成り立っている。そしてRABモデルはこのCfDよりもさらに複雑なものとなりそうである。RABモデル構築とその実運用はそれ単独で行うのではなく、他の経済的な支援策やリスク軽減手段も併用しながら実施されるべきものである。過去、ホライズン社の建設計画で全体の資金調達に対し英国政府がどのように支援を行うかについて交わされた議論(例えば債務保証など)とそこで出されたアイデアはRABモデル検討に際しても有益な情報となるのではないか。I.米国の料金規制下の原子力は有益な事例となるであろう英国のRABは主に政府機関を民営化する中で活用されてきた手法である。そこでは規制下にある企業が実際に行う投資活動とは別に、行政上の措置として規制資産を形成しながら課題に対処するためにRABが活用されてきた。他方、米国には料金規制の下、原子力建設に投資を行ってきたという長く豊かな経験がある。この米国の経験の核をなすのは、顧客の電力需要に応えるために必要となる電源構成の一部として原子力を位置づけ、料金規制を受ける代わりに地域独占を許された電力会社がそれに対する投資を担ってきた、という点にある。英国では原子力発電所を単体としてとらえて建設しようと考えており、その点が米国とは大きく異なっている。米国のこの経験は複数の州にまたがったもので、州ごとに異なった手法がとられ、また料金規制を行う規制当局も州ごとに異なっている。米国の実績でも費用超過や工程遅延が経験されており、それに対し規制当局は「適正さ審査」を行い料金参入を不認可にしたものもある。原子力発電所に関連して初期に経験された問題に対し、一部の州では原子力発電所建設主体と料金規制当局の双方に対して規制上の不確定さの上限を定める措置を取った例もある。(統合リソース計画((Integrated Resource Planning (IRP)))や原子力オプション勘定など)米国の電力会社を料金規制下に置く手法は100年にもなる歴史があり、その間多数の完工した原子力発電所への投資が行われたし、その他にも完工する前に建設中止に至った原子力発電所も多くある。この米国の電力会社を規制する手法は法令で明確にその基礎が形作られており、加えて過去何十年間にわたって積み上げられてきた裁判での判例がその手法の指針となり、また制約条件を明確に示している。これと比べると、英国はRABモデルそのものについての経験が乏しい上、原子力発電所にそれを適用し規制資産として原子力の新規建設を行った経験は有していない。IV. 結論英国のRABモデルがうまく機能し新規原子力発電所建設のための投資が行われる可能性もある。しかしながら、原子力発電所建設主体にしてみるとRABモデルは極めて大きな不確実性を伴うもので、それが完全に構築され実運用されるようになるまでには相当な時間がかかる可能性がある。またそれは建設主体や投資主体、あるいは資金を貸す側にとってみても十分に魅力的なものとはならない可能性もある。またRABモデルは他の原子力発電所建設計画に対する経済的支援策やリスク低減策と併用されねばならないものである。新規原子力発電所に投資を行う新規国営企業を設立するなど、英国は他のもっと単純で迅速なやり方についても検討を行うべきである。このNECGコメンタリーはエドワード・キー、リューディガー・ケーニッヒ、ポール・マーフィー、及びザビエル・ローラが執筆した。 PDF版 ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。
- 14 Oct 2019
- STUDY