キーワード:風評
-
「福島」をためらう消費者は過去最小だが、報道の援護なし!
二〇二三年五月十九日 福島第一原子力発電所の処理水の放出がいよいよ目前に迫ってきた。ことの成否は消費者の意識次第だが、タイミングよく今年三月、消費者庁が「風評に関する消費者意識の実態調査」(第十六回)を公表した。とても重要な調査結果なのだが、ほとんど報道されていない。たとえ地味な結果でも、メディアはもっと現状を伝えてほしい。「福島産をためらう」は過去最小 処理水が実際に海へ放出された場合、最も注目されるのが、どのメディアも再三報じているように風評被害が生じるかどうかである。消費者が福島産の食品を従来通りに買ってくれれば、風評被害は発生しない。そこでポイントとなるのが、どれだけの消費者がいまなお「福島産食品を避けたい」と思っているかどうかである。 その重要な指標となる意識調査が今年三月十日、消費者庁から公表された。食品中の放射性物質を理由に購入をためらう産地を尋ねたところ、第1回(二〇一三年二月)の調査では「福島」を挙げる人が一九・四%もいた。ところが、今年一月(第十六回)の調査では五・八%と過去最小に減った。 放射性物質を理由に購入をためらう産地として、東北(岩手、宮城、福島)を挙げる人の割合も同様に減り、二〇一三年の一四・九%から、今回は三・八%に減った。安全な情報は国民に届かない これらの数字を見ていると、スーパーなどで放射性物質を理由に福島産や東北産を避ける人は確実に減っていることが分かる。こういう調査結果こそ大々的に報じてほしいのだが、新聞を見ていてもほとんど報じられていない。 「福島産が危ない」といったニュースは瞬時に流れるが、安全だというニュースはなかなか国民に届かない。「そもそもニュースとはそういうものだ。記者とは危ない情報を好む職業だ」といってしまえば、身もふたもないが、処理水の放出が目前に迫ったいまだからこそ、逆に安全な情報にニュース価値があるはずだ。どうもいまの記者の感度は鈍いと言わざるを得ない。 どの新聞の記者たちも処理水の放出で最大の懸念は風評被害だと書いてきた。ならば、風評被害が生じにくい空気が醸成されつつあることは喜ばしいことなのだが、記者にとって「喜ばしいことはニュースとしておもしろくない」となってしまう。風評被害の解消にはメディアの的確な報道が欠かせない。にもかかわらず、安全な情報をシャットアウトしてしまう。こういう記者のスタンスでは、やはり風評被害の解消は難しいのではないかと思いたくもなる。「検査知らない」は最高の六三% 一方、福島県ではいまも魚介類や食品の放射性物質の検査は継続して行われている。その結果も公表されているが、地味な話題のせいか、最近ではほとんど報じられない。その弊害は今回の調査結果にも表れた。 食品中の放射性物質の検査が行われていることを「知らない」と答えた人の割合は、二〇一三年の二二・四%から徐々に増え、今回はなんと過去最高の六三%にはね上った。「検査結果を知らない」ということは、よい意味に解釈すれば、もはや放射性物質のことは気にしていないということになるのだろうが、そういう無意識に近い状態のままだと突如、危ない情報が飛び込んでくると一気にひっくり返る恐れがある。 福島県の農林水産物のモニタリング検査結果(二〇二二年度)によると、米、野菜、果物、肉類、水産物など四七〇品目で一万二六四件が検査されたが、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルを超えた件数は、牧草・飼料作物の一件だけだった。もはや福島産を気にする理由は全くない状態になっている。こうした地味な調査結果を伝えるのが記者の仕事である。いや記者にしかできない仕事である。その自覚がいまこそ必要だろう。流通事業者の存在意義を示すとき 風評被害の解消に欠かせない存在として、記者以外に見逃せないのが流通事業者である。特に大手スーパーの存在意義は大きい。 もう昔の話になるが、一九九九年に埼玉県所沢市でダイオキシン騒動があった。所沢産のホウレンソウが焼却場由来のダイオキシンで汚染されているというニュースが民放テレビ(テレビ朝日)で流れた。この問題が一気に大きな話題となったのは、大手スーパーが所沢産ホウレンソウの取り扱いを中止したときだった。大手スーパーが取引を中止すれば、当然ながら、記者たちは「危ないネタ」に喜び勇んで駆けつけ、ビッグニュースに仕上げる。以来、ハチの巣をつつくような大騒ぎになった。 この問題は結局、訴訟になり、五年後の二〇〇四年、テレビ局が謝罪し、和解金一千万円を支払うことで終決を見た。深く考えることなく、危ないニュースに飛びつく報道のDNAに警鐘を鳴らす事件でもあった。 結論。処理水の放出にあたって、過去の経験から学ぶべきことは何だろうか。 まず記者は現状を冷静に伝えること、そして安全な情報はたとえ地味ではあっても国民に伝える価値があることを自覚して報じることだ。 一方、流通事業者は風評被害の火付け役になりうる自覚をもち、福島産食品をしっかりと店の棚に置いてほしい(もちろん科学的に安全だという条件付きだが)。店に福島産食品があれば、あえて買うことで福島を応援する消費者もいるだろう。店にモノがなければ、選びようがない。記者と流通事業者が「風評被害を生じさせない」という意識をもつことこそが、処理水放出の成否を握っているのではないだろうか。
- 19 May 2023
- COLUMN
-
経産省 ALPS処理水の風評影響でアンケート調査
経済産業省はこのほど、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の風評影響について、農林水産業(生産者)、食品製造・卸売・小売業者など(生産者以外)を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。復興相をヘッドとする原子力災害に伴う風評対策に関するタスクフォース会合で4月13日に報告されたもの。調査は、福島県およびその近隣道県に所在する事業者を対象として2022年11~12月に実施。生産者以外については、同道県産農林水産物の主要出荷先となる都府県(東京、神奈川、愛知、大阪など)所在の事業者も含んでおり、合計で約3,000件の回答(同一事業者が複数業種で回答したものも含む)を得た。調査結果は、生産者、生産者以外でそれぞれ整理。政府によるALPS処理水の処分方針決定後の販売動向について、生産者では約45%、生産者以外では約40%が「何らかの注視すべき動きがある」と、先行きを懸念していることがわかった。その中で、生産者については、販売価格低下、販売量減少、販売条件の悪化、販売先による取引停止、クレームの増加、問合せの増加の各項目について回答を分析。いずれの項目とも、業種別で、水産業者が最も高い比率で「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしてあげていた。項目別で、全業種ともに最も比率の高かった販売価格低下をあげた事業者は、水産業者で55.1%、米農家で22.9%、野菜農家で19.8%、畜産業者で17.5%、果樹農家で17.1%だった。また、生産者以外については、販売量減少、客数の減少、他地域産品への変更要請・取引停止、問合せの増加、販売価格低下、販売条件の悪化(陳列方法など)、クレームの増加の各項目について回答を分析。「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしては、食品関連業種で販売量減少をあげた比率が高く、食品製造業で29.6%、食品卸売業で29.4%、食品小売業で23.2%だった。同じく、販売価格低下については、食品製造業で12.9%、食品卸売業で19.7%、食品小売業で10.3%だった。外食業・宿泊業では、客数の減少をあげた比率が15.8%で最も高かった。一方で、自由記述の回答や個別ヒアリングの範囲からは、生産者、生産者以外のいずれとも、現時点では、取引停止などの具体的な影響が発生していることは確認されておらず、「将来的な影響の発生を懸念している事業者がほとんど」と考察している。なお、経産省では4月24日、小売関係の業界5団体(日本チェーンストア協会、全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会、オール日本スーパーマーケット協会)と、「ALPS処理水の処分に係る風評対策・流通対策連絡会」を開催。太田房江副大臣より、先の調査で「効果的だと思う取組」として回答割合の高かったモニタリングデータの発信、リーフレット、Q&A集の作成とともに、今後、現場での取組状況を視察してもらう勉強会を企画していることなどが説明された。
- 25 Apr 2023
- NEWS
-
【第56回原産年次大会】大熊町のこれまでとこれから
「第56回原産年次大会」2日目のセッション3「福島復興の今と未来」では、東京電力から廃炉状況の説明を受けたのち、福島県双葉郡大熊町にスポットを当て、震災から12年が経過した現状と今後の取り組みについて、大熊町長の吉田淳氏と大熊町商工会会長蜂須賀禮子氏が講演。モデレーターに長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏を迎え、ディスカッションがおこなわれた。最初に高村氏が「福島復興のこれまでとこれから」について、チェルノブイリ事故と福島第一事故の比較、福島復興、長崎大学による復興支援の取り組みなどを紹介。311事故当時、長崎大学でチェルノブイリ対象の甲状腺がんの診断支援などをおこなっていた高村氏は、事故の一週間後に福島へ入り、事故における危機管理として放射線被ばくと健康への影響などを説明するクライシスコミュニケーションをいわき市から始めたという。長崎大学の福島復興支援事業として翌年には川内村に復興推進拠点を設け、長崎大学の保健師が常駐して、帰還した住民を訪問、あるいは、小さなグループでのリスクコミュニケーションを実施した。現在、川内村では約8割の住民が帰還している。その一方で、事故前には人口約1万人いた大熊町に、現在帰還しているのは10%に満たないなど、12年が経つと復興のフェーズが自治体ごとに異なる現状が顕著に浮き彫りになることを高村氏は指摘。「震災から12年が経過した。今回は大熊町の今について皆さんと思いを共有する機会としたい」と、大熊町町長の吉田淳氏の講演につないだ。吉田氏は、震災から12年が経ち、ようやく復興のスタートを切ることができたと感謝の意を表し「大熊町の復興状況について」と題して、復興の進捗と取り組みを紹介した。大熊町の居住制限区域、避難指示解除準備区域は、2019年4月に避難指示が解除された。帰還困難区域の中の特定復興再生拠点区域(復興拠点)においては2022年6月30日に避難指示が解除された。大熊町で最初の復興拠点となった大川原地区の取り組みについて、令和元年5月に大熊町役場新庁舎が業務を開始し、帰還者のための災害公営住宅や新たな転入者を受け入れる再生賃貸住宅も同年に入居が始まったことを報告。令和3年に宿泊温浴施設「ほっと大熊」、交流施設「linkる大熊」、商業施設「おおくまーと」をオープン。医療・福祉施設診も整備した。認定こども園と義務教育学校が一体となる学校教育施設「学び舎 ゆめの森」では、この4月10日に入園式、入学式、始業式、これらを一つにまとめた始まりの式をおこなった。吉田氏は、学校の再開で、帰還する家族、移住してくる家族が増えることに期待を寄せた。蜂須賀氏は「復興のひかり」をテーマに、東日本大震災から今日に至るまで国内外からの支援に感謝の意を表し、今の思いを語った。かつて蜂須賀氏は大熊町で小さなフラワーショップを営んでいた。地元の中学校の卒業式に花を納め、ほっと一息をつこうとする矢先に大きな地震がおきた。全町避難という命令が出され生活が一変した。震災当時を振り返り、12年が経つ今も「心の安心、心の復興を感じられない」と打ち明ける。今も蜂須賀氏は避難者として、大熊町から60km離れた郡山市で生活し、週に3回ほど大熊町の商工会館に通っているという。大熊町商工会には現在260名ほどの会員がいるが、町内の小さな事業者の廃業は続く。早く帰還できなかったこと、帰還して事業を再開してもきてくれるお客様が戻らないことなど、事業継続の難しさを語った。震災当時、50年間は住めないと言われていた大熊町も、今や12年目にして復興拠点地域には役場新庁舎、復興住宅、集合店舗、交流施設ができ、年間1万人以上の利用者がある。蜂須賀氏は、福島民友に掲載された写真付きの記事を示し、家業を引き継いだり新しい事業を起こしたりと懸命に取り組む大熊町商工会青年部の部員たちの話をした。その中で、ある部員が「福島原子力発電所ができること、働くことを自分たちの親は誇りにしていた。今度は、事故が起きた発電所の廃炉作業に自分たちが参加して、廃炉にしたことを子どもや孫たちに自慢をしたい」と語ったという。「変えられるものが二つある。それは自分と未来だ」という福島の偉人、野口英世の言葉を引用し、「12年間かすかな光の中で歩み、未来に向かう若者が前に進もうとしている。未曾有の事故を起こした発電所の廃炉作業において、科学的根拠に基づき、IAEAなどによる安全性の検証、第三者機関による監視を徹底し、地元住民にクリアな情報を伝えていただかないと自分たちにも若者たちにも未来はない」と、蜂須賀氏の思いがこもる言葉で講演を終えた。その後、高村氏の進行で大熊町の将来について意見交換がおこなわれた。吉田氏は、「大熊町の復興は前町長の渡辺利綱氏の強い思い入れと多くの人の支えがあってこそ。教育や起業する人を応援することが恩返しであると考え、大熊インキュベーションセンターは、家賃や光熱費を安くして若い世代が活用しやすくした」と述べた。蜂須賀氏も、商工会には大熊インキュベーションセンターを利用する若者たちと検討している創業塾を開く計画があるとし、「大熊町で生まれ育った人たちと新しい人たち、新しい風、新しい考え方が加わり、一歩進んだ大熊町になる」と続けた。「医療体制についても浜通りの復興において重要なキーワードになる」と高村氏。これに対し、吉田氏も自身が富岡町に新しくできた医療センターで治療を受けた経験を踏まえ、大熊町にも日常的に救急医療に対応できる医療機関の必要性に同意した。医療と並んで地域の復興に欠かせないものに教育がある。今年の4月に大熊町で教育活動が再開したことについて、「0歳から100歳まで、皆が一緒に学べる場にしたい」と吉田氏は語る。「施設が贅沢ではないかと言われることもあるが、元々は、幼稚園が2つ、小学校が2つ、中学校が1つ、保育所が1つ、児童館があったものを1つにまとめた施設。だからこそユニークな建物になる」と、他にはない施設の魅力をアピールする。蜂須賀氏も「大熊町の『学び舎 ゆめの森』に行かなければ『この授業を受けられないんだ』『こんなに楽しいんだ』」と、通いたい気持ちを持ってもらえるような学校になるよう、地域住民で見守っていきたいとエールを送る。意見交換の締めくくりとして、吉田氏は「大熊町の復興は他の地域に比べると遅れている。約11,500人がいた人口は今なお1,000人弱にとどまる。それでも、大熊町には伸びしろがある。まずは人口を増やす。住む場所を増やす。工業団地も整備を進める。遅れを取り戻すべく、期待と支援をお願いしたい」と語った。蜂須賀氏は「大熊町は夢を描ける街。良い方向に変わっていく大熊町を一緒に見守っていただきたい」とのメッセージを参加者に訴えた。
- 21 Apr 2023
- NEWS
-
福島第一ALPS処理水 IAEAレビュー報告書公表
IAEAは4月5日、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の安全性レビューに関する報告書を公表。IAEAの国際基準に照らし、今後、海洋放出が行われるALPS処理水の取扱いに係る計画進展を評価するものとなっている。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回の安全性レビューは、2022年11月にIAEAの国際専門家(アルゼンチン、中国、韓国、フランス、マーシャル諸島、ロシア、英国、米国、ベトナム)らが来日し実施された。同安全性レビューは、日本政府とIAEAとの間で2021年7月に署名された協力枠組みに基づくもので、2022年2月に続き2回目となる。今回、ALPS処理水の性状、放出管理のシステムとプロセスに関する安全性、放射線影響評価など、8つの技術的事項について確認。報告書では、第1回レビュー(2022年4月報告書公表)での指摘事項に対する適切な対応を評価する一方、東京電力に対し、放射線環境影響評価に係るより明確な説明、定量的な評価を求めている。IAEAは今後、包括的報告書を公表する予定。日本政府はこれを踏まえた上で本年春から夏頃にも海洋放出を開始することとしている。IAEAよるレビューはALPS処理水の放出後も継続される運び。なお、IAEAがALPS処理水の取扱いについて、直近で2022年12月に公表した「IAEAによる独立したサンプリング、データの裏付けおよび分析活動」報告書に関しては、IAEA研究所の専門家が2023年3月28~31日に福島第一原子力発電所を訪れ、放射線核種の分析方法の適切性について現地確認を行っている。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉
- 06 Apr 2023
- NEWS
-
放射線リスクでリテラシーの重要性示す 京大他
京都大学、大阪大学他による研究グループは3月14日、東日本大震災の被災県・首都圏と関西圏の市民を対象に、心理学の観点から実施した食品の放射線リスクに関する調査結果を発表した。9年間にわたり約1,800人の市民に協力を得て、10回の継続的調査を行い得られたもの。〈京大他発表資料は こちら〉それによると、食品の放射線リスクに対する態度について、放射能不安、積極的な情報探索行動、被災地産食品の回避は、時間経過とともに減少する積極的な情報探索行動や放射線に関する知識は、被災地が他の地域より高い被災地産の食品を避ける行動は、被災県では関西圏より少ない――傾向があることがわかった。 調査対象は、被災県(福島・宮城・岩手)、首都圏(東京・埼玉・神奈川)、関西圏(京都・大阪・兵庫)の20~50代の既婚者、各584人、計1,752人(男女各876人)。1回目の調査は発災から半年後の2011年9月にオンラインで実施。2回目以降は、毎年2~3月に同じ回答者に回答を依頼。 同調査では、被災地産の食品を回避する市民の態度について、放射能に対する不安に基づく、経験的で直感的な判断をする「経験的思考プロセス」批判的思考態度やリスクリテラシーなどに基づいて、論理的・分析的な判断をする「分析的思考プロセス」――の2つのプロセスを仮定。被災からの時間経過と被災地からの距離についても焦点を当てた。2つの思考プロセスによる影響に関し、研究グループでは今回、9年間の調査を検証。「不安は、積極的な情報収集を強く促進し、行政の情報に関する信頼度を低下させ、積極的な情報収集は、被災地産の食品回避を強く促進していた」、その一方で、「批判的思考態度は、報道の受け手のメディアリテラシーを高め、メディアリテラシーは、被災地産食品の回避を抑制していた」などと考察した。さらに、研究グループでは、「震災直後は、市民の放射線による健康への影響に不安が高まったことが、『経験的思考』による感情的・直観的判断プロセスを通して、積極的な情報探索と被災地産食品の回避行動を促進した」、その一方で、「『分析的思考』という論理的判断プロセスが、批判的思考態度を促進し、リスクリテラシーを喚起したことで、被災地産食品の回避を抑制した」と分析。調査結果を踏まえ、「日本国民の放射線リスクに対する反応の長期的な変化を解明する手がかりになる」とコメントしている。
- 20 Mar 2023
- NEWS
-
処理水報道に見る新聞の「ワンパターン構図」が風評抑制の足かせか!
二〇二三年三月十七日 一〇〇〇回の説明会 福島第一原発に溜まる処理水の放出に関する最近の新聞記事を読みながら常に感じるのは、報道の構図が以前と全く変わらないことだ。悪く言えば、どの記事も代わり映えのしないワンパターン記事なのである。 処理水に関する報道舞台に登場する役者は、主に政府、東京電力、漁業関係者、国民(消費者)、流通事業者、学者、メディアの7人だ。大半の新聞記事では、役者たちの役割は決まっている。政府と東京電力に対しては、「風評の払しょくに向けて、もっと努力すべきだ」という役割が与えられ、国民は「不安と風評への懸念を表明する」立場であり、漁業関係者は「反対」を表明する位置づけだ。福島の食品を扱う食品流通事業者の役割はきわめて重要だが、登場頻度は低い。学者は媒体の性格に合わせて、安全と言ったり、危ないと言ったりする役目だ。メディアはこれらの役者の声を聞いて、「風評への懸念は根強い。国民の理解は不十分だ。政府はもっと国民の理解促進に努めるべきだ」と書き立てて騒ぐだけである。まとめ役のメディアがまるで他人事のように記事を書いているせいか、ワンパターン記事が量産されているのが実情である。 こうした報道の構図が続く限り、風評の解消は難しい。読売新聞は三月八日付朝刊の「東日本大震災12年 新たな課題③」で、政府はこれまでに正しい知識や理解を広げる説明会や座談会を約一〇〇〇回も開いてきたと報じていた。政府や東京電力がここまで努力しても、風評被害の懸念がなくならない背景には、報道に何か構造的な欠陥があるのではないか。記者の突っ込み不足 まず気づくのは、記者たちが風評を抑えるためにどういう情報を出せばよいかを真剣に考えていないことだ。風評を抑える役目はあくまで政府と東京電力であるといった報道の構図があるのだろう。 ところが、ここへ来てややトーンが変わってきた兆しが見えた。読売新聞は三月八日付朝刊で野崎哲・福島県漁連会長の談話を載せた。「放出は了解できない」とした上で「廃炉が確実に進むことが重要だ。極端な対立構造にするつもりはない」との見方を載せたのだ。これまで漁業関係者の言葉はたいてい「断固反対」だったが、「極端な対立構造にするつもりはない」というコメントは新鮮であり、何かしら前進へのシグナルにも思えた。 残念なのは、記者の突っ込み不足だ。「対立構造にするつもりがない」という言葉を聞いたならば、「では、どういう着地点、解決策を考えているのか」を聞き出して、提案型の記事にしてほしいのだが、その突っ込みがない。 仮にこの記事をきっかけに関係者が歩み寄れる接点が見つかれば、記者冥利に尽きると思うが、こういう問題解決型の記事を記者は志向していないようだ。「反対ばかりもしていられない」の先は? 同様のことは朝日新聞の記事でも見られた。今年二月二十六日付朝刊で「近づく海洋放出、福島の葛藤」との見出しで風評懸念を報じたが、私の注意を引いたのは、漁業者が「海洋放出には反対だ」とする一方、「ただ反対ばかりもしていられない」との言葉だった。記者が「反対ばかりもしていられない」という漁業者の気持ちを載せたということは、おそらく記者も同じような思いを抱いたに違いない。ならば、何をすればよいのかをさらに漁業者に尋ね、その思いを記事にしてほしかったのだが、その肝心な点がない。 せっかく漁業者の「反対ばかりもしていられない」という肯定的な話を引き出したのだから、何か建設的な提案を漁業者から引き出して報じてもよさそうだが、記者はそれ以上深く突っ込んでいない。NHKはお手本のような報道だった もはや新聞記事には風評の払しょくは期待できないかと諦めかけていたときに、NHKが風評を抑えるお手本のようなニュースを流した。 それは三月九日夜のNHK「ニュースウオッチ9」の処理水に関するニュースだった。これは明らかに風評被害を食い止めようとする記者の熱い意志がひしひしと感じられる構成だった。前述の新聞報道と明らかに異なるのは、消費者や流通事業者が福島産の魚を肯定的に受け止めている光景を大きく取り上げたことだ。東京都内で行われたイベント紹介で、女性2人が「原発のイメージとか関係なく、福島の美味しいものは積極的に食べておきたい」と笑顔で話す内容を流したのだ。 さらに東南アジア諸国からの輸入規制も緩和されている様子を伝え、タイのすし店のマネージャーが「支援したい福島の魚を自信をもって提供したい」と語り、それを美味しそうに食べる女性まで映し出した。また、福島県の小名浜魚市場を視察した流通事業者の姿も追い、飲食店のプロデューサー2人が「ここまで徹底して安全性を確かめていることを伝えていくことは協力できる」と語る感想も報じた。新聞と異なり、テレビの映像のインパクトは強い。 このNHKのニュースからは、風評被害を止めるのは政府と東京電力の役割だといった固定観念が見られない。若き漁師の熱きメッセージ さきほどのNHKのニュースに感心さめやらぬ中、今度は三月十三日夜の日本テレビ「news zero」で、福島の漁師から頼もしい言葉を聞き、胸が熱くなった。 同番組は、トリチウムを含む処理水は世界中の原子力施設から海などに放出されているという地図を見せたあと、タレント・俳優の櫻井翔氏のインタビューに応じた福島の若き漁師(20歳)を映し出した。その漁師が「『福島の魚嫌だ』という人がいるかもしれないけれど、福島の魚は実際に食べてみると安全で、メチャクチャ美味しい」と熱く語ったのだ。 福島の魚に抵抗感をもっている人をはねつけるのではなく、そういう不安な感情に寄り沿って共感しながらも、「でも、福島の魚は安全だし、絶対に美味しい」という自信あふれるメッセージを発信したのだ。私がメディアの世界で漁業関係者に期待していたのは、この青年のような言葉だった。 海洋放出に反対する国民の気持ちも理解できるが、それでも「福島を支援してください」という温かいメッセージを届けることが共感を得るのだ。あの青年を見ていて、私は福島の魚を大いに応援したいという気持ちになった。これこそが共感を呼ぶニュースだ。新聞に見られる傍観者的なニュースとは正反対である。 とはいえ、「風評の解消に努めるべきは政府と東京電力であり、なぜ国民や漁業関係者がそれに協力しなければいけないのか」という疑問を持つ人もいるだろう。しかし、いくらSNSが発達しているとはいえ、政府がTwitterやYouTubeなどで福島の情報や動画を流したところで国民に届く情報量はたかが知れている。やはり、いまなおマスメディアの役割は大きい。 新聞をはじめ、メディアの主要な役割は政府の権力が暴走しないよう監視することだと心得ているが、こと風評の抑制が目的なら、メディアと政府が対立する必要はなく、ともに連携してもおかしくないはずだ。処理水の海洋放出が始まれば、おそらく中国や韓国から『福島産の魚介類は危ない』といった声が上がるだろう。そうした海外からの圧力をはね返すためにも、新聞はもっと風評への懸念解消を志向した記事を心掛けてほしい。
- 16 Mar 2023
- COLUMN
-
原子力学会「春の年会」 東大で4年ぶりの対面開催
社会学の視点から原子力の風評問題に取り組む関西大・土田氏(写真は2021年の文科省主催シンポにて)日本原子力学会の「2023年春の年会」が3月13~15日、東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区)で開催された。同学会では毎年、春と秋にそれぞれ年会、大会として研究発表の場を設けているが、「春の年会」の対面での開催は4年ぶり。今回の年会では、3日間で約150件のセッションが設けられ、同学会の専門委員会・ネットワークなどが活動成果を報告し、来場者を交え意見交換を行った。初日の13日に行われた「原子力に関わる人文・社会科学的総合知問題」研究専門委員会と社会・環境部会との合同セッションでは、風評問題をテーマに議論。同専門委員会は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いを巡り顕在化してきた原子力の風評問題をとらえ、社会的課題の解決に向け分野を横断した「総合知」を活用する必要性から、2022年4月に設置された。同セッションでは、土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授、座長)、佐田務氏(日本原子力研究開発機構広報部)、寿楽浩太氏(東京電機大学工学部教授)、関谷直也氏(東京大学大学院情報学環准教授、基調講演)が登壇。これまでの検討状況を発表するとともに、一般来場者も交え総合討論を行った。JCO臨界事故(1999年)を契機に社会心理学の立場から原子力の風評問題に関わってきたという関谷氏は、いわゆる「うわさ話」に関し、流言、都市伝説、ゴシップ、デマ、スティグマ(差別・偏見)、パニックなどに分類。最近の「件」(くだん、「人面牛」の様相をした妖怪で絵図を掲げることで厄除けになるといわれている)に関する都市伝説にも言及した。風評被害については、過去の事例分析から「本来、安全とされる食品、商品、土地、企業などを人々が危険視し、消費や観光を忌避することによって引き起こされる経済的被害」と定義。同氏は「うわさは関心の強い人や不安を感じる人の間で流れるが、風評被害はどちらかといえば関心の低い人の間で引き起こされる現象。両者を区別して考える必要がある」と指摘した。水産物の風評影響については、第五福竜丸の被爆(1954年)、原子力船「むつ」の放射線漏れ(1974年)、敦賀発電所の放射性物質漏えい(1981年)にさかのぼり、損害賠償・訴訟の歴史を説明。福島第一原子力発電所事故後、設定された食品中の放射性物質に関する基準値に対する人々の見方にも触れた上で、関谷氏は、風評の原因・対応の難しさとして報道や流通に係る問題をあげ、「物理的な正しさだけでなく、心理的な納得にも向かい合わねばならない」と述べた。総合討論に移り、流通の問題について、地層処分の社会学的側面に関する研究にも取り組む寿楽氏は、「被災地以外の産地に移っていく消費者の購買志向をくい止めるのはなかなか難しい」などと、産業構造上の課題を示唆。一般来場者からは、所沢ダイオキシン騒動((1990年代後半、一部マスコミの「高濃度のダイオキシン検出」との報道により埼玉県所沢市を中心に野菜価格の暴落を招いた))にも鑑み、いわゆる「風評加害」を危惧する意見もあり、原子力分野の報道対応に長く携わる佐田氏は、インターネットを通じた情報拡散に問題意識を示したほか、「安全・危険の尺度」が人によって異なること、政治への不信感が背景にあるなどと指摘した。今回の年会では、原子力分野のジェンダーバランス、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けたアカデミアの役割に関するセッションも設けられた。次回、「秋の大会」は、9月6~8日に名古屋大学で開催予定。
- 15 Mar 2023
- NEWS
-
消費者庁が食品風評で調査 放射線による忌避は減少傾向
消費者庁は3月10日、風評に関する消費者意識の実態調査結果を発表した。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故を受け実施しているもの。初回調査は2013年2月に実施され今回で16回目。今回の調査は、2023年1月、被災地域(岩手県、宮城県、福島県、茨城県)および、その主要出荷先(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県)に居住する20~60代の男女約5,200名を対象にインターネットを通じて行われた。それによると、「普段の買物で食品を購入する際に、その食品がどこで生産されたかを気にされますか」との問いに対し、「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人の割合は、59.1%で、前回調査(2022年2月)の61.0%より減少。その理由(複数回答可)にとして、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人は10.5%(調査対象者全体に対し)で、これまでの調査で最小となった。最も多かったのは「産地によって品質(味)が異なるから」の24.2%(同)だった。食品中の放射性物質を理由に購入をためらう産地を尋ねたところ(複数回答可)、東北全域が1.5%(初回調査では6.6%)、北関東が1.4%(同8.1%)、被災地を中心とした東北が3.8%(同14.9%)、福島県が5.8%(同19.4%)で、いずれの対象地域も減少傾向にあり、これまでで最小となった。一方、「食品中の放射性物質の検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合は、近年、大きな変化は見られないものの、初回調査では22.4%だったのが、今回は63.0%で、これまでで最大となった。また、「風評を防止し売られている食品を安心して食べるために、どのようなことが行われるとよいか」を尋ねたところ(複数回答可)、「それぞれの食品の安全に関する情報提供(検査結果など)(48.0%)、「食品に含まれる科学的な説明」(32.5%)、「それぞれの食品の産地や産品の魅力に関する情報提供」(31.2%)が上位を占めた。消費者庁では、内閣府食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、経済産業省とも連携し、都市部を中心に、生産者、加工・流通業界、消費者団体が食品に関するリスクコミュニケーションをテーマに話し合うシンポジウムを継続的に開催するなど、情報発信や意見交換に努めている。
- 13 Mar 2023
- NEWS
-
信頼なき安全への挑戦
「東日本大震災の後、原子力は信頼を回復できたのか」この12年間、私たちはこの問いを幾度となく口にし、耳にしてきました。そしてその問いに対する「まだ十分ではない」「さらなる努力が必要」という回答もまた、繰り返されてきたように思います。では将来原子力は、震災前と同じだけの信頼を人々から得る日が来るのでしょうか。私は、それは難しい、と感じています。それは原子力が危ないものだから、とか、関係者の努力が足りないから、という意味ではありません。今、世界中で「世間に信頼される組織」という存在自体がなくなりつつある、と感じるためです。メディア民主化の時代、大衆の信頼を得るための努力を、どこまで続けるのか。私たちはそのことを見直さなければならない時に来ているのかもしれません。アラブの春、福島の春2010年、中東・北アフリカ諸国では、「アラブの春」と呼ばれる同時多発的な反政府デモが勃発しました。この民主化運動が国境を超えて一気に広まった背景には、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)によるリアルタイムの情報共有能力の強化があると言われています。それまでハコの中でツブやく遊び、と見られてきたSNSが、現実社会の革命や政治にも力を及ぼすようになった。福島第一原子力発電所事故は、そのような「メディアの民主化」時代の幕開けに起きた災害でした。その結果福島では、放射能についての真偽入り乱れた情報がSNSを介して一瞬で拡散し、世界規模の不安と風評被害をもたらしています。私がSNSの影響を実感したのは、震災5年後に、福島県内のある対話の会に出席した時のことでした。そこにいらした70代の参加者が、会の最後にこんな感想を述べられたのです。「私は今日初めて、『甲状腺がんが増えているかもしれない』という説があることを知りました。」その方は夫婦二人暮らしでSNSとは無縁であり、普段の情報源は新聞とNHKニュースのみだったそうです。実際、甲状腺検査についての議論がマスメディアで報道されるようになったのは、震災6年後の2017年頃からのことのようです。自分の目からはとても大きく見えていた社会問題も、実はインターネットの中でのみ起きていることがある。そう思い知らされる出来事でした。「全員勇者」の世界マスメディアに比べてSNSが特に力を発揮するのは、二項対立の議論、とくに人々が権力や権威に反対する「対立の連合」((ウルリッヒ・ベック「世界リスク社会論」(ちくま学芸文庫).P116))を形成する時だと思います。この連合は明確な形を持たず、大きさすら分からない匿名の集団として存在するため、容易には消滅しません。その在り方はテロ組織にも似ていますが、それ以上に厄介なのは、この連合が「ある存在(意見)に対立する」という目的のみを共有し、それ以外の統一性は皆無であることも多い、という点です。言い換えれば、人々は各々が勇者となって巨悪と戦っている、というストーリーこそを共有しているように見えます。その結果、いくら個々のつぶやきを論破しても、それに更に対抗する匿名の英雄たちがどこからともなく現れ続けることになります。それは現実世界の権威を破壊する「メディアの民主化」の一番の強みでもあり、また社会問題でもあるでしょう。貢献と感謝が生む不信運動「そんなネット上のつぶやきなど無視して、現実世界で貢献していれば信頼は得られる」現場感覚を持つ方の中には、そう考える人も多いと思います。実際に、地域の創生・支援活動への貢献と感謝、という実体験を求めて福島県を訪れる方々は少なくありません。しかし、もしそれを「業界が世間の信頼を取り戻すための投資」と考えるのであれば、それはおそらく間違いでしょう。たとえば地元ではこんな声を聞いたこともあります。「イノベーションコーストとか再エネとか色々やっているみたいだけど、結局ヒラメ御殿やイチゴ御殿の代わりに再エネ御殿が建つだけでしょ」「スタッフ個人はいい人がいるかもしれないけど、会社はそんな人を利用しているだけ」この程度の不満の声はいつの世も聞かれたものでしょう。しかし今が昔と違うことは、そのつぶやきがSNSをエコーチェンバーとして、意外な大きさで社会へ拡散し得る、ということです。どんなに地元に貢献し、地域の信頼を得ても、いやむしろその活動が耳目を引くほど、SNS上ではそれに対する不信を煽る発言も同時に増えてしまう。そう考えれば、このようなネットワーク上の「大衆」に対し、これまでのマスメディアを用いた宣伝などで「信頼を得る」ことが難しいことが分かります。信頼なき安全の形今ある原子力への不信は、確かに福島の災害が引き金となっています。しかしその不信は、どんなに地元の信頼を得ても根本的にはなくならない、というのが私の考えです。この1年間、ウクライナ戦争や石油価格の高騰により、ベースロード電源としての原子力発電が急速に見直されつつあります。これを「原子力が人々の信頼を再び勝ち取るチャンス」と眺めている人もいるかもしれません。しかし古き良き企業像が失われている今、原子力が「信頼される正義の味方」となる時代は来ないのではないでしょうか。復興は「復旧」ではない。それは恐らく、被災地だけではなく原子力の世界でも同じことでしょう。「大衆の信頼」という概念が失われつつあるこの時代の、新たな安全の形。今私たちはそんなイノベーションの機会に直面しているのかもしれません。
- 17 Feb 2023
- COLUMN
-
日・ミクロネシア会談 パニュエロ大統領が福島第一ALPS処理水に係る取組に理解
岸田文雄首相は2月2日夕刻、ミクロネシアのデイビッド・W・パニュエロ大統領と総理官邸で会談。両国間の協力関係のさらなる発展に向けたコミットメントを確認する中で、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いについても話し合った。〈外務省発表資料は こちら〉岸田首相は、「ALPS処理水の海洋放出は、環境および人の健康に害がないことを確保した上で実施されること、日本は引き続きIAEAのレビューを受けつつ、太平洋島しょ国・地域に対し、高い透明性をもって科学的根拠に基づく説明を誠実に行っていくこと」を説明。これに対し、パニュエロ大統領は、駐ミクロネシア日本大使によりALPS処理水に関して透明性ある説明がなされていることに謝意を表明。その上で、「以前に国連総会で述べたほどの恐れや懸念はもはや有していない。こうした説明によって、今や、われわれが共有する海洋資産および資源を傷つけないという日本の意図、技術力をより深く信頼している」として、ミクロネシア国内のALPS処理水に係る理解に向けた日本の取組を高く評価した。日本および大洋州の計19か国・地域の首脳が参加した第9回太平洋・島サミット(2021年7月、テレビ会議)で、菅義偉首相(当時)は、「国際基準を踏まえた規制基準を遵守してALPS処理水の海洋放出を行うこと、IAEAと緊密に協力し、科学的根拠に基づく説明を引き続き提供すること」を説明している。日本と太平洋島しょ国との首脳レベルの会談でALPS処理水について話し合われた最近の例としては、2022年9月の日・パラオ会談があり、その中で、パラオのスランゲル・S・ウィップス・Jr.大統領は、岸田首相による説明に対し、日本の「緊密な対話を継続する」との意向に歓迎の意を示した。ALPS処理水の海洋放出開始時期については、去る1月13日の関係閣僚会議で、「本年春から夏頃と見込む」とされ、政府では引き続きALPS処理水の性状や安全性に関し、関係省庁の連携による国際社会への戦略的な情報発信に努めている。外務省では、在京外交団向けテレビ会議説明会の他、昨年末にはユーロニュース社(フランスに拠点を置く欧州のニュース専門放送局)とタイアップし、専門家や福島の方々へのインタビューも交えた短編の解説番組を制作。ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、トルコ語、ペルシャ語、アラビア語など、多言語で全世界に放送されている。
- 03 Feb 2023
- NEWS
-
「原産シンポジウム」開催 福島県立医大・坪倉氏が講演
原産協会は1月19日、日本工業倶楽部(東京・千代田区)で「原産シンポジウム」を開催。今回は、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授の坪倉正治氏が「放射線の健康影響の基礎知識と原発事故後の健康課題」と題して講演を行うセミナー形式となり、会員企業・組織から約60名が参集した。坪倉氏は、もともと東京で血液内科医として医療に従事していたが、東日本大震災後は、福島県の相馬中央病院と南相馬市立総合病院を往復しながら、通常の診療に加え、ホールボディカウンターを用いた内部被ばく検査や住民への放射線影響に関する説明会など、被災地支援に取り組んできた。講演の中で、同氏は、発災後のおよそ12年間を振り返り、「どのような健康課題に住民は直面してきたか」を時系列的に整理。特に、避難後、施設に入所していた高齢者の死亡リスクが急増したことに関し、南相馬市内5施設の集計から「避難後3か月間以内で、実に25%の方々が亡くなった。これはすさまじい数だ」と指摘。仮設住宅への移住に伴うメンタル面・地域コミュニティの問題を始め、生活習慣病の増加、かかりつけ医との疎遠・がん検診の希薄化などを要因に掲げ、医療従事者の立場から「避難中に亡くなられる災害関連死を忘れてはならない」と強調した。発災から数年以降に関しては、介護サービスに係る地域間格差の他、偏見・デマの影響など、社会環境の変化に伴う要因にも言及。総じて、「健康問題を個人の意思や行動の帰結として捉えるのではなく、社会や周辺環境によって規定されている、と考えることが重要」と訴えかけた。さらに、福島第一原子力発電所事故に伴う放射線被ばくによる健康影響については、「リスク的にはゼロとはいえないが、健康問題をトータルでみた場合、中心となる放射線被ばくよりも、周辺の影響の方が爆発的に大きい」と強調。これまでにみられた被災地住民の健康状態悪化・回復のジグザグ傾向に関し、「半年から1年のタームで様々な環境変化が繰り返されてきた」ことを要因としてあげた上で、現状の行政支援システムから、避難指示解除以降の「戻りたくても戻れない人へのケア」の手薄さに懸念を示した。坪倉氏は、放射線の健康影響の基礎知識や福島県民の健康調査についても概説。同氏は、地元の学校に赴き生徒・教員に対し放射線に関する講義を行うなど、次世代層への普及・啓発に努めているが、「最近では震災を知らない子供たちが増えてきた。まず『なぜ学ぶのか』から説明しないといけない」と、課題をあげた上で、環境省が開設し若手中心で放射線の正確な情報発信に取り組む「ぐぐるプロジェクト」を課題解決に向けた一例として紹介した。福島第一原子力発電所事故による放射線影響の評価について、坪倉氏は、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2020年報告書(2021年3月公表)を紹介。同報告書の主な結論として、「放射線被ばくが直接原因となるような将来的な健康影響はみられそうにない」ことなどをあげた。UNSCEARは科学的・中立的な立場から放射線の人・環境への影響調査・評価などを行う国際機関で、昨夏、2020年報告書の日本政府への手交のため来日した同組織のギリアン・ハース前議長は、取りまとめに当たった者として、「この報告書がもたらす主たる結論は堅固なもので、見通しうる将来に向け大きく変わるものではない」と、普遍性を強調している。
- 25 Jan 2023
- NEWS
-
ALPS処理水第2回規制レビュー IAEAが妥当性確認
会見を行うIAEA・カルーソ氏(フォーリン・プレスセンターホームページより引用)福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱いに関する国際原子力機関(IAEA)の規制レビューチームがこのほど来日。2022年3月に続き2回目となる規制レビューを完了し、20日、IAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官のグスタボ・カルーソ氏は、記者会見を行い、「前回のミッションで出たほとんどの問題について考慮されていることを確認できた」として、原子力規制委員会の審査や認可プロセスの妥当性を首肯した。1月16日からの日程を終了し、フォーリン・プレスセンターで記者会見に臨んだカルーソ氏は、規制委員会へのヒアリングや現地調査の結果を踏まえ「国際的な安全基準に合致した形での放出に関する規制のコミットメントの現れだ」と評価。日本政府の関係閣僚会議は1月13日に、「海洋放出設備工事の完了、工事後の規制委員会による使用前検査やIAEAの包括的報告書等を経て、具体的な海洋放出の時期は本年春から夏頃を見込む」としている。同氏は、海外メディア・在日大使館関係者からの質問に対し、国際安全基準の厳格さ・透明性を強調。「これから放出が行われるまでの検査活動にさらに注目していく」と述べ、今回のミッションに関する報告書を3か月以内に、本年半ばを目途にIAEAとしての包括的な報告書を公表することを表明した。ALPS処理水に関する理解醸成として、資源エネルギー庁では最近、国内向けのテレビCM放映・新聞広告掲載の他、韓国政府向けのテレビ会議説明会を実施。東京電力では、海外向けの処理水ポータルサイト(中国語・韓国語版)のリニューアルを昨年末に行っている。〈東京電力発表資料は こちら〉
- 23 Jan 2023
- NEWS
-
いよいよ処理水の海洋放出 不安を煽る地方紙の社説ワースト3に愕然!
二〇二三年一月十八日 福島第一原子力発電所に林立するタンクの処理水が今年、いよいよ放出を迎える。風評被害が抑えられるかどうかが最大の懸念材料だが、地方紙の社説が風評を起こす盲点になっていることに気づいた。大半の地方紙は福島から遠く離れているせいか、まるで他人事のように不安を煽る社説が多い。社説ワースト3を紹介しよう。 処理水に関する社説は、これまで主要6紙(読売、朝日、毎日、産経、日経、東京)ばかりを読んでいたが、改めて地方紙の社説をネットで検索して読んでみたところ、そのあまりのヒドさに絶句する心境に何度か陥った。福島から離れた県民ほど、福島産食品の実態(放射線量が検査されて安全だという事実)を知らない人の割合が多いという事実をよく聞くが、その背景には、不安や恐怖を煽る地方紙の社説があるのではないか。そう思いたくなるほど劣悪な内容の社説に出合った。驚嘆に値する琉球新報 たとえば、琉球新報(二〇二二年五月二十一日付)。見出しは「原発処理水計画認可へ『汚染水』放出は無責任だ」。海へ流すときの処理水は、汚染水とは言わないが、あえて不安をかきたてる「汚染水」という言葉を使う。見出しを見ただけで悪意ある社説だとわかる。 中身は驚嘆に値する。自然界や人体にも微量ながら存在するトリチウムについて、同社説は次のように書く。 「水素の同位体トリチウム(三重水素)は放射性物質である。希釈すれば放出してもいいということに、地元関係者をはじめ多くの人が疑問を持っている。…廃炉作業が続く限り生成が続き、排出量は増していく。漁業者が反対し、住民が懸念するのは当然だ。海洋放出は無責任だ。…東電は『処理水』とするが、トリチウムが残る限り『汚染水』である」。 トリチウムは通常の原子力発電所の運転でも発生する。世界中の原子力施設が放出基準を順守しながら、トリチウムを海などに放出しているという事実を無視し、一方的に「汚染水だ」と決めつけて不安を煽る。 社説は続く。「矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授(物性物理学)は『トリチウム水は普通の水と同じ性質だが、質量が大きい分、気化もしにくく生物濃縮も起きやすい。細胞内でDNAを傷つける可能性がある』と指摘する」と恐怖を煽る。 水と同じ性質をもつトリチウムが生物の体内で濃縮することはないというのが科学者の共通認識である。つまり、「生物濃縮が起きやすい」は間違いである。もし濃縮する生物がいるならば教えてほしい。そのような生物がいるならば、むしろ濃縮に活用できるからだ。 この社説は、現在の科学的な共通認識とは明らかに異なる一部の異端的な意見だけを取り上げて恐怖を煽る手法そのものである。社説を書く論説委員は科学を重視するタイプの記者だと思っていたが、違うようだ。福島の痛みがまるで分っていない 琉球新報は約二か月後の七月二十七日付社説でも、同様の論説を繰り返した。 「安全性に問題はないというのが理由だが、果たしてそうなのか。疑問は尽きない。海に流してしまうということには地域、漁業者らに加えて国際社会にも批判がある。…このまま海洋放出計画を進めるのは無責任である。放出以外の方法を引き続き検討すべきだ。トリチウムは放射性物質である。トリチウムが残る限り『汚染水』である。いくらトリチウムの濃度を下げるといっても、これを海洋に出すことの影響はどうなのか」。 またしても悪意に満ちた「汚染水」という言葉を使っている。不安を煽って福島産食品の悪い風評を広めれば、福島県民が悲しむことくらいは、米軍基地を抱える沖縄であればわかりそうなものなのに、まるで傍観者である。中国や韓国の立場に立つ中國新聞 中國新聞(二〇二二年七月二十四日付)もひどい。 「処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない。それが確認されなくても風評被害を招くことは避けられまい。地元の漁業者を含め、全国漁業協同組合連合会が激しく反対している。政府や東電が放出計画を強引に進めることなどあってはならない。ただALPSでトリチウムは除去できない。政府は『原発の排水にも含まれている物質』と危険性の低さを強調するが、体内に蓄積される内部被曝(ひばく)の影響まで否定できるものではない」。 トリチウムは人の体内で蓄積しないというのが科学者の共通認識だが、琉球新報と同様にトリチウムの体内蓄積で健康被害が起きるかのような論説だ。 さらに「規制委の認可に韓国は『潜在的影響』への憂慮を示し、責任ある対応を日本政府に求めることを決めた。中国は『無責任』と激しく反発している。福島第一原発事故に由来するセシウムが北極海にまで広がっていた事例も報告されている。人体に静かに蓄積され、長期間にわたり被害を及ぼしかねないことを踏まえれば、海洋放出の判断には慎重を期すべきだ。子や孫やその先の世代に影響が出ても、その時に今回の認可の責任を取れる人は誰もいないことを忘れてはならない」。 いったいどこまで脅せば気が済むのか。これはもはや論説というよりもアジテーション(煽動)である。中国や韓国の立場に立って、日本を非難するのも琉球新報と同じ手法だ。孫の代まで影響が及ぶかのごとく主張するが、何の根拠もない。こんなひどい社説が堂々とまかり通っているという事実に愕然とせざるを得ない。言葉を捻じ曲げて伝えた佐賀新聞 佐賀新聞(二〇二二年七月二十三日付)も悪意に満ちている。 「第一原発では炉内冷却のための注水や建屋に流れ込む地下水、雨水によって大量の汚染水が発生している。これを特殊な装置で浄化したものを『処理水』というが、トリチウムなど取り切れない放射性物質が含まれる汚染物質であることに変わりはない」 やはり、この社説でも「汚染」という言葉を強調する。どの新聞が不安を煽っているかを知る指標は、海に放出する水を「汚染」と呼ぶかどうかでわかる例でもある。 続けて、同社説は「海洋放出に関してより重要なのは、これらの科学的、工学的な評価ではなく、社会的な合意という問題だ。東電は『地元の合意なしには放出はしない』としているし、立地自治体と結んでいる協定では、放射性物質の影響が及ぶ可能性がある施設を新増設する場合、地元の事前了解を得る必要がある。だが、東電はどのような形なら地元合意が得られたと考えるのかを明確にしていない」と書く。 ここでは絶妙なトリックも披露している。「地元の合意なしには放出はしない」は誤りで、正しくは「地元の理解なしには」である。「理解」と「合意」では雲泥の差がある。たとえ海洋放出に反対であっても、理解を示すことはありうるからだ。この部分は、本来なら、「『合意』は『理解』の間違いでした」と訂正が必要だろう。社説の筆者は、勝手に「理解」を「合意」という言葉にすり替え、「東京電力は合意を無視して、海洋放出を強行した」というイメージを作り出したいのだろうと推測する。 この佐賀新聞の社説は最後に署名があり、共同通信社の論説委員が書いたものだと分かった。共同通信社の体質がよくわかる好例でもある。地方紙の大半は「海洋放出に反対」か ここに挙げたワースト3以外にも京都新聞、神戸新聞、西日本新聞の社説は風評被害を助長する内容だった。ネット検索だけでは、すべての地方紙の社説が読めるわけではないため、ワースト3といっても、おそらく氷山の一角だろう。 これらの社説を通じてわかることは何だろうか。確たることは言えない(おそらく当たっていると思う)が、福島県の地方新聞を除き、地方紙の大半の社説は「海洋放出」に否定的もしくは反対の論説を掲げていることが推測される。その背景には地方紙にニュースを提供している共同通信社の影響が大きいだろうとみている。処理水の海洋放出に対する共同通信社の姿勢はたいていの場合、不安を呼び起こすネガティブな内容だからだ。社説も例外ではない。 共同通信社は一九四五年に全国の新聞社やNHKが組織した一般社団法人の通信社(職員約一七〇〇人)である。新聞を発行しているわけではないが、全国の都道府県に記者を配置し、地方紙に記事を配信しているため、実は予想以上に大きな世論喚起力をもっている。地方紙は一般的に自らの県と東京・大阪以外には記者を配置していないため、記事の大半を共同通信社からの配信記事で埋めている。 つまり、地方紙を読んでいる読者は、共同通信社の記事を読んでいるのに等しいのだ。私があえて「共同通信社の影響が大きい」と形容したのは、そうした地方紙と共同通信社の関係を指しているわけだ。 地方紙に記事を配信している通信社としては、他に時事通信社(株式会社)もあるが、従業員は共同通信社の半分の約八七〇人しかいない。国内の五十四か所に記者を置いているが、地方紙に採用される率は低いので、影響力は共同通信社に比べて弱い。地方紙の多くは福島の痛みに共感せず そして、もうひとつ地方紙に共通することは、ここに挙げた琉球新報、佐賀新聞、中國新聞のように、福島の痛みを自分事の痛みとして感じていないことだ。どの社説も中国や韓国の言い分を嬉々として載せているのも、不快な気持ちにさせる。中国や韓国はトリチウムを含む水を福島の海洋放出基準以上の濃度で海へ放出している。それに触れることなく、中国や韓国側の非難の声を載せるという報道行為は、日本が海外から批判され、風評被害が生じるのを喜んでいるとしか思えない。 三つの社説を読んだだけでも、多くの読者は「ここまでひどいとは思わなかった」と嘆きの声を抱いていることだろうと想像する。中央の主要6紙の購読部数が大きく減る中、地方紙の影響力が相対的に大きくなっている。そういう中で煽動的な地方紙の社説はまさに盲点だった。共同通信社と地方紙の論調にもっと目を光らせていくことが必要だろう。
- 18 Jan 2023
- COLUMN
-
韓国NGOが福島第一を視察 ALPS処理水の正しい情報発信に向け
韓国のNGO団体「The Fact and Science」が12月13日、福島第一原子力発電所を訪れ、廃炉作業の進捗やALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の放出に向けた準備状況などを視察した。〈東京電力の資料は こちら〉同団体は、「事実と科学に基づく合理的な問題解決を通じた先進的な社会構築」を目指し、2018年に韓国内で設立されたネットワーク。前政権の脱原子力政策に対し、新聞広告、署名活動、セミナー開催、SNSなどを通じ、原子力や放射能に関する正しい情報発信を求めてきた。韓国の前政権による「福島第一原子力発電所の敷地に保管された汚染処理水は放出してはならない危険物質」という主張は、まだ多くの韓国人の脳裏に強く残っている。そのため、処理水がどのように管理されているか直接確認し、正確な情報を韓国政府、国会議員、韓国国民に伝えることを目的に、同団体ディレクターのパク・ギチョル氏(元韓国水力・原子力会社〈KHNP〉副社長)ら7名が福島第一原子力発電所を訪れた。一行は、1~4号機全景の他、原子炉建屋内の冷却に伴い発生する汚染水を浄化処理する多核種除去設備(ALPS)、ALPS処理水の海洋放出に係る設備の建設現場、測定・確認用タンクエリア、環境モニタリングの一環として行う海洋生物飼育試験の施設などを視察。視察後、「ALPS処理水の海洋放出については、まずは地元の方々の理解を得なければならない。大変なことだが、信頼を得られるよう願っている」とコメント。同NGOでは、今回の福島第一原子力発電所訪問に関する出版物を検討中とのこと。現場を訪れた所感として、「数千人もの人員が復旧のために黙々と働く姿はとても感動的だった」と述べた。ALPSで取り除くことのできないトリチウムに関し、韓国他、多くの国の原子力施設で排出されている事実に触れた上で、「韓国では海洋放出に反対する人々がまだ大勢いる。福島第一原子力発電所に対する歪んだ情報を正し、事実と科学に基づき原子力発電と放射能に対する誤解と恐怖を払拭していきたい」と意気込みを語った。
- 26 Dec 2022
- NEWS
-
エネ庁 ALPS処理水の理解に向け広報強化
資源エネルギー庁は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))について、「多くの方々に知っていただく・考えていただく」きっかけとなるよう、テレビCM、新聞広告などを通じた全国規模での広報を強化している。テレビCMについては、12月13日より30秒/15秒の実写篇を放映開始(2週間程度を予定)。現在、アニメーション篇も制作中だ。新聞広告も同日、全国紙5紙、各県紙・ブロック紙(朝刊)に掲載された。また、都心部を中心とする屋外・交通広告(電車内ビジョンなど)も19日頃から行う予定。2021年4月の政府による「ALPS処理水の処分に関する基本方針」決定を受け、風評影響を最大限抑制するための国民・国際社会の理解醸成に向け、関係省庁では情報発信やIAEAによる国際的レビューに努めている。資源エネルギー庁では12月1日、ALPS処理水について科学的根拠に基づいた情報をわかりやすくまとめたウェッブサイトを新設。「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」との共通メッセージとともに、情報発信・関心喚起に取り組んでおり、ウェッブ広告(12月13日から1か月程度公開)の中で西村康稔経済産業相は「是非ご覧下さい」と語りかける。ALPS処理水は来春頃に海洋放出を開始することを目途に準備が進められている。
- 14 Dec 2022
- NEWS
-
処理水の放出はユーモアで勝負! 桜島にならい「缶詰」で共感を広げよう!
二〇二二年十一月二十八日 鹿児島空港に「ハイ!どうぞ!!」と記された奇妙な缶詰が売られているのをご存じだろうか。知人が教えてくれた。何かと思えば、桜島の噴火で発生した灰を詰めた缶詰だという。 なかなか良いアイデアだ。ならば、福島第一原発事故で発生している処理水も、この手法にならって風評を少しでも解消し、「痛みを分かち合う」ことができるのではないか。自治体の名アイデアで「灰缶詰」が誕生 「灰缶詰~ハイ!どうぞ!」。こんなユニークな文句の灰缶詰が鹿児島県の鹿児島空港や道の駅などで販売されている。 この缶詰は、鹿児島県垂水市が企画・デザインしたものだ。市役所の屋上などに積もった桜島の降灰を丁寧に詰め込んだ缶詰である。原材料欄を見ると、「桜島の降灰、垂水市民の苦悩」とあり、内容量は「ありがたくない、空からの恵み一〇〇㏄」と皮肉と茶目っけがたっぷりと詰まったラベルがはってある。値段は百円という手軽さだ。© City of TARUMIZU さらに使用期限については、「皆様の興味が無くなるまで」だという。なんというおもしろさ。缶詰を製造する社会福祉法人育友会障害者支援施設城山学園(垂水市)は「鹿児島のお土産の新定番にどうぞ!」とPRする。障がい者施設との連携も見事である。 商品を企画した垂水市役所の担当者はメディアの取材に対して「灰は通常購入しないものですが、購買意欲を刺激する目的で、ユーモアを込めました」と話したりしている。 逆境をユーモアと笑顔で跳ね返す発想は、お堅いイメージの自治体とは思えないほどのしなやかさを感じる。こういう心のこもったグッズなら、だれだってつい応援したくなる。風評対策は「痛みを分かち合う」ことか 一方、福島第一原発の処理水の放出をめぐっては、風評被害が最大の懸念だと、どの新聞も報じている。風評を広げないためには、福島の痛みや苦しみをみなで分かち合えばよい。鹿児島の灰缶詰を買うことで、みなが痛みを分かち合うように、処理水に関しても、全国の人が痛みを分かち合う方法はないものか。 そう考えていたところ、私が編著で著した「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)で、執筆者の一人の井内千穂さん(フリージャーナリスト)は次のように提案している。 「福島の水だから福島から流すと決めつけてよいのか。国民的議論を少しでも促すために、象徴的な少量、たとえばペットボトル一本でもいいから、全国各地でALPS処理水の海洋放出を分かち合うセレモニーのような形も考えられるのではないか。それが自分の問題としてトリチウム水と向き合うきっかけになるのではないか」(一部筆者で要約) 処理水をペットボトルで持ち帰る「痛みの分かち合い運動」の提案である。灰缶詰に劣らず良いアイデアである。桜島の灰缶詰にならって、海へ放出された処理水を缶詰やボトルに詰めて、道の駅で売るのもよいだろう。 缶詰かボトルのラベルにどのようなメッセージを記すか。そこが知恵の見せどころである。鹿児島の灰缶詰にならえば、「○○○ 海からの恵み一〇〇㏄」といった表現もよいだろう。この○○にどのような言葉を込めるかをみなで考える必要がある。みなで考えることこそが井内さんの言うように、自分の問題として向き合うきっかけになるからだ。ユーモアも提案もない、まるで他人ゴトの社説 ひるがえって、新聞の社説を見てみよう。自分の問題として向き合っていない他人事的な社説にしばしば出くわす。 たとえば 神戸新聞(二〇二二年七月三十一日)。「政府は風評被害対策として三〇〇億円の基金を用意したが、本来求められるのは漁業の継続だ。安心して食べられる魚介なら消費者は買い控えしない。海洋放出が「安全」と言う以上、科学的根拠を示す責任がある。トリチウムは各地の原発で排出してきたと政府は説明する。だが、これまで周知されていなかったのがむしろ問題ではないか。通常の原発の排水と事故後の処理水との違いなど、国民が抱く疑問点は尽きない。政府や東電は計画を見合わせ、関係者の理解が十分に深まるまで、丁寧に説明を尽くす必要がある」(筆者で一部要約)。 読者に向けて、丁寧に説明を尽くす義務があるのは神戸新聞のほうだろう。「安心して食べられる魚介なら消費者は買い控えしない。海洋放出が「安全」と言う以上、科学的根拠を示す責任がある」と書くが、まるで魚介類が食べて危ないかのような書きぶりだ。 これまで政府は分かりやすいチラシまで作り、科学的根拠を挙げて説明している。なのに、「これまで周知されていなかったのが問題だ」と書く。社説を書く記者は科学的根拠を知らないのだろうか。知らないなら大問題だ。もし知っていて書かないなら、不誠実の極みである。 政府や科学者の説明が国民になかなか周知されないのは、魚介類の危険性をにおわせるこんな他人ゴト的な社説があるからではないのか。報道に携わる記者は、鹿児島の灰缶詰の発想にならって、もっとユーモアにあふれ、応援したくなる提案に満ちた社説を書いてほしい。
- 28 Nov 2022
- COLUMN
-
福島「常磐もの」魚介グルメが日比谷公園に 20日まで
全国各地の魚介料理が堪能できる「ジャパン フィッシャーマンズ フェスティバル 2022 ~全国魚市場&魚河岸まつり~」(主催=SAKANA & JAPAN PROJECT ジャパン フィッシャーマンズ フェスティバル実行委員会)が日比谷公園(東京都千代田区)で開催されている。会期は11月17~20日(雨天決行・荒天中止)。感染症防止対策を徹底し、出店数は前回の3倍となる約70ブースに拡大。入場無料で、会場内の混雑状況により入場制限が行われる場合がある。同フェスティバルでは、今回も東日本大震災からの復興応援を目的として、「常磐もの」と呼ばれる福島県産の海産物を味わえる「発見!ふくしまお魚まつり」(主催=発見!ふくしまお魚まつり実行委員会)を併催。全5種類の「ふくしまご当地海鮮丼」、小名浜サンマの塩焼き、直径1.5mの巨大鍋で150人前を一気に調理する「常磐ものイカスミパエリア」の他、「福島牛ステーキのウニとイクラのせ」、「常磐煮干し極上中華そば」など、肉・麺とのコラボメニューも味わえる。また、新酒鑑評会で金賞受賞数日本一を9回連続で獲得した福島の地酒で出店した福島県酒造協同組合は「福島の魚介との相性は抜群」と絶賛。ブースでは、大吟醸、純米、それぞれ3種類の飲み比べができる。折しも絶好の晴天に恵まれた会期初日の17日、人気のブースには開場から30分足らずでおよそ40分待ちの長蛇の列ができるほどの盛況ぶりだった。絶好の秋晴れのもと、テープカットに臨む経産省・復興庁の政務ら(中央に秋葉復興相、左端は「発見!ふくしま」公式アンバサダーの箭内夢菜さん)同日午前に行われたテープカットに際し、同フェスティバル実行委員長の近藤豊和氏(産業経済新聞社上席執行役員)は、「四方を海に囲まれ水産資源に恵まれた日本。もっともっとお魚を食べよう」と、日本の水産業振興に向けエール。また、秋葉賢也復興大臣は、「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の再生なし。今回のイベントを通して福島県の漁獲水揚量・販売額がさらに拡大することを心より期待する」と述べた。
- 17 Nov 2022
- NEWS
-
東京電力 福島第一廃炉に関し海外メディアに説明
東京電力は10月24日、フォーリン・プレスセンターで、福島第一原子力発電所の廃炉・ALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))取扱いに関する記者会見を行い、海外メディアからの質疑に応じた。会見者は、福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏と同カンパニープロジェクトマネジメント室長の松本純一氏。会見の冒頭、小野氏は、「廃炉作業は着実に進捗しており、『廃炉の本丸』といえる燃料デブリ取り出しの着手まであと一歩というところに来ている」と概括。ALPS処理水の取扱いについては、2021年4月に決定された政府の基本方針を踏まえ、海洋放出に必要な関連設備の設計・運用に係る認可を原子力規制委員会より取得し、現在、その設置に向けて準備を進めているとした。その上で、今後の廃炉進捗やALPS処理水の取扱いに関し、「近隣諸国を含む海外メディアの皆様に定期的に情報を発信していく」と強調。今回、参集した16名の海外記者・在日大使館関係者らに対し、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出しの準備、津波対策など、直近の進捗状況を説明した。続いて、松本氏は、ALPS処理水の海洋放出に係る安全確保面に関し、設備上のポイント、IAEAによる国際レビュー、環境モニタリングの一環として行う海洋生物の飼育試験について説明。その理解促進に向けて、ポータルサイトやリーフレットなどを通じた情報発信に関し、「英語、中国語、韓国語と、多言語化を進め、国内外の皆様に理解してもらえるよう努力する」と述べた。記者団からは、ウクライナ情勢に鑑み福島第一原子力発電所における武力攻撃・サイバー攻撃への対策、廃炉と福島の復興との両立に関しても質問があった。ALPS処理水の海洋放出に伴う風評被害への懸念について、小野氏は、「『安心してもらう』ということが非常に重要なポイント」と述べ、正確でわかりやすい情報発信に努めていく考えを強調。また、燃料デブリ取り出しの関連で、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が先に発表した「廃炉のための技術戦略プラン2022」で示されている「船殻工法」(従来の原子炉格納容器冠水工法と異なり、新規構造物で原子炉建屋全体を囲い冠水させる方式)に関しては、「様々な課題が多く、現時点ではっきりしたことはいえないが、実現性があるのかしっかり検討していくことが大事だと思う」と説明した。
- 26 Oct 2022
- NEWS
-
東京新聞の処理水報道=稚拙な解釈で読者をミスリード
二〇二二年十月十九日 東京新聞が福島第一原発の事故の影響で発生している処理水の安全性に関する記事(十月三日付一面トップ)を署名入りで載せた。何せ東京新聞だから、いつものことと片付けてしまえばよいが、今度の記事は記者の悪意に満ちた解釈で読者をミスリードする、典型的なバイアス記事である。見過ごせない。見出しの「『印象操作』批判免れず」は、そっくりそのまま東京新聞にお返ししたい。こじつけ解釈の記事 東京新聞の記事の前文は以下(一部要約)の通りだ。 「東京電力が福島第一原発の視察者に、放射性物質のトリチウムが検知できないうえに、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い、処理水の安全性を強調する宣伝を繰り返していることが本紙の取材で分かった。視察ツアーでは、放出基準の約十五倍のトリチウムを含む処理水入りのビンにガンマ線のみを検出する線量計を当てて反応のない様子を示す。東電によると二〇二〇年七月から約千三百団体・一万五千人に見せている。本紙は先月十四日の取材時に説明を受けた。担当者は、建屋の高濃度汚染水に含まれる放射性物質のうち、ガンマ線を発するセシウムなどは除去し、処理後の水は周囲の放射線量と同等になっていると説明したが、ベータ線用の測定器を使っていない以上は「線量計を反応させるほど高濃度のセシウムは含まれない」ことがいえるにすぎない」 これを簡単に言えば、トリチウムを含む処理水入りの瓶にガンマ線のみを検出する線量計を当てて、安全かのような印象を与えたのは問題だという内容だ。言い換えるとトリチウムの出すベータ線を測って実演をすべきだという趣旨にも聞こえる。 この記事に関しては、フリーランスライターの林智裕氏や唐木英明・東京大学名誉教授がネット記事で的確な批判を展開しているので、それらの記事を読んでほしいが、私は、東京新聞の記者が記事を作り上げるときのスタンスに作為的な悪意がある、という別の視点から批判したい。ベータ線の測定実演はそもそも難しい まず知っておきたいのは、そもそもベータ線を測って見せる実演は難しいということだ。 トリチウムを測定するには、放射線が当たると光を発する薬品を蒸留水に加え、一昼夜、暗所においたあと、その光の量を測定する特殊な分析方法が必要になる(東京電力の処理水ポータルサイトから)。こんな緻密な測定を野外の実演で見せることはそもそも不可能だ。 実は、べテラン記者である山川剛史記者はそのことを百も承知だった。なぜなら、そのことを記事に書いているからだ。 記事の前半で「処理水は、基本的には微弱なベータ線を発するトリチウムを含むだけの状態にしたもの」と書いており、さらに記事の後半で「東電は、ベータ線を発するトリチウムが放出基準値を超えていることも説明している」との記述がある。 つまり、東京電力の担当者が手に持っている瓶の中には放出基準値を超える微弱なトリチウムが含まれており、さらにトリチウムが出すベータ線は微弱なため、ガンマ線を測定する線量計では測定できないことを記者は東電の説明で知っていたのである。 ならば、その事実を素直に読者に伝えれば済むはずだが、それでは東京電力を批判する記事をつくり上げることができない。そこで、通常の線量計を当てて、反応がないことを理由に、「印象操作」や「うそ」と受け取られても仕方がない、という理屈を無理ゲーでひねり出したと私は考える。 言い換えると、山川記者は通常の線量計では反応がないことを理由に「東電が処理水の安全性を宣伝している」と書くが、そもそも東京電力の側にそんな実演でトリチウムの安全性を宣伝しようとした意図が全くないことが記事からも分かる。にもかかわらず、東電が嘘を言っているかのような言いがかりを組み立てたのは山川記者のほうである。 私も毎日新聞の記者をしていたから分かるが、通常の記者感覚なら、微弱なベータ線はそれ専用の測定法が必要であり、実演で見せるのは難しいと書けば、それで済む話である。それをあえて、「線量計で反応がないのは、安全だと思わせる印象操作」と解釈するのは、何がなんでも東電を批判したいがための山川記者の特ダネを意識した身勝手な解釈に過ぎない。東電がポータルサイトで反論 そもそも記事を読んでも、東電がどのような説明をしたかが詳しく書かれていない。これでは公平性を欠く。 この記事に対して、東京電力は処理水ポータルサイトに「ご視察時のALPS処理水サンプルキットを用いたご説明について」と題した、いわば抗議に近い説明文を載せた。その中で東電は「ALPS処理水に含まれるトリチウムが出すベータ線は、紙一枚で遮られるほどエネルギーが弱く、処理水サンプルキット(ボトル容器)でベータ線が遮られる」と説明している。 ボトル容器(=瓶)で遮られるという点について、山川記者は過去にも処理水に関する記事を書いているので、それくらいの知識はあったはずである。にも関わらず山川記者はあえて、瓶の中のトリチウムは通常の線量計では測れない、という当たり前の事実を持ち出し、あのような稚拙な解釈で読者をミスリードする記事を書いた。どうみても記者として、読者に正確な科学的事実を伝えようとする誠実さが見られない。朝日や毎日も報道していた トリチウムが残る処理水については、ALPS(多核種除去施設)では除去できないトリチウムが国の安全規制基準(正式な言葉は告示濃度限度)を超えて残っていることを、東電の担当者はこれまでに何度も説明してきた。他紙も何度となく、それを報じてきた。 だからこそ、処理水を海へ流すときは、海水で希釈し、国の基準(一リットルあたり六万ベクレル)よりもはるかに低い一リットルあたり一五〇〇ベクレル未満で流すことになっているのだ。この一五〇〇ベクレルは、世界保健機関(WHO) の飲料水水質ガイドラインにある一リットルあたり一万ベクレルよりもはるかに低い。こうした事実は朝日新聞や毎日新聞でも報じている。 ちなみに、国の放出基準の一リットルあたり六万ベクレルは、その水を毎日、約二リットル飲み続けた場合、一年間で管理規制目標の目安とされる一ミリシーベルト(それを超えたから健康被害が生じるという意味ではない)の被ばくとなる濃度から、定められている。 瓶に含まれるトリチウムのリスクは、上記のように解説すればよいだけのことである。原子力規制委員会は処理水放出を認可 実は、同じ東京新聞でも別の記者は「トリチウムは三重水素と呼ばれ、自然界にも存在する。普通の水と分離するのは技術的に難しい。放射線(ベータ線)は比較的弱く、人体に入っても大部分は排出され、影響は小さいとされる。トリチウムは原発や使用済み核燃料の再処理施設でも発生し、排出基準は異なるものの、海に流している」(二〇二一年四月十四日)と書いていた。 こういう記事が過去にもあったのに、山川記者は線量計の「反応なし」に異常にこだわり、東電を批判する独自解釈の記事をつくった。不思議なのは、この記事が原稿をチェックするデスクや上層部の目を通過したことである。読めば、おかしな記事だとすぐに分かるのに、なぜ、こんな記事が一面を飾ったのか。「東京新聞の情報力は大丈夫か」と勘繰ってしまう。 処理水の放出については、原子力規制委員会や国際原子力機関(IAEA)は、環境や人への影響はないことを認め、ゴーサインを出している。もちろんだが、この線量計の「反応なし」を安全とみなして、認めたわけではない。なぜ、他紙は追いかけないのか! 東京新聞のようなカラーがあってもよいだろう。いろいろな意見が存在する言論空間のほうが健全だからだ。しかし、政府や事業者を名指しで批判するからには、他紙が追いかけてくるような良質な記事を書いてほしい。今回のような稚拙な記事では、他紙が追いかけることは絶対にない。追いかける価値がないからだ。 処理水の放出を批判したいなら、堂々と科学的な事実を突きつけて批判すればよい。科学的な論争なら意味があるだろう。しかし、一記者がひねり出した稚拙な記事では、逆に東京新聞の信頼度を落とすだけである。 十月十二日、ボトル(五百cc)に亀裂が入り、中のトリチウム水が数滴漏れる事故があった。だが実演を中止するほどの事故ではなく、従来通りの説明をしっかりと続けてほしい。 山川記者は解説の最後で「現地で愚直に努力を続ける姿を見せることが、処理水への理解を得る最も近道だろう」と書いている。だが私が知りたいのは、処理水のリスクに関する科学的な分かりやすい解説だ。これもこう言い返せるだろう。 「愚直に処理水のリスクをしっかりと科学的に伝える姿を見せることが、東京新聞への信頼を得る最も近道だろう」と。
- 19 Oct 2022
- COLUMN
-
ALPS処理水の処分に向け海洋生物の飼育試験開始
東京電力は9月30日、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の処分に係る環境モニタリングの一環として、海洋生物の飼育試験を開始した。飼育水槽にはライブカメラが設置され、ウェッブサイトでも見ることができる(夜間は照明を消灯)。〈東京電力発表資料は こちら〉政府は2021年4月、ALPS処理水を来春を目途に海洋放出する方針を決定。これを受け、東京電力は「海洋放出に当たっては、法令に基づく安全基準等の遵守はもとより、関連する国際法や国際慣行に基づくとともに、人および環境への放射線影響評価により、放出する水が安全な水であることを確実にして、公衆や周辺環境、農林水産物の安全を確保する」との基本姿勢の下、モニタリングの拡充・強化、タンクからの漏えい防止、情報発信と風評抑制、適切な賠償に向けた考え方を示した。今回始まった飼育試験では、ALPS処理水の海洋放出開始に先立ち、「海水」と「海水で希釈したALPS処理水」の環境下で、海洋生物の生育状況を比較するとともに、生体中のトリチウム濃度を分析・評価。双方に有意な差がないことを確認する。当面、飼育試験を行うのは、魚類、貝類、海藻類として、それぞれヒラメ(幼魚750尾程度)、アワビ(稚貝750個程度)、アオサ・ホンダワラ(数kg程度)が対象。飼育環境は、発電所周辺の海水、発電所周辺の海水で希釈したALPS処理水とで各々水槽を設け比較を実施する。海水で希釈したALPS処理水については、トリチウム濃度1,500ベクレル/リットル程度(実際の放出設備での希釈後に相当)の水槽の他、11月からは同30ベクレル/リットル程度(放水トンネル出口周辺に相当)の水槽も設け追加的な飼育試験を行う。飼育試験の実施に際しては、2022年3月より社外専門家による技術的サポートも得ながら、モックアップ水槽での練習などを通じノウハウの習得に努めてきた。飼育試験の取りまとめについては、今後、半年間の試験データを収集し、過去の知見との整合性などを評価した上で、年度末に公表される予定。
- 06 Oct 2022
- NEWS