第52回原産年次大会 今井会長 所信表明

2019年4月9日

<はじめに>
 日本原子力産業協会会長の今井でございます。第52回原産年次大会の開会にあたり、所信を述べさせていただきます。

<福島第一の状況、復興>
 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から8年が経過いたしました。
 福島第一原子力発電所では、3号機使用済み燃料プールからの燃料取り出しに向け、安全を最優先とした作業が進められております。2号機では、燃料デブリの取り出しに向けた接触調査が行われるなど、廃炉に向けたステップが進捗しています。引き続き、これら廃炉の取り組みを安全・着実に進めていただきたいと思います。
 福島の復興については、特定復興再生拠点区域における除染やインフラの整備が進められ、被災者の生活再建に向けた取り組みが進捗しております。明日10日には、大熊町の一部地域の避難指示が解除されることを大変うれしく思います。
 一方、放射線への不安の解消、福島の産品に対する風評被害の問題など、依然として多くの課題が残されております。原子力産業界の皆さまには、これら福島の復興・再生に向けた取り組みに継続したご協力をお願いしたいと思います。

<地球温暖化・原子力・理解促進>
 昨年、世界では多くの異常気象が発生いたしました。日本では集中豪雨や台風といった自然災害により、大規模な停電も発生しております。これら異常気象の要因の一つと思われる地球温暖化問題への対応は待ったなしの状況にあります。
 日本は、2030年のエネルギーミックスにおけるゼロエミッション電源比率を44%程度としております。パリ協定では、2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減すると宣言いたしました。併せて、長期目標として2050年までに80%の排出削減を目指すとしております。
 これら国際社会における我が国の役割を果たすためには、二酸化炭素を排出しない原子力の活用は必要不可欠であります。
 一方、2030年におけるエネルギーミックスの目標値である原子力発電比率20~22%を達成するためには、今後10年程度で原子力発電所を30基程度稼働させる必要があります。しかし、PWRプラントわずか9基の稼働にとどまっているのが現状です。残るPWRプラントと、これまで再稼働のないBWRプラントの早期稼働が強く望まれます。加えて、既存発電所の運転期間延長についても議論を進めていく必要があります。さらに、原子力発電所は計画から発電開始までに大変な時間を要します。2050年を見据えますと早期に新増設・リプレースが進むことを期待いたします。

 地球温暖化抑制に優れた電源として原子力発電を活用していくためには、今後さらにいくつかの課題を解決せねばなりません。
 資源の乏しい我が国では、資源の有効活用、廃棄物減容化・有害度低減の観点から原子燃料サイクルの早期確立が欠かせません。このためには、六ヶ所再処理工場の稼働に向けた取り組みを着実に進めていく必要があります。
 一方で、日本のプルトニウム保有量への懸念が国際社会から示されております。停止しているプラントの早期再稼働を果たし、プルサーマルを着実に実施していただきたいと思います。
 高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地についても、原子力発電の恩恵を受けてきた現世代の責任として解決しなければなりません。国や原子力発電環境整備機構(NUMO)の取り組みの進展に向け、原子力産業界における連携の深化を期待いたします。
 原子力発電の活用は、地元の理解をはじめ、社会全体の理解なしには成り立ちません。しかし、各種調査をみますと、残念ながら原子力に対する社会的信頼が回復しているとは言い難いのが実情であります。原子力産業界としては、バックエンドの課題に対する丁寧な説明や原子力の長期的な価値についてご理解いただき、信頼を一つ一つ丁寧に積み重ねていくことが必要であります。

<安全性向上>
 原子力産業を信頼いただくための一丁目一番地は、言うまでもなく「安全」です。昨年、より高い次元の安全性確保に向け、「原子力エネルギー協議会(ATENA)」が設立されました。同協議会は、原子力産業界が一体となった自律的、かつ継続的な取り組みの定着を目的としております。今後、原子力事業者・メーカー・関係団体のリソースを総合的に活用し、同協議会には原子力産業界の代表として強いリーダーシップを発揮いただきたいと思います。また、効果ある安全対策の立案に向け、規制当局との協議・対話が進展していくことも期待いたします。
 原子力産業界の皆さまにおかれては、これらの活動をしっかりとサポートいただきたいと思います。

<人材育成・国際動向>
 将来にわたって原子力を安全・安定に活用していくためには、現場を支える高品質なサプライチェーンの維持とともに産業を支える人材の確保、育成も不可欠であります。特に優秀な若者に原子力への関心を持ってもらう必要があります。このためには、産官学の連携が重要だと考えます。原子力の将来ビジョンの明確化はもとより、イノベーションによる夢のあるプロジェクトの構築や魅力の発信に期待しております。
 また、海外では次世代炉開発を始めとするイノベーションに向けた国際的な連携が進みつつあります。日本がその流れに取り残されることがなきよう、産官学による取り組みを今後より一層加速させねばなりません。

<おわりに>
 原子力のポテンシャルはエネルギー供給だけではありません。2015年9月に国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成において、放射線利用は欠かせない技術の一つとして位置付けられております。
 今大会のテーマは「原子力のポテンシャルを最大限に引き出すには」であります。「原子力が役割を果たすためには何が必要か」について、発電分野にとどまらず、幅広い視点で実りある議論がなされることを期待したいと思います。

 最後に、お忙しいスケジュールの中、ご登壇いただく方々、また、国内外からご参加の皆さまに対し、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 これをもちまして、わたくしの所信とさせていただきます。
 ご清聴、ありがとうございました。

以 上

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