2019年度定時社員総会 今井会長 挨拶
日時:2019年6月18日(火)15:00~
場所:日本工業倶楽部
福島第一原子力発電所の廃炉作業や福島の復興は着実に進展をしておりますが、今なお、およそ4万人の方々が避難生活を余儀なくされております。また、依然として放射線への不安や風評被害などの課題が残されており、引き続き福島の復興・再生に向けた皆様のご支援をお願い申し上げます。
6月28日からG20大阪サミットが開催されます。今回のサミットでは主要課題の一つとして、国連の定める「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に向けた議論が行われます。この開発目標は、経済成長を促しつつ幅広い社会的ニーズを捉え、地球規模の課題である気候変動問題と環境保護に取り組むものであります。
国連は開発目標に掲げた17の目標のうち、9つの目標の達成に放射線利用を含む原子力科学技術が大きな役割を果たすと言及しております。目標達成において重要な要素とされるエネルギーの安定供給はもとより、地球温暖化の要因である二酸化炭素の排出抑制や大気汚染の防止には原子力発電の活用が必要不可欠であります。
我が国の現状を見ますと、原子力事業者、規制当局双方の努力により、これまでに9基が再稼働しております。しかしながら、パリ協定における日本の温室効果ガス排出削減の目標達成には2030年時点で30基程度の稼働が必要であります。いまだ稼働のないBWRも含め、残るプラントの再稼働を着実に進めていかねばなりません。
それには新規制基準適合性に係る審査の効率化が必要不可欠であります。原子力産業界は、これまでに得た知見や経験を活かし、設計仕様の標準化といった規制の予見性を高めていく必要があります。原子力エネルギー協議会(ATENA)を中心に、これらの課題解決を進めてくれることに期待いたします。
既存プラントを最大限に活用する観点では稼働率の向上はもとより、特定重大事故等対処施設や中間貯蔵施設の整備が急務であります。また、審査や安全対策工事などによりプラントが停止していた期間の運転期間からの除外や、60年を超える運転などについて、技術的な観点から議論を進めていく必要があります。
将来に亘って原子力発電を活用していくためには使用済み燃料のリサイクルも進めなければなりません。再処理は我が国において資源を有効活用する重要な手段であり、廃棄物の減容化や有害度低減を図る上でも必要不可欠であります。今後、六ヶ所再処理工場を早期に稼働させるとともに、プルサーマルの着実な推進に期待をいたします。
また、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地に向けて、国民の理解も得ていかなければなりません。国と原子力発電環境整備機構(NUMO)の取り組みが進展するよう、産業界を挙げて理解活動を進める必要があります。
一方、産業界が原子力発電へ積極的な投資を行っていくには、新増設・リプレースも含めた明確な将来ビジョンと事業環境の整備が必要であります。米国や英国など、先行する国々の事例も参考に政策的措置の検討が進むことを期待いたします。
原子力発電の安全性、経済性、効率性の向上には、技術開発やイノベーションが重要であります。また、これらを支える人材の確保・育成も欠かせません。イノベーションには優秀な人材を引きつける要素があり、若い技術者のモチベーションを上げる効果も期待できます。今後、産官学が連携し、イノベーション創出に取り組んでいかねばなりませんが、それには長い期間と大きな投資が必要となります。本年4月に、経済産業省によるイノベーションに向けた補助金の公募が行われたところですが、政府には積極的に支援いただくことをお願いしたいと思います。
技術開発には研究施設の有効利用や最新知見の共有など、世界との連携も欠かせません。特に設計要求や設計仕様については国際的な調和をもって進める必要がありますので、規制当局の早期からの参加にも期待をいたします。
福島の事故を経験した我が国が引き続き原子力の利用を進めていくためには、何よりも国民の理解が必要です。そのためには、国民が不安に感じている安全性やバックエンドに関する取り組みなどをしっかりと説明していかねばなりません。低炭素、長期的経済性、安定供給といった原子力発電が持つ価値を産業界全体で丁寧に伝えていただきたいと思います。
当協会は地域で活動する関連組織と連携しながら、原子力産業の再生に向けた理解活動、産業の活性化に向けた人材の確保・育成および国際協力活動を推進してまいります。今後とも、より一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
以 上
お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)