「2014年度定時社員総会」における今井敬・原産協会会長挨拶
今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶
2014年6月18日
於日本工業倶楽部
日本原子力産業協会
今井敬会長
日本原子力産業協会 会長の今井でございます。
定時社員総会の開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
本日は、お忙しい中を、ご来賓として、経済産業省から赤羽一嘉副大臣、文部科学省から田中正朗大臣官房審議官のご臨席を賜り、厚く御礼申し上げます。
また、会員の皆様方には、遠路、また多数ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。
東京電力福島第一原子力発電所の事故によりまして、いまだに多くの皆様が、不自由な生活を余儀なくされておられますことに、改めて、心よりお見舞い申し上げます。
ご高承のとおり、エネルギー基本計画がこの4月に閣議決定され、再生可能エネルギーの導入拡大を目指すとともに、原子力発電については重要なベースロード電源と位置づけられました。
安定供給面やコスト面で課題が多い再生可能エネルギーは、当面、大幅な利用拡大が見込まれないので、低炭素の準国産エネルギー源として重要なベースロード電源を担えるのは、原子力発電以外にないことは、自明のことでございます。
われわれ原子力産業界は、まさに、この役割を担っておりますことを、改めて強く自覚しなければならないと思います。
なにより、エネルギー基本計画を実効あるものとするためにも、安全性が確認された発電所は、早期に再稼働しなければなりません。
そして将来に亘り、原子力発電が一定程度の役割を担っていくためには、さまざまな課題がございます。
40年運転制限、リプレイスそして新増設等に加えまして、廃棄物を含めたサイクルといった諸課題について、自らのこととして解決に導かなければ、エネルギーミックスを議論することはできず、原子力の将来はないということだと思います。
また、温室効果ガスの排出量に関しましても、政府が、昨年のCOP19において、原子力なしの前提ではありますが、2005年度比3.8%の削減を目標として表明したために、国際社会から強い批判を受けました。
エネルギーミックスの中で、原子力発電を明確に位置付け、その稼働による、より高い削減目標を定め、実行することが、わが国の責務であると考えております。
しかしながら、福島第一原子力発電所の事故によりまして、国民の皆様には、今なお、原子力発電について大きな不信・不安があるのは、厳然たる事実でございます。
原子力産業界は、さらなる安全性の向上を図り、その取り組みをわかりやすく説明していくことが、国民の皆様の信頼を得る上で何よりも重要だと考えています。
先週、電気事業連合会が、『原子力リスク研究センター』の設立を表明されました。
事業者が過去を反省し、新たな一歩を踏み出したものと思います。
これまでの「安全神話」と決別し、リスクと向き合い、規制当局や国民の皆様と真摯に対話し、安全を高めていく取り組みは、極めて重要であり、今後の活動に期待をいたしたいと思います。
しかしながら、安全対策を講ずるという技術的側面を補強するだけでは、十分ではないと思います。
これまで注目されなかったリスクにどのように対応するのか、リスクを広く社会と共有し、信頼関係を醸成するためには、どのようにすべきかについて考えなければならないと思います。
そして国民の目線に立ち、具体的にわかり易く伝え、納得していただかなければ、安全から安心へとは、つながらないと思います。
このためには、原子力産業界として統一的見解をもった、情報提供が必要となります。
また、それぞれの役割分担を明確にし、各ステークホルダーとの透明性をもった対話を継続していかねばならないと思います。
当協会もその一翼を担う所存であり、関係機関との連携強化により一層努めてまいりたいと思います。
さて、事故から3年余りが経過いたしました。
復興に向けた国や東京電力などの関係機関による懸命の努力にもかかわらず、住民の方々の帰還は、思うように進んでおりません。帰還を妨げる様々な要因があると思いますが、やはり、根底には、放射線に対する不安が、拭い去れていない厳しい実情があると思います。
まずは、除染や廃棄物問題、そして一日も早い、汚染水問題の解決が望まれるところでございます。
そして、放射線に対する不安は、福島地域だけではなく、今や全国に拡大していることから、この払拭の対応は、国家的な課題となってきております。
当協会といたしましては、事故発生直後から被災された住民の方々との対話と交流を積み重ねながら、放射線による不安の軽減に貢献できるよう努めてまいったわけでございます。
その中で得られた「住民の方々の生の声」につきまして、このほど取り纏めましたので、会員の皆様をはじめ、国や関係機関にお届けし、復興推進の一助としてお使いいただければと存じております。
しかし、こうした活動も、ごく微力なものでございます。
放射線に対する不安の解消には、国のみならず、われわれ原子力産業界も一丸となって、精力的に取組んでいかねばなりません。
福島の復興・再生なくして、日本の原子力の将来はないことを、今一度、強く認識すべきであります。
会員の皆様の更なるご協力・ご支援を、是非お願いしたいと存じます。
また、今回事故を起こした福島第一原子力発電所の廃止措置は、世界に例のないチャレンジであるため、その進捗にも、国内外から注目が集まっております。
廃止措置をすすめる体制は、この1年間で、まず、技術開発を一元的に担う「国際廃炉研究開発機構(IRID)」が発足いたしました。
また、東京電力内において、現場作業に責任をもつ「福島第一廃炉推進カンパニー」が原子炉メーカーも参画して設立するなど、民間側ではオールジャパン体制が整った次第です。
更に、国として技術戦略を担う組織も、今年夏頃に設立される予定であり、国と産業界の総力を結集した体制が一層強化されることになります。
何よりも大事なことは、現場第一線を尊重して、福島の作業が安全で、円滑に推進するよう、一丸となってサポートしていくことでございます。
また、廃止措置に係る取り組み状況につきまして、国内外に正確、且つタイムリーに情報を伝え、各国が有する経験や知見を現場で活用していただかねばなりません。
当協会におきましては、最新情報をいち早く英語に翻訳し、発信すると共に、諸外国との会議などの場で直接伝える等、国内外の求めに、積極的に応えてまいりたいと思っております。
次に、人材育成について申し上げます。
原子力利用の今後の進展がどうなろうとも、必要な技術と人材育成・確保は、不可欠であります。
しかしながら、原子力に対する学生の関心も、事故直後から明らかに低下し、回復の兆しは見られておりません。
人材育成につきましては、国をはじめ、さまざまな機関が取り組んでおられますが、縦横の糸がうまく機能しておらず、このままの状態が続きますと、まさに危機的な状況になるのではないかと、強く懸念いたしております。
わが国が国際社会において、原子力先進国としての責務を全うするためには、産官学が一丸となって、人材育成・確保が堅持できるような体制構築が必須でございます。
当協会では、10年後の原子力の姿を描きつつ、それに沿った育成戦略につきまして、議論を始めたところでございます。
会員の皆様におかれましても、是非この議論に参画いただきまして、原子力の将来を共に、見据えていただきたいと思います。
次に、国際協力につきまして申し上げます。
今後、わが国の原子力技術を国際展開するに当たりましては、福島の実情をはじめ、国内の状況を国家として発信し、理解を得ていく必要がございます。
とりわけ、新規導入を目指す国々は、わが国の技術に大きな期待を寄せております。
しかしながら、情報は正確に伝わっていないのが現状でございます。
当協会では、さまざまな国際会議に出席し、情報発信を行ってきておりますが、再稼働を始めとするエネルギー戦略はおろか、汚染水問題など福島の現状でさえ、あまり知られておりません。
国際的には、IAEAなどの機関をはじめとする諸団体があり、当協会もネットワークを持っております。
是非、当協会が保有いたします資源を最大限、ご活用いただきたいと存じております。
結びにあたりまして、一言申し上げます。
エネルギー基本計画は、まだ、スタートラインについたばかりであります。
われわれ原子力産業界は、この議論に積極的に参加し、この中身に魂をいれていくことこそが、生き残る道であると思っております。
近年、当協会には、化学、繊維関係など、原子力発電以外の産業の方々の入会も増えてきましたことから、幅広い会員構成となっております。
この原子力の産業基盤の広がりを強みといたしまして、また、さまざまな観点から、広く会員の皆様からのご意見をいただき、付託を受けることで、今後とも、当協会は、原子力産業界を代表する活動を行ってまいりたいと考えております。
また、会員の皆様から、より一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げまして、私の挨拶といたします。
ありがとうございました。