2016年の年頭にあたり

2016年1月1日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

昨年も国内外で大雨による災害が多く見られるなど、異常気象による自然災害が続いています。このような現状を踏まえ先進国、途上国を問わず地球環境問題への関心は高まる一方です。そうした中、昨年末に開催されたCOP21において、世界の196カ国・地域全てが参加のもとで温室効果ガス削減の新しい枠組みとして「パリ協定」が採択されたことは歓迎すべきことと思います。

わが国では、運転時に温室効果ガスの排出がない原子力発電をベースロード電源として2030年に総発電電力量の22~20%を担うこととしています。国際的な約束である2013年度比26%のCO2削減目標の達成はもちろん、電力を安定して供給するためにも、原子力発電所の再稼働を着実に進めながら今後も長期にわたり原子力発電の利用を図っていく必要があります。

このようにわが国が今後も原子力発電を利用していくためには、広く国民の皆さまのご理解を得るとともに、原子燃料サイクルや放射性廃棄物の処理・処分など様々な課題にも着実に取り組んでいかなくてはなりません。

2016年の年頭にあたり、当協会の本年の取り組みについて4点述べたいと思います。

<福島の復興支援>
本年3月11日には福島第一原子力発電所の事故から5年が経過しますが、未だに10万人を超える方々が避難を余儀なくされている状況が続いています。
そうした中、昨年9月に全町避難となっていた楢葉町の避難指示が解除され、12月には福島県内の指定廃棄物の処分場受け入れが決定しました。これらの進展により復興に向けた様々な取り組みが一層加速されることを期待しています。
また福島第一の廃止措置では、地元をはじめ関係する皆さまのご理解のもと課題の一つである汚染水対策に進捗が見られました。本年は使用済燃料や燃料デブリの取り出しに向けた様々な作業の進展を期待したいと思います。
さらに困難な作業を伴う廃止措置の安全かつ着実な実施を目指し4月に本格運用される楢葉遠隔技術開発センターをはじめ大熊分析・研究センターや廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟(富岡町)など、今後多くの研究施設が整えられます。これらの施設では安全性の向上はもちろん効率的な作業につながるよう、それぞれの役割に応じて適切に現場と連携して研究開発を進めていただきたいと思います。
当協会では、福島第一の事故を忘れることのないよう福島の復興や廃止措置の状況などの幅広い情報発信をはじめ、地域の皆さまの声をお聞きし、少しでもお力になれるよう皆さまに寄り添った活動を継続して行ってまいります。

<原子力発電に対する理解の促進>
全基停止が続いていた国内の原子力発電所ですが、昨年は新規制基準施行後初めて川内1,2号機が再稼働しました。また年末には高浜3,4号機の運転差し止め仮処分命令の取り消しが決定されました。今後、速やかに再稼働されることを期待しています。事業者には安全を大前提に安定運転を継続し、地域をはじめ広く国民の皆さまの原子力に対する信頼につなげていただきたいと思います。
原子力発電に与えられた役割を果たすためには、審査が進んでいるPWR(加圧水型原子炉)はもとより、BWR(沸騰水型原子炉)や現在運転期間延長の審査が進められている美浜3号機や高浜1,2号機の再稼働が重要です。規制当局と事業者にはこれまでの審査を通じて得られた経験や知見をもとに、引き続き厳格性と透明性を担保しながらより効率的に審査を進めていただけるようお願いしたいと思います。
また原子燃料サイクルや本年中に科学的有望地の提示を目指している高レベル放射性廃棄物の処分場問題、さらには今後進められていく電力自由化の競争環境下においても予見性を持って原子力発電事業を進められる環境整備など、原子力利用に関わる諸課題への取り組みを着実に進めていかなければなりません。
当協会では関係団体との連携を強化し、これまでに積み上げてきた幅広いネットワークを活用して、原子力発電所の再稼働、原子燃料サイクルなどに関する理解促進とともに将来にわたる原子力利用に向けた国民的議論のきっかけとなるよう幅広い情報発信に努めてまいります。

<国際社会への貢献>
福島第一の事故後も、世界的には原子力発電利用拡大の傾向が続いており、高品質の製品や製造技術、工期通りに予算内でプラントを完成させる(on time on budget)プロジェクト・マネジメント力など、日本の原子力技術に海外から引き続き高い期待が寄せられています。こうした技術の提供と福島第一の廃止措置において得られる様々な知見の共有を通じて、世界的な原子力安全の向上、エネルギー・環境問題への国際貢献を果たしていくことが日本の責務であると考えます。
また昨年末には日印原子力協定が両国首脳間で原則合意されました。原子力の平和利用の基本原則である保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)および核セキュリティ(Security)の「3S」の確保を大前提に、わが国の原子力技術が広く海外展開されることを期待しています。
当協会では、長年培った海外諸国との協力関係をもとに、会員企業の国際展開に資する場の提供をはじめ、国内の原子力産業の取り組みや福島第一の状況などに関する情報の海外発信などに積極的に取り組んでまいります。

<原子力人材の確保、育成>
福島第一の事故以降、原子力産業を志す学生の減少を懸念する声が多く聞かれます。残念ながら未だ回復傾向にあるとは言えないものの、川内1,2号機が再稼働するなど業界に明るい兆しも見えています。また昨年は4社5プラントの廃炉が発表され、今後国内でも廃止措置が本格的に始まることになります。原子力発電所の安全運転はもちろん原子燃料サイクル、高レベル放射性廃棄物をはじめとする廃棄物処分などを含め、長期間にわたり幅広い分野に多様な人材が必要となっています。
原子力がこれからの未来を担う若者達にとって「魅力ある産業」となるためには、こうしたビジネスチャンスに加え「新しい技術の研究・開発」といったイノベーションが欠かせません。また国内に止まらず世界に出て行くグローバルな産業となることが優秀な人材の確保、育成につながります。
原子力産業が世界各国に広がっていくこの時代においては、一国のみならず世界各国が連携して原子力安全のさらなる高みを目指さなくてはなりません。こうしたグローバルで夢のある原子力産業を広くアピールしていくことが大切です。
当協会では、より安全で信頼性の高い原子力技術の開発、利用に向けて世界で活躍できる人材の育成を目指し、関係組織と連携し様々な取り組みを展開してまいります。

以上

印刷ページはこちら。

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)