高温工学試験研究炉(HTTR)を用いた研究開発の進展に期待する

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)が停止からおよそ10年半ぶりとなる2021年7月30日に運転を再開した。震災による教訓を反映した新規制基準適合審査対応や安全性強化工事など、これまでの運転再開に向けた関係者の努力に敬意を表したい。

わが国の高温ガス炉研究は世界の最先端にあり、HTTRが実証した高温ガス炉の固有の安全性*1は経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)からも高く評価されている。運転再開後は米国、フランスをはじめとする7カ国が参画する国際共同研究プロジェクト等の国際的な協力の下で、安全性の確証及び固有技術確立のための試験運転が行われることになっている。
高温ガス炉は高温のヘリウムを供給できる*2ことから、発電のみならず水素製造を通して製鉄プロセス等の産業部門や燃料電池自動車等の運輸部門の温室効果ガス排出削減に貢献することができる。
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において高温ガス炉は成長が期待される産業分野として位置づけられている。今後HTTRにおいては高温ガス炉の安全性の確証及び固有の技術の確立のための運転を行い、あわせて原子力による水素製造技術の開発等を行うこととなっている。2030年以降にはHTTRとカーボンフリー水素製造設備との接続も予定されている。
これが実現すれば世界で初めて原子力水素製造が実証されることになり、2050年カーボンニュートラルに向けた国民の水素社会実現の期待に応えることになる。産業界もNEXIP*3等を通じて高温ガス炉の技術開発を進めており、HTTRの研究成果に期待している。国内で、このような先進的研究開発が行われ、成果が上がることは、若者に夢をもたらし、原子力人材の確保・育成にも資することとなる。

日本原子力研究開発機構には安全第一で安定的に施設を運用して着実に成果を積み重ねながら、その成果について国内外を問わず広く社会に伝えて頂きたい。原子力産業界としても高温ガス炉の実用化に向けた研究開発の一層の進展を期待したい。

以上

<参考>

HTTRの運転試験計画について(今後の運転計画)
https://httr.jaea.go.jp/D/D1.html

理事長メッセージ「高温ガス炉の実用化に向けた取り組みへの期待」(2018年5月23日)
https://www.jaif.or.jp/president_column84_180523

*1 固有の安全性
高温ガス炉の下記のような安全特性のこと。
・ 制御棒挿入に失敗してもドップラー効果により核分裂が停止。
・ 交流電源を喪失しても、自然対流・輻射で圧力容器外部から自然に崩壊熱を除去。
・ セラミック被覆燃料粒子内に核分裂生成物を閉じ込めることが出来る。
・ 冷却材に不活性なヘリウムを使用しており、水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。
・ 燃料の被覆に耐熱性に優れたセラミックを使用しており、燃料が溶融しない。
・ 黒鉛(減速材)により事故時の温度変化が緩慢で、事故後(短時間)の対応の必要がない。

*2 高温ガス炉は高温のヘリウムを供給できるため以下のようなことが可能。
・ 化学プロセスへの高温熱供給(ISプロセスによる水からの水素製造など)
・ 水素製造装置の接続によって生産された水素を用いたカーボンフリー製鉄や燃料電池自動車へのカーボンフリー水素の供給
・ 高温のヘリウムによる高効率のガスタービン発電
・ 上記で利用した後の廃熱を水蒸気供給、海水淡水化、暖房等の熱源に利用するなど、熱を段階的に利用できる。

*3 NEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブ
経済産業省と文部科学省が連携して進めるイニシアチブ。開発に関与する主体が有機的に連携し、基礎研究から実用化に至るまで連続的にイノベーションを促進していくことを目的としている。

印刷ページはこちら。

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)