第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントにあたって

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

9月3日、新たな「エネルギー基本計画(案)」が示され、現在パブリックコメントが行われている。エネルギー政策の基本的視点として、また大前提として、S+3Eの原則が確認されたことは意義深い。

原子力は「安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」との認識が引き続き示されたことは重要である。また、「2050年カーボンニュートラルを実現するために、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。」として、エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された。

原子力は、安定供給の観点から極めて強靭で、経済性に優れ、かつ環境に対し持続可能な最も信頼できる確立された技術であると同時に、グリーン成長戦略で示されている高速炉、小型炉(SMR)、高温ガス炉、核融合などの革新的な技術開発に代表されるように、今後も一層成長が期待できるイノベーティブな技術でもある。

安全性を最優先として既存の原子力発電所の再稼働を着実に進めるとともに、設備利用率の向上や運転期間の延長により最大限活用することが重要である。さらにはいずれ必要となる新増設・リプレースを見据えた技術開発や、産業や運輸など発電以外の部門での排出削減に役立つイノベーションを加速させていくことが必要である。

原子力産業界は、「東京電力福島第一原子力発電所事故の真摯な反省」という原点に立ち返り、たゆまぬ安全性向上に努め、安定運転の実績を積み重ね、国民の皆さまに信頼いただけるよう引き続き取り組んでいく。

 

以上の考え方の下、当協会は、第6次エネルギー基本計画策定に向けて実施されているパブリックコメントにあたり、以下の通り意見を提出した。

1.安定的で安価なエネルギー供給を確保しつつ、2050年カーボンニュートラルを実現するために、「可能な限り原発依存度を低減する」のではなく、低炭素電源として、安全確保を前提とし、既に確立された技術である原子力を最大限活用していくべき。

2.2050年に向けて「必要な規模を持続的に活用していく」ことを可能とするために、人材・技術・産業基盤の維持確保が必要であり、新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき。

3.「必要な規模の原子力を持続的に活用していく」ためには、電力自由化の中、経営の予見性向上が必要であり、英国、米国等に見られるような制度(英国RABモデル、米国原賠制度等)を参考にその導入が検討されるべき。

4.産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない。熱供給、水素製造を含め高温ガス炉の技術開発は有望な選択肢。2050年カーボンニュートラルを目指す中、「産業・業務・家庭・運輸部門に求められる取組」の項に記載し総合的に取り扱うべき。

以上

<参考:パブリックコメントへの提出意見及び理由>

 

意 見
1.安定的で安価なエネルギー供給を確保しつつ、2050年カーボンニュートラルを実現するために、「可能な限り原発依存度を低減する」のではなく、低炭素電源として、安全確保を前提とし、既に確立された技術である原子力を最大限活用していくべき。

理 由

発電時にCO2を排出しない原子力発電は、わが国の例で試算すると100万kWあたりのCO2排出削減効果は約310万t-CO2/年であり、現在日本の温室効果ガス排出量の約4割を占めている電力部門の脱炭素化に大きく貢献することができる。
(参考)電気事業における環境行動計画(電気事業連合会)

また原子力発電は設備利用率が高いため、敷地面積が小さくて済み、森林伐採などによる環境負荷が少ない。原子力発電所に必要な敷地面積は、100万kW級の発電所1基で約0.6㎢だが、同発電電力量を代替した場合、太陽光発電では約58㎢と山手線の内側面積とほぼ同じ面積、また、風力発電では約214㎢と山手線の内側面積の約3.4倍の敷地が必要となる。
(参考)原発のコストを考える(エネ庁スペシャルコンテンツ)

とりわけ社会の基盤を支える電力には、安定供給はもとより、国民の負担を低減し産業競争力を確保するために低廉な価格が求められる。間欠性を有する再生可能エネルギーの導入拡大は電力供給システムのコスト増大をもたらすため、24時間365日、ベースロード電源として安定的に低炭素電力を供給できる原子力を組み合わせることにより、脱炭素化とコスト抑制による電気料金の低廉化を同時に達成することができる。
(参考)2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(地球環境産業技術研究機構(RITE))

高度な生産設備や医療機器を正確に駆動する高品質な電力の供給は社会の要請である。国土利用・資源賦存状況、産業構造などの課題を考慮し、低炭素で、気象・海象・天候・災害に左右されない電源を継続的に確保していかなければならない。こうしたレジリエンスの観点から極めて強靭である原子力を最大限活用すべきである。

 

意 見
2.2050年に向けて「必要な規模を持続的に活用していく」ことを可能とするために、人材・技術・産業基盤の維持確保が必要であり、新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき。

理 由

2050年以降も見据えると、「必要な規模を持続的に活用していく」ためには、運転期間の更なる延長はもとより、新増設・リプレースが必要になることは自明である。

また、原子力発電事業のライフサイクルは長く、それぞれのステージで多くの業種、企業が貢献している。今日、原子力関係の売上高は年間約1.7兆円、従事者数は約8万人、うち各発電所を支える地域の工事会社従業員数は約3万3千人と、原子力発電は多くの企業や従事者によって支えられている。2050年に向けて「必要な規模を持続的に活用していく」ためには、こうした人材・技術・産業基盤の維持確保が必要であり、新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべきであると考える

近年、原子力主要メーカーにおいては、原子力部門への採用者数は減少し続けるとともに、建設プロジェクト従事経験者が高齢化し従事経験のない従業員が半数以上となっており、このまま建設ブランクが長期化すると、発電所建設の技術・技能の喪失が懸念される状況である。また長年サプライチェーンを支えてきた原子力主要メーカーに連なる日本企業群の技術はいまだ世界的にも評価が高いが、建設による受注がないと原子力品質に応えてきたこうした企業がマーケットから離脱し、産業基盤が失われる懸念がある。

(参考)原子力産業界の現状(2021年4月14日 日本原子力産業協会)

 

意 見
3.「必要な規模の原子力を持続的に活用していく」ためには、電力自由化の中、経営の予見性向上が必要であり、英国、米国等に見られるような制度(英国RABモデル、米国原賠制度等)を参考にその導入が検討されるべき。

理 由

電力自由化の下、2050年以降も原子力を持続的に活用してカーボンニュートラルを目指すには、原子力の新規建設を支えるファイナンスがキーとなる。3Eをはじめとする原子力の価値が金融市場で正当に評価されることが重要であり、そのためには英国や米国で導入または検討されているような、電力自由化の中でも電力会社の経営の予見性を高めるための制度的措置が必要である。こういった制度には、投資回収メカニズム、非化石価値評価、損害賠償制度などが含まれる。

(参考)
英国RABモデル(英国政府HP)

英国CfDモデル(英国政府HP)

他国の原子力損害賠償制度(原子力委員会資料)
原子力損害賠償制度について諸外国の例を見ると、米国、英国、フランス等では有限責任制度が採用されている。

 

意 見
4.産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない。熱供給、水素製造を含め高温ガス炉の技術開発は有望な選択肢。2050年カーボンニュートラルを目指す中、「産業・業務・家庭・運輸部門に求められる取組」の項に記載し総合的に取り扱うべき。

理 由

第6次エネルギー基本計画(案)6ページ194行目以降には以下のような記述があり、あらゆる可能性を排除せず使える技術は使うとの発想に立つことが基本とされている。
「2050年カーボンニュートラルを目指し、様々な可能性を排除せずに脱炭素化のための施策を展開し、イノベーション実現に向けた技術開発に取り組む中にあっても、常に安全の確保を大前提としつつ、安定的で安価なエネルギー供給を目指すことは当然の前提である。S+3Eを大前提に、2030年度の新たな削減目標や2050年カーボンニュートラルという野心的な目標の実現を目指し、あらゆる可能性を排除せず、使える技術は全て使うとの発想に立つことが今後のエネルギー政策の基本戦略となる。」

また、同27ページ「(4)産業・業務・家庭・運輸部門に求められる取組」においては以下のような記述があり、電化が困難な熱需要や製造プロセスにおいては、革新的技術の実装が不可欠とされている。
「一方、電化が困難な熱需要や製造プロセスにおいては、水素・合成メタン・合成燃料などの利用や革新的技術の実装が不可欠となる。例えば、水素は、余剰の再生可能エネルギー等の電力を水素に転換し、産業・業務・家庭・運輸部門で活用することで、セクターカップリングによる脱炭素化にも貢献することが可能となる。」

高温ガス炉は固有の安全性が高く、高温のヘリウムガスを供給できることが大きな特徴であり、電力部門以外での活用が期待されている革新的な原子炉である。
高温ガス炉は950℃の高温を供給できるため、水を原料としたカーボンフリー水素製造だけでなく、高温帯の熱需要や製造プロセスに対する直接の熱エネルギーの供給源として、あるいは合成メタンや合成燃料の製造プラントへの熱供給を通して間接的な熱エネルギーの供給源として利用できるポテンシャルが高い。
(参考)高温ガス炉と水素・熱利用研究(日本原子力研究開発機構)

しかしながら産業・業務・家庭・運輸部門に求められる取組として、高温ガス炉等の原子炉熱によるカーボンフリーな熱供給が想定されておらず、当該部門での利用が進まない恐れがある。

高温ガス炉の導入に当たっては需要側のニーズ掘り起しや、導入に向けた障壁を取り除くための政策が不可欠であり、原子力政策の枠組みを超えて、総合的なエネルギー政策として将来のあるべき姿に組み込んだうえで、その実現に向けた政策を検討していくべきである。

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