COP29、世界のネットゼロ達成に向けた原子力の役割

2024年11月25日

一般社団法人日本原子力産業協会
理事長　増井秀企

COP29^*¹が、11 月 11日から24日の期間で、アゼルバイジャンのバクーで開催された。昨年12月にアラブ首長国連邦で開催されたCOP28では、初めて公式文書に原子力の低炭素価値が書き込まれる歴史的転換点となったことは記憶に新しいところである。気候変動対策における原子力の貢献を訴求するために、当協会は職員を派遣した。

COP29では、国際原子力機関（IAEA）、ネットゼロ原子力（NZN）^*²、国際青年原子力会議（IYNC）など原子力関係団体がパビリオン・ブースを設置し、サイドイベントを開催するなどの活動を展開した。とりわけ、COP29公式サイドイベント「Tripling nuclear energy: how to turn commitments to into action」^*³には当協会からも植竹常務理事が登壇し「世界で原子力発電を3倍にする目標を達成するために、最も重要な役割を果たすのは各国の政治的意思である。ネットゼロを成功させるためには、各国独自の事情に合わせた市場設計が不可欠である」とのメッセージを発信した。また、当協会も設立メンバーである、世界150以上の原子力関連組織が結集した草の根イニシアティブNuclear for Climate (N4C)は、ポジション・ペーパーを発表し、政策立案者が原子力を支援することの重要性を活発に訴えた。

COP29でも、気候変動における原子力の価値を評価する様々な動きがあった。まず注目すべきは、今回の議長国アゼルバイジャンのシャフバゾフ・エネルギー大臣とIAEAのグロッシー事務局長が、エネルギー計画分野における協力に関する覚書を締結したことである。同大臣は「アゼルバイジャンは、将来的にクリーンエネルギーとして原子力がエネルギーミックスの一部になる可能性があると見ている」と発言した。産油国、産ガス国でこれまで原子力発電と縁の無かった同国が、原子力の価値を積極的に評価したことはCOP全体の雰囲気に多少なりとも影響したと思われる。２つ目は、「原子力の三倍化宣言」^*⁴に、エルサルバドル、カザフスタン、ケニア、コソボ、ナイジェリア、トルコの6か国が新たに署名し、同宣言を支持する国の総数は31か国となったこと。３つ目は、米政府が、2050年までに2億kWeの原子力発電容量を導入し、現在の約1億kWeの設備容量を3倍化する計画の枠組みを発表^*⁵したこと。4つ目は、IAEA と欧州復興開発銀行（EBRD）が、原子力分野の協力関係を拡大する覚書^*⁶に調印したことで、中東欧、南・東地中海、中央アジア地域における低炭素の未来に必要な投資の促進が期待されることである。

数年前まではCOP本会議で原子力が語られることはなかったが、今や堂々と多くの公式プログラムの中で取り上げられている。世界的なエネルギー安全保障への懸念を背景に、地球温暖化防止における原子力への期待の高まりを感じさせるCOPであった。

当協会は、引き続き世界の原子力関係組織と協力し、安全確保を大前提に原子力の最大限活用にかかる諸課題に取り組む。

^＊1　国連気候変動枠組条約（UNFCCC）第 29回締約国会議

^＊2 COP28を機に、世界原子力協会（WNA）とUAEの原子力公社（ENEC）が中心となり発足した2050カーボンニュートラルを目指すイニシアティブ。現在世界から30以上の機関が参加している。また、COP28で発出した「原子力3倍に向けた産業界の誓約」には130を超える機関が賛同を表明している。原産協会は、このイニシアティブの発足メンバー

^＊3　国連気候変動枠組条約の事務局から公式に認められたサイドイベントで、世界の原子力産業界団体代表者らが3倍化宣言を実行に移すために必要な要素等について議論。現地では膨大な数のイベントが並行開催されるがそのほとんどが非公式イベント

^＊4　1.5℃目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を 2050 年までに 3 倍に増加させるという野心的な目標を掲げたCOP28における閣僚宣言。当初22か国が参加、その後25か国に増加していた。

^＊5　大型炉のほか、小型モジュール炉（SMR）、マイクロ炉を含む新規炉の建設、既存炉の出力向上や運転期間延長、経済的理由により閉鎖された原子炉の再稼働などによる容量増大を想定

^＊6　EBRDの活動対象国（中東欧、南・東地中海、中央アジアを対象に約40か国）が原子力利用を検討するにあたり、エネルギー政策・戦略、ガバナンスと資金調達の枠組み、ネットゼロ目標を達成するためのメカニズムなどの策定に向けた活動を支援

＜参考＞

〇COP29 「原子力三倍化」へ向けた資金調達を議論

https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/25598.html

〇「原子力三倍化」宣言　さらに６か国が署名

https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/25581.html

〇IAEAとEBRD　ネットゼロ達成に向け原子力協力を拡大へ

https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/25617.html

〇Nuclear for Climate が COP29ポジション・ペーパーを発表