海外の事例に学ぶ~スペインの原子力産業~

2014年12月11日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 服部 拓也

本年4月、わが国のエネルギー基本計画が閣議決定されたが、現時点で再稼働したプラントはなく、わが国の将来の原子力発電規模についての議論が深まらないまま、エネルギーミックスも決められないという混迷状況が続いている。

このような閉塞状況が続く中で、当協会は、スペインにおける原子力の現状と産業界の取り組み事例を聞く機会を得たが、その内容はわが国の原子力の今後を考える上できわめて示唆に富むものであったことから、その一部を紹介したい。

1.エネルギーを巡る環境はわが国と類似
スペインは人口約4700万人とわが国の3分の1強、GDPは年間約130兆円とわが国の約4分の1で欧州第5位の経済大国、発電電力量は年間約2850億kWhとわが国の4分の1強、国内にエネルギー資源がないことから1950年代から原子力の開発に着手した。当初はフランス、米国から技術導入し、1970年代のオイルショックを契機に開発を加速、これまでに10基を開発してきた原子力先進国の一つである。

2.ゼロエミッション電源は50%以上
1990年代に入り、地球温暖化対策として再生可能エネルギーの開発に積極的に取り組む。中でも風力発電の導入規模は世界有数であり、再生可能エネルギーの占める割合は総電力発電量の30%以上、原子力の約20%と合わせたゼロエミッション電源の割合は50%以上となる。EU大の目標である「2020年までに温室効果ガスの排出量を90年比で20%削減、再生可能エネルギーの比率20%」を達成すべく、スペインも対応している。再生可能エネルギーの割合増加による系統上の課題もネットワークの増強と緻密な運転制御により克服したとしている。

3.既存の原子力発電所を有効活用
1980年代に入り、米国TMI事故、旧ソ連チェルノブイリ事故の影響で建設計画が凍結され、運転期間も40年に制限されるなど、開発が減速した。現在7基約740万kWが運転中(このほか1基が長期停止中)、1基が閉鎖、1基が解体工事中である。

2011年以降、原子力の温室効果ガス削減への貢献の観点から40年運転制限を修正、10年毎に運転期間の延長を許可する方針となる。また、定格出力向上を積極的に行うなど、プラントの新設が認められない中で、既存のプラントを最大限有効活用している。近年、設備利用率も90%程度と安定しており、原子力がベースロード電源として総発電電力量の約20%を供給している。

4.使用済燃料の管理、放射性廃棄物の管理・処分は国の責任
1980年代の原子力新設計画の凍結に伴い、廃止措置、使用済燃料の管理に関する国の責任が明確になった。1984年に法令(ENRESA設置令)に基づき実施主体として放射性廃棄物管理公社(ENRESA)が設立された。使用済燃料は再処理せず直接処分の方針のもと、当面はサイト内で湿式又は乾式で中間貯蔵し、今後、集中中間貯蔵施設を建設予定である。低・中レベル放射性廃棄物は、国内唯一の放射性廃棄物処分場であるエルカブリル処分場において処分している。

5.国内の開発が停滞する中、産業界は海外に積極展開
スペインの原子力産業界は10基のプラントの建設の過程で、国内に原子力発電所の設計、建設、運転保守に係るサプライチェーンを確立した。その後、1980年代に入り国内需要が停滞したことから海外に積極展開し活路を見出すこととなった。電力会社、原子力システム供給、エンジニアリング、機器サプライヤー、建設・基礎工事、各種サービスで、海外企業とも連携してバリューチェーンを確立し、海外40か国でエネルギー・原子力事業をグローバルに展開している。特にインフラ整備に関するエンジニアリング事業ではグローバル市場で世界有数の地位を占めている。

このように、スペインの原子力産業界は1980年代以降の原子力を巡る厳しい環境に対応してグローバル化を進め、現在では世界でその存在感を高めている。また、地球環境問題に対応するため、再生可能エネルギーの開発を進める一方で、既存の原子力発電所を最大限活用するという極めて現実的な選択をしており、政府もこの方針を明確に支援している。

かつて、米国ではTMI事故以降、プラント建設が途絶えたことで自国の原子力技術が失われてしまったが、わが国でも同様の事態になることが懸念されている。世界でもトップクラスの技術力を誇るわが国の原子力技術の衰退は、日本の原子力安全のみならず、世界の原子力安全の観点からも大きな損失となる。

現在、わが国では原子力技術・人材の維持について検討が進められているが、内向きの議論に終始してなかなか出口が見つからない状態が続いている。今こそ、広く世界に目を向け、スペインのような国からヒントを見付けようとする意識が必要ではないだろうか。

以上

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