高温ガス炉の実用化に向けた取り組みへの期待

2018年5月23日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

(高まるイノベーションへの期待)
 世界の原子力発電の主流となっている軽水炉は20世紀半ばに実用化されて以来、1万5千炉年に及ぶ運転経験を積み重ねる過程で数々のトラブルや事故を乗り越えて改善を続けながらスケール効果を追求して大型化してきた。しかし近年、高騰する大型炉建設コスト削減や一層の安全性・信頼性・効率性向上を達成するために、従来の概念を超えたイノベーションの必要性がいわれている。そのような中で、固有の安全性を生かし、初期投資が小さく、建設期間が短い小型炉への注目が高まっている。

(軽水炉と異なる特徴を持つ高温ガス炉)
 わが国では、小型炉に分類され軽水炉と異なる特徴を持つ「高温ガス炉」の研究開発が1960年代から進められており、HTTR(高温工学試験研究炉)を1998年に運転開始し、安全性実証試験等を積み重ねてきている。高温ガス炉は下記のような安全特性を有しており、制御棒挿入に失敗してもドップラー効果により止まり、交流電源がなくとも自然対流・輻射で圧力容器外部から自然に崩壊熱を除去し、セラミック被覆燃料粒子内に核分裂生成物を閉じ込めることが出来る。

  • 冷却材に不活性なヘリウムを使用しており、水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。
  • 燃料の被覆に耐熱性に優れたセラミックを使用しており、燃料が溶融しない。
  • 黒鉛(減速材)により事故時の温度変化が緩慢で、事故後(短時間)の対応の必要がない。

また、高温のヘリウムを供給できることから、

  • 水からの水素製造をはじめとする化学プロセスへの高温熱供給、高効率のガスタービン発電が可能となる。
  • 上記で利用した後の廃熱を水蒸気供給、海水淡水化、暖房等の熱源に利用するなど、熱を段階的に利用できる。

といった特徴がある。

(高温ガス炉をめぐる熾烈な開発競争)
 高温ガス炉の開発には米・中・英・加・韓・カザフスタン・インドネシア・ポーランドなど多くの国が取り組んでおり、開発競争が繰り広げられている。特に中国では、実験炉の運転実績があり、2基の発電実証炉が建設中であるなど、国を挙げた開発が進められている。
 わが国のHTTRは世界最高の原子炉出口温度950℃を達成しており、高温での連続運転や固有の安全性の実証を行うなど、高温ガス炉の研究開発では最先端にいる。既に原子炉に関する多くの知見を得ると共に、水素製造設備やヘリウムガスタービン発電に関する基盤技術の確立を終え、今後はHTTRとこれら施設との接続試験を計画している。しかしながら、世界の最先端を行くわが国の高温ガス炉の技術も実用化が遅れればその優位性が失われる恐れもある。

(高温ガス炉の実用化に向けて)
 今、ポーランドには石炭に代わって化学産業等に熱を供給するための高温ガス炉を導入するプロジェクトがあり、世界各国の技術や知見を反映しながら研究炉と実用炉の設計・建設を進めようとしている。わが国では日本原子力研究開発機構(JAEA)が中心となってポーランドに協力しており、集めた知見や技術を自国技術化してビジネス展開を目指すポーランドに対して、知的財産を守りながらどのように協力していくかが課題であるが、国産技術を実用化するための大きなチャンスでもある。
 また、国産技術を使った新型炉の実用化は若い技術者に夢をもたらし、原子力人材の確保・育成にも資する。現在HTTRは新規制基準適合性確認審査のため停止しているが、早期に運転再開し引き続き技術課題の検証や周辺技術の成熟等に努めながら、様々なチャンスをみつけて実用化に挑戦する取り組みに期待したい。

以 上

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