パリ協定の目標達成に向けた原子力発電の役割―COP27―

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第 27回締約国会議(COP27)が、11月6日から11月20日エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催され、気候変動で発展途上国に生じた被害に対する支援基金の設立を盛り込んだ成果文書が採択された。
 今回の論点は「損失と損害(ロス&ダメージ)」が中心とされる中、UNFCCC事務局は、COP27に先立ち発表した「パリ協定における自国の決定に関する統合報告書」の最新版で、現在の削減目標では、今世紀末までに2.5℃程度の気温上昇が見込まれるとしており、1.5℃目標の達成のため、さらなる気候行動計画の強化を求めている。

 今回の COP では、国際原子力機関(IAEA)が、当協会を含め各国原子力産業界団体と共同で、初めてパビリオンを出展した。パビリオン出展には脱炭素に貢献する各国企業も協力した。講演で、IAEAグロッシー事務局長は、世界気象機関(WMO)や国連食糧農業機関(FAO)がパビリオンに参加していることに触れ、「気候変動対策への期待の表れ」、将来世代を考えると「地球温暖化に対して楽観主義で対応するわけにはいかない」と原子力による貢献への強い決意を表明した。欧米の50年を迎えつつあるプラントの高経年化について問われた際には、「気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ」と強調し、「長期運転にかかるバックフィット等のコストは初期コストの半分以下であり、私は100年の運転も可能と考えている」と述べた。
 また、事務局長は「気候変動対策で誰一人とり残さない社会のために、原子力を活用しよう」と呼びかけ、新たな「#Atoms4NetZero」イニシアティブを提唱。これは、IAEAの分析ツールや専門知識を活用し、新規導入を検討する国に対し、原子力の貢献により2050年までに温室効果ガス排出を限りなくゼロに近づけるためのモデル検討の作成を支援するものである。

 同じく、IAEAパビリオンに登壇したガーナのエネルギー省プレンペー大臣は、「ガーナは原子力エネルギー機関を設立し、クリーンで安全で持続可能なエネルギー開発を進め、原子力シェア50%のネットゼロ社会を目指したい」と述べた。また、米国のケリー大統領特使は、米国輸出入銀行(EXIM)がルーマニアの原発建設向けに30億ドルを供与することを準備していること表明し、原子力は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を達成するための手段の1つだと強調した。

 一方、世界の原子力産業界も脱炭素化に向けた原子力発電の役割をアピールした。COP 期間中に、当協会をはじめとした各国産業界団体は10にも及ぶパネルを実施したほか、「現在の地政学的状況における原子力発電の重要な役割に関する原子力産業界の共同声明」を発表。世界150以上の原子力学協会と団体が参加したNuclear for Climate(N4C)イニシアティブは、発表したポジションペーパー「NetZeroNeedsNuclear」に基づき、若手世代を中心とした原子力の訴求活動を行った。これらを通して、「1.5℃目標」の達成、エネルギー安全保障の改善、化石燃料の輸入への依存低減、公正で手頃なエネルギー価格でのゼロ炭素経済への移行、雇用と経済成長のために、世界中で原子力発電の割合を増やす必要性が訴えられた。 

 原子力は、安定供給の観点から極めて強靭で、経済性に優れ、かつ環境 に対し持続可能な最も信頼できる確立された技術であると同時に、高速炉、 小型モジュール炉、高温ガス炉、核融合炉など今後も一層成長が期待できるイノベーション分野が広がっている。また、発電部門以外にも、熱供給や水素製造により産業、輸送、家庭など様々な部門の脱炭素化を支えるポテンシャルを有していることを改めて強調したい。

 我が国でも「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向けて、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を中心に、原子力利用を含めエネルギーの安定供給の再構築が進められている。世界の「1.5℃目標」達成の努力にわが国の原子力技術が期待されていることも踏まえ、原子力発電への国民理解の促進、安全を大前提とした原子力の最大限の活用に関係者一丸となって取組みたい。

(了)

<参考>

〇特集:COP27 at Sharm El-Sheikh, EGYPT 2022
https://www.jaif.or.jp/information/cop27/

〇Nuclear for Climate、COP27ポジションペーパーを発表
https://www.jaif.or.jp/information/cop27_position_paper/

〇「現在の地政学的状況における原子力発電の重要な役割に関する共同声明」を公表
https://www.jaif.or.jp/pressrelease/jaif_cop27_-global_nuclear_industry

〇IAEA 気候変動関連ページ
https://www.iaea.org/topics/climate-change

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