福島廃炉へ ロボット実証試験 原子力機構「楢葉遠隔技術開発センター」着工
福島第一原子力発電所事故から間もなく4年。応急的対応から、30~40年間を見据えた中長期的対応の段階に入りつつある。事故炉の廃止措置完遂には、これまでに前例のない課題解決のための研究が必要だ。日本原子力研究開発機構では、最先端の設備を備えた遠隔操作機器・装置の開発実証施設「楢葉遠隔技術開発センター」を整備しており、今後、廃止措置を加速させる技術基盤確立に向けた研究開発拠点として、また、幅広い活用方策を通じ福島復興にも寄与することが期待されている。(石川公一記者)
昨秋、起工式行われる 16年度本格運用開始目指す
「楢葉遠隔技術開発センター」は、福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた研究開発を加速すべく、遠隔操作機器に関する技術基盤確立のための開発実証試験などを行うことを目的に、15年度末のしゅん工、16年度の本格運用開始を目指し、14年9月26日に安全祈願祭・起工式が執り行われた。
同センターは、福島県楢葉町の楢葉南工業団地内に位置しており、施設は、地上4階建ての研究管理棟と同2階建ての試験棟とからなる。研究管理棟には、研究者・職員らの居室の他、バーチャルリアリティ訓練室、資料室、研究成果の発表などにも活用する多目的室や共用会議室が設置され、試験棟には、福島第一原子力発電所の状況をできる限り再現する原子炉格納容器(PCV)下部の模擬体、災害対応ロボットの屋内実証試験エリアが置かれ、作業者の育成などにも供用する。
福島第一原子力発電所の1~3号機では、原子炉の解体に向け、炉内で溶け落ちた核燃料デブリの取り出し準備が最重要課題となっている。燃料デブリの取り出しに関しては、現場状況の調査、除染、PCV下部の漏えい箇所の止水のため、遠隔操作機器(ロボット)の開発が当面の課題だ。
「楢葉遠隔技術開発センター」の試験棟では、PCV下部の漏えい箇所の補修・止水技術の実証試験、福島第一原子力発電所建屋内での調査、除染などのために必要な遠隔操作機器の開発に当たり、機器を製作する前に機能を確認し、開発を効率化するロボットシミュレータについても、他の研究機関と協力しながら開発・導入する予定だ。
また、研究管理棟では、遠隔操作機器による作業手順の検討や、作業者の訓練を行うための最新のバーチャルリアリティシステムの開発・導入が計画されている。
「水を止める」最優先課題 デブリ取出しに向け、PCV模擬体組立へ
原子力機構・福島廃炉技術安全研究所所長の河村弘氏に、「楢葉遠隔技術開発センター」の使命、今後の期待について話を聞いた。
福島第一原子力発電所の建屋内は、高放射線量のため、人が作業現場に近づくことが困難なことから、遠隔操作技術が必要不可欠となっていることはいうまでもない。同センターは、これに対応すべくメーカーや大学により開発されたロボットが性能試験を実施した後、現場を模擬した環境で、「実証試験を継続的に続けていける施設」として、海外からも注目されていると河村氏は述べ、さらに、ロボットの実証試験だけではなく、操縦者の訓練にも供する役目を強調する。また、もう1つの使命として、福島第一から20km圏内にできる初めての本格的な廃炉研究拠点であることからも、「われわれは福島に対し『しっかり取り組んでいく』というメッセージを送らなければならない」と述べた上で、ロボット開発を通じ、地元の経済活性化に貢献していくことも同センターにとって重要だとしている。
ロボットが立ち入る現場は、あらかじめ状況がわからないこともある。試験棟の遠隔操作機器実証試験エリアには、それを想定し、水槽、障壁、スロープ、がれき、モックアップ階段など、ロボットの性能確認を行う装備が設置される。特に、狭あい箇所での作業に備え、ロボットの微細な動きを確認することができる「モーションキャプチャ」について、河村氏は「日本でここにしかないのでは」という。
実寸大のPCV下部を8等分して切り出した形を模した「1/8セクター試験体」は、試験棟内で組み立てられた後、実証試験では、実際に水を回して漏れている状況を模擬し、セメントを流し込んで水を止める実験を行う。これに関し、河村氏は、「燃料デブリ取り出しの準備として『水を止める』ということが最優先課題」と、その重要性を繰り返し強調する。今後は、まず、2号機について、15年10月頃から組立に入り、16年2月頃から試験が開始される見込みだ。
また、センターで培われた技術の他分野への応用の可能性について、河村氏は、林業を例にあげ、ヘリコプターによる遠隔技術など、福島を拠点として全国展開することで、大きな産業創成も期待できるとしており、「先端技術を産業に落とし込んでいくこともわれわれの仕事の1つ」と意気込む。
廃炉の人材育成に関して尋ねると、河村氏は、「後片付けのためではなく次に進むためのステップと考えるべき」と断言し、若者に関心を持ってもらう必要とともに、大学で「原子力人材育成」を掲げるプログラムを修めた学生全員が原子力関連に就職しているわけではないことをあげながら、「人材育成」に留まらず、「人材育成・確保」でなければならないと述べ、国内外から、チャレンジングな研究・技術者たちをセンターに集め、育て上げていくことにも意欲を見せた。
浜通り地域の再生を目指す「イノベーション・コースト構想」にもたびたび触れた河村氏だが、一方で、「センターを中心として、大学も中小企業も寄り集まって色々な議論ができる共用の場が是非必要」などと指摘した上で、それがあってこそ「遠隔技術開発が推進され福島第一原子力発電所の廃止措置が進捗すると思う」とも述べる。
「地域の誇り」、「キャリア教育の場」、「修学旅行の見学先」等々、幾つかの側面を思い浮かべながら、河村氏は、「みんなが来たいと思うセンターにしていきたい」、さらには、「『ロボット研究開発の楢葉』といわれるように頑張りたい」などと期待をかけた。(了)