IAEA:福島第一発電所事故に関する事務局長の最終報告書を公表
国際原子力機関(IAEA)は8月31日、東日本大震災を引き金に発生した東京電力・福島第一原子力発電所事故の原因と評価に関する事務局長名の最終報告書を公表した。世界中の政府、規制当局および原子力発電事業者が必要な教訓に基づいて行動可能となるよう、人的、組織的および技術的要因を考慮し、何がなぜ起こったのかに関する理解の提供を目指す内容。42の加盟国、および国際機関の専門家約180名が5つの作業部会を設置して、同事故の原因と影響、および教訓について、事実に基づいた信頼できるバランスの取れた評価を行ったとしている。同報告書は9月にウィーンで開催するIAEA総会に提出予定である。
天野之弥事務局長は巻頭言部分で、事故につながった大きな要因の1つは「日本の原子力発電所は非常に安全であり、これほどの規模の事故はまったく考えられない」という想定が日本で広く受け入れられていたことだと指摘。原子力発電事業者に受け入れられた同想定は、規制当局、政府からも疑問を呈されることはなく、同発電所では重大原子力事故への備えが不十分になっていたとの認識を示した。また、日本の規制枠組における弱点として、責任がいくつもの機関に分散し、権限の所在が必ずしも明らかで無かった点に言及した。発電所の設計や緊急時対策と対応の制度、重大な事故対策計画などにも弱点があり、長時間の全電源喪失や同一施設で複数の原子炉が同時に危機に陥る可能性も想定されていなかったとした。このような事実を背景に、天野事務局長はいかなる国においても原子力安全について自己満足に浸る余地は無く、福島第一事故につながった要因のいくつかは日本に特有であったわけではないと明言。安全文化への鍵は常に疑問を持ち、経験から学ぶ開かれた姿勢であり、これは原子力発電に携わるすべての人々にとって必要不可欠だとした上で、これらの人々に対して安全を常に最優先するよう訴えている。
同事務局長はこのほか、「事故以降、日本は従来以上に国際基準に合致すべく規制制度を改革した」と明言しており、福島第一事故を受けて世界各地で原子力安全により強い関心が集まることを確信すると述べた。これまでに訪れた全ての原子力発電所で安全措置・手順が改善されていることを目にしたとした上で、「このような事故が二度と起きないようにするために、人知の限りを尽くさなくてはならないという認識が広がっている」と指摘。今後数十年にわたり原子力発電の利用が世界的に拡大し続けると見込まれる中で、こうした認識は一層重要との見解を表明している。
同報告書は要約と約200ページの概要報告書、および国際的な専門家が作成した5巻の詳細な技術文書で構成され、要約部分については邦訳文も作成。これらはIAEAのウェブサイト(http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/10962/The-Fukushima-Daiichi-Accident)に掲載されている。