IEAの「世界エネルギー予測」:「燃料価格低迷期こそ供給セキュリティ増強が必要」
国際エネルギー機関(IEA)は11月10日、世界のエネルギー情勢に関する2014年データを分析した上で2040年までの長期的な動向を展望した「世界エネルギー予測(WEO)」の2015年版を公表した。長期にわたる石油価格の低迷は消費国にとって恩恵となるものの、関連投資が萎縮すれば価格が急反騰するリスクが生じ、一部の低価格生産者への依存が高まるなどエネルギー・セキュリティ上の懸念が引き起こされると警告している。また、これまで強固な相関関係にあったCO2排出量と経済活動に乖離の兆しがようやく見え始めており、月末からパリで開催される国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP21)で堅固な方向性が示される必要があると指摘。一時的な変化と永続的な変化、この先のリスクと機会といったエネルギー部門の現状を明確に理解し、エネルギーシステムを一層確実で持続可能な基盤に乗せるために何ができるか見極めることが、各国の政策当局や産業界にとって、かつてなく重要になっていると明言した。
報告書では、「中心シナリオ」の想定において石油市場は2020年に1バレルあたり80ドルで再び均衡し、その後は一段と上昇すると予測した。ただし、現行レベルの低価格が長期化した場合、高価格な供給源が排除され、低価格生産者に依存が集中。中東地域への依存は1970年代に見られたレベルまで高まることになる。IEAのF.ビロル事務局長は、「石油価格の変化をエネルギー・セキュリティの指標とするのは大きな間違いであり、力を抜いて良いのは今ではなく実際はその逆だ」と指摘。石油価格の低い時期こそ、将来的なエネルギー供給セキュリティに対処する能力の増強が必要な時だと訴えた。
また、電力部門について報告書は、2040年までに最終エネルギー消費量のほぼ4分の1を占めるようになり、エネルギーシステムにおける脱炭素化への道筋を先導すると明言。世界の電源構成に占める石炭の割合は41%から30%に低下し、この分はそのまま水力以外の再生可能エネルギーの割合拡大につながる一方、ガス、原子力、水力は概ね既存の割合を維持するとした。これにより、再生エネの発電シェアは2040年までにEUで50%、中国と日本では約30%、米国とインドでは25%以上に到達。再生エネと原子力からの発電増、一層効率的な火力によって、発電によるCO2排出量の増加率は2040年までの発電量の増加率に対して5分の1に留まると強調している。
エネルギー需要量は世界全体で、2013年から2040年までの間に3分の1増加するが、この増加分はインド、中国、アフリカ、中東、東南アジア諸国など非OECD諸国が牽引すると報告書は説明。OECD諸国では消費量がピークとなった2007年水準から減少する見通しで、EUで2040年までに15%減少するほか、日本で12%、米国で3%の減少になるとした。CO2排出量と、世界的な経済成長およびエネルギー需要のリンクは弱まる傾向だが、それは中国などの市場で経済構造が変化している一方、その他の国ではエネルギー・サービスへの需要が飽和点に達しているため。これらすべての国が一層効率的なエネルギー技術を採用しているものの、石油価格の低迷が長期化することで、エネルギー移行におけるこのような重要要素の効果は弱まる可能性もあると分析した。
世界最大の温室効果ガス排出源であるエネルギー部門は、温暖化防止努力に中心的に取り組まねばならないが、低炭素技術への移行が進んでいる兆候にも拘わらず、報告書は同部門によるCO2排出量は2040年までに16%増加すると予測。エネルギー部門における変革を世界的に加速するため、COP21では世界のリーダー達が明確な方向性を設定する必要があり、IEAとしても、COPでの合意事項が実行に移されるよう支援していく用意がある。現状を良く把握した上で、より良い政策を推進し、世界が望む安全で持続可能なエネルギーを将来的に可能にする技術革新に協力していくとの考えを提示している。