EC:ハンガリーのパクシュ原子力発電所増設計画についてEU競争法との適合性調査

2015年11月26日

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は11月23日、ハンガリーが進めているパクシュ原子力発電所Ⅱ期工事建設プロジェクトについて、EU競争法(EU機能条約)の国家補助規則に適合するか詳細な調査を開始すると発表した。同月19日には、ハンガリーが同プロジェクトをロシアに直接発注した点についても、競争法の侵害調査手続を開始すると決定。ロシアからの低金利融資を受け2018年にも着工が見込まれていた同プロジェクトの見通しは、ECが実施する2件の調査により急速に不透明感を帯びることになった。

 ハンガリーは2014年1月、ロシアからの融資でⅡ期工事の2基を増設する計画を発表し、翌2月に総工費の約8割にあたる最高100億ユーロを完成後21年間の低金利ローンで返済することでロシアと合意。12月には、ロシアのエンジニアリング企業と(1)エンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約、(2)完成炉の運転・管理契約、(3)燃料供給契約を締結していた。

 ECによると、ハンガリー政府は本格的な競争入札といった透明性の確保手順を踏まずに2基の新規建設・改修契約を直接発注しており、これは公的調達に関するEU指令に準拠していない。同指令はEU競争法における「透明で無差別、かつ平等な扱い」の基本原則を集約したもので、すべての経済事業者が入札に参加し、契約を獲得するための公平な機会を有することを保証している。ECはハンガリー当局との情報交換や、発注先の選定条件に関する徹底的な評価作業の結果、同プロジェクトがこれらに適合するかという点で、未だに懸念がぬぐい去れないと言明。手続の最初のステップとして、ハンガリー政府に情報の提示を正式要請する公式文書の送付を決定したと説明した。これに対し、ハンガリー政府は2か月以内に回答することが義務付けられることになる。

 一方、国家補助規則との適合性調査でECは、同様の条件で民間の投資家が同プロジェクトに融資し得たか、あるいは同プロジェクトの資金調達に国家財源の移転が含まれるかを重点的に調べる予定。もしそうであった場合は、同プロジェクトがハンガリーのエネルギー市場、あるいはEUの単一市場における競争原理を歪める恐れがあるか確認することになる。EUは今年5月にハンガリー当局が同プロジェクトへの投資計画を通知してきた段階で、この投資が市場の条件に合致していない可能性を危惧。合意された取引条件に基づいて、同プロジェクトを詳細に評価することを決定した。EU規則に準拠すると判断されるためには、プロジェクトの目的に応じて支援策が市場での純然たる失敗に対処するものでなくてはならず、国からの支援がない場合に市場原理だけでは実現しない可能性があることを意味する。同調査の出だしとしてECは、同支援策に対してコメントする機会を関係する第三者に付与するが、これは調査結果を予断することにはならないと説明している。

 ECは今年4月、燃料供給セキュリティ上の懸念から、それまで副署を拒んでいたハンガリーとロシア間の燃料供給契約を承認。これに続き9月には、新設炉の安全性など同プロジェクトの技術的な側面についても承認していた。ECが侵害調査の開始を決定した際、ハンガリー首相府のJ.ラーザール官房長官は「ECの懸念には対応するが、プロジェクトは前に進める」と断言した模様。すべてがうまく運ばなかった場合は欧州裁判所への提訴も辞さないと述べたことが伝えられている。