IAEA:イランの核開発疑惑解明調査を終了する決議を採択
国際原子力機関(IAEA)は12月15日の特別理事会で、イランの核開発疑惑を解明するために天野之弥事務局長が取りまとめた最終評価報告書を審議し、この件に関する調査を終了する決議を全会一致で採択した(=写真)。今年7月に国連安全保障理事国5か国およびドイツが、この問題の解決で「包括的共同行動計画(JCPOA)」をイランと最終合意したのを受け、IAEAは過去から現在までのイランの原子力プログラムに軍事的側面が存在したか確証する活動をイランの関連施設で実施した。結論として天野事務局長は、少なくとも2003年末より前からイランでは核爆発装置の開発が行われていたが、2009年以降に関してはそうした開発活動の確たる証拠は見受けられなかったと明言。今後、イランがJCPOAに基づく誓約を実行していくのにあたり、IAEAがそれらの活動を確証するのに必要な経費について加盟国の理解を求めた。理事会の冒頭で天野事務局長は、イランの原子力プログラムにおける軍事的側面について、12の疑問点の詳細を記した報告書を2011年の理事会に提出したことに言及。その際、入手していた情報は全体として信頼の置けるものであり、イランが核爆発装置の開発を行っていた事実を示していたと述べた。これに対応して理事会は、問題の解明に向けた集中的な対話をIAEAとイランに促す決議を採択。イランとの広範な協議が行われ、7月のJCPOA合意後にイランの原子力施設を検証するプロセスやスケジュールを定めた「ロードマップ」に双方が同意したことを説明した。同ロードマップに沿って実施した確証活動の成果である今回の最終評価報告書について、天野事務局長はIAEAによる最高の努力の結晶だと指摘。イランが過去に行っていた活動の詳細を再現することは不可能だが、全体像を評価するために十分な要素は解明できたと強調した。その上で、(1)イランは本当に核爆発装置の開発を行ったのか?(2)もしそうだったとして、今も行っているか?--という2つの非常に重要な問いに対する明解な回答は次のようになったと説明した。すなわち、
・2003年末以前、イランでは核爆発装置の開発に関する広範な活動が組織的努力として行われており、いくつかの活動は2003年以降も行われていた、
・ただし、そうした活動がフィージビリティや科学的な調査の域を超え、一定の技術能力や将来的な実現可能性を獲得するには至らなかった、
・2009年以降はイランが核爆発装置の開発活動を行ったという確かな証拠がなく、イランの原子力プログラムに軍事的な側面が存在したと思われるような核物質転用の確固たる証拠も見つからなかった、--である。
同事務局長はこれらの評価は、これまで自らがまとめてきたすべての報告書と同様、事実に基づいており、技術的にも健全かつバランスが取れたものであると断言。今後の作業については、早急に取り組まねばならない重要課題があると指摘した。まず、(1)イランはJCPOAに明記された原子力関係の誓約をすべて実行に移せるよう、準備的措置を完了しなければならない。イランに対する過去の制裁や決議が解除されるには、同国がJCPOAの合意事項通りの措置を取ったとIAEAが確証する必要があり、その確証が取れ次第、自分が理事会に通達する。(2)IAEAは、JCPOAに基づいてイランで行う追加活動の経費をどのように手当てするかという問題に取り組まねばならない。通常の予算手続に則り、2017年予算案の2016年1月時点の改定版の一部として、年間の追加経費見積額920万ユーロ(約12億円)を盛り込む予定だが、JCPOAにおける我々の責任を全うするには追加経費を加盟国に要請する必要があり、自分は各国の拠出能力を注意深く検討するつもりである。
天野事務局長はこのほか、イラン問題には長期にわたる複雑な経緯があることから、今回大幅に進展したからといって安心するにはまだ早く、イランと国際社会間の根強い相互不信という後遺症を克服していかねばならないと警告。やるべき作業は山ほど残っており、すべての関係者がJCPOAにおけるそれぞれの誓約を完全に実行に移していかねばならないと訴えた。