カナダのテレストリアル社、溶融塩炉の2020年代の商業化目指し資金調達
カナダの先進的原子力技術開発企業であるテレストリアル・エナジー社は1月8日、独自開発中の一体型溶融塩炉(IMSR)を2020年代にも産業市場に売り出すため、1,000万カナダドル(約8億円)という技術開発・事業化資金の調達を完了したと発表した。昨年末にパリで開催された国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP21)を受け、カナダと米国が新たなCO2排出削減目標を設定していることから、世界的で急速に進む一次エネルギー供給の低炭素化で促進能力を有するIMSRの実証炉をまずカナダで建設し、北米その他の地域で同技術を幅広く展開していく最初のステップとしたい考え。事業化に向けた初期投資に当たる「シリーズA」の資金調達は通常、投資家への優先株販売を通じて行われるもので、これにより同社はIMSRの認可前および建設前のエンジニアリングを進めるとともに、IMSRがカナダの規制要件を満たしているかに関する認可前審査を今年前半にも原子力安全委員会に申請する。産業界との関わり合いも深めていく方針で、同設計の商業的メリットを産業界に実証するプログラムを実施することになる。
溶融塩炉は燃料として溶融塩とトリウムなどの混合液体を使用する原子炉で、北米では1950年代に米オークリッジ国立研究所を中心に開発が始まったものの、海軍で使われていた原子炉や初期の商業炉が軽水炉であったことから、その延長で軽水炉の技術開発が進展。しかし、「第4世代炉開発国際フォーラム(GIF)」は2002年に溶融塩炉を国際共同研究開発が可能な6種のコンセプトの1つに選択しており、2014年8月には米国の大手投資企業ファウンダーズ・ファンド社がトランスアトミック・パワー社の溶融塩炉開発に200万米ドル(約2億円)を投資するなど、その将来性に対する期待は高まりつつある。
テレストリアル社は現在、出力2.9万kW~29万kWまで3種類の小型モジュール炉(SMR)をIMSRとして開発中(=右概念図)。送電網との接続がない場合でも拡張・縮小が可能な形で利用できるほか、コスト競争力のある熱電併給を実現できるという。具体的には、カナダ極北部の遠隔地域や島国、砂漠地帯での利用、アンモニアや化学肥料、水素の製造施設、鉱山、石油精製施設などでかなりの需要が見込めるとしており、民生用原子力発電に全く新しいパラダイムをもたらすとともに、廃棄物処分や安全性、核拡散抵抗性においても新たな側面を持つものと認識。原子力は今日、コスト競争力を犠牲にしたりエネルギーの供給不足を長引かせることなく大気汚染型エネルギー技術に取って代われる規模を持った唯一の技術だとしており、今回の調達資金により、同社はIMSRの商業化に関する投資対費用効果検討書の作成を継続していくとしている。