IEAがエネルギー投資報告書:再エネは2年連続で微減、原子力は拡大
国際エネルギー機関(IEA)は5月14日、世界中のエネルギー供給システムに対する2018年の投資額を分析した年次報告書「世界エネルギー投資(WEI)2019」を刊行した。
近年の投資傾向は、エネルギー供給システムをさらに持続可能なものとする上で、一層大胆な意思決定が必要になることを示していると指摘。世界を持続可能な開発方向に導いていくため、低炭素電源に対する投資シェアを現在の35%から2030年までに65%まで拡大することが必要だとしたほか、政府が投資家へのリスク軽減でリーダーシップを発揮することが重要だと訴えている。
「WEI2019」によると、2018年の世界のエネルギー関係総投資額は、前年とほぼ同レベルの約1兆8,000億ドル。石油と天然ガスおよび石炭の供給関連で資本投資が回復したため、3年続いた低下傾向は終結、安定した状態となった。全体的なエネルギー投資が最も増加したのは米国で、特に頁岩(シェール)や送電網関係など、生産・供給面での高額支出により総投資額が増大。これにより、世界最大のエネルギー投資国である中国との差が縮まったとしている。
一方、投資が安定しても、従来型の石油・ガス開発プロジェクトに対する新規の承認件数は低下しており、世界中で引き続き大幅に増加するエネルギー需要を満たすには不足している。同時に、エネルギーの効率化やクリーンな再生可能エネルギーに対する投資は勢いを失っており、再生エネに対する総投資額は2年連続の微減となった。これらに相当額の資本が再配分される兆候はごくわずかで、パリ協定の合意事項、およびその他の持続可能な開発目標を満たす上では、これらへの投資が必要だとWEIは強調している。
IEAのF.ビロル事務局長は、「エネルギー関係投資は今や、市場や政策、技術面におけるシフトなど、かつてない不確実性に直面している」とした。最終的な結論としては、世界は今日の消費パターンを維持するために、十分な投資を従来の供給要素に対して行っていないと指摘。また、現在の方向性を変えるための、クリーン・エネルギー技術への投資も十分に実施しておらず、我々がどの方向を向いたとしても、将来的にリスクを抱え込む事になるとしている。
原子力関係の投資は拡大
発電部門の支出については、2018年に新たに送電開始した原子炉が3倍に増えたことから、原子力関係の投資額が上昇。これらの原子炉の80%は中国のものである。また、同じ年に世界で新規着工した原子炉の総設備容量は約600万kWに増大したものの、このなかに中国の計画は含まれていない。それでも、中国で追加された原子力設備は、600万kWを大幅に上回っているとした。さらに、既存の原子力発電所で運転期間を延長するための支出額は、原子力関係投資全体の13%を占めている。
総合的に見て、原子力や再生可能エネルギーといった低炭素電源に対する支出は発電関係全体の4分の3近い額。これに送電網や電力の貯蔵、発電システムの柔軟性向上等に支払われた額を含めると、発電部門における支出額の約85%に達するとしている。
WEIはまた、発電部門で近年行われている投資が、将来的な必要性や課題とあまり一致していない点を指摘した。原子力に対する投資は、「新政策シナリオ」で必要とされている額から3%下回る程度だが、「持続可能な開発シナリオ」においては必要額から40%近く少ない額。特に、欧州や米国、中国では、この額が大きくなっているとした。
WEIはさらに、石炭や天然ガス、原子力および水力といった大規模かつ負荷制御可能な主要電源に対する最終投資決定(FID)が、2018年は約9,000万kW分に減少している点に言及。2010年との比較では55%の低下である。低炭素電源としては最大規模の原子力と水力についても、FIDが2017年実績から40%減少したと指摘している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)