米原子力イノベーション連合が報告書:先進的原子炉の開発・実証にNASA方式を推奨
米国で原子力分野の技術革新や革新的原子炉設計の商業化を提唱している「原子力イノベーション連合(NIA)」は5月20日、「原子力技術革新の実現:スペースX方式を原子力に」と題する報告書を公表した。
国際宇宙ステーションへの物資と人員の輸送で、米航空宇宙局(NASA)が実施した「民間企業による低軌道への輸送システム開発に対する支援(COTS)」プログラムが成功を納めたことから、NIAは同様の官民連携アプローチを先進的原子炉技術の実証にも取り入れることを推奨している。米国が世界の原子力産業界で再びリーダーシップを取ることになれば、経済や環境、および安全保障などの面で米国の利益にかなうと指摘。このため、先進的原子炉技術の実証プログラムの設計と実行で、ベンチャー投資家に助言を請うことなどをエネルギー省(DOE)に勧告しているほか、議会に対しては、DOEがCOTSプログラムと類似のアプローチを実行する際、妨害要因となる法制上の制限撤廃に取り組むべきだと主張している。
NIAは、原子力技術革新を推進する技術専門家や企業、投資家、環境保護団体、学者等による連合組織。今回の報告書では、わずか数年前の2012年に、米国では商業ロケットの打ち上げサービス市場で米国企業のシェアがゼロだったのに対し、官民の連携方策が成功したことにより今や、米国のスペースX社が世界の商業打ち上げ市場を牽引しているとした。同社の台頭には連邦政府が重要な役割を果たしており、打ち上げサービスの研究開発と実証に官民のコスト分担方式を採用した点などを強調している。
米国の原子力産業界は現在、ロシアのロスアトム社のように政府が後押しする企業との国際競争で、悪戦苦闘を強いられている(=図)。NIAによると、これは2012年当時の航空宇宙産業界と似た状況だが、もしも米国の原子力企業が独自の先進的原子炉技術を開発・実証できれば、こうした状況は変えることができる。世界では数多くの国が、地球温暖化や大気汚染、エネルギー供給保証、電源多様化等への取り組みにおいて、独自の対応能力開発や原子力発電所の購入に関心を抱いている。一方、発電所の供給国は輸出により経済的恩恵を被るだけでなく、世界の原子力安全・セキュリティと核不拡散の基準に一層の影響力を持つことになる。
過去半世紀以上の間、米国が世界の原子炉供給基準に影響力を発揮してきたことや、米国が締結する原子力協力協定に核不拡散関連の条件を付していることは、1つには米国の設計原子炉をそのような取り決めの下で販売するという大前提に基づいている。このような理由からNIAは、米国における先進的原子炉設計への投資には、国家安全保障上の論拠が含まれるとした。
近年、新設原子炉の輸出市場はロシアが独占しているが、米国が同市場でリーダー的役割を取り戻す上で、DOEはCOTSプログラムの示した物から学ぶべきだとNIAは指摘している。
同プログラムにおける契約上の特徴は、(1)官民によるコスト分担のほかに、(2)開発マイルストーンを複数設定し、達成する毎に定額の資金を政府が供給、(3)機密情報を保守的に扱い、関係する権利はすべて民間企業に残す、(4)プログラムの設計・実行支援において、政府に先んじて経験を有するベンチャー投資家にコンサルティングを依頼――など。NASAと米空軍がスペースX社の最初の顧客となって同社の初期収益を保証し、顧客を世界中の民間部門に迅速に広げたことも重要であると説明した。
これらの点と、先進的原子炉を開発中の企業を調査した結果に基づき、NIAは以下の点を原子力技術改革の支援で勧告する主要事項として提示している。すなわち、
●DOEはベンチャー投資家に相談した上で、4つの先進的原子炉概念について段階的な開発・実証プログラムを設定、開発企業との官民連携に際してはマイルストーン達成毎の支払いアプローチを採用する、
●大統領府は、複数の連邦政府機関に行政命令を出し、連邦政府には先進的原子炉等からの無炭素電力を調達させる、
●議会は合衆国法律集の一部とエネルギー政策法を修正し、連邦政府施設用にクリーン・エネルギー源から電力購入する長期契約を結ぶとともに、連邦政府機関による無炭素電力の調達目標値を設定する、
●DOEと国防総省は、保有する施設用に先進的原子炉プロジェクトから電力とプロセス熱の購入機会を模索する、――などである。
(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)