フォーラトム、温暖化対策で既存原子力発電所の長期運転が重要と指摘
欧州15か国の原子力産業協会で構成されるフォーラトム(欧州原子力産業会議)は7月10日、新たな政策方針書を公表し、欧州で既存原子力発電所の運転期間を確実に長期化する(LTO)ことができれば、欧州は地球温暖化の防止目標を適正なコストで達成することが可能になると強調した。
フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長によると、むしろ原子力発電所でLTOを行わないまま、再生可能エネルギーのみで2050年までの中間的な低炭素化目標を達成することは難しい。この期間にもしも、欧州連合(EU)が既存原子力発電所における全面的な運転の維持で投資を行うとするなら、2030年までに欧州では電力の58%を低炭素電源から得ることになり、欧州は温暖化防止政策において世界のリーダー的立場に立つことができる。
一方、そうでない場合には低炭素電力のシェアは38%に留まり、2030年までに累積で約15億トンのCO2が排出されると警告している。
EUはEU域内の発電部門等で追加的な投資を行うことにより、2050年までに1990年比で温室効果ガス排出量の80%削減は可能と考えている。低炭素経済の実現に向けたEUのこのように意欲的な目標を達成するには、低炭素な電源すべてを活用しなければならないとフォーラトムは指摘。既存の原子力発電所におけるLTOは、この移行に大きな影響を及ぼすとしており、世界中で今世紀半ばまでにCO2の削減目標値を達成するためには、原子力発電が重要な役割を担うとする専門家の数は増加しているとした。
これはすなわち、EU域内で新規に約1億kW規模の原子力発電設備を建設すること、および既存の発電所でLTOを実施することの両方への投資が必要であることを意味しており、フォーラトムは域内の関係機関や加盟国、原子力産業界が連携・協力すればどちらも達成できると考えている。
実際に、既存原子力発電所のLTOには複数の利点があるとしており、フォーラトムは例として、その他の電源と比べて経済面で有利である点を挙げた。原子力のLTOであれば多額の投資コストを必要とせず、これにより投資家や資本市場の投資リスクが低下、消費者が支払うコストも低減される。
原子力のLTOはまた、EUのエネルギー輸入依存度、特に化石燃料の輸入量を削減できるほか、送電網に対する信頼性も向上。さらに、原子力産業界が将来的に発電所の更新準備を行う際、サプライヤーや運転員の能力を維持・向上させるのに役立つとした。
原子力発電所のLTOが提供する多くの利点をEU域内で最大限に活用するため、フォーラトムとしては以下の点を政策的勧告として提示している。
・欧州原子力共同体(ユーラトム)も含め、首尾一貫した矛盾のない安定した政策枠組をEU域内で保証する。
・低炭素経済に向けた欧州委員会(EC)の長期ビジョンに沿って、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするというEUの意欲的な目標に賛同する。
・欧州が技術面でリーダーシップを維持できることを保証するため、強力な産業戦略を開発・実行する。
・人的能力の開発支援として、原子力産業界に若い人材を惹き付ける手助けを実施する。2050年の低炭素経済において、原子力には未来があるという事実をEUは一層明確に主張すべきである。
(参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月15日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)