ロシアの海上浮揚式原子力発電所が最終立地点ペベクに向けて出航
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は8月23日、世界で唯一の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)の「アカデミック・ロモノソフ号」(=写真)が、最終立地点である極東地域北東部のチュクチ自治管区内ペベクに向け、北極圏のムルマンスクから出航したと発表した。 このFNPPは出力3.5万kWの舶用原子炉「KLT-40S」を2基搭載するバージ型(タグボートで曳航・係留)原子力発電所で、全長144m、幅30m。燃料交換なしで3~5年間稼働するため、発電コストの大幅な削減が期待できるという。40年の運転期間は最大50年まで延長することが可能で、使用済燃料はロシア本土の特殊な貯蔵施設で保管する予定である。
チュクチ自治管区では、1970年代から電力需要の約80%を賄ってきたビリビノ原子力発電所(1.2万kWのRBMK×4基)の1号機が今年1月に営業運転を終了。ペベクでの立地により世界最北端の原子力発電所となる同FNPPは、今年12月にも送電を開始し、順次閉鎖していくビリビノ発電所の原子炉やチャウンスカヤ熱電併給発電所に代わって、同管区に十分な電力と熱エネルギーを供給することになる。
同発電所の建設は2007年にモスクワ北部のセベロドビンスク市で始まったものの、造船所の都合により翌2008年にサンクトペテルブルクのバルチック造船所(BZ)に移された。2010年6月に船殻部分が完成したことから進水式を実施。その後、BZ社の破産等を経て、2013年10月に2基の「KLT-40S」がFNPPに組み込まれた。
このFNPPは当初、カムチャツカ半島のビルチンスクに係留予定だったが、ビリビノ原子力発電所の経年化が進んでいるため、2015年にロスアトム社はチュクチ自治管区政府と協力協定を締結、同FNPPをペベクに係留することが決定した。
ペベクでは2016年10月にFNPPの陸上設備建設が始まっており、ロシア建設省傘下の設計評価機関は2018年1月に「アカデミック・ロモノソフ号」の運転を承認した。このFNPPは同年4月、燃料を装荷しない状態でサンクトペテルブルクを出港し、ペベクまでの中継地点であるムルマンスクに到着。10月には同地で燃料の装荷作業を完了していた。
なお、ロスアトム社はすでに、第2世代の「最適化・海上浮揚式原子力発電ユニット(OFPUs)」を開発中。出力5万kWの小型炉「RITM-200M」を2基搭載した発電所とする計画で、出力が拡大する一方でサイズはこれまでのものより小さくなる見通しである。
同社としては、今日の小型炉市場の中でもFNPPプロジェクトは最も有望な部門であると認識。小型で軽量かつコストも固定化しているため、クリーン・エネルギーを安定的に必要とする遠隔地域や離島では特に適しているとした。
同社のFNPP技術については、これまでに中東や北アフリカ、東南アジア地域の国々が関心を表明。このためロスアトム社は、OFPUをシリーズ建設することや輸出用とすることを計画している。
(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月23日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)