世界エネルギー会議が報告書:「将来も原子力が世界のエネルギー・ミックスに貢献」

2019年9月19日

 世界中のあらゆるエネルギー問題や重要課題を研究・分析し、各国の政策決定者に助言や勧告を提供している非営利の民間組織「世界エネルギー会議(WEC)」は9月9日、「世界エネルギー・シナリオ」の2019年版を公表した。
 副題として「原子力の将来:エネルギーの移行における多様なハーモニー」を掲げており、2060年までに世界のエネルギー展開が辿ると思われる道筋(シナリオ)のすべてにおいて、原子力発電が拡大すると予測。「大いなる移行」と称されるエネルギーの再構成に対し、様々に異なる関わり方をすると指摘している。

 報告書によると、世界全体で主要なエネルギー源が移行していくペースと方向性は、一層幅広い世界規模の発展の一部を成しており、進展中の「大いなる移行」は、新たに到来するデジタルでエコロジカルな生産性の時代への対応として、根本的な社会経済の変遷も暗示している。
 このように幅広い文脈の中で、原子力その他のエネルギー源の将来見通しは、複雑かつ予測不能な世界的変化の原動力が相互作用することで形作られる。その変化には、脱炭素化やデジタル化、変化し続ける地政学などが含まれるが、化石燃料から低炭素エネルギー源への移行を成功に導く進路として、可能性の高い方向性が複数浮上しつつあるとした。

原子力発電の将来
 原子力の将来に関してWECは、「世界の将来的なエネルギー・ミックスの中で主役を演じるとともに、持続可能な開発に対しても貢献するとの認識が広く高まりつつある」と指摘。原子力発電の今後の拡大や、世界的エネルギーの移行の中で果たす役割は、数多くのファクターから影響を受けることになる。
 原子力に関する見通しが多様なことから、WECは世界原子力協会(WNA)の協力により、エネルギー関係の要人から原子力産業界の将来に関する洞察を収集。前回の報告書と同じく、信憑性の高い開発の方向性シナリオとして、音楽のジャンルになぞらえて「モダンジャズ」、「未完成交響曲」、「ハードロック」、の3種類を提示した。

・「モダンジャズ・シナリオ」:数値的な混乱が生じる技術革新的かつ市場牽引型の世界を想定しており、ここでの原子力産業界は、原子炉の販売よりも関連サービスの提供に再投資を行う可能性がある。新興国や大規模な原子力発電国のいくつかで設備の拡大が見込まれるため、原子力は依然としてエネルギー選択肢の1つに留まるが、2060年までに世界の総発電量における原子力シェアは、2015年の11%から8.5%に低下する。ただし、設備容量に関しては、原子力は2015年実績の4億700万kWから52%増加し、2060年には6億2,000万kWまで拡大する。
・「未完成交響曲シナリオ」:一層の調整が加えられた持続可能な経済成長モデルが、低炭素な将来に向けた展望とともに出現するというシナリオ。原子力は、地球温暖化防止への緊急対応が可能な信頼性の高い適正価格の電源として、広く受け入れられ、発電シェアは2060年までに13.5%に増大する。設備容量も現在の約3倍の10億300万kWに拡大。新規原子炉の建設と既存炉の運転期間延長に加えて、小型モジュール炉(SMR)や海上浮揚式原子力発電所、第4世代原子炉といった新たな原子力技術が世界の原子力発電設備に大きく貢献する。
・「ハードロック・シナリオ」:世界経済の成長が長続きせず、各国政府による内向き思考の政策の結果を反映したシナリオで、原子力発電シェアは2060年までに12.5%に増加。一方、設備容量は70%増の6億9,600万kWに増大するが、これは新興国の新規建設市場と先進経済国における既存炉の運転期間延長が主な分野となる。

 (参照資料:WECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月9日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)