英国の主席原子力検査官、既存炉の経年化問題に注意喚起
英国原子力規制庁(ONR)のM.フォイ主席原子力検査官(CNI)は10月11日、国内の原子力発電施設や原子力産業界における2018年4月から2019年3月まで1年間の実績について、自身の見解を年次報告書に取りまとめて発表した。それによると、国内の原子力発電事業者は全体として、従業員その他の国民を防護するために高い基準を満たしている。一方、産業界が一層の注意を払うべき重要分野として、既存の原子力発電施設の経年化が大きな課題になっていると指摘。同分野に引き続き重点的に取り組むとともに、災害等に適切に対処し安全・確実な運転が続けられるよう、プラントや人員、手続き等への継続的な投資が求められると訴えている。
今回の報告書は、今年6月にONRとして公表した運転実績等に関する年次報告書を補う内容で、この種の報告書としては初めて。国内原子力産業の安全・セキュリティや保障措置実績に対して、権威ある独自の見解を提示している。
報告書はまず、良好な進展が見られるいくつかの分野について詳細を説明。これらには、セラフィールド原子力複合施設におけるリスクと危険性の軽減、閉鎖済みのブラッドウェル原子力発電所が廃止措置作業において「安全貯蔵」期間に移行したこと、建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所で最初のコンクリート打設に合意する文書を発行したこと、などを紹介した。
これに対してフォイCNIは、今後も継続して取り組まねばならない数多くの課題の中から、以下のものを取り上げて強調した。
(1)国内で稼働する全15基の原子炉のうち14基を占める改良型ガス冷却炉(AGR)の中でも、炉心の劣化兆候が最も顕著なハンターストンB原子力発電所(64.4万kWのAGR×2基)で精査を継続した。
(2)経年化関係の広範かつ複雑な問題により、昨年2基とも運転を一時的に停止したダンジネスB原子力発電所(61.5万kWのAGR×2基)で規制上の監視を強化した。
(3)セラフィールドにある経年化が進んだプルトニウム貯蔵施設では、管理会社のセラフィールド社や原子力廃止措置機構(NDA)および政府からの継続的な投資と取組みが必要である。
フォイCNIはまた、今後の重要課題として、次の3点で実績の改善を原子力産業界に特別に提起している。それらは、(1)経年化した施設の管理、(2)原子力発電所の非原子力部分における国民の健康と安全性の確保、(3)原子力セキュリティに対する総体的アプローチの実行--である。同CNIは「安全・セキュリティ面で、原子力産業界が全体的に高い基準を遵守し続けていることには満足している」とした。その上で、「目標に達していない事業者等については、持続的な改善を求めてONRが努力を傾注する」とした。
原子力産業界が今後一層留意するべき分野については、施設の経年化問題に加えて、「産業界のある部門では、発電所内の非原子力部分における国民の健康と安全の確保で実績の低下が認められ、その改善に向けた取り組みが改めて必要になっている」と同CNIは指摘した。
また英国では、セキュリティ要件を満たすために原子力事業者が提案した手法をONRが評価する際の指針として、「セキュリティ評価原則(Security Assessment Principles:SyAPs)」が策定されているが、産業界全体でONRが同原則を活用することは、セキュリティ問題に関わる安全文化面の変更や組織の責任の祖h材問題などを改善する上で、実質的な機会になると同CNIは説明している。
(参照資料:ONRの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」