IEAの2019年版WEO:「持続可能な将来エネルギーの確保で大規模な変革 必要」
国際エネルギー機関(IEA)は11月13日、世界のエネルギー・ミックスに関する2040年までの見通しを3通りのシナリオで解説した最新の年次報告書「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2019年版」を公表した。
それによると、今日のエネルギー世界は現状と到達点に大きな差異が生じており、石油市場に十分な供給量があるにも拘わらず、生産国を巡る地政学的な緊張と不確実性は増大。かつてないほど大量の温室効果ガスが排出される一方、国際的な温暖化防止目標に沿って排出量を削減するための現行政策は不十分である。また、世界中すべての人へのエネルギー供給を約束しながらも、今なお世界の8億5,000万人の人々が電気のない生活を強いられており、将来、持続的で確実なエネルギーが確保される方向に世界を向かわせるには、エネルギー・システムのあらゆる部分で、迅速かつ大規模な変革が必要になると報告書は訴えている。
WEOはIEAが発行する最も重要な刊行物の1つであり、最新版はこのような差異の広がりについて詳細に分析した。今日下された政策的な判断は、将来のエネルギー・システムに影響を及ぼすとの観点から、世界的に人口が増加する中、信頼性のある適正価格のエネルギー供給に今後も大きな重点を置きつつ、地球温暖化や大気汚染の防止目標を達成するための道筋を示している。
WEOによれば、各国政府による決定事項は将来のエネルギー・システムにおいて、引き続き重要なものとなる。このことは、WEOが以下の3つのシナリオで示した今後数10年間の異なる道筋においても明白であり、政策立案者が現在推し進めている政策や投資、技術などがこれに相当する。
【現状政策シナリオ】:これは世界が今、正に進んでいる道筋で、各国政府が現状の政策を維持した場合、世界のエネルギー・システムがどのように発展するか、基本的な状況を描いたもの。このシナリオによると世界のエネルギー需要は2040年までに1.3%上昇し、結果としてエネルギー市場のあらゆる側面に緊張がもたらされる。エネルギー部門のCO2排出量も、大幅に上昇し続けるとした。
【決定政策シナリオ】:これまで「新政策シナリオ」と呼称していたシナリオで、既存の方策に加えて、現時点の政策目標が盛り込まれている。現行計画による影響の説明を目的としたもので、このシナリオが描く将来のエネルギー像でもやはり、持続可能で確実なエネルギーという目標からは、かなり不十分なものになる。すなわち、2040年時点においても世界の何億もの人々がやはり、電気のない生活をしており、大気汚染で早死にする人の数は現状の高めのレベルに留まる。また、地球温暖化がもたらす深刻な影響も定着するとしている。
【持続可能な発展シナリオ】:世界各国の政策決定者が、地球温暖化やその他のエネルギー問題で設定した目標の全面的な達成に向け、それぞれについて何をしなければならないかの抜本策を示したもの。このシナリオはパリ協定の履行と完全に一致する道筋を示したもので、世界の平均気温の上昇を2度C以下に抑えることを目的としている。ここでは、エネルギー・システム全体で大掛かりな変更を迅速に行わねばならならないが、温室効果ガスの大幅な削減は複数の燃料と発電技術を組み合わせることで可能であり、効率的かつコスト面の効果も高いサービスの提供につながる。
IEAのF.ビロル事務局長は、今回のWEOが極めて明確に示した事実として、「世界のエネルギー・システムを変革する上で、ただ1つの単純な解決策というものは存在しない」という点を強調。複数の発電技術や燃料が各国経済のあらゆる部門でそれぞれの役割を担っていることから、各国政府は将来を形作るための幅広い視野を持ち、行動するという明確な責任を負う一方、政策立案者に強力なリーダーシップが求められると指摘している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月13日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN」)