UNEP報告書:「パリ協定の目標達成には毎年7.6%のCO2排出量削減が必要」
国連環境計画(UNEP)は11月26日、国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP25)がスペインのマドリードで開幕する直前に、世界の温室効果ガス(GHG)排出量に関する年次報告書の2018年版を公表し、「2020年から2030年の間に毎年、排出量を7.6%ずつ削減していかなければ、世界は産業革命以前と比べて気温の上昇を1.5度Cに抑えるという2015年のパリ協定の目標を達成する機会を失う」と警告した。
UNEPのこの報告書は「温室効果ガス排出ギャップ報告書(Emissions Gap Report)」で、2011年から毎年発行しているもの。2030年に予想されるGHG排出量と、気温上昇の抑制目標値である1.5度Cと2度Cに相応する排出量とのギャップを評価し、このギャップを埋めるための方策に焦点を当てている。
それによると、過去10年間で世界のGHG排出量は年率1.5%増加しており、2018年は森林伐採などの影響を受けて排出量が過去最高の553億トン(CO2換算)に達した。UNEPは「パリ協定における誓約がすべて実行されたとしても、世界の世界の平均気温は3.2度C上昇し、我々は地球温暖化で一層広範囲かつ壊滅的な影響を受けることになる」と説明。気温上昇を1.5度C未満に抑えるためには、各国が現行レベルから5倍以上高い削減目標値を定め、今後10年間でGHG排出量を削減していく必要があるとした。
そのための行動を起こすという意味で2020年は非常に重要な年であり、英国のグラスゴーで開催されるCOP26では、このような危機を回避する努力の方向性を定めるとともに、参加各国がそれぞれの目標を大幅に強化することを目指すという。
UNEPは、平均気温の上昇を抑えるために2030年の年間GHG排出量を、気温上昇2度C未満という目標達成に向けた各国の対策計画(NDC)から、CO2換算で150億トン削減する必要があると指摘。この場合、2020年から2030年まで年率2.7%でCO2を削減しなければならないとした。また、1.5度C未満に抑えるのであれば排出量の削減幅を320億トンに拡大する必要があり、年間ベースの削減率は7.6%になると説明している。
国連のA.グテーレス事務総長はUNEP報告書について、「過去10年近く、この報告書は警告を発し続けてきたが、この間に世界ではGHG排出量がただ増えただけだった」と強調。「各国とも警告を聞き入れず、温暖化防止で思いきった対策も取らなかったのだから、我々は今後も致命的で最悪の熱波や荒天、公害などに苦しめられるだろう」と述べた。
UNEPのI.アンダーセン事務局長も、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が「1.5度Cを越えて気温が上昇すれば、温暖化の影響頻度と強度はさらに増していく」と通告していた事実に言及。「これまで各国は揃って、地球温暖化に迅速かつ熱心に取り組んでこなかったため、今後10年間で均等割りしたとしても年に7%以上ものGHG排出量削減を強いられることになる」と説明した。
同事務局長によると、このことは地球温暖化防止で新たな強化策が必要になる2020年末まで、座視し続けてはいけないということを示しており、「それぞれの市や地域、企業や個人も今、行動を起こさねばならない」と明言。差し当たり2020年に、世界では排出量を出来るだけ引き下げておく必要があり、その後、各国が一層強力な対策を始動して経済・社会を大規模に改革する。「今までグズグズ先延ばしにしていた何年かの遅れを取り戻さねばならないが、これを逃せば2030年になる前に1.5度Cという目標の達成は手の届かないものになる」と警告している。
報告書では、G20諸国の合計でGHG排出量全体の78%を占めたにも拘わらず、この排出量を実質ゼロとする目標を掲げた国は、この中でわずかに5か国だと指摘。短期的に見て、先進国は公平性の観点から、発展途上国より速やかに排出量を削減する必要があるとした。しかし、削減効果を上げるためにはすべての国が努力を結集しなければならず、途上国は先進国の成功例を学ぶだけでなく、先進国を追い越してクリーン・エネルギー技術を早いペースで採用することもできる。
重要なことは、すべての国がそれぞれの対策計画(NDC)で高い目標を定め、2020年以降もそのための戦略や政策を実行することだと報告書は強調。パリ協定の目標達成で解決策は存在するものの、その開発速度が追いつかない、実効規模に満たないなどの課題も残されるとしている。
(参照資料:UNEPの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)