米国防総省、超小型原子炉原型炉の設計契約でWH社など3社を選定
米国の国防総省(DOD)は3月9日、今後の軍事作戦に使用する先進的な可動式超小型炉の原型炉建設と実証に向けて、ウェスチングハウス(WH)社、BWXテクノロジーズ(BWXT)社、X-エナジー社の3チームを選定し、それぞれが開発中の小型炉で設計を開始する契約を締結したと発表した。
この計画では、DOD戦略的能力室(SCO)が可動式超小型炉の開発で実施中のイニシアチブ「プロジェクトPele」から資金が提供される。DODが遠隔地の作戦基地で様々なミッションを遂行する際、必要となる電力を供給するため、SCOは同イニシアチブの第1段階で、約2年をかけて安全かつ先進的な可動式の超小型炉設計をまとめ上げる。その後の第2段階(2年間)で3社のうち1社の設計を選定し、実際に原型炉を建設する可能性が高いとした。
今回の契約で3社がそれぞれ受け取る資金総額は、WH社が約1,195万ドル、BWXT社が1,350万ドル、X-エナジー社が約1,431万ドルとなっている。
SCOは2019年1月、「プロジェクトPele」の下で開発する技術について産業界からの情報提供を依頼(RFI)。同イニシアチブで実際に機能する原型炉を迅速に開発するには、エネルギー省(DOE)や傘下の国家核安全保障局(NNSA)、原子力規制委員会(NRC)、および産業界のパートナーとの連携・調整は不可欠。また、その設計の評価や安全性解析が進み、最終的な建設と実証試験に繋がるとSCOは見ている。
SCOはまた3月2日付けの連邦官報に、DOE原子力局との連携により超小型炉の原型炉建設と実証で環境影響声明書(EIS)を作成すると発表しており、4月1日まで一般からのコメントを募集中である。そこでは、検討中の超小型炉は、HALEU(U235の濃縮度が5~20%程度の低濃縮ウラン)の3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた先進的な超小型ガス冷却炉(AGR)になるとしている。
今回の発表でSCOは、超小型炉の技術的な実行可能性を評価するため、高品質のエンジニアリング設計を完成させて安全性や信頼性を確認するとともに、技術面や規制面、製造面のリスクを削減することが必要になると述べた。DOE原子力局と協力してSCOはこれまでに、課題の克服が可能になるような最先端技術や近代的な設計概念を審査してきたが、DODの作戦活動では年間約300億kWhの電力と1日あたり1,000万ガロン以上の燃料が必要であり、この量は今後拡大していく見通し。小型で安全かつ輸送も可能な原子炉によって、無限量に近いクリーン・エネルギーを確保し、地球上のいかなる場所でも長期にわたって作戦活動を維持・拡大したいとしている。
WH社の9日付の発表によると、同社は開発中の超小型モジュール炉(SMR)「eVinci」に輸送可能な機能を加えて、DOD用の「defense-eVinci(DeVinci)」(=写真)の原型炉設計を完成させる。電気出力が最大2.5万kWの「eVinci」は10年以上燃料交換が不要であるほか、革新的な受動的安全性能を備えた次世代の原子炉設計になる予定。DOEは昨年3月、先進的原子力技術の研究開発に対する約1,900万ドルの支援の第4弾として、同設計を対象プロジェクトの1つに選定している。
BWXT社は、バブコック&ウィルコックス(B&W)社が2014年に分社化した原子力機器・燃料サービス事業と連邦政府の原子力事業対応の専門企業。DOEの「新型ガス冷却炉(AGR)用燃料開発プログラム」の下、バージニア州リンチバーグの設備で3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を製造してきたほか、2017年8月には、有人火星ミッションに使用する熱核推進式原子炉の概念設計契約を米航空宇宙局(NASA)から受注している。
X-エナジー社は、小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」(電気出力7.5万kW)を独自に開発中。これに使用するTRISO燃料の商業規模の製造加工工場「TRISO-X」を2025年までに完成させるため、ウラン濃縮企業のセントラス・エナジー社や日本の原子燃料工業と協力する契約や覚書を締結した。「Xe-100」については、ヨルダンが2030年までに国内で4基建設することを希望しており、2019年11月に同社とヨルダン原子力委員会が基本合意書を交わしている。
DODの今回の発表について米原子力エネルギー協会(NEI)は、「原子炉設計の開発業者が商業炉を建設するのに先立ち、その技術を実証するとともに設計した能力の確認もできるという官民連携の最新例だ」と指摘。選定された3社は、超小型炉開発に数百万ドルもの資金を投じている様々な開発業者の、ほんの一握りだと説明している。
(参照資料:DOD、WH社、NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)