vol04.制御できない発電出力が社会全体のコストを増加させる

脱原子力 ドイツの実像

・FACTs (Flexible AC Transmission system) 機器の導入

 送電線の電力の大きさはインピーダンスによって決まると述べたが、インピーダンスを変更する装置(FACTs) を送電線に導入する対応策がある。柔軟にインピーダンスを変更することで、電力潮流を制御することができる。この対応策も万能ではなく、難解な問題も生じうる可能性がある。
 例えば、ポーランドのTSO はドイツからポーランドの向きへの電力潮流を小さくするために、FACTs 機器でドイツーポーランド間の連系線のインピーダンスを大きくするように制御したとする。この制御により、ドイツからポーランドに流れていた電力潮流の一部が、相対的にインピーダンスが小さくなったドイツからチェコの向きに流れて、その向きの電力潮流が大きくなる。この潮流の変化に対処しようとチェコのTSO は検討すると想定する。チェコのTSO はドイツからの電力潮流を小さくするために、ドイツとチェコの間に導入したFACTs 機器で、インピーダンスを大きくするように制御する。この一連の制御の結果として、ドイツとポーランドの間、ドイツとチェコの間の交流送電線のインピーダンスの比率が、FACTs 機器の制御前と全く変わらない結果となり、制御前と同じ電力潮流が流れることになってしまうのである。すなわち、TSO 間の意思疎通が十分でないと、導入した費用だけが重くのしかかる可能性がある。

 

・ネットワーク予備力の導入[ “Reservekraftwerksverordung(ResKV)” ]

 卸電力市場の価格が低下することにより利益が生じず、本来であれば廃止しようとする電源が、発電することで電力潮流の問題の対応策となるならば、TSO が規制当局の許可を得て、その電源の系統からの離脱を中止させることができる制度がある。この制度では、電源設備を維持するための費用がその電源の所有者に支払われる代わりに、所有者は、緊急時の指令に応じて発電する必要がある。この制度により確保された電源は、ネットワーク予備力と呼ばれる。
 しかしながら、この対応策は、緊急避難的な対応策であり、既存の効率の悪い電源を延命する制度にすぎず、新規の電源投資を呼び込む制度ではない。また、再生可能エネルギー電源のFIT による優遇がもたらした課題への対応策として、一部の火力電源等に補助を与えることが、競争環境下において、適切な施策と言えるのだろうかという疑問がある。

 

・再生可能エネルギー電源の出力抑制

 再生可能エネルギー電源は、FIT の補助を受けて、急速に導入が進んだ。その結果、様々な課題が生じたことは事実である。ドイツでは、電力系統を安定的に運用するために、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することができる[“Gesetz über die Elektrizitäts- und Gasversorgung” (EnWG:エネルギー事業法)]。このときに、出力抑制された再生可能エネルギー電源は、出力抑制しなければ、得ることができた売上の一定程度を受け取ることができる[“Gesetz für den Vorang Erneuerbarer Energien (EEG:再生可能エネルギー法)”]。この費用は、最終的には、ドイツの電力の利用者である国民全体で負担する仕組みとなっている。これは、系統を安定的に運用するための制度であり、経済的な観点から、再生可能エネルギー電源の出力抑制を行うことができる訳ではない。
 経済的な観点での出力抑制とは、例えば、ループフローの対応が可能であるが、発電コストが非常に高い電源を使う必要がある状況で、その高価な電源の発電費用を節約するために、再生可能エネルギー電源の出力抑制を行うことである。本来は、このような出力抑制は認められていないが、社会全体における再生可能エネルギー電源対応の費用を抑制するために、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することも必要な対応策であるという意見を出す発電事業者もいる。
 ただし、FIT は再生可能エネルギー電源の投資リスクを低減させる制度、気候条件で変動する発電出力の売上を保証する制度であった。そのことからも、社会全体として、経済的な出力抑制をどう判断するかは、非常に困難であると言えよう。

力系統を安定的に運用するための再生可能エネルギー電源への期待

 再生可能エネルギーは、将来の重要なエネルギー源の1 つであることは間違いない。しかしながら、電力は、発電と同時に消費され、簡単に安価に貯蔵することができないという特徴がある。その特徴を考慮した電力システム構築の試行錯誤が、エジソンによる発明の時代から重ねられて、現在の電力システムへと至っている。この長年かけて構築された電力システムにおいて生じている再生可能エネルギー電源大量導入による電力系統の連系の課題が、一朝一夕で解決するとは、ドイツでも考えられていない。その意味で、再生可能エネルギー電源の導入の対応策のため、今後も様々な研究が継続的に行われるであろう。
 その一方で、再生可能エネルギー電源側についても、様々な研究結果を待つのではなく、補助により優遇された電源から普通の電源になるような努力が期待される。例えば、制御できない発電出力が社会全体の費用を増加させるのであれば、社会全体が納得できる出力抑制の仕組みを導入すること等の検討が必要となるだろう。

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