vol06.多面的に評価する必要がある”理想像”ドイツの現実
躍進する再生可能エネルギー
ドイツの再生可能エネルギーは特に2000年以降、顕著な伸びを見せている。図1はドイツの電源構成を示すもので、2000年当時は6.6%であった再生可能エネルギーが、2015年には30%までになっていることがわかる。現在でも十分“再生可能エネルギー大国” と言えるが、さらに長期的な目標として、2050年までには再生可能エネルギーの比率を80%にまで高めるとしている。
しかし、次のような課題も見えてきている。以下、詳述していこう。
課題1.FIT 運用の難しさ
ドイツが再生可能エネルギーを増加させてきた背景には、固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff )の導入がある。しかしこの制度は本来的に運用の難しさを抱えている制度であることを指摘したい。
まず第一の課題は、国民負担がコントロールできないことである。ドイツでは、制度導入時、「ラテ1 杯分程度の月額負担で再生可能エネルギーを応援できる」とされていたにもかかわらず、現在一般家庭の負担が年間約3 万円にもなっており、連邦消費者センターから「すでに負担の限界だ」というコメントが政府に対して出されている。国際競争のある大企業は賦課金を減免され、その分を中小企業や家庭等が負担しているため、不公平感も強い。なお、日本も国際競争にさらされる大企業に対しては賦課金を減免しているが、その補てんは一般財源から行われるので、賦課金減免をされない需要家の賦課金上昇は抑制される。しかし、税金による補てんは国民の目に本当の負担を見せづらくするものであり、政策としての筋はより悪いと言えよう。
FIT の下では、例えばソーラーパネルなどの技術が普及し価格が下落するのにあわせて、買取単価も引き下げられる。そのため消費者負担も減っていくと誤解している消費者も多いが、消費者が負担するのは買取単価と再エネによる発電電力量の積の合計であるので負担は増加していく。(図2)
さらには、再生可能エネルギー事業者の買取は20 年間などの長期にわたって行われるので、例えば5 年目に制度を廃止したとしても、消費者の負担が減るわけではない。
このように消費者負担が膨らんでしまう理由の1 つが、例えば太陽光パネルなどの市場価格下落に買取価格見直しが追いつかないことだ。政府が定める公式なプロセスに則って、定期的(我が国では1 年に一度)に見直すのでは、当然のことながら、市場で取引される太陽光発電の設備費用の下落をタイムリーに織り込んだ買取価格にすることは難しい(図3)。後述するように、ドイツでは毎月自動的に買取価格を引き下げるといった修正も行われたほどだ。
2 つめは、人為的に価格が定められるプロセスにおいては、政治的なロビーイングが起こる懸念がある。図4はドイツにおける太陽光発電の買取価格の推移であるが、2003年から2004年にかけて跳ね上がったのは、太陽光発電事業者の強烈なロビー活動が展開されたからだと言われている。
翻って我が国のFIT 法(正式名は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」)制定当時を思い出してみよう。福島第一原発事故によって強烈に世論が、原子力を始めとする既存電源に対して否定的になったため仕方ないとも言えるが、初期の買取価格は事業者のほぼ言い値で決まり、さらに附則には、「施行から3 年間は特に再生可能エネルギー事業者の利潤に配慮する」とまで書かれている。これも再生可能エネルギー事業者による強烈なロビー活動の成果と言えよう。
ドイツもFIT 法はこうした課題が明らかになったことを受けて、複数回見直しが行われている。2012年には、下記の点などが修正された。
●買取量の制限
(各設備の発電電力量の全量買取ではなく、85 ~ 90%までに制限)
●買取価格の改正頻度改定(毎月自動的に引き下げ)
●再生可能エネルギー電源を卸電力市場に呼び込むために、従来電源と同様に卸電力市場に自ら参加する再エネ発電事業者に割増金を支払う制度(ダイレクト・マーケティング)を導入。再生可能エネルギー事業者はFIT かダイレクト・マーケティングか選択可能
しかしながら、これでも消費者負担に歯止めをかけることはできず、2014 年に抜本的改正が行われる予定であったが、選挙を控え見直しの内容は大きなものとはならず、下記のような修正にとどまっている。
●ダイレクト・マーケティングの義務付け(500kW以上の設備)
●自家発自家消費への賦課金免除を一部制限
●産業需要家への減免見直し(一部)
また、FIT は、コストダウン・技術開発に寄与しない。FIT の本来の目的は、再生可能エネルギー
が自律的に拡大していくことへの道筋をつけることであったはずであり、学習効果によって、より
効率的な生産方法が可能になり,再生可能エネルギーのコスト低減につながることが期待されてい
た。
しかし、わが国の総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会の第4 回会合に提出された野村浩二氏(慶応義塾大学産業研究所准教授)の資料によれば、「FIT導入(2012年第3四半期)以降、価格下落率は加速するのではなく鈍化」したことが指摘されている。(図5)また、第12回新エネルギー小委員会に提出された事務局資料は、太陽光発電事業者からの費用報告(実績ベース)を分析し、買取価格改定のタイミング(毎年4月)において、前月(毎年3月)から、1か月もたたない中で、モジュール単価が1万円/kW 程度、中には5万円/kW程度下落している傾向が見えるとしている。この短期間で、実際にモジュール価格のコストが低下したとは考えにくいことから、現実の市場では、買取価格の水準、すなわち「売れる価格」に合わせて、モジュール価格が決定されている可能性があることを指摘している(図6)。「究極の総括原価方式」であるFITでは、コストダウン・技術開発が起きないことが経験から明らかになってきていると言える。