vol08.町長は一時間たっぷりと、新しいビブリスの町づくりを語った。原子力抜きの町づくりを

脱原子力 ドイツの実像

一番困るのは閉鎖してそのまま何もせずに放置されることね

ヒルデガルド・コーネリウス=ガウス氏
 

Q:2011年の状況は?

 ビブリス原子力発電所は特に安全上の問題もなく、これからバックフィット作業を実施しようとしていたの。きちんと運転認可もあり、新しい燃料も装荷されていたわ。しかし政府から発電を禁止され、2基ともに即時閉鎖されることになったのよ。
 町としてRWEと閉鎖について協議し、「閉鎖するのは受け入れる。そのかわり出来るだけ早く廃炉してほしい」と要望したわ。廃炉作業に入れば、雇用が発生するでしょ?
 連邦政府の閉鎖決定にヘッセン州政府は逆らえないの。さらにその下のレベルにあるビブリス町には最初から、閉鎖に反対する選択肢はなかったのよ。一番困るのは閉鎖してそのまま何もせずに放置されることね。
 問題となったのは、脱原子力政策が法制化(2011年7月成立、同8月施行)される以前に3か月間、州政府がビブリス原子力発電所に運転停止命令を下してしまったことなの。RWE は規制当局の検査に合格した正式な運転認可を持っていた。にもかかわらずヘッセン州政府は運転停止命令を出してしまったのよ。もちろんRWEは巨額な損害賠償を求める民事訴訟を起こし、連邦行政裁判所はRWEの主張を認め「ビブリス原子力発電所に対する3カ月間の停止命令は違法」と裁定したわ。
 ここで誰が賠償金を支払うかということになるのだけれど、州政府は「連邦政府の指示に従ったものであり、連邦政府が支払うのが当然」と主張したわ。でも連邦政府は「原子力発電所を閉鎖するべきとは言ったが、実際に閉鎖命令を出したのは州政府だ」とシラを切ったの。運転停止命令を出す前に、ヘッセン州政府がきちんとRWEと話し合っていれば、RWEが訴訟を起こすことはなかったわね。これは州政府の勇み足で大変な失態よ。報道では賠償額は2億5,000万ユーロと言われているわ。

Q:ビブリス発電所の社員はビブリス町に住んでいるのか?

 発電所にRWEの社員は720名いるけれど、うち20%がビブリス町に住んでいるわ。ビブリス発電所が閉鎖され、RWEの他発電所へ異動になった人もいれば、RWEを辞めて他の仕事を探そうとしている人もいる。普段であればビブリス発電所で職を失っても、すぐに他発電所で職に就けたのだけれど、今やどこもかしこも原子力発電所は閉鎖されている状況よね。
 運転しない発電所では、人件費はもはやコストでしかないの。ビブリス発電所はさらなる人員削減が必要となっているわ。現在RWEは廃炉の認可を待っているけれども、いつになったら認可が下りるのか皆目見当もつかないわ。そもそも廃炉の認可を審査する十分なマンパワーがないのよ。

 

Q:閉鎖に対する町の人たちの反応は?

 以前から時折反原子力グループがやって来てワーワー騒ぐことがあったけれど、彼らは99%、ビブリス町民ではないのよ(笑)町民は原子力発電所を受け入れていたわ。しかし福島第一事故に町民は大変な衝撃を受けたの。これは一人の例外もないと思うわ。途上国ならともかく、まさか日本であんな事故が起きるなんて誰も思わなかった。町民は驚いたというよりも、大変なショックを覚えたのよ。
 今やドイツ国民の60-65%が原子力発電所に反対している時代になったわ。町民の中には反原子力に転じた人も少なくないの。福島第一事故がビブリス発電所にとどめを刺したわね。ビブリス発電所が閉鎖されたのも当然の流れだと思うわ。
 ご存知でしょうけれどドイツでは、2022年には脱原子力を達成する計画だったの。でも各原子力発電所は法的な運転認可があるので、そう簡単にはいかなかったわ。そのためプラント毎に残余電力量を定め、ゼロになったら閉鎖することになっていたの。その後連邦政府は、原子力発電所の運転期間延長を認める代わりに、課税を強化して税収を再生可能エネルギーへ回すという方針に転換したわ。これはこれで、原子力から再生可能エネルギーへの移行のためにも、大変良いアイデアだったと思うわ。
 でも現実はうまくいかなかったの。太陽光発電が設置されても、サマータイムしか活用できないわね。北部には多くの風力発電が設置されたけれど、南部への送電線は限られており、送電網の強化が課題になっているわ。誰もが再生可能エネルギーへの転換を歓迎しているのだけれど、送電網の強化には反対しているの(笑)

Q:脱原子力政策のドイツ社会へのインパクトは?

 電気料金が6割~ 7割値上がりしているわ。表だって文句を言わないだけで、みな頭を抱えているのよ。それでも我慢できるのはドイツが好景気だからね。
 それに脱原子力に着手したからには、後戻りをするつもりもないのよ。事故のリスクがあるならば事故を否定することはできないでしょ? 事故のリスクに怯えている人に対し、決して事故は起こらないとは誰も言えないのよ。これがドイツにおける福島第一事故の帰結ね。原子力発電所は2022年までに全廃されるわ。近年はそれに加えて、石炭火力発電所も閉鎖されようとしているの。
 原子力発電所閉鎖後の放射性廃棄物も問題よ。ドイツでは最終処分場を何十年に渡って話し合ってきたが、まだ決まらないの。決まったところで廃棄物が一度に搬入できるわけではないでしょう?さらに時間がかかるわ。廃棄物費用は発生者である電力会社が負担するものなのに、電力会社は破綻寸前だわ。原子力発電所は閉鎖され、石炭火力も閉鎖され、ガス火力は経済性の問題で稼働できないの。これじゃ電力会社の収益源が見当たらないわよね。

 

Q:ビブリス町が新たな産業を誘致しようとしているが?

 原子力発電所が運転していた頃は、ビブリスは周辺市町村の中でも裕福な町だったの。原子力発電所が完全に解体されるまで、そこに原子力発電所は存在し続けるわけだから、誘致はかなり難しいと思うわ。イメージが悪すぎるの。原子力があった町でもかまわないよ、という会社を見つけることは非常に難しいでしょ? 新エネルギー関連の会社は絶対に来ないわよ(笑)

 

Q:ビブリスの立地はいいと思うが?

 確かにフランクフルトとマンハイムという2つの都市圏に近接しているけれども、それだけではただのベッドタウンだわ。寝るためだけの町となってしまって、魅力がないの。そこに生の息吹を感じない。住民はそんなもの望んでいないわよ。

 

Q:前町長として後悔はあるか?

 原子力関連では後悔はないわ。ビブリス原子力発電所は安全だと今でも思っている。本当に福島第一事故が信じられない。何よりも日本で起きたということがね。(嘆息)

日本の立地自治体も、
原子力産業以外にも
さまざまな産業を
誘致しておくべきよ。
いきなり発電所が閉鎖されて、
明日から新たな道を模索しても
立ち行かなくなるわ。
今日から、
できれば昨日から(笑)
着手するのよ
Dr.Hildegard Cornelius-Gaus
ヒルデガルド・コーネリウス=ガウス

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