(IEAロードマップ)2050年までに原子力を3倍以上に
国際エネルギー機関(IEA)は6月16日、2050年までに50%の二酸化炭素排出削減に貢献する潜在能力は原子力が一番高いとするロードマップを取りまとめた。このロードマップ作成は、主要先進8カ国(カナダ、フランス、ドイツ、日本、ロシア、英国、米国)の要請によるもので、取りまとめには経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と世界原子力協会(WNA)が協力した。
ロードマップは、現在の原子力開発拡大の遅れに取り組むべき産業界と各国政府の課題と対応について、?スキルと製造能力(これについては、すでに対策が取られつつあり、原子力発電の高い需要に早急に応えるべきである)。?明確で安定的な原子力政策(各国の総合エネルギー政策のなかで明確かつ安定的な原子力開発の政治的コミットメント)。?最大の緊急課題としての建設コスト問題(これに関しては、製造業者の財政リスク低減を図るべきであり、標準化や経験により対応を図る)、としている。
2020年までに上述のように安定的な原子力政策と十分な産業基盤確保のための施策が講じられるならば、原子力は2050年までに、現状の3.2倍の12億kWに拡大することが可能である。これは、大型炉を毎年約20基完成させることを意味する。原子力発電所の新規着工の基数を2020年までに現在のほぼ2倍にし、2020年以降は若干ペースを落とし建設を続けていくことである。この明らかに達成可能な建設工事ペースは、現在世界で運転中の全原子炉の更新も十分に行えるものであり、原子力発電の貢献も増大し、電力需要が2倍になったとしても原子力発電電力量シェアは24%になる。
IEAは,「上記のシナリオは、原子力発電の建設スピードの強要が前提」としている。 ロードマップでは詳細に検討してないが、原子力発電の高シナリオの場合、原子力発電設備は19億kWになり、全電力の38%を供給する。高シナリオでは、温暖化ガスの排出を大幅に削減するだけでなく、電力料金の11%カットにつながる。このように、原子力利用の拡大は、経済的に温暖化ガス排出削減できる最も有効な手段である、としている。
WNAのジョン・リッチ事務局長は、「前向きな原子力予測として歓迎するが、“控えめすぎる”」と論評した。WNAの『原子力21世紀見通し』では、「更なる拡大を予測しており、中国、インドの膨大なポテンシャルをそのまま反映している」と述べている。さらに「場合によっては、この2国だけで2050年までのIEAの世界予測と同程度の原子力開発を進める可能性がある」としている。WNAの高成長シナリオは、2050年の原子力規模を30億kWとしている。
WNAとIEAが完全に一致しているは、「最も優れたクリーン・エネルギーとして原子力支援を明確にして真剣に原子力推進に取り組む各国政府の責務・態度」であり、「躊躇する時間はなく、無駄な議論の時間はもう終わった。世界が必要なのは大胆、明快な原子力推進のビジョン」ということである。
同ビジョンは、各国政府、メーカー等に以下のように提言している。
○ 政 府:原子力に関する公衆との対話推進、適切な規制、経済的サポート(融資保証など)
○ 電力事業者:最高レベルの安全性・効率性による既設プラントの運転継続
○ 原子炉供給者:標準化の推進。2020年までにスケジュール通り/予算通りの建設実現。サプライ・チェーンの確立
○ 燃料メーカー:2015年から2020年にかけて燃料供給能力の大幅拡大
○ 政府系研究機関との連携:第4世代炉は2030年頃の実証の後、商業化へ。
ロードマップは、これらを実行するには、国際協力のメリットが大きいと指摘している。国際協力の推進で鍵となるのは、政府系の原子力・エネルギー関係機関、世界規模の非政府産業団体と政策機関である。
下図はBLUE MAP シナリオ:2050年CO2排出量を2005年 に比べて半減するシナリオ(電力部門における総CO2削減シナリオ)。現段階で唯一原子力だけが技術のブレークスルーをクリアーしている。
(2010年6月18日付WNN)
原産・国際部まとめ