世界の運転中原子力発電所は
433基 4億1,244万KW
世界的に高まる原子力への評価
中露が引き続き
原子力発電の増加を主導ロシアによるウクライナ侵攻の長期化と中東情勢の緊迫化は、化石燃料の価格高騰に拍車をかけ、エネルギー安全保障上の課題の大きさが再認識されることとなった。こうしたなか、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの両立を可能とする原子力への評価は世界的に高まっている。
福島第一原子力発電所事故後の約10年間は原子力導入が停滞していたが、原子力の価値を認識した多くの国での政策変更により、原子力復活の機会が生まれつつある。このことは、国際原子力機関(IAEA)が毎年発表している2050年の原子力発電設備容量の予測値について、2~3年前から上方修正が続いていることからも明らかである。
最近5年間の世界の原子力発電所の新規建設開始状況を見ると、2019年5基、2020年5基、2021年10基、2022年10基、2023年8基の計38基で、この内訳は、中国製18基(すべて中国内立地)、ロシア製19基(うち6基がロシア内立地、13基がトルコ、インド、エジプト、中国に輸出)、フランス製1基(英国に輸出)である。最近、欧米諸国でも原子力開発の機運が高まっているが、具体的な建設段階に入るには、もう少し時間がかかるようであり、中国とロシアが世界の原子力発電所建設を主導している。
欧米で2基が運転開始
2023年は、米国のアルビン・W・ボーグル3号機(PWR、125.0万kW)とフィンランドのオルキルオト3号機(PWR=EPR、172.0万kW)の営業運転 開始が特筆される。ボーグル3号機は米国初のウェスチングハウス(WE)社製AP1000で、米国で30数年ぶりに2013年に着工された。オルキルオト3号機は欧州初のフラマトム社製 EPRで、欧州(ロシア・東欧を除く)で10数年ぶりの新規着工だった。両機とも、営業運転までに様々なトラブルに見舞われた。
ドイツでは、残っていた3基の原子炉の閉鎖により、完全な脱原子力国となった。台湾では2025年の脱原子力に向け2023年中に1基が閉鎖され、現在、残る2基が運転中である。
原子力復活の機運は、原子力の段階的廃止国だけでなく、利用国、新規導入国のいずれにおいても見られる。中国とロシアは引き続き原子力開発を続けており、世界最大の人口を抱えるインドも原子力拡大路線を堅持している。
欧米諸国等が新規原子力開発
計画を発表主な国での原子力開発動向を下記に示す。
- スウェーデンは、原子力開発を制限する法規定を撤廃し、2023年11月には、2045年までに大型炉で10基分相当の原子力開発のロードマップを策定した。
- ベルギーは、2025年までに全基の閉鎖を計画していたが、国内で比較的新しい原子炉2基について2035年まで運転延長することを決めた。
- フランスは、2022年に改良型 EPR2×6基の建設計画を発表し、2023年6月、このうち2基の設置許可が申請された。
- 英国は2024年1月、2050年のCO2排出実質ゼロ(ネットゼロ)へ向けた原子力ロードマップを発表。2050年までに2,400万kWの新規原子力発電設 備を稼働させる目標を設定した。新しい資金調達方式のRABモデルを適用したサイズウェルC原子力発電所(PWR=EPR、172.0万kW×2基)の最終投資決定が2024年中にも下される見込みである。
- ポーランド政府は、米WE社製AP1000×3基と韓国水力・原子力(KHNP)製APR1400×2基の計画、さらに一部のSMR導入計画についても原則決定を発給した。
- ブルガリアでは、コズロドイ原子力発電所(VVER-1000×2基)の7、8号機として米WE社製AP1000の具体的な導入・建設に向けて、企業間や政府間の協議・手続きが進行中である。
- ルーマニアでは、建設途中のチェルナボーダ3、4号機(CANDU6×2基)の計画が進行中で、閉鎖された石炭火力発電所跡地でのSMR導入計画も進んでいる。
- ウクライナは、2022年にAP1000の9基建設で合意した米WE社と、建設の具体化に向けた手続きを進めている。また、並行してSMR導入計画を進めている。
- カナダは、2023年7月にブルース・サイトでの大型炉(480万kW分)開発を決定した。ダーリントン・サイト(CANDU-850×4基)では、BWRX-300の建設許可が申請されている。
- 米国では、インフレ抑制法(IRA)での優遇措置や一部州法の政策措置により、既存炉の最大限活用と新規原子力技術の展開を奨励している。
- 韓国は、前政権の段階的廃止政策を覆し、電力需給計画(2023年1月)で新ハヌル3、4号機(APR1400×2基)を復活させた。原子力輸出にも注力している。
- 日本は、原子力の最大限活用と革新的な原子炉を開発するGX(グリーントランスフォーメーション)実現の基本方針を2023年2月に閣議決定。同年5月、GX脱炭素電源法が成立した。
既存炉の有効活用で
運転延長が進む原子力発電国では、原子力の新規建設計画だけでなく、原子力の有効利用として、既存炉の運転期間延長や出力増強が進んでいる。これらは、国際エネルギー機関(IEA)が強調しているように、コスト的に最も効果的な原子力活用策である。
米国では、ほとんどの原子力発電所が60年運転の認可を受けており、今や80年運転を指向している。既にサリー1、2号機(PWR、89.0万kW×2基)が80年運転の認可を取得しており、10基近くが審査中である。フィンランドでは、ロビーサ1、2号機(VVER-440×2基)が2023年2月に70年運転を規制当局から承認された。同国のオルキルオト1、2号機(BWR、92.0万kW×2基)も70年運転をめざして近く規制当局に申請予定である。両機は、従来から出力増強も行っており、当初66万kWだった出力は、今後約97万kWに増加する見込みである。出力増強は米国でも以前から実施されており、これまで、米国の既存炉の多くで累計約800万kW以上の出力増強が行われている。
他の産業部門がSMR開発に注目
近年、小型モジュール炉(SMR)開発の動きが非常に活発になっている。欧米諸国では、建設中のSMRはまだないが、設計認証手続き等が進んでいる。
米国のユタ州公営共同事業体(UAMPS)は2023年11月、SMR建設計画を中止した。米国でのSMR計画の先駆けとして注目されていた同プロジェクトの主な中止の理由として、1つにコスト増が挙げられている。米国ではエネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラム(ARDP)等で、様々なSMRの開発が進行中で、早いものでは2020年代末までの実証運転をめざしている。カナダでは、ダーリントン・サイトへのBWRX-300の建設許可申請が2022年10月に規制当局に申請された。
米国、カナダ、ルーマニア等では、閉鎖済み(または閉鎖予定の)石炭火力の跡地利用(または転用)としてのSMR計画が進んでいる。カナダ等では、鉱山事業用にSMR利用が検討されている。
米化学大手のダウ・ケミカル社は2023年3月、小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」(8.0万kW)導入に向け、X-エナジー社と協定を締結した。テキサス州の同社工場で2026年の建設開始、2030年までの完成をめざしている。
北米最大の鉄鋼メーカーのニューコア社は2023年5月、同社の電気アーク炉製鉄所にSMR併設の検討を開始した。同年10月、大手ホスティングプロバイダーのスタンダードパワー社は、データセンター向けの電力供給のため、ニュースケール・パワー社のSMRを24基導入する計画(約200万kW)を発表した。
SMRは柔軟な電力供給だけでなく、熱電併給や高温熱利用などの特徴を有するため、脱炭素化をめざす他産業部門も関心を寄せている。米政府主導による水素製造計画には、原子力水素製造も含まれている。
COP28で初めて原子力認定 原子力3倍化宣言も
2023年11月30日~12月13日にアラブ首長国連邦(UAE)で開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)は、原子力にとって極めて重要かつ有意義な会議となった。
12月13日、COP史上初めて公式文書において原子力の低炭素価値が認められ明記されたほか、COP28のサイドイベントでは、日本、米国、英国、フランス、カナダなど25カ国が2050年までに世界の原子力発電設備容量を2020年比で3倍にさせるなどの宣言文書に賛同。産業界も同様の誓約を発表した。原子力3倍化宣言とは、世界の原子力発電設備容量を現在の約4億kWから、2050年には約12億kWに拡大させることを意味する。
さらに、12月7日には、日米英仏加が、世界の燃料市場で大きなシェアを占めるロシアの影響力排除と核燃料供給の確保をめざして、新たな燃料サプライチェーンの構築に42億ドルを投じることを発表した。IAEAが10月に公表した世界の原子力発電設備容量に関する高予測シナリオでは、2050年までに現在の2倍強の8.9億kW(ネット出力)に達すると見ている。また、IEAが11月に発表した世界エネルギー見通し(WEO2023)では、2050年までのネットゼロエミッション(NZE)シナリオにおける2050年の原子力発電設備容量を9.16億kWと想定している。
IAEAおよびIEAの予測値と比較すると、原子力3倍化宣言は、非常に野心的な目標である。今後約30年間で8億kWの増加であり、仮に原子力発電所がその間閉鎖しないと仮定しても、毎年平均約2,700万kWの原子力発電所が運転入りしなければならない。2023年に営業運転開始したのは7基、766.3万kWである。国際協力を含めた各国による確固とした政策コミットメントと、資金調達やサプライチェーンの確保など、原子力開発の円滑な推進のための環境整備が求められる。
Reference
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図表
世界の原子力発電開発の現状
2024年1月1日現在の、世界の原子力発電開発の現状を表にまとめました。
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図表
世界の国・地域別の原子力発電設備容量
世界の国・地域別の原子力発電設備容量を棒グラフにしました。
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お知らせ
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