
世界の運転中原子力発電所は436基、4億1,698万kW
エネルギー安全保障と脱炭素化、
電力需要増を背景に、原子力への期待高まる

高まる原子力発電への期待

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化と中東情勢の先行き不透明感が増すなか、2024年も引き続き、エネルギー安全保障の強化が大きな課題となった。加えて、世界的な脱炭素化、生成人工知能(生成AI)の急速な普及などに伴う電力需要増を背景に、脱炭素化と安定した電力供給の確保をめざす企業、とりわけ、世界の大手IT企業を中心に、安定した脱炭素電源である原子力の活用をめざす動きが顕著になっている。
こうしたなか、国際エネルギー機関(IEA)は10月に発表した年次報告書「世界エネルギー見通し(WEO2024)」の中で、2050年までのネットゼロエミッションシナリオでは、2050年までに世界の原子力発電設備容量を、現在の約4億kWから10億kW超に拡大させる必要があると指摘した。また、国際原子力機関(IAEA)が毎年発表している2050年の原子力規模の予測値も、前年想定を上方修正。高予測シナリオでは、現在の2.5倍の9.5億kWに拡大すると予想し、両機関とも原子力拡大の見通しを示している。
世界各国も原子力発電に対して肯定的な見方へと変化しつつある。2024年3月、IAEAとベルギー政府の共催による、原子力に特化した初の首脳会議「原子力エネルギー・サミット」が開催され、30カ国以上が参加。同年9月にはパリで、OECD諸国から26カ国が参加し、新規建設実現の促進を目的とした、第2回「新しい原子力へのロードマップ」会議が開催された。さらに、同年11月、アゼルバイジャンのバクーで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)では、2050年までに現在の原子力発電設備容量の約4億kWから約12億kWに拡大することをめざす、原子力3倍化宣言に新たに6カ国(エルサルバドル、カザフスタン、ケニア、コソボ、ナイジェリア、トルコ)が加わり、署名国が31カ国となるなど、エネルギー安定供給と脱炭素の両立を可能とする原子力活用のモメンタムがさらに拡大した。
原子力の資金調達面でも、大きな動きがあった。2024年9月、ニューヨークで開催された世界最大級の気候変動対策イベントである「Climate Week NYC」のサイドイベントで、世界有数の金融機関14社が原子力発電への支持を表明した。また、IAEAは、同年10月に発表した「気候変動と原子力発電」に関する報告書で、2050年のIAEA高予測を達成するためには、2017~2023年までの年間約500億ドルを上回る、年間1,250億ドルの投資が必要であり、さらに、3倍化宣言の実現には、年間1,500億ドルが必要と推定している。
欧米を中心に原子力推進・拡大に向けた動きが活発化
脱原子力国でも方針転換の動き

2024年は、多くの国で原子力政策が前進、また一部の国では政策の見直しが進められた。米国では、2億kWの新規導入計画が発表され、原子力再活性化に向けた法整備がなされるなど、既存原子力発電所の運転継続支援、既存/新規原子力に対する優遇税制措置、融資や融資保証、規制の合理化などを通じて、原子力を強力に支援する措置が講じられている。COP28で発表された原子力3倍化宣言の実現に向けて、米国は大型炉や小型モジュール炉(SMR)、マイクロ原子炉のさまざまなカテゴリーの、第三世代+および第四世代原子炉の新規建設や既存炉の運転期間延長、出力増強、経済性を理由に閉鎖された原子炉の再稼働などを進めるとしたほか、導入に向けた「時間軸」と「規模感」も併せて示した。また、アルビン・W・ボーグル4号機(PWR=AP1000、125.0万kW)が2024年4月に営業運転を開始し、前年7月に営業運転を開始した同3号機に続いた。米国はまた、国際展開でも積極的にさまざまな支援をしており、大型炉については中東欧を中心に、SMRについてはルーマニアなど中東欧に加えて、アフリカ、アジアへの攻勢を図っている。
欧州では、英国が2024年1月、2050年ネットゼロ達成に向け原子力規模を2,400万kWに拡大するための原子力ロードマップを発表した。同年3月には、政府機関である大英原子力(Great British Nuclear: GBN)がウィルヴァとオールドベリーの新規原子力用サイトを日立製作所より買収し、政府は、そのうちのウィルヴァ・サイトを新規大型原子力発電所の優先サイトとして指定した。同年9月にはGBNが、SMRの支援対象選定コンペの最終候補4社を選定した。

2050年までに改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)の6基建設、さらにEPR2の8基建設を検討するフランスでは、2007年に着工した建設中のフラマンビル3号機(PWR=EPR、165.0万kW)が2024年5月に燃料装荷を開始し、9月の初臨界達成後、12月21日に送電を開始した。当初は2012年の営業運転開始を予定していたが、工期遅延と大幅なコスト超過が発生した。
スウェーデン、チェコ、ポーランド、オランダ、ブルガリアなどでも新規建設に向けた動きが活発化している。そのうち、チェコ政府は2024年7月、新規増設事業の優先交渉先として韓国水力・原子力(KHNP)を選定、同年9月にはSMRプロジェクトの優先サプライヤーとして英国のロールス・ロイスSMR社を選定した。また、近年SMR導入に向けた動きが活発化しているノルウェーでは、2024年6月、政府が原子力発電導入を検討する委員会を設立した。
アジアでは、韓国が2024年5月、第11次電力需給基本計画案で 2038年までに4基(3基は大型炉、1基はSMR)の新増設の方針を提示。同年6月には、大統領が慶州へのSMRの産業ハブ創設計画を発表した。韓国は国際展開にも熱心で、ポーランドやトルコ、オランダなどに新規原子力建設計画を提案するなど、活発な動きを見せている。
脱原子力国であるイタリアでは、SMRなどの先進原子力の導入オプションを想定した、エネルギー政策の再検討を進めている。2024年8月には、スイス連邦政府が、国内のエネルギー安全保障強化に向け、原子力発電所の新規建設禁止を撤廃する考えを表明した。
各国が原子力利用にシフトしつつあるなか、台湾では2025年の脱原子力に向け、2024年中に1基が閉鎖され、現在、残る1基が運転中である。しかし、台湾国内では、電力供給や経済への影響を懸念する向きもある。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻後、西側諸国では、世界の燃料市場で大きなシェアを占めるロシアの影響力排除と核燃料供給の安定確保をめざす動きが米国、英国、フランスなどを中心に広がっている。特に、ロシアのシェアが高い濃縮ウランや、開発中のSMRなど先進原子炉の多くが必要とする高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)の生産設備への官民投資が加速している。
日本 第7次エネルギー基本計画の素案を公表
原子力の「最大限活用」と明記、原子力の依存度低減が削除へ
2024年12月17日、第7次エネルギー基本計画の素案が公表され、パブリックコメントを経て、2025年2月18日、閣議決定された。原子力については、安全性の確保を大前提に、再生可能エネルギーとともに最大限活用する方針が示されるとともに、2040年度の原子力比率を2割程度と示しつつ、必要な規模を持続的に活用していくとした。次世代革新炉の開発・設置については、同一敷地内建て替えに加え、廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力サイト内での建て替えを容認した。また、これまで同計画に記載されていた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言は、削除された。
2024年は、再稼働にも動きがあった。11月に女川2号機(BWR、82.5万kW)が、12月に島根2号機(BWR、82.0万kW)がそれぞれ再稼働した。女川2号機は、東日本大震災被災地のプラントで、東日本初、またBWR初の再稼働となった。この2基を加えて再稼働したプラントは、合計14基となった。一方、11月、敦賀2号機(PWR、116.0万kW)に係る新規制基準適合性審査において、新規制基準に「適合しているとは認められない」との決定が下された。

電力需要増を背景に、大手IT企業が原子力を選択
SMRの商業化に向け、各国政府も支援
生成AIの普及によるデータセンター(DC)等の需要増を背景に、米国のアマゾン社、マイクロソフト社、グーグル社、メタ・プラットフォームズ社など、世界の大手IT企業が相次いで、SMRを含む、原子力発電からの電力調達計画を明らかにしている。
こうした動きと並行して、近年、SMRに対する関心が急速に高まるなか、欧米の主要国は、政府の財政支援を含むバックアップにより、開発にしのぎを削っている。なかでも、北米では、実際の建設に向けた動きが着々と進展している。2024年中、テラパワー社が開発する第四世代のナトリウム冷却小型高速炉「Natrium」炉(34.5万kW)やケイロス・パワー社の溶融塩実証炉「ヘルメス(Hermes)」(熱出力3.5万kW、非発電炉)、国防総省(DOD)が手掛ける軍事作戦用の可搬式プロトタイプのマイクロ炉(HTGR)の設計・建設・実証プロジェクト(プロジェクト・ペレ)において、建設に向けた具体的な進展が見られた。

また、SMR分野で世界をリードするカナダでは、2022年、ダーリントン・サイトへのGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWRX-300の建設許可がカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請されており、2029年末までの運転開始をめざしている。順調に進めば、西側諸国初のSMR導入事例となる。
SMRは、電力供給だけでなく、熱電併給や高温熱利用なども可能であることから、IT企業のみならず、化学、鉄鋼メーカーなども活用に関心を寄せている。また、石炭火力の閉鎖をSMRで代替する可能性なども検討されており、これらの動きは、米国に限らず、ポーランド、ルーマニア、エストニアなど欧州の国々でも見られる。フィンランドなどでは、地域暖房としてのSMRの活用も検討されている。欧州委員会(EC)は2024年2月、域内における2030年代初頭までのSMR展開をめざし「欧州SMR産業アライアンス」を発足させた。同年10月には、初回の支援対象として9件のSMRプロジェクトが選定されている。
なお、脱炭素化が至上命題の船舶業界でも、SMRを搭載した次世代燃料船の開発が進められている。韓国では2024年7月、国立木浦大学校の付属研究機関として世界初のSMR船舶研究所が開所した。
既存炉の最大限活用 80年運転時代へ
原子炉
世界では近年、安全性を大前提に、既存の原子力発電所をさらに活用する動きが見られる。具体的には、運転期間延長や出力増強が進められ、IEAもクリーンエネルギー移行を順調に進めるために、これらはコスト効果の高い方策と強調している。
米国では、現在運転中の94基中、86基が60年運転の認可を得ており、9基が80年運転の認可を取得している(9基中2基は、環境影響再評価完了まで80年運転認可の効力が一時停止中)。さらに、現在10基以上が80年運転の審査中である。フィンランドでは2024年1月、オルキルオト1、2号機(BWR、92.0万kW×2基)の運転延長(70~80年)と出力増強に関する環境影響評価(EIA)計画書が経済雇用省に提出された。また、スウェーデンでも国内原子力発電所全て(計6基)で80年運転をめざす動きがある。
なお、日本国内では、高浜1号機(PWR、82.6万kW)が2024年10月、高経年化対策に係る原子炉施設保安規定の変更認可を取得し、11月に国内の原子力発電所で初めて、運転開始から50年を超えた。
中国が野心的な原子力発電計画を引き続き展開
新興国・開発途上国で原子力導入の動き
今回の調査対象期間中(2024年1月1日~2025年1月1日)、中国では営業運転開始が2基、送電開始が1基あったほか、6基が着工、9基が計画入りした。前年は5基が着工しており、これまでどおり積極的な原子力開発を展開している。なお、2024年の着工基数は4カ国・計9基だが、その内訳は中国製7基(6基が中国、1基がパキスタン)、ロシア製2基(1基がロシア、1基がエジプト)である。引き続き、中国とロシアが世界の原子力発電所建設を主導している。
インドでは2024年3月、インド初の高速増殖原型炉で燃料装荷が開始したほか、2基目の70万kW級国産重水炉が営業運転を開始するなど、引き続き原子力拡大路線を堅持している。
エジプトでは、ロシア製原子炉1基が2024年1月に、パキスタンでは中国製原子炉1基が同年12月にそれぞれ着工した。UAEでは、韓国製原子炉の最後の1基が営業運転を開始し、これにより全4基すべてが完成した。旧ソ連圏のウズベキスタンでは2024年5月、ロシアとの首脳会談でSMR計6基構成の原子力発電所建設で合意、原子力発電導入は同国初となる。2024年10月には、同じ旧ソ連圏のカザフスタンでも、原子力発電所建設の是非を問う国民投票が実施され、約70%が建設を支持した。
そのほか、これまで原子力を活用してこなかった国々においても、エジプト、トルコ、バングラデシュで建設中のほか、フィリピン、ケニア、ガーナなどでもSMRを含む、原子力導入の動きがある。さらに、2016年に経済状況を理由に、ニントゥアン原子力発電プロジェクトの中止を決定したベトナムでも、原子力発電所建設計画の再開の動きが浮上している。

バックエンド事業が進展
高レベル放射性廃棄物処分でも進展が見られた。フィンランドでは2024年8月、世界初の使用済み燃料最終処分場「オンカロ」の試験操業を開始した。一方で、本格操業は、同施設の安全審査完了がさらに1年間延期されたことから、先送りとなっている。同年11月、カナダで使用済み燃料を処分する深地層処分場の建設地が決定。スイスでも同じく11月、深地層処分場および使用済み燃料封入プラントの概要承認を当局に申請した。
日本では2024年6月、新たに佐賀県玄海町で文献調査がスタートした。同年11月には、地層処分地の選定に向けて、文献調査を進めていた北海道の寿都町と神恵内村、ならびに両町村が立地する北海道に対して、同調査の報告書が提出された。また、同じく11月、青森県むつ市においてリサイクル燃料備蓄センター(東京電力および日本原子力発電の中間貯蔵施設)が事業開始した。
一方で、2024年8月、日本原燃は六ヶ所再処理工場ならびにMOX燃料工場の竣工目標時期を、2~3年ほど延期し、それぞれ「2026年度中」、「2027年度中」の完成をめざすことになった。
