中央環境審議会(環境省)と産業構造審議会(経済産業省)の合同ワーキンググループが8月18日に開かれ、新たな「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(案)をまとめた。〈配布資料は こちら〉「パリ協定」は2016年に発効した2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みで、これに基づき日本は2019年6月に、「最終到達点として『脱炭素社会』を掲げ、野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指し、『環境と経済の好循環』を実現する」とする長期戦略を策定し国連に提出している。合同WGでは、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」表明や世界全体の新型コロナウイルス拡大など、現行戦略策定時からの状況変化を踏まえ、見直しに向け検討を進めてきた。新たな長期戦略(案)は、概ね現行戦略の骨格が維持されており、「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、(1)利用可能な最良の科学に基づく政策運営、(2)経済と環境の好循環の実現、(3)労働力の公正な移行(産業構造転換など)、(4)需要サイドの変革、(5)迅速な取組(インフラ分野の取組強化など)、(6)世界への貢献――の視点を追記。温室効果ガスの排出削減対策・施策としては、「排出量のうち、エネルギー起源CO2が占める割合は8割を超えている」ことから、エネルギー部門における対応の重要性を改めて記述。「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、再生可能エネルギーの最大限導入に取り組み、水素・CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)の社会実装を進め、原子力については「国民からの信頼回復に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。技術イノベーションについては、6月に改定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が示す14の重要産業分野、次世代再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア、原子力、自動車・蓄電池などをあげ、「これらの分野における実行計画の着実な実施を通じて、2050年カーボンニュートラル社会の実現可能性を関係省庁が一体となって年々高めていく」としている。新たな長期戦略(案)は今後、パブリックコメントに付された後、官邸レベルの会合を経てオーソライズされ、11月のCOP26(英国グラスゴー)までに国連に提出となる運びだが、委員からは、「国民的関心を高めていくため、見せ方は重要」として、各国の長期戦略にならい図表や写真の活用を求める意見があった。また、地球温暖化が原因とみられる最近の豪雨・土砂災害、「ポストコロナ」に伴う大都市一極集中から地方分散への流れ、企業の国際競争力維持などに関して踏み込んだ記述を求める意見も出された。
18 Aug 2021
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東北発の優れた映像コンテンツを表彰するコンテストで地域振興コンテンツ部門大賞「東北経済産業局長賞」を受賞した「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」((株)はなぶさ)など、2021年の優秀賞受賞計10作品が「東北映像フェスティバル」(主催=東北映像製作社協会)の特設サイトにて公開されている。「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」は、東日本大震災で被災した宮城県南三陸町で大学や企業の研修を受け入れている「南三陸ラーニングセンター」が発災後10年間の変化を踏まえ次の10年を考えるというテーマで制作したもの。復興支援のアルバイトをきっかけに南三陸町に移住し竹の栽培・活用に取り組む東京出身の若者、地元に観光果樹園と直営のカフェを開くことを夢見る若手就農者と師匠、都会での会社員生活を辞しUターンして漁業を継いだ漁師らへのインタビュー映像を通じ、10年を経過し南三陸町で働く人たちに生じた価値観の変容を描いている。ワカメ、ホヤ、ホタテ、カキなどの養殖に従事してきた漁業者は、養殖棚を競うように増やしていったかつての状況が震災後、漁師仲間との議論も経て「海を守り質の高いカキを生産するため養殖棚の数を3分の1に減らす決断」により変化した経験を述懐。不安もあったが水揚げまでの期間が以前より短くなり生産コストも下がってきたとした上で、「自然の海から恩恵をもらって仕事していたことに気付いた」と語っている。フルーツピークス福島西店を紹介する「福島にイクンジャー」隊員ことJR福島駅・鈴木さん(右、東北映像フェス特設サイトより引用)この他、地域振興コンテンツ部門の優秀賞として、「福島のイイところ教え隊『福島にイクンジャー』タベルンジャー出動篇!」(JR東日本企画、デンタ・クリエイティブワークス)を紹介。東日本大震災発生から10年の節目をとらえJRグループが4~9月にかけ実施している東北観光の魅力発信・誘客の取組「東北デスティネーションキャンペーン」のPRとして制作されたシリーズ動画の一つで、JR福島駅の若手社員らが駅長が率いる観光戦隊「福島にイクンジャー」に扮し、福島市内の観光物産館やグルメスポットを案内する。番組部門では大賞「東北総合通信局長賞」を、「『日本のチカラ』なりたい自分になるって決めたんだ!」(東北映音)が受賞。事故で車いす生活を余儀なくされているYou Tuberの渋谷真子さん(山形県鶴岡市)の日常を取材したもので、「真子さんやご家族、友人の人柄や思いが表情からも十分に伝わってくる」などと評価されている。また、CM・PRキャンペーン部門の大賞では、岩手県のクラフトビール「ベアレンビール」のイメージCM「ベアレンフアンになろう」((有)哲学堂)が紹介されている。
17 Aug 2021
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【国内】▽7日 原子力学会が中学教科書のエネルギー・放射線関連の記述で調査報告、新学習指導要領踏まえ▽8日 日本政府、福島第一処理水の処分に関するIAEAの支援について署名▽9日 原子力委員会が2020年のプルトニウム管理状況を発表、英国事業者再処理委託分の計上により微増▽12日 総合エネ調WGが電源別の発電コストで試算結果(暫定版)示す▽12日 福島第一2号機燃料デブリ取り出しのロボットアームが英国より到着▽12日 原子力機構の研究炉「JRR-3」が供用運転を再開、RIの国内生産に期待▽15日 環境省が放射線の健康影響と風評被害に関する情報発信で新プロジェクト発足を発表▽15日 量研機構が次世代の重粒子線がん治療「量子メス」でシンポ開催▽21日 総合エネ調、次期エネルギー基本計画の素案示す▽21日 日本原燃の低レベル放射性廃棄物埋設センター増設に関し規制委が事業変更許可発出▽21日 リサイクル燃料貯蔵・むつ中間貯蔵施設の事業開始が2021年度から2023年度に変更▽21日 東京電力が特別事業計画変更を政府に申請、柏崎刈羽原子力発電所の2022年度以降再稼働を仮定した収支見通しも示す▽27日 2020年度版原子力白書が発表、福島第一原子力発電所事故発生から10年で特集▽27日 美浜3号機が10年ぶりに本格運転復帰、国内初の40年超運転▽30日 内閣府の原子力防災協議会が島根地域の緊急時対応を了承▽30日 原子力機構の高温ガス炉「HTTR」が10年半ぶりに運転再開 【海外】▽1日 台湾の國聖1号機が早期閉鎖▽6日 米GEH社が同社製SMR「BWRX-300」の商業化に向けカナダのカメコ社らと協力▽7日 米エネ省、先進的原子炉の建設コスト削減目指しGEH社と協力▽8日 欧州議会の議員約90名が原子力をタクソノミーに含めるようEC幹部に請願▽9日 韓国の規制当局、建設中の新ハヌル1号機に条件付きで運転認可を発給▽13日 中国のCNNC、多目的小型モジュール炉(SMR)「玲龍一号」の実証炉を海南島で本格着工▽13日 米NASA、深宇宙探査用の核熱推進システム開発でSMR開発企業3社を選定▽15日 IEAの「電力市場報告書」:2021年に世界の電力需要は5%上昇、化石燃料の発電量が増加▽16日 米ケイロス社の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」、2026年に実証炉完成へ▽19日 スロベニア、国内唯一のクルスコ原子力発電所で2基目の建設に向け手続き開始 ▽20日 韓国の斗山重工が米ニュースケール社への支援継続で追加投資▽22日 中国・台山1号機の小規模燃料破損についてEDFが見解表明▽23日 ロスアトム社、海上浮揚式原子炉で極東地区の銅鉱採掘会社に電力供給へ▽23日 ブラジル、アングラ3号機の工事再開に向け国内で土木建築業者を選定 ▽28日 中国でロシア製の徐大堡3号機を本格着工▽29日 英国政府、先進的モジュール式原子炉(AMR)の実証プログラムでHTGRを有力候補に▽29日 米規制委、テキサス州の中間貯蔵施設の建設・操業認可発給に向け環境影響声明書発行▽29日 米ジョージア・パワー社、ボーグル3、4号機の完成時期を数か月延期 ▽30日 ルーマニアのチェルナボーダ原子力発電所増設計画に米国政府が実務協力開始▽31日 エジプト初の原子力発電所用にロシアで機器製造開始 ☆過去の運転実績
12 Aug 2021
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会見を行う福島県・内堀知事(インターネット中継)福島県の内堀雅雄知事は8月11日、記者会見を行い、コロナ対策として134億円を計上した2021年度8月補正予算について説明後、東日本大震災からの復興を世界に発信する「復興五輪」を掲げ8日に17日間の日程を終了した東京オリンピックの所感を述べた。内堀知事はまず、「『光と影』が混ざり合った『復興五輪』だった」と回想。その上で、「明るい光」として、(1)3月に聖火リレーがJヴィレッジをスタートし浜通り地域を巡り大会期間中には聖火台で浪江産の水素により輝き続けた、(2)県内で野球・ソフトボールの計7試合が開催された、(3)選手村で福島県産の農産物が活用された――ことをあげ、「これらが『復興五輪』の一つの形につながっていると思う」とした。一方で、「深刻な影」として、(1)聖火リレースタート直前の開催延期決定、(2)無観客での競技開催、(3)根強く残る風評被害――を指摘。特に、今回のオリンピックが無観客開催となったことに関し、内堀知事は、「『復興五輪』の重要な部分は、世界各国からの観客・報道陣が福島の地に来て、見て、感じてもらうことだ」と強調し、「一番根幹の部分が失われてしまった」と、無念の意をあらわにした。また、福島県産の農産物・花きに対する誤解・偏見に基づく風評が一部にみられたことを振り返り、「福島第一原子力発電所事故発生から10年5か月が経過したが、今なお根強く風評被害が続いている」とし、県産品の輸入規制を講じている国々の温度差に言及しながら「愚直に粘り強く事実を訴え続け、この状況を変えていかねばならない」と強調。内堀知事は、ソフトボール金メダリストの上野由岐子選手の言葉「あきらめなければ夢はかなう」を紹介。続くパラリンピアンの活躍に期待するとともに、「福島へのエール、『復興五輪』のレガシー」と受け止め、引き続き途上にある福島の復興、今回のオリンピックでなし得なかったインバウンドの集客にも取り組んでいく考えを述べた。
11 Aug 2021
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福島高専の学生が製作したロボットが、先端技術館「TEPIA」(東京都港区)のバーチャル・ミュージアム「デジタルTEPIA」で紹介されている。福島高専は、「廃炉創造ロボコン」の開催など、廃炉人材育成に力を入れており、4月にはロボット製作を通じた廃炉遠隔技術に係る理解増進の功績から、同高専機械システム工学科准教授の鈴木茂和氏が2021年度文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞している。「デジタルTEPIA」で紹介されているロボットは、2020年11月にオンライン開催された「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト2020 全国大会」(高専ロボコン)でデザイン賞を受賞したハンドベル演奏ロボット「鈴音」(すずね)。暗闇の中、格子状に配置されたハンドベルの下を4台のロボットが異なる色の光を点滅させ動き回りながら、「きらきら星」や「ふるさと」を涼しげに演奏する。〈動画は こちら〉インタビューに応じる鈴木碧さん(左)と鈴木菜緒さん(TEPIAホームページより引用)「鈴音」を製作した電気電子システム工学科の鈴木碧さんと化学・バイオ工学科の鈴木菜緒さんは、「デジタルTEPIA」のインタビューの中で、ものづくりの面白さを強調。それぞれ、中学のラジオ製作、オープンキャンパスで体験したナイロン合成実験をきっかけに自身の専攻分野を選んだとしており、「全然うまくいかなかったものが動いた瞬間はすごく嬉しい」、「普段の生活で使っているものなのに、『どうやって作られているのかわからない』というものがたくさんある」と、話している。賞をとった「鈴音」は、磁石を使ってロボットがベルに直接触れずに音を鳴らすのが特徴で、音色の調節、特に人間が演奏するように「単発で『ポン』と鳴らすにはどうすればよいか」で最も苦心したという。高専ロボコンのテーマ「誰かをハッピーするロボット」に応え、「音楽で人を楽しませられれば」と、「鈴音」製作に取り組んだ鈴木碧さんは、ロボットがメンタルケア面で活躍する将来性を展望し、「まずは挑戦して欲しい」と、後輩たちのチャレンジ精神に期待を寄せている。先端技術館「TEPIA」は現在、感染症対策・リニューアルに伴い休館中のため、ウェブサイト上で楽しめるバーチャル・ミュージアム「デジタルTEPIA」での見学を案内している。「鈴音」は、その中で若手によるアイデアを紹介する「若者イノベーター」で取り上げられたもの。「デジタルTEPIA」では、この他、「暮らし・経済」、「社会」、「地球・生命」や、コロナを踏まえた新しい生活様式「ニューノーマル」に関するテクノロジーを展示。自動ミキシング機能によるリモート合唱システム「tuttii」(電気通信大学)、AIを用いオンライン会議での身なりや表情をTPOに応じて置き換えられる「xpression camera」((株)EmbodyMe)、特殊な光学フィルタにより人が集まる施設での使用を可能としたウィルス抑制・除菌用UV照射器「UVee」(東芝ライテック)などが紹介されている。
06 Aug 2021
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総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長)は8月3日、2020年および2030年の各時点における電源別発電コストの試算結果をまとめた。〈配布資料は こちら〉同調査会下、基本政策分科会による2030年に向けたエネルギー政策の議論の参考とすべく、3月末より検討を行ってきたもので、石炭火力、LNG火力、原子力、風力(陸上/洋上)、太陽光(事業用/住宅)など、15の電源別に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりコストを算出。7月の前回WG会合で概算値が示されていたが、今回、各電源ごとに内訳(政策経費、社会的費用、燃料費、運転維持費、資本費)を明示し精緻化した値となっている。WGでは、風力や太陽光などの自然変動電源の比率が増えることに伴い、単体電源の評価に加え、電力システム全体を安定させる「系統安定化費用」の取扱いが議論となったが、3日のWG会合では、委員の荻本和彦氏(東京大学生産技術研究所特任教授)が、ある電源を電力システムに受け入れるための費用も含め分析する「電源別限界コスト」の評価手法について説明。同評価によって、例えば、現状のエネルギーミックスに太陽光を追加した場合に発生する火力の効率低下に伴う費用も反映されるとしている。各電源が電力システム全体に与える影響に関する評価は、OECD他、諸外国でもエネルギー政策立案に活用されており、今回まとめられた試算結果では、2030年時点の発電コストについて、この「電源別限界コスト」も参考値として追記した。それによると、基本値との対比で、原子力で11.7円が14.4円に、陸上風力で14.7円が18.5円に、太陽光(事業用)で11.2円が18.9円となるなど、それぞれ上昇。4日の基本政策分科会にも出席し説明を行った荻本氏は、どの電源を追加しても電力システム全体にコストが生じることから、「上がる費用をどう抑制し負担するかが次の課題だ」と、エネルギー需給全体を俯瞰した継続的議論の必要性を強調した。
04 Aug 2021
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関西電力は8月2日、運転開始から40年を超える美浜3号機、高浜1、2号機の運転計画を決定した。テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用開始時期に見通しが立ったことによるもの。〈関西電力発表資料は こちら〉新規制基準で要求される特重施設設置については、プラント本体の設計・工事計画認可から5年間の猶予期間が与えられているが、先般7月27日に本格運転に復帰した美浜3号機は、同施設が未整備のため設置期限となる2021年10月25日までに一旦停止する。関西電力が発表した運転計画によると、同機では、2022年9月頃に特重施設の整備を完了し運用を開始。プラントは停止から1年後となる同10月20日に運転を再開する予定。2011年以降停止している高浜1、2号機とも、同様に特重施設の設置期限を2021年6月9日に迎えているが、それぞれ同施設の運用開始時期を2023年5、6月頃、プラントの運転再開時期を同6月20日、7月20日と計画。2021年4月末時点で検査時期が未定となっていた高浜2号機の安全性向上対策工事は、2021年12月頃に完了予定としている。また、既に再稼働している大飯3、4号機の特重施設の運用開始時期について、それぞれ2022年12、8月頃と発表。いずれも同施設の設置期限を同8月24日に迎える。関西電力の原子力発電プラントでは、高浜3、4号機で既に特重施設が運用を開始している。他プラントでも同施設の整備が完了し、2023年夏には既存7基による再稼働が確立することとなりそうだ。
03 Aug 2021
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日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が7月30日、10年半ぶりに運転を再開。2011年初頭の第13サイクル運転終了後、東日本大震災を挟み、新規制基準対応に伴い停止していた。〈原子力機構発表資料は こちら〉原子力機構では、「HTTR」の再開に向けて、2014年9月の試験研究炉「JRR-3」に続き、同年11月に新規制基準適合性に係る審査を原子力規制委員会に申請。「HTTR」は2020年6月に原子炉設置変更許可に至った後、安全対策工事が行われ、2021年7月に入り原子炉起動までに実施すべき検査を終了しこのほど運転再開となった。今後は、運転状態において原子炉の性能を確認するための検査を順次実施し、9月末には原子炉出力100%の状態での最終検査を行い本格運転となる予定。高温ガス炉技術に関しては各国で開発が加速しており、日本も国際協力を推進しているが(文部科学省高温ガス炉技術開発作業部会資料 参照)、「HTTR」運転再開後はまず、2009年から実施されているOECD/NEAの安全性実証試験プロジェクト「炉心強制冷却喪失共同試験」を速やかに再開。2010年の低出力(30%)下による炉心流量喪失試験で「制御棒を挿入せず、冷却せずに、物理現象のみで、原子炉が自然に静定・冷却されることを確証」した成果を踏まえ、より厳しい条件を付加した試験を段階的に進め、高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化にも貢献していく。高温ガス炉は水素製造などの多様な産業利用の可能性が期待されている。一方で、水の熱分解反応による水素製造「ISプロセス」では強酸が介在することから、耐腐食性の機器開発も課題だ。原子力機構の高温ガス炉研究開発センターが説明した熱利用試験計画によると、こうした基盤技術を確立させ、2030年までに「HTTR」と水素製造施設の接続技術を開発するとしている。高温ガス炉開発に関しては、原子力産業分野の取組の一つとして、「2050年カーボンニュートラル」に伴うグリーン成長戦略で、「2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく」とされているほか、7月21日に資源エネルギー庁が示した次期エネルギー基本計画の素案でも水素社会実現に寄与する有望性を述べている。「HTTR」の運転再開を受け、萩生田光一文部科学相は、「各種試験が順調に進み、高温ガス炉に関する技術が蓄積され、『HTTR』を活用した水素製造に係る要素技術開発を始め、各種分野への応用に向けた取組が進展することを期待」との談話を発表。梶山弘志経済産業相もメッセージを寄せ、高温ガス炉が産業分野の脱炭素に資する可能性を述べた上で、「カーボンニュートラルに向けた取組が進展することを期待」としている。
30 Jul 2021
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関西電力の美浜3号機(PWR、82.6万kW)が7月27日の17時、原子力規制委員会による最終検査を終了し、2011年5月の定期検査入りからおよそ10年ぶりに本格運転に復帰した。国内初の40年超運転となる。同機は6月23日に原子炉を起動し、29日に定期検査の最終段階となる調整運転として発電を再開していた。美浜3号機の本格運転再開を受け、関西電力の森本孝社長はコメントを発表。立地地域への感謝の意を表するとともに、「40年を超えて原子力発電所を最大限活用していくことは、電力需給の安定化やゼロカーボンの推進の観点から非常に有意義」と強調。同機で2004年に発生した死傷事故の反省と教訓を深く心にとどめ、安全性をたゆまず向上させていく強い意志と覚悟のもと、安全・安定運転の実績を積み重ねていく決意を述べた。美浜3号機は、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」が未整備のため、同施設の設置期限となる10月25日までに停止する。
28 Jul 2021
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原子力委員会定例会の模様原子力委員会は7月27日の定例会で2020年度版の原子力白書を決定、発表した。今回は、3月に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのをとらえ、特集として、10年を経た「福島の今」、事故の検証と教訓、福島の復興・再生について整理。これを踏まえ、原子力委員会として、「すべての原子力関係者が忘れてはならないこと」、「すべての原子力関係者が協働して取り組まなければならないこと」を述べている。白書の冒頭で、上坂充委員長は、「福島の着実な復興と再生、様々な改善に真摯に取り組むことは、わが国の原子力利用にとって必須であるとともに、世界に誇ることのできる活力ある日本を再生していくために必要不可欠な要素」と、今回特集の意義を強調。白書は今後、閣議配布となり諸々の政策立案に供されるものとなるが、定例会での決定に際し、上坂委員長は、「わかりやすくまとまっている」と、所感を述べた上で、9月に開催予定のIAEA総会他、OECD/NEAなどの国際機関に紹介する考えとともに、人材育成の観点から大学の講義で活用されることにも期待を示した。原子力委員会がまとめた福島第一原子力発電所事故に関する見解(原子力白書より引用)福島第一原子力発電所事故発生から10年を過ぎ、白書では、「10年以上の長期にわたって住民や地域社会にここまで大きな被害をもたらすことを誰が予想していただろうか」と自省。福島が直面している課題の一つとして、「風評」と「風化」をあげ、原子力関係者に対し、「二度と事故を起こさないために、原子力災害に関する記憶と教訓を忘れないこと」、「事故によって生じた風評が固定化され、福島の人たちを苦しめている」と、改めて強調。風評問題が復興・再生の壁となっていることを指摘し、「専門的な取組だけでなく、福島を知ること、行ってみること、食べてみることといったシンプルな取組を続けることも重要」などと、各人による地道な努力の必要性を述べている。白書では随所にコラムを設けており、世界的な新型コロナウイルスの拡大を踏まえた経済回復や環境保全における原子力の役割に関し、OECD/NEA、世界原子力協会(WNA)が2020年に発表した政策文書について取り上げている。
28 Jul 2021
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日本原子力産業協会は7月27日に理事長会見を開き、その中で新井史朗理事長は先般示された次期エネルギー基本計画の素案に対するコメントを述べた。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は21日に、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル社会の実現」表明など、最近のエネルギー・環境を巡る動きを受けたこれまでの議論を踏まえ、エネルギー基本計画の素案を提示。「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応として、原子力については、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。これに関し、新井理事長は、「原子力を活用する方針が示されたものと認識する。原子力が価値を最大限発揮し、『2050年カーボンニュートラル』の実現に貢献できるよう精一杯取り組んでいきたい」と強調。また、エネルギー基本計画の素案では、2030年における電力需給の見通しとして、電源構成などの暫定値も示しており、総発電電力量9,300~9,400億kWh程度のうち、原子力の占める割合は現行の2030年エネルギーミックス(2015年策定の長期エネルギー需給見通し)と同水準とされた。新井理事長は、「この政策目標の達成に向けて新規制基準に合格したプラントの再稼働、長期サイクル運転による設備利用率の向上に努めていく」としたほか、今後も原子力産業界が原子燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分などの諸課題に対し着実に取り組んでいく重要性を強調。原子力の電源構成比率「20~22%程度」の達成見込みについて問われたのに対し、省エネの深掘りなどにより総発電電力量の見通しが現行の2030年エネルギーミックスで示す10,650億kWh程度を下回っていることも踏まえ、「既に再稼働しているプラントに加えて、現在新規制基準適合性に係る審査が申請されている、および原子炉設置変更許可に至っているプラントも含めた27基で十分達成できるのでは」とした。また、新井理事長は、国内初の40年超運転となる関西電力美浜3号機の営業運転再開に関し、関係者の努力や地元の方々の理解に対する敬意・謝意を改めて述べた上で、「わが国の原子力産業界にとって大変意義深いこと」と強調し、今後も長期運転に向けた動きが進むことを期待(5月18日理事長メッセージ 参照)。関西電力では、同機に続いて30日にも大飯3号機が営業運転に復帰予定だが、両機合わせて関西圏の夏の電力安定供給を増強するものと歓迎した。美浜3号機は、6月23日に原子炉起動後、同29日に調整運転として発電を開始して、原子力規制委員会による最終検査を終了し7月27日17時に本格運転に入っている。
28 Jul 2021
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日本原子力文化財団は7月17日、京都市内で、「おはよう関西」(NHK)などのテレビ番組で活躍する気象予報士の塩見泰子氏と地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダーの秋元圭吾氏を招き、地球温暖化問題について考えるセミナーを開催。近畿圏在住の一般市民120名(オンライン含め)が参加した。塩見氏折しもセミナー当日は「近畿・東海地方が梅雨明け」との報道。季節はいよいよ夏本番を迎えるが、流行を先取りする店舗ショーウィンドウにはもう初秋を思わすアイテムがちらほら出始めるところ、塩見氏は、毎日の天気解説以外にも、「次の冬に向けて、セーターをどれだけ作れば在庫を抱えずに済むか」といったアパレル業界からの相談にも応じていることなど、気象予報士の仕事の幅広さをアピール。防災士、健康気象アドバイザーの資格も有する同氏は、「命を守る情報をしっかり届ける」との使命を強調し、「人の心に残る気象情報を」、「楽しくわかりやすく伝える」を大事にしたい思いから、京都大学大学院の認知神経科学研究室で「記憶に残る情報の伝え方」の研究にも取り組んでいるという。近畿地方は全国的にみて暑さの厳しい地域といえる(上)、京都の夏は過去に比べ夜間も気温が下がらなくなってきた(赤線は誤差補正後、いずれも塩見氏発表資料より引用)地域の気象情報を伝える立場から感じる地球温暖化の兆しとして、塩見氏は、「ただ暑くなるだけではなく、空気が温かくなると含まれる水蒸気の量が多くなり、短時間にザァーッと降る、いわゆるゲリラ豪雨も増えている」と説明。気象データとして、地域別の年間猛暑日(最高気温が35℃を超える日)日数ランキング、京都の夏の気候を例に1880年以降、特に最低気温が上昇傾向にあることを図示した。最近、静岡県内で土石流による甚大な被害が発生しているが、同氏は、こうした災害の教訓を踏まえ、平時にハザードマップで自分の住む場所に潜むリスクを予め押さえ、それぞれの「マイ避難計画」の中で、「豪雨で家の周りの側溝があふれたら〇〇へ逃げる」といった危機的状況を見極め行動を起こすシグナル「避難スイッチ」を決めておく必要性を訴えかけた。セミナーには地元の高校生たちも参加。塩見氏は、「『どんなことが地球に対してできるか』を考えてもらえたら」と語りかけ、続く秋元氏とのトークセッション「2050年のカーボンニュートラルに向けて 温室効果ガスの排出を減らすにはどうする?」に移った。秋元氏総合資源エネルギー調査会の委員として「2050年カーボンニュートラル」実現のためのシナリオ分析をまとめた秋元氏は、20世紀後半からの世界のエネルギー消費量増大と、それに伴うCO2排出量増大の関係を示し、「『電力の消費なくして世界の経済成長はない』のが、今、われわれが置かれている状況。電力消費を伸ばしながらいかに脱炭素電源を使っていくかが非常に重要」と強調。塩見氏が「私もエコな生活を心がけていますが、『電気を作る側がどうするのか』が大きなポイントとなってきますね」と返すと、秋元氏は、まず省エネの重要性を述べた上で、カーボンニュートラルを図るエネルギー供給のオプションとして、原子力、再生可能エネルギー、火力+CCS(CO2回収・貯留)の3つをあげた。電力の需給バランス維持のイメージ(秋元氏発表資料より引用)さらに、「太陽光や風力で電力需要を100%賄う未来はあるのでしょうか?」と塩見氏が尋ねたのに対し、秋元氏は、土砂崩れによる太陽光パネルの損壊、観光地の景観に影響を及ぼすことなど、平地の少ない日本において再生可能エネルギーの急拡大で生じた課題を例示。加えて、「電気は基本的に貯めることができない」と述べ、天候に左右される再生可能エネルギーの大量導入に伴い、常に需要と供給のバランスを保ち続ける難しさ・現場の努力を強調した。福島第一原子力発電所事故発生の直後に福井テレビに入社し原子力関連の取材も経験したという塩見氏に対し、秋元氏は、重大事故に備えた電源や原子炉冷却手段の多重化・多様化など、事故の教訓を通じた安全対策について説明するとともに、立地地域への感謝の必要性にも言及。まとめとして、「どんな電源にもメリット・デメリットがある」と、エネルギーのあり方に「唯一の正解はない」ことを強調し、多様なリスクを総合的に把握しバランスあるエネルギー対策をとる重要性を説いた。
27 Jul 2021
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次期エネルギー基本計画の素案が7月21日、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)で示された。今夏、現行計画の策定から3年となることから、昨秋より見直しに向け検討を行ってきたもの。〈配布資料は こちら〉分科会会合の冒頭、梶山弘志経済産業相は、「『2050年カーボンニュートラル』に加え、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減する新たな目標を踏まえ、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組は極めて重要」と述べた上で、素案をもとに議論を深めるよう求めた。新たなエネルギー基本計画は、「気候変動問題への対応」と「日本のエネルギー需給構造の抱える課題の克服」を視点に、主として(1)福島第一原子力発電所事故後10年の歩み、(2)「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応、(3)2050年を見据えた2030年に向けた政策対応――から構成。各論に先立ち、2021年3月に東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から10年を迎えたのに際し、「事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策の再出発を図っていくことが今回のエネルギー基本計画の見直しの原点」と改めて明記された。昨秋、菅首相が表明した「2050年カーボンニュートラル社会の実現」に向けては、再生可能エネルギーや原子力などの実用段階にある脱炭素電源の活用、火力発電のイノベーション(水素・アンモニア発電、CO2貯蔵・再利用など)の追求、産業・民生・運輸部門の「脱炭素化された電力による電化」を図っていくとした。原子力については、現行計画(2050年シナリオの設計)の記載を踏襲し、再生可能エネルギーの拡大を図る中、可能な限り依存度を低減するとし、リプレース・新増設については記載せず、「必要な規模を持続的に活用していく」としている。原子力人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発も引き続き進めていく。現行のエネルギー基本計画が策定された2018年以降の情勢変化として、「脱炭素化に向けた世界的潮流」に加え、新型コロナウイルス感染症の急拡大による生活の変化、米中対立による国際的な安全保障の緊張感の高まり、自然災害の多発やサイバー攻撃など、エネルギーの安定供給を脅かすリスクをあげ、「こうした国内外の動向を踏まえながら進めていくことが時代的な要請となっている」と明記。次期基本計画素案が示す2030年度の電源構成見通し(右は現行のエネミックス、資源エネルギー庁発表資料より引用)2030年に向けた政策対応としては、「S+3E」(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)の実現のため、最大限取り組むことを基本方針に掲げ、需要サイドの徹底した省エネを始め、各エネルギー源や資源・燃料の安定的確保の取組について記載。原子力については、安全最優先での再稼働、使用済燃料対策、核燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定に向けた調査の実施、長期運転に係る諸課題への取組、消費地域も含めた国民理解促進などの「対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組」とともに、国民・立地地域・国際社会との信頼関係構築、研究開発の推進について述べている。また、「需給両面における様々な課題の克服を野心的に想定した場合」として、2030年度のエネルギー需給見通しを図示。総発電電力量は現行の2030年エネルギーミックスの約1兆650億kWhから約13%減の約9,300億kWhと見込まれた。電源構成では、再生可能エネルギーが36~38%(2030年エネルギーミックスで22~24%)、水素・アンモニアが1%(同0%)、原子力が20~22%(同・同じ)、LNGが20%(同27%)、石炭が19%(同26%)、石油が2%(同3%)となっている。今回のエネルギー基本計画の素案では、「国民各層とのコミュニケーションの充実」の項目の中で、エネルギー教育に関して具体的な記述がなされている。最近日本原子力学会より中学校教科書のエネルギーに関する記述で調査報告が出されたところだが、素案では、「エネルギー選択は、理科、社会、家庭科、技術科といった様々な教科にまたがる上、『正解』がない課題でもあり、子供たちが自らの考えを深め、『じぶんごと』として向き合うことができるテーマ」と、重要性を強調。その上で、エネルギー教育に関する授業展開例や副教材、電力バランスについて考えるゲーム・コンテンツの作成、全国各地でエネルギー教育に取り組む教員の支援などを例示している。基本政策分科会では、エネルギー基本計画の取りまとめに向け、今回会合での議論も踏まえ、引き続き審議を行う。
21 Jul 2021
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量子科学技術研究開発機構(QST)は7月15日、小型化・高性能化した次世代の重粒子線がん治療装置「量子メス」に関する研究成果を紹介し将来構想について考えるシンポジウムを都内ホール(オンライン参加含む)で開催した。重粒子線がん治療装置は、QSTで1994年に「HIMAC」(千葉市・放射線医学研究所の医用専用加速器)が臨床試験を開始して以来、兵庫、佐賀など、国内各地域に順次開設され、2021年2月には山形東日本重粒子センターが全国7か所目の施設として稼働した。「『がん死ゼロ健康長寿社会』の実現を目指して」と題する今回シンポジウムの開会に際し挨拶に立った平野俊夫理事長は、「人生100年時代。100歳まで元気に暮らすことが当たり前の時代を迎える」として、高いQOL(生活の質)を維持したがん治療を実現する「量子メス」の開発意義を強調。さらに、2016年度の放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の量子ビーム・核融合部門との統合によるQST発足時の初心に立ち返り、改めて各部門が取り組む超伝導やレーザー加速などの「技術を統合する強み」を活かすことに意欲を示した。2016年に行われた「量子メス」開発協力協定の調印式(左より、三菱電機・柵山社長、日立・中西会長、QST・平野理事長、東芝・綱川社長、住友重機・別川社長〈いずれも肩書は当時〉、帝国ホテルにて)「量子メス」の開発協力に関しては、2016年12月に締結されたQST、住友重機械工業、東芝、日立製作所、三菱電機による協定がこのほど期間満了を迎え、今後は社会実装に向けた新たな研究開発段階へと移行する。シンポジウムでは、このうち住友重機から岡村哲也副社長、東芝から綱川智社長、日立から菊池秀一・ヘルスケア事業部長がビデオメッセージを寄せた。それぞれ、「一流商品とサービスで社会に貢献」、「すべての人が健康で質の高い生活を送れる世界の実現」、「新しい価値を創出するデジタルイノベーション」の理念のもと、より小型化した装置の国内外普及とともに、各社の技術力向上につながった5年間の協力成果を語り、今後のさらなる低コスト化、世界標準化に期待した。世界最高の集光強度を誇るレーザー装置「J-KAREN」(QST発表資料より引用)重粒子線治療は「装置が巨大で高額」なのが課題だが、小型化に向けた技術開発の成果について、QST量子メス研究プロジェクトマネージャーの白井敏之氏らが発表。同氏は、「HIMAC」(第1世代装置、120×65m)と対比し、「プラントではなく治療室の中に置くことができる医療機器」を目指して、6分の1規模の第4世代装置(45×34m)、40分の1規模の第5世代装置(10×20m)と、2段階の開発戦略を図ったとしている。超伝導技術とマルチイオン照射(正常組織の近傍には副作用が少ない粒子線を照射するなど、がんの状態・領域に応じビーム種を最適化)を応用する第4世代装置については、2022年度の建設開始、2026年度の治療開始を目途とするロードマップを示し、今後の実証機器製作・臨床試験に向けても「メーカーの協力が欠かせない」と強調。また、同サブマネージャー・近藤公伯氏は、第5世代以降の装置開発に関し、QST関西光科学研究所にある世界トップクラスの極短パルス超高強度レーザー「J-KAREN」を用いた研究成果を披露した。パネル討論の模様(左より、門村氏、大野氏、宮崎氏、眞島氏、佐野氏、インターネット中継)この他、パネル討論(モデレーター=門村幸夜・科学技術・学術政策研究所客員研究官)が行われ、大野達也氏(群馬大学重粒子線医学センター腫瘍放射線学教授)、宮崎勝氏(国際医療福祉大学副学長)、眞島喜幸氏(NPO法人パンキャンジャパン理事長)、佐野雄二氏(科学技術振興機構未来社会創造事業プログラムマネージャー)が登壇。難治がんに対する重粒子線治療の臨床研究に関わってきた経験から宮崎氏は、医療従事者への啓蒙を図るべく、「治療のエビデンス発信」の重要性を繰り返し強調。妹がすい臓がんと診断されたことを機にがん患者・家族の支援活動を行っている眞島氏は、治療法を選択する患者の立場から、保険適用の必要性を指摘したほか、タレントの西郷輝彦さんが前立腺がんの最先端治療のためオーストラリアに渡った報道を例に、「ジャーナルに載ることも有効」などと、メディアの果たす役割にも言及。重粒子線治療の普及に向け、大野氏、佐野氏は、それぞれ、放射線治療・高等教育、内閣府の革新的研究開発プログラムに関わる立場から人材育成の重要性を述べた。討論を受け、群馬大学名誉教授でQST量子生命・医学部門長の中野隆史氏がコメントに立ち、医療関係者の間でも重粒子線治療が十分理解されていない現状から専門の学会を最近立ち上げたことに触れ、「治療した患者さんと一緒に啓蒙活動ができれば」などと述べた。
20 Jul 2021
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【国内】▽2日 東京電力が核物質防護に関する独立検証委員会を設置▽2日 「日本量子医科学会」が設立記念シンポ、がん治療から宇宙進出まで展望▽4日 2020年度エネルギー白書が閣議決定、「2050年カーボンニュートラル」など取り上げ▽7日 福島第一処理水の取扱いに関する政府WGが宮城県で開催、村井知事他が意見陳述▽7日 原子力学会が福島第一処理水の取扱いで見解、12日には風評被害対策などを考えるウェブセミナー開催▽8日 東芝ESS製、ITERトロイダル磁場コイル(高さ16.5m、総重量300トン)の初号機が完成▽10日 電力会社原子力本部長らが核物質防護事案を巡り、業界大の取組を規制委に報告▽16日 四国電力が伊方3号機を10月12日に原子炉起動すると発表、2019年に定検入りし司法判断で運転停止中▽18日 経産省が新たな「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定▽21日 原子力立地地域の将来像を考える「共創会議」が福井県で初会合、自治体・国・電力が参画▽22日 原子力機構のバックエンド対策でIAEAによる国際レビュー結果が公表、79施設の取組を評価▽23日 規制委が中国電力島根2号機で新規制基準適合性に係る審査書案を了承、日本原燃六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター増設の同案件も▽25日 福島第一処理水の取扱いに関する政府WGが茨城県で開催、大井川知事他が意見陳述▽25日 小惑星「リュウグウ」の試料分析開始で高エネ研他が合同会見、J-PARCなどの施設活用▽29日 関西電力美浜3号機が10年ぶりに発電再開、国内初の40年超運転 【海外】▽ 1日 米TVA、ブラウンズフェリー発電所の2回目の運転期間延長に向けパブコメ募集▽2日 米テラパワー社、ワイオミング州におけるナトリウム冷却高速炉の実証炉建設協力で州知事らと合意▽4日 中国の国家発展改革委、中国核工業集団公司のSMR「玲龍一号」実証炉建設計画を承認▽7日 英国で約40年稼働した改良型ガス冷却炉、ダンジネスB原子力発電所が永久閉鎖▽8日 ロシアがシベリア化学コンビナートで鉛冷却高速実証炉「BREST-300」を着工 ▽8日 韓国原研とサムスン重工、海上浮揚式原子力発電所の共同開発で協力協定締結▽9日 カナダのオイルサンド業界、生産時のCO2排出量実質ゼロ化に向けSMRの活用を検討▽9日 IAEA、原子力技術で地球温暖化の影響を緩和する新たな戦略構想を開始▽11日 米国防総省、USNC社の協力を受け、月まで航行する原子力推進システムを開発へ▽11日 カナダの原子力NPO団体、原子力が水素製造支援で果たす役割を調査▽14日 米規制委、セントラス社が計画するHALEU燃料製造で最大20%のウラン濃縮を許可▽16日 中国当局、米国メディアによる「放射能漏れの発生疑惑」報道を受け、台山1号機で小規模な燃料破損の発生を認める▽18日 中国の国家原子能機構、高レベル廃棄物の地層処分に向け甘粛省で地下研究所が着工したと発表▽21日 米デューク・エナジー社がオコニー原子力発電所で2度目の運転期間延長を申請▽22日 米USNC社、自社開発SMRの燃料試験にオランダのペッテン炉を活用すると発表▽22日 ルーマニア議会、チェルナボーダ3、4号機の完成に向け米国との協定を批准▽25日 中国の紅沿河5号機が初併入▽25日 米オクロ社、超小型高速炉「オーロラ」に使用する先進的原子炉燃料の商業化でエネ省基金から100万ドル獲得▽23日 英国で稼働するAGRのデコミもNDAが引き受け 英仏が合意▽28日 米イリノイ大、USNC社製「マイクロ・モジュラー・リアクター」の建設に向け規制委に意向表明▽28日 インドでロシア製のクダンクラム5号機が着工 ▽30日 エジプトの原子力発電庁、ロシア製のエルダバ発電所の建設許可を申請 ▽30日 米貿易開発庁、ポーランドの原子力導入計画支援で同国企業に補助金を交付すると発表 ☆過去の運転実績
16 Jul 2021
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フリーアナウンサーの八木早希氏と社会保障経済研究所代表の石川和男氏によるトークイベント「くらしとエネルギー」(主催=日本のエネルギーを考える会、事務局=関西原子力懇談会)が7月4日、大阪市内のホール(オンライン参加も含む)で開催された。両氏はともにテレビ・インターネット番組で活躍中。八木氏は米国ロサンゼルスに生まれ、地元の大阪阿倍野で育った。経済産業省で資源エネルギー・中小企業政策に携わった経験を持つ石川氏は、都内から今回のイベント出席に際し、前日、静岡県熱海市で発生した土石流に伴い東海道新幹線がストップしたため、急きょ飛行機に振替えて大阪に到着できたことを振り返り、「大都市が線路一本で結ばれ、日本は良い国だといわれるが、災害が発生すると途端に交通がマヒし脆いところもある」と語った。災害時における感染症対策も課題となっている状況下、八木氏は「『平時と非常時の2パターン』で備えねばならないという感覚がコロナを受けて一段と増した」と返し、トーク第1部「With コロナ、After コロナで変わるくらし」が幕を開けた。八木早希氏国内で新型コロナが拡大し始めた2020年2月以降の番組収録を振り返り、石川氏は、スタジオ内の「密」を避けるべく無観客となったほか、リモート出演のパネラーたちも他者の存在を意識せず一方的に主張しているなどと指摘。コミュニケーション手法に関する講演活動も行う八木氏は、「リモートでは、間合い、場の空気を読むこと、信頼関係を結ぶのが難しい」とした。さらに、石川氏は、テレワークに伴う「霞が関」の職場環境の変化から「With コロナ」の1年間を回想。パソコンを通じ上司から監督されるストレス、夜の付き合いの消滅をあげたほか、通勤移動がなくなることから「結構太るよね~」とも。これに対し、八木氏は、「After コロナ」に向けて、「関西圏は中小企業が多くデジタル化といっても目先の設備投資がしにくい」との地域事情や、女性の視点から、家事負担増を「旦那は家にいてもいいけど、いるなら動いて欲しい。『ご飯まだ?』なんて言わないで」と突っ込むなど、雑談風のトークが展開された。八木氏が「おうち時間」に伴う家庭の光熱費増加に触れると、石川氏は消費税改定に係る盛んな議論に比して、電気・ガス・水道に対するコスト意識の低さを指摘。トークは第2部「くらしを支える脱炭素エネルギーのリアル」に移った。石川氏は日本における2000年度以降の電源構成の推移を図示。東日本大震災以降、再生可能エネルギーの比率が拡大してきたことをあげ、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル」実現表明を受けてさらに加速化するとの見通しを示した。特に太陽光について、同氏は、自治体による支援制度拡充の動きとともに、「導入量は中国、米国に次いで世界3位にある」などと強調。八木氏が再生可能エネルギーのメリット・デメリットについて問うと、石川氏は、「国内で賄え、燃料費がかからず、それ自体はCO2を出さない。一方で、初期投資がかかり消費者の電気料金に跳ね返ってくることから、なかなか普及しない」とした。さらに、「原子力・火力発電所は一種の工場といえ、それほど面積をとらない。しかし、100万kW級の原子力発電プラント1基分を太陽光発電で代替しようとすると、山手線で囲まれる敷地面積(約58平方km)にパネルを敷き詰めねばならない」と説明。石川和男氏電力の安定供給維持に関わった経験から、関西圏の需要ピークに関し「テレビとエアコンが同時につく夏の甲子園の決勝が目安」と語る石川氏は、「電気は『生産、即消費』のもの。蓄電池が普及しない現状で、自然条件によって変動する太陽光・風力を導入するほど、調整力の利点を持った火力が必要となってくる」ことも図示。各電源のメリット・デメリットを踏まえたエネルギーベストミックスの構築を、折しも食い倒れの街・大阪に因み「電気もつまみ食いで」と表現した。両氏によるトークは、現在改定作業が大詰めとなっているエネルギー基本計画を巡り、CO2回収技術や水素・アンモニア混焼の可能性など、多方面にわたった。原子力の関連では、先般、関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転に向け発電を開始したが、運転期間延長に係る地元の不安は根強い。その一方で、将来に向けたイノベーションとして小型モジュール炉(SMR)への期待も高まっており、石川氏は海外における長期運転や革新炉開発の動きについて米国を例に説明した。同氏はさらに、檀上を明るく照らし心地よい風を送るホールを差し、「ここの電気はどこから来ていると思いますか?福井県なんですよ」と語りながら、エネルギー生産地に対する感謝の気持ちの重要性を強調。八木氏も「電気は自動的に流れ、機械的に発電されているもの、というイメージを持っていた」と、エネルギーに対する理解不足を自覚した上で、「今後も市民レベルで話し合う場を設けることが大事」と述べ締めくくった。 ※写真は、関西原子力懇談会提供。
16 Jul 2021
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は7月13日、前回会合までの「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた様々な想定・前提条件に基づく複数シナリオ分析に続き、発電コストに関わる検証報告を受けさらに議論した。〈配布資料は こちら〉エネルギー基本計画の見直しに資するべく、同分科会下、発電コスト検証ワーキンググループが3月末より検討を開始し、7月12日に電源別の発電コスト試算結果をまとめている。冒頭、梶山弘志経済産業相は、「それぞれの電源の特徴・特性を踏まえ、2030年度の野心的な温室効果ガス削減目標(2013年度より46%減)とエネルギー安定供給の両立に向けた課題や対応の方向性を集中的に議論して欲しい」と述べた。2030年の電源別発電コスト試算(計算方法・各費目の内訳は配布資料2のP.8・9を参照、資源エネルギー庁発表資料より引用)発電コスト試算結果については、WG座長の山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構理事長)が説明。原子力、石炭火力、LNG火力、石油火力、風力、太陽光、水力など、15の電源別に、2030年時点で「新たな発電設備を更地に建設・運転」した際の発電電力量(kWh)当たりのコストを、一定の計算式に基づき試算(設備利用率・稼働年数を設定し、建設から廃止に至るライフサイクル全体を評価するモデルプラント方式)したもの。太陽光・風力の大量導入により、その出力変動を補う火力・揚水式水力発電のバックアップ調整、地域間連系線の増強、大型蓄電池導入などに伴い追加費用「統合コスト」が高まることを考慮すべきとした上で、原子力は11円台後半以上、石炭火力は13円台後半~22円台前半、LNG火力は10円台後半~14円台前半、石油火力は24円台後半~27円台後半、陸上風力は9円台後半~17円台前半、太陽光は8円台後半~14円台前半などと算出。原子力については設備利用率70%、稼働年数40年で試算しているが、分科会委員の豊田正和氏(日本エネルギー経済研究所顧問)は、稼働率の向上でさらにコストが下がる可能性に言及し、脱炭素電源の中では最も安価な部類に入ることを指摘。実際、司法判断による運転差し止め期間を除けば、再稼働プラント(9基)の平均設備利用率は概ね世界水準に匹敵する80.4%となっている。また、イノベーション推進を主張する隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)は、再生可能エネルギーの急拡大に関し、「開発を急ぐあまり山林のCO2吸収価値を損ねることがあってはならない」と警鐘を鳴らした上で、火力の脱炭素化に向けた水素・アンモニア混焼や、海外におけるCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)適地確保など、政策支援を通じ「目に見える成果」が現れることを切望。原子力については、「自前のエネルギーで供給の安定とコスト削減を図ることが不可欠」との日本の立ち位置から、再稼働の着実な推進とともに新型炉・小型炉の開発・導入を政策に盛り込むよう求めた。エネルギー基本計画見直しの議論も大詰めとなってきたが、資源エネルギー庁は、他の小委員会も含めたこれまでの議論を整理し、2030年の再生可能エネルギー導入量について、現行のエネルギーミックス水準の1.2~1.3倍に相当する3,120億kWhとの見通しを示した。これは日本で原子力発電が最盛期だった頃(1996~2002、2005~06年度)の年間発電量にほぼ匹敵する。
14 Jul 2021
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東京電力福島第一原子力発電所2号機における燃料デブリ取り出しの試験的取り出し装置(ロボットアーム)が7月12日、英国より神戸市内に到着した。福島第一廃炉の中長期ロードマップでは、燃料デブリ取り出しの先陣として、同2号機での2021年内の試験的取り出し開始を目標としており、国際廃炉研究開発機構(IRID)と英国VNS社がロボットアームの開発を行っていたが、新型コロナウイルスのまん延状況や技術者の入国制限などに伴い、日本への輸送時期を精査し一部の性能確認試験が英国内での実施となった。2号機燃料デブリ取り出しのイメージ(エンクロージャ:アームを内蔵する箱、東京電力発表資料より引用)ロボットアームは英国で予定された作業を終了し、今後、日本国内で性能試験、モックアップ試験、訓練が行われる。これと並行し福島第一2号機では2021年後半よりX-6ペネ(格納容器貫通孔)のハッチ解放・堆積物除去、ロボットアーム設置が進められ、2022年後半にも内部調査・試験的取り出し作業に入る計画だ。英国で開発されたロボットアーム(東京電力発表資料より引用)英国企業との協力により開発されたロボットアームは、伸ばしてもたわまない高強度のステンレス鋼製で、長さ約22m、重さ約4.6トン、耐放射線性約1メガグレイ。先端に取り付ける燃料デブリ回収装置先端部(金ブラシ型、真空容器型)で原子炉格納容器内の粉状の燃料デブリ(1g程度)を取り出す。2号機の燃料デブリ取り出しに向けては、2018、19年に釣りざお型調査装置による原子炉格納容器内部調査が行われており、小石状の堆積物が動かせることを確認している。
13 Jul 2021
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原子力学会会長に就任した山口氏日本原子力学会の新会長(第43代)に東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏がこのほど就任。7月9日に記者会見を行った。〈原子力学会発表資料は こちら〉山口氏はまず、「『2050年カーボンニュートラル』社会という極めてチャレンジングな目標が掲げられ、その実現のためには原子力の技術・学術が大変重要な役割を担うものと確信している」と強調する一方、「原子力を取り巻く環境は難しい状況にある」と述べ、その一因として、原子力技術の価値と現状を伝えるべき学会のこれまでの活動が不十分だったことを認識。今後、学会として、原子力のエネルギー利用だけでなく、多様な分野での放射線利用を可能とする技術の有用性を伝えるとともに、福島第一原子力発電所事故がもたらした深刻な事態、経験、教訓をしっかりと心に刻み、今後の原子力分野の活動に反映していかねばならないとした。3月に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのを機に原子力学会では、若手リーダーによる「原子力の未来像を考える」テーマを盛り込んだシンポジウムや事故調査に係る提言のフォローアップなどを実施。これらを通じて整理された課題を踏まえ、山口氏は学会の今期重点事項として、(1)専門知を社会に伝えていく交流の場を持つ、(2)会員数の減少傾向に歯止めをかけ活動を活性化させる、(3)コロナと共生する新しい時代の学会活動を工夫する――をあげた。新型コロナがまん延したこの1年を振り返り、「困難な環境の中でどのように学会活動を行うか模索し続けた」とする山口氏は、今後の対話活動のあり方について問われたのに対し、「高校生・大学生、マスコミ他、学会に入っていない人でも原子力に強い関心を持っている人がたくさんいる」と強調。その上で、現在まだ具体案の段階にはないが、オンラインを通じ専門家以外の人たちも含め意見交換を行う場を立ち上げる考えを示した。山口氏は、現在総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会および原子力小委員会の委員として、エネルギー政策に係る議論に参画中。同氏は、文部科学省の原子力人材育成に関する作業部会主査などを歴任したほか、日本原子力文化財団の一般向け解説・資料集「原子力総合パンフレット」の監修にも当たっており、原子力教育の分野で広く活動している。
12 Jul 2021
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日本原子力学会は7月7日、2021年度から施行されている新学習指導要領(2017年告示)に基づく中学校教科書のエネルギー・環境・原子力・放射線教育関連の記述について行った調査報告書を発表。同学会の教育委員会による継続的取組で、これまでも改正学習指導要領施行の機に小中高校の教科書を調査し、エネルギー・環境・原子力・放射線教育の充実化に向け、本文、コラム、図表に対するコメント・修文案を示してきたが、今回、理科、社会、保健体育、技術・家庭の計13社・35点の中学校教科書を対象に実施した。報告書では、全般として、「出版社独自の工夫が凝らされ優れた教科書となっている」と評価する一方、最新のデータ・図表の使用と本文との整合性に気配りした編集、原子力・放射線に関する用語の正しい使用を求め、発展的学習に関しては、生徒自らの多角的な意見を引き出す工夫が欲しいなどと要望。その上で、教科書の記述・編集に関し、(1)福島第一原子力発電所事故、(2)わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況、(3)放射線および放射線利用、(4)放射性廃棄物、(5)地球環境問題、(6)原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充――の6項目の観点から提言を示した。福島第一原子力発電所事故に関連した事項に関しては、理科2年と技術・家庭を除くほぼすべての教科書で取り上げられていた。概ね正確・公平な記述となっていたが、「福島原発」、「福島の原子力発電所」、「福島県の原子力発電所」などの表記は、「県全体が被害を受けたような風評被害・差別につながる恐れがある」として、「東京電力福島第一原子力発電所」や「福島第一原子力発電所」とするよう要望。新学習指導要領では、前回の改正(2008年告示)に引き続き理科第1分野(物質とエネルギー)で放射線を取り扱うこととされたが、今回調査した理科の教科書では、対象5社のすべてに放射線・放射性物質の基礎事項、関係する単位、低線量被ばくを含む健康影響などに関する記述があった。放射線に関する記述の充実化に関しては、「限られた紙面の中で幅広く基礎的な事項が取り上げられている」と評価。特に、大日本図書と教育出版が発行した中学3年の教科書中、「原子を野球場とすると、原子核はごま粒(米粒)ほどの大きさである」との記述については、ミクロレベルの物理現象の理解を助けるものとして推奨している。放射性廃棄物に関連する記述は、一部の教科書に留まっているほか、使用済燃料について、「核のゴミ」といった放射性廃棄物そのものと誤解されるような表現があった。高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けて、北海道の寿都町・神恵内村で昨秋文献調査が始まったところだが、「将来に向けたこの課題の解決を図ることの重要性」から極力取り上げるとともに、エネルギー確保や環境保全に係る課題を学ぶ上で、より正確な記述となるよう表現を見直すことを要望。福島第一原子力発電所事故以降の世界の原子力を巡る動きに関しては、一部の社会の教科書にみられた「ドイツやオーストリア、イタリア、ベルギー、スイスでは、国内すべての原発が廃止されることになった」との記述について、元々原子力発電を行っていないオーストリア(建設されたが運転せず閉鎖)、事故前に原子力発電の廃止を決定したイタリア(1990年閉鎖)が含まれていることから、「世界が脱原子力発電に向かっているかのような表現は適切ではない」と指摘した。さらに、学習方法に関し、「考えるべき視点は様々で、一教科の学びで完結することはなく、教科横断の学びが必要」と強調。エネルギー問題に係る教科書の記述で、「タンカー満載の原油でもわずか半日で消費してしまう」、「原油の中東依存度は約9割」、「再生可能エネルギーはまだまだ主力の電源にはなり得ていない」を例示し、これらを互いに関連付けて考えさせる、ディベートなどの学習方法を活用できるような編集を要望している。
09 Jul 2021
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日本原子力研究開発機構の敦賀総合研究開発センターは、廃炉作業に必要なレーザー応用技術や将来の高速炉のための研究開発、産学官連携の取組について紹介する報告会のオンデマンド配信を7月7日より開始した。21日までインターネット上で視聴できる。〈報告会視聴は こちら〉同機構の「ふげん」、「もんじゅ」を始め、福井県内には、廃止措置が進められている原子力プラントが複数存在し、その保守・補修を支えてきた地元企業には多くの経験・ノウハウが蓄積されている。原子力機構では、廃止措置ビジネスの確立と関連企業群の育成を図るべく、文部科学省の事業の一環として「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」(スマデコ)を2018年より運用開始。スマデコには、複合現実感(MR)システムや実環境を模擬するモックアップを備えた廃炉技術に関する試験・訓練フィールド、企業交流スペースなどが整備されており、先般IAEAが実施した廃止措置分野の国際レビューでも高く評価されている。「ふげん」の原子炉水中遠隔解体のイメージ(原子力機構ホームページより引用)今回の報告会では、スマデコでの研究事例として、若狭湾エネルギー研究センター主幹技師の前田敏男氏が「ふげん」廃炉に関わる「水中レーザー切断と気中粉じん移行動向の調査」について発表。新型転換炉原型炉としてMOX燃料利用の実績を積んだ「ふげん」は、2033年度までの工程で廃止措置が進められており、2022年度からは「原子炉本体解体撤去」の段階に入る計画だ。原子炉本体の解体は、汚染拡大防止や被ばく低減の観点から、原子炉本体の上部に解体用プールを設置し水中で遠隔操作により行う。前田氏が発表を行ったレーザー切断工法については、今後の軽水炉の廃止措置にも適用できるよう、気中・水中切断技術の確立に向け技術開発が継続されている。約25年間の運転により放射化した「ふげん」原子炉の構造材解体に際し、同氏は「レーザー切断時には放射性の粉じんなどの粒子性物質が発生することから、事前にそれらの挙動データを取得することが重要」と、今回実施した調査研究の意義を強調。遠隔水中ロボット(マニピュレータ)を常設した高さ約10.5mの円筒型プール(試験水槽)で、「ふげん」の構造材を模した試験体を用いて水中レーザー切断に係るデータを取得・解析した結果、レーザー照射ヘッドの小型・軽量化や、切断方向を変えることで切断幅が直進し半減するなど、切断時の安定性向上が図られたとしている。この他、高速炉の関連では、冷却材に用いられるナトリウムの応用に関し、福岡大学理学部教授の武末尚久氏が、力学的振動を電気に変換するクリーンエネルギー「振動発電」の低コスト化につながる「ナトリウム含有ペロブスカイト型圧電セラミックス」の研究について発表。また、シマノ社長の嶋野寛之氏は、狭あいな廃炉現場での放射線マップデータ収集に資する放射線観測用ロボットの開発成果を紹介。凹凸面上での安定した移動力に着目し、自在に歩行できる「多脚ロボット」(クモ型)を試作した同氏は、「くぐり抜け」、「またぎ抜け」、「昇降移動」や、転倒からの復帰といった様々な姿勢・モーションの試行を披露した。
08 Jul 2021
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石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)はこのほど、ウズベキスタンにおけるウラン鉱床発見に関し、同機構の資源探査部関係者(3名)が資源地質学会の2020年技術賞を受賞したと発表。6月30日に開催された同学会の年会で表彰されたもの。〈JOGMEC発表資料は こちら〉原子力発電の燃料となるウランも、石油、石炭、LNGなどと同様に多くを海外からの輸入に依存しており、日本では長期にわたりウランを安定して確保できるよう、供給国の多様化を図るとともに、それぞれの供給国と長期契約を結んでいる。ウズベキスタンは世界第11位のウラン資源国で、JOGMECは2015年に同国と資源分野の技術協力や共同調査に関する合意文書を締結した。今回の技術賞受賞は、そのうちのウラン鉱床の共同探査・開発に関する協力覚書に基づき行われたナボイ州の有望鉱区「メシェティンスカヤ地域」(2,057平方km)共同調査プロジェクトにおいて、長期の現場派遣を通じ探査プログラム策定や地質解析に主体的に関与し新規鉱床の発見と資源量の拡大に貢献したことが評価されたもの。JOGMECは2016年からボーリング調査を開始し、ウラン資源量2,000トンを超える砂岩型ウラン鉱床(4億年~数千万年前に堆積した河川成の砂岩層とれき岩層中に産する鉱床、比較的低コストでの生産が可能)を発見した。資源地質学会では、「ウズベキスタンが外国企業の探査活動参入を許可して以降、初めて砂岩型ウラン鉱床を発見した事例であり、日本・ウズベキスタンの関係深化にも貢献した」としている。ウズベキスタンで会談に臨む甘利経産相(2007年、資源エネルギー庁ホームページより引用)ウズベキスタンとのウラン開発に係る原子力協力については、「原子力立国計画」策定(2006年、資源エネルギー庁)の頃、世界的なウラン獲得競争激化を見据えた資源戦略上の中央アジアの重要性から、2007年に甘利経済産業相(当時)率いる企業トップら100名以上同行の海外ミッションが編成され、カザフスタンとともに二国間協力の強化が合意。これを受け、ウズベキスタンでは、JOGMECの他、三井物産や双日が黒色頁岩型ウラン鉱床(硯の材料にも使われる薄層が積み重なった黒色の泥岩中に堆積する低品位の鉱床、ウランが低価格の時代には開発対象ではなかった)の開発に乗り出した経緯がある。
06 Jul 2021
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京都大学環境安全保健機構放射性同位元素総合センター助教の角山雄一氏がこのほど、小中学生を対象にオンラインで講義を行った。同氏は、放射線が種類によって透過力が異なることを攻撃カード(透過)と防御カード(遮蔽)の対戦を通じて学ばせるゲーム「ラドラボ」(タンサン(株) 2015年発売)の監修に当たるなど、放射線知識の普及・啓発に努めている。今回のオンライン講義は、「実践的な学び」を掲げ市民講座・ワークショップなどを開催するナレッジキャピタル(株)(大阪)のシリーズ講座「SpringX 超学校」の一つで、科学技術振興機構のジュニアドクター育成事業「めばえ適塾」とも連携。「放射線って? 基礎知識から先端研究事例まで」と題し、6月19、26日の2回にわたる連続構成で、近畿圏を中心とする小学3年生から中学3年生までの生徒たちが参加した。霧箱製作の模様角山氏は、クイズを交えながら、20世紀初頭のレントゲン博士によるX線の発見に始まり、放射線の種類と性質、食品中の放射性物質、宇宙放射線、原爆の惨禍など、基礎知識を説明。放射線測定器の操作、霧箱実験も披露した。霧箱実験では、金属缶、スポンジ、ろ紙、食品用ラップ、消毒用アルコール、ドライアイスなど、家庭で用意できる材料を用いて器具の組立から着手し、放射線が飛ぶ様子を見せ、生徒たちに「失敗しながら学んで欲しい」と、自身でも工夫し製作・実験してもらうことを期待。同氏は一人で研究室を駆け回り汗をかきながら実演し、オンラインではあったが臨場感あふれる内容だった。この他、角山氏は、がん治療、美術品鑑定、タイヤゴムなどの材料加工の他、密入国者や爆発物の検知にも用いられる放射線の多方面にわたる応用例を原理から紹介。宇宙開発分野での利用に関し、同氏は、生徒たちの親の世代が幼少の頃、地球を飛び立った宇宙探査機「ボイジャー」搭載の原子力電池が太陽系を離れた現在も機能し40年以上データが送られ続けていることを感慨深く語った。
02 Jul 2021
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は6月30日、「2050年カーボンニュートラル」実現のためのエネルギー・電源構成に関し、6つの研究機関・関連団体よりヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉同分科会では、2050年の発電電力量で、再生可能エネルギーを約5~6割、原子力と化石燃料+CCUS(CO2回収・有効利用・貯蔵)を合わせて約3~4割、水素・アンモニアを約1割とする「参考値」を示した上で、複数のシナリオ分析を行うこととしており、前回5月13日の会合で地球環境産業技術研究機構より分析結果について説明を受けている。今回会合の冒頭、梶山弘志経済産業相は、「2050年に向けては技術の進展や社会情勢の変化といった様々な不確実性が存在する」と、複数のシナリオを想定し課題や制約を明らかしていく必要性を強調。パリ協定に基づく国際約束とともに、11月のCOP26を控え気候変動対策推進に向けた国際的気運の高まりにも言及し、「『2050年カーボンニュートラル』と安価なエネルギー供給の両立を踏まえて議論を深めてもらいたい」と述べた。「デロイト トーマツ コンサルティング」社によるコスト評価、再エネ大量導入ケースで限界費用が11円から52円までの上昇もあり得ると試算(同社発表資料より引用)ヒアリングで、「デロイト トーマツ コンサルティング」社は、IEAで開発された長期エネルギー分析プログラム「TIMES」によるシナリオ分析を紹介。カーボンニュートラル社会実現に向けて、再生可能エネルギー・原子力・火力を活用しコストを最小化する「コスト最小化ケース」と、再生可能エネルギーを95%導入し既存電源(原子力・火力)を代替する「再エネ大量導入ケース」のシミュレーション結果について説明した。それによると、発電限界費用(さらに1kWh発電するための費用、エネルギーミックスの経済合理性を評価する一つの指標となる)は、最大で現状より、「コスト最小化ケース」で約2倍に、「再エネ大量導入ケース」で約5倍へと上昇する可能性が示され、「エネルギーシステム全体が柔軟性を持たないことが電力価格に影響を与える」などと指摘。また、日本エネルギー経済研究所は、費用を最小化するエネルギー・技術の導入量推計モデル「IEEJ-NE_JAPAN」による分析結果を披露。太陽光・風力の導入に係るコスト評価の不確実性や森林環境への影響などをあげ、原子力発電の新設がカーボンニュートラル達成に貢献しうることを示唆したのに対し、委員の隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)も、「原子力利用が制約されれば東京都区部面積の12倍に及ぶ太陽光パネルと膨大な容量の蓄電池設備が必要」とするIEAビロル事務局長の言葉を引用し、再生可能エネルギーへの過度な期待を危惧した。この他、国立環境研究所、自然エネルギー財団、地球環境戦略研究機関、電力中央研究所がシナリオ分析結果について説明。各団体同士でも議論が交わされ、コスト評価手法の見直し、メディアの果たす役割なども指摘された。「100%自然エネルギーのエネルギーシステム」の構築を掲げシナリオ設定を行った団体もあったが、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は、今回のヒアリングについて、「コスト最小化と再エネ導入最大化の観点からの評価だった」と振り返った上で、将来の不確かさを考慮しバランスのとれた政策が策定されるよう、「エネルギーの選択に伴うリスクのコントロール、レジリエンス維持の視点からの評価も必要」などと指摘した。
01 Jul 2021
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