キーワード:福島
-
学術会議シンポ 福島第一の安全確保も取り上げる
「安全工学シンポジウム2024」が6月26~28日、日本学術会議講堂(東京・港区)で開催された。同シンポは学術会議主催のもと、毎年、「国民安全の日」(7月1日)の実施時期に合わせ、多分野の学協会が共催し行われているもの。今回は、能登半島地震にも鑑み、大地震への備えや災害避難に係るセッションが多く設定されるとともに、AI導入や労働環境に対する関心の高まりなど、昨今の社会変化から、会期中を通じ、ソフト技術の信頼性や「安全とリスク」の考え方も広く議論された。27日には、「福島第一原子力発電所の安全確保」と題するパネルディスカッションが行われ、山本章夫氏(名古屋大学教授大学院工学研究科教授、進行役)、阿部守康氏(東京電力福島第一廃炉推進カンパニーバイスプレジデント)、岩永宏平氏(原子力規制庁東京電力福島第一原子力発電所事故対策室長)、高田孝氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、斉藤拓巳氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、更田豊志氏(元原子力規制委員会委員長)らが登壇した。現在、福島第一原子力発電所は、事故炉としての特性から原子炉等規制法上、「特定原子力施設」と位置付けられ、運転中の原子力発電所とは異なる規制対応がなされている。両者を比較したリスクの違いについて、事業者の立場から、阿部氏が整理。運転中の発電所については「運転に伴うリスク。つまり、運転しなければリスクはない」、その一方で、福島第一原子力発電所については「既に存在するリスク」と大別。設計で対処されていない様々なリスク、公衆・作業員へのリスクなど、「錯綜したリスク状況」にあるとした上で、長期にわたる廃炉作業に向け「このような状況をどのようにマネジメントしていくか」と、問題意識を示した。これに関し、原子力規制委員会は「中長期リスクの低減目標マップ」を策定し、随時、東京電力と意見を交わしているが、岩永氏は、将来的に燃料デブリを取り出し、発生する廃棄物を安定的に管理することなどを見据え、「技術的に経験のない領域において、求められる規制活動はどうあるべきか」と、課題を提起。さらに、「現在の技術水準で達成できるリスク低減の姿は、いかなるものか」と述べ、技術的課題と安全規制の適切なあり方については、模索中であることを示唆した。アカデミアの立場から、高田氏は、福島第一原子力発電所のリスク源の特徴として、「運転中の原子力発電所に比べ、安定な状態でエネルギー源も小さい」とした上で、「大規模な事故が発生しても、放射性物質の放出量はかなり少ない」、その一方で、「小規模な事故でも微量の放射性物質の放出があり得る」と説明。低頻度事象には緩和策、高頻度事象には防止策を、それぞれ充実させ、両側面について、「バランスを踏まえ、着実にリスクを減らす取組が重要」などと指摘した。また、斉藤氏は、廃棄物管理について発言。発生、前処理、保管、処分といった一般的な流れをあらためて整理した上で、福島第一原子力発電所由来の廃棄物の特徴として、多様な素性、発生量・時期が不透明、放射性核種の総量は限定的なことなどをあげた。原子力損害賠償・廃炉等支援機構の技術委員を務める更田氏は、使用済み燃料の取り出しや、燃料デブリ取り出しに関する課題・技術戦略の動向について説明。リスク管理に関しては、サイト周辺への影響は殆ど考えられず、むしろ現場に携わる作業員の安全管理を問題視した。また、燃料デブリなどの廃棄物処分に関し「地層処分しかないのでは」との見通しも述べた。
- 02 Jul 2024
- NEWS
-
筑波大 森林生態系によるセシウムの自浄作用効果を解明
筑波大学の研究グループは6月21日、2011年から13年間にわたり福島県内で実施した森林モニタリング調査により、「土壌中の放射性セシウムが下方移行する」という自然のプロセスが、根による放射性セシウム吸収量や空間線量率を低下させる、いわば除染効果を持つことを明らかにしたと発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉同学放射線・アイソトープ地球システム研究センターの高橋純子助教らによるもので、これまでも同センターでは、恩田裕一教授が中心となり、浪江町・川内村での観測を通じ、降雨と空間線量率の変動を推定するモデルを開発するなど、原子力災害被災地の森林環境回復に資する研究成果をあげている。今回の研究では、川俣町のスギ林において、落葉落枝層、土壌層、木が養分を吸収する直径0.5mm以下の根(細根)、それぞれについてセシウム137の動態を調査。その結果、セシウム137の深度分布を経年でみると、存在量は、落葉落枝層では発災直後の2011年に最大だったのが2020年までにほぼゼロになった。表層から2cmまでの土壌層では2017年以降、急増し2020年頃にピークとなったのに対し、細根では2017年頃をピークに減少に転じていた。こうした土壌層と細根との間にみられたセシウム137の経年分布のズレに関し、「わずか数cmであっても土壌中でセシウム137の下方移行が進むことで、樹木によるセシウム137吸収が減少する効果がある」と分析。実際、細根では、表層から2cmまでの最も根が密集する深度で、2020年頃に著しくセシウム137の低下がみられており、「森林生態系の自浄作用効果を解明した」と結論付けている。今回の研究で、調査対象となった川俣町の山木屋地区は、2017年3月に避難指示が解除されているが、「事故以降、これまで森林管理が行われていない」と、被災地における林業再開の停滞を懸念。調査は、「スクレーパープレート」と呼ばれる土壌採取用具を用いて、土壌を5mm間隔で採取し、ふるい分けを行うという緻密な方法で2011年7月より実施されてきた。下方移行による除染効果が検証されたが、植林地が管理放棄され、下流域にセシウム137を流出させる土砂浸食といった長期的観点からのリスクも指摘。今後は、間伐によるセシウム137の下方移行の促進効果も検証し、新たな森林除染方策の提案を目指すとしている。
- 24 Jun 2024
- NEWS
-
再エネという文化遺産
南相馬から浪江・富岡にかけて車を運転していると、日当たりのよい開けた土地に太陽光パネルがびっしりと並ぶ風景をよく見かけます。先日はその太陽光パネルのお隣に、巨大な船のような物体が横たわっているのを見て驚きました。後で聞いたところによると、こちらは新しく作られる風力発電のブレード部分とのことです。浜通りの再生可能エネルギー事業の活発さを実感する光景でした。再エネ先進国、福島福島第一原子力発電所事故の後、福島県内で再生可能エネルギー関連の研究や事業が次々と立ち上がっています。2017年に打ち立てられた「福島新エネ社会構想」では、県内エネルギーの100%を再生可能エネルギーから生み出すという目標が掲げられているからです。実は5年前にこの構想が立てられた当初、私は内心で「べつに真面目に成果を目指す必要はないな」という不謹慎なことを考えていました。当時被災の爪痕が色濃く残る浜通りで、たとえ不成功に終わっても、「仕方ないじゃないか」と開き直ればよい。それだけの被害をこの土地は受けた、と感じていたからです。そんな私のようなよそ者の無責任な感想とは裏腹に、2022年度の時点で県内の再生可能エネルギー導入実績は県内エネルギー需要全体の52.1%、県内の電力消費量でみると96.2%相当まで伸びています((福島県企画調整部エネルギー課「令和4(2022)年度 福島県内における再生可能エネルギー導入実績」))。求められた成果を真面目に達成しようとする福島県の土地柄が良く現れているな、と思います。しかしその成果は、本当に福島県が目指したいゴールなのでしょうか。浜通りが脱したかったもの「自分の親は、原発のお蔭で学校に通うことができた。もちろん事故は憎いけど、それほど簡単に割り切れる気持ちではないよ」2011年の事故のすぐ後に、地元の医師から伺ったお話です。様々な批判はあるものの、震災前の原子力発電所が、地元での雇用を含めた経済の循環を生んでいたことは否定できません。多かれ少なかれその経済循環の恩恵を受けた方々にとって、先の事故に対し、時に自責の念に駆られる人さえいらしたようです。「二度と国や政策には振り回されたくない」そのような声を、震災以降しばしば耳にしてきました。当時人々が脱したかったものは、原子力というエネルギーそのものだけでなく、知らぬ間に振り回されていた自分たちでもあったのではないでしょうか。再エネの「軽さ」このような視点から見ると、今の福島と再生可能エネルギーとの距離感はどうなのでしょうか。再生可能エネルギーは「輸入したパネルやバイオマスで電力を作っているだけで、地元の雇用を生まない」という批判もあります。これは、地元の雇用や経済循環に大きく貢献してきた原子力発電所に比べて大きく異なる点でしょう。しかし別の見方をすれば、雇用や関連産業を生みにくい再生可能エネルギーは、また依存も生みにくいということも意味します。もちろん再生可能エネルギーには素人が無責任に評価すべきではない自然破壊や事業継続性の問題等、解決しなくてはいけない課題は多々あるでしょう。しかし付き合い方さえ間違えなければ、福島県の名を売りつつ、かつ過度に依存をしない関係も築き得るのではないか。その為に必要なものは、再生可能エネルギーの持つある種の「軽さ」ではないでしょうか。成果主義と負の遺産これまでの福島県は、「被災地なのだから失敗が許される」という多少の安心感の元に新たな試みが次々と生まれていたように思います。それを甘えと言う人もいるかもしれません。しかし、この「軽さ」がイノベーションや思い切った投資を次々に生んだことも確かでしょう。今、復興という言葉が消えつつある中、この「軽さ」も失われつつあります。当たり前のことではありますが、「夢」と共に打ち上げられた事業が数値による成果を求められるようになってきたからです。もちろん始めたからには成果は必要でしょう。しかし、他人から押し付けられた成果を追及してしまえば、以前は雇用により国に依存していた福島県が、今度は「成果主義」という新たな軛に繋がれてしまうのではないでしょうか。本来福島県の復興も、再生可能エネルギーも、将来へ負の遺産を減らすことこそを悲願に始められたものだと思います。その負の遺産は原子力発電所事故の影響だけではありません。たとえば単純な数値を追い求める成果主義もまた、負の遺産となり得るのではないでしょうか。成果が求められる場面では、事業は「着実に」成果を出すことが得意な保守的な年配の実業家に委ねられがちです。そこには「夢」が生まれる余地がありません。さらに上意下達の「成果」で縛られることにより、原子力発電所設立時の雇用とは違う意味での「政府依存」が高まってしまう可能性もあります。これは本来福島県が、あるいは再生可能エネルギーそのものが目指してきた「夢」とは違うのではないかと思います。福島県民の真面目な努力が、むしろ将来への負の文化遺産を生み出さぬよう、文化としての再生可能エネルギーのありかたもまた、自戒を始めるべき時なのかもしれない。風車と太陽光パネルが日常の風景になりつつある浜通りを車で通るたびに、そう感じます。
- 06 Jun 2024
- COLUMN
-
東京電力 福島第一の全作業点検を開始
東京電力は5月7日、福島第一原子力発電所におけるすべての作業に対し、最近、所内で様々なトラブルが続いていることを受け、「あらためて作業リスクを評価する」ため、作業点検を開始した。4月22日には、2号機燃料取り出し用構台で作業員が負傷(指を骨折)。24日には、コンクリート舗装面の剥がし作業時のケーブル損傷により、所内電源の一部系統が停止したほか、従事していた作業員が負傷(顔・腕に火傷)。これに伴い、ALPS処理水の海洋放出が約6時間半にわたり滞った。〈東京電力発表資料は こちら〉作業点検は、具体的に、最新の現場状況を把握するそれを踏まえ、リスク要因により発生するシナリオを考え、リスクが顕在化した場合も含めて悪影響を抽出する悪影響を防止するための防護措置を検討する工事に係る東京電力ならびにすべての協力企業作業員が、リスク要因を認識し、防護措置を理解し実践する――ことを観点に行う。東京電力の広報担当者は5月7日、本社で記者会見を行い、「作業点検を実施し、問題のないものから着手していく」として、廃炉作業における安全確保徹底の姿勢を強調。現在、実施中の作業でも「安全に作業が実施できるか」、「周辺環境に影響を及ぼすリスクが潜んでいないのか」が確認できるまで作業を進めない方針だ。作業点検の対象は約800件に上る見通しで、5月末を「一つの目標」に実施する。24日に発生したケーブル損傷・作業員負傷は、充電された高圧電路の近くで行う「充電部近接作業」に係るリスク認識に問題があったことから、今後は、事前の現場確認を踏まえ、作業班全員に注意喚起事項の周知徹底を図るなど、対策を講じていく。なお、福島第一原子力発電所では5月7日、2024年度第1回目のALPS処理水の海洋放出が完了した。今回の総放出水量は7,851㎥(トリチウム総量約1.5兆ベクレル)。年度内、計7回の放出で、年間放出水量は約54,600㎥(同約14兆ベクレル)との計画だ。
- 08 May 2024
- NEWS
-
【第57回原産年次大会】福島第一廃炉進捗と復興状況
「第57回原産年次大会」では2日目の4月10日、セッション3(福島セッション)「福島第一廃炉進捗と復興状況」が行われた。同セッションではまず、東京電力福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏が、福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水・処理水対策の現状と課題について講演。2023年8月に開始したALPS処理水の海洋放出については、2023年度内に計4回の実施で、総放出量31,145㎥との実績を述べ、「海水希釈後、海洋放出後のいずれにおいても、トリチウム濃度に異常は出ていない」などと説明。2024年度には、計7回の実施で約54,600㎥を放出する計画だ。1~4号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しについては、残る1、2号機で、それぞれ2027~28年度、2024~26年度の開始が予定されている。そのうち、1号機(新燃料を含み392体の燃料が保管)については、取り出しの準備に向け、原子炉建屋を抱きかかえるように囲む大型カバーの設置が2025年夏頃の完了を目指し進捗している状況。2号機(新燃料を含み615体の燃料が保管)については、汚染拡散の防止、作業時の被ばく低減のため、既存建屋の南側に開口部を設け燃料取扱設備を出し入れする計画で、現在、これに必要なクレーンや走行台車を設置する構台・前室の建設が進められているところだ。また、小野氏は、安全な使用済燃料の乾式保管方式として、海外で実績のあるコンクリートキャスクの適用性を検討していることを紹介した。燃料デブリの取り出しに向けては、調査の最も進んでいる2号機から「ごく少量の取り出しから試験的に」着手する予定だが、これに用いるロボットアームは現在、モックアップ試験・訓練中で「現場への適用にはもう少し調整に時間がかかる」ことから、2019年度の調査でも実績のあるテレスコ式装置(望遠鏡の筒が伸縮するイメージ)を補完的に用い、「遅くとも2024年10月には開始したい」と説明。また、1号機では、2024年2月下旬より原子炉格納容器内の燃料デブリの状態を確認するため、小型ドローン(計4機)および無線を中継するヘビ型ロボットを用いたペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)内の調査を実施しており、小野氏は最近取得した映像を披露。今後の取り出し規模の拡大に向けては、3月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の技術委員会が示した提言「気中工法(燃料デブリが気中に露出、もしくは低水位で浸漬した状態で取り出す)に軸足を置きつつ、充填固化工法(充填材で燃料デブリを安定化させ線量を低減し、掘削により取り出す)を組み合わせる」を踏まえ、「今後、1~2年かけて、実際に現場に適用するための設計を検討していく」と述べた。「復興と廃炉の両立」を目指し、小野氏は、廃炉事業への地元企業による参入促進に向けたマッチングの取組を紹介。2024年1月までに、その成約件数は約1,000件にのぼったという。さらに、被災地域の復興の動きを、地元祭礼の復活などから振り返り、「少しずつ人々が戻り、賑わいを見せている。今後も住民の方々が安心してふるさとに帰還してもらえるよう、引き続き安全第一で廃炉を進めていく」と強調した。講演に続いて、パネルディスカッションでは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授の開沼博氏がモデレーターを務め、パネリストとして、それぞれの立場から福島の復興に取り組む一般社団法人HAMADOORI13代表理事の吉田学氏、株式会社haccoba代表取締役の佐藤太亮氏、浅野撚糸株式会社代表取締役社長の浅野雅己氏が登壇。いわき市出身で福島復興に関し多くの著書を有する開沼氏は、2015年開催の「第48回原産年次大会」で、福島セッション「ふくしまの未来予想図」のモデレーターを務めたことがあるが、今回の登壇に際し、ALPS処理水の海洋放出開始、双葉町における避難指示の一部解除など、近年を振り返り、「毎年、新しい動きがあるが、まだ解決せねばならない細かな課題が山積している」と、議論に先鞭をつけた。大熊町出身で東日本大震災発生時、建築士として福島第一原子力発電所構内で作業に従事していたという吉田氏は、原子力災害発生後、被災地家屋の調査に尽力。その中で、双葉郡の人口急減を憂慮し、2021年に浜通りの若者による起業を支援する「HAMADOORIフェニックスプロジェクト」を立ち上げた。実際、双葉郡8町村の人口は、2011年の約75,500人から2024年には約17,900人にまで減少しているという。同プロジェクトでは現在18社が採択されており、同氏は、地元食材を利用した古民家カフェ(川内村)、地元の伝統行事「相馬野馬追」に因んだ乗馬ジム展開構想(南相馬市)、震災前には特産品であったキウイの再創出事業(大熊町)などを紹介した。続いて、同プロジェクトに参画している佐藤氏が登壇。同氏は、埼玉県出身だが、誕生日が震災発生日の「3月11日」という因縁から一念発起し、新潟県で酒造りの修業を積んだ後、浪江町・南相馬市で酒蔵「haccoba -Craft Sake Brewery-」を始めた。どぶろくの文化に立ち返り「自由な酒作り“クラフトサケ”」とともに、「若者も集う新しいコミュニティ作り」を標榜。最近はJR常磐線・小高駅を利用した観光にも供する醸造所を開設しており、今後はベルギーでの酒蔵作りも目指しているとした。繊維業の浅野撚糸は、岐阜県に拠点を置いているが、浅野氏は、外国製品の台頭などによる厳しい下請け経営環境からの脱却、国産繊維の復権を目指し、経済産業省からの打診を受けて、2023年に新工場「SUPER ZERO」を双葉町に開設。同社は福島・東北の復興に貢献すべく、昨秋、紳士服のコナカによるプロジェクトともタイアップし「福島復興国産Tシャツ」を製造・販売した。2024年には若手新入社員を迎え入れたほか、最近では、学生も見学に訪れているという。ディスカッションの中で、若者との議論にも積極的な開沼氏は、地元に娯楽が少ないことなど、将来的に人が地方に定着していく上での課題を指摘。これに対し、浅野氏は、最近の外国人記者による取材対応経験に触れ、「社員の生活に責任が取れるのか」といった厳しい質問を受けたとする一方、若手社員らに対するインタビューを通じ「記者たちは納得した様子だった」ことを述べ、「世界はまだ『福島という響き』に誤解を持っている」として、「福島を見てもらう、来てもらう」必要性を強調した。
- 12 Apr 2024
- NEWS
-
福島の山菜は本当に危ないのか? 基準値の意味を正しく伝えたい
二〇二四年三月二十五日 福島県内で採れる山菜を食べたら、本当に危ないのだろうか。毎日新聞が三月十二日付け朝刊で「『山菜の女王』復活へ試行錯誤 福島・飯舘村セシウム減らせ」と題した記事を載せた。基準値の意味を正確に伝えていないため、あたかも山菜を食べたら健康に影響があるかのような印象を与える、ミスリーディングな内容だ。では、記事のどこがおかしいのだろうか。コシアブラは依然として一〇八五ベクレル 記事を見てまず引っかかったのは、小見出しの「依然基準値の10倍」(写真1)だった。記事の骨子はこうだ。飯舘村が測定した山菜(ワラビ、ウド、フキなど)の放射性セシウムの濃度(二〇一四年~二〇二三年分)は二〇一一年の原発事故から低下しつつあるが、コシアブラだけは二〇二三年になっても、一キログラムあたり一〇八五ベクレル(二〇一四年は同二〇五五八ベクレル)を示し、基準値の十倍に上った。写真1 その理由は、森林の大部分が除染されていないため、多年生植物のコシアブラはセシウムの多い地表から十数センチのところに根をはり、しかもセシウムは根などに蓄積して植物体を循環するため、シーズンをまたいでも減りにくいのだという。そこで記事は「基準値を下回るにはさらに10年以上かかるだろう」という地元住民の言葉を載せた。 さらに、「山菜を塩水でゆでたあと、一時間、水に浸すとセシウムの量は調理前の三五~四五%程度に低減する」という方法を紹介している。 ちなみに、ベクレルは放射性物質が放射線を出す強さを表す単位で、一ベクレルは一秒間に一つの原子核が崩壊することを表す。セシウムの基準値は各国で異なる 放射性セシウムの現状を伝える記事自体に誤った記載があるわけではない。ただ全体を読んでいて誤解を与えかねないと感じたのは、一〇〇ベクレルという基準値にこだわるあまり、一〇〇ベクレルを超えた山菜を食べると健康に影響するかのような印象を与える点だ。 知っておきたいのは、基準値は健康影響をはかる指標値ではないということだ。そのことは各国の放射性セシウムの基準値を見ればすぐに分かる。図表1を見てほしい。日本の一般食品の基準値が一キログラムあたり一〇〇ベクレルなのに対し、EU(欧州連合)は一二五〇ベクレル、米国は一二〇〇ベクレル、コーデックス委員会(世界食糧機関と世界保健機関によって設置された国際的な政府間機関・百八十八か国加盟)は一〇〇〇ベクレルだ。 なんと欧米諸国の基準値は日本よりも十倍も緩い。記事は「コシアブラの一〇八五ベクレルは基準値の10倍」と書いたが、このコシアブラは欧米諸国では堂々と流通できる。確かに日本では一〇〇ベクレルを超えると出荷制限(販売禁止)がかかるが、欧米では基準値以下なのでそのまま流通するのだ。ということは、仮に欧米人が一〇八五ベクレルの山菜を食べても、健康に影響することはないことを意味する。 いうまでもなく、基準値の緩い(数値が高い)欧米の人たちがセシウムの影響を受けにくい体質をもっているわけではない。毒性は食べる「量」いかんで決まる もうひとつ押さえておきたいのは、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルという意味だ。これは一キログラムあたりの数値なので、一キログラムあたり一〇八五ベクレルのコシアブラの場合、十グラムしか食べなければ、体内に摂取されるセシウムはその百分の一の約10ベクレルで済む。逆に基準値以下のコシアブラでも、2~3キログラムも食べれば、体内摂取量は100ベクレルを超えてしまう。 この例でわかるように、基準値以下の食品でも大量に食べれば、基準値を超える。食べた人に健康影響が生じるかどうかは、食べる「量」によって左右され、基準値を超えたかどうかではない。つまり、一〇〇ベクレルという数値は、健康に影響するかどうかの指標ではなく、生産者に対して「出荷の際に気をつけてもらうためのシグナル」なのである。年間一ミリシーベルト以下が上限 では、健康影響をはかる指標値は何か。図表1の二段目にある「追加線量の上限設定値」の年間一ミリシーベルト(シーベルトは放射線が人体に及ぼす影響を表す単位)である。もちろん一ミリシーベルトを超える放射線を浴びたからといって健康影響が生じるわけではない(低線量による影響はいまも科学的な議論が続く)が、放射線の影響を管理する数値としては、年間一ミリシーベルトが世界的な標準管理値となっている(ただし米国は年間五ミリシーベルト)。 ここで強調したいのは、セシウムの基準値は各国の事情によって異なるが、健康影響の指標はほぼ同じという点である。欧米人も日本人も同じ人間なので、健康影響を測る数値が大きく異なるはずはない。一〇〇〇ベクレルの山菜を食べても影響はない では、仮に一キログラムあたり一〇〇ベクレルのセシウム(半減期が約三十年のセシウム137と仮定)が検出された山菜を一キログラム食べた場合、人体への影響(内部被ばく)はどれくらいになるだろうか。計算すると〇・〇〇一三ミリシーベルトである。一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム食べた場合は、十倍の〇・〇一三ミリシーベルトとなる。仮に一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム(そもそも一キロも食べる人はいないだろうが)食べても、一ミリシーベルトをはるかに下回り、健康への影響はないことが分かる。 EUの基準値が一二五〇ベクレルでも、西欧人の健康を守ることができるのはこれで分かるだろう。そもそも私たち日本人は自然界から年間約二ミリシーベルトの被ばくを受けながら生活をしている。それと比べても、山菜から摂取するセシウム量は極めて少ない。 実はこうした考え方は農薬も同じである。農薬の残留基準値は各国の気候や風土で異なるが、健康影響をはかる指標値の一日許容摂取量(ADI)は世界共通である。このあたりのからくりは、拙著「フェイクを見抜く」(ウエッジ)をお読みいただきたい。「安全・安心」のために一〇〇ベクレルを設定 では、なぜ日本は欧米よりも十倍も厳しい基準値を設定したのだろうか。福島第一事故後にセシウムの基準値がどのように決まっていったかを、私は現役(毎日新聞)の記者として当時、熱心に取材していた。そもそも事故が起きる前の一般食品の暫定基準値は、一キログラムあたり五〇〇ベクレルだった。厚生労働省や食品安全委員会などで活発な議論が行われたが、結局、「より一層、食品の安全と安心を確保する観点から」という理由で一〇〇ベクレルに決まった。 許容していた年間追加線量も、事故前は年間五ミリシーベルトだったが、一ミリシーベルトに引き下げられた。一〇〇ベクレルが導き出される計算式の裏には、日本国内の食品(流通する食品の半分と仮定)はすべてセシウムに汚染されているという非現実的な仮定があった。これに対し、EUの一二五〇ベクレルは、流通量の一割が汚染されているという現実的な条件で計算されている。当時は旧民主党政権。結局は政治的な思惑もあって、「安心」を重視した政治的な決着となったのだ。一九六〇年代はもっとリスクが高かった 原発事故から十三年もたつと、セシウムの基準値が政治的に決められていった経過を知る記者は、少なくなっている。毎日新聞の記事について言えば、一〇〇ベクレルは健康影響をはかる指標値ではなく、たとえ一〇八五ベクレルのコシアブラを一キログラム食べたとしても健康への影響はない、という解説を入れてほしかった。 今後、セシウムの影響を伝える場合は、中国などが核実験を行っていた一九六〇年代のほうがよほど健康へのリスクは高かったという事実を、記者たちは頭の片隅に刻んでおいてほしいものだ。福島第一原発の処理水の海洋放出は今のところ順調に進むが、魚介類からいつ何時一〇〇ベクレルを超えるセシウムが検出されるかもしれない。その際に冷静に「一〇〇ベクレルを超えても健康影響とは関係ない」と、記者たちがしっかりと書いてくれることを期待したい。
- 25 Mar 2024
- COLUMN
-
IAEAグロッシー事務局長来日 ALPS処理水に関し地元評議会に出席
福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に係る資源エネルギー庁の評議会が3月13日、福島県いわき市で開催された。今回会合には、来日中のラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長も出席し、ALPS処理水の安全性レビューに関して説明し意見を交わした。同評議会は、県および立地市町村との意見交換の場として、随時行われているもの。ALPS処理水の海洋放出は2023年8月に開始。日本政府との覚書に基づき実施されているIAEA専門家による安全性レビューミッションが同年10月、海洋放出開始後、初めて行われ、2024年1月30日には、日本の取組について「妥当」とする報告書が公表されている。グロッシー事務局長の来日は昨夏以来。今回の評議会で同氏は、当時、日本政府に提出したALPS処理水の安全性に関し、IAEAが取りまとめた包括報告書についてあらためて言及。「IAEAは大変重要な意志決定を行った」と述べるとともに、「環境にマイナスの影響が及ばないようしっかりとプレゼンスを示していく」との強い姿勢を示した。これに立脚し、独立した評価を担保すべく、福島第一原子力発電所構内にIAEA職員を駐在させている意義を繰り返し強調。海洋放出の現状に関しては、「放出されているのはまだ5%未満に過ぎず、長い道のりの最初の段階にある」と述べ、引き続き「高い透明性、正確な技術を持ち、オープンに対話する」必要性を述べた。一方で、「近隣諸国からIAEAの活動自体に対する批判がある」と、政治的な懸念も示した上で、「皆様から色々なことを学んでいきたい」と、忌憚のない意見を求めた。グロッシー事務局長は、12日には齋藤健経済産業相との会談、東京大学での講演会などに臨んだ。13日には同評議会への出席後に福島第一原子力発電所を視察し14日には資源エネルギー庁・日本原子力産業協会主催の「原子力サプライチェーンシンポジウム」に出席する。
- 13 Mar 2024
- NEWS
-
規制委員長が福島第一事故から13年で訓示
福島第一原子力発電所事故から13年に当たり、3月11日、原子力規制委員会の山中伸介委員長が原子力規制庁職員らに訓示を行った。山中委員長はまず、元旦に発生した能登半島地震を振り返り、「多くの方々が犠牲となり、いまだに避難生活を余儀なくされている」と、被災者への哀悼および見舞いの意を述べた上で、強い揺れに見舞われた石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原子力発電所について、「安全性が確保された状態が続いているが、現地検査官は引き続き、その状態が維持されていることを確認して欲しい」と指示。さらに、「自然災害は避けることはできない。しかし、どのような自然災害に対しても、福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こしてはならない」と、あらためて事故の反省・教訓を忘れぬよう訓示した。一方で、「日々の業務を進めていく中で、熱い気持ちが冷めていくことはないだろうか」と、事故後13年が経過し、継続的改善の姿勢が緩むことを危惧。山中委員長は、大阪大学で教鞭を執っていた経験などを踏まえ、「学びとは真理(まこと)を胸に刻むこと。教えとは希望を人に語ること」というフランス詩人のルイ・アラゴンによる名言を紹介し、「教えることで学ぶ。教えてみて、初めて自身の能力・技量を自ら測り、自身の無知を知り、明日への学びにつながっていく」と、知識・経験の伝授を通じて「原子力規制委員会全体の活力」向上に向け相乗効果が図られるよう期待した。原子力規制委員会は2012年に発足し、現在、当初の委員らはすべて交替。3代目委員長として指揮を執る山中委員長は「原子力に100%の安全はない」と、現状に慢心せず科学技術的視点に立脚した判断を行う同委の行動理念をあらためて強調。29年前の阪神淡路大震災による被災経験も振り返り、原子力災害からの復興が長期化していることを懸念しながら、「10年後の自分自身について考えて欲しい。最上のものは過去ではなく未来にある」とも述べ、変化を恐れず職務に当たるよう訓示した。
- 11 Mar 2024
- NEWS
-
消費者庁調査 食品中の放射性物質に対する意識が最小に
消費者庁は3月7日、東日本大震災後の農林水産物に対する消費者意識の実態調査結果を発表した。調査は2013年2月の初回以降、ほぼ年1回行われている。17回目となる今回は、被災地域(岩手、宮城、福島、茨城の各県)および被災県産農林水産物の主要な仕向け先(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の各都府県)に居住する20~60代の男女約5,000名を対象として、2024年1月~2月にインターネットを通じて実施。その結果、普段の買物で産地を気にする理由として「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人の割合は9.3%となり、前回の10.5%を下回り、これまでで最小となった。同様に、放射性物質を理由に購入をためらう産地として「福島県」、「被災地を中心とした東北」、「東北全域」、「北関東」と回答した人の割合も減少傾向を示し、それぞれ、4.9%、3.4%、1.3%、1.1%と、いずれもこれまでの調査で最小を記録。「食品中の放射性物質の検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合は61.5%で、2020年度調査で急増後、最近4年間は横ばい傾向にある。また、風評を防止するために行うべきこと(複数回答可)としては、「それぞれの食品の安全性に関する情報提供」をあげた人が45.9%で最も多く、これに次いで、「食品に含まれる放射性物質に関する科学的な説明」が30.6%、「それぞれの食品の産地や産品の魅力に関する情報提供」が29.7%、「海外と比較し厳しい安全対策を実施している旨の内外への情報提供」が26.7%となった。一方で、「何もやっても安心できるとは思わない」との回答割合は18.7%を占め、前回調査の14.8%から3.9ポイント増加。消費者庁では、食品安全委員会や厚生労働省とともに、生産者・流通関係者・消費者団体を招いた食品リスクコミュニケーションに係るシンポジウムを全国都市部で継続開催し、理解・対話活動に努めているが、「風評の固定化」に係る懸念も浮き彫りとなっている。今回の調査結果を踏まえ、消費者庁では、引き続き関係府省庁や地方自治体とも連携し、意見交換会の開催、多言語によるパンフレット活用などを通じ情報発信に取り組んでいくとしている。
- 08 Mar 2024
- NEWS
-
阪大「1F-2050」 原子力事故解明に向け取組
大阪大学大学院工学系研究科に、研究者が中立的立場で福島第一原子力発電所事故の調査に取り組む「1F-2050」チームが設置されている。事故の進展過程を解明するとともに、行政機関や他大学とも連携し、中長期的には廃炉対策・福島復興に資することを目指す部門横断的な総勢20名程度のグループだ。チーム名は、エネルギー需給の視点で「2050年カーボンニュートラル」への貢献を最終目標としていることに由来。次世代革新炉の開発に向けた原子力安全に係わるフィードバックも視野に入れている。同チーム代表の村田勲教授らが、2月27日の原子力委員会定例会合で、活動状況について説明した。〈阪大発表資料は こちら〉同氏は、「純粋なアカデミア」として活動するチームの意義を述べる一方で、原子力規制委員会が設置する事故分析検討会への参加経緯も踏まえ、「あまりにも存在するデータが多過ぎる」などと、事故原因の解明に向け、現地調査の困難さ、技術的論点の山積する現状をあらためて指摘。テーマを絞って分析していく必要性を強調した上で、今後「多くの専門家の参加が不可欠」との問題意識を示した。同チームでは、まず現状把握として、1号機の原子炉格納容器(PCV)内の状況調査に着目。1号機については、東京電力において、水中ROV(潜水機能付きボート型ロボット)によるPCV内部調査がこれまでに実施されており、2024年2月末からはPCV全体の状況を把握すべく、小型ドローンやヘビ型ロボットの導入が行われている。東京電力によると、1号機では昨春、ペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)の内壁で、コンクリートが溶け落ち配筋が露出し、ガレキ・塊状の堆積物が確認されている状況。今回の原子力委員会会合で、阪大の大石佑治准教授が同機ペデスタル周辺のコンクリート破損要因に関し、機械的破損、水との反応、溶融の3つのシナリオによる調査・分析結果を紹介。模擬コンクリートによる物性試験を、ホームセンターや阪大研究施設から購入・サンプリングした材料で実施したところ、溶融温度がコンクリートの種類によって異なることなどから、「実際とできるだけ同じものを用いなければならない」必要性が判明したという。現在は福島県産の川砂を用いた加熱試験も進めており、今後、爆裂試験、高圧試験、組成・粘性評価など、さらに専門的分析を進めていく考えだ。「1F-2050」チームからの説明を受け、原子力委員会の上坂充委員長は、工学系の研究に関ってきた経験から、事故発生時における海水注入に伴う塩分の影響にも言及した上で、TMI事故など、海外のデータも含め、さらに多くの情報を収集し詳細な分析が進むよう期待した。
- 04 Mar 2024
- NEWS
-
大林組 4足歩行ロボにも搭載可能な放射線計測システム開発
大林組は2月22日、ドローンおよび自律4足歩行ロボット「Spot」を用いた放射線計測システムを開発したと発表した。原子力災害被災地の復興にも貢献する技術で、福島県浜通りの飯舘村に活動拠点を置く菊池製作所他との共同によるもの。〈大林組発表資料は こちら〉除去土壌の中間貯蔵施設における放射線量の計測は、モニタリングポストによる定点観測や歩行調査などの手法が採用されており、広大な敷地に対し、面的に計測を行う技術が確立されていないことから、大林組では、被ばく低減とともに、人手不足に対応する省力化の必要性にも着目。現地(大熊3工区土壌貯蔵施設)での実証試験を通じ、「局所的に放射線量の高い箇所が発生していないか」など、放射線量の計測を高度化・省力化させる技術を実現したもの。同社は、これまでもフレコン(除染廃棄物を保管した袋)の放射能濃度測定で、車両積載のまま運用可能な測定ゲートの開発を、放射線測定機器メーカーのキャンベラジャパンと手がけた経験を有している。実証試験を行った中間貯蔵施設は、除染作業で発生した土壌を覆土。「地表面に局所的に放射線量が高い箇所が発生していないか」観測する調査を、鉛の遮蔽体が装着された検出器を搭載するドローンおよび「Spot」で行った。ドローンは広大な面積を迅速に計測。一方、自律4足歩行ロボット「Spot」はより詳細に異常箇所を特定でき、ドローンの飛行できない建屋内にも立ち入り計測することも可能だ。現地では、1メガベクレルの線源を地表面に設置。ドローンおよび「Spot」を直上に走行させたところ、6か所のピークで線源を特定し、十分に小さな放射線量でも検出できることが実証された。今回の計測技術開発を受け、大林組では、除去土壌の中間貯蔵施設や減容・再生利用だけでなく、原子力発電所の廃止措置における建屋周辺および内部のモニタリングや、放射性廃棄物の地下埋設後の点検作業にも有用、と期待を寄せている。実証試験では、狭あいエリアを詳細に検査する有効性も確認。1時間当たり約4,500㎡の速度で計測したほか、通常の人による歩行調査(約1,100㎡/人・時間)の約4倍の効率性を実現した。さらに、日常業務として、広範囲の計測にドローンを使用する場合、1時間当たり約40,000㎡(東京ドームの約8割の面積に相当)の計測も可能となると見込まれ、今後は他分野への波及効果も期待できる。
- 26 Feb 2024
- NEWS
-
福島での原子力損害賠償をテーマにシンポ 京都大
京都大学経済研究所先端政策分析研究センター(CAPS)は2月17日、18日の2日間、シンポジウム「東日本大震災における原発事故による福島の損害賠償と復興~これまでの歩みとこれから~」を京都大学・吉田キャンパスで開催した(共催:京都大学社会科学統合研究教育ユニット、公益財団法人 KIER経済研究財団)。CAPSは、行政機関等と連携して政策研究を進める組織で、研究成果の社会発信の一環として、シンポジウムを開催している。今回は、会場およびオンラインのハイブリッド開催で、両日合わせて200名超が参加した。17日は、「福島の原子力損害賠償」をテーマに講演とパネル討論が行われた。最初にCAPSの山下恭範特定准教授が、福島の損害賠償と復興について概況を説明。その後、松浦重和氏(文部科学省研究開発局前原子力損害賠償対策室室長代理)が、原子力損害賠償紛争審査会(審査会)による中間指針の策定とその改訂等について、策定作業に携わった立場から基調講演を行った。松浦氏は、福島第一原子力発電所の事故による賠償すべき損害が、中間指針で類型化して示されたことで、被害者の立証の負担が軽減されたほか、賠償金の支払いが迅速化したと説明。また、事故にともなう7件の集団訴訟の確定判決を踏まえ、審査会が2022年12月に「中間指針第五次追補」を決定したが、その後、集団訴訟においてもこの追補を踏まえて和解する例が出ていることなどを報告した。賠償請求に関して和解仲介を担っている原子力損害賠償紛争解決(原賠ADR)センターについては、人手不足等の課題は残るものの、「訴訟によらない救済の受け皿として、非常に大きな役割を担っている」と指摘した。続いて、審査会で会長代理等を10年以上にわたり務めた大塚直氏(早稲田大学法学部教授)が、福島における原子力損害賠償の意義と課題について、法的な観点から講演。審査会の指針は、事故による被害の状況を踏まえた考慮の結果、①原状回復の理念を一部取り入れたこと、②不安に対する精神損害を一部認めたこと、③間接損害の要件を緩和したこと、④環境損害を正面から認めたこと──等において、不法行為法の判例を踏み越えていると指摘。自ら素案の検討に当たった「中間指針第五次追補」については、「従来の指針との一貫性を維持しつつも、新たな類型化が取り込まれている」と説明した。一方で、高齢者のような、生活の再構築が困難な被災者に対する賠償等、未だに解決されていない問題が多数あることを課題として挙げた。民法や環境法を専門とする大坂恵里氏(東洋大学法学部法律学科教授)は、福島第一原子力発電所事故による被害と賠償の実態について講演。災害弱者や農業従事者等が抱える多様な問題について言及し、中間指針や原賠ADRセンターの総括基準の損害項目は、こうした幅広い被害について「相当程度対応している」と指摘。特に中間指針については、東京電力の自主賠償を強く促す効果があったとの考えを示した。一方、被申立人である東京電力が多数の賠償対応を経験しノウハウを積み上げているのに対し、原賠ADRセンターに持ち込まれる案件では、近年、申立人である被災者側の弁護士代理率が極端に低下していることを紹介。法律に詳しくない被害者への法的支援が不十分である状況を問題視した。北郷太郎氏(OECD/NEA原子力法委員会副議長、IAEA国際原子力賠償専門家グループ委員、第3回原子力損害補完補償条約(CSC)締約国等会議議長)は、「コロンビア・レポート」や「フォーラム・レポート」等のアメリカにおける原子力損害賠償制度の検討から始まる、原子力損害賠償制度の国際的な歴史と日本の原賠法立案までの経緯やその後の制度改正の歴史を紹介。さらに、福島第一原子力発電所事故の賠償を、国際社会がどのように受け止め、反応しているかを解説した。北郷氏は、事故の賠償には課題も多いが、国際的にはその枠組み及び実務について高い評価を受けていることを指摘した上で、特に日本の賠償実務(クレーム・ハンドリング)や事故後の試行錯誤の結果は、今後の国際的な制度改善のための貴重なノウハウであり、国際的に発信するべきであると強調した。17日のシンポジウム後半では、それまでの講演を受け、「福島の原子力損害賠償の現状と課題、今後の展望について」と題したパネル討論が行われ、山下氏がファシリテーターを務めた。冒頭、鎌田薫氏(早稲田大学前総長・文部科学省原子力損害賠償紛争審査会前会長)は、原子力損害賠償制度専門部会の部会長代理として事故後の原賠法の見直しをめぐる議論に参加した経験を踏まえつつ、制度の課題等を総括した。その上で、損害賠償は、元来事故によって失われた利益を元の水準に戻すことが主たる役割であるが、人と人との繋がりや生業などの原状回復は不可能であると指摘。福島が魅力ある地域として、再生し、発展していくためには、新たな産業や文化、社会環境を創造していくことが不可欠であり、そのためにも、「損害賠償制度と法政策が相互に補完しながら効果を最大化していく」ことが重要と指摘した。その後、①福島の損害賠償の現況と今後の課題、②賠償制度が持続可能な形で維持していくために必要なこと、③損害賠償と復興──の3点について登壇者が議論。最後は鎌田氏が「福島における復興政策と損害賠償の調和を1つのモデルケースとして確立していってほしい」と締めくくった。「福島の復興や街づくり」がテーマとなった18日は、内閣府福島原子力事故処理調整総括官の新居泰人氏(元・福島相双復興推進機構専務)が、復興の経緯や復興を支援する政府の取組みについて紹介。広野町夢大使を務める小沢晴司氏(宮城大学教授、福島大学客員教授、元・環境省福島環境再生本部長)からは環境除染の取組について、福島国際研究教育機構理事の木村直人氏からは新たに立ち上げ中の研究機関、福島国際研究教育機構(F-REI)を活用した地域復興の取組について、講演が行われた。また、高橋大就氏(一般社団法人NoMAラボ代表理事、一般社団法人東の食の会専務理事、福島浜通り地域代表)は、福島の高付加価値な食品を活かした地域振興の取組を紹介した。パネル討論では、長谷山美紀氏(北海道大学副学長・大学院情報科学研究院長)が、AI研究者の視点でみた地域振興の在り方等について講演。続いて、復興や新たな地域の在り方を目指した地域振興について議論された。
- 26 Feb 2024
- NEWS
-
原産協会・新井理事長 福島第一原子力発電所事故から13年で所感
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は2月22日の記者会見で、福島第一原子力発電所事故から間もなく13年を迎えるのに際し所感を述べ、また、電力システム改革の検証に関し意見を提出したことを紹介した。福島第一原子力発電所事故から3月で13年を迎えるのに際し、新井理事長は、あらためて被災した方々への見舞いの言葉とともに、復興に携わる方々の尽力に対し謝意を表した上で、県内6町村に設定された「特定復興再生拠点区域」における避難指示の全解除、新たに新設された「特定帰還居住区域」に係る大熊町、双葉町、浪江町、富岡町の申請・認定など、復興に向けた最近の動きに言及。また、福島県産食品に対する輸入規制が縮小し、2021年度は過去最高、2022年度も過去2番目の輸出量を記録したことなどを紹介。2023年8月に開始した福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出については、「廃炉の貫徹に向けた重要なステップ」との認識をあらためて示す一方、これに伴う近隣諸国による日本産水産物の禁輸が改善されない状況に関し遺憾の意を述べた。さらに、2023年1月、年度後半に予定されていた福島第一2号機における燃料デブリの試験的採取の開始時期が延期されたことに関し、新井理事長は、「今後も安全最優先に一歩一歩進めてもらいたい」と強調。原子力産業界として、「東京電力が進める廃炉の取組をしっかりと支援していくとともに、福島県産品の消費拡大に貢献していく」との姿勢を示した。また、新井理事長は、現在、総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会で進められている電力システム改革の検証に対し、このほど意見を提出したことを紹介。原子力の最大限活用が可能な電力システムを構築する必要があるとの考えに基づき、「現在の電力システムで、2030年のエネルギーミックスを達成できるのか、また、長期脱炭素電源オークションについて、ファイナンスの観点や投資回収の予見性確保の観点から、適切な制度となっているか」について、検証を求めたものと、説明した。
- 22 Feb 2024
- NEWS
-
IAEAがレビューミッションの報告書 海洋放出後初
福島第一原子力発電所におけるALPS処理水に関し、海洋放出が始まってから初となるIAEA安全性レビューミッションの報告書が1月30日に公表され、日本の取組は「妥当」と評価された。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回の安全性レビューミッションは、2023年10月24~27日に行われたもので、6回目となる。IAEAからは、リディ・エヴラール事務次長、グスタボ・カルーソ氏(原子力安全・核セキュリティ局調整官)ら、7名の職員が、この他、アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、中国、フランス、ベトナム、マーシャル諸島、ロシアの国際専門家9名が来日。経済産業省、原子力規制委員会、外務省、東京電力との会合を通じ、海洋放出開始後のモニタリング状況、放出設備の状況などについて説明を受け、意見交換を行うとともに、現地調査を実施し、IAEA国際安全基準に基づき技術的事項を議論した。このほど公表された報告書は、技術的事項ごとに議論のポイントや所見の概要を記載したもので、「関連する国際安全基準の要求事項と合致しない如何なる点も確認されなかった。IAEAが2023年7月4日の包括的報告書で示した安全審査の根幹的な結論を再確認することができる」と、日本の取組を「妥当なもの」と評価。現地視察に基づき、機器・設備が国際安全基準に合致した方法で設置・運用されていることも確認したとしている。また、国際安全基準の要求事項とは別に、「すべてのモニタリングデータを単一のウェブサイトに集め、アクセスしやすい形式にすることが非常に有用」と、情報発信に関し指摘した。IAEAによる次回のレビューミッションは、今春に実施される予定。今回のIAEA報告書を受け、日本政府では、「引き続き、IAEAレビューを通じ国際的な安全基準に従った対策を講じ続け、安全確保に万全を期していく」としている。合わせて、IAEAは、ALPS処理水および海洋環境中の放射性核種分析に関する2つの報告書を公表しており、IAEAの研究所などによる「分析機関間比較」(ILC)を通じ、それぞれ、東京電力、日本の分析機関の分析能力の公正さが確認されている。
- 31 Jan 2024
- NEWS
-
福島第一近傍の2022年海洋モニタリングでIAEAが報告書
福島第一原子力発電所近傍における海水・海底土や福島県の水産物の採取によるIAEAの海洋モニタリングに関する2022年報告書が12月12日までに公表された。〈発表資料は こちら〉日本政府の要請に基づき、わが国の海域モニタリングの信頼性、透明性を担保すべく、2014年から実施されている分析機関間比較調査で、IAEAが福島第一原子力発電所廃炉の進捗について、2013年度に取りまとめた報告書のフォローアップとなるもの。2022年は、11月7~14日に、モナコのIAEA海洋環境研究所(MEL)の専門家に加え、さらなる透明性向上の観点から、独立した第三国として韓国とフィンランドの分析機関も参加している。今回公表された報告書によると、採取した海水・海底土、福島県で水揚げした数種類の魚は、均質化した上で、日本の11機関、IAEA/MEL、第三国の分析機関に送付され分析。IAEAが集約・評価した。その結果、それぞれの試料中の放射性核種を比較し、大多数に有意な差がみられず高い信頼水準にあると結論付けた上、「日本の分析機関が、引き続き高い正確性と能力を有する」と、評価している。2022年からは、日本政府とIAEAとの覚書により実施されているALPS処理水安全性レビューの一環となる分析機関間比較調査も行われており、その結果については別途公表される予定。2023年も、10月16~23日、IAEA/MELに加え、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の専門家も来日し、同調査が行われた。
- 12 Dec 2023
- NEWS
-
東京・新橋駅前広場で「ホタテ祭り」
北海道・三陸・福島の復興を応援する「ホタテ祭り」が11月30日と12月1日の両日、東京・JR新橋駅西口SL広場で開催された。2日間の「緊急プロジェクト!」と題する同イベントの会期初日には、グループ総力を挙げて国産水産品の消費拡大に努める東京電力の小早川智明社長が駆けつけ、出店ブースでの試食や、「殻付きホタテの浜焼き」の調理・販売に当たった。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始されてから3ヶ月が経過したが、中国による日本産水産物の輸入停止措置の影響は深刻で、中国向けの水産物の輸出額が前年同月を90%余り下回る状況が続いている。特に大きな影響を受けている北海道・三陸産ホタテの消費拡大を呼びかけるとともに、福島県産の魚介類「常磐もの」を使ったメニューや、地酒・地ビールなどを提供し東日本大震災からの復興を後押しするのがねらい。イベントには近隣の商業施設「ニュー新橋ビル」や新橋二丁目烏森町会も協力。周辺は、ホタテの他、カニ味噌甲羅焼、ポーポー焼き(サンマのすり身に味噌と薬味を混ぜて団子にした漁師飯)など、香ばしさが漂い、人気のブースには行列ができるほどとなり、多くの仕事帰りの人たちが立寄り賑わった。入場無料。12月1日の午後8時まで。なお、農林水産省、経済産業省らは12月1日、これまで主に中国でなされてきたホタテの加工作業を、ベトナムで実施するなどの新たな支援策を発表。これまで中国で殻むき加工がなされてから米国に輸出されていたホタテについて、ベトナム等で殻むき加工を行って米国に輸出するルートの構築を進めており、農林水産省は先月からベトナムの水産加工施設で、輸出に必要な衛生条件を満たすかどうかの調査を行っている。今月上旬にはベトナムで商談を希望する事業者の募集を開始しているほか、販路拡大に向け、福島県や北海道などの産地に海外バイヤーを招き、商談の場を設けることも計画中。宮下農水大臣は、国内の消費も拡大していることから「中国などによる禁輸措置のダメージを乗り越えつつある」と述べている。
- 01 Dec 2023
- NEWS
-
全国各地の魚介グルメが一堂に 26日まで
全国各地の魚介グルメが堪能できる「SAKANA & JAPAN FESTIVAL」(実行委員長=近藤豊和・産業経済新聞社上席執行役員)が11月26日まで、東京・お台場で開催されている。東日本大震災からの復興応援を目的に、「常磐もの」と呼ばれる福島の魚介を使った料理が味わえる「発見!ふくしまお魚まつり」、北海道・三陸エリアを中心に厳選した魚介料理を集めた「食べて応援!ニッポンの幸」エリアも併催・併設。会場内には約80の店舗ブースが設けられ、会期中(11月23~26日)、約15~20万人の来場者が見込まれている。23日の会期初日は、晴天に恵まれ、祝日でもあったことから、10時の開場前から入場待ちの列ができ、家族連れや若者同士、近隣のアウトドア系イベントへの参加がてらに立寄るサイクリストや愛犬家など、多くの来場者で賑わった。ノドグロ、ヒラメ、アナゴ、メイプルサーモン、ネギトロ、生エビと、「常磐もの」をふんだんに盛った「ふくしま全部のせ丼」(かに船)を提供する海鮮丼ブースには、開場から間もなく長蛇の列ができる盛況。定評ある「福島の地酒」飲みくらべコーナー(福島県酒造協同組合)も、魚介類と相性のよい品種を揃え、人気を博していた。開会挨拶に立った土屋品子復興相は、風評が懸念される一方、多くの飲食店が福島産の魚介類の活用に積極的なことを「本当に嬉しく思う」と述べた上、その安全性について「国内外にしっかり発信していく」と強調。栄養士の資格を持つ同相は、海鮮丼やポーポー焼き(サンマのすり身に味噌と薬味を混ぜて串刺し団子にした漁師飯)を試食し、「日本料理は世界でも注目の的で、健康に直結する。是非、お魚を食べる習慣をつけてもらいたい」とも話した。マグロ解体ショーの模様昨今、輸出減が憂慮されるホタテを使った料理も、北海道、青森、宮城から多数出店しそれぞれの味を提供。宮城県石巻産のホタテを使った「ホタテクリームコロッケバーガー」(Bon Quish)は、和洋中3種類の味が楽しめる。会期中の毎日、数回行われる本マグロの解体ショー(豊洲かんぺい会)も見どころだ。さばきたての新鮮なマグロの赤身、中トロ、大トロをのせた「本まぐろの大とろ入り三色丼」も味わえる。また、食品の安全性に関する理解に向け、会場内では、専門家による放射性物質検査の実演・説明が行われている。会場入口は、新交通「ゆりかもめ」東京国際クルーズターミナル駅(旧 船の科学館駅)からすぐ。開催時間は、24、25日が午前10時~午後8時、26日が午前10時~午後6時。入場無料(飲食代は別途)。
- 24 Nov 2023
- NEWS
-
復興推進委 教育を通じた福島再生が議論に
政府の復興推進委員会(委員長=今村文彦・東北大学災害科学国際研究所教授)の第43回会合が11月22日に開催され、東日本大震災被災各県(岩手、宮城、福島)の復興状況に関する報告を受けて、復興・再生に向け意見が交わされた。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った復興庁の高木宏壽副大臣は、最近の被災地視察経験から、「復興の状況を一言で言えば、実に複雑多様」と強調。特に、福島県については、避難指示解除の段階による復興状況の差異に言及し、「原子力災害からの復興は今、ようやく緒に就いたばかり」と述べ、引き続き国が前面に立って支援していく姿勢を示した。福島県内の避難指示については、政府・原子力災害対策本部が21日、富岡町に設定された帰還困難区域を11月30日に一部解除することを決定。これで、6町村に設定された特定復興再生拠点区域((帰還困難区域のうち、避難指示を先行して解除し居住を可能とすることにより、復興・再生の推進を図るエリア))のすべてが解除されることとなる。リモートで出席した内堀雅雄委員(福島県知事)は、あらためて「帰還困難区域すべてを避難指示解除し、復興・再生に最後まで責任をもって取り組む必要がある」と強調。同氏は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出に関し、一部の国における輸入規制強化などの影響を懸念し、「幅広い業種に対する万全な風評対策に政府一丸となって最後まで全責任を全うして欲しい」と国に対し要望。さらに、発災から12年8か月を経て「今後は風化との闘いとなる」とも述べ、マスメディアを巻き込んだ積極的な情報発信、若手に対する災害教育の重要性を強調した。現地調査報告を行う戸塚委員「福島復興の姿を世界に発信すべき」と今回の委員会会合では、教育が一つの論点となった。福島県の大熊町、双葉町、浪江町を10月25日に現地調査で訪れた戸塚絵梨子委員(パソナ東北創生社長)が、その調査結果を報告し、今春、大熊町に開校した幼保小中一体化施設「学び舎 ゆめの森」の校長の話を紹介。それによると、特徴的な校舎や少人数を活かした特色ある教育が注目され「同校に入るための町内転入者も増えている。子供たちは地域のコミュニティを担う大きな存在だ」という。また、浪江町の震災遺構「請戸小学校」では、町担当者より、発災時の適切な避難により教職員・生徒全員の命が守られた経験、防災教育・訓練の重要性が説明されたことを強調。戸塚委員は、この他、「創造的復興の中核拠点」を目指し浪江町内に設立された福島国際研究教育機構(F-REI)など、計7か所の施設・区域を訪れた感想として、「『これから始まっていく』というエネルギーを感じた。世界に注目され飛躍していく場所となる」などと述べ、福島県が東北全体の復興の牽引役となることを期待した。これに対し、「子育て世代」と称する小林味愛委員(株式会社 陽と人 代表)は、教育の充実化に加え、小児医療の課題などを指摘。高等教育に携わる山﨑登委員(国士舘大学防災・救急救助総合研究所教授)は、「発災から10年以上が経過し、学生が学ぶにも断片的な情報だけで、全体を俯瞰し理解するのが難しくなっている。被災地から離れるほど、小中学生は当時のことを既に知らない」と述べ、過去の取組を再整理し、継続的な防災教育・人材育成が図られるよう求めた。今村委員長は、「学び舎 ゆめの森」について、今後の運営に向け予算面が課題となっていることを指摘した。内堀委員は、今回、復興・再生のさらなる推進に向けて、財源確保の必要性を強調している。今後の会合では、「第2期復興・創生期間」(2021~25年度)における財源の枠組みが論点となりそうだ。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 22 Nov 2023
- NEWS
-
原子力発電所事故の「風化」が課題に 福島大の学生調査
東日本大震災・福島第一原子力発電所事故後の福島に関する学生の知識が、時間の経過とともに薄れている。福島大学教育推進機構の前川直哉准教授らが同学学生を対象に実施した調査で明らかになったもの。〈福島大発表資料は こちら〉11月1日に発表された同調査結果によると、2019~22年度、福島大の一般教養科目「ふくしま未来学入門」を受講する学生を対象に、成績とは無関係の調査・研究目的として、同一の設問で震災・原子力発電所事故に関する知識チェックを実施したところ、20点満点の平均得点は、2019、21、22年度で、それぞれ9.5点、8.6点、8.1点と低下傾向にあり、学生の知識が時間の経過とともに薄れてきている多くの設問で正答率の低下がみられたが、「事故を起こした発電所の正式名称」、「シーベルトの定義」に関する設問では正答率が上昇した福島県内出身者の得点は、「福島県以外の東北地方」、「東北地方以外の国内」の出身者よりも統計的に優位に高かった――ことが明らかになった。調査で実施した知識チェックは、「震災と原発事故」、「原発事故と避難」、「放射線と除染」、「現在の福島県」の4セクションに分類され、各セクション5問・全20問で5者択一形式。計968名の学生が回答した。その中で、「福島第一原発でつくられた電気の供給先」との設問(正解は、つくられた電気は首都圏など、東京電力管内に供給されていた)では、正答率が2019、21、22年度で、それぞれ49.6%、47.0%、33.9%と、大幅に低下。この他、正答率が低下した設問としては、「風向きの影響で多くの放射性物質が降り注いだ方角」、「ピーク時の県内外への避難者数」などがあった。また、県内・県外の出身者で正答率の差が大きかった設問としては、「除染の具体的作業」(正解は、表土をはぎ取る)があり、正答率は、福島県で84.4%、福島県以外の東北地方で46.2%、東北地方以外の国内で51.7%だった。今回の調査結果を踏まえ、研究グループでは、「震災・原発事故に関する『風化』は確実に進行している」と懸念し、「学校と社会全体で知識を伝えていく必要がある」などと分析・考察している。
- 15 Nov 2023
- NEWS
-
「現代の名工」 後進の育成に努める原子力技術者も
若手の指導に当たる小泉さん(厚労省発表資料より引用)厚生労働省は11月10日、卓越した技能者の功績を称える「現代の名工」の2023年度表彰対象者150名を発表。13日には都内ホテルで表彰式が行われた。同表彰制度は、技能の世界で活躍する職人、これを志す若者に目標を示し、将来を担う技能者の確保・育成を進め、優れた技能を次世代に承継していくことを目指し、1967年に創設されたもの。今回は、放射性物質からの隔離に必要な製品「グローブボックス」の製造に係る技能に卓越した技術者の小泉英雄さん(茨城県・株式会社ヨシダ)らが選ばれた。小泉さんは、65年以上にわたり機械・溶接加工・組立の全般を通じ携わった経験と幅広い知識を有しており、特に原子力業界においては、同氏の手がけた高い密閉性と遮蔽性を持つ「グローブボックス」が福島第一原子力発電所の廃炉現場に設置されるなど、高い評価を受けている。小泉さんは、現在、82歳だが、仕事に不可能はないという「信念をもって取り組む」これまでに習得してきた技術を活かしつつ「常に挑戦し続ける」ともに繁栄していくグループとして「協力先には迷惑をかけない」――という気概を持ち、得られた製作ノウハウを「未来への財産」と重んじ、若手・中堅への技術継承にも邁進中だ。この他、原子力関連では、PWRにおける機器組立作業に従事してきた製缶工の梅原信男さん(兵庫県・三菱重工業神戸造船所)が「現代の名工」に選ばれている。梅原さんは現在54歳。「管寄せ」と呼ばれる複数の配管を集合・分配するための高精度な配管曲げ・組立技能が評価された。
- 14 Nov 2023
- NEWS