キーワード:福島
-
EU 日本産食品の輸入規制撤廃へ
EUは7月13日、福島第一原子力発電所事故後に導入した日本産食品に対する輸入規制を撤廃すると発表した。同日に行われた岸田文雄首相、シャルル・ミシェル欧州理事会議長およびウァズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との日EU定期首脳協議(ベルギー・ブリュッセル)で明らかにされたもの。日本はこれまでも、EUに対し首脳レベルの会合を通じ、日本産食品に係る輸入規制措置の早期撤廃を要請してきた。東日本大震災後の日本産食品に対する輸入規制の現状(外務省ホームページより引用)発災後、55の国・地域で行われていた日本産食品の輸入規制は、今回の撤廃によって、11の国・地域に減少する。松野博一官房長官は14日の記者会見で、「一部の国・地域において規制が維持されていることは残念。また、ALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の海洋放出を理由に一部において規制強化の動きがみられることは大変遺憾」と憂慮し、引き続き日本産食品の安全性を科学的見地から丁寧に説明していく考えを述べた。また、これまでも福島県の食品・観光のトップセールスに努めてきた同県・内堀雅雄知事は、EUによる輸入規制撤廃の発表を受け、「EUにおける輸入規制の撤廃は、加盟する27か国すべてに適用されるものであり、その波及効果は非常に大きい」とする歓迎のコメントを発表。引き続き「さらなる輸入規制の撤廃に向け全力で取り組んでいく」と強調している。
- 14 Jul 2023
- NEWS
-
ALPS処理水の海洋放出設備 使用前検査が完了
原子力規制委員会は7月7日、東京電力に、福島第一原子力発電所のALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する。))の海洋放出に係る移送/希釈/放水の各設備について、使用前検査終了証を交付した。ALPS処理水の海洋放出設備は、(1)測定・確認用設備、(2)移送設備、(3)希釈設備、(4)放水設備――で構成。そのうち、(1)については、3月に使用前検査終了証が交付されており、今回、(2)~(4)の検査が完了し、規制委による使用前検査はすべて完了したこととなる。ALPS処理水の海洋放出設備は、2022年7月に規制委員会より福島第一原子力発電所に係る実施計画変更認可を受け、8月に設置工事が開始された。2023年4月26日には放水トンネル(長さ約1km)が完成。6月26日にすべての施設の設置が終わり、同30日に最終の使用前検査が実施された。ALPS処理水の処分に関する関係閣僚会議は2023年1月に、「海洋放出設備工事の完了、工事後の規制委員会による使用前検査、IAEAの包括的報告書等を経て、具体的な海洋放出の時期は、本年春から夏頃を見込む」との見通しを示している。ALPS処理水の安全性レビューに関するこの包括的報告書は7月4日に日本政府に提出されており、今回の使用前検査終了により、海洋放出開始に向け設備・保安上の準備は整ったこととなる。東京電力は、「ALPS処理水希釈放出設備および関連設備の保守管理に努めるとともに、同設備を的確に運用するため、引き続き、運転操作訓練・警報対応訓練を行なうなど、現場での安全に係る品質向上について積極的に取り組んでいく」とするコメントを発表した。
- 07 Jul 2023
- NEWS
-
「処理水の海洋放出計画は国際的な安全基準に合致」IAEA結論
福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の取扱いの安全性に係るレビューを総括するIAEA包括報告書〈要旨仮訳は こちら〉が7月4日、ラファエル・グロッシー事務局長より岸田文雄首相に手交された。2021年7月に日本政府とIAEAとの間で署名された「ALPS処理水の取扱いに係るレビューの包括的な枠組みに関する付託事項」に基づき、IAEAが行ってきた一連のレビューを総括するもの。IAEA包括報告書では、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東京電力、原子力規制委員会および日本政府による関係する活動は国際的な安全基準に合致している東京電力が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が人および環境に与える放射線の影響は無視できる水準――と結論付けている。今回、グロッシー事務局長が来日したのは、2022年5月以来、3度目。来日初日の7月4日には、岸田首相の他、林芳正外相、西村康稔経済産業相、山中伸介原子力規制委員会委員長と会談を行った。グロッシー事務局長と面会した岸田首相は、包括報告書の受取りに際し、これまでのIAEAによる協力に謝意を表した上で、「科学的根拠に基づいて、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明していきたい」と強調。グロッシー事務局長は、「科学的かつ中立的で、日本が次のステージに進むに当たって決断を下すのに必要な要素がすべて含まれている」と述べた。包括報告書は、ALPS処理水の海洋放出について「あくまで決定するのは日本政府であり、この報告はその方針を推奨するものでも、支持するものでもない」としている。会談後、グロッシー事務局長は日本記者クラブで記者会見に臨み、海外からの不安に関する質問に対し「われわれは科学的に健全な評価ができたと確信している」と、包括報告書の意義を強調。また、海洋放出前・中・後を通じモニタリング・評価を継続すべく、福島第一原子力発電所構内にオフィスを立ち上げ、職員を常駐させる考えを表明した。グロッシー事務局長は5日、福島に赴き、午前中、政府・原子力災害対策本部が設置する地元との意見交換の場「廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会」(いわき市)に出席。IAEA包括報告書について説明した上で、ALPS処理水の安全性の理解に関し「魔法の杖はない。皆さんの声に耳を傾けることが何よりも大事」と、対話の重要性を強調した。午後からは、福島第一原子力発電所を視察する。IAEA包括報告書の公表を受け、東京電力は、「内容をしっかりと確認し、ALPS処理水の放出に係る安全・品質の確保・向上に活かしていく」とのコメントを発表した。
- 05 Jul 2023
- NEWS
-
浜通りへの移住をテーマとした連ドラが今秋スタート
福島県の浜通り地域への移住をテーマとした連続ドラマ「姪のメイ」(青野華生子企画・プロデュース、清水康彦監督、本郷奏多・大沢一菜主演)がテレビ東京で9月7日より放送される(毎週木曜深夜24時30分~)。ドラマの制作には、2021年に福島県が県内12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)への移住・定住を促進すべく設置した「ふくしま12市町村移住支援センター」が協力。ロケも現地で行い、「前向きに生きる地元の人たち」の生の姿を映し出す。〈同センター発表資料は こちら〉ドラマのあらすじは、東京在住の中小企業会社員・小津(本郷奏多)が、両親を事故で亡くした姪っ子のメイ(大沢一菜)を一時的に引き取り、夏休みの1か月間だけ楢葉町に仮住まいを決め、リモートワークをしながらメイとの絆を深めていくというもの。都会で育った現代的な思考を持つ32歳の独身男子と芸術家肌で達観した12歳の少女というミスマッチな2人のひと夏の出来事を、地元の温かい人間模様を背景に描くヒューマンコメディ。小津を演じる本郷奏多さんは、これまで映画「GANTZ」シリーズ、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」など、数々の話題作に出演。メイを演じる大沢一菜さんは今回、テレビドラマ初出演となる。本郷さんは「広大な自然と穏やかな風景が広がる福島というロケーションも大きな見どころ」と、大沢さんは「福島で暮らす個性的な近所のみんなとの絆がどんどん深まっていく姿を見て前向きな気持ちになってもらえたら嬉しい」と、それぞれコメントしている。
- 03 Jul 2023
- NEWS
-
芸術文化で復興支援 経産省の若手有志
経済産業省の若手職員を中心とする芸術文化の力を活用した福島復興の取組が本格化しつつある。映像・芸術文化を通じた魅力あるまちづくりに向け、昨夏、経産省の若手有志職員により「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」が立ち上がり、その皮切りとして、8月に、監督、脚本家、俳優、映像制作に関わる学生、地域住民らが集う映画イベントが双葉町で開催された。これを踏まえ、経産省は6月15日、芸術家が浜通り地域に一定期間滞在し作品を制作する「滞在制作支援」など、2023年度の新規予算事業実施に伴い、「福島芸術文化推進室」を設置。16日には、西村康稔経産相が同プロジェクトに参画する若手職員(各所属部署の所掌業務の傍ら福島復興に取り組む)とともに看板掛けを行った。〈経産省発表資料は こちら〉同日の閣議後記者会見で、西村経産相は、「新しい発想で今後、福島の浜通りから心を潤してくれる映像、芸術文化を創造し、また発信することを通じて新たな魅力をつくり出してもらいたい」と、若手職員の活躍に期待。昨夏の映画イベントでは、中高生を対象に短編映画制作を体験させる合宿ワークショップも行われたが、年間100作品の劇場公開に足を運んだ往年の「映画少年」を自称し今もNetflixの動画配信をよく見るという西村経産相は、特に地元の学生たちによる映画制作への支援に意欲を示した。「東京国際映画祭」でトークセッションに臨む今泉監督、受賞作「窓辺にて」は稲垣吾郎さん主演のラブストーリー(インターネット中継)まずは映画に着目する「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」だが、2023年度からの「滞在制作支援」を見据え、2022年10月、「第35回東京国際映画祭」と連携し、福島における映画制作の将来を語り合うトークセッションが行われ、好評を博している。その中で、ダンサー・田中泯さんの生き様を描いたドキュメンタリー「名付けようのない踊り」(2022年公開)の犬童一心監督は、帰還困難区域で撮影を敢行した経験を振り返り、「映画の中で撮影しておくと記録にもなる」と、映画制作の副次的意義を強調。また、今回の映画祭で観客賞を受賞した「窓辺にて」(同)でメガホンをとった郡山市出身の今泉力哉監督は、「福島に住み続け映画を作り続ける若者」が現れることを強く期待した。
- 19 Jun 2023
- NEWS
-
日韓の信頼回復へ向けた一歩となり得る処理水問題
広島におけるG7サミット最終日の5月21日、東京電力・福島第一原子力発電所の処理水海洋放出計画に関し、科学的な調査を行う韓国の視察団21人が来日した。5月7日、シャトル外交の復活を期し訪韓した岸田文雄首相に対して、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が提案したものだ。団長を務める韓国原子力安全委員会の劉国熙委員長は、仁川空港を出発する際、「科学的根拠に基づき、安全性を確認する」と語っていた。合理的な判断を重視する尹錫悦大統領の姿勢を反映したコメントと言えるだろう。条約、約束、そして科学をベースとした外交は、相手国にとって予見可能性が高い。しかしながら、日本の立場に立って考えると、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の治世は、感情が外交を支配しており、想定外のことが当たり前に起こる5年間だったと言えるのではないか。文前大統領は、2015年12月28日の旧従軍慰安婦に関する日韓合意を「政府間の公式な合意」としつつ、日本政府の出資で設立された『和解・癒やし財団』を断りなく清算した。また、2018年10月30日、韓国大法院が旧徴用工の方による日本企業への賠償請求を認める判決を下した後も、文政権は日韓関係打開のため努力したとは思えない。さらに、2018年12月20日には、日本の排他的経済水域内(EEZ)において、韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が海上自衛隊のP-1哨戒機に火器管制レーダーを照射する事件が起こった。こうした韓国による不可解な行為が繰り返されるなか、日韓両国の緊張関係が色濃く反映されたのが、東京電力・福島第一原子力発電所の処理水に関する韓国側の対応だろう。科学に基づく合理的な判断ではなく、憶測や不確かな情報に敢えて重きを置いた感情的なムードにより、韓国側から日本への批判が繰り返されてきた。そうしたなか、尹政権が派遣した今回の専門家集団が、純粋に科学的見地からどのような判断を示すのか注目される。トリチウム水に関する世の中の誤解現在、世界的に広く使われている軽水炉の場合、沸騰水型炉(Boilling Water Reactor)、加圧水型炉(Pressurized Water Reactor)の何れにも「水(Water)」の文字があるように、原子炉内における中性子の減速、原子炉の冷却やタービンの回転には水(水蒸気)が使われている。したがって、日本の原子力発電所は全て取水が容易な海沿いに建てられてきた。福島第一の深刻な事故は、周知の通り、東日本大震災による揺れで原子炉が破損したことが主な原因ではない。原子炉は概ね問題なく停止したことが分かっている。しかし、津波で電源が破壊され、取水用ポンプが稼働しなかったため、原子炉に冷却用の水を供給できなくなった。それが炉心溶融を起こした最大の要因である。事故後の福島第一においては、1~4号機に核燃料がデブリ(破片)として残っているため、徐々に減衰するものの、放射性物質の崩壊熱のために、常に水による冷却を継続しなければならない。この水は必然的に高濃度の放射性物質を含む。また、一般に原子力発電所の地下には地下水が流れており、雨が降れば雨水も所内の地面に染み込むため、正常な稼働時においてもこれらの水の漏出により管理区域外が放射性物質に汚染されないよう厳重に管理することが重要だ。福島第一の場合、事故による原子炉の破損で地下水や雨水も高濃度に汚染されていることから、水処理の難易度が著しく高まった。そこで大きく分けて2つの手が採られたのである。1つは原子炉建屋への地下水・雨水の流入を食い止めることだ。原子炉建屋周辺の地中に凍土壁を設けることや、山側から海へ地下水のバイパスを作り海洋放出を図った。その結果、1日の汚染水発生量は対策前には500㎥を超えていたものの、最近では100㎥程度へ抑制されている。もう1つの手段が、多核種除去設備(ALPS=Advanced Liquid Processing System)の活用である。高濃度汚染水には人体や生態系に甚大な影響を与えるセシウム、ストロンチウムなどの放射性物質が含まれている。ALPSはそのうちの62核種をほぼ取り除くことが可能だ。ただしトリチウム(三重水素=T)は除去できず、福島第一ではこの状態の水を「ALPS処理水」として発電所内に設けられたタンクに貯蔵している。今年5月18日現在その量は、処理前および処理途中の「処理途上水」と 合わせて133万㎥となり、敷地に建設されたタンクの容量の97%に達している(図表1)。ALPSでの除去が困難であることが示す通り、処理水からトリチウムを完全に取り除くには巨額の費用が必要だ。一方、大幅に減速したとは言え処理水は日々積み上がるが、タンクの建設には敷地面積など物理的な限界がある。さらに、天災やタンクの老朽化などによる管理されない形での漏出のリスクも高まりかねない。当然、なんらかの方法で最終処分を開始する必要がある。トリチウムは自然界にも存在し、放出するβ線は紙1枚を透過することができない。体内に取り込まれた場合でも、トリチウムは水と同じように体外へ排出されるため、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されている。2011年10月13日の会見において、フリージャーナリストが1996年のO-157問題が起こった際、厚生大臣時代にカイワレ大根を食べた菅直人首相(当時)の例を取り上げ、内閣府の園田博之政務官(同)に「飲んでみませんか」と迫ったことがあった。同月31日の政府・東京電力の統合対策室の合同会見で園田政務官は「私が飲んだからといって安全性が証明できるわけではなく、意義はない」としつつも、滅菌処理したコップ一杯の処理水を飲んでいる。ちなみに、ここが一般的な誤解の根源とも言えそうだが、トリチウムは福島第一が事故を起こしたから海洋放出が必要になったわけではない。原子力発電所が正常に稼働している状態において、発電の過程で発生するトリチウムは海洋、大気中に放出されてきた。人体を含む生態系、環境には影響が極めて小さいからだ。日本の原子力規制委員会は早い段階から、ALPSによる処理水について、十分に希釈した上での海洋放出を最も合理的としてきた。更田豊志委員長(当時)は、2018年8月22日の会見において、「規制を満たす形での(処理水の)放出である限り、環境への影響、健康への影響等は考えられない」と説明している。この時、記者による「希釈することによって、総和を考慮した上で法令濃度、法令基準を下回れば、規制委員会としては海洋放出については是とするということで良いか」との質問に対し、同委員長は即座に「おっしゃる通り」と回答した。さらに、資源エネルギー庁多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は、2020年2月10日に発表した『報告書』により、「社会的影響は大きい」としつつも、「海洋放出」、「水蒸気放出」を「現実的な選択肢」としている。この報告書は、同年4月2日に公表された国際原子力機関(IAEA)による『フォローアップレビュー』において、「包括的・科学的に健全な分析に基づいており、必要な技術的・非技術的及び安全性の側面について検討されている」と評価された。そうした経緯があり、2021年4月13日、菅義偉内閣(当時)は処理水の海洋放出を閣議決定したのだ。この決定を受け、同年12月21日、東京電力は原子力規制委員会に対し、2023年における海洋放出の開始へ向けた実施計画の承認を申請した。 国際問題化した「社会的影響」トリチウムを含む処理水の海洋放出は、科学的には人体、生態系への影響がないとされている。そもそも、同質の水は稼働中の原子力発電所において排出されてきた。残った課題はエネ庁の小委員会が指摘した「社会的影響」だ。これには2つの問題が含まれている。その1つは福島県の県民、農産物、水産物が受ける可能性のある風評被害だ。福島県産の食品については、香港、マカオを含む中国が広範に輸入を規制している他、韓国、台湾は一部の輸入を停止している。また、EU、スイス、ロシアなど7か国・地域は、検査証明の添付を義務付けてきた。事故直後に規制を発動した43か国・地域は既にそうした規制を撤廃したが、まだ12の国・地域には規制が残っているのだ。処理水の海洋放出による新たな風評被害のリスクが、地元の根強い拒絶反応の背景であることは間違いない。もう1つの問題は、韓国、中国など周辺国の厳しい反発だ。この両国は、トリチウムを含む処理水を「汚染水」と呼び、日本政府による海洋放出を厳しく批判してきた。もっとも、これまで科学的な観点からの論拠は示されていなかった。トリチウムについては、韓国、中国の原子力発電所も海洋放出している。韓国原子力水力発電の資料によると、2021年における4原子力発電所の放出量はいずれも福島第一のALPS処理水放出計画における放出量を上回っていた(図表2)。また、韓国海洋科学技術院、原子力研究院の共同研究チームが今年4月16日に韓国防災学会学術発表大会で示したシミュレーションでは、トリチウムが済州海域に流入するのは放出から4~5年後((海水の希釈効果は大きく、既に存在している海水中のトリチウム濃度との区別は難しいと言われている。このシミュレーションのように自国海域への流入を検出することは極めて難しいだろう。))とされた。また、10年後の濃度は1㎥当たり0.001ベクレルで、分析機器で検出することが難しいレベルになると説明されている。韓国において左派系と言われるハンギョレ新聞(電子版)によれば、韓国の共同研究チームはこの結果について、中国天然資源部第1海洋研究所が2021年に実施したシミュレーション、及び清華大学研究チームが2022年に行ったシミュレーションに「類似した結果」との認識を示したとのことだ。日本と利害関係のない科学者による個々に独立した研究結果が同じような結論に達しているのは、信頼性が高いと言えるだろう。なお韓国では現在、8サイト・25基の原子炉が稼働している。そのうち、7サイト・19基は日本海沿岸に立地しており、先述の通りトリチウムを海洋に放出している。そこから推測するに、日本の排他的経済水域(EEZ)には福島第一がこれから放出する想定量よりはるかに多いトリチウムが流入しているのではないだろうか(図表3)。韓国が不安を持つとすれば、ALPSが東京電力および日本政府が公表している性能を発揮しているのか、そしてトリチウムの海洋放出にあたり計画が順守されるのか──この2つの疑問が背景と推測される。韓国の野党である共に民主党など反日色の強い政党、団体は、この件に関し日本政府の「デタラメなデータと主張」(ハンギョレ新聞)への懸念を繰り返し批判してきた。したがって、専門家で構成する韓国の視察団のもたらす科学的な報告が、非常に重要な意味を持つことは間違いない。福島第一を訪れたこの視察団が特に重視するのはALPSの性能だろう。どのような評価が下されるのか注目される。 大きな一歩と重い責任5月31日、IAEAは“IAEA Review of Safety Related Aspects of Handling ALPS-Treated Water at TEPCO's Fukushima Daiichi Nuclear Power Station(福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の取り扱いの安全性に関するIAEAレビュー)”を発表した。その結論は、“The IAEA notes that these findings provide confidence in TEPCO's capability for undertaking accurate and precise measurements related to the discharge of ALPS treated water(ALPS処理水に関する正確かつ詳細な測定を実施した東京電力の能力について、IAEAは調査の結果、信頼に足るとの結論に達した)”としている。韓国の尹錫悦大統領は、これまで福島第一の処理水問題に関し、科学的見地を重視する姿勢を繰り返してきた。IAEAの報告書、そして今回の視察団の調査結果により、韓国政府が「汚染水」との表現を公式に「処理水」と変えれば、福島第一の廃炉工程が大きな峠を一つ乗り越えると共に、日韓関係の改善はさらに大きく進むことになるだろう。また、仮に韓国が「処理水」との立場を取った場合、処理水の海洋放出に表立って反対するのは中国、そして北朝鮮などに限られることになる。韓国が科学的見地から海洋放出を受け入れるとすれば、この問題に関して中国は振り上げた拳の降ろし方を考えなければならなくなるのではないか。岸田政権は、2050年におけるカーボンニュートラルの達成へ向け、原子炉の再稼働のみならずリプレースを容認するなど、東日本大震災以降の政府の原子力に対する姿勢を数歩前に進めてきた。それは、地球温暖化対策と電力の安定供給のバランスをとる上で、日本には原子力が欠かせないとの判断に基づくと見られる。そうしたなか、福島第一における処理水の問題は、これまで、韓国、中国などの批判が日本国内にも伝わり、エネルギー・原子力政策に一定の影響を与えて来たと言えるだろう。かならずしも科学的根拠に基づいたとは言い難い感情論による「社会的影響」への懸念論が、日本のカーボンニュートラル戦略の制約要因となっていた感は否めない。6月中にもまとまるとされる韓国視察団の報告内容、それに対する尹政権の対応は、今後の日本の原子力政策に大きなインパクトを与えるのではないだろうか。また、韓国が処理水の海洋放出を受け入れるとすれば、日本政府、東京電力は、国内漁業関係者、国民だけでなく、同国に対しても重い責任を負うことになる。信頼を裏切ることがないよう、安全に処理水の放出が進むよう万全の態勢で臨まれることを期待したい。
- 09 Jun 2023
- STUDY
-
水産加工業の復興 生産能力に比べ売上げの回復に依然遅れ
水産庁は6月2日、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の水産加工業者における東日本大震災からの復興状況に関するアンケート結果を発表した。2014年度以降、毎年、実施しているもの。今回、2023年1~2月に全国水産加工業協同組合連合会などに所属する6県・971企業を対象にアンケートを実施し、221企業から回答を得た。アンケート結果によると、生産能力が8割以上回復した業者は67%(前回調査では68%)、売上げが8割以上回復した業者は50%(同49%)と、「依然として生産能力の回復に比べ、売上げの回復が遅れている」ことなどが明らかとなった。「生産が8割以上回復した」と回答した業者の割合は最も高い青森県の76%に対し福島県は57%、「売上げが8割以上回復した」と回答した業者の割合は最も高い千葉県の65%に対し福島県は40%で、生産能力、売上げとも、福島県が他の5県に比べ遅れており、全体として資本金の規模が小さいほど生産能力、売上げの回復が遅れている傾向もみられた。6県全体で、震災前と同水準まで売上げが戻った理由として多かったのは、「新商品開発・新ブランドの開発」(22%)、「新規販売チャンネルでの販売」(21%)で、一方、震災前と同水準まで売上げが戻っていない理由として多かったのは、「原材料の不足」(29%)、「人材の不足」(23%)、「販路の不足・喪失」(22%)だった。
- 08 Jun 2023
- NEWS
-
2022年度エネルギー白書が閣議決定
2022年度のエネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)が6月6日、閣議決定された。エネルギー政策基本法に基づき、政府がエネルギーの需給に関して講じた施策の概況を取りまとめ国会に提出するもの。 今回の白書「第1部」(特集)は、福島復興の進捗エネルギーを巡る課題と対応GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた課題と対応――に焦点を当てている。 例年、「第1部」に取り上げている「福島復興の進捗」では、「引き続き、被災地の実態を十分に踏まえ、地元との対話を重視しつつ、施策の具体化を進め、復興に向けた道筋をこれまで以上に明確にしていく」と明記。福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する取組として、ALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の取扱いや、水中ロボットを活用した1号機原子炉格納容器内部調査など、最近の動きについて述べている。「エネルギーを巡る課題と対応」では、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらした世界的なエネルギー危機に対し各国で取られた対応や政策の動向などを整理。「短期的なエネルギーの需給ひっ迫や価格高騰を引き起こしただけでなく、中長期的にもエネルギー市場への影響を及ぼすことが予想されている」とした上で、欧州のLNG需要が高まる見通しから「『LGN争奪戦』は短期間で終わることはなく、今後も一定程度この傾向が続いていく」との予測を示し、今後のエネルギー・資源確保に警鐘を鳴らしている。「GXの実現に向けた課題と対応」では、脱炭素社会への移行に向けた世界の動向を整理し、日本の対応として、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の中から、エネルギー安定供給に係る取組について紹介している。
- 06 Jun 2023
- NEWS
-
福島第一ALPS処理水 韓国視察団の日程終了
福島第一原子力発電所のALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する。))に関する現状理解のため、来日していた韓国専門家による現地視察が5月25日、全日程を終了した。7日に行われた日韓首脳会談で、韓国国内における理解を深めるために実施が合意されていたもの。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉23、24日には、韓国のユ・グクヒ原子力安全委員長他、専門家ら20名が福島第一原子力発電所を訪問。外務省、経済産業省、原子力規制庁、東京電力など、日本側の同行のもと、多核種除去設備(ALPS)、貯蔵タンク、希釈放出設備、分析施設などを視察。発電所訪問後の25日、一行は日本側との意見交換に臨んだ。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室調整官は、今回、来日した視察団との技術的な質疑応答の詳細は明らかにしなかったが、「基本的に韓国側から要望のあった設備はすべて視察した」と説明している。日本政府は、これまでも韓国政府の他、各国・地域の在京外交団らに向け、ALPS処理水の取扱いに関するテレビ会議説明会などを開催してきた。今後も引き続き、福島第一原子力発電所の現地視察の実施を含め、情報発信を行い、国際社会の理解を求めていくとしている。なお、東京電力は25日、昨秋に本格開始した海洋生物(ヒラメ、アワビなど)の生育状況を「通常の海水」と「海水で希釈したALPS処理水」とで比較する飼育試験の進捗状況を発表。近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授より「ALPS処理水添加の水槽も、通常海水の水槽も生育状況に違いは見られず、自分の知見と比べても遜色なく良好である」とのコメントを受けたとしている。
- 26 May 2023
- NEWS
-
名古屋大 宇宙線による観測手法でナポリの遺跡を新発見
名古屋大学大学院理学研究科・森島邦博准教授らの研究グループは5月18日、上空から飛来する宇宙線ミュオンを利用した観測手法「宇宙線イメージング」により、イタリア・ナポリ市内地下10mに埋もれる「古代ネアポリス」遺跡の構造を可視化し、紀元前ギリシャ時代の埋葬室を新たに発見したと発表した。ナポリ大学との共同研究で行われたもの。ナポリ・サニタ地区には、未知の埋葬室が存在するという仮設が立てられていた。〈名大発表資料は こちら〉この「宇宙線イメージング」は、X線では測定不可能な巨大な対象物の周辺に、宇宙線を検出する特殊な写真フィルム「原子核乾板」を用いた検出器を設置して、岩盤1kmでも透過する宇宙線ミュオンの「エネルギーが高いほど透過能力が高い」特徴を利用し、対象物を通過するミュオンの飛来方向分布を計測。これを名古屋大独自開発のコンピューターシミュレーションにより分析することで、対象物を破壊することなく、内部の低密度領域、高密度領域の存在を把握し、未知なる空間の詳細構造の解明につなげるというもの。森島准教授らの研究グループは、同手法により、これまでも、エジプト・カイロ大学などとの共同研究で、クフ王ピラミッド内部に2つの未知の空間を発見するなど、研究成果をあげてきた。今回、発掘による考古学調査が困難な市街地における地下構造把握に極めて有効な手段となることが実証され、道路陥没事故を引き起こす地下空洞の探査など、都市部の防災技術への応用も期待されるとしている。「原子核乾板」を用いたミュオン測定手法は、軽量・コンパクトで電源を必要としないため、狭あい・過酷な環境下でも短時間で設置できる利点を持つ。森島准教授らは2015年に、東芝他との協力で、福島第一原子力発電所2号機の原子炉内部の透視に成功している。*森島准教授の研究は、放射線の基礎知識シリーズ「原子力ワンポイント」でも紹介されています。こちら をご覧ください。
- 23 May 2023
- NEWS
-
「福島」をためらう消費者は過去最小だが、報道の援護なし!
二〇二三年五月十九日 福島第一原子力発電所の処理水の放出がいよいよ目前に迫ってきた。ことの成否は消費者の意識次第だが、タイミングよく今年三月、消費者庁が「風評に関する消費者意識の実態調査」(第十六回)を公表した。とても重要な調査結果なのだが、ほとんど報道されていない。たとえ地味な結果でも、メディアはもっと現状を伝えてほしい。「福島産をためらう」は過去最小 処理水が実際に海へ放出された場合、最も注目されるのが、どのメディアも再三報じているように風評被害が生じるかどうかである。消費者が福島産の食品を従来通りに買ってくれれば、風評被害は発生しない。そこでポイントとなるのが、どれだけの消費者がいまなお「福島産食品を避けたい」と思っているかどうかである。 その重要な指標となる意識調査が今年三月十日、消費者庁から公表された。食品中の放射性物質を理由に購入をためらう産地を尋ねたところ、第1回(二〇一三年二月)の調査では「福島」を挙げる人が一九・四%もいた。ところが、今年一月(第十六回)の調査では五・八%と過去最小に減った。 放射性物質を理由に購入をためらう産地として、東北(岩手、宮城、福島)を挙げる人の割合も同様に減り、二〇一三年の一四・九%から、今回は三・八%に減った。安全な情報は国民に届かない これらの数字を見ていると、スーパーなどで放射性物質を理由に福島産や東北産を避ける人は確実に減っていることが分かる。こういう調査結果こそ大々的に報じてほしいのだが、新聞を見ていてもほとんど報じられていない。 「福島産が危ない」といったニュースは瞬時に流れるが、安全だというニュースはなかなか国民に届かない。「そもそもニュースとはそういうものだ。記者とは危ない情報を好む職業だ」といってしまえば、身もふたもないが、処理水の放出が目前に迫ったいまだからこそ、逆に安全な情報にニュース価値があるはずだ。どうもいまの記者の感度は鈍いと言わざるを得ない。 どの新聞の記者たちも処理水の放出で最大の懸念は風評被害だと書いてきた。ならば、風評被害が生じにくい空気が醸成されつつあることは喜ばしいことなのだが、記者にとって「喜ばしいことはニュースとしておもしろくない」となってしまう。風評被害の解消にはメディアの的確な報道が欠かせない。にもかかわらず、安全な情報をシャットアウトしてしまう。こういう記者のスタンスでは、やはり風評被害の解消は難しいのではないかと思いたくもなる。「検査知らない」は最高の六三% 一方、福島県ではいまも魚介類や食品の放射性物質の検査は継続して行われている。その結果も公表されているが、地味な話題のせいか、最近ではほとんど報じられない。その弊害は今回の調査結果にも表れた。 食品中の放射性物質の検査が行われていることを「知らない」と答えた人の割合は、二〇一三年の二二・四%から徐々に増え、今回はなんと過去最高の六三%にはね上った。「検査結果を知らない」ということは、よい意味に解釈すれば、もはや放射性物質のことは気にしていないということになるのだろうが、そういう無意識に近い状態のままだと突如、危ない情報が飛び込んでくると一気にひっくり返る恐れがある。 福島県の農林水産物のモニタリング検査結果(二〇二二年度)によると、米、野菜、果物、肉類、水産物など四七〇品目で一万二六四件が検査されたが、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルを超えた件数は、牧草・飼料作物の一件だけだった。もはや福島産を気にする理由は全くない状態になっている。こうした地味な調査結果を伝えるのが記者の仕事である。いや記者にしかできない仕事である。その自覚がいまこそ必要だろう。流通事業者の存在意義を示すとき 風評被害の解消に欠かせない存在として、記者以外に見逃せないのが流通事業者である。特に大手スーパーの存在意義は大きい。 もう昔の話になるが、一九九九年に埼玉県所沢市でダイオキシン騒動があった。所沢産のホウレンソウが焼却場由来のダイオキシンで汚染されているというニュースが民放テレビ(テレビ朝日)で流れた。この問題が一気に大きな話題となったのは、大手スーパーが所沢産ホウレンソウの取り扱いを中止したときだった。大手スーパーが取引を中止すれば、当然ながら、記者たちは「危ないネタ」に喜び勇んで駆けつけ、ビッグニュースに仕上げる。以来、ハチの巣をつつくような大騒ぎになった。 この問題は結局、訴訟になり、五年後の二〇〇四年、テレビ局が謝罪し、和解金一千万円を支払うことで終決を見た。深く考えることなく、危ないニュースに飛びつく報道のDNAに警鐘を鳴らす事件でもあった。 結論。処理水の放出にあたって、過去の経験から学ぶべきことは何だろうか。 まず記者は現状を冷静に伝えること、そして安全な情報はたとえ地味ではあっても国民に伝える価値があることを自覚して報じることだ。 一方、流通事業者は風評被害の火付け役になりうる自覚をもち、福島産食品をしっかりと店の棚に置いてほしい(もちろん科学的に安全だという条件付きだが)。店に福島産食品があれば、あえて買うことで福島を応援する消費者もいるだろう。店にモノがなければ、選びようがない。記者と流通事業者が「風評被害を生じさせない」という意識をもつことこそが、処理水放出の成否を握っているのではないだろうか。
- 19 May 2023
- COLUMN
-
福島県・内堀知事 G7広島サミットでの復興PRに意欲
福島県の内堀雅雄知事は5月15日の定例記者会見で、19~21日に開催されるG7広島サミットを前に、「復興の歩みを進める本県への理解を深めてもらう貴重な機会」ととらえ、県の復興状況の積極的な発信に意欲を示した。内堀知事によると、G7広島サミットでは、各国から来日する要人の食事に福島県産の食材を活用するほか、報道関係者の取材拠点となる国際メディアセンターにおいても、県産の酒・食品の展示コーナーが設けられる予定。知事は、既に終了した関係閣僚会合、「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15~16日)、「G7長野県軽井沢外務大臣会合」(4月16~18日)と同様、政府とも連携しながら、同センターでパネル展示を行い福島県の復興状況の発信に努めると述べた。また、福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))に係る国際理解に関し、5月12日の日韓外交レベルでの議論で「韓国専門家視察団の4日間の日本訪問」が合意されたことについて、内堀知事は、「国においては、こういった視察の場を活用し、科学的な事実に基づく正確な情報発信を行うとともに、引き続きIAEAなどと連携し、国内外の理解醸成に向け責任を持って取り組んで欲しい」と強調。韓国専門家視察団の5月中来日は、7日の岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との会談で合意されたもの。今回の視察団来日に際し、知事は県として具体的な対応予定はないとしたが、韓国側の「『汚染水』を『処理水』に改める」といった呼称を巡る動きに関して、「本質的な問題に係る重要な部分だと考える」との認識を示した。さらに、県内の除染により発生した除去土壌の再生利用に関する視察で来日したIAEA専門家チームが12日、国民の信頼醸成を今後の課題にあげたことについて、知事は、「科学的な安全論と社会的な安心感はイコールではなく、別の側面がある」として、リスクコミュニケーションの重要性を改めて述べた。
- 15 May 2023
- NEWS
-
ALPS処理水を巡る2度目のIAEA規制レビュー 日本側取組を評価
IAEA・カルーソ氏原子力規制委員会は5月10日の定例会合で、2023年1月に行われた福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)取扱いに関するIAEA規制レビュー(ミッション団長=グスタボ・カルーソIAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官)の報告書について原子力規制庁より説明を受けた。〈規制委発表資料 こちら〉同報告書は、ALPS処理水の海洋放出に関し、2021年7月に日本政府がIAEAによる支援を要請し署名した付託事項に基づき行われたレビューのうち、規制面でのレビューについて取りまとめたもの。1月のIAEAによる規制レビューは2022年3月に続き2回目となり、規制委員会へのヒアリングや現地視察を終了後、団長のカルーソ氏は、「前回のミッションで出たほとんどの問題について考慮されていることを確認できた」と、日本の規制当局の取組を評価した上で、3か月以内にも報告書を公表するとしていた。今回、IAEAが公表した報告書では、政府の役割と責任、主要概念と安全目的、認可プロセスなど、規制に係る5つの技術的事項に関するレビューについて記載。進捗報告書との位置付けで、結論には言及しておらず、「ALPS処理水の海洋放出開始まで、および放出開始後において、国際安全基準に照らし規制プロセスとその活動を引き続き監視する」としている。IAEAはレビュー全側面にわたる包括的報告書を年央にも公表することとしているが、原子力規制庁担当者によると、これに向けたミッションが5月末にも来日する予定。日本政府は海洋放出開始時期を春から夏頃と見込んでいる。トンネル掘進完了後の放水トンネルの様子©東京電力この他、10日の定例会合では、東京電力が昨秋に申請した福島第一原子力発電所廃炉に関する実施計画の変更認可が決定された。ALPS処理水の海洋放出に当たり、トリチウム以外に測定・評価を行う対象核種として29核種を選定し放出基準を満足することを確認するとしたもの。ALPS処理水の希釈放出設備の設置工事は、4月26日に全長約1,031mの放水トンネルの掘進が完了している。
- 10 May 2023
- NEWS
-
復興のススメ
先日製薬会社のMR(Medical Representatives; 医療情報担当者)の方とお話しする機会がありました。「コロナ禍になってから、感染対策のために病院へ出入りができなくなりました。その結果便利にもなりましたが、実際の患者さんを見たことのないMRが増えたことが心配です。患者さんがどんな風に苦しみ、なぜこの薬を提供しなくてはいけないのかが実感できないんです」病院を訪問するMRは地域の医療者にとって貴重な情報源です。しかしMRが出入りするだけで「製薬会社との癒着」と噂されることもあり、また今時現場へ足を運ぶのは非効率、という否定的な意見も多くあります。しかしその非効率的な待ち時間は、MRが医療現場を知る貴重な機会にもなっていたようです。ソーシャルディスタンスの為に導入された効率化システムにより、私たちは知らず知らずのうちに何かを失いました。では実際に何を失ったのか。今、それを見つめ直す時に来ていると感じます。コロナ禍と災害5月5日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言終了を発表しました。3年3か月続いた最高レベルの警告が解除され、コロナ禍は世界的にも節目を迎えたように見えます。世界規模の大災害の収束。それにも関わらず、過去の災害で見られた復興のエネルギーを、少なくとも今の日本ではほとんど感じられません。それはコロナ禍が今もなお自然災害と認識されていないことにも一因があるように思えます。日本においてパンデミックは他の自然災害と政府の担当部署が異なるため、政策上災害と呼ばれません。この結果、災害対策とコロナ対策では類似した対応が別の場所で行われる、という二度手間も生じています。緊急事態への経験豊富なDisaster Medical Assistance Team(DMAT)や自衛隊への協力要請がほとんど為されなかったことや、東日本大震災後に医療機関で策定されてきたオールハザード対応のBusiness Continuity Plan(BCP=事業継続計画)が機能せず、「感染症用BCP」を新たに策定する、という現象などもその例です。大災害の後、被災した人々は得てしてその災害を「おらが災害」化してしまいがちです。つまり自分たちの被った災害が随一と考え、他の災害と比較することを嫌うのです。コロナ禍も例外ではなく、このパンデミックを災害ではなく「コロナ禍」という独立した事件と認識し、災害とは独自の対応システムや用語を確立している場面をしばしば見かけます。しかし実際のところ、これまで何度か述べてきたとおり、コロナ禍に起きた社会現象の多くは過去の災害に酷似しているのです。災害復興の欠如コロナ禍が比類ない規模の自然災害であることは確かです。これが災害と認識されない一番の欠点は、災害にはつきものの「復興」というフェーズがないまま、平時に戻ったと思い込んでしまうことではないでしょうか。復興とは、災害などによって失われた社会の文化や機能を取り戻す行為です。しかしコロナ禍の社会においては、過去を振り返るという行為がすっかり抜け落ちた結果、復興という意識が希薄になっているように見えます。「新しい生活様式」「ニューノーマル」「ウィズコロナ」コロナ禍の間に作り出されたスローガンは、常に新しいものへの適応を呼びかけ続けます。もちろんコロナ禍で激変した生活に適応することは重要です。しかしこの適応は、目の前に飛んできた球を必死に打ち返す「災害対応」にすぎないことには注意が必要でしょう。球を打っている間、私たちは喪失感から目を逸らすことができます。しかし実のところ自分自身は一歩も進んでいません。飛んで来る球が尽きた時、「復興」という方向性がなければ、人々は呆然と立ち止まるか、昔通りの生活を漫然と模倣するだけに終わってしまうでしょう。過去という名の舵私たちの生き方の方向性を規定するのは、新しい何かではなく、過去の積み重ねです。東日本大震災の後お会いした、復興を支えてきた方々は、災害によって失われた過去から決して目を逸らしませんでした。美しいふるさとの風景、豊かな食文化、子どもたちの教育―失った過去の伝統や文化を見つめるからこそ、「同じものを取り戻す」のか、「新しい文化を創るのか」、つまり伝統に対する「守・破・離」の選択を続けられたのだと思います。新しい環境に適応し、それを楽しむだけの活動には、守るべき伝統も破るべき慣習もありません。それは私の目には、エンジンがあっても舵のない船のように映ります。失われたものを見つけなければ、取り戻したいものを取捨選択することもできないからです。登校せずに学生生活を終えてしまった学生は、何を失ったのか。マスクを着用して育てられた幼児にはそれまでの子どもと何が違うのか。失われた老舗のお店は生活の豊かさにどれほどの影響を与えたのか。3年前に失ったものを知るためには、現状の目まぐるしい変化に囚われ過ぎず、意識的に懐古にふける時間が必要です。自身が被災者であり支援者でもある復興これまで災害の支援者であった人たちも、今回は全員が被災者です。だからこそ、全員が支援者にもなれる、とも言えるでしょう。なぜなら自分自身を支援することこそが復興となるからです。個々の人間が内を向き、蓋をしていた喪失感を直視する。取り戻したい何かを認識して初めて、今度は自分自身への支援、すなわち経験を生かして新しいものを創生できるのだと思います。コロナ禍明けを素直に楽しむことも大切です。しかし同時に、私たちは次に訪れる大災害へ向けた社会の余力を一刻も早く取り戻す必要があるのではないでしょうか。現状の解放感に何か空疎なものを感じる個人からの、ちょっとネクラな復興のススメです。
- 10 May 2023
- COLUMN
-
飯舘村の避難指示が一部解除
福島県飯舘村に設定されていた避難指示の一部が、5月1日午前10時をもって解除された。帰還困難区域のうち、避難指示を先行して解除し居住を可能とすることにより復興・再生の推進を図る「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)として設定された約186haの地域と、それ以外の一部地域が該当。復興拠点として、県内6町村・計約2,800 haの地域が国により認定されていたが、今回、そのすべてで避難指示が解除となった(富岡町の一部を除く)。飯舘村で避難指示が解除された長泥地区では、除染に伴い発生する除去土壌の減容・再生利用に向けた実証事業が行われている。村内の仮置場などに保管されている除去土壌を再生資源化し農地を造成する取組で、これまでに、カブ、キュウリ、ズッキーニ、レタスなどの食用作物や花き類を栽培。収穫した食用作物は、十分な生育状況とともに、放射性セシウム濃度が基準値を大きく下回っていることが確認されている。飯舘村の避難指示解除は4月25日、政府の原子力災害対策本部で決定された。福島県の内堀雅雄知事は、5月1日午後の定例記者会見で、「帰還困難区域全体の復興・再生に向けた大きな前進となる」と、その意義を改めて強調。今後、復興拠点以外の帰還困難区域の避難指示解除に向けても、「各自治体で帰還意向の調査が進められている。除染の範囲、帰還しない住民の家屋をどうするかなど、課題を解決しながら、国・県・市町村が一体となって方向性をしっかりと整備していく」と述べ、県として全力で取り組んでいく考えを示した。また、折しも大相撲五月場所の番付発表となった同日、福島県出身の若元春関の新関脇昇進について所感を問われたのに対し、内堀知事は、「一番一番ベストを尽くして活躍する姿は、復興・創生に向かって歩みを進めるわれわれ福島県民を大いに勇気づけている」と喜びをあらわにした。「大波三兄弟」力士として知られる若元春関は、一月場所の小結昇進後、2場所連続勝越しの好成績をあげている。
- 02 May 2023
- NEWS
-
春の叙勲 元原子力規制庁長官の池田克彦氏が瑞宝重光章
瑞宝重光章を受章する池田氏(2015年、全原協総会にて)政府は4月29日、春の叙勲受章者を発表した。原子力規制庁の初代長官を務めた池田克彦氏が瑞宝重光章を受章する。同氏は、2012年9月に発足した原子力規制委員会の事務方トップとして2015年7月まで在任。福島第一原子力発電所事故後の原子力規制行政の建て直しに尽力した。池田氏は、同職就任以前、警察官僚として警察庁警備局長、警視総監などを歴任。警備部門の経験が豊富で、1995年の「地下鉄サリン事件」以降、有毒ガス発生事案に注目が集まった時期、NBC(核、生物、化学)テロ対策訓練で指揮を執ったこともある。現在は、日本道路交通情報センター理事長。同氏は雑学本の著者としても知られている。
- 01 May 2023
- NEWS
-
経産省 ALPS処理水の風評影響でアンケート調査
経済産業省はこのほど、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の風評影響について、農林水産業(生産者)、食品製造・卸売・小売業者など(生産者以外)を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。復興相をヘッドとする原子力災害に伴う風評対策に関するタスクフォース会合で4月13日に報告されたもの。調査は、福島県およびその近隣道県に所在する事業者を対象として2022年11~12月に実施。生産者以外については、同道県産農林水産物の主要出荷先となる都府県(東京、神奈川、愛知、大阪など)所在の事業者も含んでおり、合計で約3,000件の回答(同一事業者が複数業種で回答したものも含む)を得た。調査結果は、生産者、生産者以外でそれぞれ整理。政府によるALPS処理水の処分方針決定後の販売動向について、生産者では約45%、生産者以外では約40%が「何らかの注視すべき動きがある」と、先行きを懸念していることがわかった。その中で、生産者については、販売価格低下、販売量減少、販売条件の悪化、販売先による取引停止、クレームの増加、問合せの増加の各項目について回答を分析。いずれの項目とも、業種別で、水産業者が最も高い比率で「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしてあげていた。項目別で、全業種ともに最も比率の高かった販売価格低下をあげた事業者は、水産業者で55.1%、米農家で22.9%、野菜農家で19.8%、畜産業者で17.5%、果樹農家で17.1%だった。また、生産者以外については、販売量減少、客数の減少、他地域産品への変更要請・取引停止、問合せの増加、販売価格低下、販売条件の悪化(陳列方法など)、クレームの増加の各項目について回答を分析。「販売先の動向として注視すべき動きがある」ものとしては、食品関連業種で販売量減少をあげた比率が高く、食品製造業で29.6%、食品卸売業で29.4%、食品小売業で23.2%だった。同じく、販売価格低下については、食品製造業で12.9%、食品卸売業で19.7%、食品小売業で10.3%だった。外食業・宿泊業では、客数の減少をあげた比率が15.8%で最も高かった。一方で、自由記述の回答や個別ヒアリングの範囲からは、生産者、生産者以外のいずれとも、現時点では、取引停止などの具体的な影響が発生していることは確認されておらず、「将来的な影響の発生を懸念している事業者がほとんど」と考察している。なお、経産省では4月24日、小売関係の業界5団体(日本チェーンストア協会、全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会、オール日本スーパーマーケット協会)と、「ALPS処理水の処分に係る風評対策・流通対策連絡会」を開催。太田房江副大臣より、先の調査で「効果的だと思う取組」として回答割合の高かったモニタリングデータの発信、リーフレット、Q&A集の作成とともに、今後、現場での取組状況を視察してもらう勉強会を企画していることなどが説明された。
- 25 Apr 2023
- NEWS
-
【第56回原産年次大会】大熊町のこれまでとこれから
「第56回原産年次大会」2日目のセッション3「福島復興の今と未来」では、東京電力から廃炉状況の説明を受けたのち、福島県双葉郡大熊町にスポットを当て、震災から12年が経過した現状と今後の取り組みについて、大熊町長の吉田淳氏と大熊町商工会会長蜂須賀禮子氏が講演。モデレーターに長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏を迎え、ディスカッションがおこなわれた。最初に高村氏が「福島復興のこれまでとこれから」について、チェルノブイリ事故と福島第一事故の比較、福島復興、長崎大学による復興支援の取り組みなどを紹介。311事故当時、長崎大学でチェルノブイリ対象の甲状腺がんの診断支援などをおこなっていた高村氏は、事故の一週間後に福島へ入り、事故における危機管理として放射線被ばくと健康への影響などを説明するクライシスコミュニケーションをいわき市から始めたという。長崎大学の福島復興支援事業として翌年には川内村に復興推進拠点を設け、長崎大学の保健師が常駐して、帰還した住民を訪問、あるいは、小さなグループでのリスクコミュニケーションを実施した。現在、川内村では約8割の住民が帰還している。その一方で、事故前には人口約1万人いた大熊町に、現在帰還しているのは10%に満たないなど、12年が経つと復興のフェーズが自治体ごとに異なる現状が顕著に浮き彫りになることを高村氏は指摘。「震災から12年が経過した。今回は大熊町の今について皆さんと思いを共有する機会としたい」と、大熊町町長の吉田淳氏の講演につないだ。吉田氏は、震災から12年が経ち、ようやく復興のスタートを切ることができたと感謝の意を表し「大熊町の復興状況について」と題して、復興の進捗と取り組みを紹介した。大熊町の居住制限区域、避難指示解除準備区域は、2019年4月に避難指示が解除された。帰還困難区域の中の特定復興再生拠点区域(復興拠点)においては2022年6月30日に避難指示が解除された。大熊町で最初の復興拠点となった大川原地区の取り組みについて、令和元年5月に大熊町役場新庁舎が業務を開始し、帰還者のための災害公営住宅や新たな転入者を受け入れる再生賃貸住宅も同年に入居が始まったことを報告。令和3年に宿泊温浴施設「ほっと大熊」、交流施設「linkる大熊」、商業施設「おおくまーと」をオープン。医療・福祉施設診も整備した。認定こども園と義務教育学校が一体となる学校教育施設「学び舎 ゆめの森」では、この4月10日に入園式、入学式、始業式、これらを一つにまとめた始まりの式をおこなった。吉田氏は、学校の再開で、帰還する家族、移住してくる家族が増えることに期待を寄せた。蜂須賀氏は「復興のひかり」をテーマに、東日本大震災から今日に至るまで国内外からの支援に感謝の意を表し、今の思いを語った。かつて蜂須賀氏は大熊町で小さなフラワーショップを営んでいた。地元の中学校の卒業式に花を納め、ほっと一息をつこうとする矢先に大きな地震がおきた。全町避難という命令が出され生活が一変した。震災当時を振り返り、12年が経つ今も「心の安心、心の復興を感じられない」と打ち明ける。今も蜂須賀氏は避難者として、大熊町から60km離れた郡山市で生活し、週に3回ほど大熊町の商工会館に通っているという。大熊町商工会には現在260名ほどの会員がいるが、町内の小さな事業者の廃業は続く。早く帰還できなかったこと、帰還して事業を再開してもきてくれるお客様が戻らないことなど、事業継続の難しさを語った。震災当時、50年間は住めないと言われていた大熊町も、今や12年目にして復興拠点地域には役場新庁舎、復興住宅、集合店舗、交流施設ができ、年間1万人以上の利用者がある。蜂須賀氏は、福島民友に掲載された写真付きの記事を示し、家業を引き継いだり新しい事業を起こしたりと懸命に取り組む大熊町商工会青年部の部員たちの話をした。その中で、ある部員が「福島原子力発電所ができること、働くことを自分たちの親は誇りにしていた。今度は、事故が起きた発電所の廃炉作業に自分たちが参加して、廃炉にしたことを子どもや孫たちに自慢をしたい」と語ったという。「変えられるものが二つある。それは自分と未来だ」という福島の偉人、野口英世の言葉を引用し、「12年間かすかな光の中で歩み、未来に向かう若者が前に進もうとしている。未曾有の事故を起こした発電所の廃炉作業において、科学的根拠に基づき、IAEAなどによる安全性の検証、第三者機関による監視を徹底し、地元住民にクリアな情報を伝えていただかないと自分たちにも若者たちにも未来はない」と、蜂須賀氏の思いがこもる言葉で講演を終えた。その後、高村氏の進行で大熊町の将来について意見交換がおこなわれた。吉田氏は、「大熊町の復興は前町長の渡辺利綱氏の強い思い入れと多くの人の支えがあってこそ。教育や起業する人を応援することが恩返しであると考え、大熊インキュベーションセンターは、家賃や光熱費を安くして若い世代が活用しやすくした」と述べた。蜂須賀氏も、商工会には大熊インキュベーションセンターを利用する若者たちと検討している創業塾を開く計画があるとし、「大熊町で生まれ育った人たちと新しい人たち、新しい風、新しい考え方が加わり、一歩進んだ大熊町になる」と続けた。「医療体制についても浜通りの復興において重要なキーワードになる」と高村氏。これに対し、吉田氏も自身が富岡町に新しくできた医療センターで治療を受けた経験を踏まえ、大熊町にも日常的に救急医療に対応できる医療機関の必要性に同意した。医療と並んで地域の復興に欠かせないものに教育がある。今年の4月に大熊町で教育活動が再開したことについて、「0歳から100歳まで、皆が一緒に学べる場にしたい」と吉田氏は語る。「施設が贅沢ではないかと言われることもあるが、元々は、幼稚園が2つ、小学校が2つ、中学校が1つ、保育所が1つ、児童館があったものを1つにまとめた施設。だからこそユニークな建物になる」と、他にはない施設の魅力をアピールする。蜂須賀氏も「大熊町の『学び舎 ゆめの森』に行かなければ『この授業を受けられないんだ』『こんなに楽しいんだ』」と、通いたい気持ちを持ってもらえるような学校になるよう、地域住民で見守っていきたいとエールを送る。意見交換の締めくくりとして、吉田氏は「大熊町の復興は他の地域に比べると遅れている。約11,500人がいた人口は今なお1,000人弱にとどまる。それでも、大熊町には伸びしろがある。まずは人口を増やす。住む場所を増やす。工業団地も整備を進める。遅れを取り戻すべく、期待と支援をお願いしたい」と語った。蜂須賀氏は「大熊町は夢を描ける街。良い方向に変わっていく大熊町を一緒に見守っていただきたい」とのメッセージを参加者に訴えた。
- 21 Apr 2023
- NEWS
-
西村経産相がグロッシーIAEA事務局長と初会談
西村康稔経済産業相は4月20日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談を行った。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の取扱い、ウクライナ情勢が主な内容。両者による会談は初めてのこと。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉西村経産相からは、ALPS処理水の安全性に関するレビューに係る諸活動への謝意とともに、引き続き日本政府として、IAEAによる厳格なレビューにしっかり対応していくことが述べられた。さらに、IAEAによる継続的な情報発信を改めて要請するとともに、科学的根拠に基づく透明性ある情報発信の重要性を確認。加えて、先般、「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」(4月15、16日)が採択したコミュニケの中で、「ALPS処理水に関するIAEAによる独立したレビューを支持する」との記述が盛り込まれたことに言及した。ALPS処理水の安全性レビューで、IAEAは年内にも包括的報告書を公表することとなっている。また、ロシアからの侵攻を受けているウクライナの原子力施設の安全確保に関しては、グロッシー事務局長が「最前線で指揮を執っている」との現状。経産省として、IAEAに対し200万ユーロの拠出(2022年度補正予算で2.7億円計上)を行ったことを明らかにした。同拠出金事業は、IAEAによるウクライナ・ザポリージャ原子力発電所の安全確保・回復に向けた調査団派遣などの取組を踏まえ、日本の民間企業が有する技術や知見を活用し支援を図るもの。今後の具体的な支援内容に関し、資源エネルギー庁原子力政策課では、「まずは現地のニーズを丁寧に把握することが必要」などと説明している。
- 21 Apr 2023
- NEWS
-
原子力機構 事故耐性燃料の早期実用化を目指し開発に取り組む
原子力の革新的安全性向上に向けた取組の一つとして、事故耐性燃料(ATF)の開発が国内外で進められている。福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、燃料被覆管を金属でコーティングすることなどにより、酸化や水素発生を防ぎ安全性を高めるもの。将来的には革新型軽水炉への適用も視野に、できるだけ早期の実用化を目指している。日本原子力研究開発機構の大井川宏之理事は、4月4日の原子力委員会定例会合で、日本におけるATF研究の現状と今後の見通しについて説明した。福島第一原子力発電所事故では、ジルコニウム合金被覆管の酸化により温度が急上昇し、水素発生に至ったことから、これを抑制・緩和することで事故への対処時間を引き延ばすことが可能となる。日本におけるATF開発は、2015年頃より本格的に開始されており、原理実証、工学実証と段階を経た後、2030~35年頃に実用化される見通し。メーカー各社が開発に取り組むATFの候補材料としては、「炭化ケイ素燃料被覆管」(BWR・PWR用、東芝エネルギーシステムズ他)、「改良ステンレス鋼被覆管」(BWR用、日立GE/グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン)、「クロムコーティング被覆管」(PWR用、三菱重工業/三菱原子燃料)があり、原子力機構は、共通基盤技術開発、事業者間の連携推進に当たる。大井川理事は、これらATF要素技術開発に係る試験・評価、さらに、米国、フランスにおけるATF開発の状況について説明した。委員から日本のATF開発の課題について問われたのに対し、大井川理事は「照射炉を持っていないことが大きなネック」と、技術基盤に係る弱みに懸念を示した。実際、新型燃料開発では、海外試験炉や国内加速器施設を用いた試験データ取得が行われている。原子力機構では、2022年3月、12月に、ATF開発に関し国内のステークホルダーが一堂に会するワークショップを開催しており、その中で、同機構の技術担当者は「ATFは、短期的な経済合理性だけならば、開発が先行する米国から購入する方法もあるが、中長期的に技術基盤・人材の維持・確保を考えた場合、自主開発が必要」などと、開発の意義を強調している。
- 10 Apr 2023
- NEWS