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原産協会・新井理事長、次世代革新炉開発の動きを歓迎
原産協会の新井史朗理事長は9月30日、記者会見を行い、同月22日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で専門委員として発言した早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレースについて改めて紹介。同小委員会は、西村康稔経済産業相が8月に示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を受け、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――について検討を行っている。新井理事長は、「今後、原子力がその価値を十分に発揮できるよう、様々な視点から議論が進むことを期待する」と強調した。次世代革新炉の開発に関連し、9月29日に三菱重工業がPWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」の基本設計を進めると発表したこと〈既報〉については、原子力を持続的に活用していく上での必要性を認識し、「人材育成・確保という観点でもよい影響を与える」などと歓迎。一方で、記者から今後の建設具体化に関して問われ、立地点も見通した開発プロジェクトを持つ北米と比べやや遅れをとっている日本の状況に懸念を示したほか、事業の予見性を確保していく必要性、サプライチェーンに与える好影響にも言及した。また、運転期間の延長については「世界的な潮流」と強調。米国で進められている80年運転の動きにも関連し、運転期間延長の判断に係る不確かさについて問われたのに対し、「運転実績が積み上がれば積み上がるほど、先の見通しがつきやすくなる」と述べ、不確かさの幅も含めた判断の必要性を示唆した。今回、新井理事長は、9月26~30日にウィーンで開催されたIAEA通常総会へのオブザーバー出席から帰国直後に会見に臨み、今次総会の所感として、「多くの国からウクライナ原子力施設に対する軍事行動への非難と、事故を未然に防ぐためのIAEAの役割に対する期待が述べられ、IAEAの取組の重要性がこれまでになく高まっていることを実感した」と述べた。その上で、改めて「ウクライナの原子力施設に対する軍事行動や、ウクライナの原子力安全を脅かすすべての行為」への断固たる反対を明言した。
- 03 Oct 2022
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三菱重工、電力と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」開発へ
三菱重工業は9月29日、PWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で、将来にわたる日本のエネルギー安定供給に向けて、従来のPWRよりもさらなる安全性向上が図られた革新軽水炉「SRZ-1200」のプラントのコンセプトを確立し、今後、基本設計を進めていくと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉同社の発表によると、「SRZ-1200」は120万kW級の発電炉で、安全系設備の強化、地震・津波などの自然災害への耐性、テロ・不測事態に対するセキュリティ強化といった安全性・信頼性向上について新規制基準を踏まえ開発を進めている。新たな安全メカニズムとしては、プラントの状態に応じて自動作動する設備(パッシブ設備)となる三菱重工独自の高性能蓄圧タンク(窒素ガス加圧による自動炉心注水)やコアキャッチャー(溶融デブリを格納容器内に確実に保持・冷却する設備)を設置するほか、万一重大事故が発生しても放出される放射能量を低減し影響を発電所敷地内に留めるためのシステム設計にも取り組む。さらに、再生可能エネルギーなど、他電源の電力量変化に柔軟に対応可能な出力調整運転や水素製造も視野に入れていく。開発を進める革新軽水炉の名称“SRZ”には、S:Supreme Safety(超安全)、Sustainability(持続可能性)R:Resilient(しなやかで強靭な)Z:Zero Carbon(CO2排出ゼロ)の意味が込められている。三菱重工が標榜する原子力技術開発の展望(三菱重工発表資料より引用)三菱重工では、これまでも原子力技術の継続的な利用に向け、既設軽水炉の再稼働推進とともに、次世代軽水炉、将来炉(小型炉、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉)、核融合炉の開発・実用化を目指し、短・中・長期にわたる開発計画を策定し取り組んできた。総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会では8月に、「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発のロードマップ」(骨子案)を取りまとめ、2050年以降を見据えた革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の各炉型に係る研究開発、建設・運転に向けた技術ロードマップとともに、原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略を示している。原産協会の新井史朗理事長は、30日に行われた月例の記者会見で、次世代炉の開発に関し、中長期も見据え「原子力を最大限活用していく」ことへの意義を強調した。
- 30 Sep 2022
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原産協会、サプライチェーンの維持・強化に向け提言
原産協会の新井史朗理事長は7月22日、記者会見を行い、同日発表の「サプライチェーンの維持・強化に向けた提言」について説明し質疑に応じた。新井理事長はまず、先般の岸田首相による「この冬に向けて最大9基の原子力発電所の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する」との発言に言及。同発言は「(岸田首相の)原子力に対する強い期待が述べられたもの」と指摘した。その上で、今回の提言に至った経緯について、「昨年10月に策定された第6次エネルギー基本計画に明記された原子力の持続的活用を可能にするためにはサプライチェーンの維持が極めて重要」との問題意識から、会員企業へのアンケート調査や分析を実施したと説明した。提言は、原子力発電所早期再稼働のためのあらゆる取組の実施新増設・リプレースを明記したエネルギー計画の明示原子力発電所の新増設・リプレースに投資が可能な事業環境整備大型軽水炉を含む革新炉の技術開発や実証事業への支援拡大機器や部品の輸出振興に関する包括的支援策の検討──の5項目からなる。新井理事長は、同提言に先立ち原産協会が2021年9~11月に実施し会員企業154社から回答を得たアンケート調査の結果について紹介した。それによると、2010年度と比較した売上高は22%が増加傾向と回答している一方で、48%が減少傾向と回答。また、減少傾向と回答した企業はその理由を「発電所の停止」と回答していることなどから、新規制基準対応のための安全対策工事に従事する企業は売上高が増加しているものの、運転・保守に従事する企業では売上高が減少していると分析した。原子力発電所の運転停止に伴う影響として、「技術力の維持・継承」をあげた企業は56%に上っており、これに関し、新井理事長は「新設経験のない国はもとより、欧米でも10年間建設が途絶えると予算・工程通りに進まない状況にある」などと、空白期間が長くなるほど技術力の回復に時間を要することを懸念。また、足下の課題となる再稼働に向けた効率的な審査に関しては、電気事業連合会による「再稼働加速タスクフォース」を通じた業界横断的な取組の他、原子力規制委員会で随時行われる事業者の原子力部門責任者との意見交換(CNO会議)や原子力エネルギー協議会(ATENA)の活動に期待を寄せた。革新炉の技術開発や国際展開に関しては、技術力の維持・向上や学生への関心喚起に向け「魅力的なプロジェクト」となるよう切望した。
- 22 Jul 2022
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原産協会、島根2号機の再稼働に期待
会見を行う原産協会・新井理事長原産協会の新井史朗理事長は6月24日、記者会見を実施。中国電力島根原子力発電所2号機(BWR、82万kW)の再稼働に向けた期待を改めて述べた。新井理事長はまず、6月2日に島根2号機の再稼働に係る島根県・丸山達也知事の同意を受けて発表した理事長メッセージを紹介。「PWRに比べて再稼働が遅れているBWRに関し、地元自治体から了解をいただいたことは大きな意義を持つ」と強調した。また、昨今のエネルギーを巡る世界情勢に関し、「ロシアによるウクライナ侵攻開始から丁度4か月となった」とした上で、化石燃料のロシア依存度低減に向けた動き、国際的な資源・エネルギー価格の高騰や円安の進行によるエネルギーコストの負担増を踏まえ、エネルギー自給率の低い日本にとって「各国による資源争奪戦の影響は小さくない」と懸念。日本の国富流出への強い危機感を示すとともに、今夏の、特に東京エリアにおける厳しい電力需給見通しを見据え、「エネルギーの安定供給は、国民生活とあらゆる経済活動の土台であり、エネルギー安全保障なしには脱炭素の取組もなしえない」との考えを改めて述べ、「S+3E」(安全、安定供給、経済効率性、環境への適合)の観点から「原子力の活用が不可欠」と訴えかけた。また、新井理事長は、G7サミット(6月26~28日、ドイツ・エルマウ)に向け、原産協会がカナダ原子力協会、欧州原子力産業協会、米国原子力エネルギー協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会とともに発出する共同声明を紹介。共同声明は会見終了後に公表されており、「原子力はエネルギー安全保障を強化し環境目標に貢献できる」と強調している。新規制基準の施行から間もなく9年を迎えるが、記者から事業者側の再稼働に係る姿勢に関して問われたのに対し、新井理事長は、「27基の審査申請がなされたうち、10基が再稼働したが、ややスローペースではないか」と振り返った上で、原子炉設置変更許可に続く設計・工事計画認可や地元了解に要する時間、審査の効率化に向けた動きにも言及しながら、審査において迅速にレスポンスを図る努力に期待を示した。
- 27 Jun 2022
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原産協会が定時社員総会開催、今井会長「原子力の最大活用」を強調
原産協会は6月16日、日本工業倶楽部(東京千代田区)で定時社員総会を開催した。開会に際し、今井敬会長(日本経済団体連合会名誉会長)が挨拶。今井会長は、昨今のウクライナ情勢に伴うエネルギー需給ひっ迫への懸念も示し、「エネルギーの危機的な状況を、原子力の最大活用によって一刻も早く改善していかねばならない」と強調。さらに、5月に政府が「クリーンエネルギー戦略」策定に向けた中間整理を取りまとめ、その中で「再生可能エネルギーと並んで、原子力を最大限活用する」ことが明記されたことに触れ、改めて「再稼働の着実な進展や、既設炉の徹底活用、将来の新増設・リプレースなど、原子力の最大限活用について強く訴えていきたい」と述べた。また、原子燃料サイクルの中核として2022年度上期にしゅん工が予定される六ヶ所再処理工場については、「今回こそは無事にしゅん工することを願っている」と期待を寄せた上で、「わが国における原子燃料サイクルの一日も早い確立と、最終処分事業の着実な進展に一層の努力をしていきたい」と表明。この他、高品質なサプライチェーンの維持、優秀な人材の育成と確保、原子力に係る社会全体の理解の必要性を述べた上で、原産協会として、「国民理解の促進」、「人材の確保・育成の推進」、「国際協力の推進」を3本柱に、原子力産業の再生に向けて取り組んでいく姿勢を示した。続いて、来賓挨拶に立った経済産業省の岩田和親大臣政務官はまず、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策、福島の復興を最重要課題に位置付け取組を進めていくことを改めて強調。さらに、昨今のウクライナ情勢や3月の東日本における電力需給ひっ迫を振り返り、「原子力を含め、わが国のエネルギー安定供給の重要性を再確認するきっかけとなった」とした上で、2022年度の厳しい電力需給見通しを踏まえた政府による対策に関し、参集した会員企業らに対し理解・協力を求めた。再稼働の円滑な進展に向けては、「産業界と連携し的確な安全審査対応をサポートするとともに、国も前面に立ち、立地自治体、関係者、社会全体の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組んでいく」と述べた。また、文部科学省研究開発局長の真先正人氏が末松信介大臣の挨拶を代読。「原子力イノベーションの創出に向け産業界と一体となって取り組んでいく」などと、原子力人材・技術基盤の維持・強化に向けた姿勢を示した。島田新副会長が総会後の会員交流会で就任挨拶今回の総会では7名の理事交替を決定。副会長については、宮永俊一氏(三菱重工業会長)が退任し、島田太郎氏(東芝社長)が就任した。
- 17 Jun 2022
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原産協会、「原子燃料サイクルを考える座談会」を八戸で開催
「原子燃料サイクルを考える座談会」(原産協会主催、東奥日報社共催)が5月12日、青森県八戸市内のホテルで開催された。原子燃料サイクルの中核となる施設の一つ、日本原燃六ヶ所再処理工場の2022年度上期しゅん工に向け、地元関係者を対象とした座談会開催を通じ同社の県内における理解活動を支援するもの。NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長の秋庭悦子氏(モデレーター)、ユニバーサルエネルギー研究所社長の金田武司氏、八戸工業大学工学部教授の佐藤学氏の3氏が登壇し、地元の行政関係者、商工団体関係者、地域オピニオンリーダーら約70名が来場・傍聴した。「暮らしの視点でエネルギーを考える」をモットーに全国で原子力・エネルギーに係る理解活動に取り組む秋庭氏は、「資源の有効利用の観点から今、リサイクルは大変重要な問題となっている」と議論に先鞭。てい談に先立ちまず、金田氏と佐藤氏がそれぞれ、昨今のエネルギーを取り巻く世界情勢、地元のエネルギー教育からみた原子力の意義を説くショートスピーチを行った。世界のエネルギー事情を力説する金田氏、スクリーン上にはテキサス州の電気料金暴騰を示すグラフが「サボテン、砂漠、西部劇を連想させる米国テキサス州で雪が降るなんて想像できるだろうか」と切り出し、金田氏は、2021年2月にテキサス州を襲ったまさかの大寒波、それに伴う380万件以上に上った大規模停電の要因を分析。当時の状況は、「州の電力供給のうち、約4分の1を占めている風力発電設備が寒波で凍りつき大停電が発生。コートも着たことがないような人たちが、マイナス18℃の極寒にさらされ死者も出た」という。テキサス州は米国最大の天然ガス生産地であることから、海外メディアの報道を引用し「食料品店で餓死するようなもの」と例えた。また、「一般家庭で月180万円の電気代が請求され払えない人が続出した」背景として、州の外から入る送電線がほとんどなく自由化の進むテキサス州の電力事情に触れた上で、市場原理から「選択肢があるときは一番安いものを選べるが、選択肢がなくなったとき、価格が高騰し自由が仇となってしまう」と説明。寒波を教訓としてテキサス州では発電事業者に対し冬季対策を要求する法律・ガイドラインを制定している。この他、金田氏は、ウクライナ危機に伴う欧州における天然ガス価格の急騰、日本に関しては、政情不安なホルムズ海峡を含む「オイルロード」を経由し輸送される石油への依存などに触れ、「エネルギーの問題は昨今の世界情勢と非常に深く関っている」と強調した。八戸工大の原子力基礎教育について語る佐藤氏(表は青森県制作のパンフレットより引用)続いて、佐藤氏は、八戸工業大学が取り組んできた地域のゼロカーボン化を図る地産地消の電力供給「再生可能エネルギー100%による自営線マイクログリッド実証システム」(新エネルギー・産業技術総合開発機構〈NEDO〉のプロジェクト)への協力や、原子力基礎教育について紹介。同学は学科横断型プログラムの一つとなる「原子力工学コース」を開講しており、佐藤氏は、「機械、電気、情報など、それぞれの工学分野の課題解決力に加え、原子力・放射線の知識も養うことで、原子力立地地域で貢献できる人材育成に努めている」と、原子力基礎教育の意義を強調。座学だけでなく、県内に多数立地する原子力関連施設での実習や他大学との連携なども通じ、「学生の原子力に対する関心や知識が高揚するとともに、原子力関連分野への従事意欲も高まっている」とした。また、同氏は、今回の座談会のテーマに関連し、小坂製錬の複合リサイクル製錬所(秋田県)に言及。同所はかつて、同和鉱業小坂鉱山として非鉄金属を産出し、市街地を温泉経由で結ぶ鉄道が知られていたが、現在では、廃品から金、銀、銅、亜鉛など、約20種類の有価金属を回収し製品化する「都市鉱山」として機能している。トークセッションが開始、秋庭氏(左)はスクリーン上に原燃サイクル施設の概要を示し「これだけ集結しているのは世界でも六ヶ所村が唯一」と強調トークセッションに移り、座談会前日に六ヶ所再処理工場を訪れ安全性向上に向けた取組についても説明を受けたという秋庭氏は、「なぜ日本は原子燃料サイクルを推進しているのか考えてみたい」と問題提起。これに対し、金田氏は、「エネルギー資源のない国だからこそ、リサイクルするのは当然」としたほか、「廃棄物の量・有害度を低減することもできる」と、そのメリットを強調。さらに、安全性の理解に関し、「まず、再処理工場で何が行われているのかを知って欲しい。原子力発電所と異なり、再処理工場は基本的に一種の化学工場、そこで核分裂反応が起きているわけではない」と説明した。また、大学で教鞭を執った経験もある秋庭氏は、教育の観点から原子燃料サイクルの地域貢献に関して質問。これに対し、佐藤氏は、「直接的に事業者に関連した仕事だけでなく、やはり地域経済に深く関った産業だと思う」とした上で、地元で人材を育成する意味でも初等中等教育段階から原子力・放射線の知識を養っていく必要性を改めて強調した。来場者からは、昨今の世界情勢からエネルギーだけでなく食料供給に関する不安の声も来場者との質疑応答の中で、昨今の原子力教育の低迷を危惧する声があがったのに対し、佐藤氏は、八戸工大で企業の定年後に大学院聴講生として勉学に励む人がいることを紹介し、「『学ぶ』ことはいつからでもできる」と繰り返し強調。一方で、「教える側がしっかり存在している必要がある」と、高等教育における教員の確保や実験・実習設備の維持に係る懸念を示した。また、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設の一つ、廃棄物管理施設では、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を、最終処分に向けて搬出されるまでの間、冷却・貯蔵しているが、地元の女性団体のメンバーからは、その資源化に係る研究に取り組む藤田玲子氏(元日本原子力学会会長)を囲む勉強会に参加した経験を踏まえ、「私たちは、『核のごみ』ではなく、将来使えるものを預かっている」と、さらなるリサイクルの必要性を強調する声もあがった。結びに秋庭氏は、「一番大事なことは国民の理解と信頼だと思う」と述べ、原子燃料サイクルの確立に向けて、全国レベルでの理解・支援が進むことを期待し締めくくった。
- 17 Jun 2022
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総合エネ調原子力小委、安全性向上の取組と廃止措置について議論
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は5月30日の会合で、安全性向上の取組と廃止措置について取り上げた。〈配布資料は こちら〉同小委員会では2014~18年、「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」において、廃炉を含む軽水炉の安全技術・人材の維持・発展について重点的に議論。これを受けて、2018年7月、電気事業者・メーカーが中心となり関係者の連携をコーディネートし安全性向上の取組を進める中核的組織として原子力エネルギー協議会(ATENA)が設立された。自主的安全性向上に向けた産業界の枠組(資源エネルギー庁発表資料より引用)今回の会合で、資源エネルギー庁は、産業界が自主的・継続的な安全性向上の取組を進めるため立ち上げたATENA、原子力安全推進協会(JANSI、2012年設立)、電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC、2014年設立)の役割を整理した上で、議論の視点として、(1)自己評価、(2)外部の目(組織外からの意見を積極的に取り入れ改善に活かしていく仕組みの検討)、(3)役割の最適化、(4)双方向コミュニケーション――を提示。廃止措置については、国内で廃炉が決定した18基(福島第一原子力発電所を除く)に係る工程を見据え、原子炉を解体する「第3段階」が2020年代半ば以降に本格化する見通しを示し、事業者間連携、廃炉実務(解体廃棄物の処分・保管場所など)、資金確保などの課題を掲げ議論に先鞭をつけた。また、電気事業連合会原子力開発対策委員長を務める関西電力の松村孝夫副社長は、安全性向上の取組に関し「ATENA、JANSI、NRRCは、設立後一定の成果を上げてきているが未だ道半ばの状況」と、廃止措置については「国内での廃止措置作業に係るノウハウの蓄積はまだ不十分」などと、事業者を取り巻く現状を自己評価。今後本格化する廃止措置作業を安全かつ円滑に進め、工程・費用のさらなる効率化を図るため、(1)電力会社間の連携、(2)グレーデッドアプローチ(分類したリスクに応じ最適な安全対策を講じていく考え方)の適用、(3)クリアランスの推進、(4)解体廃棄物の処理・処分の推進――に係る課題について関係者と協議していくとした。有用資源の再利用につながるクリアランスに関しては、現在、廃止措置が進展する中部電力浜岡原子力発電所1、2号機の解体作業で発生したクリアランス金属が同発電所敷地内の側溝用蓋に加工・再利用されている事例を紹介。今後も確実・早急な社会定着を目指し、電力業界内だけでなく業界外での再利用方法も含め、電力会社間で連携し検討していくことが必要だとした。これを受け委員らによる意見交換の中で、福井県知事の杉本達治氏は立地地域の立場から発言。先般、関西電力が国内初の40年超運転を昨夏開始した美浜3号機の長期運転支援に向けてIAEAの「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)チーム受入れを決定したことに言及したほか、ATENAに対して「海外における最新の知見も収集しながら、単に効率化ということではなく地元の安全をより高めていく観点からも効果的な安全対策を提言してもらいたい」と要望。また、廃止措置に関し、周辺設備を解体する「第2段階」にあるプラント6基のうち3基が福井県内に立地するとして、廃炉に伴い発生する放射性廃棄物の処分に係る国の関与、廃炉・リサイクル産業の創出を課題として掲げ、合理的な規制基準の整備、クリアランス制度の社会定着に向けた国民理解促進の必要性などを訴えた。諸外国における廃炉実施体制(資源エネルギー庁発表資料より引用)廃炉の実施体制に関し、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授の遠藤典子氏は、民間エンジニアリング会社や国営機関が主体となる米国・英国の事業環境を参考に「日本も決定しなければならない時期にきている」と示唆。また、WiN-Japan(原子力・放射線分野で働く女性たちによる組織)理事の小林容子氏は、5月23~26日に東京で開催された「WiN年次大会」の廃炉に関するセッションで、各国参加者から作業者のリスク低減や社会とのコミュニケーションの重要性が述べられたことを紹介した。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、安全性向上に向けて、ATENA、JANSI、NRRC、それぞれによる取組の成果が上がることを強く期待。さらに、「米国では産業界による活動が安全規制にも適切に反映され、結果、原子力発電所の設備利用率が毎年90%を超えている」などと、海外の動きにも言及し、高品質な運転管理が達成されるよう「周辺事業者も含めたサプライチェーン全体の安定した事業環境」構築の重要性を強調した。〈発言内容は こちら〉
- 31 May 2022
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原産協会理事長会見 「世界の原子力発電開発の動向」紹介
原産協会の新井史朗理事長は5月20日、記者会見を行い質疑に応じた。新井理事長はまず、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに係る設備・関連施設の基本設計について原子力規制委員会が18日に「審査書案」を了承したことに関し、「東京電力には引き続き安全を確保しながら設備の設計・運用を進めるとともに、周辺地域の方々の不安や懸念を解消してもらうよう努めてもらいたい」とコメント。引き続き国内外に向けて、ALPS処理水の処分に係る正確な情報の提供と理解促進に努めていく考えを述べた。また、原子力・放射線利用分野で働く女性たちによる国際NGO「WiN」(Women in Nuclear)の年次大会が5月23~26日に東京で開催されることを紹介〈大会サイトは こちら〉。今回の大会は「福島第一原子力発電所事故から11年を経た廃炉と復興の進展」をテーマに掲げ、カーボンニュートラル実現に向けた原子力の役割、科学技術におけるジェンダーバランスについても話し合われる。原産協会は同大会の「ゴールドスポンサー」として開催に協力しており、新井理事長は、「原子力が社会からの信頼を得るためにも、WiNのような女性専門家によるネットワークの力に期待している」と強調した。原産協会ではこのほど「世界の原子力発電開発の動向 2022年版」を刊行。今回の会見では、その概要について記者団に説明した。世界の原子力発電所は2022年1月1日現在、2021年中に中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシアで7基・829.1万kWが運転を開始したほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖され、運転中は計431基・4億689.3万kW。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kWが着工し建設中は計62基・6,687.4万kWに、中国とポーランドで各1基が新たに計画され計画中は計70基・7,970.3万kWとなった。特に、中国では7基が運転を開始、6基が着工しており、新井理事長は「躍進ぶりには目を見張るものがある」と強調。また、2021年中、ベラルーシとUAEでの運転開始により「原子力発電国・地域は33となった」としたほか、トルコ、バングラデシュ、エジプトなど、新規導入国における建設・計画、小型モジュール炉(SMR)の開発・導入、英国とフランスの原子力発電推進に向けた国家戦略、既存炉の運転期間延長の動きにも言及。同年を振り返り、「カーボンニュートラルの推進が各国のエネルギー政策の要となる中、化石燃料価格上昇の影響もあり、2021年は原子力利用に注目する動きが国際的に顕著であった」と概括した。記者から将来のSMR開発に向けて日本の原子力産業を支えるサプライチェーンの存続、人材・技術基盤の維持に係る危機感が示されたの対し、新井理事長は、東日本大震災以降の運転停止継続や建設中断によるサプライチェーンを構成する企業の離脱を懸念。「技術力を高めていく」必要性を繰り返し強調した上で、日揮・IHIが昨春、米国ニュースケール社によるSMR開発への出資を発表したことを例に、国内企業の国際プロジェクト参画にも期待感を示した。
- 23 May 2022
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原産協会、2022年版「世界の原子力発電開発の動向」を刊行
原産協会は4月28日、「世界の原子力発電開発の動向」(2022年版)を刊行した。2022年1月1日現在の世界の原子力発電に係るデータを集計したもので、国・地域別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め、着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間・燃料交換停止期間など、広範な情報を網羅。2022年版では、前年に引き続き、小型モジュール炉(SMR)開発動向の他、運転期間延長に関する調査結果、世界の使用済燃料貯蔵の状況、原子炉廃止措置への取組についても掲載している。〈ご購入の申込は こちら〉それによると、世界で運転中の原子力発電所は431基・4億689.3万kWで、前年より3基・98.9万kW分減少(出力変更を含む)。2021年中は、中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦、ロシアで7基・829.1万kWが新設されたほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖された。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計62基・6,687.4万kWとなった。なお、計70基・7,970.3万kWが計画中だ。中国では2021年中、3基が新設、6基が着工しており、躍進が際立っていた。同書で特筆するSMRの開発・導入の動きについては、政府主導による開発支援や海外展開、国際提携、導入に向けての検討や協議が世界的規模で活発化。また、既存炉の有効活用に関して、米国ではほとんどのプラントで運転期間が60年までに延長されており、カナダやフランスでも運転期間の延長に向けた大規模改修が進められていると概括。日本では2021年、関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転を開始しており、「低炭素な電力を供給する最も経済的な方法であり、今後も安全確保を大前提に運転期間の延長が進められていく」との見込み。2021年の日本の原子力発電による発電電力量は639億9,786万kWh、設備利用率22.1%で、それぞれ前年比42.3%増、6.6ポイント増と、回復傾向にある。
- 10 May 2022
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【第55回原産年次大会】セッション5「若手が考える原子力の未来」
第55回原産年次大会を締めくくるセッション5では、原子力の将来を担う若手が原子力の現状をどのように捉え、原子力の未来をどのように描くのかについて、国内外の有識者を迎え、パネル討論を実施。東京大学大学院工学研究科付属レジリエンス工学研究センター 准教授の村上健太氏がモデレーターを務めた。パネリストの発表に先立ち、村上氏からは「既存の原子力施設から新しい価値を生み出すには」という題で、ステークホルダーの孤立と不健全あるいは不十分な関与を問題設定として挙げ、将来の原子力技術がどのように社会的受容性を高めながら活躍の場を確保し続けることができるのかが問われた。事業者、規制機関、ステークホルダー がどのように対話しながら安全性を高めていけるのかという観点でINSAG(国際原子力安全諮問グループ)の2017年の報告書からR.メザーブ議長の提言を引用。独立した規制機関によって原子力事業の安全性を監視すること、事業者同士が協力し安全性を高めていくこと、規制機関も国際的なピアレビューの中で安全性を高めることが求められているとした。日本においては、日本の特徴的な組織構造と、それを当然と考える日本人のマインドセットが指摘されている。国際原子力機関の福島事故の報告書の中では人的・組織的および技術的要因との相互作用を考慮して安全に対する体系的なアプローチを確立することが謳われている。2022年に第二民間事故調が、福島第一事故から10年後の検証をまとめた。その中で東京大学公共政策大学院教授の鈴木一人氏が、規制当局が設定した「宿題」を、事業者がこなすという宿題型の規制のあり方に警鐘を鳴らしている。本来は、規制当局が目標と効果を定め、方法は事業者が定めるもの。規制当局はその方法を監督し、よりよい規制につなげていくことが望ましい。こうした背景を踏まえ、「60年超長期運転と新設を選べる環境づくり」「負の遺産(CO2や高レベル廃棄物) を増やさないための利用率向上」「時間軸と規模を切り分けての未来への種まき」という3つの論点を政策、規制、技術の視点で展開した。そして想定よりも長い間停止しているプラントが多いことを踏まえ、村上氏は停止プラントの政策的意味づけを考える必要があると指摘。さらには次世代炉の新設あるいは同程度の安全性を持つ既設炉の60年超運転をオプションとし、どちらがよりステークホルダーにとって好ましいかを話し合える環境をつくりながら原子力事業を進めていくことが求められているとした。また、それに伴い、運転期間延長認可制度や、事故耐性燃料活用時の安全要件など革新的な規制基準が求められる。ここには両者の安全パフォーマンスを比較評価するための技術も必要となる。負の遺産については、昨今、重視されるカーボンニュートラルを原子力の追い風にすることが出来ておらず、原子力は「CO2を出さないが放射性廃棄物は出す」という捉え方をされている現状がある。「原子力業界が再エネ導入を邪魔する」といった誤解を解く必要もある。プラント利用燃料の高燃焼度化のための研究開発は、将来的に廃棄物の減容につながる技術を追求すべき。そのためには、炉心・燃料分野の基盤維持のためにも、研究開発人材を増やす施策をとらねばならない。とはいえ、研究の予算や公的資金は、短期的な課題解決に優先的に充てられる。SDGsでさえも2030年を目標にしている。こうした現状を原子力産業も研究コミュニティも認識し、既存の原子力に関するいろんな基盤技術を使い、エネルギー問題を短期間で解決しようという視点で研究開発を再考する必要があるとした。衛生や教育の環境改善に貢献し、なおかつ将来的には日本にとっても種になるような技術開発というのを大学としても考えていきたいと述べ、冒頭の問題提起とした。♢ ♢最初のパネリストとして、北米原子力若手連絡会(NAYGN)のカナダ最高執行責任者であるマシュー・メイリンガー氏が登壇。カナダにおける原子力の状況と、アドボカシー活動について発表した。メイリンガー氏 発言要旨カナダではカナダ型重水炉(CANDU)が19基稼働し、国内の電力の最大15%を占める。天然ウランと重水を使用しており、水平のカランドリア管から運転中に燃料を交換することが可能。停止系統は2つあり、過圧防護のための真空建屋が存在する。そのほかの州では原子力が普及していないが、今後は小型モジュール炉(SMR)の普及で変わっていくものと期待する。原子力の概要は、サスカチュワン州とオンタリオ州がそのほとんどを占める。サスカチュワン州では、ウラン採掘と破砕・粉砕、および一部の研究開発を、粉砕工程以降はすべてオンタリオ州で行われる。オンタリオ州はサプライチェーンを継続し、発電と廃棄物管理の大部分を占める。メイリンガー氏カナダの核燃料サイクルについては、世界第2位のウラン生産国で、13%がサスカチュワン州北部で採掘と破砕・粉砕されている。オープンサイクルなので再処理はしない。2002年に核燃料廃棄物法が施行され、核燃料使用計画を策定・実施するためにカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立された。3年にわたる調査とパブコメを経て、NWMOの適応的段階的管理計画(深層地層処分)が選択された。最終的にサウスブルースとイグナスの2自治体に候補が絞られ、来年決定する。使用済燃料の深地層処分場(DGR)は2043-2045年に稼働する予定となっている。連邦政府レベルでは、2020年、連邦天然資源省がカナダの1996年の放射性廃棄物政策を見直すこととした。2つの構成要素があり、一つは、既存の放射性廃棄物政策の枠組みを更新する。国民の理解を得て、国際的なベストプラクティスに合わせる。もう一つは、低・中レベル放射性廃棄物を含めた包括的な放射性廃棄物管理戦略を開発するための対話を主導するようNWMOに要請した。NWMOの戦略案は第2四半期に発表される予定となっている。2050年までにネット・ゼロを達成するために、原子力エネルギーが重要な役割を果たすことに積極的に言及している。例えば、がん治療など医療用の放射性同位体(ラジオアイソトープ)を世界に供給する技術力や、2050年までに廃棄物処理インフラを整備するという連邦政府のコミットメントが強調されている。カナダのエネルギーの見通しは、全てのセクターの電力需要は、2050年まで着実な増加が見込まれる。また、再生可能エネルギーと原子力の予測も増加している。2050年までにネット・ゼロを目指すという目標を掲げている。原子力発電が現在の15%から25%に伸びるという想定をしている。オンタリオ州では、石炭火力発電がなくなり、電力部門からの温室効果ガス排出量は大幅に削減された。しかしながら、カナダの発電量のうち石炭火力発電はまだ7%を占めている。今後増えることが見込まれる電力需要に対応するためには、今後30年間で発電量を3倍に増やす必要がある。それと同時にゼロカーボンを達成しなければならない。化石燃料から脱却するために、2050年までにグリッドスケールでSMR 45基、大型原子炉20基、その他 水力発電などの自然エネルギーに加え、遠隔地では小型原子炉も必要になることが見込まれる。主な原子力プロジェクトとして、ブルース・パワー社とオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が原子力発電所の大規模改修を実施している。カナダ最大のインフラプロジェクトであり、スケジュール通り予算内で収まる見込みだ。カナダは、SMR技術の開発と商業化において、世界をリードする位置付けにある。廃棄物管理、規制体制、国際協力を含むSMRロードマップもあり、SMRがクリーンエネルギーミックスをサポートするためのシナリオも考えられている。オンタリオ州では、12月にOPG社がGE日立ニュクリア・エナジー社と共同で、ダーリントン原子力発電所にBWRX-300(SMR)を設置すると発表。また、OPG社との合弁会社である原子力会社Global First Power社がUltra Safe Nuclear社と提携し、熱出力15MWのマイクロ原子炉を、2026年を目標に建設する予定となっている。連邦政府の動きとして、5,000万カナダドルをこうした事業者に出資している。放射性同位体では、半世紀以上にわたって、カナダは医療用アイソトープと放射性医薬品の研究開発・製造において国際的にリードしてきた。カナダ原子力安全委員会は、カナダ国内で250以上のアイソトープの使用と製造を許可している。原子力発電所関連についてはコバルト60が、1970年代からピッカリング原子力発電所で生産され、ダーリントン原子力発電所でもまもなく生産される予定。モリブデン99とテクニチウム99mは、ダーリントン原子力発電所で今年から製造される。その他の同位体については、かつて廃棄物と考えられていたものが、社会にとって価値のあるものだと見直されている。♢ ♢続いてAfrica4Nuclearの創設者であるプリンセス・トンビニ氏が発表。アフリカ大陸でのステークホルダー・インボルブメントについて自身の活動を踏まえて紹介した。Africa4Nuclearを設立した背景を、同氏のお気に入りの作家が「TED Talks」で語った“The Danger of a Single Story”(シングルストーリーの危険性)を挙げて説明した。トンビニ氏 発言要旨私たちの社会はさまざまな文化や価値観の中で構成されるストーリーがあることを忘れてはいけない。原子力は危険な技術というシングルストーリーを、TMI、チョルノービリ、福島をもとに展開し、開発に反対する動きは根強い。その一方で、原子力により得られる恩恵は大きい。アフリカでの原子力開発を守るために、2021年10月にAfrica4Nuclearが設立された。AUアジェンダ2063の達成に向けて原子力を推進することを目的とするアドボカシー・キャンペーンである。あくまでもアフリカ大陸における原子力プログラムの開発が目的であり、各国政府に対してどの技術を導入すべきかを規定するものではない。アフリカ大陸が原子力を含むエネルギーミックスを追求する理由は、エネルギー貧困を解消貧困、不平等、失業という脅威への対処気候危機の問題への対処経済復興と復興計画ポストパンデミックで重要な役割を果たすこと──が挙げられる。大規模な工業化に踏み切るためにも、エネルギー貧困に対処することは喫緊の課題である。トンビニ氏Africa4Nuclearは原子力に特化したシンクタンクとして、ステークホルダーと協力しながら、持続可能な開発に向け、原子力についての啓蒙活動を行い、短編ビデオなどを活用したソーシャルメディアキャンペーンを通じて情報を提供したりする。オピニオンリーダーとして、論説を書き、イベントやウェビナーにも参加する。SDG7(安価でクリーンなエネルギー)の実現は、SDGsの全項目を達成するために不可欠であり、政策立案者や指導者に原子力の利点を伝えることで、原子力を含むエネルギー政策に影響を与えることを目標とする。アフリカの原子力開発の動向として、ガーナは6月、商用利用されている原子力発電所の技術を評価するため、情報提供依頼書(RFI)を発行。中国、フランス、カナダ、韓国、ロシア、アメリカから15のベンダーがRFIに回答した。国際原子力機関(IAEA)はアフリカのケニアとウガンダで統合原子力基盤レビュー(INIR)会合を2度開催し、各国の原子炉インフラストラクチャ―開発の進捗状況を確認した。ナイジェリア政府は、5つの原子力関連規制を承認、可決した。 400万kWの原子力施設建設のための入札が近頃公開された。南アフリカは 250万kWの新規原子力発電所のための計画を承認した。調達プロセスは2024年までに終了する予定。ザンビアの放射線防護局は、国内の原子力技術の使用に対する規制体制が整ったことを発表。ルワンダは今後短期間のフィージビリティ・スタディに関する契約締結を予定している。ニジェールは政府の開発プログラムに含まれる原子力プログラムを確実に実行に移すことを確認した。考慮すべきは、アフリカでは、いまだ6億人が電気のない生活を送っていること。貧困撲滅に向けた国際的な取り組みを成功させる方法としてクリーンな近代的エネルギーを活用できることが不可欠と考える。大陸が直面する社会経済的課題を見れば、エネルギーミックスの重要性は明らか。ガスは、CO2収支の面でメリットが大きいが、一部の国では、パイプラインで発電所にガスを供給するためのインフラを開発する必要がある。南アフリカでは2030年以降、石炭火力発電所の老朽化による設備の廃止により容量1,000- 2,400万kW超分のエネルギーが失われる予定。他のエネルギーに置き換えるにも水不足が大きな課題であり、水力発電という選択肢はあり得ない。アフリカ諸国の現状を、イギリスの家庭1世帯が1日に2回お湯を沸かすために使う電力は、マリ国民1人当たりの年間電気使用量の5倍である。アフリカが目指す原子力の将来像は、適正な価格で確実なエネルギーが供給されること。「持続可能な開発のためのアジェンダ」実現のカギを握る原子力を、若い世代が、気候変動の解決に役立つクリーンなエネルギー源として評価する未来を描く。「メイド・イン・アフリカ」のSMR技術を商業利用にむけた共同研究の機会提供も検討される。アフリカには、軽水炉、SMR、HTRなど、豊富な原子力市場がある。日本の組織・機関には、アフリカが原子力開発の新たなフロンティアであり、原子力技術を有するすべての国が機会を求めて競い合い、すでに自らを位置づけていることを認識してほしい。Africa4Nuclearやその関係者とネットワークを構築し、アフリカ大陸の環境についてより深く理解し、機会を追求しないことは、日本にとって不利である。原子力に関しては、技術不足がアフリカが抱える課題だが、同様に原子力発電、原子力設置許可、サイト選定、原子力インフラの運転などの経験がなかったアラブ首長国連邦はバラカ原子力発電所を、2012年7月に建設を始め、2018年12月に完成させている。南アフリカは、ここで述べた大半の経験がある。50年以上にわたって研究炉SAFARI-1を運転しており、今や南アフリカは核医学において世界のトップクラスを誇る。クバーグ原子力発電所は1984年以来、安全に稼働している。こうした実績が、アフリカ大陸全体に、能力の面で競争力につながっている。ネルソン・マンデラ氏は、「奴隷制やアパルトヘイトと同様、貧困は自然のものではない。人間が生み出したものだ。それゆえに人間の行動で貧困を克服、撲滅させることができる。貧困や不正、差別がこの世からなくなるまでは、誰一人として本当に休むことはできない」と言っていた。原子力産業で働く現在の若い世代として、「包括的な成長と経済開発を基盤とした豊かなアフリカ」を築くことを約束する!♢ ♢続いて京都大学総合生存学館 特定准教授の武田秀太郎氏が、核融合スタートアップの状況について発表した。武田氏 発言要旨30年先の技術と言われながらも、急速に加速する核融合業界。その背景には核融合スタートアップの存在がある。公的な長期ビジョンに基づく戦略的プロジェクトと民間資金によるアジャイルなイノベーションが並走する土壌が醸成されつつある。先月、ホワイトハウスで核融合サミットが開催され、米エネルギー省が、民間部門と協力しながら、商用核融合エネルギーの実行可能性を加速させる「核融合エネルギーとプラズマ科学10か年国家戦略計画」を策定と表明。メジャーな米紙や日経新聞でも核融合の話題が取り上げられている。この一年を見ても英国のB.ジョンソン首相により「グリーン産業革命に向けた10項目の計画」が発表され、2040年までに商用利用可能な核融合発電炉の建設を目指すとした。さらに民間ではMITのスピンアウトであるCommonwealth Fusion Systems社は「2030年に発電」するとし、ビル・ゲイツ氏から2,000億円の資金調達に成功している。Googleが1,200億円を出資するTAE Technologies社も「2030年に原型炉完成」を目指す。国家レベルで20年、民間レベルではあと8年で発電開始が見込まれる。武田特任教授核融合は、国家レベルで予算が与えられるビッグサイエンスの位置付けを確立した。ビッグサイエンスプロジェクトとは、国際宇宙ステーションが代表的。このビッグサイエンスにベンチャーが進出した。特に有名なものとしてはスペースX社が挙げられる。2020年5月にスペースX社は歴史上初の民間による有人宇宙飛行を実現し、国際宇宙ステーションへの輸送コストをわずか1/20に削減した。ベンチャー企業によるビッグサイエンス領域への参入という新しい時代の幕開けが核融合業界にも起きつつある。核融合による新エネルギー開発の超大型国際プロジェクト(ITER)という長期ビジョンに従ったプロジェクトがある。その一方で民間資金によるアジャイルのイノベーションを狙う動きがある。核融合は各国政府によりビッグサイエンスとして半世紀以上研究されてきた。2050年頃に実用化が見込まれている。そんな中、この20年間、核融合関係のスタートアップは増えている。自社で核融合炉建設からエネルギー利用までを目指すと宣言する民間スタートアップの数は、過去20年間、増加の一途を辿り、これら企業の68%が過去10年間に、56%が過去5年間に設立されている。欧米が先行するが、国内でも京都大学発の京都フュージョニアリング社に続いて大阪大学発のEX-Fusion社が誕生した。74%の核融合スタートアップが2030年代に送電開始を想定しており、起業の勢いはますます加速する。さらに、IAEAの核融合装置データベースによれば、数ベースでは既に建設・計画中装置の半数が民間によるものとなっている。民間資金も2021年単年でも3,000億円に達する。新たなステークホルダーとして団体投資家が核融合という窓口を通じて続々と原子力業界に参入している。環境志向により、ESG投資((環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資))先として核融合を選択する動きがある。長期ビジョンに基づいた公的なプログラムと、より活力のあるイノベーション思考の民間スタートアップ。こうしたものが同じ領域に存在する。さらに民間には、新しい風が常に吹き込まれる。こうした状況は核融合業界のみならず原子力業界全体にとっても望ましい方向性と言える。次世代原子力の有する環境上の利点を客観的に訴求し、かつイノベーションにより小型化・低コスト化・早期実現が可能であることを示すことで、新たなプレーヤーである民間投資家やスタートアップを惹きつける。♢ ♢パネル討論では、ステークホルダーの多様性と共感できるビジョンの提示について議論。原子力産業に対する理解を広めるにあたりどのような活動をしているのかについて、「絵本を使った読み聞かせや作文コンクールの実施、実際に設備を見学する機会をつくるなど地域コミュニティとの交流」(メイリンガー氏)、「短編ビデオの活用や若手への技術継承」(トンビニ氏)、「ライバルであり共に核融合業界を築くコミュニティの形成」(武田氏)が挙げられた。村上氏は、産業界と研究コミュニティの距離が生まれていることに懸念を示しつつ、コミュニケーションを取りながらいろんなステークホルダーの意見が意思決定に取り入れられる重要性を強調した。
- 15 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション4「核燃料サイクルの意義と期待」
2日目午後のセッション4では、国内外の専門家を迎え、核燃料サイクルを取り上げた。著名なジャーナリストである細川珠生氏がモデレーターを務めた。年次大会での核燃料サイクルをテーマとしたセッションは十数年ぶり。日本は原子力導入の初期段階から核燃料サイクルの確立を目指してきたが、核燃料サイクルを取り巻く環境は厳しいものとなりつつある。サイクル確立のキーとなる六ヶ所再処理工場の竣工が間近に迫る中、いま一度、核燃料サイクル確立の意義について、これまでの進捗もレビューしながら、今後の課題や将来に向けた期待について議論を深めるのが本セッションの狙いだ。♢ ♢初めに国際原子力機関(IAEA)核燃料サイクル・廃棄物技術部長のクリストフ・グゼリ氏が「核燃料サイクルの現在」と題して講演。SDGsの実現とサーキュラーエコノミー(CE=循環経済)のアプローチにおける核燃料サイクルの意義を強調した。グゼリ氏 発言要旨バックエンドの選択肢は2つある。直接処分とリサイクルだ。リサイクル、すなわち再処理は、使用済み燃料を管理するための選択肢としてすでに確立されており、日本を含む世界中で40年以上の経験がある。再処理により抽出したプルトニウムは燃料に使用されるが、現在は多くの場合、25〜50%程度のMOX燃料を部分的に装荷し、残りはウラン燃料を装荷している。中にはフルMOX炉心にも対応できる新設計の原子炉もある。こうした軽水炉でのプルトニウムのリサイクルにより、ウラン資源の最大25%を節約することができる。ロシアでは高速炉BN-800にMOX燃料を装荷して発電している。長期的に見ると、原子力利用が2050年に終わるわけではない。核分裂技術が地球が抱える問題の解決策の一つである限り、2150年、さらには2350年までも活用され続ける。となると資源の有効活用としての再処理は非常に重要となる。軽水炉で再処理燃料と新燃料を混合するだけでなく、近い将来、再処理のみによる燃料サイクルが成立しうる。IAEAグゼリ部長MOX燃料の設計/運用/管理に関するIAEAの技術レポートによると、REMIX燃料((使用済み燃料からウランとプルトニウムの混合物を分離せずに回収し、最大17%の濃縮ウランを加えて製造する軽水炉用の原子燃料))やCORAIL((より高濃度の MOX 燃料と濃縮度 5%以下のウラン燃料を集合体として構成、エネルギーの低下を補う))など新しいMOX燃料も検討が進んでいる。さまざまな種類の原子炉、SMRや高温ガス炉(HTGR)についても、本年9月に開催予定のフォーラムで報告されるだろう。また、来週開催されるFR22(高速炉と核燃料サイクルに関する国際会議)の場で、多くのIAEA加盟国から賛同を得ることになるだろう。原子力発電は2つの非常に重要なことを満たす。 エネルギー安全保障と脱炭素化だ。いずれも持続可能な開発目標(SDGs)であり、SDGsを達成するために多くの国が、原子力を視野に入れている。SDGsからさらに一歩踏み込んだところにCEがあり、それへの関心からリサイクルが後押しされている。CEというワードは、SDGsに追加されるものではなく、SDGsの一部である。CEはSDG12の「つくる責任 つかう責任」に直接関係しているのだ。再処理は核燃料サイクルの長期的な持続可能性のために必要な、資源回収の機会でもある。原子力発電所の長期的な運転もまたCEに適合している。再処理によって廃棄物の量が減容するため、燃料サイクルの各ステップでの廃棄物回避もCEの一部だ。燃料効率改善もCEの一部になる。CEは社会的に非常によく知られた言葉である。CEと原子力を絡めて話し合うことは効果的であり、社会の中で原子力を主流化する一つの手段になるだろう。♢ ♢続いて原子力安全研究協会理事の山口彰氏(前・東京大学大学院工学系研究科原子力専攻教授)が「核燃料サイクル その価値と意義について」と題して講演。カーボンニュートラルという目標に向かって、あらためて核燃料サイクルの意義を認識すべきだと強く訴えた。山口氏 発言要旨山口先生日本原子力文化財団の世論調査によると、核燃料サイクルの意義を認めている人の割合は22.7%に過ぎない。原子力発電の社会への貢献については、徐々に認知されているように感じているが、核燃料サイクルについてはほとんど知られていない。中性子の有効利用について考えてみると、現在主流となっている軽水炉=熱中性子炉のエネルギーが極めて小さいのに対し、高速炉で発生する中性子のエネルギーは莫大である。この莫大なエネルギーを持つ中性子が、多様な価値を生むのだ。これまで日本ではウラン資源を有効に使うために、中性子を「増殖」に使おうと取り組んできた。それ以外にも中性子を用いて、高レベル廃棄物の容積を減らす、毒性を減らすことができる。将来的にはさらにまだまだ利用価値がある。つまり原子力を利用するということは、中性子を最大限利用することなのだ。それが再処理であり、核燃料サイクルであり、高速炉である。世界の1次エネルギー消費は、年々増え続けている。原子力を含む非化石燃料の割合は小さく、CO2排出量も年々増え続けている。我々が持続可能社会を築いていくためには、さらに一歩踏み込んだエネルギーの技術開発・政策が必要になる。カーボンニュートラルという大きな制約がかかった中、エネルギーを安定して確保するためには、核燃料サイクルを用いて資源を有効利用するしかないだろう。♢ ♢続いて日本原燃社長の増田尚宏氏が講演。同社の六ヶ所再処理施設の状況を説明した。増田氏 発言要旨六ヶ所再処理施設は、廃棄物管理から再処理、濃縮など1か所で実施する世界に類を見ない「燃料サイクルが集結した工場」である。電力/ゼネコン/メーカーがオールジャパン体制で協力している。六ヶ所再処理施設では新規制基準への対応として、水素爆発を防ぐ可搬型空気圧縮機の導入など、新たな重大事故対策を実施している。「設工認(工事の方法)」の対応としては、原子力発電所でいうと5-6基分の対応を1か所で実施していることになる。対応分野も多岐にわたるため、メーカーやゼネコンの担当者(約400人)が体育館で一堂に会し、連携を強化している。安全性向上対策工事には毎日5千人が従事しており、六ヶ所村特有の厳冬期対策として、コンクリート打設時の強度低下を防ぐ冬季養生、温風機を使用した塗装乾燥時間の短縮化等を実施している。JNFL増田社長今後も安全対策工事を設工認の審査と並行して実施していくが、竣工も間近である。2007年のガラス固化試験の不具合以降、再処理施設全体の本格的な運転は長期間中断していた。ガラス固化試験については過去の不具合を洗い出して改良し、すでに2013年には運転方法を確立しており、再稼働が近い。ただし長期間の運転中断により運転員の技術力低下リスク、工程の立ち上げリスクがあると考えており、アクションプランを定めて取り組んでいる。運転員の技術力維持・向上のため、運転員を仏ラ・アーグ再処理工場に研修派遣し、実機運転、起動や停止操作を実施している。実機運転を通じて、剪断時の作動音や燃料端末の落下音などを肌で感じることや、パラメータの動きから運転状況を把握できるようになるなど、運転操作に自信を持てるようになったようだ。また、重大事故の対処スキル向上のため、外部電源喪失による重大事故を想定したさまざまな訓練を、繰り返し実施している。外部知見も積極的に取り入れており、海外専門家や外部機関によるレビューを継続して実施している。特に再処理工場は化学物質を扱う「化学プラント」であることから、原子力の視野のみならず化学の視野を持ってプラント運営等にあたるよう心掛けている。核燃料サイクルを実施するには地元の人々からの信頼が不可欠である。地元に密着した工場である特徴を活かし、地元出身の社員が広報活動を実施し、拾い上げた声を会社運営に反映させている。コロナの影響や遠隔地であることから、なかなか実際に視察してもらうことが難しくなっていることから、ウェブ視察コンテンツを導入している。♢ ♢最後に仏オラノ社最高経営責任者(CEO)のフィリップ・クノル氏が講演。気候変動問題、CEの課題解決に貢献する原子力の位置付けや日本への期待が述べられた。クノル氏 発言要旨JAIF年次大会は、原子力と気候問題について議論し、燃料サイクルの進化がどのようにCEの課題に取り組むことができるかをあらためて浮き彫りにする絶好の機会だ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などで算出された数値を参考にすると、人類にとって持続可能な気候を維持するためには、地球の気温上昇を2℃未満に抑える必要がある。そのためにはCO2排出量を現在の4分の1とし、2050年の発電由来の炭素排出をゼロにする必要があり、我々の生活を電化することが重要なポイントになる。この変革には、より多くの低炭素電力が必要だ。電力需要は今後数十年で倍増し、その大部分を再生可能エネルギーのみならず原子力発電が占めることになるだろう。原子力は確実にソリューションの一部であり、持続可能な方法で気候問題に対処することに貢献している。オラノ社のクノルCEOフランスでは54基の原子力発電所が稼働している。原子力シェアは7割以上で、電気と熱の発生はCO2排出量の主な原因ではない。一方、日本では10基の原子力発電所が再稼働したにもかかわらず、電気と熱の発生による炭素排出が、フランスの炭素排出量のほぼ2倍である。そのため、フランスが自動車の電化、建物や産業用のエネルギー効率の改善、発電量の増加に取り組む一方で、日本は既存の電力部門の脱炭素化にも取り組まねばならない。どの国も期限は2050年であり、日本は二倍の労力と投資が必要となるだろう。オラノの事業は、採掘、転換、濃縮から使用済み燃料の再処理まで、燃料サイクルのあらゆる分野を網羅している。また、燃料サイクル業界向けに輸送・エンジニアリングサービスも提供している。フランスは燃料リサイクルでCEの課題に対処しており、1990年代のメロックス工場の操業開始とともに、多くの国々が使用済み燃料の再処理に関心を示した。今後は、使用済みMOX燃料や廃棄物に含まれる貴重な資源を再利用して発電する機会が増えるだろう。燃料サイクルを構築することは、CEを強化し、原子力に対する国民の意識を改善するための第一歩なのだ。日本で使用済み燃料のリサイクルに成功することは、オラノにとって重要であり、日仏は信頼できる長期的な関係を築いている。オラノはこの2年間、既存の軽水炉向けにMOX2と呼ばれる新型MOX燃料を開発している。MOX2の最初の照射実験は2030年までにPWRで計画されており、MOX装荷認可炉に実装できる新型燃料を2040年代に供給することを目標としている。一方、商用高速炉につながる研究開発プログラムを成功させるためには国際協力が不可欠である。オラノは主要な国際パートナーシップとの連携を進めており、米国ではARDP(先進的原子炉実証プログラム)の枠組みで、テラパワー社らと協力関係を構築している。また多国間プログラムを通じて、溶融塩炉(MSR)やナトリウム冷却高速炉(SFR)などの高速炉開発を加速させていく。野心的な目標としては、2035年までにプルトニウムを燃料とする小型MSR実証機の建設に貢献したい。2050年には、MOX2を燃料とする軽水炉で構成される原子炉群が送電を開始し、SFR/MSRが軽水炉群で発生する放射性廃棄物を再処理することが想定される。軽水炉とSFR/MSRの双方にこのような相乗的な関係を築けると、高レベル廃棄物の大幅な削減につながる可能性がある。原子力は今、再び注目されており、日本は次世代原子炉の開発に活用できる多くのノウハウを持っている。日本の三菱重工と原子力研究開発機構は最近、Natrium炉に投資を決定したが、オラノは日本のパートナーによる新型炉開発を支援する準備ができている。♢ ♢その後ここまでの講演を踏まえ、①サーキュラーエコノミー(CE=循環経済)における原子力の役割と価値、②核燃料サイクルの意義、③国民理解--の3テーマでパネルディスカッションが行われた。社会の成熟に伴い、過去に例のないほど複数の目標を同時に解決しなければならない現代において、原子力や核燃料サイクルが、いかに多くの地球規模の課題のソリューションとなりうるかをあらためて気付かされるセッションとなった。
- 15 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション3「福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況と課題」
「第55回原産年次大会」では4月13日、セッション3「福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況と課題」が行われた。同セッションでは、東京電力福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏が「福島第一における廃炉・汚染水対策の現状と課題」について報告。また、IAEA原子力安全・核セキュリティ局調整官のグスタボ・カルーソ氏が「福島第一原子力発電所におけるALPS処理水放出の安全性に関するIAEAレビュー」と題して講演(ビデオメッセージ)を行った。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに関し、政府は丁度1年前、折しも前回年次大会の会期中でもあった2021年4月13日に、「2年後を目処に海洋放出を開始する」との基本方針を決定。小野氏は、「福島第一原子力発電所事故から11年が経った。廃炉作業は着実に進捗しており、その『本丸』ともいえる燃料デブリ取り出しの着手にあと一歩のところにまできている」などと述べ、事故発生からこれまでの歩みを振り返るビデオを紹介し、(1)汚染水・処理水対策、(2)使用済燃料プール内の燃料取り出し、(3)燃料デブリの取り出し――に係る取組状況を説明。ALPS処理水を保管するタンクの容量に関しては現在、敷地内の雨水などを踏まえ満杯となる時期について精査中としているが、「今後、よりリスクの高い燃料デブリの保管場所の確保など、バランスよく廃炉を進めるためには、敷地を有効に活用していく必要がある。タンクを建設し続けることは現実的に難しい」との現状を述べ、ALPS処理水の処分に向け、モニタリングの拡充・強化、タンクからの漏えい防止、情報発信と風評抑制に努めていくとした。東京電力は2022年3月24日に海域モニタリング計画を策定しており、小野氏は、これに基づき、4月18日より発電所近傍や福島県沿岸における試料採取を開始すると発表。今後、ALPS処理水放出の実施主体として、海水、魚類、海藻類を採取し、トリチウムを中心とした拡散状況や海洋生物の状況を放出前から継続して確認していく計画だ。1号機原子炉建屋の全景(左)と大型カバー設置工事の開始となったアンカー(鋼製のボルト)削孔作業(東京電力発表資料より引用)使用済燃料プール内の燃料取り出しについては、3、4号機で2021年2月、2014年12月にそれぞれ完了。続く1号機では2027~28年度、2号機では2024~26年度に取り出し開始が予定されており、そのうち、1号機については、まず、原子炉建屋を覆う大型カバーを設置し、同カバー内でガレキ撤去などの作業を実施することとなっている。小野氏は、「当初は開放型で実施する予定だったが、周辺地域の皆様の安全・安心を最優先と考え、放射性物質を含むダストが万が一にも飛散しないよう検討したもの」と説明。折しもカバーの設置作業がこのセッション当日の4月13日に開始されており、「2024年のカバー設置完了を目指し安全かつ着実に作業を進めていく」と強調した。2号機についてもダスト飛散の抑制など、安全確保を最優先として、建屋を解体せず建屋南側からアクセスする工法を採用の上、現在、燃料取り出し用の構台設置工事が進められているところだ。原子力機構楢葉センターに到着したロボットアーム(東京電力発表資料より引用)燃料デブリの取り出しについては、最初となる2号機で2022年内の試験的取り出しが予定されている。小野氏は、これに向けて英国で開発・製造されたロボットアーム(全長約18m)について、2021年7月の日本到着から現在行われている日本原子力研究開発機構楢葉遠隔技術開発センターでのモックアップ試験・操作訓練に至る経緯をまとめたビデオを紹介。「今後の燃料デブリ取り出しの段階的な規模拡大につなげていきたい」などと述べた。1号機では原子炉格納容器の内部調査に向けて、2022年2月より潜水機能付きボート型ロボット(水中ROV)が投入されている。2号機に続く燃料デブリ取り出しは、建屋内の環境改善の進捗状況などから3号機が先行するとの見通しだ。小野氏は、福島に拠点を持つ企業による1・2号機排気筒の解体工事完了(2020年5月)など、廃炉作業における地元企業との連携の重要性にも触れながら、東京電力が取り組む「復興と廃炉の両立」について紹介し報告を終えた。IAEA・カルーソ氏ALPS処理水の処分に関し、2021年7月8日には、日本政府とIAEAとの間で、(1)日本へのレビューミッションの派遣、(2)環境モニタリングの支援、(3)国際社会に対する透明性の確保に関する協力――に係るIAEAによる支援について署名がなされた。今回のセッションでは、IAEAレビューの概要に関し、当初登壇する予定だったリディ・エヴラール事務次長に替わりカルーソ氏が説明。カルーソ氏は、そのうちのIAEAレビューについて、「レビュー要請者(経済産業省と東京電力)による放出開始前の計画と行動が国際的な安全基準に従っているか」、「原子力規制委員会が放出に係る施設の審査・確認・認定を行う上での計画と行動が国際的な安全基準に従っているか」の2つの側面があると概観した。さらに、「短期(認可前)、中期(認可から海洋放出)、長期(海洋放出後)に焦点を当て、IAEAによる安全基準をベンチマークに結論を導き出す。その安全基準に書かれた記述に照らして一つ一つ確認し、『遵守されているのか』を検証する」と、長期的かつ厳正にレビューに臨む姿勢を強調。また、同氏は、IAEA・グロッシー事務局長の指示によりIAEA内に設置されたレビューの主要組織となるタスクフォースについて触れ、加盟国の専門家らも含む同組織の座長として、「それぞれの持つ専門分野を結集して『IAEA安全基準が守られているのか』を確認し、結論を導き出していく」と、リーダーシップの発揮に意欲を示した。IAEAレビューミッションは、感染症拡大に伴う制約も生じたが、2022年2月に経済産業省と東京電力に対し、3月には原子力規制委員会に対し派遣が開始した。それぞれ、報告書は4月末~5月初め、6月に公表される予定で、その後、2022年後半にはフォローアップミッションの実施、2023年前半(海洋放出開始の2か月前目途)にはタスクフォースの指摘事項と結論をまとめた統合報告書の公表が計画されている。
- 14 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション2「原子力発電の最大限活用に必要な事業環境とは」
初日のトリを飾るセッション2では、国内外から高名な有識者を迎え「原子力発電の最大限活用に必要な事業環境とはなにか?」をテーマに、原子力発電を取り巻く環境についてさまざまな観点から議論した。エネルギー政策を専門とする慶應義塾大学の遠藤典子特任教授が、モデレーターを務めた。最初に日本電機工業会・原子力政策委員長の薄井秀和氏(東芝エネルギーシステムズ取締役)が登壇し、原子力プラントに携わるメーカーの立場から、日本の原子力産業を取り巻く環境について整理。多くの課題を浮き彫りにさせるとともに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた、国への要望や産業界としての取り組みについて紹介した。薄井氏 発言要旨日本国内の既設原子力発電所が全て60年運転したとしても、2040年以降は大幅に設備容量が減少する。2030年の原子力シェア=22%を達成できたとしても、2050年カーボンニュートラル実現には、原子力発電所の新規建設が不可欠となる。原子力のプラント建設は長期的なプロジェクトであり、今から着手しなければならない。一方、日本の原子力産業界はさまざまな課題を抱えている。第一にサプライチェーンの維持。原子力発電事業のライフサイクルは長く、それぞれのステージで多くの業種、企業の参画が必要だ。しかし、新規制基準向け安全対策工事やプラント再稼働対応のみが実施されている現状では、維持できる技術分野やサプライチェーンが偏っている。その結果、多くの企業で原子力特有技術の発注が途切れ、人材と製造ラインの維持が困難となり、事業撤退を検討している。原子力産業に欠かせない企業に事業を継続させるには、早期再稼働と新規建設の見通しを明確に示すことが必要不可欠である。薄井氏プラントメーカーにおいても幅広い技術と人材の確保は課題となっている。福島第一原子力発電所の廃炉や、再稼動対応のみでは、やはり技術分野が偏っており、原子力プラントの新規建設に必要な人材が確保できない。また高齢化により建設経験者も減少している。原子力産業を志望する学生については、数だけでなくその内訳も大きな問題である。震災以降、原子力系の学生は同程度を維持しているが、それ以外の機械系や電気系は大幅に減少している。電気、機械系の学生は就職先の選択肢が多く、業界に魅力がないと人が集まらない。研究開発を支える設備・機会の喪失も課題である。原子力事業の先行きが不透明の中、民間での大型設備や研究設備を維持するのは困難だ。これらの設備は研究目的だけでなく、若手に実習を通じて教育する場としても重要な役割を担っている。海外の照射炉活用などの国際連携と並行して、国内の人材育成、国産技術の競争力強化のためにも国内インフラの整備は必要だ。原子力発電は、現時点で実用段階にあるカーボンフリー電源として、脱炭素化に貢献する実績ある技術であり、2050年カーボンニュートラル実現に向け、国には新増設・リプレースの方針明確化を求めたい。国の方針が明確になることで、電力会社における新増設・リプレースの計画が具体化され、プラントメーカーやサプライチェーンにおいても、技術力の維持向上に向けた実効的な取組みが可能となる。さらに、学生の原子力産業への参入意欲が向上し、さらなる安全性向上や技術開発に必要な人材の拡充を見込むことができる。加えて国には、核燃料サイクル実現に向けた高速炉開発推進も要望したい。使用済み燃料に含まれるプルトニウム利用/有害度低減は理論的に可能であり、バックエンド問題の解決にもつながる。これは国民の理解にもつながる。また高速炉開発は、学生や若い技術者が、革新的で夢のある開発に取り組む場の提供にもなる。高速炉のような長期開発には民間が投資しにくく、産官学・国際協力の枠組み構築や研究インフラの整備を国がリードしてほしい。産業界においても2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな取り組みが行われている。次世代軽水炉は、世界最高水準の安全性と経済性を有し、再生可能エネルギーとも共存し、社会に受け入れられやすいプラントとして開発がすすめられている。小型軽水炉は近年、国内外で開発が活発化しているが、小型化により原子炉システムを単純にすることが可能であるため、建設時のイニシャルコストが抑えられる。高温ガス炉(HTGR)は発電の他、水素製造など、産業分野の脱炭素化への貢献が期待されている。これらの新型炉は開発から実用化されるまでは、長期にわたるプロジェクトになり、国の明確な方針の下、産官学が連携して原子力産業界を魅力あるものにしていきたい。原子力発電が幅広く社会から受け入れられるためには、福島第一の事故を教訓として再稼働プラントにおいて、安全/安定運転を実績として積み重ねていくことが重要だと考えている。そのためには、運転プラントの保全活動の品質を幅広く支えている産業基盤をしっかりと維持向上させていきたい。原子力の安全・安定運転を支えるとともに、今後の社会ニーズに応えることができる高度な技術基盤を維持向上/強化することは、プラントメーカーやサプライチェーンを含む原子力産業界の大きな責務と考える。再稼働/長期運転/新増設計画/革新炉開発計画など、国の長期的かつ明確な方針のもと、原子力プラントが社会に受け入れられ、有効に活用されるように、これからも真摯に取り組んでいく。♢ ♢続いて世界原子力協会の理事であり、ハントン・アンドリュース・カース外国法事務弁護士事務所のジョージ・ボロバス氏が、新規原子力プロジェクトに関してファイナンスの側面から考察。資金調達の際に重要となるリスクの考え方を整理した。ボロバス氏 発言要旨原子力プロジェクトを進める上で、ファイナンシング(資金調達)は非常に大切である。資金調達にあたってはリスクを考えなくてはならない。財務リスクとしては、これまでのプロジェクトの遅延やコスト超過、電力市場の将来見通しの不確実性、長期的な人材育成の必要性、莫大な初期投資と長期に及ぶ工期、原子力損害賠償責任ーー等が問題になってくる。またリスク解析にあたっては風評リスクも考えなければならない。原子力の負のイメージ、政治的なリスクやPA問題、福島第一事故のイメージ、核不拡散、バックエンド問題など、こうした風評リスクと呼ばれるものは、プロジェクトの遅延やコスト超過を招き、誰もが敬遠するものだ。ボロバス氏原子力ファイナンスの有効なモデルはなにか?と聞かれることが多いが、2022年現在、「単一の原子力ファイナンスモデルはコレ!」というものは存在しない。輸出信用機関(ECA)やベンダーが提供するファイナンスが中心になっているが、基準となるモデルはない。世界銀行のような多国籍の支援もない。原子力プロジェクトのファイナンスを考えるとき、まずはリスクを最小化することが肝要だ。そのためにはプロジェクトの安全性を確実にすること、サプライチェーンを確保すること、経験豊富なベンダーによるマネジメント、所有者とベンダーが連携したプロジェクトマネジメントの実施、規制当局の能力、政府の支援体制、長期にわたる人材育成ーーなどが必要になってくる。投資家にとってプロジェクトにおいて重要なことは、「テクノロジー」ではない。投資家が注目する点は、収益の確実性、政府の役割の明瞭性、規制体制の対応力、風評上の懸念、プロジェクトマネジメントのリスク、市場リスクなどである。こうした投資家にとっての信用補完措置としては、政府の保証が考えられる。原子力はプロジェクトファイナンスの対象になっておらず、政府による支援が不可欠なのだ。しばしば他業界から「原子力がそんなに優秀ならば、なぜ原子力に政府の支援が必要なのか?」と問われる。答えは簡単だ。原子力が提供するメリット(エネルギー安全保障、気候変動の緩和、産業開発、教育レベルの向上、研究開発の促進など)は、社会的な価値であり、そのコストとメリットをプロジェクトファイナンスの分析に載せることはできないのだ。社会的なメリットがあるのだから、社会がサポートするべきなのだ。しかし政府資金だけに依存すると、財政規律/アカウンタビリティ/効率性がなくなってしまう。政府からの資金は民間からの投資の“呼び水”として必要だと考えるべきだ。投資家に説明する際にはエンジニアの言葉ではなく投資家の言葉で説明しなければならない。「最新技術」を誇っても、投資家には「FOAKリスク」((first of a kind いわゆる初号機リスク))としか思えない。「コンソーシアム」を強調しても、投資家には「内部統制の複雑さ」しか想起されない。SMRは原子力業界で今最もエキサイティングな話題だ。SMRには数多くのメリットがあるがFOAKリスクは免れない。規制構造も実証されていない。したがって資金調達は容易ではないだろう。ただ長期的に見れば、先行者利益を得る機会が存在することは間違いない。♢ ♢続いて英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の原子力・廃炉部長クリス・ヘファー氏が、英国のエネルギー政策について発表。原子力分野で日英が協力して、エネルギー安全保障の確保やネットゼロの実現に取り組んでいきたいと強い意欲を示した。ヘファー氏 発言要旨第55回原産年次大会は世界にとってとても重要な時期に開催されている。 現在のウクライナにおける悲劇と国際的な化石燃料価格の上昇は、エネルギーの自立と安全の必要性を浮き彫りにしている。脱炭素化とエネルギー安全保障の両面から、迅速なクリーンエネルギーへの移行は、日英両国にとって不可欠であり、英国は原子力を重要な手段と見なしている。現在英国は、大型炉とSMRの両方を新規プロジェクトとして進めることに注力している。英国と日本には、長年にわたる原子力協力の歴史がある。今後もエネルギー安全保障の確保やネットゼロの実現など、共通の課題に取り組んでいきたい。ヘファー氏過去数年間で、英国の原子力政策にはいくつかのエキサイティングな進展があった。B.ジョンソン首相の「10ポイント計画」と「エネルギー白書」のどちらも、クリーンエネルギー源として原子力を推進するという政府の目標を強調している。大小の原子炉開発支援のため最大5億2500万ポンドがコミットされている。また、サイズウェルC原子力発電所プロジェクトについて交渉が開始され、本議会会期中に少なくとも1つの単独プロジェクトを最終投資決定(FID)に持っていくことを支援するために170万ポンドが手当てされた。サイズウェルCは、600万世帯に電力を供給するのに十分な約320万kWの電力を発電し、年間約900万トンの二酸化炭素排出量を削減する。事業者との交渉は来年春に完了する予定である。昨年10月には、新規原子力プロジェクトへの規制資産ベース(RAB)の資金調達モデルの来年実施を目標とし、「原子力融資法案」が議会に提出された。また、将来の原子力参入への支援を提供する1億2,000万ポンドの「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を公表した。さらに、本年後半には、将来の英国が必要とする大型炉あるいは先進炉に絞った原子力ロードマップを公表する予定だ。ウクライナの情勢は、英国のエネルギー安全保障戦略に影響を与えている。2016年、政府はヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)の支援を決定。これにより2基の欧州加圧水型炉(EPR)が運転を開始する。HPCは、地域経済と英国経済の両方に大きな影響を与え、25,000人以上の新規雇用を創出する。初号機は2026年6月に運開予定だ。HPCが完成するとロンドン全体の約2倍にあたる600万世帯に相当する電力が供給可能となる。これは、英国が2050年のネットゼロの目標を達成するためのカギとなる。2016年、政府はHPCの差金決済(CfD)契約を決定した。これは、当時の状況に鑑みると適切な資金調達のモデルだった。 CfD契約では、消費者は発電所の発電開始まで一切のコスト負担がない。しかしその後、RABモデルの大規模単一資産プロジェクトへの有効性が証明され、既存のサプライチェーンや最近のプロジェクト建設によって積み上げられた専門知識を利用することで、さらに費用対効果を向上できることがわかった。「原子力融資法案」は、将来の原子力発電プロジェクトのための規制資産ベースのモデルの使用を可能にし、RABモデルの範囲で、事業者が効果的な方法で新しいプロジェクトを推進するインセンティブとなる。 RABモデルにより、投資家はプロジェクトの建設リスクの一部を消費者とシェアすることができる。このモデルは、消費者の支払を建設中においてもプロジェクト費用に充当でき、あらゆるリスクが消費者、投資家と事業者の間で分担され、資金調達コストを引き下げることになるだろう。それにより電気料金も下がることになる。英国の民生用原子力施設の安全な廃止措置とクリーンアップは国の優先事項である。英国は、しっかりとした費用対効果の高いクリーンアップと廃止措置の計画と、すべての放射性廃棄物を安全に管理および処分する能力を有している。このタスクの重要性は、年間約30億ポンドに維持されているNDAの予算に反映されており、英国は、原子力発電所やその他のセクターから発生する放射性廃棄物を何十年にもわたって管理してきた。廃棄物の約94%は放射能が低く、既存の施設で安全に処分されている。残りの高レベル廃棄物は、現在、英国内の施設で安全かつ確実に保管されており、地層処分施設(GDF)で最終処分する計画だ。イングランドとウェールズではGDFに適した候補地の調査が進行中であり、4サイトが選定プロセスに入っている。SMRやGDFのような革新的な原子力技術の開発を目指すとき、国民の間で原子力発電が認知されていることが重要である。英国がCOP26 でホストを務める際、英国は国民の原子力への認識を克服するという重大な課題を抱えていた。2021年3月時点で、英国民の原子力発電への支持は38%にすぎなかった。にも関わらず、COP 26で原子力は非常に大きな存在感を示すことができた。COP26では、2週間にわたって多数の興味深く魅力的なイベントが行われ、原子力について話し合う若者の多様な声が、前向きな議論をもたらした。♢ ♢最後にモデレーターの遠藤氏が「原子力発電とエネルギー安全保障」と題して講演。日本及び世界の原子力をめぐる状況を概観し、あらためて課題を洗い出した。遠藤氏 発言要旨ロシアによるウクライナ侵略により世界は一変した。しかも日本は電力市場自由化というプロセスを経て、発送電が分離され、非常に需給が逼迫している。そこにウクライナの問題が起き、ロシアからのガス/石油の調達が途絶える。これは特に欧州を中心に起こっているのだが、グローバルマーケットの中で日本にも大きな影響を与えている。これまで欧州は石炭を焚くことに否定的だったが、石炭も必要だとなった。天然ガスについてはパイプラインを通じた生ガスではなく、LNGを調達するようになった。これによりこれまで世界第二位のLNG調達国であった日本にも大きな影響を与えようとしている。それに対して日本政府は、12日の衆議院の本会議で岸田首相がようやく「原子力を含めあらゆるエネルギー源が必要である」と発言した。それまではどうしても政府は選挙のタイミングになると、原子力に関する発言が少なくなる傾向にあり、昨年のエネルギー基本計画でもリプレースが言及されなかった。遠藤氏原子力事業を持続可能なものにするときの留意点は、エネルギー安全保障に寄与できるかどうかだ。電化やDXの進展によって、需要が圧倒的に膨らむ世の中がやってきている。2030年の日本の電源構成目標は原子力シェアが20-22%と実現が危ぶまれている。それと2050年以降も原子力が必要だということになると、当然リプレースが必要になる。それが可能なのかどうなのか?リプレースをするときに、どういう事業体がリプレースをするのか?どういう炉でリプレースをするのか?そして資金調達をはじめとする政策的な支援であるとか、民間事業としての存立の可能性。そういったものを検討しなくてはならない。各電力会社共通の課題である廃炉の実施についても、廃炉を単独でやっていくのか?連携してやっていくのか?あらためて考える必要がある。そしてグローバル市場の開拓。国内で2030年代に建つ原子炉はゼロであり、日本は海外のマーケットに対して西側諸国の一員としてどう貢献できるのかということも考えていかなくてはならない。日本では、原子力がベースロード電源としてkWh不足(電力不足)の問題に寄与できていない。これは電力市場自由化に伴う構造的な問題である。震災前の2009年の数字では原子力シェアは31%。2021年になると原子力はわずか3%で、ベースロードにほとんど入っていない。カーボンニュートラル、グリーンエネルギーと唱えながらも、石炭を焚き、LNGがベースロードの役割を果たすような状況になっているのが日本の現状だ。そして再稼働の遅れ。原子力規制委員会発足時は、審査期間は5か月程度だと言われていた。最初に新規制基準に適合した川内1号機は、申請から767日かかっている。その後審査期間は延び続け、最近では5年近くかかっている。日本は資源を輸入で調達しており、その間の日本の逸失利益は4.7兆円((日本エネルギー経済研究所による試算))に上る。これに炭素価格を上積みすると11兆円になるとの試算もある。世界を見ると原子力発電所の新設は、ほとんど中露の炉型に限定されている。これは核不拡散上の問題なのだが、なかなか西側の炉が流通しない。原子力は着工から廃炉まで80年のプロジェクトになる。その資金を中国の国家が手当てし、いわば相手国を借金漬けにする、といった関係の固定化が危惧されている。SMRに米英が注力している背景には、中露のビジネスモデルを転換していくという意図もあるのではないかと感じている。♢ ♢パネルディスカッション遠藤氏 電力市場自由化によって日本は総括原価方式を失ったが、英国のRABモデルを通して、原子力がどうやってファイナンスがついて、事業の予見性があって、維持できるのか、日本が学ぶべき点は多いと思う。ヘファー氏 RABモデル適用は始まったばかり。HPCではCfDモデルを用いた。これはFOAKリスクに起因するコスト超過のリスクを負担させるものだ。HPCは英国のプロジェクトというよりも、フランスと中国の国家プロジェクトと言っていいだろう。リスクを消費者と事業者との間で負担するより良い方策を模索し、RABモデルが出てきた。これはこれまで高速道路やトンネル工事のような建設プロジェクトに用いられていたものだ。RABモデルでは、負担の仕方が変わる。政府がプロジェクトに対して個別に出資するということだ。英国は色々な政策モデルを試すのが好きなのだ。遠藤氏 CfDによるストライクプライスが高値になってしまった反省から、RABモデルでは総括原価方式のように固定化し、安定性を保とうとするのが主眼だと思うが、建設中から資金負担を利用者に求めるというのは理解を得られるのだろうか?ボロバス氏 日本の場合、英国の経験を見ることがとても大切だと思う。英国は長年こうしたモデルを使っており、また検討も長年やっている。こうしたファイナンスモデルを開発するというプロセスそのものから学べることは多い。パネル風景英国政府であろうと日本政府であろうと、建設リスクは全く負担したくないものだ。民間企業が発電所を作りたいのならば作ればいい。発電を開始したならば、保証価格で買い取るぞと。そうすると事業者は初期段階で大きなリスクを抱えることになる。それでもプロジェクトを遂行するには2つのことが必要だ。まず、政府がプロジェクトをバックアップしているという保証。それと高いプライスを組み込んで、リスクに見合うものを手当てすること。基本的にこれは英国のプロジェクトであり、英国民のものであると。全てのリスクを1当事者のみにかけるのは現実的ではない。したがってリスクシェアリングが必要になってくる。なぜそれが必要なのか、長期的にそれが節約につながるのだと、きちんと説明しないと国民の理解は得られないだろう。実際に米フロリダ州では、失敗したケースがある。フロリダには裕福な高齢者が多く、生きてもいない将来のために負担したくないという考えが強かったようだ。ウクライナ危機を通じて、今はエネルギー安全保障等について納得してもらえる環境になりつつあるのではないか。遠藤氏 ウクライナ危機でエネルギー安全保障が社会的課題として浮上してきた。もう一つカーボンニュートラルの問題もある。どちらかというと公がコントロールする側面が大きくなってきて民の部分が小さくなっている。国の原子力政策に対する責任のあり方はどうあるべきか?薄井氏 国が長期的な研究開発の投資や明確な方針を示すことで、産業界も具体的な計画を立てられる。最終的には人材が大事であり、人材は欲しいからといってすぐに育つものではない。原子力産業が魅力ある産業になっていかなければならない。ボロバス氏 それに加えてPPPモデル(官民のパートナーシップモデル)で考えなければならない。これはインフラの根幹を担う問題で、経済の土台になるものだということをみんなで認識し、官民で一緒にやるしかないと思う。ヘファー氏 また原子力開発は政府がやるべきことだと思われる。英国にはまだ公的な関与が薄い。財務リスクも公で担う部分が増えていくだろう。遠藤氏 新型炉はなぜこれほどまでにトレンドなのか?ボロバス氏 確かに新型炉やSMRには勢いがある。工期が短く、安全性も高い。だが原子力のプロジェクトは電力を供給しなければならない。エンジニアは独自技術を高めていくことに熱心だが、グリッドへの売電に漕ぎつけねばならない。どんなに優れたテクノロジーでも発電まで辿り着かないと意味がない。また既存の規制の体系が新型炉に合っていないかもしれない、というリスクも忘れてはならない。遠藤氏 米国で、規制との連携によってコストが下がるという指摘を聞いた。日本ではNuScaleへの出資というニュースもあるが、国内においては、小型炉を建設するということは現実的ではないとの声もある。薄井氏 SMRは早い安い安全性高いというのがメリットだが、日本はどうか。一概には言えないが、日本はグリッドが大きく、立地候補点が限られている。一般的には小型炉は大型炉に比べると経済性が低いはずである。初期コストが低いとはいえ、限られた立地点に建設する際に小型炉が選ばれるか疑問だ。何が一番経済性に優れているかという観点で考えるべきで、SMRありきというのは行き過ぎだと思う。ヘファー氏 新型炉にエンジニアはワクワクしてる。夢に溢れている。問題はどれくらい早く進められるか?SMRはメリットもあるが原子力特有の核セキュリティやバックエンドという逃れられない負の側面もある。私見ではSMRも大型炉と変わらないコストになってしまうのではと思う。しかしプロジェクトの規模が小さいので失敗しても影響は少ないだろう。この分野は国際協力がとても大事になってくる。SMRをグローバル市場にすれば、コストやリスクもシェアできる。経済性は今後変わってくる。まずは地元の同意を得てSMRを建設することだ。それと地元経済に資する面も否定できない。遠藤氏 高温ガス炉はどうか?どう考えても水素を遠方から運ぶよりも効率が良いと思うが。薄井氏 さまざまな選択肢ができることはいいこと。それが業界の魅力を高めることにもなる。そのうちの一つが高温ガス炉だ。水素製造や産業への熱源供給に期待できる。日本では産業のためのエネルギー消費が大きい。高温ガス炉に限らずSMRは夢がある。開発に多くの方が関わって活性化すればいいと思う。遠藤氏 これからサプライチェーンを考える際、中国/ロシアに対抗した西側の連携が大切になるのでは?ボロバス氏 おっしゃる通りで、中露のモデルの標語は政府が全面的に負担する。ワンストップショップで済むのが魅力的だ、だがそれは現実ではない。ワンストップショップでは済まない。西側は十分に対抗できる。ただしプロジェクト遅延、コスト超過、どんな民間企業もそのリスクを負担することはできない。政府がそこを管理する必要がある。民間企業が国際的に中露モデルと対抗できる環境を整備する必要がある。遠藤氏遠藤氏 「政府の方針を決める=社会の合意を得る」だと思うが、原子力を事業として維持するための負担を国民に求めることに理解は得られるか?ボロバス氏 世界を見回すと、原子力発電所の地元は原子力を支持している。情報も多いし、メリットも感じている。こうしたメリットを伝えることが大切だ。安全の話をすることは大切だが、安全の話しかしていない気がしている。安全が一番だと言うが、一番の優先事項は「安全な原子力発電の運転」である。飛行機が安全に飛ぶ理屈を説明する航空会社はない。テスラもカッコいいからみんなが関わりたがる。そうやって魅力を感じるものだ。遠藤氏 原子力の国有化のメリットはあるのか?弊害は?ボロバス氏 初号機を作る段階であれば国有化もアリだが、効率が悪くなっていく例を数多く見てきた。4-5号機目以降は民間もリスクを取るべきだろう。同じものを何回も使うことが大事。ツマラないかもしれないが同じ技術を使い続ける(シリーズ建設する)ことで、民間でも可能になってくるのではないだろうか。薄井氏 FOAKリスクを国がとるのは効果があるかもしれない。同じ炉型をシリーズ建設するのも有効だろう。ヘファー氏 ツマラないかもしれないが同じ炉型を作り続けるのは効果的だ。英国政府は多くのリスクを負担する覚悟はあるが、民間による競争の果たす役割も大きいと思う。
- 13 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに開幕
「第55回原産年次大会」が東京国際フォーラム(東京都・千代田区)で4月12日に開幕した(オンライン配信併用)。13日までの2日間、国内外660名の参加者のもと、「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに、原子力が能力と価値を最大限発揮し、気候変動対応や社会・経済の持続的発展のため、どのような役割を果たすべきかについて考える。開会セッションでは、冒頭、原産協会・今井敬会長が所信を述べた。今井会長は、「世界ではカーボンニュートラルの目標のもと、原子力をその具体的な解決策とした取組が積極的に推進されている」として、最近の英国とフランスにおける原子力推進の動きを例示。さらに、「わが国も含め、新型炉開発など、イノベーションの分野でも各国支援のもと、多数のプロジェクトが進められている」とも述べ、「脱炭素社会の実現に向けた具体的手段」としての原子力に対する世界的な評価を改めて強調。加えて、昨今のウクライナ危機を始めとする世界情勢の不安定化に鑑み、「エネルギー安全保障の面からも原子力の重要性はより一層高まっている」とした。今井会長は、今回大会の各セッションがねらう論点を紹介。12日のセッション1と2では、「原子力の開発・利用、事業環境の整備について、日本や欧米各国がどのような国家戦略のもと、対処しようとしてるのか」を考えるとした。翌13日のセッション3では福島第一原子力発電所の廃炉、セッション4では六ヶ所再処理工場を始めとするバックエンド事業の意義とこれに対する期待、セッション5では国内外の若手パネリストを招き「若手が考える原子力の未来」について、それぞれ話し合う。細田経産副大臣続いて、細田健一経済産業副大臣が来賓挨拶。細田副大臣は、先般の電力需給ひっ迫を踏まえ電力の安定供給確保に努めるとともに、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策と福島の復興を引き続き「最重要課題」と位置付け着実に取り組んでいくことを改めて述べた。さらに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「わが国のエネルギー安定供給構築の重要性を再確認するきっかけとなった」とするとともに、ロシア依存からの脱却を見据えた燃料調達の多様化の中で、原子力を再評価する欧州の動きにも言及。「四方を海に囲まれ資源の乏しいわが国において、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合のすべてを満たす単一の完璧なエネルギー源は存在しない。原子力を含めた多様なエネルギー源をバランスよく活用することが重要」と、日本におけるエネルギー供給の現状を認識した上で、当面の課題である原子力発電所の再稼働に向けては、「円滑に進むよう、産業界とも連携し的確な安全審査対応をサポートするとともに、国も前面に立って立地自治体等、関係者の協力を得られるよう粘り強く取り組んでいく」とした。開会セッションでは、この他、OECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏と国際エネルギー機関(IEA)チーフエネルギーエコノミストのティム・グールド氏による特別講演(ビデオメッセージ)、「リーダー・パースペクティブ」としてテラパワー社長兼CEOのクリス・レベスク氏のプレゼンテーションが行われた。OECD/NEA事務局長・マグウッド氏マグウッド氏は、「ネットゼロを目指して-原子力エネルギーの必要性と課題」と題し講演。同氏は、「各国で資源の賦存状況など、政策意思決定の要因は色々と異なるが、どの国もエネルギー安全保障について真剣に考えねばならない」と繰り返し述べた上で、石炭利用の縮小やCO2排出削減目標などを背景に、現在、多くの国々で原子力が重要な戦略要素として再浮上しているとした。さらに、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の「1.5℃特別報告書」(世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃未満に抑える検討)が示す90のシナリオを分析して得た「世界の原子力設備容量を2050年までに2020年の3倍に増加する必要がある」とのNEAによる評価を紹介。これに関し、IEAとNEAによる「発電コスト予測」(2020年版)から、「原子力発電所の建設コストは平均して下がっている一方、石炭はほとんどの市場で競争力を失っている。今は原子力発電所を長期運転することが最も低コストなオプションだ」と強調。その上で、マグウッド氏は、「国によって原子力の規制プロセスが異なるほか、運転期間の延長に多額の投資が必要な場合もある。何よりも市場がプラントのもたらす価値を明確にとらえていないことが大きな問題だ」と、原子力によるネットゼロの実現に向けた課題を示唆した。IEA・グールド氏また、グールド氏は「IEAの視点-安定したエネルギー転換における原子力の役割」と題し講演。同氏は、IEAの「2050年ネットゼロシナリオ」を披露し、今後30年で原子力発電容量が倍増する見通しを示した上で、「拡大する再生可能エネルギーを補完するものとして、原子力の役割が重要」との考えを繰り返し述べた。世界の電力需給に関して、電化の進展により2050年の電力需要は2020年の約3倍に拡大し、電力供給では、原子力と水力を基盤として風力と太陽光のシェアが大幅に伸びるといった予測を図示。一方で化石燃料の減少に伴い、「ネットゼロの実現に向けて、蓄電池や水素ベース燃料など、調整力を持つ様々な電源が必要になる」とも指摘。日本に対するメッセージとして、グールド氏は、「安全に原子力発電所を再稼働することは、CO2排出削減と電力の安定供給の両方の目的にとって大変重要だ」と述べた。テラパワー社長・レベスク氏(右、オンラインにて)とエネ研・村上氏「リーダー・パースペクティブ」では、村上朋子氏(日本エネルギー経済研究所)がモデレーターを務め、米国テラパワー社が取り組む新型炉開発についてレベスク氏が紹介。テラパワー社は高速炉「ナトリウム」の2028年運開を目指しており、日本の「常陽」や「もんじゅ」の経験に期待を寄せ、1月には日本原子力研究開発機構、三菱重工業他とナトリウム冷却高速炉の技術協力に関する覚書を締結している。レベスク氏は、「日本が学んできた色々な経験・教訓を安全確保に活かしていきたい」と強調。また、同氏は、「ナトリウム」プロジェクトが米国エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プログラム」(ARDP)による支援獲得に行った経緯についても言及し、原子力技術における米国のリーダーシップ再興に向けた戦略的な動きをアピールした。「ナトリウム」の実証炉は、ワイオミング州ケンメラー市で閉鎖予定の石炭火力発電所に建設される計画となっている。レベスク氏は、「過去100年以上にわたり地域コミュニティは米国のエネルギー産業に大変貢献してきた」と述べ、テラパワー社による革新技術に地元が参画することに強い期待を寄せた。同氏の発表を受け、村上氏との間で、「ナトリウム」に関し、初号機以降の建設計画やマーケティング戦略などに関し質疑応答がなされた。
- 12 Apr 2022
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原産協会・新井理事長が会見、「第55回原産年次大会」について説明
原産協会の新井史朗理事長は4月1日、会見を行い記者団との質疑に応じた。新井理事長はまず、現下のウクライナ情勢に関し、「市民を含め多くの犠牲者が出ている現状に心を痛めるとともに、一刻も早い停戦合意を願っている。当協会としては、ウクライナの原子力発電所や関連施設に対して行われているあらゆる軍事的攻撃や、安全性を脅かすすべての行為について強く反対する」と改めて述べた(参照:理事長メッセージ〈3月11日発表〉)。原産協会では3月14日、カナダ原子力協会、FORATOM(欧州原子力産業協会)、米国原子力エネルギー協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会、世界原子力輸送協会とともに「ウクライナにおける原子力施設および職員の安全とセキュリティを確保すべくIAEAの活動を支援する用意がある」との声明を発表したほか、ウクライナの原子力施設に関する情報を随時発信している。続いて新井理事長は4月12、13日に開催される「第55回原産年次大会」(於:東京国際フォーラム〈オンライン配信併用〉)について説明。今回のテーマ「世界の持続可能な発展と原子力への期待」に関し、「主要国がカーボンニュートラルを目指す中、コロナからの経済回復と相まって、昨年来、化石燃料価格が高騰。ロシアのウクライナ侵攻を機に、世界のエネルギー供給はますます不安定になっている。こうした地球規模の環境問題や地政学的リスクの解として原子力発電の評価が高まりつつある」と、原子力を巡る世界情勢を概観し、大会での議論が広く発信されることを期待した。同大会2日目のセッション「核燃料サイクルの意義と期待」に関しては、「本年は六ヶ所再処理工場のしゅん工が予定されている」と、時宜を踏まえた議論を期待。「今、世界では先進炉や小型モジュール炉(SMR)の開発が推進されているほか、こうした開発プロジェクトには多くの優秀な若者が携わっている」とも述べ、同2日目のセッション「若手が考える原子力の未来」では、原子力技術のイノベーションへの期待や問題意識について国内外の若手関係者から話を聞き、今後の課題・対策を考えていきたいとした。また、昨今の電力需給ひっ迫を踏まえ、原子力の果たすべき役割について質問があったのに対し、新井理事長は3月28日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会での発言内容を説明。危機的状況への対応の重要性を強調した上で、「常日頃から再稼働できるプラント基数を増やすよう努め、ベースロード電源として原子力の厚みを確保しておくこと」とした。
- 04 Apr 2022
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早大・都市大による共同原子力専攻が設立10周年記念シンポ開催
早稲田大学と東京都市大学による共同原子力専攻大学院の設立10周年を記念するシンポジウムが3月14日に開催された。同専攻大学院は、両学がそれぞれ持つ加速器理工学分野、原子力安全分野の強みを活かした共同教育課程を通じ、原子力とその関連技術に関する教育、研究を行い、未来の新エネルギー創成実現に係る人材育成を目指すものとして2010年度に設立。当初2020年に行われる予定だった同シンポジウムは、感染症拡大の影響により延期されていたが、今回、会場(早稲田大学西早稲田キャンパス)とオンラインとの併用にて開催が実現した。シンポジウムでは、共同原子力専攻大学院の設立当初の面々が登壇し講演。早大元総長の白井克彦氏は、当時、都市大の学長を務めていた中村英夫氏との協力で「日本初の共同大学院」を立ち上げた経緯を振り返り、「何十年か先には明らかに技術者不足が生じる」などと、原子力産業界が直面する人材確保に係る課題を踏まえた高等教育としての使命を強調。「2010年4月に出発したが、翌年3月11日に悪夢が起き、この先どうなるのだろうかと思った」と、同専攻大学院設立から間もなく福島第一原子力発電所事故が発生し不安を感じたことを思い起こしながらも、今日まで多くの学生を受け入れ産業界への輩出に至ったとし、関係者による支援に対し謝意を表した。また、将来の原子力利用に関し「コンセンサスが必ずしもできていない」と指摘。「世界全体が原子力利用についてもう一度見直す時代が来ている」とも述べ、「『良いか、悪いか』ではなく、どういう風に取り組んでいくのか、真剣に考えるべき」と訴えかけた。続いて、早大、都市大でそれぞれ共同原子力専攻大学院の初代主任を務めた元原子力委員会委員長の岡芳明氏、都市大名誉教授の吉田正氏が講演。岡氏は「原子力発電所廃止は国民的損失」と繰り返し述べ、再稼働の促進・建設中プラントの工事完遂とともに、最大20年間・1回限りの運転期間延長制度の見直しや稼働しながらの新規制基準対応などを提唱。1960年代に都市大の前身である武蔵工業大学に学び民間企業勤務を経た後、現在も大学で指導に当たっている吉田氏は、「武蔵工業大学炉」(2003年廃止)での実習経験を通じて抱いた原子力技術への期待を回想したほか、昨今のウクライナ情勢に鑑み「エネルギーは国の安定・存立にとって決定的に重要」と述べるなど、両者とも原子力エネルギー、およびそれに関わる人材育成の重要性を強調した。共同原子力専攻大学院では、発足以来、「未来エネルギーフォーラム」と題し、福島第一原子力発電所事故の教訓、先端加速器の開発・応用他、特定のテーマを設け、大学、研究機関、企業、行政庁などが会し人材交流や情報交換を図るシンポジウムを継続的に開催している。今回は、原子力安全の向上や新型炉の技術開発に関し、東芝エネルギーシステムズ、三菱重工業、日立GEニュークリア・エナジーによる発表を受け議論した。また、オンライン併用のため参加者は限定的となったが交流会も行われ、冒頭、原子力発電環境整備機構(NUMO)の近藤駿介理事長、日本原子力産業協会の新井史朗理事長らが挨拶。近藤理事長は、原子力委員長在任時の2008年、同委「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇談会」による提言を現首相の岸田文雄・内閣府科学技術担当大臣(当時)を通じ福田康夫首相(同)に説明したことを振り返ったほか、現在NUMOとして取り組む高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた文献調査における地元との対話活動について紹介。原子力政策に関わってきた経験を踏まえ、「SLO」(Social License to Operate:社会が事業の実施を同意し受け入れてもらえる状態)の概念の重要性を掲げ、「高い倫理観を備えた人材の育成」が図られるよう切望した。新井理事長は、SDGs達成に向けた原子力の貢献にも言及した上で、産学官が連携し共同原子力専攻大学院がさらに発展するよう期待を寄せた。
- 16 Mar 2022
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原産協会・新井理事長が会見、福島第一事故発生11年を前にコメント
原産協会の新井史朗理事長は2月25日、会見を行い記者団との質疑に応じた。冒頭、新井理事長は、福島第一原子力発電所事故発生から間もなく11年を迎えるのに際しコメント。改めて被災された方々への見舞いの言葉、復興に取り組む方々の苦労・尽力に対し敬意・謝意を述べた。福島第一原子力発電所の廃炉に関しては、先般行われた1号機原子炉格納容器の内部調査、2号機の燃料デブリ取り出しに向けた楢葉モックアップ施設におけるロボットアームの性能確認試験開始など、最近の進捗状況を説明。長期にわたる困難な作業の完遂に向けて、「安全確保を最優先に着実な進展を期待する」と述べた。ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに関しては、「海洋放出については国内外で懸念の声があることも事実。安全を確保した設備の設計や運用はもちろん、心配の声を丁寧に聴き、透明性の高い情報発信、風評対策に万全を期して欲しい」と、国や東京電力を始めとした関係者による着実な取組を要望。特に懸念を表明する近隣アジア諸国・地域に対し、原産協会として、中国、韓国、台湾の原子力産業界で組織する「東アジア原子力フォーラム」のウェブサイトを通じ、科学的根拠に基づく正しい情報提供に努めていくとした。終わりに、「原子力利用を進めるに当たり、福島第一原子力発電所の廃炉と福島復興の支援に取り組むことは必須」と強調。福島に関する正確な情報発信とともに、会員組織と連携した県産品の紹介や販売協力にも努めていく考えを述べた。記者からは、緊迫するウクライナ情勢がエネルギー安定供給に及ぼす影響などに関し多くの質問があがった。これに対し、新井理事長はまず「大変悲しいこと」と事態を憂慮。昨今の原油価格高騰やLNG市場動向などに鑑み、原子力発電については、燃料の安定的供給が可能な優位性から「注目は高まっていくもの」とした。ウクライナにおけるフメルニツキ3・4号機計画(米国ウェスチングハウス社と協力しAP1000を建設)など、同国の原子力によるエネルギー自給率向上に向けた動きにも言及。一方で軍事侵攻に伴う原子力関連施設への影響も懸念されるが、新井理事長は、各国の政治的問題については切り離した上で、「洋の東西を問わず事故が起きることは原子力産業界全体にとってマイナスとなる」などと述べた。また、欧州委員会(EC)が2月2日に原子力発電を持続的な活動としてEUタクソノミ―(EUが気候変動緩和・適合のサステナビリティ方針に資する経済活動を明示した「グリーン・リスト」)に位置付けたことに関し、新井理事長は「とても意義深いこと」と歓迎。一方で、運転期間の延長、放射性廃棄物の処分、事故耐性燃料の装荷などに関し期限付きの厳しい条件があることから、「国によって状況は異なるが、よりよい条件に移行していくよう今後の流れに期待する」とした。
- 28 Feb 2022
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「原子力人材育成ネットワーク」がシンポ開催
「わが国の原子力界を支える人材の確保」を掲げ産学官が連携し活動する「原子力人材育成ネットワーク」のシンポジウム(2021年度報告会)が2月15日、オンラインで開催された。「原子力人材育成ネットワーク」は2021年度、発足から11年目に入り、参加機関は、新たに日本原子力文化財団を加え、計84機関(国際機関を除く、関係省庁、自治体、企業、大学など)となった。最近の活動成果としては、主に初等中等教育向けに全国39の原子力発電所PR館や研究施設などを紹介したパンフレットの作成があり、原産協会ウェブサイトでも公開されている。シンポジウム開会に際し、同ネットワーク運営委員長を務める原産協会・新井史朗理事長が挨拶に立ち、「原子力産業界が抱える課題解決に向けて共通の思いを新たにし、ネットワークの輪をさらに広げ、今後の機関横断的な活動の成果が一層実り多いものとなるよう期待する」と述べ、議論に先鞭をつけた。「原子力人材育成ネットワーク」では現在、今後の活動に向けた戦略ロードマップの改定が検討されている。これを見据え、シンポジウムでは、「原子力産業界のグローバル化」、「原子力分野の学びの機会拡大」をテーマにパネルディスカッション。座長を務めた日立製作所原子力ビジネスユニット事業主管の吉村真人氏は、同ネットワーク戦略ワーキンググループ主査を務める立場から、「戦略ロードマップに魅力ある産業としての展望をしっかりと描いていく」と強調し議論を進めた。「原子力産業界のグローバル化」の関連でパネリストとして登壇した日立GEニュークリア・エナジー原子力国際技術本部の吉江豊氏は、欧米の原子力開発プロジェクトに参画した経験から、「プロフェッショナルエンジニア」(PE)取得の意義を強調。技術的発言の信頼性や顧客ニーズの理解など、PEのステイタスに関し「海外プロジェクトに参画できる資質の証明となるもの」と述べた。これに対し、新興国への協力事業を行う原子力国際協力センター・センター長の鳥羽晃夫氏は、海外プロジェクトにおける日本の弱みとして、(1)国としての一貫性に欠ける、(2)資金面での制約がある、(3)実務面での長期的研修システムが確立されていない、(4)インターンシップの受入れが難しい、(5)国内に建設中・試運転中のプラントが少ない-――ことを指摘。技術的な資格制度の認知度が低いことも課題としてあげた。また、国際機関でのキャリア形成に関し、原産協会人材育成部長の喜多智彦氏は、自身のIAEA勤務経験を紹介。日本人職員数(専門職)について、1993~2000年の赴任時を振り返り「出向者を含めて40人前後で今もあまり変わらない」と、拠出金分担率に比して少ない状況を憂慮した上で、雇用形態の壁、極めて高い競争率、言語や生活の違いなどを課題として指摘。求められる資質として、専門分野の高度な知識・経験、コミュニケーション能力、異文化に対する受容性などをあげた。閉会挨拶を行う原子力機構・大井川理事、「原子力の持続可能性と人材育成は『車の両輪』」と(ZOOM撮影)「原子力分野の学びの機会拡大」に関しては、「原子力人材育成ネットワーク」高等教育分科会委員で富山高専電気制御システム工学科教授の高田英治氏が、現場で教育に携わる人材の高齢化・退職が進む現状から、若手・中堅の教員育成に向け「まず原子力に関し理解してもらうことが必要」と強調。大学・研究所や企業からの人材登用の可能性にも言及した。また、同初等中等教育分科会主査で長崎大学教育学部教授の藤本登氏は、「教育現場は旧態依然のところもある」などと懸念し、教育行政への働きかけ、教科書の内容充実化に関し、学会が連携して取り組む必要性を述べた。
- 16 Feb 2022
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原産協会・新井理事長が会見
原産協会の新井史朗理事長は1月21日、理事長会見を行い、記者からの質疑に応じた。年明け初となる今回の会見では、原産協会・今井敬会長の年頭所感および理事長メッセージ「2022年の年頭にあたり」を配布。新井理事長は、「わが国と世界の原子力界 主な動き 2021」(原子力産業新聞取りまとめ)から、2021年の国内外における「原子力活用の気運の高まり」となる出来事を振り返った上で、2022年に原産協会として取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について説明した。元旦には主要メディアで、米国テラパワー社と同エネルギー省(DOE)による高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が参加するとの報道があったほか、1月6日には萩生田光一経済産業相とジェニファー・グランホルムDOE長官との間でエネルギー政策に関するテレビ会談が行われ、革新炉開発に係る協力促進の方向性が確認された。こうした国際協力の動きについて記者から質問があったのに対し、新井理事長は、高速炉開発について、日本が進める核燃料サイクル政策上、「廃棄物の有害度低減や資源の有効利用」の観点から改めてその重要性を述べ、「国内の原子力技術開発・人材育成にもつながるもの」と歓迎。また、2021年12月にカナダ・オンタリオ州電力(OPG)が新たに建設する小型モジュール炉(SMR)としてGE日立・ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」が選定されたことについて、「大変意義がある」とする一方、広大な国土であるが故の電力系統連系の困難さ、大型炉の持つスケールメリットにも言及し、SMR開発に関し各国の事情に応じた取組の必要性を述べた。
- 24 Jan 2022
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