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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに開幕
「第55回原産年次大会」が東京国際フォーラム(東京都・千代田区)で4月12日に開幕した(オンライン配信併用)。13日までの2日間、国内外660名の参加者のもと、「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに、原子力が能力と価値を最大限発揮し、気候変動対応や社会・経済の持続的発展のため、どのような役割を果たすべきかについて考える。開会セッションでは、冒頭、原産協会・今井敬会長が所信を述べた。今井会長は、「世界ではカーボンニュートラルの目標のもと、原子力をその具体的な解決策とした取組が積極的に推進されている」として、最近の英国とフランスにおける原子力推進の動きを例示。さらに、「わが国も含め、新型炉開発など、イノベーションの分野でも各国支援のもと、多数のプロジェクトが進められている」とも述べ、「脱炭素社会の実現に向けた具体的手段」としての原子力に対する世界的な評価を改めて強調。加えて、昨今のウクライナ危機を始めとする世界情勢の不安定化に鑑み、「エネルギー安全保障の面からも原子力の重要性はより一層高まっている」とした。今井会長は、今回大会の各セッションがねらう論点を紹介。12日のセッション1と2では、「原子力の開発・利用、事業環境の整備について、日本や欧米各国がどのような国家戦略のもと、対処しようとしてるのか」を考えるとした。翌13日のセッション3では福島第一原子力発電所の廃炉、セッション4では六ヶ所再処理工場を始めとするバックエンド事業の意義とこれに対する期待、セッション5では国内外の若手パネリストを招き「若手が考える原子力の未来」について、それぞれ話し合う。細田経産副大臣続いて、細田健一経済産業副大臣が来賓挨拶。細田副大臣は、先般の電力需給ひっ迫を踏まえ電力の安定供給確保に努めるとともに、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策と福島の復興を引き続き「最重要課題」と位置付け着実に取り組んでいくことを改めて述べた。さらに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「わが国のエネルギー安定供給構築の重要性を再確認するきっかけとなった」とするとともに、ロシア依存からの脱却を見据えた燃料調達の多様化の中で、原子力を再評価する欧州の動きにも言及。「四方を海に囲まれ資源の乏しいわが国において、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合のすべてを満たす単一の完璧なエネルギー源は存在しない。原子力を含めた多様なエネルギー源をバランスよく活用することが重要」と、日本におけるエネルギー供給の現状を認識した上で、当面の課題である原子力発電所の再稼働に向けては、「円滑に進むよう、産業界とも連携し的確な安全審査対応をサポートするとともに、国も前面に立って立地自治体等、関係者の協力を得られるよう粘り強く取り組んでいく」とした。開会セッションでは、この他、OECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏と国際エネルギー機関(IEA)チーフエネルギーエコノミストのティム・グールド氏による特別講演(ビデオメッセージ)、「リーダー・パースペクティブ」としてテラパワー社長兼CEOのクリス・レベスク氏のプレゼンテーションが行われた。OECD/NEA事務局長・マグウッド氏マグウッド氏は、「ネットゼロを目指して-原子力エネルギーの必要性と課題」と題し講演。同氏は、「各国で資源の賦存状況など、政策意思決定の要因は色々と異なるが、どの国もエネルギー安全保障について真剣に考えねばならない」と繰り返し述べた上で、石炭利用の縮小やCO2排出削減目標などを背景に、現在、多くの国々で原子力が重要な戦略要素として再浮上しているとした。さらに、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の「1.5℃特別報告書」(世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃未満に抑える検討)が示す90のシナリオを分析して得た「世界の原子力設備容量を2050年までに2020年の3倍に増加する必要がある」とのNEAによる評価を紹介。これに関し、IEAとNEAによる「発電コスト予測」(2020年版)から、「原子力発電所の建設コストは平均して下がっている一方、石炭はほとんどの市場で競争力を失っている。今は原子力発電所を長期運転することが最も低コストなオプションだ」と強調。その上で、マグウッド氏は、「国によって原子力の規制プロセスが異なるほか、運転期間の延長に多額の投資が必要な場合もある。何よりも市場がプラントのもたらす価値を明確にとらえていないことが大きな問題だ」と、原子力によるネットゼロの実現に向けた課題を示唆した。IEA・グールド氏また、グールド氏は「IEAの視点-安定したエネルギー転換における原子力の役割」と題し講演。同氏は、IEAの「2050年ネットゼロシナリオ」を披露し、今後30年で原子力発電容量が倍増する見通しを示した上で、「拡大する再生可能エネルギーを補完するものとして、原子力の役割が重要」との考えを繰り返し述べた。世界の電力需給に関して、電化の進展により2050年の電力需要は2020年の約3倍に拡大し、電力供給では、原子力と水力を基盤として風力と太陽光のシェアが大幅に伸びるといった予測を図示。一方で化石燃料の減少に伴い、「ネットゼロの実現に向けて、蓄電池や水素ベース燃料など、調整力を持つ様々な電源が必要になる」とも指摘。日本に対するメッセージとして、グールド氏は、「安全に原子力発電所を再稼働することは、CO2排出削減と電力の安定供給の両方の目的にとって大変重要だ」と述べた。テラパワー社長・レベスク氏(右、オンラインにて)とエネ研・村上氏「リーダー・パースペクティブ」では、村上朋子氏(日本エネルギー経済研究所)がモデレーターを務め、米国テラパワー社が取り組む新型炉開発についてレベスク氏が紹介。テラパワー社は高速炉「ナトリウム」の2028年運開を目指しており、日本の「常陽」や「もんじゅ」の経験に期待を寄せ、1月には日本原子力研究開発機構、三菱重工業他とナトリウム冷却高速炉の技術協力に関する覚書を締結している。レベスク氏は、「日本が学んできた色々な経験・教訓を安全確保に活かしていきたい」と強調。また、同氏は、「ナトリウム」プロジェクトが米国エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プログラム」(ARDP)による支援獲得に行った経緯についても言及し、原子力技術における米国のリーダーシップ再興に向けた戦略的な動きをアピールした。「ナトリウム」の実証炉は、ワイオミング州ケンメラー市で閉鎖予定の石炭火力発電所に建設される計画となっている。レベスク氏は、「過去100年以上にわたり地域コミュニティは米国のエネルギー産業に大変貢献してきた」と述べ、テラパワー社による革新技術に地元が参画することに強い期待を寄せた。同氏の発表を受け、村上氏との間で、「ナトリウム」に関し、初号機以降の建設計画やマーケティング戦略などに関し質疑応答がなされた。
- 12 Apr 2022
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原産協会・新井理事長が会見、「第55回原産年次大会」について説明
原産協会の新井史朗理事長は4月1日、会見を行い記者団との質疑に応じた。新井理事長はまず、現下のウクライナ情勢に関し、「市民を含め多くの犠牲者が出ている現状に心を痛めるとともに、一刻も早い停戦合意を願っている。当協会としては、ウクライナの原子力発電所や関連施設に対して行われているあらゆる軍事的攻撃や、安全性を脅かすすべての行為について強く反対する」と改めて述べた(参照:理事長メッセージ〈3月11日発表〉)。原産協会では3月14日、カナダ原子力協会、FORATOM(欧州原子力産業協会)、米国原子力エネルギー協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会、世界原子力輸送協会とともに「ウクライナにおける原子力施設および職員の安全とセキュリティを確保すべくIAEAの活動を支援する用意がある」との声明を発表したほか、ウクライナの原子力施設に関する情報を随時発信している。続いて新井理事長は4月12、13日に開催される「第55回原産年次大会」(於:東京国際フォーラム〈オンライン配信併用〉)について説明。今回のテーマ「世界の持続可能な発展と原子力への期待」に関し、「主要国がカーボンニュートラルを目指す中、コロナからの経済回復と相まって、昨年来、化石燃料価格が高騰。ロシアのウクライナ侵攻を機に、世界のエネルギー供給はますます不安定になっている。こうした地球規模の環境問題や地政学的リスクの解として原子力発電の評価が高まりつつある」と、原子力を巡る世界情勢を概観し、大会での議論が広く発信されることを期待した。同大会2日目のセッション「核燃料サイクルの意義と期待」に関しては、「本年は六ヶ所再処理工場のしゅん工が予定されている」と、時宜を踏まえた議論を期待。「今、世界では先進炉や小型モジュール炉(SMR)の開発が推進されているほか、こうした開発プロジェクトには多くの優秀な若者が携わっている」とも述べ、同2日目のセッション「若手が考える原子力の未来」では、原子力技術のイノベーションへの期待や問題意識について国内外の若手関係者から話を聞き、今後の課題・対策を考えていきたいとした。また、昨今の電力需給ひっ迫を踏まえ、原子力の果たすべき役割について質問があったのに対し、新井理事長は3月28日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会での発言内容を説明。危機的状況への対応の重要性を強調した上で、「常日頃から再稼働できるプラント基数を増やすよう努め、ベースロード電源として原子力の厚みを確保しておくこと」とした。
- 04 Apr 2022
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早大・都市大による共同原子力専攻が設立10周年記念シンポ開催
早稲田大学と東京都市大学による共同原子力専攻大学院の設立10周年を記念するシンポジウムが3月14日に開催された。同専攻大学院は、両学がそれぞれ持つ加速器理工学分野、原子力安全分野の強みを活かした共同教育課程を通じ、原子力とその関連技術に関する教育、研究を行い、未来の新エネルギー創成実現に係る人材育成を目指すものとして2010年度に設立。当初2020年に行われる予定だった同シンポジウムは、感染症拡大の影響により延期されていたが、今回、会場(早稲田大学西早稲田キャンパス)とオンラインとの併用にて開催が実現した。シンポジウムでは、共同原子力専攻大学院の設立当初の面々が登壇し講演。早大元総長の白井克彦氏は、当時、都市大の学長を務めていた中村英夫氏との協力で「日本初の共同大学院」を立ち上げた経緯を振り返り、「何十年か先には明らかに技術者不足が生じる」などと、原子力産業界が直面する人材確保に係る課題を踏まえた高等教育としての使命を強調。「2010年4月に出発したが、翌年3月11日に悪夢が起き、この先どうなるのだろうかと思った」と、同専攻大学院設立から間もなく福島第一原子力発電所事故が発生し不安を感じたことを思い起こしながらも、今日まで多くの学生を受け入れ産業界への輩出に至ったとし、関係者による支援に対し謝意を表した。また、将来の原子力利用に関し「コンセンサスが必ずしもできていない」と指摘。「世界全体が原子力利用についてもう一度見直す時代が来ている」とも述べ、「『良いか、悪いか』ではなく、どういう風に取り組んでいくのか、真剣に考えるべき」と訴えかけた。続いて、早大、都市大でそれぞれ共同原子力専攻大学院の初代主任を務めた元原子力委員会委員長の岡芳明氏、都市大名誉教授の吉田正氏が講演。岡氏は「原子力発電所廃止は国民的損失」と繰り返し述べ、再稼働の促進・建設中プラントの工事完遂とともに、最大20年間・1回限りの運転期間延長制度の見直しや稼働しながらの新規制基準対応などを提唱。1960年代に都市大の前身である武蔵工業大学に学び民間企業勤務を経た後、現在も大学で指導に当たっている吉田氏は、「武蔵工業大学炉」(2003年廃止)での実習経験を通じて抱いた原子力技術への期待を回想したほか、昨今のウクライナ情勢に鑑み「エネルギーは国の安定・存立にとって決定的に重要」と述べるなど、両者とも原子力エネルギー、およびそれに関わる人材育成の重要性を強調した。共同原子力専攻大学院では、発足以来、「未来エネルギーフォーラム」と題し、福島第一原子力発電所事故の教訓、先端加速器の開発・応用他、特定のテーマを設け、大学、研究機関、企業、行政庁などが会し人材交流や情報交換を図るシンポジウムを継続的に開催している。今回は、原子力安全の向上や新型炉の技術開発に関し、東芝エネルギーシステムズ、三菱重工業、日立GEニュークリア・エナジーによる発表を受け議論した。また、オンライン併用のため参加者は限定的となったが交流会も行われ、冒頭、原子力発電環境整備機構(NUMO)の近藤駿介理事長、日本原子力産業協会の新井史朗理事長らが挨拶。近藤理事長は、原子力委員長在任時の2008年、同委「地球環境保全・エネルギー安定供給のための原子力のビジョンを考える懇談会」による提言を現首相の岸田文雄・内閣府科学技術担当大臣(当時)を通じ福田康夫首相(同)に説明したことを振り返ったほか、現在NUMOとして取り組む高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた文献調査における地元との対話活動について紹介。原子力政策に関わってきた経験を踏まえ、「SLO」(Social License to Operate:社会が事業の実施を同意し受け入れてもらえる状態)の概念の重要性を掲げ、「高い倫理観を備えた人材の育成」が図られるよう切望した。新井理事長は、SDGs達成に向けた原子力の貢献にも言及した上で、産学官が連携し共同原子力専攻大学院がさらに発展するよう期待を寄せた。
- 16 Mar 2022
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原産協会・新井理事長が会見、福島第一事故発生11年を前にコメント
原産協会の新井史朗理事長は2月25日、会見を行い記者団との質疑に応じた。冒頭、新井理事長は、福島第一原子力発電所事故発生から間もなく11年を迎えるのに際しコメント。改めて被災された方々への見舞いの言葉、復興に取り組む方々の苦労・尽力に対し敬意・謝意を述べた。福島第一原子力発電所の廃炉に関しては、先般行われた1号機原子炉格納容器の内部調査、2号機の燃料デブリ取り出しに向けた楢葉モックアップ施設におけるロボットアームの性能確認試験開始など、最近の進捗状況を説明。長期にわたる困難な作業の完遂に向けて、「安全確保を最優先に着実な進展を期待する」と述べた。ALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに関しては、「海洋放出については国内外で懸念の声があることも事実。安全を確保した設備の設計や運用はもちろん、心配の声を丁寧に聴き、透明性の高い情報発信、風評対策に万全を期して欲しい」と、国や東京電力を始めとした関係者による着実な取組を要望。特に懸念を表明する近隣アジア諸国・地域に対し、原産協会として、中国、韓国、台湾の原子力産業界で組織する「東アジア原子力フォーラム」のウェブサイトを通じ、科学的根拠に基づく正しい情報提供に努めていくとした。終わりに、「原子力利用を進めるに当たり、福島第一原子力発電所の廃炉と福島復興の支援に取り組むことは必須」と強調。福島に関する正確な情報発信とともに、会員組織と連携した県産品の紹介や販売協力にも努めていく考えを述べた。記者からは、緊迫するウクライナ情勢がエネルギー安定供給に及ぼす影響などに関し多くの質問があがった。これに対し、新井理事長はまず「大変悲しいこと」と事態を憂慮。昨今の原油価格高騰やLNG市場動向などに鑑み、原子力発電については、燃料の安定的供給が可能な優位性から「注目は高まっていくもの」とした。ウクライナにおけるフメルニツキ3・4号機計画(米国ウェスチングハウス社と協力しAP1000を建設)など、同国の原子力によるエネルギー自給率向上に向けた動きにも言及。一方で軍事侵攻に伴う原子力関連施設への影響も懸念されるが、新井理事長は、各国の政治的問題については切り離した上で、「洋の東西を問わず事故が起きることは原子力産業界全体にとってマイナスとなる」などと述べた。また、欧州委員会(EC)が2月2日に原子力発電を持続的な活動としてEUタクソノミ―(EUが気候変動緩和・適合のサステナビリティ方針に資する経済活動を明示した「グリーン・リスト」)に位置付けたことに関し、新井理事長は「とても意義深いこと」と歓迎。一方で、運転期間の延長、放射性廃棄物の処分、事故耐性燃料の装荷などに関し期限付きの厳しい条件があることから、「国によって状況は異なるが、よりよい条件に移行していくよう今後の流れに期待する」とした。
- 28 Feb 2022
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「原子力人材育成ネットワーク」がシンポ開催
「わが国の原子力界を支える人材の確保」を掲げ産学官が連携し活動する「原子力人材育成ネットワーク」のシンポジウム(2021年度報告会)が2月15日、オンラインで開催された。「原子力人材育成ネットワーク」は2021年度、発足から11年目に入り、参加機関は、新たに日本原子力文化財団を加え、計84機関(国際機関を除く、関係省庁、自治体、企業、大学など)となった。最近の活動成果としては、主に初等中等教育向けに全国39の原子力発電所PR館や研究施設などを紹介したパンフレットの作成があり、原産協会ウェブサイトでも公開されている。シンポジウム開会に際し、同ネットワーク運営委員長を務める原産協会・新井史朗理事長が挨拶に立ち、「原子力産業界が抱える課題解決に向けて共通の思いを新たにし、ネットワークの輪をさらに広げ、今後の機関横断的な活動の成果が一層実り多いものとなるよう期待する」と述べ、議論に先鞭をつけた。「原子力人材育成ネットワーク」では現在、今後の活動に向けた戦略ロードマップの改定が検討されている。これを見据え、シンポジウムでは、「原子力産業界のグローバル化」、「原子力分野の学びの機会拡大」をテーマにパネルディスカッション。座長を務めた日立製作所原子力ビジネスユニット事業主管の吉村真人氏は、同ネットワーク戦略ワーキンググループ主査を務める立場から、「戦略ロードマップに魅力ある産業としての展望をしっかりと描いていく」と強調し議論を進めた。「原子力産業界のグローバル化」の関連でパネリストとして登壇した日立GEニュークリア・エナジー原子力国際技術本部の吉江豊氏は、欧米の原子力開発プロジェクトに参画した経験から、「プロフェッショナルエンジニア」(PE)取得の意義を強調。技術的発言の信頼性や顧客ニーズの理解など、PEのステイタスに関し「海外プロジェクトに参画できる資質の証明となるもの」と述べた。これに対し、新興国への協力事業を行う原子力国際協力センター・センター長の鳥羽晃夫氏は、海外プロジェクトにおける日本の弱みとして、(1)国としての一貫性に欠ける、(2)資金面での制約がある、(3)実務面での長期的研修システムが確立されていない、(4)インターンシップの受入れが難しい、(5)国内に建設中・試運転中のプラントが少ない-――ことを指摘。技術的な資格制度の認知度が低いことも課題としてあげた。また、国際機関でのキャリア形成に関し、原産協会人材育成部長の喜多智彦氏は、自身のIAEA勤務経験を紹介。日本人職員数(専門職)について、1993~2000年の赴任時を振り返り「出向者を含めて40人前後で今もあまり変わらない」と、拠出金分担率に比して少ない状況を憂慮した上で、雇用形態の壁、極めて高い競争率、言語や生活の違いなどを課題として指摘。求められる資質として、専門分野の高度な知識・経験、コミュニケーション能力、異文化に対する受容性などをあげた。閉会挨拶を行う原子力機構・大井川理事、「原子力の持続可能性と人材育成は『車の両輪』」と(ZOOM撮影)「原子力分野の学びの機会拡大」に関しては、「原子力人材育成ネットワーク」高等教育分科会委員で富山高専電気制御システム工学科教授の高田英治氏が、現場で教育に携わる人材の高齢化・退職が進む現状から、若手・中堅の教員育成に向け「まず原子力に関し理解してもらうことが必要」と強調。大学・研究所や企業からの人材登用の可能性にも言及した。また、同初等中等教育分科会主査で長崎大学教育学部教授の藤本登氏は、「教育現場は旧態依然のところもある」などと懸念し、教育行政への働きかけ、教科書の内容充実化に関し、学会が連携して取り組む必要性を述べた。
- 16 Feb 2022
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原産協会・新井理事長が会見
原産協会の新井史朗理事長は1月21日、理事長会見を行い、記者からの質疑に応じた。年明け初となる今回の会見では、原産協会・今井敬会長の年頭所感および理事長メッセージ「2022年の年頭にあたり」を配布。新井理事長は、「わが国と世界の原子力界 主な動き 2021」(原子力産業新聞取りまとめ)から、2021年の国内外における「原子力活用の気運の高まり」となる出来事を振り返った上で、2022年に原産協会として取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について説明した。元旦には主要メディアで、米国テラパワー社と同エネルギー省(DOE)による高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が参加するとの報道があったほか、1月6日には萩生田光一経済産業相とジェニファー・グランホルムDOE長官との間でエネルギー政策に関するテレビ会談が行われ、革新炉開発に係る協力促進の方向性が確認された。こうした国際協力の動きについて記者から質問があったのに対し、新井理事長は、高速炉開発について、日本が進める核燃料サイクル政策上、「廃棄物の有害度低減や資源の有効利用」の観点から改めてその重要性を述べ、「国内の原子力技術開発・人材育成にもつながるもの」と歓迎。また、2021年12月にカナダ・オンタリオ州電力(OPG)が新たに建設する小型モジュール炉(SMR)としてGE日立・ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」が選定されたことについて、「大変意義がある」とする一方、広大な国土であるが故の電力系統連系の困難さ、大型炉の持つスケールメリットにも言及し、SMR開発に関し各国の事情に応じた取組の必要性を述べた。
- 24 Jan 2022
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原産協会「2022原子力新年の集い」が2年ぶりに開催
挨拶に立つ今井会長原産協会は1月6日、「2022原子力新年の集い」を都内のホテルで2年ぶりに開催。会員企業・組織、関係省庁、駐日大使館などから330名が訪れ、立食形式での歓談は行わず、着席にて参加した。年頭挨拶に立った今井敬会長は、地球温暖化への対応を巡る世界の動きを振り返った上で、「資源に乏しい日本において、脱炭素社会の実現と経済発展を両立させるためには、クリーンで、かつ発電コストが安定している原子力を最大限に活用することが最も合理的な手段となる」と明言。一方で、日本のエネルギー政策における原子力の位置付けに関し「活用方針は依然不明確なまま」と指摘した。また、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」とする目標引き上げを踏まえ、昨秋に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の達成に向けたシナリオは「非常に厳しい」と強調。再生可能エネルギー拡大に係る地理的制約、デジタル技術の活用に伴う電力需要増などに触れた上で、「日本のエネルギー政策において、原子力の正当な価値が認められ将来にわたる活用が明示されるよう、当協会として引き続き国民や関係機関に強く訴えかけていきたい」と述べた。続いて来賓として訪れた萩生田光一経済産業相が挨拶。萩生田大臣は、「新型コロナによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据え、着実に成長の種をまいていく必要がある」と述べ、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、経済産業行政を取り巻く課題に総力を挙げて取り組んでいく決意を示した。また、東日本大震災から間もなく11年を迎えるのに際し、「福島第一原子力発電所事故の真摯な反省が原子力政策の出発点」との姿勢を改めて示し、福島復興と廃炉・汚染水・処理水対策を着実に進めていく考えを強調。エネルギー政策に関しては、「資源が乏しく周囲を海に囲まれたわが国は、原子力、再生可能エネルギー、天然ガス、水素・アンモニアなど、多様なエネルギー源を活用することが重要」と述べ、エネルギー基本計画の具体的な政策の実現に向け、原子力については技術開発や人材育成に係る議論を深め、再稼働、使用済燃料対策、最終処分などに着実に取り組んでいくとした。また、電気事業連合会の池辺和弘会長に替わり、清水成信副会長が挨拶文を代読。関西電力美浜3号機の国内初となる40年超運転開始、中国電力島根2号機の新規制基準適合性審査に係る原子炉設置変更許可取得など、2021年の進展を振り返った上で、引き続き原子力発電の安定運転を通じた「S+3E」(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性)の実現、信頼の積み重ねに努め、稼働率の向上とともに、核燃料サイクル事業、最終処分に係る取組を事業者間で連携し進めていくとした。
- 06 Jan 2022
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原産協会・新井理事長が会見、産業動向調査結果について説明
原産協会の新井史朗理事長は11月26日、理事長会見を行い、6~7月に実施した「原子力発電に係る産業動向調査」(2020年度対象)の結果について説明した。原産協会が毎年実施している同調査は、今回、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上げ、従事者を有する営利を目的とした企業325社を対象に調査票を送付し、249社から有効回答を得た。それによると、電気事業者の2020年度原子力関係支出高は、「機器・設備投資費」が大きく増加したことにより、前年度比4%増の2兆1,034億円で、2018年度以降、東日本大震災前の水準に戻りつつある状況。そのうち、新規制基準対応額は5,192億円と、全体の25%を占めており、新井理事長は、「新規制基準対応の支出額を除けば、電気事業者の原子力関係支出高は、震災直後からあまり増えていない」との見方を示した。また、鉱工業他の2020年度原子力関係売上高は、前年度比10%増の1兆8,692億円、原子力関係受注残高は同4%減の2兆803億円。電気事業者と鉱工業他を合わせた原子力関係従事者数は、同0.3%増の4万8,853人だった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在(2021年度)の景況感を「悪い」とする回答が前回から2ポイント減の76%、1年後(2022年度)の景況感が「悪くなる」とする回答は同5ポイント減の22%となり、若干の改善傾向がみられた。「2050年カーボンニュートラル」を目指す取組に関しては、41%が「取り組んでいる」と回答。そのメリットとしては、「企業の価値が高まることによる既存事業の拡大」(複数回答で78%)が最も多く、「新たなイノベーションの創出等、新規事業の創出」(同72%)、「就活生など、人材獲得への好影響」(同34%)がこれに次いだ。原子力発電に係る産業を維持するに当たっての課題としては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(複数回答で76%)、「原子力に対する国民の信頼回復」(同63%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(同61%)が多くあがった。「原子力に対する国民の信頼回復」との回答がこの数年で初めて6割台に上ったことに関し、新井理事長は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案の影響を示唆。一方で、今夏、美浜3号機が国内初の40年超運転を達成したことに触れ、「こうした実績を積み重ねていくことが信頼回復に向けて極めて重要」と強調した。この他、新井理事長は、11月22日に発出した理事長メッセージ「パリ協定の目標達成に期待される原子力発電」についても説明した。*「原子力発電に係る産業動向調査」報告書は、11月30日に原産協会ホームページに掲載予定です。
- 29 Nov 2021
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原産協会、新井理事長が会見
原産協会の新井史朗理事長は11月5日、理事長会見を行い、10月22日の第6次エネルギー基本計画閣議決定に伴い発出した理事長メッセージ、関西原子力懇談会と共催で開催した学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」(東京:10月23日、大阪:10月30日)の概要、10月31日より英国グラスゴーで開かれているCOP26での原産協会の活動について説明し質疑応答に臨んだ。エネルギー基本計画の関連で、小型モジュール炉(SMR)開発に係る取組について問われたのに対し、新井理事長は、大型炉のスケールメリット、原子炉の多様な選択肢、実用化に向けたイノベーション促進、人材確保を図る上での魅力創出の可能性に言及し、「北米など、海外の実績も見極めていくべき」と述べた。足下の課題としては、まず既設炉の再稼働をあげた上で、改めて「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)のバランスの取れたエネルギー政策が図られる重要性を強調。また、「原子力産業セミナー2023」の参加学生は、東京会場202人、大阪会場178人(オンライン参加を含む、昨年度より合計で59人減)だった。16回目となった同セミナーの参加状況について、新井理事長は、「例年並みを維持できたのでは」との見方を示し、この他も原産協会として大学・高専と協力した学内セミナー開催なども通じ「切れ目なく学生へのアプローチを続け、人材確保の支援に取り組んでいる」と説明。新たなエネルギー基本計画策定に伴う「2030年におけるエネルギー需給見通し」で示された「総発電電力量の約20~22%程度を原子力が担う」目標達成に向け、再稼働、稼働率向上、長期運転、将来的には新増設・リプレースが必要とした上で、「これらを担う若い人材が不可欠。様々な分野の学生に原子力技術の魅力を知ってもらい、原子力産業への興味を喚起する取組を今後も続けていく」と述べた。 COP26の関連では、会期に先立ち世界の原子力産業界団体と共同でまとめた報告書「持続可能な開発目標(SDGs)達成への原子力の貢献」について紹介。さらに、現地に職員を派遣し、サイドイベントなどを通じ、「原子力発電は低炭素電源であり、増大する電力需要を満たしながら、温室効果ガスを削減するための解決策の一つであること」をアピールしているとした。脱石炭火力の動きについて問われたのに対し、新井理事長は、「各国で国情が違う」とした上で、各電源の長所・短所を考慮したエネルギーのベストミックスが構築される必要性を強調した。
- 08 Nov 2021
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「原子力産業セミナー2023」が東京で開催
原子力産業の人材確保支援、理解促進・情報提供を目的とする学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」が10月23日、都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関37ブースが出展し、164名の学生らが訪れた。主に2023年卒業予定の大学生・大学院生・高専生が対象。会場内では新型コロナウイルス感染症に対する万全の体制を整えるとともに、ウェブ方式も併用し、38名の学生がオンラインで参加した。同セミナーは、原産協会と関西原子力懇談会が毎年、東京と大阪で開催しているもので、16回目となる今回、日揮ホールディングスとスギノマシンの2社が初出展。4月に米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画を発表した日揮ホールディングスは、原子力以外にも、太陽光、洋上風力、バイオマス、水素・燃料アンモニアの他、使用済食用油を用いた航空燃料や水素製造に関わるセラミックスの開発など、エネルギー分野の幅広い展開をアピールした。海外のEPC(設計・調達・建設)事業を担う日揮グローバルの原子力エネルギー部長・木村靖治氏は、「グリーンエネルギー・ビジネスに貢献できる人材を育成したい」と、採用への意気込みを示した。同社は将来的に核融合エネルギーや途上国を含めた海外進出に注力するとしており、ブースを訪れた学生からは、「日本が米国で原子力開発?」との驚きの声が聞かれたほか、多くの女子学生がSMRについて質問する姿も見られた。原子力発電所のメンテナンスや廃炉の技術で重電会社の事業を支えるスギノマシンは、高速水噴射エネルギーを利用し様々な材質を切断する「ウォータージェットカッター」で知られている。プラント機器事業本部の犬島旭氏は、「水をコアとする技術が強み。専門性の高い学生に来てもらい、一緒に原子力事業を伸ばしていきたい」と強調。自動車・航空機、精密機器、建築材料、食品・薬品など、多方面にわたる同社の加工・洗浄技術の応用についても積極的にアピールし、学生らの関心を集めていた。行政機関からは原子力規制庁が出展。ブースでの説明には多くの学生が詰めかけ立ち見が出るほどにもなった。人材育成担当者は「立地地域の学生も多い」と、地元目線での原子力安全確保につながることへの期待をにじませた。また、セミナーに初回から出展している原子力発電環境整備機構(NUMO)では、ブースを訪れる学生の傾向に関し、「地質学系の学生が割と多い。これまでのセミナーではみられなかった」などと話している。「原子力産業セミナー2023」は、東京に続いて10月30日には大阪でも開催され、企業・機関28ブースが出展する予定。
- 25 Oct 2021
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新たなエネルギー基本計画が閣議決定
第6次エネルギー基本計画が10月22日、閣議決定された。3年ぶりの改定。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同計画策定に向けては、総合資源エネルギー調査会で昨秋より議論が本格化し、新型コロナの影響、昨冬の寒波到来時の電力需給やLNG市場、菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」実現宣言への対応などが視座となり、ワーキンググループやシンクタンクによる電源別の発電コストに関する精査、2050年を見据えた複数シナリオ分析も行われた。8月4日の同調査委員会基本政策分科会で案文が確定。その後、9月3日~10月4日にパブリックコメントに付され、資源エネルギー庁によると期間中に寄せられた意見は約6,400件に上った。新たなエネルギー基本計画は、引き続き「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)に重点を置いており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、経済産業省が6月にイノベーション創出を加速化すべく14の産業分野のロードマップとして策定した「グリーン成長戦略」も盛り込まれた。同基本計画の関連資料「2030年におけるエネルギー需給の見通し」で、電源構成(発電電力量に占める割合)は、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。エネルギー基本計画の閣議決定を受け、萩生田光一経産相は談話を発表。その中で、「福島復興を着実に進めていくこと、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは、エネルギー政策を進める上で大前提」との認識を改めて示した上で、「基本計画に基づき、関係省庁と連携しながら、全力をあげてエネルギー政策に取り組んでいく」としている。電気事業連合会の池辺和弘会長は、「2050年カーボンニュートラルを目指し、今後あらゆる可能性を排除せずに脱炭素のための施策を展開するという、わが国の強い決意が示されており、大変意義がある」とのコメントを発表。再生可能エネルギーの主力電源化、原子燃料サイクルを含む原子力発電の安全を大前提とした最大限の活用、高効率化や低・炭素化された火力発電の継続活用など、バランスの取れたエネルギーミックスの実現とともに、昨今の化石燃料価格高騰に伴う電力供給・価格への影響にも鑑み、国に対し、科学的根拠に基づいた現実的な政策立案を求めている。また、原産協会の新井史朗理事長は、理事長メッセージを発表。「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、同基本計画が、原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」としたことに関し、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された」、「原子力産業界としては、その責任をしっかりと受け止めなければならない」としている。
- 22 Oct 2021
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原産協会・新井理事長が会見、エネルギー基本計画見直しへの意見など説明
原産協会の新井史朗理事長は9月24日、理事長会見を行い、記者団からの質疑に応じた。新井理事長はまず、最近発表の理事長メッセージ「島根原子力発電所2号機の原子炉設置変更許可決定に寄せて」、「第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントにあたって」に関し説明。中国電力島根2号機については、9月15日に約8年の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可に至ったが、同機による地域への電力供給とCO2排出量削減の見込みに触れ、「早期再稼働の実現を期待する」と述べた。また、現在、資源エネルギー庁が新たなエネルギー基本計画(案)を示し実施しているパブリックコメントに当たり、(1)原子力を最大限活用していくべき、(2)新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき、(3)電力自由化の中で経営の予見性が必要であり英国・米国に見られるような制度を参考に導入が検討されるべき、(4)産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない――との意見提出を行ったことを説明。原子燃料サイクルに関しては、別途理事長メッセージ「原子力の持続的活用と原子燃料サイクルの意義について」を発信しており、新井理事長は、「エネルギーセキュリティ確保、資源の有効利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減の観点から、わが国の重要な政策と位置付けられている」と、その意義を改めて強調した。続いて新井理事長は、原産協会の第65回IAEA総会(9月20~24日)出席について説明。原産協会は、これまでIAEA総会の場で、IAEA幹部や加盟各国出席者との意見交換、展示会への出展を行ってきた。今回は、国内14機関・企業の協力を得て、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーション、福島復興における10年間の歩みをテーマとした日本ブースを設け、国内外から多くの関係者が来訪。新井理事長は、「重要な役割を果たした。今後もこのような機会をとらえ福島の復興や廃炉の取組について発信していきたい」と述べた。記者からは、エネルギー基本計画改定の関連でプルサーマルの見通し、高温ガス炉や核融合の展望の他、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案への対応などに関し質疑があった。
- 27 Sep 2021
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原子力委員会、原産協会より理解促進の取組についてヒア
原子力委員会は9月7日の定例会合で、原子力利用の理解促進に関する取組について、原産協会よりヒアリングを行った。原産協会からは、新井史朗理事長らが出席し、同協会が活動の柱の一つとして掲げる「国民理解促進」に向けて実施している情報発信と双方向の理解活動の状況について説明。〈原産協会発表資料は こちら〉ホームページ掲載とメール配信を基本とする情報発信では、原子力産業新聞(国内外ニュース)、「Atoms in Japan」(海外から関心の高い情報の英語発信)の他、会員組織からのニーズに応じた専門的情報として主要国・国際機関の調査報告の収集・発信、若者に親しみやすいコンテンツとして動画サイト「オレたちの原子力 あたしの原子力」(専門家が1分程度で疑問に答える)などを紹介。これに対し、佐野利男委員は「広報活動は10~30年を要するもの」として、小中学生も対象に長期的な視野で取り組んでいく必要性を指摘した。また、双方向の理解活動として新井理事長は、大学・高専生を対象にエネルギー・環境、原子力発電、高レベル放射性廃棄物処分、放射線利用に関する情報を提供し意見交換を行う「JAIF出前講座」や、2021年3月に完成した「原子力発電 THE ボードゲーム」の受講者・体験者の意識変化・感想を主に説明。2005年度から全国各地で実施されている「JAIF出前講座」は、これまで443回開催、延べ22,200名参加の実績を積んでおり(開始当初は地域オピニオンリーダーを対象とした)、最近では感染症対策のためオンラインや動画配信も積極活用している。受講前後のアンケート調査結果から、「日本で原子力発電を利用していくこと」への賛同や「原子力発電が電気の安定供給に役立つこと」への理解が増加していることから、新井理事長は「効果が目に見えている」とした。原子力発電に必要なものを遊びながら学べる「原子力発電 THE ボードゲーム」原産協会の若手職員の発想から「幅広い年代に、楽しみながら原子力発電についての知識を深めてもらい、原子力発電に対してポジティブなイメージを持ってもらう」ことをねらいに制作した「原子力発電 THE ボードゲーム」は、「JAIF出前講座」を開催した大学・高専、会員組織の広報・PR館へ約200セットを頒布しており、原子力産業新聞での掲載を通じボードゲームカフェや一般家庭からも問合せが来ている状況。実際にプレイした人からの感想としては、「原子力発電を知らない小学生も関心を高めてくれると実感した」との評価や、「原子力だけに限定せず、エネルギーミックスについて考えるゲームを作成しては」といった改善提案もあった。家族でボードゲームを楽しんだという上坂充委員長は、次世代層への関心喚起に向け、エネルギーミックスや廃炉をテーマとする可能性や、PC・スマートホンを活用した教育コンテンツの開発などにも言及し、「さらに興味が広がるよう、一歩一歩進めて欲しい」と期待を寄せた。
- 08 Sep 2021
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原産協会・新井理事長が会見、次期エネ基の素案に対しコメント
日本原子力産業協会は7月27日に理事長会見を開き、その中で新井史朗理事長は先般示された次期エネルギー基本計画の素案に対するコメントを述べた。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は21日に、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル社会の実現」表明など、最近のエネルギー・環境を巡る動きを受けたこれまでの議論を踏まえ、エネルギー基本計画の素案を提示。「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応として、原子力については、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。これに関し、新井理事長は、「原子力を活用する方針が示されたものと認識する。原子力が価値を最大限発揮し、『2050年カーボンニュートラル』の実現に貢献できるよう精一杯取り組んでいきたい」と強調。また、エネルギー基本計画の素案では、2030年における電力需給の見通しとして、電源構成などの暫定値も示しており、総発電電力量9,300~9,400億kWh程度のうち、原子力の占める割合は現行の2030年エネルギーミックス(2015年策定の長期エネルギー需給見通し)と同水準とされた。新井理事長は、「この政策目標の達成に向けて新規制基準に合格したプラントの再稼働、長期サイクル運転による設備利用率の向上に努めていく」としたほか、今後も原子力産業界が原子燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分などの諸課題に対し着実に取り組んでいく重要性を強調。原子力の電源構成比率「20~22%程度」の達成見込みについて問われたのに対し、省エネの深掘りなどにより総発電電力量の見通しが現行の2030年エネルギーミックスで示す10,650億kWh程度を下回っていることも踏まえ、「既に再稼働しているプラントに加えて、現在新規制基準適合性に係る審査が申請されている、および原子炉設置変更許可に至っているプラントも含めた27基で十分達成できるのでは」とした。また、新井理事長は、国内初の40年超運転となる関西電力美浜3号機の営業運転再開に関し、関係者の努力や地元の方々の理解に対する敬意・謝意を改めて述べた上で、「わが国の原子力産業界にとって大変意義深いこと」と強調し、今後も長期運転に向けた動きが進むことを期待(5月18日理事長メッセージ 参照)。関西電力では、同機に続いて30日にも大飯3号機が営業運転に復帰予定だが、両機合わせて関西圏の夏の電力安定供給を増強するものと歓迎した。美浜3号機は、6月23日に原子炉起動後、同29日に調整運転として発電を開始して、原子力規制委員会による最終検査を終了し7月27日17時に本格運転に入っている。
- 28 Jul 2021
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次期エネ基に向け「原子力の活用が不可欠」、原産協会・新井理事長
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は6月25日、記者会見を行い、現在検討作業が佳境となっている次期エネルギー基本計画に関して、「『原子力の依存度を可能な限り低減』とする現行方針の見直しと、新増設・リプレースへの言及」を改めて訴えた。新井理事長は、4月に菅首相が表明した「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」および「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、「原子力の活用が不可欠」と明言。原子力が役割を果たすため、4月26日の理事長メッセージで示す通り、新規制基準に適合したプラントの再稼働を着実に進めるとともに、設備利用率の向上や運転期間の延長が必要だと再度述べた。さらに、2050年を見据え、「今から新増設・リプレースの明確な方針を打ち出し必要な準備を進めるべき」とした上で、「より高い安全性を目指すことは大前提。そのための技術開発、人材育成を官民挙げて進める必要がある」と強調。原産協会として、「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する『原子力の価値』に対する国民理解が深まるよう、精一杯努めていく」と述べた。また、国内初の40年超運転に向け関西電力美浜3号機が6月23日に原子炉を起動したことに関して、5月18日発表の理事長メッセージ「高浜発電所1、2号機および美浜発電所3号機の60年運転について」を配布。3基は1970年代に運転を開始しているが、10年ごとの定期安全レビュー、運転開始から30年以降は高経年化技術評価の実施とそれに基づく長期保守管理方針の策定、40年を超える運転期間延長に際しては、原子炉圧力容器などの取替が困難な設備の健全性確認が行われており、「延長期間における運転に問題がないことが確認されている」と説明。他プラントでの運転期間延長にも期待を寄せた。さらに、「世界の40年以上運転している原子力発電所」一覧表(原産協会作成、2021年1月現在)から、米国における近年の長期運転に向けた動きを述べ、5月に原子力規制委員会(NRC)より2回目の運転期間延長認可の承認を受けたサリー発電所1、2号機(バージニア州、PWR、各87.5万kW)を始め、80年までの延長認可が6基に上っていることを紹介。各国で進む原子力の長期運転について、IEAとOECD/NEAによる経済性評価にも触れ、電力安定供給における優位性とともに、エネルギーの脱炭素化にかかる期待も述べた。記者から、長期サイクル運転(定期検査の間隔を現在国内すべてのプラントが区分されている13か月を超えて運転すること)導入や運転期間制度の見直し(いわゆる「審査中は時計を止める」)について質問があったのに対し、新井理事長は、原子力エネルギー協議会(ATENA)による技術的取組・原子力規制員会との対話への期待や地元理解の重要性などを述べた。原子力発電所の新規建設計画が進まぬ中、既存プラントを通じた技術の蓄積・継承に関しては、今後の長期運転に向けた大規模改造が場を提供する可能性にも言及。この他、新井理事長は、6月24日の原産協会とカナダ原子力協会との協力覚書締結について紹介。同協力覚書のもと、新たなパートナーシップの構築を通じ、カナダの国家レベルでの小型モジュール炉(SMR)開発、ウラン供給を通じた原子力産業界との長いつながりを背景に、気候変動対策における原子力発電の推進、原子力イノベーション促進に資する活動を進めていく。
- 28 Jun 2021
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新刊「世界の原子力発電開発の動向」を紹介 原産協会理事長会見
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月28日、記者会見を行い、同日刊行した「世界の原子力発電開発の動向 2021年版」について紹介した。原産協会が毎年刊行しているもので、世界の電力会社などに行ったアンケートをもとに、2021年1月1日現在のデータを集計している。各国で運転中、建設中、計画中の原子力発電所の諸元とともに、運転期間延長、使用済燃料貯蔵、廃止措置に関する調査結果の他、革新的原子力技術の一つとして関心が高まる小型モジュール炉(SMR)の特集記事も掲載。同2021年版によると、2020年中に中国とロシアで新たに3基・118.8万kWが営業運転を開始し、世界で運転中の原子力発電所は計434基・4億788.2万kW。中国とトルコで5基・542.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計59基・6,508.7万kW。今後新設される予定の計画中のプラントは計82基・9,421.6万kWとなった。2020年のトピックスとしては、5月に世界初の海上浮揚式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」(電気出力3.5万kW×2基搭載、タグボートで曳航・係留)が営業運転を開始したことがあげられ、新井理事長は「SMR時代の幕開け」と期待。また、9年ぶりに新規原子力発電導入国における初号機運転の動きがあり、UAEで8月にバラカ1号機、ベラルーシで11月にベラルシアン1号機が送電開始し、新たに原子力発電国となった。さらに、米国では、3月にビーチボトム2、3号機の80年運転が承認され、最近では2021年5月にサリー1、2号機もこれに続くなど、長期運転に向けた動きが顕著となっている。この他、新井理事長は、4月14日に発表した理事長メッセージ「福島第一の多核種除去設備等処理水の処分方針決定に寄せて」について解説するとともに、現在検討が進められているエネルギー基本計画の見直しに向けた考え方を、同日開催の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会での発表資料をもとに説明。「わが国は2050年カーボンニュートラルの実現に加え、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度から46%削減することを内外に表明した。その目標達成に原子力の活用は不可欠だが、その役割を果たすためには、再稼働を着実に進めることに加え、設備利用率の向上や運転期間延長が必要。2050年やその先を見据えると、今から新増設・リプレースの明確な方針を打ち出すべき」とした。さらに、原子力発電所の長期停止が技術力の維持・継承に及ぼす影響も懸念し、「エネルギー基本計画の中で、将来にわたる原子力利用をしっかりと位置付けてもらいたい」と要望した。記者からは、関西電力美浜3号機の40年超運転を始めとする国内原子力発電所の長期運転、原子力人材育成の現実的方策などに関する質問があり、新井理事長は、それぞれ原子力エネルギー協議会(ATENA)による技術的支援、原産協会による合同企業説明会「原子力産業セミナー」や全国の大学・高専を対象とした「出前講座」の開催など、産業界の取り組み状況を説明した。
- 31 May 2021
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『世界の原子力発電開発の動向2021年版』販売中
日本原子力産業協会が毎年とりまとめている「世界の原子力発電開発の動向」の2021年版が刊行されました。ご購入希望の方はコチラからお申込みください。本書は、当協会が世界の電力会社等から得たアンケート調査の回答などに基づいて、2021年1月1日現在の世界の原子力発電所のデ-タを集計したものです。2021年版には特集として「小型モジュール炉(SMR)開発の動向」を掲載しました。運転期間延長に関する調査結果、世界の使用済燃料貯蔵の状況、原子炉廃止措置への取り組み状況についても引き続き掲載しています。「世界の原子力発電所一覧表」では、国別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め発注、着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間・燃料交換停止期間等、広範な情報を網羅しています。A4判 236頁頒布価格:会員 7,000円 会員外 14,000円 【消費税,送料込】※請求書をお送りいたします
- 28 May 2021
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【第54回原産年次大会】セッション3「日本が持つべきエネルギービジョン」
第54回原産年次大会の最後のセッション3では、来るべきゼロエミッション時代を念頭に、日本が目指すべきエネルギービジョンについて、国内外の有識者を迎え、パネル討論を実施。金融アナリストの市川眞一氏がモデレーターを務め、昨今話題の「カーボンニュートラル(ネットゼロ)」時代に対応するための日本のエネルギー・環境政策を、原子力の果たすべき役割を交えて考察した。今大会に於いては、セッション1で「脱炭素社会に向けた地球規模の課題」を洗い出し、セッション2でエネルギー政策/原子力政策を前へ進める上で欠かせない福島の復興を議論した。本セッションではそれらのセッションを受けて、「未来へ向けてどうするべきか」(市川氏)について、ゼロエミッション分野で先行する海外事例を参考にしながら、「日本が持つべきエネルギービジョンとはいかなるものか?」「原子力産業界はそれに向けてどのように取り組むべきか?」といった議論が展開された。市川氏は、カーボンニュートラルという考え方にまだ日本人がキャッチアップしていないと指摘。世界の認識では「温暖化対策はコストではなく成長戦略」と捉えられているとした上で、金融の世界でも昨今ESG((Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)))が非常に重視されており、ESGを疎かにしている企業は資金調達が困難になるだろうと警鐘を鳴らした。最初に国連欧州経済委員会(UNECE)の持続可能エネルギー部門のディレクターであるスコット・フォスター氏が発表。国連が掲げる17のSDGs(持続可能な開発目標)の中心にエネルギーの安定供給があるとした上で、ゼロエミッション電源への移行において原子力発電は不可欠との認識を示した。フォスター氏 発言要旨今や「気候変動」はいつか来たるべき預言なのではない。現在進行中の現実だ。地球全体の気温はすでに1℃上昇しており、この上昇を近い将来に2℃までに抑えるのは極めて困難。今すぐに手を打たなければならない。欧州経済委員会(ECE)加盟国を対象に実施したUNECEの分析では、このまま何もしないレファレンス(REF)シナリオ、各国で目標を実施する(NDC)シナリオ、パリ協定以降の温度上昇を2℃に抑える真剣な取り組みを行う(P2C)シナリオの3つを検討した。その結果、P2C実現のためには2050年までに少なくとも900億トンのCO2を削減/回収しなければならないことが分かった。P2Cシナリオでは原子力の役割は非常に大きく、原子力を除外すると成立しない。炭素回収・貯留(CCS)や水素利用なども高コストではあるが、将来必要になるものだ。どんな技術も排除する余裕はない。まず現行のエネルギーシステムの環境負荷を低減させるため、CCSや高効率低排出(HELE)技術など低炭素技術への投資ガイドラインを策定する必要がある。また天然ガスから発生するメタンも温室効果が高いため、適切に管理しなければならない。エネルギー変革にあたっては、現在掲げられている各国の政策では全く不十分である。政治的な配慮を排し、現実的に持続可能なエネルギー行動計画を追求しなければならない。またカーボンプライシングや市場の再設計も必要だ。プラグマティズムに基づいて、経済面、社会面、環境面から持続可能な開発を追求することで、これは必ずや達成可能である。♢ ♢続いて英国原子力産業協会(NIA)会長のティモシー・ストーン卿が「原子力なくしてネットゼロなし」と題して発表。子孫のためにもネットゼロへ向けて今すぐに行動しなければならないと、強く呼びかけた。ストーン卿 発言要旨 英国の電力の大半は依然として化石燃料によって賄われている。さらに一次エネルギーを見ると、多くが化石燃料によって賄われている。この状況は日本と共通点が多い。日本のエネルギーミックスを見ると、原子力や水力のシェアは僅かで、大半は化石燃料によっている。日本ではエネルギーセキュリティ的に多くのリスクが顕在している。大半を他国に依存しており、燃料輸送も(スエズ運河を含む)シーレーンに依存するなどリスクが高い。 2050年までに温室効果ガス排出をネットゼロにするためには、日本も英国同様に化石燃料を別のエネルギー源で代替する必要がある。中でも天然ガスを代替するものがなければ、エネルギー供給には大きな問題が生じる。現実的な代替候補は水素であり、原子力(高温ガス炉)によって製造される水素は、他の方法によって生成されるものに比べて最も安価になると思われる。日英が先進モジュラー炉や高温ガス炉の開発で連携することは、極めて実り多い。しかしここで問題となるのが政治のリーダーシップである。 昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックはこれまで類を見ない問題であったが、気候変動問題はその比ではない。これは市場の問題でも企業レベルの問題でもなく、インフラの問題である。インフラについては政府が責任を負うものであり、そのリーダーシップが大変重要だ。原子力の最大の課題は、「資本コスト」だろう。原子力の発電コストは、発電所建設に掛かった資本コストに最も影響を受ける。資本コストが低ければ、原子力は再生可能エネルギーと比較しても十分競合できる。したがって政府は、原子力の資本コストを、出来る限り低減させなければならない。低炭素は我々の将来に欠かせない要素であり、今すぐ対処すべきである。COVID-19に各国が連携して対応するように、COP26に向けての協力が必要だ。忘れてはならないのはそれが次世代の社会に大きく影響するということだ。原子力なしにはネットゼロ実現は不可能であり、日英が協力して課題に対処していけることを願う。♢ ♢続いて米国より、米国原子力エネルギー協会(NEI)シニアディレクターのキャロル・ベリガン氏が米国の原子力を取り巻く状況を発表した。ベリガン氏 発言要旨この1年で各国のリーダーは気候変動に対し迅速に決然と行動するようになった。意欲的な目標設定が行われており、バイデン政権も2035年までに100%クリーン電力とすることを打ち出した。原子力はこの問題解決のカギとなる。米国の総発電電力量に占める原子力シェアは20%に過ぎないが、カーボンフリー電力に占める原子力シェアは50%以上である。特にこの1年、コロナ禍や2月に米国南部を襲った大雪といった未曾有の危機の中でも、原子力発電所は運転を継続し、その真価を発揮した。2020年には原子力は初めて石炭火力を抜き、米国で二番目の電源となった。米国の55の原子力発電サイトで8000億kWhを発電し、90%以上の設備利用率を維持し、昔より少ないユニット数でより多くの電力を発電している。世界各国の意欲的な気候変動防止目標の実現にはエネルギーシステムの変革が必要だ。その中核を成すのが原子力であり、各国政府、NGO、民間いずれも原子力なしでは目標達成が難しいとの見解で一致している。バイデン政権も真剣に取り組む姿勢を打ち出しており、パリ協定復帰に加え、来週には気候サミットを主催し世界的な流れを加速させようとしている。政権関係者も原子力の持つ役割を認めている。また既存の原子力発電所を維持しつつ、迅速に次世代炉への移行を進めなければならない。SMR、マイクロ原子炉、そのほか新型炉により原子力は一層高効率、低コストかつ多機能に使えるものとなる。新型炉は規模も様々で出力も簡単に変更できる。風力や太陽光など変動性のある電源との相性は良い。こうした米国での進展は日本にも波及し、クリーンエネルギー社会の実現につながることになるだろう。♢ ♢日本経済団体連合会で副会長ならびに資源・エネルギー対策委員長を務める越智仁三菱ケミカルホールディングス取締役は、経済界の立場からエネルギー政策および原子力の役割・課題について言及した。越智氏 発言要旨エネルギー政策の基本はS+3E(安全性を大前提とした安定供給、経済効率性、環境性の確保)である。加えて、世界のエネルギー・電力システムは3D、すなわち脱炭素化(Decarbonization)・分散化(Decentralization)・デジタル化(Digitalization)という方向に向かっており、こうした潮流にもしっかりと対応していく必要がある。菅総理のカーボンニュートラル宣言を経済界としても高く評価しており、その実現に全力で取り組む考えだ。脱炭素社会の実現のためには、エネルギーの需給両面から、抜本的な構造転換を図っていく必要がある。電源の脱炭素化はもちろん、エネルギー消費の4分の3が非電力、熱需要であることを踏まえれば、非電力も含めた総合的な対策が求められる。具体的には、政府の検討でも示されている通り、①エネルギー需要の電化と電源の脱炭素化、②エネルギー需要の水素化と安価な水素の大量供給、③なお排出が避けられないCO2の固定・再利用--の3つを柱に、取り組みを進めていくことが重要だ。経団連では今年の3月16日、2019年4月に取りまとめた電力システムの再構築に関する提言の第2弾となる提言を公表した。提言では、まず、2050 年カーボンニュートラルを実現するための電力システムの将来像について論じた。とりわけ、電源ポートフォリオについては、再エネや原子力に加えて、脱炭素化に資するあらゆるリソースを柔軟に組み合わせることが重要だ。そのうえで、電気事業の環境整備策として、カーボンニュートラルの実現を見据えた電源新設投資を確保するため、容量メカニズム((卸電力市場(kWh市場)とは別に、供給能力に対する価値に応じた容量価格(kW価格)を支払う))の拡充や、FIP制度((Feed in Premium:卸市場などで販売した価格にプレミアムを上乗せする⽅式))の活用等で適正な収入の予見性を確保するよう提案した。2050 年の電源構成については、全ての電源を選択肢から排除しないことが重要だ。数ある電源の中でも、原子力は3Eのバランスに優れたエネルギー源であり、人類が将来に亘って必要なエネルギーを確保し、カーボンニュートラルへと向かっていく上で不可欠な技術である。引き続き重要なベースロード電源として活用していくことが重要と考える。原子力は2050 年段階でも然るべき水準を維持し、供給力として相応の役割を担うことが期待される。一方で既存炉の40 年運転では、2050 年段階で稼働している原子炉はわずか3基となってしまう。運転期間の60 年、さらには60年超への延長や、不稼働期間の取扱い((現在のように、審査の長期化により稼働していない期間も「運転期間」に含めるのかどうか))に関する検討はもちろん、リプレース・新増設にも取り組んでいく必要がある。また、将来を見据えれば、既存の軽水炉の安全性向上につながる技術はもちろんのこと、SMRや高温ガス炉等の、安全性に優れ、経済性が見込まれる新型原子炉の開発を進めていくことも極めて重要だ。福島第一原子力発電所事故以降、原子力に携わる人材が一貫して減少しており、技術・人材基盤の維持に懸念が生じている。次期エネルギー基本計画への記載をはじめ、早期に国としての方針を明確化する必要がある。♢ ♢続いて、「カーボンニュートラルと原子力政策」と題し、慶應義塾大学の遠藤典子特任教授が発表。カーボンニュートラルを目指すからには原子力は必然であり、そのことをきちんと政策に盛り込んでいくべきだと力強く訴えた。遠藤氏 発言要旨菅総理のカーボンニュートラル宣言を受け、さまざまな審議会が各所で立ち上がっている。経済産業省だけでなく、環境省でもカーボンプライシングの検討会が始まっている。そして今年はエネルギー基本計画の改定の年であり、エネルギーミックスをどのようにするか、これから基本政策分科会にて結論を出すことになる。海外へ目を転じると、気候変動サミットが米国で、G7の議長国である英国でG7サミット、G20でもエネルギー大臣会合があり、国連総会、G20首脳会合、そして11月に英国でCOP26が開かれる。議長国である英国とバイデン政権となった米国との間で、気候変動のリーダーシップをめぐっての駆け引きが行われている。両国に共通しているのは「原子力はカーボンフリー電源である」ことを政策的にきちんと位置づけている点だ。ここが日本とは違う。日本の場合火力発電由来のCO2排出量が依然として非常に多い。基本政策分科会で示されている参考値として、「原子力と(CO2回収を前提とした)火力」「再生可能エネルギー」が取り上げられており、議論されている。再エネを50〜60%、水素・アンモニア発電を10%、原子力とCCUS((Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:炭素回収・利用・貯留))を合わせて30〜40%という数字が参考値として示されている。昨年から今年にかけての年末年始の需給の逼迫は、実に停電寸前の状態であり、危機的な状態にあった。その主たる要因はLNGの不足だったのだが、構造的な要因は原子力が稼働していないことに尽きる。原子力の稼働数が少ない場合、LNGがそれをカバーするため大変な負荷がかかっているのだ。原子力は現状4基しか稼働しておらず、長期的に見ると40年運転の制限の中では、加速度的に原子力が退役していき、原子力がない状態でカーボンニュートラルを目指さなければいけないことになる。今後電化の進展により、需要サイドは30〜50%ほど2050年に向かって伸びていくと予測されているが、原子力が40年運転で閉鎖される場合、原子力シェアはわずか2%になる。全ての原子炉が60年まで運転期間を延長できたとしても、2050年には12%に近づくが、2060年には5%を切り、2070年には2%を切るところまで落ち込んでしまう。こうした現状を目にすれば、原子力の新増設が必要になると考えるほかない。カーボンニュートラルを求めるからには原子力の利用は必然なのだ。安全性を確保した上での既存炉の長期利用革新技術の開発(イノベーションは原子力の分野でも必ず起きる)事業の予見可能性を制度的に確立する今のエネルギー基本計画の中に、以上の3点をしっかりと織り込んでもらうことを強いメッセージとして発しなければならない。原子力は日本のメーカーが世界的にも優位にある産業で、しっかり守ることが重要だ。私は菅総理のカーボンニュートラル宣言は、総理から原子力産業へのメッセージと受け止めている。♢ ♢最後に市川氏が「カーボンプライシングの衝撃」と題して発表。先行事例であるEUの排出枠取引(EU-ETS:European Emission Trading)を例に、日本がどのように制度的に取り入れていくかを論じた。市川氏 発言要旨カーボンプライシングの代表例が、EU-ETSだ。最近、EUが2030年までの温室効果ガス削減目標を、従来の1990年比40%から55%へと大幅に引き上げたことにより、その価格が急騰しており、金融の世界では大変な注目を集めている。EU-ETSにおいては、温室効果ガス排出量が多い一定規模以上の燃料燃焼施設、産業施設26種類に関し、EUが施設毎に排出枠(キャップ)を定める。ある施設の排出量がキャップを下回った場合、その部分をクレジットとして市場で売却可能とした。一方、排出量が排出枠を超えてしまった施設は、市場でクレジットを購入し、排出枠を増やさなければならない。EU域内の排出枠の総量を毎年削って行けば、EUとして国際的に責任を負った排出削減目標を達成できるわけだ。さらにEUは2019年12月、『EUグリーンニューディール』を発表。その柱の1つが温室効果ガス排出枠に関する「国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism)」の導入だった。この国境調整は、EU加盟国が排出規制を実施していない国から何かの製品を輸入する場合、EU域内で生産された製品が負担している排出枠購入コストを炭素税として課す制度である。温室効果ガスに関して国境調整が浮上した背景は、EU-ETSにおける排出枠価格の急騰だ。EU域内で厳しい規制をクリアするため排出枠を購入すれば、製品価格が上昇する。結果として温室効果ガスの排出削減が進んでいない国からの輸入が増えた場合、EU域内の事業者が不利になる上、世界全体で見ると排出量は減らない。この国境調整によるカーボンプライシングは、既に主要国における共通の関心事になりつつある。米国では、バイデン政権が積極的だと聞いている。また、EUを離脱した英国のボリス・ジョンソン首相も、6月にコーンワルで開催するG7首脳会議において、議長国として国境調整に関する提案を行う意向であると報じられた。日本にはカーボンプライシングの制度がないため、ここでしっかりと制度設計をしておかないと日本企業は国際的な競争に勝てなくなってしまう。排出枠取引では、価格は市場が決定するので、最終的なコストは不透明だが、確実に排出量を削減できる。今後世界はこちらが主流になるだろう。日本の最終エネルギーに占める電力の割合を徐々に上げながら、発電段階でのゼロエミッション化を進めるのが最も合理的な方法だろう。もちろん再生可能エネルギーも重要であり、水素・アンモニアにも取り組む必要がある。ただ、ドイツがあれだけこれまで努力を重ねてEUの中でも家庭用の電気料金が2番目に高い状況でありながら、再生可能エネルギーの比率は40%に留まっている。残りの30%は石炭・褐炭であり、10数%が原子力だ。ロシアからの天然ガスパイプラインを敷設し、フランスから電力を買いながらもそれが限界なのだ。対して日本のような少資源な島国で、どうやってカーボンプライシングの世界の流れに立ち向かい、国際貢献をしながら成長意欲を高めていくのかということを考えていけば、自ずと電源構成がどうあるべきかはわかってくるはずである。♢ ♢その後のパネル討論では、昨今話題のEUタクソノミーなど、原子力へのファイナンスを支援する制度のあり方を議論。「政府が原子力プロジェクトのリスクを取り除くことで、資金が回るようにする」(ストーン氏)、「投資促進のためのルール作りが必要」(フォスター氏)、のほか遠藤氏からは「政府がエネルギー基本計画の中できちんと原子力のターゲットの数字を上げることで、民間投資が促進される。“戦略的沈黙”なのかもしれないが、誤魔化しの10年とならないように」との強い要望も出た。
- 15 Apr 2021
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【第54回原産年次大会】セッション2「福島のさらなる復興に向けて」
4月14日のセッション2「福島のさらなる復興に向けて」は、福島第一原子力発電所事故発生から1年後の2012年以来、続いているテーマ。今年は事故から10年が経過した福島第一原子力発電所の廃炉の現状を踏まえつつ、今後の福島復興の展望に向け意見交換が行われた。セッション冒頭、東京電力ホールディングス株式会社 常執執行役で福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデント 小野明氏が福島第一原子力発電所の現状と課題を報告。まず、小野氏は今般の柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に関する不備の問題について、深く反省と謝罪の意を表した。その上で、福島第一原子力発電所の汚染水対策について、小野氏は、地下水・雨水の流入を抑制することによって、汚染水の発生が2020年には140㎥/日まで低下しているほか、多核種除去設備(ALPS)処理水貯蔵のために、計画通り2020年末で137万トン分のタンクを確保済みであるが、タンク貯蔵量が2021年2月時点で約125万トンに達している中、計画容量を超えてタンクをさらに建設すると、必要な施設の建設に支障を来し、今後の廃炉の進捗に多大な影響を与える可能性があることを懸念。ALPS処理水については、前日の4月13日に海洋放出の政府方針決定が発表されたところ。これに関し、小野氏は「当社としては、国の方針を受けて、関係者との協調を図りながら今後の処理に向けた具体的な作業を進めていく。しっかりやっていきたい」と述べた。小野氏は続いて、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出しに向けた作業の進捗状況、固体廃棄物管理、そして、「復興と廃炉の両立」について説明。「とくに、福島の復興について、我々はいかに1F(福島第一原子力発電所)の廃炉を復興に向けて活用していけるか、を考える必要がある。その鍵は、1Fの廃炉作業に地元の企業のみなさまに積極的に参入していただくことだ」と述べ、そのための企業向け説明会や地元企業と元請企業とのマッチングを増やしていく考えを示した。また、去る2月13日の地震発生時、3号機原子炉建屋の地震計が7月の大雨の影響により故障していたことを始め、タイムリーな情報発信がなされておらず、地元の方々による受け止めと東京電力の取組姿勢にギャップがあると自省し、「そうしたギャップを埋めていくことがまず必要。地域目線でしっかりと双方向のコミュニケーションに取り組んでいきたい」とも述べた。続いて、福島大学国際交流センター 副センター長のウィリアム・マクマイケル氏(モデレーター)の進行のもと、「震災から10年 福島が拓く未来」と題して、福島復興の第一線に関わってきた若手のパネリストたちが語り合った。 株式会社小高ワーカーズベース代表取締役の和田智行氏は、南相馬市小高区に生まれ育った。震災前に東京からUターンし、地元でITベンチャー企業を経営していたが、福島第一原子力発電所事故により避難生活を余儀なくされた。2014年2月、当時まだ避難指示区域で居住が認められていなかった南相馬市小高区に株式会社コワーカーズスペースを創業。小高区は2016年7月に避難指示が解除され帰還が進んではいるが、元は1万2千人を超えていた人口が、3分の1程度の約3,700人にまで減少。その半数を高齢者が占めるとともに、子どもの数も激減し、超少子高齢化の状況となっている。「本当に厳しい状況で、地域には課題が多く、それが帰還を阻んでいるが、見方を変えれば課題はすべてビジネスの種。ここでしか生み出せないビジネスがある」と、和田氏は反骨精神をみせる。最初に手がけたのは、人がいない町で働く場としてコワーキングスペースをつくること。また、食堂や仮設スーパーもつくった。生活環境が整っても若い世代がなかなか戻って来ないという課題に対し、若者にとっても魅力的な仕事として、ガラスアクセサリーの工房を立ち上げると、地元の若い女性たちが工房で働き、カフェのオープンや若者の来訪にもつながるという好循環が生まれた。今は、この地域の可能性を感じてチャレンジする起業家へのサポートと、コミュニティづくりのフェーズに移っており、これまでに全国から8人の起業家が集まっている。さらに、ゲストハウスやキッチンを備えたコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」も新設。ここでは、地域の事業者と外部からの来訪者の交流の場として、コロナ禍中リモートワークで滞在しながら一緒に仕事をする人も増えている。最近、震災当時10代だった若者たちの起業支援や人材育成のためのプロジェクトも始めた。「最終的にこの地域を自立した地域にしたい」と和田氏は語る。そして、「先人たちの努力で豊かに成熟した現代日本だが、そこで閉塞感を抱える人も多い。逆にこの地域には何もなく、新しく創るしかない。その意味で、この地域は現代日本唯一で最後のフロンティアだ。予測不能な未来を楽しみ、フロンティアを開拓していく」と、意気込んだ。双葉郡未来会議「ふたばいんふぉ」の辺見珠美氏は、東京都生まれ。大学で原子力と放射線について学んだ。2011年、福島第一原子力発電所事故により富岡町から東京に避難してきた子どもたちの学習支援のボランティアに取り組む中で双葉郡とのつながりができ、2012年、川内村に移住し、福島大学川内村サテライト職員として、放射線についての相談受付などの住民対応を行った。2020年から富岡町に移住。双葉郡のインフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」のスタッフとして双葉郡の情報発信や草の根の活動に取り組んでいる。辺見氏は地図を示しながら、「冬は出稼ぎに行く地域だったが、東京に出稼ぎに行く代わりに東京の電気をつくることで電源供給地となった」と、双葉郡の歴史に触れた後、2011年の福島第一原子力発電所事故発生からの避難区域設定の変遷を振り返った。現在の帰還困難区域の人口22,332人の規模感について、各電力会社の従業員数と比較したグラフで表現。「原子力発電所の事故は、『それまで』をすべて失うことだった」と辺見氏は言う。さらに、「ひと、もの、こと、思い出、いつもの日常がどれだけ幸せなことか。私の周りには、小学生の時に震災に遭い、いつもそばにあった夜ノ森の桜並木が帰還困難区域のバリケードで隔てられ、その桜を特別に感じてしまうこと自体に嫌悪感がある、という複雑な心情を抱えた若者たちがいる」と。そんな想いを抱き、双葉郡で活動する。新しく未来を築き、暮らしを取り戻すために、川内村で「村の暮らしを楽しもう」をコンセプトに、村内外の人々が楽しめる企画を展開している。中には養鶏を営む農家で「鶏をさばくところから始めるソーセージづくり」など、ここでしかできない講座もある。また、富岡町での「とみおかこども食堂」の活動は、廃炉作業員など移住してきた人々や帰還者を含めて、子どもたちを通して地域のコミュニティを再構築しようというユニークな試みである。「避難、軋轢、格差、高齢化、コミュニティの崩壊、考え方の違いなど、いろいろなことが原子力発電所の事故で引き起こされた。しかし、これらはどこにでも起こりうることだ」と辺見氏は指摘。さらに、「より良い未来をつくっていくには、『お互いを知り、対話を重ね、理解し合うこと』に丁寧に取り組むことが遠回りなようで近道であり、様々な課題に対して解決へ導く鍵となるのではないか」とも述べる。そして、原子力関係者に対しても「再稼働や処理水の海洋放出などに関して行われる説明会や公聴会も、一方的なものではなく、双方の立場の違いを理解し合った上での話し合いを丁寧にやってもらえればと思う」と強調した上で、「ぜひ双葉郡の方々の生の声を聞きに来てほしい」と呼びかけた。一般社団法人ふくしま学びのネットワーク理事・事務局長の前川直哉氏は、兵庫県尼崎市に生まれ、1995年、高校3年生の時の阪神・淡路大震災で被災した。大学卒業後、母校の灘中学校・高校の教壇に立ち、2011年の東日本大震災以降、たびたび生徒たちと福島や宮城の被災地を訪れるうちに福島県で仕事をしたいと思うようになり、2014年、福島市に移住して非営利団体「ふくしま学びのネットワーク」を設立。2018年からは福島大学の特任准教授も務める。前川氏は元同僚や大手予備校の講師などを招き、福島の高校生を対象とした無料セミナーを延べ14回開催。セミナーの講師陣は完全手弁当で、面白い授業にはリピーターも多い。「そういう『カッコいい大人』として誰かの力になるには力をつけなければならない。学校はそのための場所だと生徒たちに伝えている」と前川氏は語る。20年後の日本ではロボットやAIが人間の仕事を奪っていく時代になると言われている。しかし、正解のない問い、自ら課題を発見し、解決策を探ることはロボットやAIには決してできない。たとえば、「双葉郡の方々が少しでも日常を取り戻すにはどうすればよいか」を考えるのも人間にしかできない仕事だ。福島では高校生が県内各地で復興や地域貢献のため多様な活動を展開しており、こうした高校生の活動をサービス・ラーニングとして顕彰し、さらなる活性化を図っている。また、福島大学では地域実践特集プログラム「ふくしま未来学」にも取り組む。「福島は、自分のためではなく、誰かのための学びであることが伝わり、知識偏重教育でなく、正解のない問いにチャレンジできる場所。限界に来ている日本の教育を変えられるのは福島からだ」と前川氏は強調。一方で、教育者として、「子どもたちの活動を誇らしいと思うと同時に、福島の問題をどうしても遺してしまい、子どもたちを復興にしばりつけているのではないかと、忸怩たる思いも正直ある」とも。同氏は、そんな葛藤も抱えながらも「今後も子どもたちと向き合っていきたい」と語った。続いて、パネル討論に移り、自他共に認める「カナダ人で一番の福島ファン」マクマイケル氏が30年後の「FUKUSHIMA」について、あるべきイメージを問うと、和田氏は、「住民が自立した暮らしを実現している」ことをあげ、そのために、自社のミッションとして掲げる「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」を遂行し、「旧避難指示区域で事業やプロジェクトを興せる風土を醸成していく」と抱負を語った。また、辺見氏は「地層をつくる」と標榜。その心は、「原子力発電所の事故により暮らしが失われ、豊かな思い出まで『除染』されて、はぎ取られ、町として『欠けている感』が生じてしまった双葉郡の『まちを耕す』。つまり、一度人がいなくなり、それまで培ってきた暮らしが失われてしまった土地に、喪失を埋める『土』となる人の営みを積み重ねていく30年間」だという。また、前川氏は、30年後の福島に「地球と人類の最後の砦」をイメージ。そのためには「教訓の継承」が欠かせないとする同氏は、「原子力発電所の事故を『なかったこと』にせず、失敗を直視し、そこから学ぶこと」と強調した。最後に、「原子力産業に期待することは?」と、マクマイケル氏が投げかけると、和田氏は「幸せな社会をつくりたいのは共通の願いだと思うので、何か一緒にできることがあれば協働していきたい」との姿勢を示し、辺見氏は「原子力は一般市民にとって専門性が高くて遠いものなので、もっと社会との距離を近づけてお互いの理解を深めたほうが良い」と指摘。前川氏は「福島から学べることはたくさんある。ぜひ福島を訪ねてもらい、見聞きしたことを周りの人たちにも伝えてもらえると嬉しい」と期待した。マクマイケル氏は、「福島の人たちに今見えている課題、そして、今後の可能性について、多くの人に共感していただける時間になったと思う。今日の登壇者のみなさんが大切に育んでいる福島の再生の芽は、必ずや世界の未来にもつながると私は信じている。復興を地元で支えている人たちへの敬意を持ちながら、共に未来を形成していく姿勢を持ちたい」と語り、セッションをしめくくった。
- 15 Apr 2021
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