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原産協会「2022原子力新年の集い」が2年ぶりに開催
挨拶に立つ今井会長原産協会は1月6日、「2022原子力新年の集い」を都内のホテルで2年ぶりに開催。会員企業・組織、関係省庁、駐日大使館などから330名が訪れ、立食形式での歓談は行わず、着席にて参加した。年頭挨拶に立った今井敬会長は、地球温暖化への対応を巡る世界の動きを振り返った上で、「資源に乏しい日本において、脱炭素社会の実現と経済発展を両立させるためには、クリーンで、かつ発電コストが安定している原子力を最大限に活用することが最も合理的な手段となる」と明言。一方で、日本のエネルギー政策における原子力の位置付けに関し「活用方針は依然不明確なまま」と指摘した。また、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」とする目標引き上げを踏まえ、昨秋に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の達成に向けたシナリオは「非常に厳しい」と強調。再生可能エネルギー拡大に係る地理的制約、デジタル技術の活用に伴う電力需要増などに触れた上で、「日本のエネルギー政策において、原子力の正当な価値が認められ将来にわたる活用が明示されるよう、当協会として引き続き国民や関係機関に強く訴えかけていきたい」と述べた。続いて来賓として訪れた萩生田光一経済産業相が挨拶。萩生田大臣は、「新型コロナによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据え、着実に成長の種をまいていく必要がある」と述べ、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、経済産業行政を取り巻く課題に総力を挙げて取り組んでいく決意を示した。また、東日本大震災から間もなく11年を迎えるのに際し、「福島第一原子力発電所事故の真摯な反省が原子力政策の出発点」との姿勢を改めて示し、福島復興と廃炉・汚染水・処理水対策を着実に進めていく考えを強調。エネルギー政策に関しては、「資源が乏しく周囲を海に囲まれたわが国は、原子力、再生可能エネルギー、天然ガス、水素・アンモニアなど、多様なエネルギー源を活用することが重要」と述べ、エネルギー基本計画の具体的な政策の実現に向け、原子力については技術開発や人材育成に係る議論を深め、再稼働、使用済燃料対策、最終処分などに着実に取り組んでいくとした。また、電気事業連合会の池辺和弘会長に替わり、清水成信副会長が挨拶文を代読。関西電力美浜3号機の国内初となる40年超運転開始、中国電力島根2号機の新規制基準適合性審査に係る原子炉設置変更許可取得など、2021年の進展を振り返った上で、引き続き原子力発電の安定運転を通じた「S+3E」(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性)の実現、信頼の積み重ねに努め、稼働率の向上とともに、核燃料サイクル事業、最終処分に係る取組を事業者間で連携し進めていくとした。
- 06 Jan 2022
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原産協会・新井理事長が会見、産業動向調査結果について説明
原産協会の新井史朗理事長は11月26日、理事長会見を行い、6~7月に実施した「原子力発電に係る産業動向調査」(2020年度対象)の結果について説明した。原産協会が毎年実施している同調査は、今回、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上げ、従事者を有する営利を目的とした企業325社を対象に調査票を送付し、249社から有効回答を得た。それによると、電気事業者の2020年度原子力関係支出高は、「機器・設備投資費」が大きく増加したことにより、前年度比4%増の2兆1,034億円で、2018年度以降、東日本大震災前の水準に戻りつつある状況。そのうち、新規制基準対応額は5,192億円と、全体の25%を占めており、新井理事長は、「新規制基準対応の支出額を除けば、電気事業者の原子力関係支出高は、震災直後からあまり増えていない」との見方を示した。また、鉱工業他の2020年度原子力関係売上高は、前年度比10%増の1兆8,692億円、原子力関係受注残高は同4%減の2兆803億円。電気事業者と鉱工業他を合わせた原子力関係従事者数は、同0.3%増の4万8,853人だった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在(2021年度)の景況感を「悪い」とする回答が前回から2ポイント減の76%、1年後(2022年度)の景況感が「悪くなる」とする回答は同5ポイント減の22%となり、若干の改善傾向がみられた。「2050年カーボンニュートラル」を目指す取組に関しては、41%が「取り組んでいる」と回答。そのメリットとしては、「企業の価値が高まることによる既存事業の拡大」(複数回答で78%)が最も多く、「新たなイノベーションの創出等、新規事業の創出」(同72%)、「就活生など、人材獲得への好影響」(同34%)がこれに次いだ。原子力発電に係る産業を維持するに当たっての課題としては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(複数回答で76%)、「原子力に対する国民の信頼回復」(同63%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(同61%)が多くあがった。「原子力に対する国民の信頼回復」との回答がこの数年で初めて6割台に上ったことに関し、新井理事長は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案の影響を示唆。一方で、今夏、美浜3号機が国内初の40年超運転を達成したことに触れ、「こうした実績を積み重ねていくことが信頼回復に向けて極めて重要」と強調した。この他、新井理事長は、11月22日に発出した理事長メッセージ「パリ協定の目標達成に期待される原子力発電」についても説明した。*「原子力発電に係る産業動向調査」報告書は、11月30日に原産協会ホームページに掲載予定です。
- 29 Nov 2021
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原産協会、新井理事長が会見
原産協会の新井史朗理事長は11月5日、理事長会見を行い、10月22日の第6次エネルギー基本計画閣議決定に伴い発出した理事長メッセージ、関西原子力懇談会と共催で開催した学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」(東京:10月23日、大阪:10月30日)の概要、10月31日より英国グラスゴーで開かれているCOP26での原産協会の活動について説明し質疑応答に臨んだ。エネルギー基本計画の関連で、小型モジュール炉(SMR)開発に係る取組について問われたのに対し、新井理事長は、大型炉のスケールメリット、原子炉の多様な選択肢、実用化に向けたイノベーション促進、人材確保を図る上での魅力創出の可能性に言及し、「北米など、海外の実績も見極めていくべき」と述べた。足下の課題としては、まず既設炉の再稼働をあげた上で、改めて「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)のバランスの取れたエネルギー政策が図られる重要性を強調。また、「原子力産業セミナー2023」の参加学生は、東京会場202人、大阪会場178人(オンライン参加を含む、昨年度より合計で59人減)だった。16回目となった同セミナーの参加状況について、新井理事長は、「例年並みを維持できたのでは」との見方を示し、この他も原産協会として大学・高専と協力した学内セミナー開催なども通じ「切れ目なく学生へのアプローチを続け、人材確保の支援に取り組んでいる」と説明。新たなエネルギー基本計画策定に伴う「2030年におけるエネルギー需給見通し」で示された「総発電電力量の約20~22%程度を原子力が担う」目標達成に向け、再稼働、稼働率向上、長期運転、将来的には新増設・リプレースが必要とした上で、「これらを担う若い人材が不可欠。様々な分野の学生に原子力技術の魅力を知ってもらい、原子力産業への興味を喚起する取組を今後も続けていく」と述べた。 COP26の関連では、会期に先立ち世界の原子力産業界団体と共同でまとめた報告書「持続可能な開発目標(SDGs)達成への原子力の貢献」について紹介。さらに、現地に職員を派遣し、サイドイベントなどを通じ、「原子力発電は低炭素電源であり、増大する電力需要を満たしながら、温室効果ガスを削減するための解決策の一つであること」をアピールしているとした。脱石炭火力の動きについて問われたのに対し、新井理事長は、「各国で国情が違う」とした上で、各電源の長所・短所を考慮したエネルギーのベストミックスが構築される必要性を強調した。
- 08 Nov 2021
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「原子力産業セミナー2023」が東京で開催
原子力産業の人材確保支援、理解促進・情報提供を目的とする学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」が10月23日、都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関37ブースが出展し、164名の学生らが訪れた。主に2023年卒業予定の大学生・大学院生・高専生が対象。会場内では新型コロナウイルス感染症に対する万全の体制を整えるとともに、ウェブ方式も併用し、38名の学生がオンラインで参加した。同セミナーは、原産協会と関西原子力懇談会が毎年、東京と大阪で開催しているもので、16回目となる今回、日揮ホールディングスとスギノマシンの2社が初出展。4月に米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画を発表した日揮ホールディングスは、原子力以外にも、太陽光、洋上風力、バイオマス、水素・燃料アンモニアの他、使用済食用油を用いた航空燃料や水素製造に関わるセラミックスの開発など、エネルギー分野の幅広い展開をアピールした。海外のEPC(設計・調達・建設)事業を担う日揮グローバルの原子力エネルギー部長・木村靖治氏は、「グリーンエネルギー・ビジネスに貢献できる人材を育成したい」と、採用への意気込みを示した。同社は将来的に核融合エネルギーや途上国を含めた海外進出に注力するとしており、ブースを訪れた学生からは、「日本が米国で原子力開発?」との驚きの声が聞かれたほか、多くの女子学生がSMRについて質問する姿も見られた。原子力発電所のメンテナンスや廃炉の技術で重電会社の事業を支えるスギノマシンは、高速水噴射エネルギーを利用し様々な材質を切断する「ウォータージェットカッター」で知られている。プラント機器事業本部の犬島旭氏は、「水をコアとする技術が強み。専門性の高い学生に来てもらい、一緒に原子力事業を伸ばしていきたい」と強調。自動車・航空機、精密機器、建築材料、食品・薬品など、多方面にわたる同社の加工・洗浄技術の応用についても積極的にアピールし、学生らの関心を集めていた。行政機関からは原子力規制庁が出展。ブースでの説明には多くの学生が詰めかけ立ち見が出るほどにもなった。人材育成担当者は「立地地域の学生も多い」と、地元目線での原子力安全確保につながることへの期待をにじませた。また、セミナーに初回から出展している原子力発電環境整備機構(NUMO)では、ブースを訪れる学生の傾向に関し、「地質学系の学生が割と多い。これまでのセミナーではみられなかった」などと話している。「原子力産業セミナー2023」は、東京に続いて10月30日には大阪でも開催され、企業・機関28ブースが出展する予定。
- 25 Oct 2021
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新たなエネルギー基本計画が閣議決定
第6次エネルギー基本計画が10月22日、閣議決定された。3年ぶりの改定。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同計画策定に向けては、総合資源エネルギー調査会で昨秋より議論が本格化し、新型コロナの影響、昨冬の寒波到来時の電力需給やLNG市場、菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」実現宣言への対応などが視座となり、ワーキンググループやシンクタンクによる電源別の発電コストに関する精査、2050年を見据えた複数シナリオ分析も行われた。8月4日の同調査委員会基本政策分科会で案文が確定。その後、9月3日~10月4日にパブリックコメントに付され、資源エネルギー庁によると期間中に寄せられた意見は約6,400件に上った。新たなエネルギー基本計画は、引き続き「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)に重点を置いており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、経済産業省が6月にイノベーション創出を加速化すべく14の産業分野のロードマップとして策定した「グリーン成長戦略」も盛り込まれた。同基本計画の関連資料「2030年におけるエネルギー需給の見通し」で、電源構成(発電電力量に占める割合)は、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。エネルギー基本計画の閣議決定を受け、萩生田光一経産相は談話を発表。その中で、「福島復興を着実に進めていくこと、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは、エネルギー政策を進める上で大前提」との認識を改めて示した上で、「基本計画に基づき、関係省庁と連携しながら、全力をあげてエネルギー政策に取り組んでいく」としている。電気事業連合会の池辺和弘会長は、「2050年カーボンニュートラルを目指し、今後あらゆる可能性を排除せずに脱炭素のための施策を展開するという、わが国の強い決意が示されており、大変意義がある」とのコメントを発表。再生可能エネルギーの主力電源化、原子燃料サイクルを含む原子力発電の安全を大前提とした最大限の活用、高効率化や低・炭素化された火力発電の継続活用など、バランスの取れたエネルギーミックスの実現とともに、昨今の化石燃料価格高騰に伴う電力供給・価格への影響にも鑑み、国に対し、科学的根拠に基づいた現実的な政策立案を求めている。また、原産協会の新井史朗理事長は、理事長メッセージを発表。「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、同基本計画が、原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」としたことに関し、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された」、「原子力産業界としては、その責任をしっかりと受け止めなければならない」としている。
- 22 Oct 2021
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原産協会・新井理事長が会見、エネルギー基本計画見直しへの意見など説明
原産協会の新井史朗理事長は9月24日、理事長会見を行い、記者団からの質疑に応じた。新井理事長はまず、最近発表の理事長メッセージ「島根原子力発電所2号機の原子炉設置変更許可決定に寄せて」、「第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメントにあたって」に関し説明。中国電力島根2号機については、9月15日に約8年の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可に至ったが、同機による地域への電力供給とCO2排出量削減の見込みに触れ、「早期再稼働の実現を期待する」と述べた。また、現在、資源エネルギー庁が新たなエネルギー基本計画(案)を示し実施しているパブリックコメントに当たり、(1)原子力を最大限活用していくべき、(2)新増設・リプレースがエネルギー政策に明確に位置付けられるべき、(3)電力自由化の中で経営の予見性が必要であり英国・米国に見られるような制度を参考に導入が検討されるべき、(4)産業・業務・家庭・運輸部門に原子炉熱による脱炭素技術の記載がない――との意見提出を行ったことを説明。原子燃料サイクルに関しては、別途理事長メッセージ「原子力の持続的活用と原子燃料サイクルの意義について」を発信しており、新井理事長は、「エネルギーセキュリティ確保、資源の有効利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減の観点から、わが国の重要な政策と位置付けられている」と、その意義を改めて強調した。続いて新井理事長は、原産協会の第65回IAEA総会(9月20~24日)出席について説明。原産協会は、これまでIAEA総会の場で、IAEA幹部や加盟各国出席者との意見交換、展示会への出展を行ってきた。今回は、国内14機関・企業の協力を得て、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた原子力イノベーション、福島復興における10年間の歩みをテーマとした日本ブースを設け、国内外から多くの関係者が来訪。新井理事長は、「重要な役割を果たした。今後もこのような機会をとらえ福島の復興や廃炉の取組について発信していきたい」と述べた。記者からは、エネルギー基本計画改定の関連でプルサーマルの見通し、高温ガス炉や核融合の展望の他、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案への対応などに関し質疑があった。
- 27 Sep 2021
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原子力委員会、原産協会より理解促進の取組についてヒア
原子力委員会は9月7日の定例会合で、原子力利用の理解促進に関する取組について、原産協会よりヒアリングを行った。原産協会からは、新井史朗理事長らが出席し、同協会が活動の柱の一つとして掲げる「国民理解促進」に向けて実施している情報発信と双方向の理解活動の状況について説明。〈原産協会発表資料は こちら〉ホームページ掲載とメール配信を基本とする情報発信では、原子力産業新聞(国内外ニュース)、「Atoms in Japan」(海外から関心の高い情報の英語発信)の他、会員組織からのニーズに応じた専門的情報として主要国・国際機関の調査報告の収集・発信、若者に親しみやすいコンテンツとして動画サイト「オレたちの原子力 あたしの原子力」(専門家が1分程度で疑問に答える)などを紹介。これに対し、佐野利男委員は「広報活動は10~30年を要するもの」として、小中学生も対象に長期的な視野で取り組んでいく必要性を指摘した。また、双方向の理解活動として新井理事長は、大学・高専生を対象にエネルギー・環境、原子力発電、高レベル放射性廃棄物処分、放射線利用に関する情報を提供し意見交換を行う「JAIF出前講座」や、2021年3月に完成した「原子力発電 THE ボードゲーム」の受講者・体験者の意識変化・感想を主に説明。2005年度から全国各地で実施されている「JAIF出前講座」は、これまで443回開催、延べ22,200名参加の実績を積んでおり(開始当初は地域オピニオンリーダーを対象とした)、最近では感染症対策のためオンラインや動画配信も積極活用している。受講前後のアンケート調査結果から、「日本で原子力発電を利用していくこと」への賛同や「原子力発電が電気の安定供給に役立つこと」への理解が増加していることから、新井理事長は「効果が目に見えている」とした。原子力発電に必要なものを遊びながら学べる「原子力発電 THE ボードゲーム」原産協会の若手職員の発想から「幅広い年代に、楽しみながら原子力発電についての知識を深めてもらい、原子力発電に対してポジティブなイメージを持ってもらう」ことをねらいに制作した「原子力発電 THE ボードゲーム」は、「JAIF出前講座」を開催した大学・高専、会員組織の広報・PR館へ約200セットを頒布しており、原子力産業新聞での掲載を通じボードゲームカフェや一般家庭からも問合せが来ている状況。実際にプレイした人からの感想としては、「原子力発電を知らない小学生も関心を高めてくれると実感した」との評価や、「原子力だけに限定せず、エネルギーミックスについて考えるゲームを作成しては」といった改善提案もあった。家族でボードゲームを楽しんだという上坂充委員長は、次世代層への関心喚起に向け、エネルギーミックスや廃炉をテーマとする可能性や、PC・スマートホンを活用した教育コンテンツの開発などにも言及し、「さらに興味が広がるよう、一歩一歩進めて欲しい」と期待を寄せた。
- 08 Sep 2021
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原産協会・新井理事長が会見、次期エネ基の素案に対しコメント
日本原子力産業協会は7月27日に理事長会見を開き、その中で新井史朗理事長は先般示された次期エネルギー基本計画の素案に対するコメントを述べた。総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は21日に、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル社会の実現」表明など、最近のエネルギー・環境を巡る動きを受けたこれまでの議論を踏まえ、エネルギー基本計画の素案を提示。「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応として、原子力については、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とされた。これに関し、新井理事長は、「原子力を活用する方針が示されたものと認識する。原子力が価値を最大限発揮し、『2050年カーボンニュートラル』の実現に貢献できるよう精一杯取り組んでいきたい」と強調。また、エネルギー基本計画の素案では、2030年における電力需給の見通しとして、電源構成などの暫定値も示しており、総発電電力量9,300~9,400億kWh程度のうち、原子力の占める割合は現行の2030年エネルギーミックス(2015年策定の長期エネルギー需給見通し)と同水準とされた。新井理事長は、「この政策目標の達成に向けて新規制基準に合格したプラントの再稼働、長期サイクル運転による設備利用率の向上に努めていく」としたほか、今後も原子力産業界が原子燃料サイクルの推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分などの諸課題に対し着実に取り組んでいく重要性を強調。原子力の電源構成比率「20~22%程度」の達成見込みについて問われたのに対し、省エネの深掘りなどにより総発電電力量の見通しが現行の2030年エネルギーミックスで示す10,650億kWh程度を下回っていることも踏まえ、「既に再稼働しているプラントに加えて、現在新規制基準適合性に係る審査が申請されている、および原子炉設置変更許可に至っているプラントも含めた27基で十分達成できるのでは」とした。また、新井理事長は、国内初の40年超運転となる関西電力美浜3号機の営業運転再開に関し、関係者の努力や地元の方々の理解に対する敬意・謝意を改めて述べた上で、「わが国の原子力産業界にとって大変意義深いこと」と強調し、今後も長期運転に向けた動きが進むことを期待(5月18日理事長メッセージ 参照)。関西電力では、同機に続いて30日にも大飯3号機が営業運転に復帰予定だが、両機合わせて関西圏の夏の電力安定供給を増強するものと歓迎した。美浜3号機は、6月23日に原子炉起動後、同29日に調整運転として発電を開始して、原子力規制委員会による最終検査を終了し7月27日17時に本格運転に入っている。
- 28 Jul 2021
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次期エネ基に向け「原子力の活用が不可欠」、原産協会・新井理事長
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は6月25日、記者会見を行い、現在検討作業が佳境となっている次期エネルギー基本計画に関して、「『原子力の依存度を可能な限り低減』とする現行方針の見直しと、新増設・リプレースへの言及」を改めて訴えた。新井理事長は、4月に菅首相が表明した「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」および「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、「原子力の活用が不可欠」と明言。原子力が役割を果たすため、4月26日の理事長メッセージで示す通り、新規制基準に適合したプラントの再稼働を着実に進めるとともに、設備利用率の向上や運転期間の延長が必要だと再度述べた。さらに、2050年を見据え、「今から新増設・リプレースの明確な方針を打ち出し必要な準備を進めるべき」とした上で、「より高い安全性を目指すことは大前提。そのための技術開発、人材育成を官民挙げて進める必要がある」と強調。原産協会として、「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する『原子力の価値』に対する国民理解が深まるよう、精一杯努めていく」と述べた。また、国内初の40年超運転に向け関西電力美浜3号機が6月23日に原子炉を起動したことに関して、5月18日発表の理事長メッセージ「高浜発電所1、2号機および美浜発電所3号機の60年運転について」を配布。3基は1970年代に運転を開始しているが、10年ごとの定期安全レビュー、運転開始から30年以降は高経年化技術評価の実施とそれに基づく長期保守管理方針の策定、40年を超える運転期間延長に際しては、原子炉圧力容器などの取替が困難な設備の健全性確認が行われており、「延長期間における運転に問題がないことが確認されている」と説明。他プラントでの運転期間延長にも期待を寄せた。さらに、「世界の40年以上運転している原子力発電所」一覧表(原産協会作成、2021年1月現在)から、米国における近年の長期運転に向けた動きを述べ、5月に原子力規制委員会(NRC)より2回目の運転期間延長認可の承認を受けたサリー発電所1、2号機(バージニア州、PWR、各87.5万kW)を始め、80年までの延長認可が6基に上っていることを紹介。各国で進む原子力の長期運転について、IEAとOECD/NEAによる経済性評価にも触れ、電力安定供給における優位性とともに、エネルギーの脱炭素化にかかる期待も述べた。記者から、長期サイクル運転(定期検査の間隔を現在国内すべてのプラントが区分されている13か月を超えて運転すること)導入や運転期間制度の見直し(いわゆる「審査中は時計を止める」)について質問があったのに対し、新井理事長は、原子力エネルギー協議会(ATENA)による技術的取組・原子力規制員会との対話への期待や地元理解の重要性などを述べた。原子力発電所の新規建設計画が進まぬ中、既存プラントを通じた技術の蓄積・継承に関しては、今後の長期運転に向けた大規模改造が場を提供する可能性にも言及。この他、新井理事長は、6月24日の原産協会とカナダ原子力協会との協力覚書締結について紹介。同協力覚書のもと、新たなパートナーシップの構築を通じ、カナダの国家レベルでの小型モジュール炉(SMR)開発、ウラン供給を通じた原子力産業界との長いつながりを背景に、気候変動対策における原子力発電の推進、原子力イノベーション促進に資する活動を進めていく。
- 28 Jun 2021
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新刊「世界の原子力発電開発の動向」を紹介 原産協会理事長会見
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月28日、記者会見を行い、同日刊行した「世界の原子力発電開発の動向 2021年版」について紹介した。原産協会が毎年刊行しているもので、世界の電力会社などに行ったアンケートをもとに、2021年1月1日現在のデータを集計している。各国で運転中、建設中、計画中の原子力発電所の諸元とともに、運転期間延長、使用済燃料貯蔵、廃止措置に関する調査結果の他、革新的原子力技術の一つとして関心が高まる小型モジュール炉(SMR)の特集記事も掲載。同2021年版によると、2020年中に中国とロシアで新たに3基・118.8万kWが営業運転を開始し、世界で運転中の原子力発電所は計434基・4億788.2万kW。中国とトルコで5基・542.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計59基・6,508.7万kW。今後新設される予定の計画中のプラントは計82基・9,421.6万kWとなった。2020年のトピックスとしては、5月に世界初の海上浮揚式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」(電気出力3.5万kW×2基搭載、タグボートで曳航・係留)が営業運転を開始したことがあげられ、新井理事長は「SMR時代の幕開け」と期待。また、9年ぶりに新規原子力発電導入国における初号機運転の動きがあり、UAEで8月にバラカ1号機、ベラルーシで11月にベラルシアン1号機が送電開始し、新たに原子力発電国となった。さらに、米国では、3月にビーチボトム2、3号機の80年運転が承認され、最近では2021年5月にサリー1、2号機もこれに続くなど、長期運転に向けた動きが顕著となっている。この他、新井理事長は、4月14日に発表した理事長メッセージ「福島第一の多核種除去設備等処理水の処分方針決定に寄せて」について解説するとともに、現在検討が進められているエネルギー基本計画の見直しに向けた考え方を、同日開催の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会での発表資料をもとに説明。「わが国は2050年カーボンニュートラルの実現に加え、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度から46%削減することを内外に表明した。その目標達成に原子力の活用は不可欠だが、その役割を果たすためには、再稼働を着実に進めることに加え、設備利用率の向上や運転期間延長が必要。2050年やその先を見据えると、今から新増設・リプレースの明確な方針を打ち出すべき」とした。さらに、原子力発電所の長期停止が技術力の維持・継承に及ぼす影響も懸念し、「エネルギー基本計画の中で、将来にわたる原子力利用をしっかりと位置付けてもらいたい」と要望した。記者からは、関西電力美浜3号機の40年超運転を始めとする国内原子力発電所の長期運転、原子力人材育成の現実的方策などに関する質問があり、新井理事長は、それぞれ原子力エネルギー協議会(ATENA)による技術的支援、原産協会による合同企業説明会「原子力産業セミナー」や全国の大学・高専を対象とした「出前講座」の開催など、産業界の取り組み状況を説明した。
- 31 May 2021
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『世界の原子力発電開発の動向2021年版』販売中
日本原子力産業協会が毎年とりまとめている「世界の原子力発電開発の動向」の2021年版が刊行されました。ご購入希望の方はコチラからお申込みください。本書は、当協会が世界の電力会社等から得たアンケート調査の回答などに基づいて、2021年1月1日現在の世界の原子力発電所のデ-タを集計したものです。2021年版には特集として「小型モジュール炉(SMR)開発の動向」を掲載しました。運転期間延長に関する調査結果、世界の使用済燃料貯蔵の状況、原子炉廃止措置への取り組み状況についても引き続き掲載しています。「世界の原子力発電所一覧表」では、国別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め発注、着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間・燃料交換停止期間等、広範な情報を網羅しています。A4判 236頁頒布価格:会員 7,000円 会員外 14,000円 【消費税,送料込】※請求書をお送りいたします
- 28 May 2021
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【第54回原産年次大会】セッション3「日本が持つべきエネルギービジョン」
第54回原産年次大会の最後のセッション3では、来るべきゼロエミッション時代を念頭に、日本が目指すべきエネルギービジョンについて、国内外の有識者を迎え、パネル討論を実施。金融アナリストの市川眞一氏がモデレーターを務め、昨今話題の「カーボンニュートラル(ネットゼロ)」時代に対応するための日本のエネルギー・環境政策を、原子力の果たすべき役割を交えて考察した。今大会に於いては、セッション1で「脱炭素社会に向けた地球規模の課題」を洗い出し、セッション2でエネルギー政策/原子力政策を前へ進める上で欠かせない福島の復興を議論した。本セッションではそれらのセッションを受けて、「未来へ向けてどうするべきか」(市川氏)について、ゼロエミッション分野で先行する海外事例を参考にしながら、「日本が持つべきエネルギービジョンとはいかなるものか?」「原子力産業界はそれに向けてどのように取り組むべきか?」といった議論が展開された。市川氏は、カーボンニュートラルという考え方にまだ日本人がキャッチアップしていないと指摘。世界の認識では「温暖化対策はコストではなく成長戦略」と捉えられているとした上で、金融の世界でも昨今ESG((Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)))が非常に重視されており、ESGを疎かにしている企業は資金調達が困難になるだろうと警鐘を鳴らした。最初に国連欧州経済委員会(UNECE)の持続可能エネルギー部門のディレクターであるスコット・フォスター氏が発表。国連が掲げる17のSDGs(持続可能な開発目標)の中心にエネルギーの安定供給があるとした上で、ゼロエミッション電源への移行において原子力発電は不可欠との認識を示した。フォスター氏 発言要旨今や「気候変動」はいつか来たるべき預言なのではない。現在進行中の現実だ。地球全体の気温はすでに1℃上昇しており、この上昇を近い将来に2℃までに抑えるのは極めて困難。今すぐに手を打たなければならない。欧州経済委員会(ECE)加盟国を対象に実施したUNECEの分析では、このまま何もしないレファレンス(REF)シナリオ、各国で目標を実施する(NDC)シナリオ、パリ協定以降の温度上昇を2℃に抑える真剣な取り組みを行う(P2C)シナリオの3つを検討した。その結果、P2C実現のためには2050年までに少なくとも900億トンのCO2を削減/回収しなければならないことが分かった。P2Cシナリオでは原子力の役割は非常に大きく、原子力を除外すると成立しない。炭素回収・貯留(CCS)や水素利用なども高コストではあるが、将来必要になるものだ。どんな技術も排除する余裕はない。まず現行のエネルギーシステムの環境負荷を低減させるため、CCSや高効率低排出(HELE)技術など低炭素技術への投資ガイドラインを策定する必要がある。また天然ガスから発生するメタンも温室効果が高いため、適切に管理しなければならない。エネルギー変革にあたっては、現在掲げられている各国の政策では全く不十分である。政治的な配慮を排し、現実的に持続可能なエネルギー行動計画を追求しなければならない。またカーボンプライシングや市場の再設計も必要だ。プラグマティズムに基づいて、経済面、社会面、環境面から持続可能な開発を追求することで、これは必ずや達成可能である。♢ ♢続いて英国原子力産業協会(NIA)会長のティモシー・ストーン卿が「原子力なくしてネットゼロなし」と題して発表。子孫のためにもネットゼロへ向けて今すぐに行動しなければならないと、強く呼びかけた。ストーン卿 発言要旨 英国の電力の大半は依然として化石燃料によって賄われている。さらに一次エネルギーを見ると、多くが化石燃料によって賄われている。この状況は日本と共通点が多い。日本のエネルギーミックスを見ると、原子力や水力のシェアは僅かで、大半は化石燃料によっている。日本ではエネルギーセキュリティ的に多くのリスクが顕在している。大半を他国に依存しており、燃料輸送も(スエズ運河を含む)シーレーンに依存するなどリスクが高い。 2050年までに温室効果ガス排出をネットゼロにするためには、日本も英国同様に化石燃料を別のエネルギー源で代替する必要がある。中でも天然ガスを代替するものがなければ、エネルギー供給には大きな問題が生じる。現実的な代替候補は水素であり、原子力(高温ガス炉)によって製造される水素は、他の方法によって生成されるものに比べて最も安価になると思われる。日英が先進モジュラー炉や高温ガス炉の開発で連携することは、極めて実り多い。しかしここで問題となるのが政治のリーダーシップである。 昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックはこれまで類を見ない問題であったが、気候変動問題はその比ではない。これは市場の問題でも企業レベルの問題でもなく、インフラの問題である。インフラについては政府が責任を負うものであり、そのリーダーシップが大変重要だ。原子力の最大の課題は、「資本コスト」だろう。原子力の発電コストは、発電所建設に掛かった資本コストに最も影響を受ける。資本コストが低ければ、原子力は再生可能エネルギーと比較しても十分競合できる。したがって政府は、原子力の資本コストを、出来る限り低減させなければならない。低炭素は我々の将来に欠かせない要素であり、今すぐ対処すべきである。COVID-19に各国が連携して対応するように、COP26に向けての協力が必要だ。忘れてはならないのはそれが次世代の社会に大きく影響するということだ。原子力なしにはネットゼロ実現は不可能であり、日英が協力して課題に対処していけることを願う。♢ ♢続いて米国より、米国原子力エネルギー協会(NEI)シニアディレクターのキャロル・ベリガン氏が米国の原子力を取り巻く状況を発表した。ベリガン氏 発言要旨この1年で各国のリーダーは気候変動に対し迅速に決然と行動するようになった。意欲的な目標設定が行われており、バイデン政権も2035年までに100%クリーン電力とすることを打ち出した。原子力はこの問題解決のカギとなる。米国の総発電電力量に占める原子力シェアは20%に過ぎないが、カーボンフリー電力に占める原子力シェアは50%以上である。特にこの1年、コロナ禍や2月に米国南部を襲った大雪といった未曾有の危機の中でも、原子力発電所は運転を継続し、その真価を発揮した。2020年には原子力は初めて石炭火力を抜き、米国で二番目の電源となった。米国の55の原子力発電サイトで8000億kWhを発電し、90%以上の設備利用率を維持し、昔より少ないユニット数でより多くの電力を発電している。世界各国の意欲的な気候変動防止目標の実現にはエネルギーシステムの変革が必要だ。その中核を成すのが原子力であり、各国政府、NGO、民間いずれも原子力なしでは目標達成が難しいとの見解で一致している。バイデン政権も真剣に取り組む姿勢を打ち出しており、パリ協定復帰に加え、来週には気候サミットを主催し世界的な流れを加速させようとしている。政権関係者も原子力の持つ役割を認めている。また既存の原子力発電所を維持しつつ、迅速に次世代炉への移行を進めなければならない。SMR、マイクロ原子炉、そのほか新型炉により原子力は一層高効率、低コストかつ多機能に使えるものとなる。新型炉は規模も様々で出力も簡単に変更できる。風力や太陽光など変動性のある電源との相性は良い。こうした米国での進展は日本にも波及し、クリーンエネルギー社会の実現につながることになるだろう。♢ ♢日本経済団体連合会で副会長ならびに資源・エネルギー対策委員長を務める越智仁三菱ケミカルホールディングス取締役は、経済界の立場からエネルギー政策および原子力の役割・課題について言及した。越智氏 発言要旨エネルギー政策の基本はS+3E(安全性を大前提とした安定供給、経済効率性、環境性の確保)である。加えて、世界のエネルギー・電力システムは3D、すなわち脱炭素化(Decarbonization)・分散化(Decentralization)・デジタル化(Digitalization)という方向に向かっており、こうした潮流にもしっかりと対応していく必要がある。菅総理のカーボンニュートラル宣言を経済界としても高く評価しており、その実現に全力で取り組む考えだ。脱炭素社会の実現のためには、エネルギーの需給両面から、抜本的な構造転換を図っていく必要がある。電源の脱炭素化はもちろん、エネルギー消費の4分の3が非電力、熱需要であることを踏まえれば、非電力も含めた総合的な対策が求められる。具体的には、政府の検討でも示されている通り、①エネルギー需要の電化と電源の脱炭素化、②エネルギー需要の水素化と安価な水素の大量供給、③なお排出が避けられないCO2の固定・再利用--の3つを柱に、取り組みを進めていくことが重要だ。経団連では今年の3月16日、2019年4月に取りまとめた電力システムの再構築に関する提言の第2弾となる提言を公表した。提言では、まず、2050 年カーボンニュートラルを実現するための電力システムの将来像について論じた。とりわけ、電源ポートフォリオについては、再エネや原子力に加えて、脱炭素化に資するあらゆるリソースを柔軟に組み合わせることが重要だ。そのうえで、電気事業の環境整備策として、カーボンニュートラルの実現を見据えた電源新設投資を確保するため、容量メカニズム((卸電力市場(kWh市場)とは別に、供給能力に対する価値に応じた容量価格(kW価格)を支払う))の拡充や、FIP制度((Feed in Premium:卸市場などで販売した価格にプレミアムを上乗せする⽅式))の活用等で適正な収入の予見性を確保するよう提案した。2050 年の電源構成については、全ての電源を選択肢から排除しないことが重要だ。数ある電源の中でも、原子力は3Eのバランスに優れたエネルギー源であり、人類が将来に亘って必要なエネルギーを確保し、カーボンニュートラルへと向かっていく上で不可欠な技術である。引き続き重要なベースロード電源として活用していくことが重要と考える。原子力は2050 年段階でも然るべき水準を維持し、供給力として相応の役割を担うことが期待される。一方で既存炉の40 年運転では、2050 年段階で稼働している原子炉はわずか3基となってしまう。運転期間の60 年、さらには60年超への延長や、不稼働期間の取扱い((現在のように、審査の長期化により稼働していない期間も「運転期間」に含めるのかどうか))に関する検討はもちろん、リプレース・新増設にも取り組んでいく必要がある。また、将来を見据えれば、既存の軽水炉の安全性向上につながる技術はもちろんのこと、SMRや高温ガス炉等の、安全性に優れ、経済性が見込まれる新型原子炉の開発を進めていくことも極めて重要だ。福島第一原子力発電所事故以降、原子力に携わる人材が一貫して減少しており、技術・人材基盤の維持に懸念が生じている。次期エネルギー基本計画への記載をはじめ、早期に国としての方針を明確化する必要がある。♢ ♢続いて、「カーボンニュートラルと原子力政策」と題し、慶應義塾大学の遠藤典子特任教授が発表。カーボンニュートラルを目指すからには原子力は必然であり、そのことをきちんと政策に盛り込んでいくべきだと力強く訴えた。遠藤氏 発言要旨菅総理のカーボンニュートラル宣言を受け、さまざまな審議会が各所で立ち上がっている。経済産業省だけでなく、環境省でもカーボンプライシングの検討会が始まっている。そして今年はエネルギー基本計画の改定の年であり、エネルギーミックスをどのようにするか、これから基本政策分科会にて結論を出すことになる。海外へ目を転じると、気候変動サミットが米国で、G7の議長国である英国でG7サミット、G20でもエネルギー大臣会合があり、国連総会、G20首脳会合、そして11月に英国でCOP26が開かれる。議長国である英国とバイデン政権となった米国との間で、気候変動のリーダーシップをめぐっての駆け引きが行われている。両国に共通しているのは「原子力はカーボンフリー電源である」ことを政策的にきちんと位置づけている点だ。ここが日本とは違う。日本の場合火力発電由来のCO2排出量が依然として非常に多い。基本政策分科会で示されている参考値として、「原子力と(CO2回収を前提とした)火力」「再生可能エネルギー」が取り上げられており、議論されている。再エネを50〜60%、水素・アンモニア発電を10%、原子力とCCUS((Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:炭素回収・利用・貯留))を合わせて30〜40%という数字が参考値として示されている。昨年から今年にかけての年末年始の需給の逼迫は、実に停電寸前の状態であり、危機的な状態にあった。その主たる要因はLNGの不足だったのだが、構造的な要因は原子力が稼働していないことに尽きる。原子力の稼働数が少ない場合、LNGがそれをカバーするため大変な負荷がかかっているのだ。原子力は現状4基しか稼働しておらず、長期的に見ると40年運転の制限の中では、加速度的に原子力が退役していき、原子力がない状態でカーボンニュートラルを目指さなければいけないことになる。今後電化の進展により、需要サイドは30〜50%ほど2050年に向かって伸びていくと予測されているが、原子力が40年運転で閉鎖される場合、原子力シェアはわずか2%になる。全ての原子炉が60年まで運転期間を延長できたとしても、2050年には12%に近づくが、2060年には5%を切り、2070年には2%を切るところまで落ち込んでしまう。こうした現状を目にすれば、原子力の新増設が必要になると考えるほかない。カーボンニュートラルを求めるからには原子力の利用は必然なのだ。安全性を確保した上での既存炉の長期利用革新技術の開発(イノベーションは原子力の分野でも必ず起きる)事業の予見可能性を制度的に確立する今のエネルギー基本計画の中に、以上の3点をしっかりと織り込んでもらうことを強いメッセージとして発しなければならない。原子力は日本のメーカーが世界的にも優位にある産業で、しっかり守ることが重要だ。私は菅総理のカーボンニュートラル宣言は、総理から原子力産業へのメッセージと受け止めている。♢ ♢最後に市川氏が「カーボンプライシングの衝撃」と題して発表。先行事例であるEUの排出枠取引(EU-ETS:European Emission Trading)を例に、日本がどのように制度的に取り入れていくかを論じた。市川氏 発言要旨カーボンプライシングの代表例が、EU-ETSだ。最近、EUが2030年までの温室効果ガス削減目標を、従来の1990年比40%から55%へと大幅に引き上げたことにより、その価格が急騰しており、金融の世界では大変な注目を集めている。EU-ETSにおいては、温室効果ガス排出量が多い一定規模以上の燃料燃焼施設、産業施設26種類に関し、EUが施設毎に排出枠(キャップ)を定める。ある施設の排出量がキャップを下回った場合、その部分をクレジットとして市場で売却可能とした。一方、排出量が排出枠を超えてしまった施設は、市場でクレジットを購入し、排出枠を増やさなければならない。EU域内の排出枠の総量を毎年削って行けば、EUとして国際的に責任を負った排出削減目標を達成できるわけだ。さらにEUは2019年12月、『EUグリーンニューディール』を発表。その柱の1つが温室効果ガス排出枠に関する「国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism)」の導入だった。この国境調整は、EU加盟国が排出規制を実施していない国から何かの製品を輸入する場合、EU域内で生産された製品が負担している排出枠購入コストを炭素税として課す制度である。温室効果ガスに関して国境調整が浮上した背景は、EU-ETSにおける排出枠価格の急騰だ。EU域内で厳しい規制をクリアするため排出枠を購入すれば、製品価格が上昇する。結果として温室効果ガスの排出削減が進んでいない国からの輸入が増えた場合、EU域内の事業者が不利になる上、世界全体で見ると排出量は減らない。この国境調整によるカーボンプライシングは、既に主要国における共通の関心事になりつつある。米国では、バイデン政権が積極的だと聞いている。また、EUを離脱した英国のボリス・ジョンソン首相も、6月にコーンワルで開催するG7首脳会議において、議長国として国境調整に関する提案を行う意向であると報じられた。日本にはカーボンプライシングの制度がないため、ここでしっかりと制度設計をしておかないと日本企業は国際的な競争に勝てなくなってしまう。排出枠取引では、価格は市場が決定するので、最終的なコストは不透明だが、確実に排出量を削減できる。今後世界はこちらが主流になるだろう。日本の最終エネルギーに占める電力の割合を徐々に上げながら、発電段階でのゼロエミッション化を進めるのが最も合理的な方法だろう。もちろん再生可能エネルギーも重要であり、水素・アンモニアにも取り組む必要がある。ただ、ドイツがあれだけこれまで努力を重ねてEUの中でも家庭用の電気料金が2番目に高い状況でありながら、再生可能エネルギーの比率は40%に留まっている。残りの30%は石炭・褐炭であり、10数%が原子力だ。ロシアからの天然ガスパイプラインを敷設し、フランスから電力を買いながらもそれが限界なのだ。対して日本のような少資源な島国で、どうやってカーボンプライシングの世界の流れに立ち向かい、国際貢献をしながら成長意欲を高めていくのかということを考えていけば、自ずと電源構成がどうあるべきかはわかってくるはずである。♢ ♢その後のパネル討論では、昨今話題のEUタクソノミーなど、原子力へのファイナンスを支援する制度のあり方を議論。「政府が原子力プロジェクトのリスクを取り除くことで、資金が回るようにする」(ストーン氏)、「投資促進のためのルール作りが必要」(フォスター氏)、のほか遠藤氏からは「政府がエネルギー基本計画の中できちんと原子力のターゲットの数字を上げることで、民間投資が促進される。“戦略的沈黙”なのかもしれないが、誤魔化しの10年とならないように」との強い要望も出た。
- 15 Apr 2021
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【第54回原産年次大会】セッション2「福島のさらなる復興に向けて」
4月14日のセッション2「福島のさらなる復興に向けて」は、福島第一原子力発電所事故発生から1年後の2012年以来、続いているテーマ。今年は事故から10年が経過した福島第一原子力発電所の廃炉の現状を踏まえつつ、今後の福島復興の展望に向け意見交換が行われた。セッション冒頭、東京電力ホールディングス株式会社 常執執行役で福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデント 小野明氏が福島第一原子力発電所の現状と課題を報告。まず、小野氏は今般の柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に関する不備の問題について、深く反省と謝罪の意を表した。その上で、福島第一原子力発電所の汚染水対策について、小野氏は、地下水・雨水の流入を抑制することによって、汚染水の発生が2020年には140㎥/日まで低下しているほか、多核種除去設備(ALPS)処理水貯蔵のために、計画通り2020年末で137万トン分のタンクを確保済みであるが、タンク貯蔵量が2021年2月時点で約125万トンに達している中、計画容量を超えてタンクをさらに建設すると、必要な施設の建設に支障を来し、今後の廃炉の進捗に多大な影響を与える可能性があることを懸念。ALPS処理水については、前日の4月13日に海洋放出の政府方針決定が発表されたところ。これに関し、小野氏は「当社としては、国の方針を受けて、関係者との協調を図りながら今後の処理に向けた具体的な作業を進めていく。しっかりやっていきたい」と述べた。小野氏は続いて、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出しに向けた作業の進捗状況、固体廃棄物管理、そして、「復興と廃炉の両立」について説明。「とくに、福島の復興について、我々はいかに1F(福島第一原子力発電所)の廃炉を復興に向けて活用していけるか、を考える必要がある。その鍵は、1Fの廃炉作業に地元の企業のみなさまに積極的に参入していただくことだ」と述べ、そのための企業向け説明会や地元企業と元請企業とのマッチングを増やしていく考えを示した。また、去る2月13日の地震発生時、3号機原子炉建屋の地震計が7月の大雨の影響により故障していたことを始め、タイムリーな情報発信がなされておらず、地元の方々による受け止めと東京電力の取組姿勢にギャップがあると自省し、「そうしたギャップを埋めていくことがまず必要。地域目線でしっかりと双方向のコミュニケーションに取り組んでいきたい」とも述べた。続いて、福島大学国際交流センター 副センター長のウィリアム・マクマイケル氏(モデレーター)の進行のもと、「震災から10年 福島が拓く未来」と題して、福島復興の第一線に関わってきた若手のパネリストたちが語り合った。 株式会社小高ワーカーズベース代表取締役の和田智行氏は、南相馬市小高区に生まれ育った。震災前に東京からUターンし、地元でITベンチャー企業を経営していたが、福島第一原子力発電所事故により避難生活を余儀なくされた。2014年2月、当時まだ避難指示区域で居住が認められていなかった南相馬市小高区に株式会社コワーカーズスペースを創業。小高区は2016年7月に避難指示が解除され帰還が進んではいるが、元は1万2千人を超えていた人口が、3分の1程度の約3,700人にまで減少。その半数を高齢者が占めるとともに、子どもの数も激減し、超少子高齢化の状況となっている。「本当に厳しい状況で、地域には課題が多く、それが帰還を阻んでいるが、見方を変えれば課題はすべてビジネスの種。ここでしか生み出せないビジネスがある」と、和田氏は反骨精神をみせる。最初に手がけたのは、人がいない町で働く場としてコワーキングスペースをつくること。また、食堂や仮設スーパーもつくった。生活環境が整っても若い世代がなかなか戻って来ないという課題に対し、若者にとっても魅力的な仕事として、ガラスアクセサリーの工房を立ち上げると、地元の若い女性たちが工房で働き、カフェのオープンや若者の来訪にもつながるという好循環が生まれた。今は、この地域の可能性を感じてチャレンジする起業家へのサポートと、コミュニティづくりのフェーズに移っており、これまでに全国から8人の起業家が集まっている。さらに、ゲストハウスやキッチンを備えたコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」も新設。ここでは、地域の事業者と外部からの来訪者の交流の場として、コロナ禍中リモートワークで滞在しながら一緒に仕事をする人も増えている。最近、震災当時10代だった若者たちの起業支援や人材育成のためのプロジェクトも始めた。「最終的にこの地域を自立した地域にしたい」と和田氏は語る。そして、「先人たちの努力で豊かに成熟した現代日本だが、そこで閉塞感を抱える人も多い。逆にこの地域には何もなく、新しく創るしかない。その意味で、この地域は現代日本唯一で最後のフロンティアだ。予測不能な未来を楽しみ、フロンティアを開拓していく」と、意気込んだ。双葉郡未来会議「ふたばいんふぉ」の辺見珠美氏は、東京都生まれ。大学で原子力と放射線について学んだ。2011年、福島第一原子力発電所事故により富岡町から東京に避難してきた子どもたちの学習支援のボランティアに取り組む中で双葉郡とのつながりができ、2012年、川内村に移住し、福島大学川内村サテライト職員として、放射線についての相談受付などの住民対応を行った。2020年から富岡町に移住。双葉郡のインフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」のスタッフとして双葉郡の情報発信や草の根の活動に取り組んでいる。辺見氏は地図を示しながら、「冬は出稼ぎに行く地域だったが、東京に出稼ぎに行く代わりに東京の電気をつくることで電源供給地となった」と、双葉郡の歴史に触れた後、2011年の福島第一原子力発電所事故発生からの避難区域設定の変遷を振り返った。現在の帰還困難区域の人口22,332人の規模感について、各電力会社の従業員数と比較したグラフで表現。「原子力発電所の事故は、『それまで』をすべて失うことだった」と辺見氏は言う。さらに、「ひと、もの、こと、思い出、いつもの日常がどれだけ幸せなことか。私の周りには、小学生の時に震災に遭い、いつもそばにあった夜ノ森の桜並木が帰還困難区域のバリケードで隔てられ、その桜を特別に感じてしまうこと自体に嫌悪感がある、という複雑な心情を抱えた若者たちがいる」と。そんな想いを抱き、双葉郡で活動する。新しく未来を築き、暮らしを取り戻すために、川内村で「村の暮らしを楽しもう」をコンセプトに、村内外の人々が楽しめる企画を展開している。中には養鶏を営む農家で「鶏をさばくところから始めるソーセージづくり」など、ここでしかできない講座もある。また、富岡町での「とみおかこども食堂」の活動は、廃炉作業員など移住してきた人々や帰還者を含めて、子どもたちを通して地域のコミュニティを再構築しようというユニークな試みである。「避難、軋轢、格差、高齢化、コミュニティの崩壊、考え方の違いなど、いろいろなことが原子力発電所の事故で引き起こされた。しかし、これらはどこにでも起こりうることだ」と辺見氏は指摘。さらに、「より良い未来をつくっていくには、『お互いを知り、対話を重ね、理解し合うこと』に丁寧に取り組むことが遠回りなようで近道であり、様々な課題に対して解決へ導く鍵となるのではないか」とも述べる。そして、原子力関係者に対しても「再稼働や処理水の海洋放出などに関して行われる説明会や公聴会も、一方的なものではなく、双方の立場の違いを理解し合った上での話し合いを丁寧にやってもらえればと思う」と強調した上で、「ぜひ双葉郡の方々の生の声を聞きに来てほしい」と呼びかけた。一般社団法人ふくしま学びのネットワーク理事・事務局長の前川直哉氏は、兵庫県尼崎市に生まれ、1995年、高校3年生の時の阪神・淡路大震災で被災した。大学卒業後、母校の灘中学校・高校の教壇に立ち、2011年の東日本大震災以降、たびたび生徒たちと福島や宮城の被災地を訪れるうちに福島県で仕事をしたいと思うようになり、2014年、福島市に移住して非営利団体「ふくしま学びのネットワーク」を設立。2018年からは福島大学の特任准教授も務める。前川氏は元同僚や大手予備校の講師などを招き、福島の高校生を対象とした無料セミナーを延べ14回開催。セミナーの講師陣は完全手弁当で、面白い授業にはリピーターも多い。「そういう『カッコいい大人』として誰かの力になるには力をつけなければならない。学校はそのための場所だと生徒たちに伝えている」と前川氏は語る。20年後の日本ではロボットやAIが人間の仕事を奪っていく時代になると言われている。しかし、正解のない問い、自ら課題を発見し、解決策を探ることはロボットやAIには決してできない。たとえば、「双葉郡の方々が少しでも日常を取り戻すにはどうすればよいか」を考えるのも人間にしかできない仕事だ。福島では高校生が県内各地で復興や地域貢献のため多様な活動を展開しており、こうした高校生の活動をサービス・ラーニングとして顕彰し、さらなる活性化を図っている。また、福島大学では地域実践特集プログラム「ふくしま未来学」にも取り組む。「福島は、自分のためではなく、誰かのための学びであることが伝わり、知識偏重教育でなく、正解のない問いにチャレンジできる場所。限界に来ている日本の教育を変えられるのは福島からだ」と前川氏は強調。一方で、教育者として、「子どもたちの活動を誇らしいと思うと同時に、福島の問題をどうしても遺してしまい、子どもたちを復興にしばりつけているのではないかと、忸怩たる思いも正直ある」とも。同氏は、そんな葛藤も抱えながらも「今後も子どもたちと向き合っていきたい」と語った。続いて、パネル討論に移り、自他共に認める「カナダ人で一番の福島ファン」マクマイケル氏が30年後の「FUKUSHIMA」について、あるべきイメージを問うと、和田氏は、「住民が自立した暮らしを実現している」ことをあげ、そのために、自社のミッションとして掲げる「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」を遂行し、「旧避難指示区域で事業やプロジェクトを興せる風土を醸成していく」と抱負を語った。また、辺見氏は「地層をつくる」と標榜。その心は、「原子力発電所の事故により暮らしが失われ、豊かな思い出まで『除染』されて、はぎ取られ、町として『欠けている感』が生じてしまった双葉郡の『まちを耕す』。つまり、一度人がいなくなり、それまで培ってきた暮らしが失われてしまった土地に、喪失を埋める『土』となる人の営みを積み重ねていく30年間」だという。また、前川氏は、30年後の福島に「地球と人類の最後の砦」をイメージ。そのためには「教訓の継承」が欠かせないとする同氏は、「原子力発電所の事故を『なかったこと』にせず、失敗を直視し、そこから学ぶこと」と強調した。最後に、「原子力産業に期待することは?」と、マクマイケル氏が投げかけると、和田氏は「幸せな社会をつくりたいのは共通の願いだと思うので、何か一緒にできることがあれば協働していきたい」との姿勢を示し、辺見氏は「原子力は一般市民にとって専門性が高くて遠いものなので、もっと社会との距離を近づけてお互いの理解を深めたほうが良い」と指摘。前川氏は「福島から学べることはたくさんある。ぜひ福島を訪ねてもらい、見聞きしたことを周りの人たちにも伝えてもらえると嬉しい」と期待した。マクマイケル氏は、「福島の人たちに今見えている課題、そして、今後の可能性について、多くの人に共感していただける時間になったと思う。今日の登壇者のみなさんが大切に育んでいる福島の再生の芽は、必ずや世界の未来にもつながると私は信じている。復興を地元で支えている人たちへの敬意を持ちながら、共に未来を形成していく姿勢を持ちたい」と語り、セッションをしめくくった。
- 15 Apr 2021
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総合エネ調原子力小委、技術基盤に関し産業界より意見聴取
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=安井至・バックキャストテクノロジー総合研究所エグゼクティブフェロー)は4月14日の会合で、これまでの議論を整理した。同委員会は、昨秋からのエネルギー基本計画見直しに伴い2月に約2年ぶりに再開。2050年カーボンニュートラルも踏まえた原子力の持続的な利用システムの構築に向けて、今回、(1)安全性向上の不断の追求、(2)立地地域との共生、(3)持続的なバックエンドシステムの確立、(4)ポテンシャルの最大限の発揮と安全性の追求、(5)人材・技術・産業基盤の維持・強化、(6)国際協力の積極的推進――に取組策を大別した。〈資料は こちら〉諸外国における長期運転の動き(エネ庁発表資料より引用)原子力のポテンシャルの最大限発揮に関して、資源エネルギー庁は、継続的な安全性向上を図りつつ、(1)設備利用率の向上、(2)40年を超える長期運転――の取組を進めていく必要性をあげ、米国における80年運転の認可など、諸外国の動きを例示。電気事業連合会原子力開発対策委員長の松村孝夫氏は、「既存原子力発電の最大限の活用が重要」との考えから、定期検査の効率的な実施、長期サイクル運転、原子力エネルギー協議会(ATENA)と連携した技術的知見の拡充など、設備利用率向上の取組について述べた上で、現行の運転期間制度の見直しについても検討がなさるよう求めた。60年までの運転期間延長が認可されている関西電力の美浜3号機、高浜1、2号機に関しては、福井県の専門委員会が9日に、安全性向上対策に係る議論について、「原子炉の工学的な安全性を確保するために必要な対策が講じられている」とする報告書案をまとめている。14日の会合に出席した福井県知事の杉本達治氏は、「長期運転に際しては、むしろきめ細かな定期検査が必要なのでは。効率化はもとよりまずは安全最優先。広く国民の理解が得られるよう努めて欲しい」などと訴えた。また、原子力の人材・技術・産業基盤の維持・強化に関しては、原産協会理事長の新井史朗氏、日本製鋼所M&E社長の工藤秀尚氏、三菱重工業常務執行役員の加藤顕彦氏、日立製作所常務執行役の久米正氏、日揮社長の山田昇司氏が産業界の立場から発言。新井氏は、原産協会が毎年取りまとめている産業動向調査などから、原子力発電所の長期停止による影響や建設プロジェクト経験者の高齢化の実態を示した上で、「2050年カーボンニュートラル達成のためにも、原子力を将来にわたり一定規模で使い続けるようエネルギー政策にしっかりと位置付け、新増設・リプレースについても考慮してもらいたい」とした。工藤氏は、原子力発電所部材の製造プロセス・実績について紹介。材料メーカーとしての供給責任を自負する同氏は、原子炉圧力容器・蒸気発生器の納入数が2020年度に2011年度の半分にまで落ち込んだデータを示した上で、「高品質が要求されマニュアル化できない。製造実績を積まなければ伝承は難しい」と、今後の製造技術・技能の継承に係る課題を強調した。加藤氏、久米氏、山田氏は、各社による原子力イノベーションの取組を紹介。加藤氏は核融合炉までを見据えた将来展望を、久米氏は小型軽水炉「BWRX-300」の構想を、山田氏は先般発表された米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画について説明した。委員からは、SMRなどの革新炉開発に関し、「米国DOEのように日本政府もサポートすべき」といった研究開発への投資や、廃棄物発生までを含めた議論、規制側の参画を求める意見の他、立地地域の安心感醸成や再生可能エネルギーの負荷調整に果たす役割についても言及があった。また、最近の原子力を巡る事案について、柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護を巡る不祥事に関し、「きちんとガバナンスを建て直さねばならない。一方で、将来のエネルギー需給構造を考える上で、原子力技術の評価とは切り分けて冷静に考えるべき」という意見、13日に政府が決定した福島第一原子力発電所で発生する処理水(ALPS処理水)の海洋放出に関し、「漁業団体が反対している状況。決定する前に十分話し合って合意を得ることが必要だった」という声もあった。
- 14 Apr 2021
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【第54回原産年次大会】今井会長、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と
所信表明を行う今井会長第54回原産年次大会が4月13日に開幕した。今回は、「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。14日までの2日間、コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動問題、エネルギー・原子力利用)を俯瞰し、事故発生から10年が経過した福島第一原子力発電所に係る廃炉の進捗状況と福島復興を展望するとともに、本格的に策定議論が始まった次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力政策について考える。感染症対策のためオンライン配信での開催となった。2年ぶりの開催となった今大会には国内外より830名が参加登録。開会に当たり、今井敬・原産協会会長が所信表明に立ち、3月に東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、被災した方々、今なお避難している多くの方々に対し、「改めて心からお見舞いを申し上げる」と述べたほか、福島の復興に長く尽力してきた方々への謝意を表した。今後のエネルギー・原子力政策について、今井会長は、昨秋に菅首相が表明した2050年カーボンニュートラルに言及。「わが国では原子力発電によりこれまでに約46億トンものCO2排出を回避してきた。原子力発電がなければ発電部門のCO2排出量は少なくとも25%は増えていた」とするIEAのデータなどを示し、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と述べた。さらに、日本のエネルギー自給率が極めて低い現状からも、原子力発電の重要性を、「安定供給の観点から極めて強靭で環境に対し持続可能な、最も信頼できる電源の一つ」と強調。原子力産業界は、安全性の一層の向上を図りつつ、既設炉の再稼働や運転期間の延長を着実に進め、社会からの信頼を得ていかねばならないとした。また、将来にわたる原子力発電の活用に向けて、新増設・リプレースの位置付けの明確化や、原子燃料サイクルの早期確立、高レベル放射性廃棄物処分事業などを着実に推進すべきとも指摘。今大会のテーマに関し、今井会長は、「世界はコロナ禍の中、経済、気候変動、エネルギーなど、地球規模の様々な課題に直面している。国内外の原子力産業界がこれから歩む道は決して平たんなものではない」とした上で、「海外の先行事例も踏まえ、世界、そして、日本の原子力産業が目指すべき将来について考える機会にしたい」と抱負を述べた。長坂経産副大臣続いて、長坂康正・経済産業副大臣と上坂充・原子力委員会委員長が挨拶。長坂副大臣は、福島第一原子力発電所の廃炉、福島の復興・再生を筆頭とする資源・エネルギー関連の施策について述べた上で、産業界による原子力イノベーションに向けた取組に関し、「原子力の技術や人材の維持・強化につなげて欲しい」と、積極的な推進を期待。ビデオメッセージを寄せた上坂委員長は、原子力政策を巡る動きとともに、最近の技術開発成果から、可搬型X線源を利用し橋梁の維持管理を行う「インフラ・メディカル」や、ウラン鉱さい由来の放射性医薬品による「セラノスティクス」(治療+診断)などを紹介し、原子力科学技術の多様な応用の可能性を展望した。グロッシーIAEA事務局長大会は、特別セッションに移り、初めに、ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長のビデオメッセージを紹介。その中で、グロッシー事務局長はまず、新型コロナウイルス拡大に見舞われた1年を振り返り、「世界が直面する課題は昨今複雑化してきた」として、原子力技術の応用が相乗効果を最大限に発揮し、食料安全保障、環境保全など、多くの課題解決に寄与する必要性を示唆した。また、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、IAEAとして引き続き日本に対する支援とともに、事故の教訓を踏まえ世界の原子力安全向上を図っていく考えを強調。さらに、「原子力は実証済みの脱炭素技術」と明言し、11月のCOP26(グラスゴー)に向けて、「気候変動を語る上で原子力は不可欠」とのメッセージを発信する準備を進めているとした。歴史家・作家の加来耕三氏この他、歴史家・作家の加来耕三氏の講演、米戦略国際問題研究所(CSIS)所長・CEOのジョン・ハムレ氏へのインタビュー(ビデオ録画)が行われた。加来氏は、徳川家康を例に、戦国武将の実際の人物像と小説・ドラマでの描かれ方との違いを紹介し、歴史を考える上で、(1)常に疑ってかかる、(2)決して飛躍させてはならない、(3)徹底的に数字を重視する――姿勢の重要性を述べ、「根拠のない思い込み」や「無責任な感情論」への危惧を指摘。原子力を過渡的なエネルギーと捉える風潮に疑問を呈し、「何を言われても言い返さない原子力産業界にも責任がある。きちんと主張しないと新たな人材も育たない」と強く叱咤した。ハムレ氏は、米国のコロナ対応、バイデン政権移行後の外交政策・環境政策、原子力の信頼回復に向けた助言などを語った。
- 13 Apr 2021
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原産協会・新井理事長が会見 「第54回原産年次大会」など紹介
原産協会の新井史朗理事長は4月7日、記者会見を行い、13、14日に開催される「第54回原産年次大会」(東京国際フォーラムよりオンライン配信)について紹介した。今回は「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動、エネルギー・原子力利用)を俯瞰。また、事故から10年が経過した福島第一原子力発電所廃炉の現状と福島復興を展望するとともに、昨秋より本格的に検討が開始された次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力の課題について考える。原産年次大会は、新型コロナウイルス感染症による影響を考慮し2020年は中止となった。新井理事長はまず、2年ぶりの開催となる今回大会について「海外の非常にハイレベルな方々の登壇も適うこととなった」と、オンライン併用による開催のメリットを強調。今回のテーマに関し、昨今のエネルギー安定供給を巡り、「世界的なパンデミックにより、エネルギーにおけるサプライチェーンの課題がクローズアップしてきた」などと、国際情勢の変化を概観するとともに、「わが国は化石燃料の大部分を海外からの輸入に頼っており、一次エネルギー自給率は約12%と、先進国の中でも特に低い」と、日本の現状を改めて述べた。さらに、今冬の電力需給ひっ迫に関し、「特に厳しかった1月6~12日の間、全国で稼働していた原子力発電プラントはわずか3基だった」と振り返り、原子力の電力需給における位置付けを考える契機となったことを強調。原子力発電の環境適合性については、「日本の年間CO2排出量は約11億トン。100万kW級のプラント1基が稼働すれば年間310万トンのCO2を削減できる。2050年カーボンニュートラル実現に不可欠」とした上で、今回の年次大会を通じ「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する原子力の価値について国民の皆様の議論が深まることを期待する」と述べた。次期エネルギー基本計画に関する記者からの質問に対し、新井理事長は「安全を大前提とした3E(安定供給、経済効率性、環境適合性)の観点のもと、将来にわたって一定規模の原子力発電を利用していくというメッセージを発信して欲しい」としたほか、再稼働が進まぬ状況下、「既存炉の徹底活用」の重要性を繰り返し強調。また、原子力イノベーションに関し、先般の日揮ホールディングスによる米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への出資について触れ、「日本の企業が海外と連携することは技術力の維持にもつながり喜ばしいこと」と、歓迎の意を述べた。
- 08 Apr 2021
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原産協会、原子力発電の理解促進に向けボードゲームを作成
原産協会はこのほど、プレイしながら原子力発電に係る知識を深めポジティブなイメージを持ってもらえるよう、原子力発電所に必要なものを題材としたボードゲーム(2~6人用)を作成した。「原子力発電 THE ボードゲーム」と題するこのゲームの手順は、原子力発電所に必要な10種類の「対策」のいずれかが記載・説明されたカードを切り混ぜ、各プレーヤーに分配(残りは山札としてストック)。トランプゲームに似た要領で、各プレーヤーは順にルールに従って、各々の原子力発電所を模したゲームシートに、カードを置きながら完成形に近づけていく。以下の10種類の「対策」、地震に対する対策原子炉を止める原子炉を冷やす放射性物質を閉じ込める非常用電源の設置津波に対する対策発電設備の設置多様な電源と注水設備の準備操作・訓練の充実意図的な航空機衝突などに対応――をゲームシート上に揃え、「プラント起動!」のカードを最初にゲットした者が「勝者」になる。一番最初にすべての「対策」カードをゲームシート上に置き終えたプレイヤーが、「プラント起動!」カード(頂点)をゲットしできるのだ各プレーヤーが持つカードには、原子力発電所に必要な「対策」の他、ゲームを進める上で自分に有利となる「効果」も書かれており、ゲームに勝つには、これらの「効果」を上手く活用する戦略が必要となる。例えば、他のプレーヤーに対し、「提携」のカードを行使すると相手の手札1枚を選び抜いて自身の持ち札に加えることができ、「働き方改革」のカードでは対戦相手を「1回休み」にすることができるといった具合だ。ゲームを行う上で、原子力に関する予備知識は特段必要ないため、幅広い年代(中学生~大人)が一緒に遊ぶことができる。また、説明書ではカードに書かれた「対策」について詳しく解説している。コンピューターゲームが席巻する中、ボードゲームはコミュニケーションツールの一つとして見直されつつあり、百貨店の特設売場・専門店でも根強い人気を集め、家族や友人との娯楽・コミュニケーションアイテムとして活用される以外に、近年では企業研修にも供されているほどだ。今回、ゲームの制作に当たった原産協会地域交流部では、「学校教育でも使用しやすいものであり、関係各所にボードゲームを頒布することで場所や人を問わず遊んでもらうことができる」と、期待を寄せている。「原子力発電 THE ボードゲーム」(非売品)の問合せは、原産協会地域交流部(電話03-6256-9320、9377)まで。
- 29 Mar 2021
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新井理事長、福島第一事故から10年を前に所感
原産協会の新井史朗理事長は2月26日、月例のプレスブリーフィングを行い、同日発表の理事長メッセージ「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えるにあたって」を配布し説明(=写真)。改めて被災者の方々への見舞いの言葉とともに、復興・再生に向け尽力する多くの方々への敬意・謝意を述べた。事故発生から10年を迎えるのを間近に、復興が着実に進展し生活環境の整備や産業の再生などの取組が期待される「ふくしまの今」を伝える情報発信サイトを紹介。原子力産業界として、「福島第一原子力発電所事故の反省と教訓をしっかりと受け止め、二度とこのような事故を起こさないとの固い誓いのもと、たゆまぬ安全性向上に取り組んでいく」とした。また、昨夏東京電力より現職に就いた新井理事長は、福島第一原子力発電所に配属された新入社員当時を振り返りながら、「私を育ててくれた場所、思い出がたくさん詰まった場所」と思いをはせたほか、発災後、富岡町における被災住宅の家財整理など、復旧支援活動に係わった経験に触れ、「住民の方々の生活が事故によって奪われたことに対し誠に申し訳ない」と、深く陳謝。福島第一原子力発電所の廃炉に向けて「現地の社員たちが最後までやり遂げてくれると信じている」とした上で、「1日も早い福島の復興を願ってやまない」と述べた。将来福島第一原子力発電所事故を知らない世代が原子力産業界に入ってくる、「事故の風化」への懸念について問われたのに対し、新井理事長は、会員企業・団体を対象とした現地見学会などの取組を例に、「まず現場を見てもらい肌で感じてもらう」重要性を強調。事故を踏まえた安全性向上の取組に関しては、「一般の人たちにわかりやすく広報していく必要がある」などと述べた。また、2050年カーボンニュートラルを見据えたエネルギー政策の議論については、「まず再稼働プラントの基数が増えていくこと」と、既存炉を徹底活用する必要性を強調。経済団体から新増設やリプレースを求める声が出ていることに対しては、「60年運転まで考えてもやはり足りなくなる」などと、首肯する見方を示した。
- 01 Mar 2021
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「原子力人材育成ネットワーク」報告会開催、遠隔教育に関し議論
原子力人材育成に係る産学官連携のプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」(運営委員長=新井史朗・原産協会理事長)の2020年度報告会が2月16日に開催された。オンライン形式となった今回の報告会には約120名が参加。原子力教育における遠隔ツールの活用をテーマに、小原徹氏(東京工業大学先導原子力研究所教授)の進行のもと、パネルディスカッションが行われた。登壇者は、喜連川優氏(東京大学生産技術研究所教授)、若林源一郎氏(近畿大学原子力研究所教授)、高田英治氏(富山高等専門学校教授)、中園雅巳氏(IAEA原子力エネルギー局上級知識管理官)。九大学生へのアンケート結果「オンライン授業は対面授業を代替できていたと思いますか」(国立情報学研・喜連川氏発表パワポより引用)国立情報学研究所所長も務める喜連川氏は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い2019年度末より取り組んできた大学教育における「対面から遠隔への転換」支援策を披露。行政機関や全国の大学・高専などと連携した情報交換活動により、遠隔講義での著作物の無償利用(2020年度内)が可能となった成果を紹介した。また、同氏は、九州大学で最近実施された遠隔講義に関する学生アンケートの結果を例示。それによると、学部1年生より2~4年生の方が遠隔講義への満足度が顕著に高い傾向にあった。コロナ終息後も見通した講義スタイルに関する学生の意見から、講義録をオンデマンド配信し難解な部分を繰り返し視聴できる工夫も求められていることをあげた上で、喜連川氏は「学びのスタイルが変わりつつある」などとして、今後もIT技術を通じた高等教育の向上に取り組んでいく考えを述べた。近大が構想する「原子炉遠隔実習システム」のイメージ(上)とバーチャル・コンソール画面(近大・若林氏発表パワポより引用)教育現場に携わる立場から若林氏は、大学保有の原子炉が少ない現状下、研究炉「UTR-KINKI」を用いた実習に関し、研修生の旅費と原子力規制(入域人数制限など)の課題をあげ、TV会議システムを通じ研究炉を持たない国にも原子炉実験の機会を提供するIAEA-IRL(Internet Reactor Laboratory)を手本とした「原子炉遠隔実習システム」構想を披露。モニター画面に表示される「原子炉バーチャル・コンソール」を遠隔地の教室と共有し指導を行うもので、現場での実習参加に替わる有効な手段として期待を寄せた。一方、感染症対策により2020年度はオンラインによる原子炉実習を行った経験から同氏は、「対面でないと伝わらないものもある。実際に現場に入るまでの手続きも含めて実習といえる」などと述べ、遠隔実習には限界があることを示唆。高田氏は他校へも配信する原子力人材育成“eラーニング”のカリキュラムを紹介し、今後の課題としてコンテンツの充実と若手高専教員の裾野拡大をあげた。また、将来のリーダーを目指す各国若手の育成に向けたIAEA「原子力エネルギーマネジメントスクール」(NEMS)に関わる中園氏は、国際的視点から、オンラインを通じたイベントを開催する上で、地域間の時差を「最大の問題」と指摘。一般参加者を交えた討論では、原子力分野の遠隔教育に関し、機微情報に係るセキュリティ対策についても質疑があった。上坂原子力委員長「原子力人材育成ネットワーク」は2010年11月の発足から10年を迎えた。今回の報告会では、原子力委員会・上坂充委員長からの祝辞が紹介されたほか、ネットワーク初代の、それぞれ運営委員長、事務局長を務めた服部拓也氏(原産協会顧問)、杉本純氏(サン・フレア校長)が、当時を振り返るとともに、発足4か月後に福島第一原子力発電所事故が発生し新たな課題に対応してきた経緯を語った。花光氏(仏プロバンスにてオンライン参加)また、NEMSの日本誘致(2012年)に貢献し、現在はITER機構で活躍中の花光圭子氏がフランスよりオンライン参加。コロナの影響で厳しい外出制限が敷かれている現地の状況を述べながらも、「ネットワークを活かした実習が続いていることはとても意義深い」と、日本が主導する原子力人材育成の取組に期待を寄せた。
- 18 Feb 2021
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文科省作業部会、原子力機構の中長期目標に関し原産協会他よりヒア
文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会(主査=山口彰・東京大学大学院工学系研究科教授)は2月10日、日本原子力研究開発機構の中長期事業目標(2015~21年度)の変更に関し、日本原子力産業協会と日本電機工業会よりヒアリングを行った。中長期目標の変更は、独立行政法人の目標策定に関する政府指針の改訂などに伴うもので、新たな中長期目標案には、人材確保・育成やイノベーション創出に向けた取組が追加記載されている。同機構を所管する一行政庁として文科省は、同作業部会で9日の電気事業連合会、日本原子力学会、原子力規制庁に続きヒアリングを実施した。10日の会合で、原産協会からは、人材育成部長の喜多智彦氏が産学官連携のプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」の共同事務局を原子力機構とともに務める立場から説明。同氏は、研究開発と人材育成は「表裏一体」の関係にあるとし、効果的・効率的に進められるよう「協力と連携」をキーワードに掲げた。今後、革新炉・小型モジュール炉(SMR)などの研究開発に向け、「産官学連携研究開発プラットフォーム」のような仕組みが必要であるとし、原子力機構にその中核となる機能を期待。人材確保・育成の視点からは、同機構に対し、国際研修コースや学生実習などの取組に評価を示した上で、「大学との連携強化」、「技術系人材の確保・育成」、「長期的・継続的な人材・資金の投資」の重要性を述べた。電機工業会からは原子力部長の小澤隆氏が説明。同氏は、プラントメーカーの立場から、原子力機構に対し、新型炉の早期実用化に向けた規制対応、高速炉サイクル開発に係る海外の政府・研究機関との協力、水素製造システムの実証が期待される高温ガス炉「HTTR」の早期稼働などを要望した。原子力機構は、今後の人材育成・確保に関し、2月中にも見込まれる研究炉「JRR-3」の再稼働など、新規制基準対応より停止していた施設の再開を見据え、人・予算の1割程度増を目指していくとした。原子力産業以外でも技術基盤の維持が困難となっている現状について、喜多氏が「産業間で技術系人材の奪い合いが起きている」と述べたのに対し、産業界での経験を踏まえ佐藤順一氏(科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー)は、「国として真剣に考える必要がある」などと、喫緊の課題であることを改めて強調。また、原子力科学技術に係る立場から矢野安重氏(仁科記念財団常務理事)は、加速器を利用した放射性廃棄物減容化の技術開発に期待を寄せるなどした。科学技術行政に通じた寺井隆幸氏(東京大学名誉教授)は、2日間のヒアリングを振り返り、今後多分野にわたる原子力研究開発の方向性について改めて整理していく必要性を述べた。
- 10 Feb 2021
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