大林組は2月22日、ドローンおよび自律4足歩行ロボット「Spot」を用いた放射線計測システムを開発したと発表した。原子力災害被災地の復興にも貢献する技術で、福島県浜通りの飯舘村に活動拠点を置く菊池製作所他との共同によるもの。〈大林組発表資料は こちら〉除去土壌の中間貯蔵施設における放射線量の計測は、モニタリングポストによる定点観測や歩行調査などの手法が採用されており、広大な敷地に対し、面的に計測を行う技術が確立されていないことから、大林組では、被ばく低減とともに、人手不足に対応する省力化の必要性にも着目。現地(大熊3工区土壌貯蔵施設)での実証試験を通じ、「局所的に放射線量の高い箇所が発生していないか」など、放射線量の計測を高度化・省力化させる技術を実現したもの。同社は、これまでもフレコン(除染廃棄物を保管した袋)の放射能濃度測定で、車両積載のまま運用可能な測定ゲートの開発を、放射線測定機器メーカーのキャンベラジャパンと手がけた経験を有している。実証試験を行った中間貯蔵施設は、除染作業で発生した土壌を覆土。「地表面に局所的に放射線量が高い箇所が発生していないか」観測する調査を、鉛の遮蔽体が装着された検出器を搭載するドローンおよび「Spot」で行った。ドローンは広大な面積を迅速に計測。一方、自律4足歩行ロボット「Spot」はより詳細に異常箇所を特定でき、ドローンの飛行できない建屋内にも立ち入り計測することも可能だ。現地では、1メガベクレルの線源を地表面に設置。ドローンおよび「Spot」を直上に走行させたところ、6か所のピークで線源を特定し、十分に小さな放射線量でも検出できることが実証された。今回の計測技術開発を受け、大林組では、除去土壌の中間貯蔵施設や減容・再生利用だけでなく、原子力発電所の廃止措置における建屋周辺および内部のモニタリングや、放射性廃棄物の地下埋設後の点検作業にも有用、と期待を寄せている。実証試験では、狭あいエリアを詳細に検査する有効性も確認。1時間当たり約4,500㎡の速度で計測したほか、通常の人による歩行調査(約1,100㎡/人・時間)の約4倍の効率性を実現した。さらに、日常業務として、広範囲の計測にドローンを使用する場合、1時間当たり約40,000㎡(東京ドームの約8割の面積に相当)の計測も可能となると見込まれ、今後は他分野への波及効果も期待できる。
26 Feb 2024
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京都大学経済研究所先端政策分析研究センター(CAPS)は2月17日、18日の2日間、シンポジウム「東日本大震災における原発事故による福島の損害賠償と復興~これまでの歩みとこれから~」を京都大学・吉田キャンパスで開催した(共催:京都大学社会科学統合研究教育ユニット、公益財団法人 KIER経済研究財団)。CAPSは、行政機関等と連携して政策研究を進める組織で、研究成果の社会発信の一環として、シンポジウムを開催している。今回は、会場およびオンラインのハイブリッド開催で、両日合わせて200名超が参加した。17日は、「福島の原子力損害賠償」をテーマに講演とパネル討論が行われた。最初にCAPSの山下恭範特定准教授が、福島の損害賠償と復興について概況を説明。その後、松浦重和氏(文部科学省研究開発局前原子力損害賠償対策室室長代理)が、原子力損害賠償紛争審査会(審査会)による中間指針の策定とその改訂等について、策定作業に携わった立場から基調講演を行った。松浦氏は、福島第一原子力発電所の事故による賠償すべき損害が、中間指針で類型化して示されたことで、被害者の立証の負担が軽減されたほか、賠償金の支払いが迅速化したと説明。また、事故にともなう7件の集団訴訟の確定判決を踏まえ、審査会が2022年12月に「中間指針第五次追補」を決定したが、その後、集団訴訟においてもこの追補を踏まえて和解する例が出ていることなどを報告した。賠償請求に関して和解仲介を担っている原子力損害賠償紛争解決(原賠ADR)センターについては、人手不足等の課題は残るものの、「訴訟によらない救済の受け皿として、非常に大きな役割を担っている」と指摘した。続いて、審査会で会長代理等を10年以上にわたり務めた大塚直氏(早稲田大学法学部教授)が、福島における原子力損害賠償の意義と課題について、法的な観点から講演。審査会の指針は、事故による被害の状況を踏まえた考慮の結果、①原状回復の理念を一部取り入れたこと、②不安に対する精神損害を一部認めたこと、③間接損害の要件を緩和したこと、④環境損害を正面から認めたこと──等において、不法行為法の判例を踏み越えていると指摘。自ら素案の検討に当たった「中間指針第五次追補」については、「従来の指針との一貫性を維持しつつも、新たな類型化が取り込まれている」と説明した。一方で、高齢者のような、生活の再構築が困難な被災者に対する賠償等、未だに解決されていない問題が多数あることを課題として挙げた。民法や環境法を専門とする大坂恵里氏(東洋大学法学部法律学科教授)は、福島第一原子力発電所事故による被害と賠償の実態について講演。災害弱者や農業従事者等が抱える多様な問題について言及し、中間指針や原賠ADRセンターの総括基準の損害項目は、こうした幅広い被害について「相当程度対応している」と指摘。特に中間指針については、東京電力の自主賠償を強く促す効果があったとの考えを示した。一方、被申立人である東京電力が多数の賠償対応を経験しノウハウを積み上げているのに対し、原賠ADRセンターに持ち込まれる案件では、近年、申立人である被災者側の弁護士代理率が極端に低下していることを紹介。法律に詳しくない被害者への法的支援が不十分である状況を問題視した。北郷太郎氏(OECD/NEA原子力法委員会副議長、IAEA国際原子力賠償専門家グループ委員、第3回原子力損害補完補償条約(CSC)締約国等会議議長)は、「コロンビア・レポート」や「フォーラム・レポート」等のアメリカにおける原子力損害賠償制度の検討から始まる、原子力損害賠償制度の国際的な歴史と日本の原賠法立案までの経緯やその後の制度改正の歴史を紹介。さらに、福島第一原子力発電所事故の賠償を、国際社会がどのように受け止め、反応しているかを解説した。北郷氏は、事故の賠償には課題も多いが、国際的にはその枠組み及び実務について高い評価を受けていることを指摘した上で、特に日本の賠償実務(クレーム・ハンドリング)や事故後の試行錯誤の結果は、今後の国際的な制度改善のための貴重なノウハウであり、国際的に発信するべきであると強調した。17日のシンポジウム後半では、それまでの講演を受け、「福島の原子力損害賠償の現状と課題、今後の展望について」と題したパネル討論が行われ、山下氏がファシリテーターを務めた。冒頭、鎌田薫氏(早稲田大学前総長・文部科学省原子力損害賠償紛争審査会前会長)は、原子力損害賠償制度専門部会の部会長代理として事故後の原賠法の見直しをめぐる議論に参加した経験を踏まえつつ、制度の課題等を総括した。その上で、損害賠償は、元来事故によって失われた利益を元の水準に戻すことが主たる役割であるが、人と人との繋がりや生業などの原状回復は不可能であると指摘。福島が魅力ある地域として、再生し、発展していくためには、新たな産業や文化、社会環境を創造していくことが不可欠であり、そのためにも、「損害賠償制度と法政策が相互に補完しながら効果を最大化していく」ことが重要と指摘した。その後、①福島の損害賠償の現況と今後の課題、②賠償制度が持続可能な形で維持していくために必要なこと、③損害賠償と復興──の3点について登壇者が議論。最後は鎌田氏が「福島における復興政策と損害賠償の調和を1つのモデルケースとして確立していってほしい」と締めくくった。「福島の復興や街づくり」がテーマとなった18日は、内閣府福島原子力事故処理調整総括官の新居泰人氏(元・福島相双復興推進機構専務)が、復興の経緯や復興を支援する政府の取組みについて紹介。広野町夢大使を務める小沢晴司氏(宮城大学教授、福島大学客員教授、元・環境省福島環境再生本部長)からは環境除染の取組について、福島国際研究教育機構理事の木村直人氏からは新たに立ち上げ中の研究機関、福島国際研究教育機構(F-REI)を活用した地域復興の取組について、講演が行われた。また、高橋大就氏(一般社団法人NoMAラボ代表理事、一般社団法人東の食の会専務理事、福島浜通り地域代表)は、福島の高付加価値な食品を活かした地域振興の取組を紹介した。パネル討論では、長谷山美紀氏(北海道大学副学長・大学院情報科学研究院長)が、AI研究者の視点でみた地域振興の在り方等について講演。続いて、復興や新たな地域の在り方を目指した地域振興について議論された。
26 Feb 2024
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日本原子力産業協会の新井史朗理事長は2月22日の記者会見で、福島第一原子力発電所事故から間もなく13年を迎えるのに際し所感を述べ、また、電力システム改革の検証に関し意見を提出したことを紹介した。福島第一原子力発電所事故から3月で13年を迎えるのに際し、新井理事長は、あらためて被災した方々への見舞いの言葉とともに、復興に携わる方々の尽力に対し謝意を表した上で、県内6町村に設定された「特定復興再生拠点区域」における避難指示の全解除、新たに新設された「特定帰還居住区域」に係る大熊町、双葉町、浪江町、富岡町の申請・認定など、復興に向けた最近の動きに言及。また、福島県産食品に対する輸入規制が縮小し、2021年度は過去最高、2022年度も過去2番目の輸出量を記録したことなどを紹介。2023年8月に開始した福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出については、「廃炉の貫徹に向けた重要なステップ」との認識をあらためて示す一方、これに伴う近隣諸国による日本産水産物の禁輸が改善されない状況に関し遺憾の意を述べた。さらに、2023年1月、年度後半に予定されていた福島第一2号機における燃料デブリの試験的採取の開始時期が延期されたことに関し、新井理事長は、「今後も安全最優先に一歩一歩進めてもらいたい」と強調。原子力産業界として、「東京電力が進める廃炉の取組をしっかりと支援していくとともに、福島県産品の消費拡大に貢献していく」との姿勢を示した。また、新井理事長は、現在、総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会で進められている電力システム改革の検証に対し、このほど意見を提出したことを紹介。原子力の最大限活用が可能な電力システムを構築する必要があるとの考えに基づき、「現在の電力システムで、2030年のエネルギーミックスを達成できるのか、また、長期脱炭素電源オークションについて、ファイナンスの観点や投資回収の予見性確保の観点から、適切な制度となっているか」について、検証を求めたものと、説明した。
22 Feb 2024
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が2月20日に開かれ、デロイトトーマツ合同会社よりヒアリングを受け、原子力事業の資金面での課題などについて議論した。〈配布資料は こちら〉はじめに、資源エネルギー庁が直近の原子力動向を報告。東北電力女川2号機の再稼働予定が安全対策工事完了時期の見直しにより2024年9月となることを紹介した。また、元旦に発生した能登半島地震に関しては、北陸電力志賀原子力発電所の安全機能に異常はなく、「今回の地震を通じて得られた教訓等を踏まえながら、原子力防災体制の充実・強化を図っていく」とした。同調査会電力・ガス基本政策小委員会において進められている電力システム改革の検証については、1月に「長期脱炭素電源オークション」の初回応札が開始されたところだが、バックエンド事業の遅延など、原子力発電固有のリスクに係わる指摘事項を整理し、議論に先鞭をつけた。デロイトトーマツは、「長期脱炭素電源オークション」で、既設原子力発電所の安全対策投資が次回応札より対象となる見込みを踏まえ、投資回収・ファイナンスにおける課題を提起。当該制度について「容量市場と比較して、大幅に予見可能性の向上に寄与するもの」と評価する一方で、運転終了後の廃炉期間に生じる費用に関して、「事前に総額を見積もることができず、運転期間中の回収が困難となるおそれがある」などと、原子力発電固有の不確実性を懸念。官民の役割分担や民間資金活用の可能性他、ファイナンス面の課題にも言及した上、次期エネルギー基本計画において、長期的な原子力産業の戦略について明確化する必要性などを指摘した。これに対し、委員からは、「長期的な安全性、安定供給、経済効率性、環境適用に関連するリスクを抽出して、海外の取組も参考にしつつ、今後改善策を検討していく必要があると思う」とする意見、事故に備えた財務基盤の検討など、原子力に特化したリスクに係わる指摘もあり、今後さらに議論を深めていく必要性が示唆された。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗理事長は、「事業者が投資意欲を持てるような、事業者に適切なファイナンスがつくような、事業環境整備が必要だ」と指摘した。〈発言内容は こちら〉なお、今回の会合をもって退任することとなった山口委員長は、閉会に際し、主に安全性向上の議論をリードしてきた経験を振り返りながら、「まだ道半ばと思う。これまでの議論をしっかり活かしてもらいたい」と、挨拶を述べた。
21 Feb 2024
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電気事業連合会は2月16日、新たなプルトニウム利用計画を策定し発表した。2024~26年度の3年間における電力11社のプルトニウム利用量を取りまとめ示したもの。このほど、かねてより準備が進められていた四国電力と九州電力が英国に保有するプルトニウム1.7トンと、東北、東京、中部、北陸、日本原子力発電の各電力(いずれもMOX燃料装荷は未実施)がフランスに保有する同量のプルトニウムを交換する枠組みについて、会社間の契約が正式に締結されたことから、今回のプルトニウム利用計画では、この交換分の利用を一部織り込んでいる。電事連の池辺和弘会長は、同日の定例記者会見で、「2030年度までに少なくとも12基の原子炉でMOX燃料を装荷・利用する」という従前からの方針をあらためて強調。使用済燃料を再処理して、プルトニウムを回収し加工したMOX燃料を軽水炉で再び利用することで、資源の有効利用のみならず、「利用目的のないプルトニウムは持たない」という国の政策にも対応する。九州電力と四国電力はフランスに保有しているプルトニウムを使い切っており、玄海3号機は今月にMOX燃料の使用を停止し、伊方3号機でも今後はMOX燃料の使用を一時停止する予定だったが、今回のプルトニウム交換の枠組みによりMOX燃料を活用していく予定。また、九州電力がフランスに保有する01.トンも、プルトニウム利用促進のため、自社のMOX燃料加工に利用し、東京電力と中部電力が代替譲渡することで合意。当該分は電源開発に譲渡されることとなる。今回、発表されたプルトニウム利用計画で、電力11社のプルトニウム所有量は2024年度で計40.1トン。2025年度以降は、六ヶ所再処理工場・MOX燃料加工工場の操業も想定し、2026年度のプルトニウム所有量は41.4トンと見込まれている。なお、プルトニウム保有量の減少に向けた事業者間の連携・協力に関しては、原子力委員会が策定した「わが国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」(2018年7月)の中でも指摘されている。
20 Feb 2024
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柏崎刈羽原子力発電所に関する新潟県主催の県民説明会が2月18日、長岡市を拠点に開催され、原子力規制委員会が12月27日に判断、決定した追加検査の結果、および東京電力の原子炉設置者としての適格性判断について、原子力規制庁が説明。長岡市内の本会場(市立劇場)、および県内の他市町村に設けられたサテライト会場(10数か所)、オンラインによる視聴も含め、計115名が参加した。開会に際して、県防災局長の原直人氏は、柏崎刈羽原子力発電所で2020年以降に発生したIDカード不正使用など、一連の核物質防護不適切事案を振り返った上で、今回、追加検査に携わった原子力規制庁職員らを招き、適格性判断と合わせ説明を求めるに至った経緯を述べ、参加者に対し「忌憚のない質問・意見」を要望。原子力規制庁からは検査監督総括課長の武山松次氏らが出席した。原子力規制庁は、まず、2021年の核燃料物質移動禁止命令以降、2年8か月にわたって行った追加検査の詳細を説明。検査結果を取りまとめた上、12月末に柏崎刈羽原子力発電所の検査対応区分を引き上げ((「第4区分」(安全活動に長期間にわたるまたは重大な劣化がある)を、「第1区分」(自律的な改善ができる)に変更))、命令解除としたが、今後も引き続き、基本検査を通じて改善状況を監視していくことを強調した。一方、適格性判断については、現地調査、社長との意見交換、保安規定変更などを総合的に勘案し、2017年12月に示した「問題なし」との結論((柏崎刈羽6・7号機について、東京電力に対し新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を発出した上で、福島第一原子力発電所事故の当事者としての適格性判断を実施し、「原子炉を設置し、その運転を適格に遂行するに足りる技術的能力がないとする理由はない」と結論づけた))を変更する必要はない、との判断に至った経緯を説明した。これに対し、県民からは、柏崎刈羽原子力発電所で最近発生した資料の無断持ち出し・散逸に鑑み、東京電力による改善活動の破綻を非難する意見、福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出に関連し、同社の情報発信の姿勢について再確認を求める声もあがった。また、元旦に発生した能登半島地震の関連では、日本海側の活断層に係る専門家の調査に言及し「自然の力には太刀打ちできない」とする不安や、災害発生時の避難対策に関し「何も決まっていないのでは」などと、今後の再稼働を見込んだ慎重な意見も出され、原子力規制庁は、「設置変更許可時には、当時の知見で最善を尽くした」と説明した上で、今後も新知見の収集・活用に努めていくと回答した。今回の説明会では、この他、「東京電力の取組を高評価し過ぎてはいないか」、「見えていないところもあるのでは」といった規制委員会の公正さや検査の盲点に関する疑義や、「そもそもウラン238の半減期は45億年で地球の歴史に相当」とする科学技術の限界への危惧など、不安の声が大勢を占めた。県では、取り上げきれなかった質問に対し、ホームページを通じて回答を示す考えだ。
19 Feb 2024
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量子科学技術研究開発機構(QST)は2月14日、乳幼児を含む幅広い年齢層に適用可能なポータブルタイプの甲状腺スペクトロメータ「I-Beetle」の製品化を発表した。原子力災害発生時の放射線防護措置として、公衆の甲状腺被ばく線量モニタリングの測定精度・実効性向上のため、放射線測定機器で実績のあるクリアパルス社と共同で開発したもので、既に1月から千代田テクノルより販売が開始されている。〈QST発表資料は こちら〉甲状腺被ばく線量モニタリングは、放射性ヨウ素が甲状腺に集積することで、内部被ばくが懸念される場合に実施され、その健康影響は、特に、若年層で高くなることが知られている。これに対応すべく、原子力規制委員会では、原子力防災対策指針に基づき、緊急防護措置となる安定ヨウ素剤の服用に係るガイドラインを策定し、随時の見直しや対応訓練を行い、立地自治体でも事前の配布や住民への説明を実施しているが、優先すべき対象者の選別や副作用など、課題も多い。まずは、発災元の施設周辺住民の甲状腺被ばく線量を早急に把握することを念頭に、QST放射線医学研究所では、2017年度よりポータブル甲状腺スペクトロメータの試作機開発に着手し試作機を製作。2020年度からは、その実用性検証とともに、可搬性や被検者の不安解消も図るべく、小型軽量化に取り組んできた、これらの成果を基礎に、QSTは2022~23年度、社会実装を目指し、クリアパルス社との共同プロジェクトとして、さらに改良を進めた上で、製品版の販売保守に関わる契約を千代田テクノルと締結。2024年1月に同社より「I-Beetle」の販売が開始された。「I-Beetle」は、乳幼児を含む広範な年齢の被検者に対し測定時の体動による影響を受けにくく、高感度かつ高精度の甲状腺被ばく線量モニタリングが実現できるほか、測定時間の短縮、ファントム(マネキンの一種)を用いることで年齢や体格による補正なども可能だ。今回、QSTとともに「I-Beetle」の共同開発に当たったクリアパルス社は、東京都内でも荒川区と並び中小メーカー、いわゆる「町工場」の集積する大田区に拠点を置き、これまでも放射線測定機器類で多くの製造・販売実績を有し、近年ではドローン開発にも参入している。
16 Feb 2024
1235
総合資源エネルギー調査会の地層処分技術ワーキングループ(委員長=德永朋祥・東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)の会合が2月13日に行われ、原子力発電環境整備機構(NUMO)が、北海道の寿都町・神恵内村における高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査の報告書案について説明。両町村ともに、文献調査に続く概要調査の候補地となることが示された。〈配布資料は こちら〉文献調査は、最終処分法で定められる処分地選定に向けた3段階の調査(文献調査:2年程度、概要調査:4年程度、精密調査:14年程度)の最初のプロセスとして行うもので、地質図や鉱物資源図など、地域固有の文献・データをもとにした机上での調査となる。次段階の概要調査に進む場合には、北海道知事および両町村長の同意が必要だ。NUMOは、2020年10月に寿都町・神恵内村からの応募を受け、同年11月に文献調査を開始。2021年4月以降は、住民との「対話の場」を設け情報提供に努めてきた。一方で、両町村以外に文献調査を受入れる自治体が現れないことから、政府は2023年4月に最終処分基本方針の改定を閣議決定し、候補地を募るべく国の関与を強化している。今回のWG会合では、冒頭、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の久米孝氏が挨拶に立ち、両町村による地層処分事業への理解、文献調査の受入れに対し、あらためて謝意を表明。その上で、「全国初の調査であり、今後、別の地域で調査が行われる際の参考事例ともなりうる」として、今後のプロセスを丁寧に進めていく考えを述べた。両町村における文献調査の報告書案については、NUMO技術部長の兵藤英明氏が、同WGの上層となる特定放射性廃棄物小委員会が昨秋取りまとめた「文献調査段階の評価の考え方」に基づく評価および検討プロセスの全体像を説明。技術的観点から、地震・活断層・火山などの地質特性、鉱物・地熱資源の存否や、経済社会的観点からの各評価結果、概要調査を実施する場合の論点を整理。神恵内村に隣接する積丹町には、第四紀火山の積丹岳(約250~240万年前に活動)が存在し、その山頂15km圏内(境界は明確ではないが、処分地選定の適性を色分けした科学的特性マップで「好ましくない範囲」とされる)に村の陸域大部分が入ることから、「火道・火口等に関する情報を拡充し、活動中心を再度検討する必要がある」としている。これらの技術的検討結果を踏まえ、寿都町は町全域を、神恵内村は南端部(陸域3~4平方km)を概要調査地区の候補としてあげた。報告書案に対し、同WGでは、成案取りまとめに向けて、今後、数回にわたり会合を行い、技術的立場から引き続き検討を行っていく。なお、北海道の鈴木直道知事は、今回の文献調査報告案公表に関し、概要調査への移行には「反対の意見を述べる」との意向を表明した上で、「説明会を通じて、こうした北海道の状況を広く全国に知ってもらい、最終処分事業の理解促進が進むことを期待している」とのコメントを発表した。
15 Feb 2024
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日本原子力産業協会はこのほど、駐日英国大使館が主宰する「日英サプライチェーン・パートナーシップ・プロジェクト」の一環として開催されたオンライン企業説明会の運営支援を行った。説明会は、1月24日、30日、2月7日の計3回にわたり行われ、日英合わせて16社の企業がそれぞれの事業について紹介。両国から計148名の関係者が傍聴参加した。「日英サプライチェーン・パートナーシップ・プロジェクト」は、2023年に駐日英国大使館および関係者により立ち上げられ、日英の原子力分野で活躍する企業が有する知見・技術を学び合うことにより、将来的に両国企業のビジネスパートナーシップの発展に寄与することを目指すもの。日本としては、英国から、廃止措置・廃棄物管理や、小型モジュール炉(SMR)などの先進原子力技術について、学ぶべき知見・技術も数多い。昨秋に英国ビジネス・通商省および駐日英国大使館により開催された「日英原子力産業フォーラム」では、ジュリア・ロングボトム駐日英国大使も、日本で進められる高温ガス炉開発や福島第一原子力発電所廃炉における日英協力を例に、「日英企業間のパートナーシップをさらに深めていきたい」と期待を寄せている。今回の説明会で、福島第一原子力発電所廃炉の関連では、英国から、2022年に東京電力と「廃炉事業のプロジェクトマネジメント強化の協業契約」を締結したJacobs社が参加。同社の担当者は、英国セラフィールド廃止措置の経験を活かした専門的知識・エンジニアリングサービスなどの強みをアピール。原子力産業にとどまらず、航空・宇宙、自動車、情報通信ネットワーク、防衛など、「それぞれの分野で長く続くソリューションを顧客に提供する」という使命を強調し、日本でのビジネス拡大に向けて、東京本社を最近開設したことなどを紹介した。また、日本のサプライチェーンとして、岡野バルブ製造が参加。国内のBWRバルブで80%のシェアを占める同社の担当者は、アジア、アフリカ、南米など、途上国を含む海外への供給実績をアピール。自社施設での材料開発・設計、販売、納品、メンテナンスや、国際規格への適合を通じた厳しい品質管理を特長としてあげたほか、高温ガス炉向けの遮断弁開発の取組なども紹介した上で、「100年の実績を持つ専門メーカーとして、英国の企業にも満足してもらえる高品質の製品を提供できる」と強調した。原産協会では、今回のオンライン企業説明会を通じた意見交換を踏まえ、今後も、英国大使館および産業界の関係者と協力し、世界の原子力市場へのソリューション輸出、技術的・商業的パートナーシップの発展をさらに支援していくこととしている。
13 Feb 2024
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関西電力は2月8日、美浜発電所、高浜発電所、大飯発電所における使用済燃料の乾式貯蔵施設設置計画について、福井県、美浜町、高浜町、おおい町に対し、安全協定に基づく事前了解願を提出した。〈関電発表資料は こちら〉同社は2023年10月、「使用済燃料対策ロードマップ」を策定し、福井県・同県議会に対し、「発電所からの将来の搬出に備え、構内に乾式貯蔵設備の設置を検討する」と説明している。乾式貯蔵は、燃料ピット(BWRプラントでは燃料プールと呼称)で十分に冷却された使用済燃料を輸送・貯蔵兼用キャスクと呼ばれる容器に収納・密封し貯蔵する方式で、東日本大震災時も、福島第一原子力発電所に設置された同貯蔵方式の頑健性が保たれた。原子力発電所構内の乾式貯蔵施設の設置については、日本原子力発電東海第二でも運用されているほか、現在、中部電力浜岡、四国電力伊方、九州電力玄海に関しても、原子力規制委員会による審査や、設計・工事認可の申請準備などが進められている。関西電力の発表によると、美浜、高浜、大飯に、それぞれ最大、約100トン、約350トン、約250トンの貯蔵容量を確保することとしており、2030年頃までに全サイトの整備を完了する計画だ。関西電力は1月19日、電気事業者各社が経済産業相との意見交換を行う協議会の中で、使用済燃料対策推進計画の改訂を発表しており、引き続き「福井県外における中間貯蔵について、理解活動、可能性調査等を計画的に進め、2030年頃に2,000トン規模で操業開始する」方針を示している。同日に電気事業連合会が取りまとめ発表したデータによると、同社の原子力発電所における使用済燃料貯蔵量は5年後、管理容量に対し、美浜で90%、高浜で100%(4年程度で達する見込み)、大飯で98%と試算されている。
09 Feb 2024
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日本原子力研究開発機構は2月7日、高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町、ナトリウム冷却型、熱出力100MW)について、医療用ラジオアイソトープ(RI)の製造実証のため、原子炉設置変更許可を原子力規制委員会に申請した。高速中性子を利用し、がん治療薬として期待されるアクチニウム225の製造を目指す。〈原子力機構発表資料は こちら〉「常陽」は、高速増殖炉の基礎・基盤の実証、燃料・材料の照射試験、将来炉のための革新技術検証を使命に、1977年に初臨界を達成後、約71,000時間の運転実績を積んできた。実験装置のトラブルのため、2007年5月の定期検査入り以降、運転を停止中。東日本大震災を挟み、2017年に新規制基準適合性の審査が規制委に申請され、6年余りの審査期間を経て、2023年7月に同審査に係る原子炉設置変更許可に至った。運転再開後の「常陽」の役割は、高速炉開発に向け、政府による「戦略ロードマップ」(2018年12月決定、2022年12月改訂)などを踏まえ、実証炉設計のための要素技術絞り込み・重点化に資するとともに、希少な医療用RIの大量製造で、先進的ながん治療に貢献することも期待されている。実際、原子力委員会では、2022年に「医療用等RI製造・利用推進アクションプラン」を策定しており、その中で、医療用RIの一つであるアクチニウム225大量製造の研究開発強化を図るべく、「常陽」を活用し2026年度までの製造実証を目指すとされている。核医学を中心としたRI関連分野を「わが国の強み」とするねらいだ。アクチニウム225を用いた治療は、病巣の内部からアルファ線を当てるもので、治療効果が高いほか、遮蔽が不要なため病室の入退室制限を緩和できるメリットもある。一方、短寿命(半減期10日)でもあり、世界的に供給が不足している。高エネルギーによる中性子照射場がないことから、加速器による製造が世界の趨勢となっており、米国、ドイツ、ロシアのみがアクチニウム225を供給できるという現状だ。特に、米国ではエネルギー省(DOE)の強力なサポート体制のもと、大規模サイクロトロン(100MeV)による製造・供給も行われている。こうした状況から、原子炉を利用した「常陽」によるアクチニウム225の大量製造には国内外から期待が寄せられるが、安定供給・製薬化に当たっては、医療ニーズに十分対応できる燃料確保、メーカーとの連携、量産体制の確立が課題だ。「常陽」の運転再開は、新規制基準対応工事を経て、2026年度半ばの予定。
08 Feb 2024
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原子力規制委員会は2月7日の定例会合で、元旦に発生した能登半島地震後の北陸電力志賀原子力発電所に係る現状を踏まえ、今後の対応に向けて、主にモニタリング技術の向上について議論した。同委では、年明け最初となる1月10日の定例会合で、地震発生以降の北陸電力他、東京電力や関西電力などから得た情報収集に基づく対応状況の時系列を整理。北陸電力によると、現在、停止中の志賀原子力発電所で観測された地震動の加速度応答スペクトルは、一部の周期帯において、設計上考慮している加速度をわずかに上回っていることが確認されており、規制委では、引き続き技術的情報の収集・整理に努め、必要に応じて今後の新規制基準適合性審査に反映していくとしている。2月7日の会合では、主に、放射線モニタリング体制の機動力強化に関して、委員間で意見が交わされた。地震発生により、志賀原子力発電所周辺のモニタリングポスト116局のうち、主に発電所北側15km以遠の18局でデータ収集が一時期欠測(昨日時点ですべて復旧済み)。原子力規制庁では、石川県とも情報共有を図り航空機モニタリングの準備を行ってきた。こうした状況を踏まえ、原子力規制庁放射線防護グループ監視情報課長の今井俊博氏は、放射線モニタリングにおける通信の信頼性向上、技術の多様化に向けた検討状況を説明。同氏はまず、「安全を確保した上でのモニタリングを考えるべき」と強調した上で、今回の地震で「通信による不具合が欠測の主たる原因」と推察されたことから、京都大学との協力により、低消費電力でも広域の無線通信が可能な「LPWA」規格を使用した測定器の開発に取り組んでいるとした。今後もNTTとも協力し実用化を目指していくとしている。さらに、日本原子力研究開発機構とも協力し、発災時、早急に対応可能な機動性の高いドローン「VTOL機」の開発・導入も検討しているとした。「VTOL機」の機動イメージとして、同氏は、昭和40年代の特撮「帰ってきたウルトラマン」に登場する円盤型戦闘機「マットアロー2号」を例にあげ、浮上・水平移動の柔軟さをアピールした。これを受け、伴信彦委員は、「確かに面白いが、複雑な地形でも適用できるのか」などと、懸念を示した上で、民間事業者との連携も通じ、さらに機動性を高めていく必要性を強調。杉山智之委員は、電源喪失に係るリスクから、「共有要因に伴う機能喪失対策は原子力分野の基本。総倒れにならない工夫が必要だ」と指摘。また、情報発信の関連で、石渡明委員は、「少し対応が鈍いのでは」とホームページ上での視認性向上を要望。新しい技術的情報の収集・検討についても早急な具体化を求めた。
07 Feb 2024
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文部科学省では、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)などを踏まえ、有識者らによる原子力科学技術委員会及び同作業部会で、今後の技術基盤維持・人材育成の方向性について検討を進めている。これに関連し、1月23日の原子力委員会会合で、文科省研究開発局原子力課長の奥篤史氏が、2023年8月24日に開催した「集まれ高校生!原子力オープンキャンパス」の結果を報告した。近畿大学原子力研究所との共催による高校生を対象とした原子炉研修としては初めてとなるもので、大学、企業、研究機関など、計21社・機関の協力のもと、30名の生徒らが参加。同学が所有する教育訓練炉「UTR-KINKI」を使用し、「中性子ラジオグラフィ実験」、「放射化と半減期測定実験」などを実施し、実際の原子炉に触れる機会を提供した。原子炉実験と合わせ、企業・研究機関ブースも設けられ、生徒らとの質疑応答を通じ、原子力分野への興味・理解を深める場となったという。参加者へのアンケートによると、参加動機は「面白そうだったから」が36%、興味深かった内容としては「近畿大学の原子炉を直接見ることができた」が33%で、最も多かった。「実際に原子炉に触れるのは始めての体験だった」、「主体的に将来原子力に進みたい」といった前向きな声もあり、文科省では来年度も継続して開催する意向だ。委員からは、大学・大学院における原子力関係学科・専攻の減少傾向に対する懸念とともに、初等中等教育段階からの実地研修の意義を評価し、人文社会科学系との連携講座開設や「原子力人材育成ネットワーク」とのつながりに期待を寄せる声もあった。文科省では、原子力オープンキャンパスの報告と合わせ、今後の原子力科学技術に関する当面の検討課題について、2025年6月頃の中間取りまとめを目指す方針を示した。
06 Feb 2024
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月5日、料理教室を全国展開する「ABCクッキングスタジオ」とタイアップし、地層処分事業の理解に向けて、SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」を切り口とした動画シリーズを公開した。〈NUMO資料は こちら〉動画では、「世界で生産されている食料の約3分の1が毎年捨てられている」と、食品ロスの問題から導入。流通業界における食品リサイクルの取組「サーキュラーエコノミー」に触れた上で、原子力発電とも対比し、「生活に身近な食品と電気は同じ」と、エネルギー利用における廃棄物・リサイクルの課題を提起し考えさせる。初回公開の動画ではまず、出来上がりの断面が地層をイメージする「かぶのミルフィーユキーマカレー」のレシピを紹介し関心を喚起している。動画シリーズは、次回以降、高レベル放射性廃棄物に関し、地層処分が選ばれた理由・仕組みについても、紹介していく予定だ。「ABCクッキングスタジオ」は、これまでも、復興庁の企画により、福島県産食材の魅力を全国に発信するオンライン料理ワークショップを開催するなど、被災地の地域振興に向けた取組にも協力してきた。
05 Feb 2024
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「原子力総合シンポジウム2023」が1月22日、日本学術会議本部講堂(東京都港区)で開催された。同シンポジウムは、日本学術会議の主催により、関連学協会の協力のもと、わが国の原子力を巡る諸課題について、社会と対話しながら総合的に討論する場として1963年より行われている。今回のシンポジウムでは、総合討論に先立ち、橘川武郎氏(国際大学学長)、寿楽浩太氏(東京電機大学工学部教授)、山本章夫氏(名古屋大学大学院工学系研究科教授)、岡田往子氏(原子力委員)、山中伸介氏(原子力規制委員会委員長)が講演。橘川氏は元旦に発生した能登半島地震による影響を、寿楽氏は地層処分問題に関わった経験などを踏まえ、原子力を進めていく上での一般社会からの理解に関する問題を提起。岡田氏は原子力分野のジェンダーバランスについて講演し、「イノベーションは“個”を認め合ってこそ成しうるもの」と、多様性の重要さを強調。山中氏は、福島第一原子力発電所事故発生からの13年間を振り返り、原子力の安全規制を担う立場として、「制度改善には継続的に取り組んでいかねばならない」と、慢心に陥らぬよう、情報発信・対話、国際機関のレビューも通じた新知見の活用に努めている姿勢を述べ、議論に先鞭をつけた。総合討論(コーディネーター=関村直人氏〈東京大学副学長〉)では、まず、日本原子力学会会長の新堀雄一氏(東北大学大学院工学系研究科教授)が、「エネルギーの選択肢としての原子力を巡る課題や社会の多様なステークホルダー」と題し論点を提起。これに対し、産業界の立場から、東芝エネルギーシステムズの岩城智香子氏は、カーボンニュートラル実現に向けて革新技術への関心が高まる一方、既設炉の再稼働の遅れ、これに伴う技術維持・継承の困難さや人材流出、研究開発投資の縮小、大型試験施設の陳腐化といった課題を指摘した上で、「学会の役割は重要性を増している」と強調。また、革新軽水炉の研究開発に関わる名古屋大学大学院工学系研究科教授の山本章夫氏は、「技術的成熟度が社会に共有されていないのではないか」と、技術の実現性に係る「可視化」の必要性を問いかけた。さらに、ステークホルダーの関与について、福島第一原子力発電所事故以降、学術会議で人文科学分野と横断的議論に関わっている国立環境研究所理事の森口祐一氏は、除染に伴う除去土壌の県外再生利用に向けた実証試験を例に、「首都圏の人たちも自分事としてとらえるとともに、科学者もステークホルダーの一員として考えるべき」と、今後のアカデミアの果たす役割を切望。また、会場からは、能登半島地震に伴いリスクマネジメントに係る課題が指摘されるとともに、「エネルギーの選択肢」に関して、「既にあることを前提に議論されてはいないか。今やその選択肢すら失われつつあるのではないか」といった危惧の声もあがり、コーディネーターの関村氏は、今後、他学会とも連携しさらに議論を深めていく考えを述べ討論を締めくくった。
02 Feb 2024
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日本原子力学会は1月30日、「核燃料サイクルの成立性」研究専門委員会による提言を発表した。同委員会が原子力発電利用における使用済燃料について、「大きな問題を抱えていることは自明であり、避けては通れない点」との認識に立ち、2017~21年にわたって検討を行った成果を取りまとめたもの。計5項目の提言は、各々1ページ程度で概要が説明できるよう「一件一葉」を基本としているのが特徴。また、日本における現行の「核燃料サイクル」政策にとらわれない議論、「多くのオプションが存在する」ことを前提として、「燃料サイクル」と表記している。実際、同委員会での検討は、原子力に関わる各専門分野からの参画を得て、再処理の有無による「軽水炉ワンススルー」、「プルサーマル導入」や、「高速炉導入」など、シナリオを設定し評価。さらに、2100年までを見据えた不確実性にも鑑み、原子力発電設備容量に係る「上振れ」、「現状」、「下振れ」も想定し、「核燃料サイクルの成立性」に関して定量的に精査した。例えば、「上振れ」のシナリオでは、2050年以降で6,600万kWの原子力発電設備容量が維持されるケースを想定し、2100年時点の使用済燃料貯蔵量について、「再処理を行うことで、ワンススルーに比べ10~20%に低減できる」との試算を示している。これまでの検討結果を踏まえ、今回の提言では、原子力の役割に応じた新たな燃料サイクルおよび、その政策決定の仕組みを構築する政府は、その政策決定の根拠となる評価基準を明確にし、常に改良ないしは新しい技術の導入が可能な仕組みを構築する原子力に携わる産官学は、政策に基づき、開発から実用化に至るまで、資源(施設、人材)を長期的に整備する人材育成および技術革新のために、基礎基盤の研究開発能力を維持・成長させる――必要性を指摘。さらに、「原子力発電に対する日本社会の信頼が低下している」ことを懸念した上で、 5.これらの必要性は、2050年付近で「原子力発電が必要とされている場合、そうでない場合」いずれにも存在する――と述べている。同委員会では、日本原子力研究開発機構の専門家を招き、高レベル放射性廃棄物の減容化につながる加速器駆動システム(ADS)など、新たな技術オプションの可能性も検討してきた。提言を通じ、仮に将来、日本が「脱原子力」を選択した場合でも、処分場立地などのバックエンド対策は不可避なことをあらためて強調。アカデミアの立場として、引き続き、合理的な政策決定、産官学による研究開発体制の整備、インフラ・人材の再配置など、社会ニーズに適切に対応していく必要性を述べている。
01 Feb 2024
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福島第一原子力発電所におけるALPS処理水に関し、海洋放出が始まってから初となるIAEA安全性レビューミッションの報告書が1月30日に公表され、日本の取組は「妥当」と評価された。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回の安全性レビューミッションは、2023年10月24~27日に行われたもので、6回目となる。IAEAからは、リディ・エヴラール事務次長、グスタボ・カルーソ氏(原子力安全・核セキュリティ局調整官)ら、7名の職員が、この他、アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、中国、フランス、ベトナム、マーシャル諸島、ロシアの国際専門家9名が来日。経済産業省、原子力規制委員会、外務省、東京電力との会合を通じ、海洋放出開始後のモニタリング状況、放出設備の状況などについて説明を受け、意見交換を行うとともに、現地調査を実施し、IAEA国際安全基準に基づき技術的事項を議論した。このほど公表された報告書は、技術的事項ごとに議論のポイントや所見の概要を記載したもので、「関連する国際安全基準の要求事項と合致しない如何なる点も確認されなかった。IAEAが2023年7月4日の包括的報告書で示した安全審査の根幹的な結論を再確認することができる」と、日本の取組を「妥当なもの」と評価。現地視察に基づき、機器・設備が国際安全基準に合致した方法で設置・運用されていることも確認したとしている。また、国際安全基準の要求事項とは別に、「すべてのモニタリングデータを単一のウェブサイトに集め、アクセスしやすい形式にすることが非常に有用」と、情報発信に関し指摘した。IAEAによる次回のレビューミッションは、今春に実施される予定。今回のIAEA報告書を受け、日本政府では、「引き続き、IAEAレビューを通じ国際的な安全基準に従った対策を講じ続け、安全確保に万全を期していく」としている。合わせて、IAEAは、ALPS処理水および海洋環境中の放射性核種分析に関する2つの報告書を公表しており、IAEAの研究所などによる「分析機関間比較」(ILC)を通じ、それぞれ、東京電力、日本の分析機関の分析能力の公正さが確認されている。
31 Jan 2024
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通常国会(1月26日~6月23日)の開会に際し、岸田文雄首相は1月30日、衆参両院で施政方針演説を行った。演説の冒頭、岸田首相は、元旦に発生した能登半島地震による犠牲者への哀悼の意を表するとともに、不便な生活を強いられている被災者に対し見舞いの言葉を述べた上で、特に、半島特有の道路事情による交通網の寸断や津波被害に伴う海上輸送への影響も懸念し、救命活動やインフラ復旧に当たっている関係者に対し謝意を表した。エネルギー・環境保全の関連では、「脱炭素と経済成長の両立を図るGXを進めていく」と強調。GX経済移行債20兆円を活用し、産業・暮らし・エネルギーの各分野での投資を加速する意向を表明した。原子力発電については、「脱炭素と安定供給に向けた有効な手段の一つとして、安全最優先で引き続き活用を進めていく」と明言している。科学技術政策に関しては、「産業構造転換のカギであり、未来を切り開く礎」との認識のもと、「長期的ビジョンをもった国家戦略を策定する」と強調。20日に達成された宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM」の月面着陸を踏まえ、日本の宇宙開発技術の躍進に期待を寄せたほか、バイオ、量子、核融合エネルギーなどの技術開発についても、「中長期的姿勢をもって取り組み、投資促進・規制改革を進めていく」と述べた。また、「福島の復興は政権の最重要課題」との姿勢をあらためて示し、中国などによる日本産水産物の輸入停止に関しては、「即時撤廃を求めるとともに、影響を受ける水産物の国内需要拡大、新たな輸出先の開拓、国内での加工体制の強化を着実に進めていく」と述べた。核軍縮に関しては、北朝鮮による核開発の動きに懸念を示した上で、昨年のG7広島サミットにおける成果も踏まえ、「広島アクションプランのもと、核兵器のない世界に向け、現実的で実践的な取組を強化していく」と強調した。
30 Jan 2024
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京都大学他による研究グループは1月26日、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)で、数理的技術を応用した「データ同化」と呼ばれる新たな予測制御システムを開発し、核融合エネルギーで課題となるプラズマ挙動制御への適用を実証したと発表した。〈発表資料は こちら〉ヘリカル型装置は、トカマク型と並ぶ核融合の閉じ込め方式の一つ。ドーナツ状の磁気のかごをつくりプラズマを閉じ込める原理は同じだが、ねじれた「ヘリカルコイル」を用いるのが特徴だ。これまで、名古屋大学を母体とする核融合科学研究所で、国内重点化装置としてLHDの研究開発が進められてきた。核融合発電の実現には、長時間にわたり1億度を超える超高温プラズマを制御する必要があり、複雑な挙動を予測・制御することが挑戦的課題となっている。研究成果の発表に際し、核融合科学研究所では、「複雑な流動現象に加え、加熱、不純物、中性子など、多くの要素が絡み合う」と、その困難さをあらためて強調。予測の精度を高めるべく、観測される情報を用いて、数値シミュレーションと現実との差異を低減させる数理的手法「データ同化」の開発に取り組んできた。今回、核融合プラズマに向けたシステムとなる「ASTI」(Assimilation System for Toroidal plasma Integrated simulation)とともに、計算機上に再現した仮想プラズマを通して、現実のプラズマを制御する「デジタルツイン制御」を開発。LHDにおいて、その制御能力を実証した。同システムは、統計数理研究所の協力も得て開発されたもので、道路交通量や河川水位など、様々な社会基盤の制御にも応用が期待できるという。同研究所が取り組む研究分野は極めて広く、科学技術関連の他、古文書分析を通じた史実解明にも及んでいる。
29 Jan 2024
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東京電力は1月25日、福島第一原子力発電所廃炉作業の進捗状況を発表し、廃炉の「本丸」といえる燃料デブリ取り出しに係る工程を変更した。〈東京電力発表資料は こちら〉2号機を筆頭に、2023年度後半に開始するとしていた採取開始を「遅くとも2024年10月頃」に見直した。同日、福島第一原子力発電所を拠点に行われた記者会見で、廃炉最高責任者の小野明プレジデントは、「遅れ」による国費投入上の責任を問われる場面もあったが、「世界でも前例のない難易度の高い作業であり、今後の廃炉作業においても非常に重要な作業となる」と強調。非常に狭隘かつ高線量の環境下で実施する作業であることから、「安全・確実に進めていく必要があり、今回の工程変更は必要」との認識を示した。現在、燃料デブリの性状把握のため、格納容器内部調査・試験的取り出しの準備として、貫通孔の一つ「X-6ペネ」付近の堆積物除去作業が行われている。今後は、燃料デブリの試験的取り出しに用いる装置として、堆積物が完全に除去されていなくても投入可能で実績のあるテレスコ方式(簡易型望遠鏡を引き延ばすイメージ)を活用する方針だ。工法の変更に伴い、原子力規制委員会の審査が必要となる。これまで、2号機の燃料デブリ取り出しに向けては、国際廃炉研究開発機構(IRID)と英国VNS社が共同開発したアーム型装置を導入することとして、2021年夏の装置の日本到着後、日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターにおいて、モックアップによる習熟訓練が行われてきた。アーム型装置による内部調査・デブリ採取は、精度を高めるための試験・開発を進めた上で、今後の調査や採取で使用する。
26 Jan 2024
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電力広域的運営推進機関(OCCTO)は1月24日、脱炭素電源への新規投資を促進する新たな入札制度「長期脱炭素電源オークション」の初回応札を開始した。「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、資源エネルギー庁による検討を経て、今年度、創設されたもので、水力、火力、原子力、地熱、バイオマスの各電源について、新設・リプレースを対象に、巨額の初期投資額を含む固定費相当の容量収入を、原則20年間にわたり担保することで、「長期的な収入の予見可能性を付与する」のが主なねらい。今回、総計400万kWの募集が行われる。現状、約1.2億kWの化石電源をすべて脱炭素電源に置き換える場合、年平均600万kW程度の導入が必要だが、今後のイノベーション導入なども見通し、まずは小規模でのスタートとなった。2023年4月に行われた原子力関係閣僚会議で、「GX実現に向けた基本方針」(同年2月閣議決定)を踏まえた「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が取りまとめられ、その中で、原子力をめぐる事業環境整備の一例として、「長期脱炭素電源オークション」の枠組み活用も提示された。その後、総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会での検討、GX脱炭素電源法の成立を経て、7月に行われた同調査会原子力小委員会では、「同制度において、既設原子力プラントの安全対策投資の扱いについて整理されていない」との問題意識から、さらに検討を深めていく方向性が示されている。原子力発電の安全対策工事に関し、「これまで行われてきた投資も対象となるのか」といった意見もあり、今後、同制度における取扱いが注目される。1月22日に行われた電力・ガス基本政策小委員会では、直近の電力需給や、電力システム改革の検証に向け供給力確保の課題が示されたほか、「長期脱炭素電源オークション」の対象に原子力を含むことに関して、政策的な裏付けの必要性などが指摘された。同オークションは、1月30日まで応募を受付け。落札電源の応札価格が約定価格となる「マルチプライス方式」を採用。3か月後を目途に結果を公表する。OCCTOでは、「長期脱炭素電源オークション」について、制度の概要やポイントを説明したスペシャルサイトを開設し情報発信に努めている。
24 Jan 2024
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三菱重工業は1月22日、フランス電力(EDF)から受注した取替用蒸気発生器(SG)3基の製造を完了したと発表した。19日には、神戸造船所にてEDF関係者同席のもと、完成式典を挙行している。EDFからは計9基の取替用SGを受注しており、今後、残る6基についても、順次製造を進めていく。〈発表資料は こちら〉今回、製造した取替用SGは、出力90万kWのPWR用で、国際入札の結果、三菱重工とフランス Onet Technologies 社が共同受注。納入が予定されるSGは、低合金鋼製の耐圧容器内部に耐熱性の高い材料「TT690合金」製の伝熱管約4,500本を挿入しており、高さ約21m、総重量約330トンに達する。SGは、PWRのシステム上、「原子炉で発生させた熱を一次冷却系から二次冷却系に伝え、水蒸気をタービンで駆動させる」重要機器の一つで、高い安全性・信頼性をクリアすべく、その製造には、0.01mmオーダーの極めて高度な加工精度が要求されるという。フランス国内で56基のPWRを運転するEDFでは、1980年代に稼働開始したプラントについて、40年超運転を見据え、順次、SG取替を進めている。三菱重工では、世界各国の原子力活用ニーズに応えるべく、「高い信頼性が求められる製品を、国内ならびにフランスを始めとする海外の原子力市場に納入することで、原子力発電の安全・安定運転に貢献していく」としている。三菱重工では、フランス、ベルギー、米国など、累計で31基の取替用SGを納入した実績があり、その中でも、EDFに対しては、広範囲にわたり原子力機器の輸出に取り組んできた。同社は2005年に、EDFからPWRの取替用SG6基を受注。これは、日本メーカーとしては初めてとなるフランスからの原子力発電設備の主要機器受注で、当時、EDFは、計5プラント・15基のSGを国際入札し、三菱重工が6基、フランス・フラマトム社が9基受注した。三菱重工は、特殊熱処理により耐腐食性を高めた「インコネル合金」(ニッケル・クロム・鉄の合金)製の伝熱管を1基当たり約4,000本以上取り付ける高い設計要求を達成している。これを契機に、同社はフランスでの営業活動を強化してきた。
23 Jan 2024
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住友電気工業は、グループ各社の取組を紹介する未来構築マガジン「id」の最新号で、ITER(国際熱核融合実験炉)計画の推進に向けたタングステン材料の技術開発について取り上げている。今回、同マガジンで取り上げたのは、トカマク型核融合炉を構成する重要機器の一つとなるダイバータの部材「タングステンモノブロック」に関するもの。ダイバータは、トカマク型核融合炉の真空容器内で最も高い熱負荷を受ける排気装置。その耐久性向上に挑戦した同社グループのアライドマテリアルによる「割れないタングステン」の開発経緯を、技術者の声とともに紹介している。加盟各極が物納により貢献するITER計画で、日本は、ダイバータ(1体が長さ3.4m、幅1.5m、高さ2m、重量8トン)のうち、「外側ターゲット」と呼ばれる部位を調達する。同マガジンの中で、ITER計画の日本国内機関となる量子科学技術開発研究機構(QST)那珂研究所ITERプロジェクト部の鈴木哲次長は、「プラズマからの熱負荷や粒子負荷など、厳しい環境で使用される。表面は2,300℃に達するといわれており、材料には『高熱負荷で割れない』耐久性が要求される」と、ダイバータに求められる高い設計水準を強調。材料の選定に際しては、QSTが熱負荷試験を行った結果、「国内外メーカーが提供する材料の中で、唯一割れなかったのがアライドマテリアルのタングステンだった」と、同社の高い技術力を賞賛する。ITERのダイバータに用いられる「外側ターゲット」は、30×30×10mm程度の「モノブロック」と呼ばれるタングステン材で構成。「モノブロック」は、総計約20万個にも及び、1個でも熱負荷で溶融すれば大きなトラブルにつながることから、厳しい技術水準が要求される。アライドマテリアルは、2000年に東京タングステンと大阪ダイヤモンド工業が合併して誕生。以来、高融点金属材料とダイヤモンド精密工具の製造を両輪に、住友電工グループの産業素材部門の一翼として事業を推進してきた。アライドマテリアルのタングステン製造技術は特に強みで、ITER用タングステンの研究開発には、1999年から20年以上にわたり取り組んでいる。ITERに採用された耐熱衝撃タングステン「割れないタングステン」は、同社が強みとする粉末冶金技術を応用して開発された。開発に当たったITER技術グループマネージャーを務める飯倉武志氏は、同マガジンの中で、「ITER設計要求の3倍以上のサイクル数(2,300℃の電子ビームを10秒照射・10秒冷却を1,000回繰り返す)の試験」をクリアした経緯を強調。その上で、「巨大な国際プロジェクトであるITER計画を担う技術者の一人として、喜びと誇りがある。今後生まれてくる様々な課題に対しても意欲的に取り組んでいきたい」と話している。
22 Jan 2024
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経済産業省の「使用済燃料対策推進協議会」が1月19日、2年8か月ぶりに開かれた。同協議会は、原子燃料サイクル事業の推進について、事業者と話し合う場として、2015年以来、行われている。今回は、齋藤健経産相他、資源エネルギー庁幹部、電力11社および日本原燃の各社社長が出席した。〈資料は こちら〉冒頭、齋藤経産相は、先般の能登半島地震に関し発言。被災地の発送電設備の復旧に向け、北陸電力を始めとする電力各社の尽力に謝意を表した上で、原子力発電所の安全確保について「高い緊張感をもち、安全最優先で対応に当たるとともに、地元や社会の皆様に不安を与えぬよう、速やかに信頼が得られるよう、丁寧に情報を発信して欲しい」と、要請した。これに対し、電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)はまず、電事連ホームページ上に特設サイト「能登半島地震による各原子力発電所への影響について」を開設し、一般からの疑問・不安に対応していることを説明。続けて、原子燃料サイクルの早期確立に向けた事業者の取組として、第一に、六ヶ所再処理工場およびMOX燃料加工工場の早期しゅん工の重要性をあらためて強調し、「日本原燃の活動を全面的に支援していく」とした。使用済燃料対策については、関西電力の森望社長が、昨秋に策定した「使用済燃料対策ロードマップ」に基づく具体的取組状況を説明。同社は、高浜3・4号機でMOX燃料を装荷しているが、使用済MOX燃料の再処理実証研究のため、2027~29年度にかけて、約200トンの使用済MOX燃料をフランス・オラノ社に搬出するとともに、その積み増しも検討していく計画だ。「使用済燃料対策ロードマップ」の根幹となる同社の「使用済燃料対策推進計画」で、福井県外における使用済燃料貯蔵施設の計画地点確定時期として記されていた「2023年末まで」の文言は、今回、削除の上、同計画を改訂。同施設の操業開始時期については、引き続き「2030年頃」を目指している。六ヶ所再処理工場のしゅん工・操業に向けた取組については、日本原燃の増田尚宏社長が説明。昨年12月に最終となる設計・工事計画認可の原子力規制委員会への申請を行い、現在、2024年度上期のできるだけ早期のしゅん工に向けて、「大詰めの段階にきている」とした。今後、本格化する使用前検査について、設備数が原子力発電所の6~7基分にも上ることから、体制・マネジメントの強化を図るなど、「一層の審査の効率化に努めていく」と強調。六ヶ所再処理工場は、2008年のアクティブ試験(原子力発電所でいう試運転)中断後、東日本大震災を挟み、15年が経過。同社では、既にアクティブ試験の経験がない社員が半数を超えている現状だ。しゅん工後の安全・安定運転に備え、フランスの再処理施設「ラ・アーグ工場」への派遣などを通じ、実機運転に係る技術維持に努めているとした。事業者からの説明を受け、齋藤経産相は、「エネルギー政策に責任を持つ政府として、事業者とともに前面に立って、関係者の理解に取り組んでいく」と強調。さらに、使用済燃料対策として、貯蔵容量の拡大については、「核燃料サイクルの柔軟性を高める上で極めて重要」と述べ、事業者全体による一層の連携強化を求めた。今回、電事連がとりまとめたところによると、国内の原子力発電所における使用済燃料貯蔵量は、管理容量22,960トンに対し、約5年後には19,680トン(前回協議会開催時の見通しより250トン増)に達する見通しだ。
19 Jan 2024
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