
原子力規制委員会(規制委)は27日、特定原子力施設の実施計画の審査等に係る技術会合を開き、福島第一原子力発電所における作業点検実施の状況等について東京電力から報告を受けた。昨年10月に増設 ALPS 配管洗浄作業における身体汚染が発生して以降、今年4月までに作業員が負傷するなどのトラブルが相次いで発生したことから、同社では再発防止策の検討に加え発電所が一体となって作業の安全性を高める必要があるとし、5月初めから全ての作業員が参加する作業点検を実施している。報告によると、同社は各作業において把握しているリスク要因ごとのリスク分析が不足していたとの認識に立ち、現場状況を確認したうえで作業に応じたリスク要因を再評価。関係する作業員が双方向で議論できる環境を作って改善内容を導出し、認識を共有する方法をとって点検を進めている。5月23日時点で約730件の点検を実施した。これまでに重大な見直しにつながる事案はみられていないものの、今回の点検によって最新の現場状況を踏まえた更なる作業安全性向上のための現場改善等が抽出されたことから、作業手順の改善や放射線防護装備の運用指示の明確化などの改善を行っている。報告を受け、規制委の伴信彦委員は「共通要因が得られればそこにきちんと対応すべき」などとし、背景要因なども把握し必要な対策をしっかり講じる必要があるとの認識を示した。そのほか、原子力規制庁からは作業員の声をどのように改善につなげていくかが重要などとする意見が示され、次の会合で作業点検および分析の結果について東京電力からの報告を受け、背景要因についても議論することとした。このほか、この日の会合では福島第一発電所の廃炉作業にともなう各種の廃棄物処理等の計画についても東京電力から報告を受け、技術的な確認が行われた。このうち、ALPS(多核種除去設備)から発生するスラリー(泥状の廃棄物)を安全に保管するための安定化処理設備については、主に閉じ込め性能に関して報告を受け、基本的な考え方を確認。今後、設備運用やメンテナンス時における閉じ込め性能に関して詳細な点を確認することとした。他の技術的な論点として非常用電源に対する考え方や脱水物の保管の安全性などについても順次、検討を進めていく方針だ。保管容量の面でスラリー安定化処理設備の設置、運用は着実に進める必要があり、東京電力は今年度内に認可を受けて2025年度に設備の詳細設計を行い、工事に着手。2026年度にも運用を開始する計画を示している。原子力規制庁は同社に、全体のまとめ資料の提出をはじめ、審査に必要な情報を早めに提出するよう求めた。
29 May 2024
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学生時代、化学の中和滴定実験で器具の微妙な取扱いに戸惑った経験を持つ人も多いのではないだろうか。試薬を一滴ずつ滴下させるピペットのコック操作を誤り、ビーカーに溶かした指示薬の変色反応分岐点を大きく超え、正しい分析ができなくなるのは、実にもどかしいものだ。また、粗雑な扱いでガラス器具先端を欠損すると、高価な実験機材の損失ともなってしまう。そんな手間や歯がゆさの解決にもつながりそうな実験・分析器具を、日本原子力研究開発機構が理化学機器の製造・販売を行う藤原製作所と共同開発し、5月27日より販売を開始した。ロボットでも操作可能な電動ピペットシステム「ぴぺすま」だ。理工学系の教育現場の他、分子生物学、製薬・医学、分析化学、環境保全など、幅広い学術・産業分野で、「微量の液体を必要なだけ分注(吸引・排出)する」ツールとして、「マイクロピペット」が利用されており、原子力機構らは、「複雑な分注操作を安価に自動化できるスマートな製品」と、「ぴぺすま」の可能性を強調。微妙な成分配合の調整が求められる食品・化粧品の分野での活用も期待できそうだ。〈原子力機構発表資料は こちら〉従来型の「マイクロピペット」は、電動タイプであっても、人による手操作が前提で、特に先端箇所の排出は人がボタンを押す手動式となっていることから、ロボットに操作を行わせることが困難だった。そのため、コンピューターで分注する容量を指定するなど、新たな機構を有した「ぴぺすま」を開発。これにより、人が操作しにくいグローブボックス・セル内での分注操作にも適用できるという。原子力機構で開発に当たった物質科学研究センター研究主幹の大澤崇人氏は、「ぴぺすま」の特徴として、「一般的な多関節ロボットでもピペット操作が可能」な他、遠隔操作の特性から、毒物・劇物や放射性物質を含んだ液体などについても安全に実験・分析が実施できること、安価な研究室レベルでの導入などをあげており、今後、幅広い分野での活用が期待される。藤原製作所は1916年創業の理化学機器製造・販売の老舗。原子力機構では、研究者のニーズに応じた商品・サービス提供で経験を有する同社と技術協力し、昨秋、自動減圧ろ過装置「ろかすま」を販売するなど、民間企業と連携した研究用実験装置の開発にも力を入れている。
28 May 2024
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電気事業連合会は5月27日、エネルギー基本計画の見直しに向けて、電気事業者として考える「重要な論点と期待事項」をまとめた解説資料を作成し発表した。現行のエネルギー基本計画は2021年に策定され、法令に定める3年後の見直し時期を間もなく迎えることから、5月15日に総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で改定に向けて検討が始まっている。電事連の林欣吾会長(中部電力社長)は、17日の定例記者会見で、「エネルギー基本計画は、わが国のエネルギー政策の羅針盤となるものであり、国の経済と国民の暮らしを支える政策として、責任ある議論を丁寧に進めていく必要がある」との基本認識を示した上で、「重要な論点と期待事項」として、将来の不確実性を見据えたシナリオ設定安定供給とエネルギー安全保障の重要性の明確化再生可能エネルギーの推進原子力発電の活用の明確化火力発電の維持・確保、脱炭素化の推進電化の推進GX実現に向けた環境整備――を掲げた。27日に発表された解説資料は、その各項目に係る「背景と課題」、「今後求められる事項」を整理したもので、「将来の不確実性を見据えたシナリオ設定」に関しては、各電源の開発において各種調査・環境アセス、建設工事のリードタイムを考慮した上で、現実的な設備形成・電源構成につながるよう、将来の不確実性に備えた柔軟なシナリオ設定を求めている。原子力に関しては、「国民理解が途上にあり、エネルギー政策における位置づけが不十分」、「再稼働が十分に進んでいない」、「投資・コスト回収の予見性が不十分」との課題を指摘。「今後求められる事項」として、エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として「最大限の活用」(再稼働や新増設・リプレース)の明確化投資・コスト回収促進につながる事業環境の整備やファイナンス支援等の制度措置の構築原子燃料サイクルを始めとするバックエンド事業における一定の国の関与適切な賠償を前提とした原子力損害賠償制度の見直し――をあげている。
27 May 2024
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東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は23日、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)と共催で、「電力消費地から原子力について考える」と題したシンポジウムを大阪で開催した。電力消費地を含む社会全体が原子力利用に対する理解を向上させることが目的。国内のみならず欧米から原子力立地地域のオピニオンリーダーらを招き、カーボンニュートラル(CN)実現とエネルギー安全保障に果たす原子力の役割を、あらためて浮き彫りにした。基調講演に立った資源エネルギー庁の原子力立地政策室長の前田博貴氏は、再生可能エネルギーの拡大や、原子力発電の再稼働の遅れなどにより、電力需給がひっ迫している現状を指摘。今後、データセンターや半導体工場の新増設などによる産業部門の電力需要がますます拡大するとの見通しを示し、原子力の重要性を再確認した。そして日本国内の世論傾向として、日本原子力文化財団が実施している世論調査を引用。「原子力発電利用の増加や維持を求める意見が増加傾向にある」と強調した。同世論調査に関しては、地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員の秋元圭吾氏も言及。同世論調査結果を「個人的な実感ともかなり近い」とした上で、「近年、特に地方での講演会の場で、お年寄りから『再エネけしからん』との非難を受けるようになった」と指摘した。同氏はこの原因について、「地方における再生可能エネルギーの大規模導入に伴う歪みが表れているのではないか」と分析。「従来原子力に反対していた地方の高齢者層が、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーの無秩序な導入によって、各自が抱いている故郷の原風景を破壊されたことで、かなり怒っている」との見方を示した。日本の原子力立地地域からは、福井県原子力平和利用協議会敦賀支部長の武内貴年氏が登壇。メディアによる風評被害の実例を紹介し、「原発」「核のゴミ」などネガティブなワードを使用しないよう呼び掛けた。また、福井県が取り組むクリアランス制度の産業化にも言及。2025年に開催される大阪万博の会場にクリアランス製品を設置し、来場者の理解を促進できないかとのアイデアを提案した。シンポジウムではその他、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題が進展するフィンランドや、新規原子力発電プロジェクトが進展する英国のヒンクリーポイントやウィルヴァ、ディアブロキャニオン原子力発電所の閉鎖が撤回された米カリフォルニア州から、ステークホルダーを迎えてパネル討論が行われ、地域と原子力との共生について議論された。
27 May 2024
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日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月24日、記者会見を行い、「第7次エネルギー基本計画の策定に向けて」と題した理事長メッセージを発表した。エネルギー基本計画の見直しに向けては、5月15日に総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で検討が始まった。現行の同計画は、2021年に策定され、法令に定める3年後の見直し時期を間もなく迎える。関係筋によると、次期計画は年内にも原案がまとまり、年明け2月頃に閣議決定となる見通しだ。新井理事長はまず、「エネルギー政策は、わが国の経済と国民の暮らしの根幹であり、政府には丁寧な検討を期待する」との基本姿勢を強調。現行のエネルギー基本計画が策定された2021年以降を振り返り、「世界の地政学的情勢は大きく変化し、エネルギーの脱炭素化はもとより、エネルギー安全保障における原子力発電への期待は高まった」との認識を示した。また、海外に目を向け、英国での2050年までに最大2,400万kWの新規原子力発電所を稼働させる計画や、昨年末のCOP28(UAE・ドバイ)での日本を含む25か国による「世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させる」宣言文への支持にも言及。国内においては、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)による原子力を最大限活用する方針の一方で、電力自由化の進展に伴う様々な課題が指摘されていることをあげた。原子力については、現行計画に記載の「依存度を可能な限り低減する」との表現を見直し、新増設・リプレースの必要性を明記するなど、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略、2023年7月閣議決定)を踏まえ、「原子力の最大限活用の方針」が反映されるよう求めた上で、既設炉の最大限活用原子力サプライチェーンの維持・強化適切な時期に投資判断を可能とするための事業環境整備国民理解(原子力の価値の共有)――について、前向きに検討されることを要望した。その中で、国内でデータセンターや半導体工場の新増設により、増加が見込まれる電力需要を考慮するとともに、安定的に発電できる動力源、つまりベースロード電源としての原子力への期待を踏まえ、原子力の必要容量と時間軸を明記するよう要請。経済成長や産業競争力強化にも貢献する「原子力の価値」を広く国民と共有することについても、丁寧な議論がなされるよう期待した。今後、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会などを通じて、意見を表明していく考えだ。
24 May 2024
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「全国原子力発電所所在市町村協議会」(全原協、会長=米澤光治・敦賀市長)の年次総会が5月22日、都内のホールで開催された。全国の原子力発電所などを立地する会員25市町村の首長らが一堂に会し、国に対して原子力・エネルギー政策に係る提言を行うもの。2024年度の活動として、「被災地の復興」、「安全規制・防災対策」、「原子力政策」、「立地地域対策」の分野で、計64の重点項目を掲げ、国・関係機関に要請していくことが了承された。総会には、政府より、上月良祐・経済産業副大臣、本田顕子・文部科学大臣政務官、国定勇人・内閣府大臣政務官(原子力防災)他、原子力規制庁、国土交通省も含め、関係省庁の幹部らが出席。立地地域からの要望に対し回答に応じた。先週に始まった次期エネルギー基本計画の検討に関する質疑応答も多く、今後の議論に資するものとなりそうだ。今回の総会では、元旦に発生した能登半島地震に鑑み、「原子力災害時に実効性のある対策が実行できるよう、原子力防災対策の検証と強化を図ること」が全原協の要請事項としてあげられた。立地地域からも関連の質疑が多く出され、大地震に見舞われた志賀町の稲岡健太郎町長は、大雪時の複合災害に伴う道路寸断などの影響も懸念した上で、「全国の原子力立地自治体共通の課題だ」と強調し、国による所要の財源確保を要望。石巻市の渡邉伸彦副市長は、最近、宮城県による実証試験が行われた「避難支援アプリ」など、原子力防災に資するデジタル技術の有用性について発言した。先の玄海町による高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた文献調査応募に係る動きから、バックエンド関連の質疑も多く、来賓として訪れた地元の国会議員からは「全国レベルでの議論」を強く求める声や、各地の首長からは消費地域の政治家の出席を求める意見もあった。使用済燃料の中間貯蔵施設を立地するむつ市の山本知也市長は、2024年度上期に予定される同施設の稼働に関し、次期エネルギー基本計画への「使用済燃料の搬出先の明確化と長期的な再処理工場の考え方」明記とともに、法令で求められる災害発生時の応急対策拠点「オフサイトセンター」の早急な整備を要望。この他、再稼働の関連では、柏崎刈羽原子力発電所を立地する柏崎市の櫻井雅浩市長が、新潟県の技術委員会による議論などに鑑み、地元との安全協定の法的位置づけに関し国の考え方を質した。また、地域振興に関しては、東通村の畑中稔朗村長が、昨春に資源エネルギー庁が立ち上げた「原子力政策地域会議」の早期再開を求め、美浜町の戸嶋秀樹町長は、国の取組姿勢に理解を示しながらも「マイナスイメージが拡がる」ことに懸念を示した。
23 May 2024
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原子力委員会は、次期原子力白書の取りまとめに向けて、有識者らからのヒアリングを2月より開始しており、福島第一原子力発電所事故、放射線利用の他、原子力に関する世論・コミュニケーションについても取り上げ意見交換を行っている。同委は、4月23日の定例会合で、毎年、日本原子力文化財団が実施している「原子力に関する世論調査」の最新調査結果について説明を受けたのを踏まえ、続く5月14日には、リスクコミュニケーションや科学リテラシーに関し研究実績を有する木村浩氏(木村学習コンサルタンツ代表)からヒアリングを行った。原子力文化財団による調査は、2006年度から継続する全国規模の定点調査で、最近では、2023年10月に全国1,200人(15~79歳男女)を対象に実施されている。〈木村浩氏発表資料は こちら〉木村氏は、調査結果の経年推移に着目。同調査での設問「原子力やエネルギー、放射線の分野において、あなたが関心のあることはどれか」(複数回答可)に対する回答が、東日本大震災(2011年3月)、川内原子力発電所の再稼働(2015年8月)、ウクライナ紛争勃発(2022年2月)を機に変動していることを指摘。その中で特に、関心ある項目として「電気料金」をあげた割合は、ウクライナ紛争勃発の前後で、30.0%から48.3%に急増。最近の調査結果でも45.0%と高く、首位「地球温暖化」の52.8%に次いでいる。こうした調査結果を踏まえ、木村氏は「では、無関心とは何か」と問題提起。同氏はまず、大脳生理学の視点から、人間の身体と意識の関係を概括した上で、「感情の仕組み」を座標軸で例示。各々正方向に、縦軸を「行動を起こすかどうか」を基準とした「鎮静→覚醒」、横軸を「行動の方向性を示す」ものとなる「不快→快」とし、人間の様々な感情を象限上にプロットした。「覚醒」は、「美味しそうなものを見たとき、食べようとする」、「危険な状況になったとき、そこから避けようとする」など、動物の持つ本能的な感覚だという。その上で、「無関心」については、明らかに「鎮静」の状況にあり、「安心」という感覚にも近い、とした。一方で、「そもそも感情を呼び起さないため、能動的な行動が喚起されない」ことを社会的観点から問題視。具体的には、「社会が安定していることの裏返しかもしれないが、関心がないと知識・情報を得ようとしない。一度何か起きると、感情が呼び起こされて直感的に行動し、右往左往してしまう」と危惧。これらを踏まえ、木村氏は、コミュニケーションを考える上でのポイントとして、自分を理解する相手を理解し尊重するお互いの主眼を洗い出す相互の信頼関係を醸成する相乗効果のある解決策を検討する――ことを提示した。原子力文化財団による調査で、「今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思うか」との設問に対し「わからない」と回答した割合は、2023年度は29.5%と、過去10年間で最高を記録。また、同じく女性で「わからない」と回答した割合は37.0%と、男性の21.8%を大きく上回っていた。これに関して、委員から質問があったのに対し、木村氏は、「原子力に対する関心が下がってきている」、「男性は論理的に考えるのに対し、女性は直感的にその場の状況をとらえる」などと推測し、今後のコミュニケーションにおける課題を示唆した。
22 May 2024
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1メートルの10億分の1というナノの世界を観察することができる世界最高水準の先端大型研究施設NanoTerasu(ナノテラス)が4月に始動し、5月18日に運用開始記念式典が宮城県仙台市のNanoTerasu実験ホールで開かれた。盛山正仁文科相や村井嘉浩宮城県知事、郡和子仙台市長らが出席した。基礎科学をはじめとして、エネルギー、材料、デバイス、バイオ、食品など様々な産業領域において幅広く利用され、科学とイノベーションの両面を支えることが期待されており、盛山文科相は21日の定例会見で「学術界から産業界に至るまで幅広く利用され、イノベーションの創出に貢献することを期待する」と述べた。宮城県仙台市の東北大学青葉山新キャンパスに整備され、量子科学技術研究開発機構(QST)が地域パートナーの代表機関である一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)、利用促進にあたる高輝度高科学研究センター(JASRI)と共同で運営する。大きく分けて、線型加速器、蓄積リング、挿入光源、ビームラインの4つの装置により構成され、高精度の測定を可能とする放射光を発生する。最先端の科学や産業利用で世界をリードするためには3GeV程度の軟X線領域での放射光施設が必要として建設、運用に至ったもので、軽元素を感度良く測定でき、従来の物質構造に加え、機能に影響を与える「電子状態」、「ダイナミクス」等の詳細な解析が可能という特徴がある。また物質表面の分析では、たんぱく質や触媒材料の表面で起こる化学反応の変化等の解析による創薬や新たな高活性触媒等の開発が、磁性・スピンの解析では、磁石やスピントロニクス素子等の研究開発が期待できる。今後、産業利用の面で新たな高性能・安価な触媒の開発、また創薬設計の合理化、さらに消費電力が課題になっているデータ記録媒体の省エネ化などに新境地を拓くためナノテラスが重要な役割を果たすものと期待されている。科学技術・学術審議会の量子ビーム利用推進小委員会は17日、ナノテラス施設の計画的な増設について報告書を公表。フェーズⅠを整備期とし、フェーズⅡ、Ⅲと計画的にビームラインを増設・高度化し、今後の高度なニーズに応えていくことが望ましいとした。その際に各ビームラインの特徴や強みを分かりやすくユーザーに対して示す必要があるとし、自動化・遠隔化などの研究環境の整備、必要な人材の確保と育成も計画的に進めることが望ましいと提言している。なお、大型放射光施設としては兵庫県の播磨科学公園都市に8GevのSPring-8があり、1997年10月から運用が開始されている。ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究に活用されており、理化学研究所のまとめでは総利用者約30万人、最高品質の低燃費タイヤや次世代の蓄電池開発などで多くの成果がみられている。一方で、すでに共用開始から25年余を経ており、施設の高度化も課題になっている。
22 May 2024
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三菱重工業は5月20日、国際熱核融合実験炉(ITER)に用いられるダイバータ(核融合反応で発生するヘリウムや不純物粒子を排出する装置)の重要な構成要素「外側垂直ターゲット」12基の製作を、ITER国内機関の量子科学技術研究開発機構(QST)より受注したと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉国際協力で推進するITER計画は、物納貢献が主となっており、日本には、トロイダル磁場コイル(TFコイル)、中心ソレノイド、高周波加熱装置(ジャイロトロン)などの部材製作が分担されている。今回、三菱重工が発表した「外側垂直ターゲット」の製作受注は、2021年受注の初回製作分6基に続くもの。順次、製作し2026年よりQSTに納品する予定。プラズマからの熱負荷や粒子負荷などに晒される「外側垂直ターゲット」の構造体は非常に複雑な形状を有しており、高精度の製作・加工技術が要求される。ダイバータの部材調達は、日本の他、欧州、ロシアも分担しており、その中で「外側垂直ターゲット」は、ボディ本体の裏側で見えにくいが、従来の産業機器以上に厳しい熱負荷耐性が求められる部材の一つだ。同社は、これまでも、ITER計画において、誤差1万分の1以下の極めて高い精度を要するTFコイルを製作。全19基中、日本が分担する9基のうち、2020年1月の初号機完成を始め、2023年には計5基の製作・出荷を完了するなど、高い技術力を有している。三菱重工では、今後、ITER計画で用いる他の主要機器製作にも継続して取り組むとともに、将来的に建設が計画される発電実証を行う原型炉についても、設計・開発を積極的に支援し、核融合エネルギーの実現に貢献していく、としている。
20 May 2024
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大学発のベンチャー企業数が2023年度、計4,288社に達し過去最高を記録した。これは、経済産業省が5月15日に発表した年次調査報告(速報)によるもので、前年度からの増加数も506社と、調査データのある1989年度以来、最高の伸び幅だった。大学別には、東京大学が引き続き最も多く420社(対前年度比50社増)。2位には慶應義塾大学が291社(同55社増)で浮上し前年度の京都大学を凌ぐなど、今回の調査では、特に私立大学の躍進がみられている。大学発ベンチャーにも種々あるが、大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する「研究成果ベンチャー」がその筆頭にあげられ、目に見える社会実装の成果、ビジネスチャンスの創出、若手研究・技術者の活躍などから、極めて関心が高い。エネルギー関連では近年、核融合分野が注目されている。京都大学発の「京都フュージョニアリング」、大阪大学発の「EX-Fusion」(レーザー核融合)に続き、最近では、2024年1月、日本大学が、筑波大学によるプラズマ閉じ込め方式「タンデムミラー」などを活用し、両学共同で核融合の早期実用化を目指す「LINEAイノベーション」を設立した。エネルギー安定供給やゼロエミッション電源への関心が高まる中、こうした動きはさらに活発化しそうだ。高市早苗・内閣府科学技術担当相は、17日の閣議後記者会見で、大学発ベンチャー企業の台頭に関し、「大学における革新的成果を経済・社会のイノベーションに結び付ける担い手として大変重要」との見方をあらためて強調。他省庁とも連携したスタートアップ企業の国内拠点整備や海外展開などに向けた各種支援メニューを例示した上で、「これらの取組の成果が順調に表れてきた。今後も着実に実施していきたい」などと述べた。なお、核融合エネルギーの実現に向けては、内閣府の主導により、2023年4月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が策定されたのを受け、2024年3月には産業協議会「J-Fusion」が立ち上がった。5月10日には、年度内の取りまとめを目指し、「安全確保の基本的な考え方」を検討するタスクフォースが始動している。
17 May 2024
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動保険相談役)が5月15日、新たな委員構成のもと、5か月ぶりに開かれ、エネルギー基本計画の見直しに向け議論を開始した。2021年10月に閣議決定された現行の「第6次エネルギー基本計画」は、今秋にも法令に定める再検討の時期を迎える。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った齋藤健経済産業相は、ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化など、地政学リスクの高まりから、「世界はエネルギーの量・価格の両面でリスクに直面している」と、エネルギー安全保障に係る危機感をあらためて指摘。さらに、国内のエネルギー事情に関して、「化石燃料の輸入金額は2022年に34兆円にまで上昇しており、輸出で稼いだ国富をすべて失っている」と危惧。また、昨今、AIの社会実装やデータセンターが拡大する中、それに応じた電力の安定した供給が欠かせないとした上で、「脱炭素エネルギーへの転換は極めて困難な課題」、「今、日本はエネルギーにおける戦後最大の難局にある」と、強調した。先立つ13日には政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、2040年頃の日本の産業構造も含めた国家戦略「GX2040ビジョン」を策定する方針が示され、今後、有識者によるパネル討論など、集中的な議論が見込まれている。齋藤経産相は、GX実行推進担当相の立場からも、同ビジョンの検討に資するべく、「将来のエネルギー政策のあるべき姿を議論して欲しい」と、活発な議論を期待。エネルギー基本計画は、地球温暖化対策計画など、関連する政策と合わせて年度内にも改定され、「GX2040ビジョン」に盛り込まれる見通しだ。同分科会の議論再開に際しては、資源エネルギー庁が、昨今のエネルギー安全保障を巡る内外の環境変化、脱炭素に向けた世界の動向、日本の現状と課題についてあらためて整理。委員からの意見を求めた。その中で、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)を引き継ぎ、同調査会の原子力小委員会委員長を務めることとなった黒﨑健委員(京都大学複合原子力科学研究所教授)は、大量で良質な脱炭素電源を提供できる特性、世界の趨勢などから「原子力を使わない手はない」と、原子力の価値を強調。国内においては、再稼働の速やかな推進、設備利用率の向上とともに、2050年以降に向け新増設の必要性を示唆した上で、今後の課題として、長期にわたる事業環境の整備、国民の信頼醸成、技術基盤・人材確保を図っていくことを指摘した。産業界からは、澤田純委員(NTT会長)、橋本英二委員(日本製鉄会長兼CEO)が、それぞれ核融合研究、電力多消費型産業に係る立場から「原子力開発の方向性を明確に」、「脱炭素は地球規模のニーズで、日本経済復活の大きなチャンスだ」として、多様な技術開発や電力の総合的機能発揮の重要性を強調。今回から新たに参加する小堀秀毅委員(旭化成会長)は、現行のエネルギー基本計画の進捗状況を問うた上で、地方創生や災害対策の観点から「エネルギーの多様性・分散化」を主張。いずれも政策立案における予見可能性を重視すべきことが示唆された。この他、消費者団体からは、生活への影響や原子力のバックエンド対策に対する不安、若者からの声を求める必要性などに鑑み、かつて東日本大震災後のエネルギー政策見直し時に実施された「討論型世論調査」の再度実施を求める意見も出された。資源エネルギー庁では、今後の検討に資するべく「エネルギー政策に関する意見箱」を設置し、一般からの意見公募を開始している。
16 May 2024
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原子力規制委員会は、5月15日の定例会合で、関西電力より申請されていた高浜発電所3・4号機の蒸気発生器取替を認可する「審査書案」を了承した。今後、原子力委員会および経済産業相への意見照会を経て、正式決定となる運び。関西電力は、高浜発電所3・4号機の経年劣化事象に鑑み、長期的な信頼性を確保する観点から、予防保全策として蒸気発生器一式を取り替えることとし、立地自治体からの了承を得て、2023年4月に規制委員会に認可を申請。それぞれ、2026年6~10月、同年10~27年2月に実施予定の定期検査で取替工事を行う計画だ。いずれも、現行の「51F」型から最新設計の「54FⅡ」型に取り替えるもので、伝熱管材料を耐応力腐食割れ(SCC)性能に優れた合金(インコネル690)に変更することや、振止め金具の組数変更(2本から3本へ)による耐流動振動性の向上が主な改良点。実際、高浜4号機では、2023年12月開始の定期検査において、全3台の蒸気発生器のうち、2台で計4本の伝熱管に損傷が確認されている。原子力規制庁の説明によると、蒸気発生器の取替は、原子力発電所の高経年化対策が課題となり始めた1990年頃からこれまでに、国内計13基で実績がある。2013年の新規制基準施行後では、今回の高浜3・4号機が初の認可事例(原子炉設置変更許可)となる見込み。なお、高浜3・4号機は、それぞれ2025年1月、6月に法令に定める40年の運転期間を満了することから、現在、20年間の運転期間延長に係る審査が行われている。
15 May 2024
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政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」が5月13日、5か月ぶりに開かれ、今後、経済社会の大変革と脱炭素の取組を一体的に検討し、2040年を見据えた国家戦略「GX2040ビジョン」を策定する方針が示された。同会議の議長を務める岸田文雄首相は、議論の再開を「GX2.0の検討を始める」ものと位置付けた上、「2050年カーボンニュートラルに至る最大の難所を、一歩一歩登っていく。そのために、官民で共有する脱炭素への現実的なルートを示す」と強調。その根幹となるエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画を、年度内にも改定する考えをあらためて示した。〈配布資料は こちら〉「GX実行会議」は、「2050年カーボンニュートラル」の目標達成、エネルギー、全産業、経済社会の大変革を実行していくことを標榜し、2022年7月に始動。同年8月には、ウクライナ情勢に起因する石油・ガス市場のかく乱、福島第一原子力発電所事故後のエネルギー政策の遅滞など、エネルギーを巡る内外事情に鑑み「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を掲げており、その中で、原子力発電所の再稼働加速も緊急対策として盛り込んでいる。5月13日の会合で、齋藤健経済産業相(GX実行推進担当)は、エネルギーの安定供給確保、経済成長、脱炭素の同時実現を目指し取り組んできたこれまでのGXに係る議論を整理。10年間で150兆円規模の官民GX投資、昨夏には、原子力発電所の運転期間延長を盛り込んだGX脱炭素電源法が成立するなど、所要の予算措置や法整備も進んだ。これを踏まえ、齋藤経産相は、「産業構造、産業立地、エネルギーを総合的に検討し、より長期的視点に立った『GX2040ビジョン』を示す」とした。具体的には、6月以降、「GX2040リーダーズパネル」(仮称)を始動し、有識者からの見解を聴取する。また、これと並行して行うエネルギー基本計画の見直しに向けては、14日の閣議後記者会見で、15日より総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で議論を開始することを表明。「『S+3E』のバランスを取りながら、わが国の目指す将来のエネルギーの方向性について、重厚な議論をしていきたい」と、強調した。
14 May 2024
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「2050年カーボンニュートラル」の実現を見据え、電源のゼロエミ化(脱炭素化)を加速していくカギとして、「長期脱炭素電源オークション」の活用が注目されている。脱炭素電源への新規投資を促進するため、新たに設けられた入札制度だ。落札電源には、固定費水準の容量収入を原則20年間得られるようにすることで、巨額の初期投資の回収に対し、長期的な収入の予見可能性を担保するもの。資源エネルギー庁の指揮のもと、電力市場管理者である電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、初回応札を1月に行い、4月26日に約定結果を発表した。総合資源エネルギー調査会の制度検討作業部会(座長=大橋弘・東京大学大学院経済学研究科教授)は5月10日の会合で、続く第2回の入札に向けて、検討項目を、募集量・上限、エリア偏在、上限価格、事業報酬・他市場収益の還付、制度適用期間、落札後の固定費変動に整理。初回応札で、原子力に関しては、建設工事途中も含めた新設・リプレースが制度対象となったが、今後、既設プラントの安全対策投資についても対象とすることが論点となっている。既設プラントは、これまで、12基・1,160万kWが再稼働済みだが、東日本大震災以降、未だ20基・2,000万kW以上のプラントが停止した状態だ。また、全国の落札容量は、関西エリアだけでほぼ4分の1を占めており、制度適用のエリア偏在も今後の懸案事項とみられる。〈配布資料は こちら〉同会合で、委員からは、電源固有の事情を踏まえ事業者からヒアリングを実施する必要性の他、近く始動するエネルギー基本計画見直しを見据え、エネルギーミックスとの関係、国民負担とのバランスにも言及があり、「投資が促進される制度設計を総合的に検討していく」ことの重要性が示された。「長期脱炭素電源オークション」の初回応札容量は合計1.356.2万kWで、そのうち落札容量(個々のプラントの発電出力とは異なる)は976.6万kWだった。電源種別には、蓄電池が多くを占める中、原子力として、建設中の中国電力島根原子力発電所3号機(ABWR、電気出力137.3万kW)が落札。その落札容量は131万5,707万kWで、全案件中、最大となった。この他、運転開始後40年以上を経過した東北電力東新潟火力発電所1・2号機(LNG、各60万kW)を、最新鋭高効率コンバインドサイクル発電設備にリプレースする同6号機(LNG専焼、65万kW級)の落札も注目される。同所は、全国屈指の規模を持つ火力発電設備で、東日本大震災発生時には、東北地方太平洋岸の発電設備が軒並み停止する中、復旧を支える要の一つとなった。*理事長メッセージは こちら です。
13 May 2024
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佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は5月10日、高レベル放射性廃棄物等の最終処分地選定に向けた文献調査の実施を受け入れると表明した。同町がこれに応募した場合、高知県東洋町(2007年に応募後、取り下げ)、北海道寿都町(2020年10月に応募、調査実施中)、同神恵内村(同時期に国から申入れ・受諾、調査実施中)に続くものとなる。林芳正官房長官は、10日午後の記者会見で、今回の玄海町による判断に対し敬意・謝意を表した上、「最終処分という国家的課題に対し、社会全体で議論を深めていく上で、非常に重要な一石を投じるもの」と、その意義を強調。海外の処分地選定プロセス事例にも言及し、日本においても「文献調査実施地域の拡大が重要」と、引き続き全国規模で議論していく必要性を述べた。地層処分事業実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)の近藤駿介理事長は、「最終処分は日本社会全体で必ず解決しなければならない重要な課題」との認識をあらためて示すとともに、引き続き「全国のできるだけ多くの地域に文献調査を受入れて欲しい」とするコメントを発表。また、電気事業連合会の林欣吾会長は、「発生者としての基本的な責任を有する立場から、国やNUMOとも連携しつつ、地域の皆様との対話活動を通じて、できるだけ多くの皆様との関心や理解が深まるよう取り組んでいきたい」とのコメントを発表した。文献調査は、高レベル放射性廃棄物等の処分地選定に向け、最終処分法で規定された最初の段階。関心を示した市町村を対象として、地域の地質に関する文献・データについて机上調査。地域には2年程度の文献調査期間中、国から最大20億円が交付される。玄海町議会での文献調査受入れに係る請願採択を受け、1日には、資源エネルギー庁の松山泰浩次長(首席最終処分政策統括調整官)が同町を訪れ、脇山町長に申入れ文書を手交。7日には齋藤健経済産業相と脇山町長との面談が行われた。*理事長メッセージは こちら です。
10 May 2024
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藤田医科大学病院(愛知県豊明市)は、より高度ながん治療の提供に向け、放射性医薬品を体内に投与して診断・治療を行う核医学の専用施設「セラノスティクスセンター」をしゅん工し、5月1日より本格稼働した。放射性同位体(RI)を製造する加速器や、RIを放射性医薬品に加工する合成装置、患者が治療を受けるための投与室も設けられ、放射性医薬品による診断・治療・研究開発を一元的に行う「国内初」の施設として期待が寄せられている。〈藤田医大発表資料は こちら〉RIによる核医学検査および治療のうち、核医学治療は、対象となる腫瘍組織に集まりやすい性質を持つ化合物にアルファ線やベータ線を放出するRIを組み合わせた医薬品を、経口や静脈注射により投与。体内で放射線を直接照射して治療するもの。日本では、治療に利用するRIの全量を輸入に依存しており、開発・生産体制の強化が急務となっている。治療に用いるRIは短寿命であるほか、臨床病室も不足していることから、トレーラーハウス(移動体)型治療施設の社会実装試験も行われている状況だ。核医学検査・治療を行う多くの医療施設では、放射性医薬品を製薬会社などから購入し患者に投与している。製薬会社としては、千葉県に製造拠点を持つ日本メジフィジックスなどが知られている。藤田医大病院では、今回の核医学専用施設の開設に際し、「放射性医薬品のもととなる核種の半減期はフッ素110分、炭素20分と、使用には時間的制約がある」と、核医学の普及に向けた課題を強調。PET(陽電子放射線断層撮影)検査に用いる放射性医薬品には、毎日数回の調達が必要なものもあったという。「セラノスティクスセンター」の稼働により、今後、輸送では対応できない短半減期の核種を製造し、放射性医薬品に合成して「その場で投与する」ことで、多くの患者への医療提供が可能となるほか、新たな核種の製造や新規治療法の研究・開発に資する、と期待を寄せている。中京地域を軸足とする藤田医大だが、同学は昨秋、羽田空港に隣接した国際交流イノベーションエリアに、次世代医療研究の拠点「東京先端医療研究センター」を開設。海外からの研究者来日や「医療ツーリズム」の拡大にも意気込みがあるようだ。
09 May 2024
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第57回原産年次大会に合わせ来日したグレース・スタンケ氏が、京都および大阪で日本の学生と交流。エネルギー問題や原子力分野の研究に取り組む日本の学生たちに、エールを送った。スタンケ氏は4月より米コンステレーション社の燃料設計エンジニアとして勤務しているが、以前はウィスコンシン大学マディソン校で原子力工学を学びながら、原子力の重要性を訴えてミス・アメリカ2023として活動。世界中の環境・原子力関連のイベントに登壇するだけでなく、ソーシャルメディアを駆使して幅広く次世代層に原子力をアピールしている。Instagramのフォロワー数が3万近いインフルエンサーでもあるスタンケさんに、Wall Street Journal紙が付けたニックネームは、“new face of nuclear energy”。現在も、勤務時間外にボランティアで次世代層との対話を実践している。京都では京都教育大学附属京都小中学校を訪問。同校は「総合的学習の時間」を利用して、生徒が自主的に地層処分問題やエネルギー問題に取り組んでおり、スタンケ氏の訪問にあたっては中学生が英語で、自分たちの活動をプレゼン。その後、意見交換を行った。スタンケ氏は「子供たちから、もっともっと学びたいという強い熱量を感じた。エネルギーの未来がどうあるべきかについて、自分の意見や考えを持つだけでなく、多様なエネルギーについて自発的に学ぶ姿はとてもエキサイティングだ」と驚いた様子だった。大阪では近畿大学原子力研究所を訪問。熱出力1Wの研究炉UTR-Kinkiを見学し、学部学生らと交流会を行った。ここでは原子力分野でのキャリア形成などが話題となり、スタンケ氏は自分が原子力分野を選んだ経緯など具体例をあげ、学生の悩みに真剣に回答。特に女子学生からの「原子力分野に就職しようとすると、親や友達から反対される」との悩みに対しスタンケ氏は、「周囲に引きずられないこと。自分の信じる道を進むべき!」と力強くアドバイスしていた。
09 May 2024
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東京電力は5月7日、福島第一原子力発電所におけるすべての作業に対し、最近、所内で様々なトラブルが続いていることを受け、「あらためて作業リスクを評価する」ため、作業点検を開始した。4月22日には、2号機燃料取り出し用構台で作業員が負傷(指を骨折)。24日には、コンクリート舗装面の剥がし作業時のケーブル損傷により、所内電源の一部系統が停止したほか、従事していた作業員が負傷(顔・腕に火傷)。これに伴い、ALPS処理水の海洋放出が約6時間半にわたり滞った。〈東京電力発表資料は こちら〉作業点検は、具体的に、最新の現場状況を把握するそれを踏まえ、リスク要因により発生するシナリオを考え、リスクが顕在化した場合も含めて悪影響を抽出する悪影響を防止するための防護措置を検討する工事に係る東京電力ならびにすべての協力企業作業員が、リスク要因を認識し、防護措置を理解し実践する――ことを観点に行う。東京電力の広報担当者は5月7日、本社で記者会見を行い、「作業点検を実施し、問題のないものから着手していく」として、廃炉作業における安全確保徹底の姿勢を強調。現在、実施中の作業でも「安全に作業が実施できるか」、「周辺環境に影響を及ぼすリスクが潜んでいないのか」が確認できるまで作業を進めない方針だ。作業点検の対象は約800件に上る見通しで、5月末を「一つの目標」に実施する。24日に発生したケーブル損傷・作業員負傷は、充電された高圧電路の近くで行う「充電部近接作業」に係るリスク認識に問題があったことから、今後は、事前の現場確認を踏まえ、作業班全員に注意喚起事項の周知徹底を図るなど、対策を講じていく。なお、福島第一原子力発電所では5月7日、2024年度第1回目のALPS処理水の海洋放出が完了した。今回の総放出水量は7,851㎥(トリチウム総量約1.5兆ベクレル)。年度内、計7回の放出で、年間放出水量は約54,600㎥(同約14兆ベクレル)との計画だ。
08 May 2024
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原子力規制委員会(規制委)は8日の会合で、今年1月1日に発生した能登半島地震の知見収集にあたっている技術情報検討会から報告を受けた。現時点で、ただちに規制基準の見直しにつながるような知見はみられていないものの、今後も関係機関や学会等による調査で得られる知見を収集し、同検討会で情報共有するとともに、規制上の取り扱いについて検討する方針が報告された。同検討会は、2月7日の規制委で今回の地震について得られた知見を調査し報告するよう指示されたことを受け、地殻変動による海岸隆起など地盤の変動や変形の状況、また津波の到達などに関して得られた知見を収集している。政府の地震調査研究推進本部が地震動や津波に関して得られた知見を分析、評価している段階にあり、今後も同本部はじめ関係機関からの情報を集め、知見の充実をはかる方針が示された。また地震の影響で北陸電力の志賀原子力発電所の変圧器が故障し、外部電源5系統のうち2系統が使用できない状態になった件については、現在、故障の原因について同社が調査しており、その結果等について情報収集を進めるとした。3月27日に開催された同検討会の議論では、規制要求において外部電源が大きな地震に耐えることを求めていないため、その意味では特段問題はないとの認識が示された一方で、継続的な安全性強化の観点から事業者の北陸電力に対応を求める等の見解が示されていた。これらの報告に関して、規制委の石渡明委員は「数年にわたり、群発地震があった。前震ともいえる地震活動が続いていて、そうした研究もなされていた。群発地震の知見も集める必要があるのではないか」と指摘、同検討会で必要な情報を収集することになった。今回の地震により、原子炉施設の安全確保に問題は生じなかったが、発電所の一部設備に故障が発生するなどしたため、北陸電力は志賀原子力発電所敷地内外の点検作業や設備故障の原因調査を実施。故障した設備の復旧作業を段階的に進めている。
08 May 2024
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電気事業連合会の広報キャラ「Conちゃん」が、およそ半年ぶりに登場だ。電事連は、「あなたとエネルギーをつなぐ場所」をコンセプトとした広報サイト「Concent」を開設し、インタビュー、コラム、マンガを通じて、生活者の視点からエネルギーについて考えさせるコンテンツを随時、掲載してきた。2018年3月より、これまでに掲載された記事数は300件を超える。「Conちゃん」が専門家とのインタビューや現場取材を紹介するシリーズ「Conちゃんが行く!」もその一つ。「Conちゃん」は5月1日の記事で、地球温暖化対策からみた日本を取り巻くエネルギー事情に関し、2回にわたり国際環境経済研究所所長の山本隆三氏にインタビューしている。「これからの時代、火力発電って必要なの?」、前編ではまず、2023年11~12月のCOP28(ドバイ)で合意された石炭、石油、LNGなどの「化石燃料からの移行を進める」という記載に関し、「Conちゃん」が質問。日本では、東日本大震災以降、全国の原子力発電所が順次停止したことなどから、火力発電が発電電力量の約7~8割を占めている。「本当に移行できるの?」と、疑問に思ったのだ。これに対し、山本氏は、COPの広義での意味、1995年以来、気候変動対策について話し合ってきた経緯などを説明。COP28の成果に関しては、「グローバルストックテイク」(GST)という進捗評価がなされたほか、今回、原子力が気候変動に対する解決策の一つして正式に明記されたことを強調する。「本当に移行できるの?」について、山本氏はまず、石炭に依存する中国・インドのエネルギー事情について述べた上で、「再生可能エネルギーを増やすにもバックアップとして火力発電が必要だ」とするとともに、原子力発電についても、運転までのリードタイムや安全対策などの課題をあげ、脱炭素電源への移行は非常に難しいことを考えさせる。後編では、脱炭素社会の実現と経済成長の両立について考える。「そもそもなんで日本は火力発電の割合がこんなに大きいの?」と、「Conちゃん」は問う。「Conちゃん」は、山本氏とのやり取りで、昨今のウクライナ情勢を受けた世界のエネルギー事情を始め、送電ロスを減らす日本の技術を通じた「火力と環境の共存」、原子力を増やす上での技術継承・人材育成、データセンター・半導体工場の増加に伴う電力需要増などについて理解を深めていく。
07 May 2024
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「もんじゅ」サイトに設置が計画される新たな試験研究炉の開発・整備に向けて、今後の設計具体化を見据えた核拡散抵抗性に係る国際協力が進んでいる。増子宏文部科学審議官とジル・ルビー米国エネルギー省(DOE)国家安全保障庁長官は4月25日、都内で会談を行い、日米が連携し、DOEによる核不拡散・核セキュリティの取組「Pro-X」(Proliferation Resistance Optimization)への協力を進めることで合意した。「Pro-X」は、試験研究炉の設計段階から核拡散抵抗性の概念を導入することを目的として、DOE国家安全保障庁が2019年から開始した取組だ。アジア地域を中心とする原子力新興国では現在、医学・農業・環境保全分野でのRI・放射線利用が進められており、将来的に原子力発電の導入も見込まれている。今回の日米合意には、「もんじゅ」サイトの新試験研究炉とともに、こうした新興国における研究炉の核拡散抵抗性を高めていくことも盛り込まれた。〈文科省発表資料は こちら〉現在、廃止措置中にある「もんじゅ」のサイトを活用した新試験研究炉は、熱出力10MW級の照射機能を有する中性子ビーム炉。2022年12月に、詳細設計段階以降の実施主体として日本原子力研究開発機構が選定され、京都大学、福井大学の協力も得ながら、設計検討が進められている。産業分野でも多くの成果をあげている中性子利用に関しては、いずれも東海村に立地する原子力機構の研究炉「JRR-3」、大強度陽子加速器施設「J-PARC」が稼働中だ。一方で、京大炉「KUR」が2026年までに運転を終了することなどから、新試験研究炉は、今後の「西日本における中核的拠点」として機能することが期待されている。原子力機構は、2023年11月に三菱重工業を新試験研究炉の設計・製作・据付を実施する主契約企業に選定し、基本契約を締結した。今年度中にも設置許可申請の見込み時期が提示される予定。文部科学省の有識者による作業部会では、新試験研究炉の研究開発・人材育成や産業利用としてのあり方について、現在、検討を行っている。4月18日に行われた同作業部会では、新試験研究炉の運転開始までを見据えた「原子力研究・人材育成の拠点形成に向けたロードマップ」(素案)が示された。「利用促進体制の確立」、「複合拠点の整備」、「人材育成機能の強化」が柱となっており、今後、「敦賀エリアでの原子力研究・人材育成拠点の形成」に向けて、ワーキンググループを設置しさらに検討を深めていく見通しだ。〈作業部会配布資料は こちら〉
02 May 2024
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資源エネルギー庁の松山泰浩次長(首席最終処分政策統括調整官)は5月1日、佐賀県玄海町を訪れ、脇山伸太郎町長に最終処分地選定に向けた文献調査に係る申入れ文書を手渡した。文献調査は、高レベル放射性廃棄物等の処分地選定に向け、最終処分法で規定された最初の段階となる。関心を示した市町村を対象として、地域の地質に関する文献・データについて机上調査。地域には2年程度の文献調査期間中、国から最大20億円が交付される。北海道の寿都町、神恵内村で実施中の文献調査は2020年11月から開始され、現在とりまとめの段階。国からの申入れは、北海道の神恵内村に続き玄海町が2例目。玄海町議会では、文献調査の応募を求める地元商工団体からの請願3件を受け、4月15日より審議を開始。17日には資源エネルギー庁と原子力発電環境整備機構(NUMO)も出席し議員からの質疑に応じた。請願につき集中審議に付された町議会の原子力対策特別委員会では25日、岩下孝嗣委員長が冒頭、取材に訪れた報道陣に対し「『核のごみ』という呼び方は止めて欲しい」と強調。議員からは、地域活性化に向け採択を求める声の他、「文献調査の成果が、同町に立地する九州電力玄海原子力発電所の耐震安全性向上にも資する」といった意見もあった。請願はいずれも26日に本会議で賛成多数で可決。今後は、町長の判断が焦点となっている。総合資源エネルギー調査会の特定放射性廃棄物小委員会(委員長=髙橋滋・法政大学法学部教授)では現在、寿都町・神恵内村における文献調査報告書の取りまとめについて議論している。4月30日の同小委員会会合では、玄海町の文献調査応募に関する意見も交わされた。〈配布資料は こちら〉同会合では、資源エネルギー庁が、昨夏より始まった国・NUMO・電力が合同で全国の自治体首長を個別訪問する「全国行脚100自治体」を紹介。3月末時点で、目標の100自治体訪問を達成。これに対し、「今回の玄海町の動きとどのようにリンクしているのか」、といった質問が出た。さらに「今後、複数地域が異なるタイミングでプロセスが進む」可能性から、次の選定段階への判断ができるよう、国・NUMOに対し絞り込み基準などの早急な具体化を求める意見も出された。また、これまでに文献調査の応募を見送った自治体の前例も踏まえ、地域対立につながることなどを危惧し、慎重な対応を求める声もあった。
01 May 2024
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政府は4月29日、春の叙勲受章者を発表した。旭日大綬章を、元・新日本製鐵(現在は日本製鉄に改組)社長で、現在、日本原子力産業協会の会長を務めている三村明夫氏らが受章する。三村氏は、多年にわたって鉄鋼業に携わり業界の発展に尽力。日本商工会議所会頭、日本経済団体連合会副会長、日本鉄鋼連盟会長など、経済・産業団体の要職も歴任してきた。新日本製鐵会長在任中の2011年10月より、総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会委員長として、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故後のエネルギー政策建て直しに向けた議論をリード。会合は、ほぼ週1回の多頻度で行われ、同氏は、総勢20名以上に及ぶ委員らによる多様な意見の集約で手腕を発揮した。2012年12月の政権交代後は、同調査会基本政策分科会の分科会長として、エネルギー基本計画の見直しに本格着手。国のエネルギー政策立案において多大に貢献した。受章に際し、三村氏は、コメントを発表し、「今回の栄誉は、私個人が頂戴したものではなく、日本経済の発展に携わる多くの皆様を代表していただいた」との姿勢を示した上で、「今後も微力ながら、産業、社会の発展に貢献できるよう精進を重ねていく」と抱負を述べている。旭日大綬章は、この他、元三菱重工業社長の佃和夫氏、元文部科学相の平野博文氏が受章。佃氏は、三菱重工社長在任中の2007年、高速増殖炉の実証炉開発に向け、同社が中核企業となり、エンジニアリング業務の主体となる三菱FBRシステムズを設立するなど、当時、政府が掲げていた「原子力立国計画」の推進で尽力。2008~10年には、原産協会副会長を務めた。平野氏は2012年、民主党政権時の野田内閣で文科相を務め、東日本大震災後の科学技術・文教行政をリード。就任当初から「経済活動や国民生活に安定的なエネルギー供給は不可欠」との認識に立ち、研究開発・人づくりの観点から原子力政策に関わった。瑞宝重光章を、元文部科学事務次官の土屋定之氏、元文部科学審議官の藤木完治氏らが受章。土屋氏は、旧科学技術庁時代の1990年代、原子力局核燃料課長などを歴任し、使用済燃料サイト外貯蔵の制度設計、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の六ヶ所村施設における一時保管開始に向けた地元対応他、バックエンド対策の推進で指揮を執った。藤木氏は、研究開発局長在任中の2010年、産学官連携のプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」の設立で音頭を取った。外国人では、元ドイツ連邦経済・エネルギー相のペーター・アルトマイヤー氏らが旭日重光章を受章する。同氏は、経済分野における日独間の関係強化に寄与。連邦環境・自然保護・原子力安全相在任中の2013年、使用済燃料および高レベル放射性廃棄物のゴアレーベン中間貯蔵施設への搬入を、地元の反対などを踏まえ停止し、新たなサイト選定手続きに関する法案を示した。
30 Apr 2024
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日本保全学会はこのほど、原子力発電の健全性維持に係る技術や活動などを対象に2020年度より認定してきた「保全遺産」を紹介するパンフレットを作成し公表した。〈これまで認定された「保全遺産」一覧は こちら〉「保全遺産」の認定は、表には見えにくいところで原子力開発に貢献してきた技術や活動、いわば「縁の下の力持ち」を表彰し啓発するものとして、同学会が2020年度に開始。これまでに12件が認定されており、原子力発電に係る保全を支えてきた機材や工法の研究・開発にとどまらず、後世に教訓を伝えるための施設・活動も含まれている。例えば、初回に認定された「原子力発電所のピーニングによる応力腐食割れ(SCC)抑制技術」は、日立GEニュークリア・エナジー、東芝エネルギーシステムズ、三菱重工業のそれぞれが開発した原子炉容器内部構造物の保全に関する装置に対し与えられた。保全学会が今回、作成したパンフレットによると、日本で商業用原子力発電の運転が30年を超えつつあった1990年代、炉内構造物などのSCCが数多く報告されていたという。溶接時に生じる引張残留応力発生要因の一つとなっていたことから、その改善手段として、ウォータジェットまたはレーザを用いた「ピーニング技術」を各社が開発し、実機にも適用されてきたことを評価。いずれも水中遠隔操作による施工で、作業者の被ばく低減にも資するものだ。その中で、東芝エネルギーシステムズによる「レーザピーニング」は、光ファイバーの利用で水深数十mにおける遠隔操作を可能とした。狭あい箇所や複雑な形状など、多様な環境に対応できることから、原子力分野以外への適用も見込まれている。原子力発電所の長期運転に向けた技術も「保全遺産」に認定された。2022年度には、「BWRの炉心シュラウド等の交換工事」(東京電力、中国電力、日本原子力発電、東芝エネルギーシステムズ、日立GEニュークリア・エナジー)が選ばれている。BWR固有の炉心シュラウド交換工事は、高経年化が課題となった1990年代に行われてきた。同技術が適用されたプラントは、既に廃炉が決定しているものもあるが、その要素技術は、現在、進められている福島第一原子力発電所の廃炉にも応用されている。計装制御関連では、同じく2022年度に認定された「中央制御盤等の総合デジタル化更新工事」(四国電力、三菱重工業)があり、四国電力伊方発電所1・2号機(既に廃炉が決定)の中央制御盤を含む総合デジタル式への一括更新を、「世界初」の歴史的意義として評価。18,000本にも及ぶケーブル工事、シミュレータによる運転訓練などで得られた知見は、後続のPWRにおける工事にも活かされている。原子力開発においては、これまでに多くの事故・トラブルが発生しており、その教訓が保全活動の改善に活かされてきた。2023年度には「失敗に学ぶ回廊」(中部電力)が「保全遺産」の一つに認定。2001年11月に発生した浜岡原子力発電所1号機(既に廃炉が決定)の配管破断事故を受けて設置されたもので、パネル・模型展示の他、事故当時に関わったOBからのメッセージを振り返るコーナー、膝を突き合わせ話し合う「車座の間」などが設けられており、社員研修とともに、学生・海外視察団による意見交換の場としても活用されている。パンフレットでは、「技術と地元との共存共栄を示す歴史的博物館」、「失敗を財産として扱い、恥と感じるのではなく、前向きにとらえることが技術者育成において重要」と、その意義を強調。同施設は、「Learning from SHIPPAI」として、海外にも発信されており、世界原子力発電事業者協会(WANO)も良好事例として評価している。
26 Apr 2024
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