筑波大の陽子線治療施設、累計の治療患者数は7,000人を超える(医用財団ホームページより引用)筑波大学は9月25日、画像情報から放射線治療中の臓器の三次元的な動きを予測する支援技術を開発したと発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉放射線がん治療は、早期の社会復帰が可能な非侵襲的医療として期待が高まっている一方、周辺の正常な臓器にも影響が及ぶ可能性があり、近年のMRI撮影による二次元画像を取得しながらの治療でも、動きのある病変組織への適切な照射が治療成績の向上に向け課題となっている。同学では、「呼吸のように規則正しい動きは、機械学習などを用いて予測できるが、周辺臓器との接触などによる不規則な動きは予測が困難」なことから、放射線治療中、リアルタイムで3方向から患部付近の断面を撮影し、周辺臓器との位置関係から各臓器の三次元的な動きを予測する技術を開発した。具体的には、治療前、患者本人の対象臓器および周辺臓器を含む三次元モデルを構築し、コンピューターを用いた「接触シミュレーション」と呼ばれる手法で三次元的な動きを予測。これを、二次元画像の撮影ができる放射線治療装置と併用することで、患部の位置をより正確に把握し正常な臓器への影響を防ぐというもの。今回、同技術の検証のため、症状が出にくく進行が速いことから「がんの王様」とも呼ばれるすい臓がんに着目。20症例の公開MRIデータについて、すい臓の位置を計算した結果、誤差は、1方向のみの二次元画像では5.11mmだったのに対し、3方向を用いた場合は2.13mmと、精度の向上が確認された。筑波大では、陽子線治療で多くの実績を積んでいるが、今回の新技術に関し、「体内での臓器は常に動いており、そのような動きを正確にとらえることは、放射線治療を始めとする、より正確で安全な治療技術の確立につながる」と、実用化に向け期待を寄せている。
27 Sep 2023
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宮城県は9月27日より、女川町全域を対象に、原子力災害時の住民避難を支援するスマートフォンアプリの運用を開始する。〈宮城県発表資料は こちら〉ポケットサイン社が手がけるマイナンバーカードを活用した防災デジタル身分証アプリ「ポケットサイン防災」によるもので、災害発生時には、マイナンバーカードの情報をもとに、住民の年齢・性別・住所などに応じた避難指示を、スマートフォンを通じ瞬時に通知。住民は迅速かつ正確に避難指示を受取り避難に移れる。発災時、住民は避難所の二次元コードをスマートフォンで読み取りチェックイン。自治体はいつ、誰が、どこにチェックインしたかをリアルタイムに把握。さらに、アンケート機能を活用し避難所のニーズを即座にキャッチ。チェックイン時に発信された避難者の数や特性のデータと組み合わせることで、避難所の状況を一目で確認できる。宮城県は8月に同社と原子力防災システムの契約を締結。同契約のもと、東北電力女川原子力発電所での重大事故を想定した「ポケットサイン防災」の実証試験が住民も協力し行われた。その結果、避難車両に付着した放射性物質の検査場において、避難車両10台の通過にかかる時間が、アプリ方式では約9分と、従来手法の約15分より約4割短縮。実証試験に参加した村井嘉浩知事は、「アプリは圧倒的に便利で早く、誰が通過したかが瞬時にわかる」と評価している。原子力防災向けの機能として安定ヨウ素剤の服用に関する説明も送信。宮城県では、買物に利用できるポイント付与により口コミを通じた普及を図る考えだ。運用地域については、発電所から概ね30km圏の地域に順次拡大される予定。国内では依然と大規模災害が後を絶たないが、2021年に東日本大震災発生10年を機に日本学術会議が開催した学協会連携シンポジウムでは、避難所の光景が1959年の伊勢湾台風の頃からほとんど変わっていないことが指摘されている。複合災害、感染症対策、プライバシー保護など、災害対応における新たな課題が顕在化する昨今、こうした通信ネットワーク技術により避難所運営に変革がもたらされることが期待できそうだ。
26 Sep 2023
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日立製作所は9月20、21日、顧客・ビジネスパートナーとの「協創に向けたきっかけ作りの場」とする日立グループのイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」を、東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催。4年ぶりの対面開催となった今回は、有識者を交えた討論、最新の技術開発の成果を紹介する展示など、60以上のセッション・ブースが設けられ、人気のコーナーには入場待ちの行列ができるほどの盛況ぶりだった。21日に行われたセッション「脱炭素社会における原子力の役割」(モデレーター=間庭正弘氏〈電気新聞新聞部長〉)では、日立製作所原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳氏他、東京大学公共政策院特任教授の有馬純氏、脳科学者の中野信子氏が登壇。カーボンニュートラル実現に向けた原子力の果たす役割、人材確保・科学リテラシーに係る課題を巡り意見交換がなされた。稲田氏は、エネルギーに由来するCO2排出量の各国比較データを示し、日本のエネルギー需給における脱炭素化の課題として、「化石由来の電源を減らすことが大変重要」と強調。さらに、東京大学との共同研究による試算から、今後のデジタル社会の発展に伴い「日本の電力需要は現在の1.5倍程度となる」可能性を示した。一方で、「天候の影響を大きく受ける再生可能エネルギーは、電力系統の安定性からも課題がある」と指摘。その上で、原子力発電のメリットについて、「運転時にCO2を排出しないという基本的価値に加え、天候の影響を受けず、昼夜を問わず大規模な電力を安定的に供給できる。ベースロード電源として最適」と述べた。日立の取り組む新型炉開発について、稲田氏は、米国GE日立と共同開発する電気出力30万kW級小型炉「BWRX-300」と、135~150万kWの大型炉「Hi-ABWR」(Highly innovative ABWR)を紹介。それぞれの技術的・経済的特長・開発スケジュールについて説明した。科学技術行政に係る取材経験の豊富な間庭氏は、“Innovation”を切り口に原子力に対する人々の理解に関し問題提起。これに対し、脳科学・心理学で多くの著書を有する中野氏は、社会学的観点から、人々の「不安」に関しては、それを背景とする数多くの映画・小説が発表され「エンターテイメントにもなっている」とする一方、「安全」に関しては、「日常不可欠のことでまったくエンターテイメントになっていない」と述べ、「実際、エンターテイメントは人々の『不安』をもとに創られている」と指摘。さらに、「正しく怖がる」科学リテラシーの重要性について、昨今の新型コロナに係る情報流布にも言及し、「残念ながら十分とは言えない。現代社会を生きていくには不可欠のもの」と強調し、理科教育、教員の育成、いわゆる「大人の学び直し」の必要性などを訴えた。展示会場ではデモも、写真は人間が行うような複雑作業を高放射線環境下で実現する「筋肉ロボット」また、間庭氏は、原子力産業のサプライチェーン維持・強化の観点から、人材育成の問題を提起。これに対し、高等教育の立場から有馬氏は、「日本の学生は講義を聴くだけで、人前で発言しない傾向にある。一方で、海外の学生は子供の頃から『議論しながら確かめていく』マインドが養われている」と、コミュニケーション能力の課題をまず指摘。さらに、稲田氏は、バーチャル空間やシミュレーションなど、デジタル技術を活用した技術伝承の取組を紹介したほか、海外プロジェクトへの参画を通じ若手に対する原子力技術への関心喚起を図っていく考えを示した。
22 Sep 2023
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関西電力の高浜発電所2号機(PWR、82.6万kW)が9月20日、およそ12年ぶりに発電を再開した。同社の美浜3号機、高浜1号機に続く、国内3基目の40年超運転となる。〈関西電力発表資料は こちら〉高浜2号機は、同1号機より丁度1年後となる1975年11月14日に、国内10基目の商業用原子炉としてデビュー。運転開始からの期間は現在、国内で2番目に長い。高浜1・2号機では、ほぼ並行して新規制基準適合性に係る審査が進行。両機とも、2016年に原子炉設置変更許可に、2021年には再稼働に向けた地元同意に至った。1号機は先行して2023年8月2日に発電を再開し、28日には営業運転復帰。2号機も、テロ対策の「特定重大事故等対処施設」が8月31日に運用を開始したことから、9月15日に原子炉を起動した。高浜2号機は今後、調整運転、原子力規制委員会による最終検査を経て、10月16日にも営業運転に復帰する。同機の発電再開により、関西電力では、所有する原子力発電プラント計7基・657.8万kW(美浜3号機、高浜1~4号機、大飯3・4号機)がすべて再稼働(発電再開)した。*理事長メッセージは、こちら をご覧ください。
21 Sep 2023
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資源エネルギー庁の村瀬佳史長官がこのほど、記者団のインタビューに応じ、今後の資源・エネルギー行政の推進に向け抱負を語った。この7月、折しもエネ庁設立から半世紀となる節目の年に就任した村瀬長官は、1973年の第一次石油危機を振り返りながら、「同じように、エネルギー安全保障という意味で、大きな危機・転換点を迎えている時期に着任した。正に歴史を感じており、非常に重いミッションを負っている」と強調。その上で、エネルギー政策における最大の課題として、「日本が再び50年来の大きな危機に瀕している中で、エネルギーの安定供給をいかに確保していくのか」と指摘。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻に関連し、「従来の常識では考えられないような国際経済上のリスクが明らかとなっており、エネルギーを巡る国際的な構造は大転換を迎えている」と、あらためて危機感をあらわにした。さらに、同氏は、「カーボンニュートラルへの挑戦」を標榜。「各省庁が推進する取組を総動員し、産業・国民生活のあり方自体を変革しなければならない」とした上で、第一次石油危機時の省エネ対策を例に、「まったく新しい大きな挑戦を求められている。今後、大胆な政策を進めていく」と、意気込みを示した。丁度50年前、1973年秋に公表されたエネルギー白書では、石油の量的確保の不安定性と環境面の制約から、省エネ対策について述べており、「入手ないし使用可能なエネルギーをできる限り有効活用することによって、国民経済活動におけるエネルギー消費量の相対的引き下げを図ること」と、位置付けている。また、村瀬長官は、電力システム改革に関し、「競争するというのは事業者の体力を奪うことではなく、競争を通じて切磋琢磨されていく中で、世界と戦えるエネルギー産業が生まれるようにすること」と強調。官民連携による取組を通じ、「日本発の技術、強い企業」が台頭することに期待を寄せた。原子力政策に関しては、「安全確保を大前提とした原子力の活用」の必要性をあらためて強調。既設炉の最大限活用を始め、核燃料サイクルの推進、放射性廃棄物対策など、原子力特有の問題にも取り組むとともに、小型モジュール炉(SMR)の開発など、革新技術にもチャレンジしていくとした。次年度にも本格化する次期エネルギー基本計画の検討に際しては、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「あらゆる手段・可能性を追求することは必須」などと、資源小国である日本におけるエネルギー需給の厳しさを再認識。水素・アンモニア、CCUS(CO2の回収・有効活用・貯留)の導入促進など、あらゆる新技術を手掛け、「柔軟性をもった検討をしていきたい」と述べた。内閣府政策統括官(経済財政運営)から資源・エネルギー行政を担う要職に移り、今後、多くの政策課題をリードする村瀬長官。座右の銘としては、夏目漱石の文学観とされる「則天去私」をあげ、「正しいことをしっかり行う」と、行政マンとして使命を果たす姿勢を強調。最近はテニスに興じ、「『国難を乗り切る』体力を養っている」と、顔をほころばせた。現在56歳。
20 Sep 2023
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原子力産業新聞が電力各社から入手した毎月のデータによると、国内原子力発電所の設備利用率は2023年8月、33.2%となり、2013年7月の新規制基準施行後、初めて30%を超えた。国内の原子力発電所は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故後、順次停止し、一部政治判断による再稼働はあったものの、2013年9月~15年8月のおよそ2年間にわたり全基停止の状態が続いた。新規制基準の施行後は、九州電力川内1・2号機が先陣を切って、それぞれ2015年8、10月に再稼働。その後、2018年にかけて、関西電力高浜3・4号機、同大飯3・4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3・4号機が新規制基準をクリアし運転を再開。以降、新たな再稼働は滞り、司法判断や新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限満了に伴う停止も加わり、設備利用率の低迷する時期がみられた。一方で、2021年6月には、3年ぶりの新規再稼働となる関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転として発電を再開。2023年8月には同高浜1号機が、これに続いて40年超運転入り。同2号機も3基目の40年超運転に向け9月15日に原子炉を起動した。各プラントの特重施設整備も進んでおり、今春以降、設備利用率が徐々に回復してきている。これまでに再稼働(発電再開)したプラントは、計11基・1,078.2万kWで、いずれもPWR。今後、BWRについても、近時では、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機の、それぞれ、来春、来夏の再開が見込まれている。*月ごとの原子力発電所運転状況は、こちら をご覧ください。
15 Sep 2023
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新学習指導要領で新設された「公共」の教科書(数研出版ホームページより引用)日本原子力学会の教育委員会は9月12日、高校教科書におけるエネルギー・環境・原子力・放射線関連の記述に関する調査報告書を発表した。同委員会では、1995年以来、初等中等教育の教科書に係る課題認識から、これまで17件の調査報告書を公表し、文部科学省を始め、各教科書出版会社などに提出しており、その具体的な要望・提言が教科書の編集に検討・反映されることにより、記述の改善が促されている。今回、調査を行ったのは、高校の主として中学年用に2023年度から使用されている地理歴史(地理総合、地理探求、日本史探求、世界史探求)、公民(公共、倫理、政治・経済)、理科(物理、化学)、工業(電力技術Ⅰ、工業環境技術)の検定済み全教科書計39点(2022年度入学生から適用されている新学習指導要領に基づく)。調査結果を踏まえ、報告書では、前回、2022年度に高校教科書(地理歴史、公民、理科、保健体育)を対象に実施した調査と同様、全般的に、可能な限り最新のデータ・図表を使用するとともに、原子力・放射線についての用語・単位は正しく使用、記載、説明するよう要望。その上で、福島第一原子力発電所事故に関する記述国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づく事故評価の考え方わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述各エネルギー源のメリットとデメリットに関する記述放射性廃棄物に関連する記述放射線および放射線利用に関する記述地球環境問題に関連した記述原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充――について提言している。福島第一原子力発電所事故に関連した事項は、「化学」と「物理」の一部を除くほとんどの教科書で記載されていた。報告書では、放射線被ばくによる健康影響に関するより正確な記述をあらためて求めるとともに、事故後10年以上を経た現在の復興状況として、地元の若者たちの将来を見据えた新しい取組や明るい一面についても可能な範囲で紹介するよう要望。INESに関しては、今回の報告書で新たに提言。原子力利用のリスクについて、チェルノブイリ((本紙では“チョルノービリ”と表記しているが、ここでは調査した教科書の記載に従った))原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故、JCO臨界事故、「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故などを、比較し取り上げている「公共」、「政治・経済」の教科書があったが、「事故の深刻度については、必ずしも社会的な取り上げ方に比例しない」と指摘。科学的な観点から、誤解を招かぬよう、INESに定義された異常事象・事故レベルを念頭に具体例を取り上げるよう要望している。わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述では、2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で取り上げられている政策やそれに関連する事項、さらに、ウクライナ情勢も踏まえ、各国の原子力利用の動きについても、最新の記載がなされるよう求めている。
14 Sep 2023
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原子力委員会は8月29日の定例会で、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)が6月に発表した理事会勧告「原子力部門におけるジェンダーバランスの改善」を踏まえ意見交換を行った。〈資料は こちら〉OECD/NEAは2019年から原子力分野のジェンダーバランス改善に向けた活動を開始。これまでに10回の会合、国別調査の実施、報告書の公表を経て、2023年6月に理事会勧告を行った。3月に公表された定量的調査では、原子力分野の全労働者に占める女性の比率は、平均で24.9%であるのに対し、日本は約15%の最低水準。その他、昇進、賃金格差などにおいて、日本は調査対象国の中で圧倒的に最下位だった。定性的調査においても、「職場は女性を十分にサポートしていない」、「原子力特有の問題が女性の貢献を制限している」ことが判明。日本のジェンダーバランスは、他国と比べて大きく遅れていることが顕在化した。この調査を踏まえ、OECD/NEAは6月、「原子力部門に女性を誘致するための行動をとること」、「労働力として女性を確保し支援すること」、「原子力部門のリーダーとして女性を育成し、その貢献を強化すること」などを勧告した。今後は、勧告の実施と監視を促進する作業部会が再組織される見込みだ。今回の原子力委員会会合では、国内関係機関における良好事例の収集・共有、具体化した取組の発信、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の女性を対象とする具体的な取組などについて考察。その中で、岡田往子委員は、OECD/NEAにおいて、ジェンダーバランスの改善は「原子力安全における人的側面」にカテゴリーされていることを述べた。その上で、多くの女性を原子力界に取り込むことによって、安全な原子力の推進を実践しようとしており、労働力不足の解決といった視点ではなく、ジェンダーバランスの改善が原子力安全に寄与するという考え方を強調。今後の取組の方向性として、日本原子力学会のダイバーシティ推進委員会によるロールモデル集作成などの動きに女性が積極的に参画大学・研究機関との意見交換などを通じ、良好事例を収集し関係機関間で共有「原子力人材育成ネットワーク」(原子力人材育成に係る産学官連携のプラットフォーム)による具体的取組について、日本原子力産業協会を中心に情報発信原子力界による既存の活動を通じ、「Win-Japan」(原子力・放射線による利用の分野で働く女性による国際NGO「Win-Global」の日本支部)を活性化――することを提言。さらに、「原子力分野と放射線の負のイメージの結び付きから、『女性には危険な仕事』ととらえられやすいことが、女性を遠ざけてしまう」として、こうした「無意識のバイアス」を改めていく工夫も必要と述べた。これを受け、佐野利男委員は、広島・長崎の原爆投下など、日本特有の要因に関してもさらに深掘りしていく必要性に言及。上坂充委員長は、8月22日~9月8日に開催された「Japan-IAEA 原子力マネジメントスクール(NEMS) 2023」での登壇を振り返り、日本人研修生は海外に比べ女性が極めて少ないことを指摘し、「あらためて問題意識を感じる」と述べた。*岡田原子力委員も含め、OECD/NEA8か国の女性がメッセージを寄せています。こちら をご覧ください。
13 Sep 2023
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東京電力は9月13日、東京都千代田区の本社本館で、福島県産品・宮城県産品を中心に取り扱う社員向け販売会「復興大バザール」を開催した。会場には僅か3時間のうちに750名の社員が詰めかけ、完売。レジ待ちの行列で一時、入場が制限されるなど大盛況だった。同社は2013年3月より、社員食堂や社内販売会などで福島県産品・宮城県産品を取り扱い、被災地の復興を強く後押ししてきた。87回目となる今回の販売会では特に、通常品目である農産品、農水産加工品、菓子、酒類に加え、宮城県産・北海道産の「国産ホタテ加工品」も登場。特設コーナーでは、同社の小早川智明社長自らが売り場に立ち、会場にいる社員に国産ホタテ加工品を試食販売するなど、ALPS処理水放出にともなう中国の禁輸措置などを踏まえ、同社としても、影響を受ける水産品の販売支援を拡大していく強い意欲を示した。会場の社員たちは「微力ながら福島の商品を買うことで応援したい」、「品揃えがデパートの物産展並みに豊富で、毎回楽しみ」と述べながら買い物を楽しんでいた。小早川社長は「福島第一での事故当初から、会社を挙げて、食べて応援する取り組みを進めている。社員全員が福島や三陸常磐ものの美味しさを実感し、日頃から、食べて応援している」と強調。そのうえで、「風評に打ち勝つため、社内販売会や食堂、イベントでの即売会など、東京電力グループを挙げて取り組んでいきたい」と、力強く語った。
13 Sep 2023
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旭硝子財団は9月6日、世界の政府・自治体、NGO・NPO、大学・研究機関、マスメディアなどの環境問題に関わる有識者らを対象に行った「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の結果を発表した。〈旭硝子財団発表資料は こちら〉1992年以来、毎年実施されている同調査は、今回で32回目。2023年4~6月、アジア地域を中心とする国内外約30,000人に調査票を送付し、約1,800件の回答を得たもの(回収率6.1%)。その結果、2023年の「環境危機時計」の時刻は「9時31分」で、2011年以来、針が進む(危機感が進行)傾向にあったが、2021年から3年連続で針が戻り(危機感が解消)、2022年の調査との比較では4分針が戻った。調査対象者は、気候変動、人口、食糧など、地球環境の変化の指標となる9つの項目に基づき、人類存続の危機に関する認識の度合いを、0~12時までの時刻に置き換え回答。「殆ど不安はない」(0~3時)、「少し不安」(3~6時)、「かなり不安」(6~9時)、「極めて不安」(9~12時)というイメージだ。調査結果は、「環境危機時計」と称され、地球環境問題の関心喚起・解決策に資するものとなる。地域別にみると、2022年に比べ、南米、西欧、中東では10分以上針が戻ったが、メキシコ・中米・カリブ諸国、東欧・旧ソ連では20分以上針が進んだ。ウクライナ情勢が影響しているものとみられる。日本は、世界全体と同じ「9時31分」で、前回に比べ2分針が戻った。年齢層別には、60代以上が「9時46分」、40~50代が「9時36分」、20~30代が「9時19分」で、年齢が高いほど針が進んでいる傾向がみられた。また、環境問題への取組に対する改善の兆しを探るべく、パリ協定、SDGsが採択された2015年より以前と比較し「脱炭素社会への転換は進んでいると思うか」を尋ねたところ、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない、との結果が示された。さらに、SDGsへの関心については、「日々の生活で関心を持っている目標」として、「目標13 気候変動に具体的な対策を」、「目標3 すべての人に健康と福祉を」、「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「目標15 陸の豊かさを守ろう」が多くあげられ、「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、アジア、東欧・旧ソ連で多く選ばれていた。「世界の問題として関心が高い目標」としては、「目標13 気候変動に具体的な対策を」が、すべての国・地域で群を抜いて最も多く選ばれていた。同財団では、合わせて、国内外の一般生活者を対象とした環境危機意識調査の結果も発表している。
11 Sep 2023
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中部電力は9月7日、小型モジュール炉(SMR)開発企業の米国ニュースケール社へ出資を行うことを決定し、国際協力銀行(JBIC)が保有する一部株式の持分譲渡に関する契約を締結したと発表した。ニュースケール社に対する日本の企業・金融機関による出資は、2021年の日揮・IHI、2022年のJBICに続くもの。〈中部電力発表資料は こちら〉ニュースケール社は、2007年にSMR開発を目的として設立された米オレゴン州立大学発のスタートアップ企業。同社が開発するSMRは、電気出力5~7.7万kWのモジュール炉を最大12基設置する統合型PWRで、蒸気発生器と圧力容器の一体化による小型かつシンプルな設計で安全性・信頼性を向上。再生可能エネルギー電源と組み合わせ調整する負荷追従運転や自然災害時における緊急電力供給としての利用が可能なほか、工場での組立て・輸送が簡単なモジュール工法により、工期短縮、初期投資の抑制も図られる。同社では、米エネルギー省(DOE)の支援で開発を進め、2029年に初号機をアイダホ国立研究所内で運転開始することを目指しており、2020年には電気出力5万kW版のSMRについて、米原子力規制委員会(NRC)による設計認証(DC)審査がSMRとしては初めて完了している。米国政府は2013年以降、ニュースケール社に対し530億円を投じ開発を支援(2022年2月時点)。2020年には、先行き10年間で運営主体に対し、およそ14億ドルの追加支援を行うことを発表している。中部電力では、ニュースケール社による事業拡大の将来性を「SMR開発のトップランナー」と期待し、今回の出資を通じ「次世代技術の社会実装を推進することで、当社の企業価値の向上を目指していく」としている。
08 Sep 2023
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日本原子力研究開発機構(JAEA)と英国原子力研究所(NNL)は9月6日、英国高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計に係る実施覚書を締結した。同覚書のもと、日英両国における高温ガス炉の導入を目指した研究開発、原子力サプライチェーン構築、人材育成に関して協力が進められることとなる。調印式は、西村康稔経済産業相の英国訪問を機に、同国クレア・クティーニョ・エネルギー安全保障・ネットゼロ(DESNZ)相の立ち合いのもとで行われた。〈JAEA発表資料は こちら〉英国政府は、カーボンニュートラルの達成に向け、電力分野では軽水炉、非電力分野では革新炉として高温ガス炉を選択し、昨秋より高温ガス炉実証炉プログラムを開始。同プログラムは、フェーズA(事前概念検討、2023年2月終了)、フェーズB(基本設計、2025年終了予定)、フェーズC(許認可・建設、2030年代初期運転開始予定)と、進められる運びで、DESNZは7月に、フェーズBの事業者として、JAEAとNNLによるチームを採択。合わせて、DESNZは高温ガス炉実証炉用の燃料開発プログラムの開始を公表しており、JAEAはNNLと連携し、英国における燃料製造技術開発を進めていく。JAEAは高温工学試験研究炉「HTTR」(熱出力30MW、2021年7月に再稼働)の開発実績を有している。「HTTR」の核となる技術は世界有数の国産技術で、例えば、原子力用構造材として世界最高温度950℃で使用できる金属材料は国内メーカーによるものだ。今後、JAEAは、NNLと連携し、日本の高温ガス炉技術の国外実証、英国での社会実装を進め、国内の実証炉計画にも活かしていく。
07 Sep 2023
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量子科学技術研究開発機構(QST)は8月30日、重粒子線がん治療装置の小型化に向け、新型イオン入射装置の原型機を世界で初めて開発し統合試験を開始したと発表した。〈QST発表資料は こちら〉QST 関西光量子科学研究所が、住友重機械工業、日立造船と共同で、それぞれが強みとする技術を組み合わせ開発に至ったもの。QSTでは、2016年の発足以来、初代理事長・平野俊夫氏の標榜する「がん死ゼロ健康長寿社会の実現」のもと、重粒子線がん治療装置の普及に向け、そのパイオニアである「HIMAC」と比べ、約40分の1(面積比)に小型化し既存の建屋内に設置可能とする次世代装置「量子メス」の開発に取り組んできた。今回の開発成果は、一般的な重粒子線がん治療装置を構成する2つの加速器のうち、炭素イオンを発生させ光速の約9%にまで予備的に加速するイオン入射装置の新技術で、従来の加速器の数百万倍の強さを発揮する「レーザーイオン加速」の応用がポイント。これにより、加速距離が従来の15mから数ミクロン程度にまで短縮され、装置全体の大幅な小型化につながることとなる。QSTでは1994年に重粒子線がん治療装置「HIMAC」による治療を開始。現在、国内7か所(千葉、兵庫、群馬、佐賀、神奈川、大阪、山形)で、重粒子線がん治療装置が稼働中だが、全施設を合わせても1年間で治療を受けられる患者数は約4,000人と、これは日本で年間に発生するがん患者の0.4%程度にとどまっており、治療装置の小型化による全国的な普及が不可欠だ。2010年に治療を開始した群馬大学の施設は、新たな加速器技術により建設・運用費や規模を「HIMAC」の約3分の1にできたが、今後の普及・治療成績向上にはさらなる低コスト化・高性能化が必要となる。「量子メス」の実用化は2030年が目標。今回の原型機開発により、その実現に向けた設計が大きく前進することとなる。QSTでは、「低侵襲的ながん治療が広く普及すれば、現役世代に向けてはライフサイクルを乱さない日帰りがん治療が、高齢世代に向けては術後の体力回復に依存しないがん治療が、より一般的に提供可能になる」と、期待を寄せている。
06 Sep 2023
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福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を理由に、一部の国・地域が輸入規制を実施している。それに対抗するため、政府は9月5日、水産業への緊急支援に向け、2023年度予備費から207億円の充当を閣議決定した。既存の基金800億円と合わせ、総額1,007億円の予算措置が図られることとなる。ALPS処理水の海洋放出が8月24日に開始され、東京電力は同日、これに伴う外国政府からの禁輸指示に対する国内事業者への賠償について発表。政府としては、全国の水産業支援に万全を期すべく、既に800億円の基金で対応している。岸田文雄首相は8月31日、それらに加え、特定の国・地域に依存した輸出市場の分散、世界の和食ブームをとらえた生業・事業の発展を促すべく、関係閣僚に対し、水産業を守る支援策について、政策パッケージの取りまとめを指示した。これを受け、農林水産省、経済産業省、復興庁、外務省は9月4日、国内消費拡大・生産持続対策風評影響に対する内外での対応輸出先の転換対策国内加工体制の強化対策迅速かつ丁寧な賠償――を5本柱とする政策パッケージを発表。このほど閣議決定された207億円の予算措置は、この政策パッケージの一部で、輸出減が顕著な品目の一時買取り・保管や新規販路の開拓、加工・流通業者の機器導入、人材活用の支援などに充てられる。2022年の水産物輸出額は総額3,873億円。国・地域別には、中国(食用)が836億円、香港(同)が498億円で、この2か国・地域(同)で全体の3割を占めている。そのうち、中国で輸出額の大半を占めるホタテは、中国で殻むき加工後、米国や東南アジアに輸出されている量も多いことから、今回の予算措置を通じ、国内における殻むき機の導入支援や、その人員確保など、加工体制を整備し直接販売できるようにする。この他、ふるさと納税を活用した国内消費拡大運動の展開などにも充てられる見通し。松野博一官房長官は、9月5日の記者会見で、日本産食品について、「安全性は科学的に証明されている」と強調し、輸入規制を講じている国に対し早期撤廃を求めていく考えをあらためて述べた。
05 Sep 2023
2587
9月1日の「防災の日」をとらえ、復興庁は8月29日、報告書「東日本大震災 復興政策10年間の振り返り」を公表した。昨秋からの有識者による議論も踏まえ、2011年3月の東日本大震災発災から「第1期復興・創生期間」((2011年7月に政府が決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」に基づき設定された「集中復興期間」(2011~15年度)に続く「復興・創生期間」(2016~20年度)を指す。現在「第2期復興・創生期間」(2021~25年度)にある。))が終了した2021年3月末までの概ね10年間について、復興に係る国の制度・組織や取組の変遷、施策の趣旨や経緯、その評価・課題を取りまとめたもの。同書では冒頭、発災からの10年間を振り返り、被災地の復興は着実に進展し、地震・津波被災地域では、住まいの再建やインフラ整備が概ね完了したと概括。一方で、引き続き、被災者の心のケアや水産加工業の売上げ回復などの課題が残されており、中長期的な対応が必要な原子力災害被災地域では、本格的な復興・再生に取り組んでいる状況との認識を示している。特に、原子力災害からの復興については、「わが国が経験したことのない試練であり、政府としても多くの課題に直面しながら、どのように復興を進めていくのかが模索され、現在においても中長期の課題となっている」と強調。東日本大震災以降も日本は多くの災害に見舞われてきたが、南海トラフ地震など、将来、予想される大規模災害を見据え、「東日本大震災で行われた数々の政策や取組が必ず参照される」と、同書をもとに復興に備えておくよう促している。福島第一原子力発電所事故に関しては、「原子力災害固有の対応」として章立て。事故の概要、避難指示の経緯と帰還・移住の促進・生活再建、除染、放射線の不安対応、食品の安全性確保、風評払拭、産業創生などの取組について整理している。帰還困難区域では今なお避難指示が継続しており、被災地の住民意向調査から、「避難指示解除が遅れると居住率・帰還率が下がる傾向にある」などと指摘。その上で、「復興のステージが進むにつれて生じる新たな課題や多様なニーズにきめ細かく対応しつつ、本格的な復興・再生に向けた取組を行う必要がある」と述べている。具体的には、地震・津波被災地域と共通する事項の他、それぞれの地域の実情や特殊性を踏まえながら、廃炉・汚染水・処理水対策福島県内で発生した除去土壌に係る中間貯蔵施設の整備・管理運営、30年以内の県外最終処分避難指示が解除された地域における生活環境の整備特定復興再生拠点区域外の避難指示解除「福島イノベーションコースト構想」の推進「福島国際研究教育機構」の整備――などの取組を今後も進めていくとしている。
04 Sep 2023
2001
2024年度の政府概算要求が8月31日までに出揃った。文部科学省では、原子力分野の取組として、対前年度比28%増の1,883億円を計上。2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」などを踏まえ、「原子力分野における革新的な技術開発によるカーボンニュートラルへの貢献」として、同2.6倍となる276億円を要求した。高温工学試験研究炉「HTTR」を活用した高温ガス炉の安全性実証や水素製造に必要な技術開発、高速炉技術開発の基盤となる実験炉「常陽」運転再開に向けた取組を推進するとともに、革新炉開発に資するシミュレーションシステムの開発などを進める。また、核融合研究開発の推進では、同37.3%増の292億円を計上。ITER計画などの国際枠組みによる技術開発に加え、競争的資金「ムーンショット型研究開発制度」を活用し「ゲームチェンジャーとなりうる小型化・高度化等を始めとする独創的な振興技術の支援を強化する」ため、新規に20億円を要求。この他、3GeV高輝度放射光施設「Nano Terasu」の2024年度の運用開始に向け38億円、大型放射光施設「SPring-8」の高度化で3億円がそれぞれ新規に計上されている。経済産業省では、エネルギー対策特別会計で対前年度比11%増の7,820億円を計上。最重要課題とされる「福島復興のさらなる加速」では、廃炉・汚染水・処理水対策事業費176億円など、対前年度比21%増の910億円の要求額となっている。原子力規制委員会では、対前年度比25%増の730億円を計上。高経年化対策に係る審査・検査体制などの強化に向け、安全規制管理官(課長レベル)1名設置の機構要求の他、計66名の定員要求も盛り込まれている。
01 Sep 2023
2053
「Japan-IAEA 原子力エネルギーマネジメントスクール(NEMS) 2023」が8月22日~9月8日の日程で、東京大学本郷キャンパス(一部の講義とテクニカルツアーを福島・茨城県で実施)で開催されている。原子力発電の導入を検討する各国および日本の原子力政策・規制組織の若手担当者、技術者・研究者が対象。NEMSは、世界各国で原子力エネルギー計画の策定・管理をリードする人材の育成を目指し、エネルギー戦略、核不拡散、国際法、経済・環境問題など、幅広い課題について学ぶ機会を提供し、マネジメントに必要な基礎能力を養うことを目的に、2010年にイタリアで始まった。日本での開催(2012年初開催、2014年より日本主催・IAEA共催)は今回で11回目。東京大学大学院工学系研究科の他、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、原子力国際協力センターなどで運営する産学官プラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」により実施され、国内行政機関、電力・メーカーからも講師を招く。今回の研修生は、海外13か国(ブルガリア、チェコ、エストニア、ガーナ、インドネシア、ヨルダン、カザフスタン、メキシコ、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スロバキア、ベトナム)から18名、日本からは11名、計29名が参加した。今回のNEMSは4年ぶりの全面的な対面開催となり、8月22日に行われた開講式で、組織委員長の東京大学大学院工学系研究科准教授・出町和之氏は、会期を通じ対面・現地で講義、グループワーク、施設見学に臨む各国研修生らを大いに歓迎。続いて挨拶に立ったIAEA企画・経済調査官のアンリ・パイエール氏は、気候変動対策における原子力発電の重要性を述べた上、研修を通じ将来に向け専門的なネットワーク構築が図られることに期待を寄せた。また、NEMS前組織委員長の上坂充原子力委員会委員長は、「国際的な討論は極めて重要」と、原子力政策の立案において他国の状況も理解する必要性を強調するとともに、研修生らに対し、カリキュラムの一環となる福島訪問に関して「ALPS処理水対応も含め、福島第一原子力発電所廃炉の現状をよく見て理解して欲しい」と述べた。研修生らは、8月25日まで東大で講義とグループワークに臨んだ後、28日~9月1日には茨城・福島県に移動。原子力機構の高温工学試験研究炉「HTTR」、福島第一・第二原子力発電所、水素エネルギー研究フィールドなどを見学。4日には東京へ戻り、最終テストが実施され、8日に閉幕となる運びだ。
01 Sep 2023
2504
核軍縮に問題意識を持つ長崎の学生たちによるミッション「ナガサキ・ユース代表団」(第11期生)の活動報告会が8月28日、長崎大学で行われた。「ナガサキ・ユース代表団」は、長崎県、長崎市、長崎大学で構成される「核兵器廃絶長崎連絡協議会」が主催する人材育成の取組。毎年、長崎県内の若者(一定の英語力を有する18~25歳を目安)から募る同代表団は、2013年の第1期生以来、これまで計78名(延べ94名)にのぼり、国際会議などへの参加を通じ、核軍縮・不拡散外交について最前線で学び、世界各地の人々とのネットワークを広げてきた。その「卒業生」には、現在も教育やマスコミの分野で平和や核軍縮の活動に関わる人も多い。今回、活動報告を行った「ナガサキ・ユース代表団」は、2022年12月に任命された長崎大学、活水女子大学に在籍する学生ら7名(うち、オンライン参加と欠席による書面提出が各1名)。同代表団は、7月31日~8月11日にウィーンで開催されたNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議((条約の目的の実現および条約の規定の遵守を確保することを目的として5年に1度開催される国際会議で、次回は2026年に開催予定))の準備委員会を訪れ、各国の若者らが集う「ユースフォーラム」に参加したほか、書道をテーマとしたサイドイベントを開催。サイドイベントは、「平和に対する考えは多様で混在し、また、対立している。書道は数字と違って答えがなく、筆跡によって、人となりが現れる日本伝統の芸術。平和にも答えがなく、各人の経験によって形づけられる」との考えから企画された。この他、広島と長崎での関係者との対談や施設訪問、長崎県内を中心とする中学校での「平和のためにできること」をテーマとした出前講座を実施。ウィーンでは各国大使らとの対談も行っており、報告会でまとめの挨拶に立った有吉葉奈子さん(長崎大薬学部)は、「伝えることの難しさを感じた」と、所感を述べた。被爆者の平均年齢は85歳に達したといわれる。今回の報告会で「被爆者の生の声を聞くことが難しくなっている」という学生もいた。被爆者の高齢化が進む中、長崎県の大石賢吾知事は、8月22日の定例記者会見で、「『ナガサキ・ユース代表団』を始めとする若者たちの活躍が今後ますます重要になってくる」と、強調している。
30 Aug 2023
1333
青森県・宮下知事©青森県核燃料サイクル政策について青森県と関係閣僚らが意見交換を行う「核燃料サイクル協議会」が8月29日、総理官邸でおよそ3年ぶりに開かれた。6月に就任した青森県・宮下宗一郎知事の要請により開催されたもの。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同協議会は、1997年以来、核燃料サイクル政策の節目をとらえ、これまで12回行われてきた。8月25日には日本原燃の六ヶ所ウラン濃縮工場が約6年ぶりに生産運転を再開。28日にはリサイクル燃料貯蔵のむつ中間貯蔵施設に係る保安規定変更が原子力規制委員会により認可されるなど、核燃料サイクル事業の進展がみられた。両施設とも、新規制基準への適合性に関し、それぞれ2017年、2020年に審査に合格(設置変更許可)している。今回の協議会には、宮下知事の他、松野博一官房長官、高市早苗・内閣府科学技術担当相、西村明宏・同原子力防災担当相、永岡桂子文部科学相、西村康稔経済産業相、電気事業連合会の池辺和弘会長らが出席した。宮下知事は、関係閣僚および電事連に対し、原子力・核燃料サイクル政策の推進原子力施設の安全性確保高レベル放射性廃棄物等の最終処分と搬出期限の遵守地域振興と立地地域との共生原子力防災対策使用済燃料対策――について、確認・要請。これに対し、政府側は、核燃料サイクルについて、「エネルギー基本計画の通り、わが国の基本的方針として引き続き堅持していく」との方針のもと、六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場のしゅん工目標達成と操業に向けた準備を官民一体で進めていくと回答。歴代の青森県知事と約束してきた「青森県を最終処分地にしない」ことも引き続き遵守するとした。また、使用済燃料対策については、むつ中間貯蔵施設の事業開始に向け「地域をあげて協力してもらいたい」と要請。地域振興と立地地域との共生に向けては、方策を検討する会議体を早期に設置するとした。資源エネルギー庁では、福井県と、立地地域の将来像について検討する共創会議を2021年に立ち上げており、これを参考に会議体の具体化を図っていくものとみられる。
29 Aug 2023
2006
運開当時の高浜1号機(手前、原産新聞1974年11月21日号より)関西電力の高浜発電所1号機(PWR、82.6万kW)が8月28日、原子力規制委員会による最終検査を終了し、およそ12年半ぶりに営業運転を再開した。国内の40年超運転としては同社・美浜3号機(新規制基準施行後、2021年7月に営業運転再開)に続き2基目。新規制基準をクリアし再稼働したプラントとしては11基目となる。〈関西電力発表資料は こちら〉同機は、1974年11月14日に、国内では8基目、関西電力では美浜1・2号機に続く3基目の原子力発電プラントとして運転を開始。現在、運転開始からの年数は国内最長だ。丁度1年後の1975年11月14日には高浜2号機が、1976年12月1日には美浜3号機が運転を開始した。高浜1号機は、2011年1月に定期検査に伴い停止した後、東日本大震災を経て、2015年3月に同2号機、美浜3号機とともに新規制基準適合性に係る審査が開始。2016年4月に2号機と合わせて原子炉設置変更許可(審査合格)となり、2021年4月までに再稼働への地元からの「理解表明」を得た。同年6月9日、高浜1・2号機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限(プラント本体の設計・工事計画認可から5年)を満了。1号機については、2023年7月14日に特重施設が運用を開始し、同28日に原子炉起動、8月2日に発電再開となった。高浜1号機と同様に40年超運転となる同2号機は、9月中旬に原子炉起動、同下旬に発電再開、10月中旬に営業運転再開となる見通しだ。
29 Aug 2023
2493
8月24日に福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始された。〈既報〉西村康稔経済産業大臣は25日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談。廃炉が完遂するまで日本政府として責任をもって取り組んでいく考えを述べた上、引き続き長期にわたるIAEAによる安全性確保への協力を要請。また、林芳正外務大臣も同日、グロッシー事務局長と会談し、ALPS処理水の安全性確認に係る日本・IAEA間の協力・連携関係を対外的に示す文書を早期作成・公表することで一致した。ALPS処理水の安全性に関しては、IAEAが7月に「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出している。ヨークベニマル各店舗に掲示されているポップには、関係省庁と並び弊紙記事へのリンクもまた、西村経産相は8月24日に放出後の東京電力、環境省、水産庁による海水や魚のトリチウム濃度の分析結果の公表とともに、地元水産業の風評影響に備えた対応や漁業者らの生業の継続支援に取り組むとの談話を発表。28日には、太田房江副大臣とともに、福島県を訪問し、東日本大震災被災地の水産物「三陸・常磐もの」の魅力発信・消費拡大に向けた取組の一環として、県内の流通・小売事業者との意見交換・試食イベントを福島市内のスーパー「ヨークベニマル南福島店」で行ったほか、復興再生に関する地元関係者との協議会に出席。「ヨークベニマル」では、ALPS処理水の安全性を科学的根拠に基づき説明すべく、「連携しながら県産品の魅力発信に力を入れていきたい。安全性を確認しデータを公表することが一番の風評対策になる」と強調。海洋放出後に福島県相馬市で水揚げされたヒラメやホッキ貝の刺し身を試食するなどした。東京電力は、24日のALPS処理水の海洋放出開始後に、発電所から3km以内の10地点で海水試料を採取。すべての地点でトリチウム濃度は検出下限値(10ベクレル/リットル程度)未満であることが確認された。なお、海水による希釈後のトリチウム濃度は1,500ベクレル/リットル未満とされている。東京電力は、海洋放出の状況を知りたいというニーズに応え、ALPS処理水に関するポータルサイトを刷新。経産省も、福島第一原子力発電所近傍における海水中のトリチウム濃度の分析結果について、「異常なし」は青丸表示、「放出停止判断レベルを超える」ときは警告表示と、一目でわかるウェブサイトを公開した。
28 Aug 2023
1422
科学未来館コミュニケーターの青木皓子さん©科学未来館関東大震災から間もなく100年。「もしも明日大きな地震が発生したら、どんなことが起きて、私たちはどう行動すればいいのだろう」、日本科学未来館科学コミュニケーターの青木皓子さんは、ブログ(前編、後編)を通じ問いかけている。青木さんが訪れた震災伝承施設©科学未来館2011年3月11日に発生した東日本大震災を例に、青木さんは、「普段の生活では意識することが難しい過去の災害を振り返り、未来を考える」ための震災伝承施設として、「いわき震災伝承みらい館」(いわき市)、「東京電力廃炉資料館」(富岡町)、「とみおかアーカイブ・ミュージアム」(富岡町)、「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)、「震災遺構 浪江町請戸小学校」(浪江町)、「原子力災害考証館 furusato」(いわき市)を訪れた。実際に行ってみることで、「震災がもたらした被害とそこから得られる教訓を学ぶだけでなく、被害の様相や伝承すべきことが、地域や人によって実に多様であるという気付きがあった」という。2日間の福島県への旅で、青木さんが最初に訪れたのは「いわき震災伝承みらい館」。いわき市は、東日本大震災(本震発生)から丁度1月後の4月11日、再び震度6弱の「福島県浜通り大地震」に見舞われた。同館では、地盤がずれ落ち出現した大きな地層の剥ぎ取り標本などを展示。「災害は誰にでも起こり得るもの。展示を見て、いい意味で『怖い思い』をしてもらうことで、家族と話をしてもらうきっかけとなれば」と、箱崎智之副館長の言葉だ。青木さんは、「本震の後の混乱が続く中で発生した地震が、震災後の復旧活動に与える影響はとても大きかったと感じ、いわき市の被災体験を知ることが自分にとって一つの教訓となった」と、また、津波被害に見舞われた中学校の黒板の卒業式寄書きなど、発災当時の実物展示を見て「当たり前にそこにあった日常を感じる」と、語っている。東京電力廃炉資料館©東京電力続いて訪れたのは「東京電力廃炉資料館」。福島第一原子力発電所事故からおよそ7年半後の2018年11月にオープンした同施設は、福島第二原子力発電所のPR施設だった「エネルギー館」の建物および既存の展示機材を流用し、映像やジオラマを通じて、事故の反省と教訓を伝承するとともに、廃炉の取組全容と進捗状況をわかりやすく説明している。見学は案内ガイド付きのツアー形式が原則だ。事故当時の状況について解説を受けた青木さんは、「事実を科学的にとらえ、分析した結果を伝えていくことの重要性を感じる」と、話している。また、同じ富岡町にある「とみおかアーカイブ・ミュージアム」では、住民の避難誘導に当たっていた最中に津波に巻き込まれたパトカーなど、実際に被災した現物資料が数多く展示されており、「思わず言葉を失ってしまう瞬間もあった」という。「複合災害を地域の歴史に位置づける。」を目標とする同館では、避難生活の長期化に係る資料も多数。「震災遺産」とされる展示を見て、青木さんは、「町の歴史・文化の一部として東日本大震災が語られている」などと、来館の感想を述べている。2日目は、まず「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問。同館の位置する双葉町は、2020年3月に大熊町、富岡町とともに、帰還困難区域では初となる避難指示の一部解除がなされ、これに伴いJR常磐線が全線復旧。その半年後にオープンした同館は、原子力災害に焦点を当てており、展示エリアに常駐するアテンダントスタッフとの対話も通じ、福島第一原子力発電所事故について理解を深められる点が特徴だ。様々な場所で震災を経験した「語り部」による講話も行われており、青木さんは、「経験を共有することで、自分の中に新たなとらえ方が生まれる感覚とその重要性を感じた」と話している。いわき湯本の旅館一室に開設された「原子力災害考証館 furusato」、公害病のアーカイブ施設も参考としている©科学未来館続いて訪れた「震災遺構 浪江町請戸小学校」は、津波の脅威を真正面から扱うことで防災意識の向上を促す。壁や床の崩れ落ちた校舎内を目の当たりに、青木さんは、「より現実のものとして、自分に訴えかけてくる感覚を得た」と話している。温泉旅館の一室を用いた民間施設「原子力災害考証館 furusato」は、個人の経験に着目。行方不明者の捜索を避難指示により断念せざるを得なかった被災者による展示品などを見て、「震災や原発事故で生活が変わった人はたくさんいるが、公的資料館では、一人一人の物語をすべて扱うことはできない」と、社会教育施設に係る課題を投げかけている。青木さんは、一連の震災伝承施設の訪問を通じ、「自分の防災意識を見直すことにつながり、未来を考える時間となるのでは」と述べている。日本科学未来館の科学コミュニケーターは、科学技術に関心を持つ一般の人から募る任期制職員で、展示フロアでの対話・実演、イベントの企画・制作、ブログを通じた科学情報の発信などを行う。
25 Aug 2023
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東京電力は8月24日13時過ぎ、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を開始した。〈東京電力発表資料は こちら〉同社では、22日に行われた福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する関係閣僚会議が示したALPS処理水の海洋放出の開始時期に係る判断を受け、準備に着手。風評影響を最大限抑制すべく「海洋放出の実施に当たっては、周辺環境に与える影響等を確認しつつ、慎重に少量での放出から開始」とする政府の基本方針に従い、当面の間、第1段階「希釈後のALPS処理水のトリチウム濃度を確認」、第2段階「設備の健全性および運用手順を確認するための放出」の2段階に分けた放出を計画。初回放出の第1段階として、同日、ALPS処理水が想定通り希釈されていることを確認するため、ごく少量のALPS処理水(約1㎥)を海水(約1,200㎥)で希釈し、放水立坑に貯留した後、放水立坑の水を採取しトリチウム濃度を測定。その結果、24日までに分析値が1,500ベクレル/リットル(国の規制基準の40分の1)を下回っていることが確認され、今朝の気象・海象を踏まえ第2段階に移行した。2023年度の計画では、約7,800㎥ずつ計4回の放出が行われ、トリチウム総量は約5兆ベクレル(事故前の放出管理値は年間22兆ベクレル)となる。初回放出分は1日当たり約460㎥、約17日間で実施する見通しだ。東京電力では、データ公開に努めるべく、ALPS処理水の海洋放出における各設備での状況を1つにとりまとめたポータルサイト「ALPS処理水 海洋放出の状況」を開設した。なお、同社では23日、ALPS処理水の海洋放出開始に関する社内体制の強化に向け、関係部署を横断的に統括する体制を整備すべく、社長直轄の「ALPS処理水統合対策プロジェクトチーム」、および「ALPS処理水影響対策チーム」を設置。小早川智明社長は、これまでより頻度を上げて現場に足を運び、状況を確認することとしている。今般のALPS処理水の海洋放出開始について、原産協会の新井史朗理事長は、「福島第一原子力発電所の廃炉の大きな一歩となる」とのメッセージを発表した。
24 Aug 2023
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福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する関係閣僚会議が8月22日に開かれ、ALPS処理水処分に向けた安全確保や風評対策に係る政府全体の取組について確認を行った上、海洋放出の開始時期は「気象・海象条件に支障がなければ8月24日を見込む」ことを決定した。〈配布資料は こちら〉会議に出席した岸田文雄首相は、「福島の復興を実現するために、ALPS処理水処分は決して先送りできない課題」と、あらためて強調。ALPS処理水の海洋放出に係る日本やIAEAの科学的根拠に基づいた取組に対しては「国際社会の正確な理解が確実に広がりつつある」と評価。また、一部にみられる輸入規制の動きに対しては、引き続き早期撤廃を求めるとともに、水産物の国内消費の拡大、国内生産の維持、新たな輸出先開拓などの対策を講じていくとした。同会議では、ALPS処理水処分に伴う風評対策を中心とした政府全体の行動計画を改定。岸田首相は、「廃炉およびALPS処理水の放出を安全に完遂すること、処理水の処分に伴う風評影響や生業継続に対する不安に対処すべく、たとえ今後数十年の長期にわたろうとも、処分が完了するまで政府として責任をもって取り組んでいく」と強調した。ALPS処理水の安全性に関しては、7月4日にIAEAが「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出。同7日には、ALPS処理水希釈放出設備に関する使用前検査の終了証が原子力規制委員会より東京電力に交付された。岸田首相は8月20日、福島第一原子力発電所を視察し、安全性確保の取組状況を確認。21日には、全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長らと官邸内で会談し、同氏より「漁業者の生業継続に寄り添った政府の姿勢と対応について、われわれの理解は進んでいる」との声を聴いたとしている。東京電力は、ALPS処理水の海洋放出の開始時期に係る政府の判断を受け、「規制委員会の認可を得た実施計画に基づき、今後、最大限の緊張感をもって、放出開始に向けた準備を速やかに進めていく」とするコメントを発表。海洋放出の始動段階における対応に遺漏がないよう、経営陣が現場情報を適時に把握した上で、廃炉、賠償、風評対策に関わる様々な部署を横断的に統括する社長直轄プロジェクトチームを立ち上げるなど、体制強化を図るとしている。合わせて、初回放出の第1段階の準備作業開始を発表。ごく少量のALPS処理水を海水で希釈し、貯留水が入っていない放水立坑に流し込み、トリチウム濃度を分析。ALPS処理水が想定通り希釈されていることを確認した上で、第2段階として海洋放出を開始する。2023年度計画の海洋放出で、年度末までにタンク約10基分が減る見通し。また、IAEAはコメントを発表し、7月に公表した包括報告書の結論をあらためて示すとともに、ALPS処理水の海洋放出開始後も引き続き情報提供を図っていくなどとしている。
22 Aug 2023
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