英ロールス・ロイスSMR社とチェコ電力(ČEZ)は10月29日、ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)のチェコへの導入に向けた、戦略的パートナーシップを発表した。チェコ政府とČEZ(政府が70%の株式を保有)は今年9月、SMR供給者7社の中から入札によって英ロールス・ロイスSMR社をSMRの建設プロジェクトの優先サプライヤーに選定していた。今回の提携により、ČEZは数億ポンド(数十億コルナ)を投じ、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得する。チェコ国内に合計して300万kWe規模の同社製SMRの導入を計画し、2025年にも建設工事を開始する予定。なお、SMR導入は大型炉のリプレースを意図したものではなく大型炉の補完を目的とし、初号機の稼働をテメリン原子力発電所の近くで2030年代前半に計画している。また、ロールス・ロイスSMR社の既存の株主である英BNFリソーシズ社、米電力会社のコンステレーション社、カタール投資庁(QIA)も同社製SMRの欧州および世界における展開に向けた能力強化を支援する。ロールス・ロイスSMR社とČEZは、今後数十年にわたって続くと予想される提携を両政府間の重要な関係強化の機会と捉え、グローバルなサプライチェーンの構築と両国でのスキル開発を通じ、大幅な経済成長を実現させたい考えだ。ロールス・ロイス社のT. アーギンビルギッチCEOは、「ČEZを戦略的投資家およびパートナーとして歓迎する。この提携により、安定して安全な低炭素電力を供給する能力は一層強化され、当社のSMRの展開が英国、チェコ、そして世界中で成功するための準備が整った」と指摘。ČEZのD. べネシュCEOは、「今回のロールス・ロイスSMR社への出資により、国内外でクリーンな電力を供給する国際貢献が可能になる。チェコには世界有数の原子力サプライチェーン企業が複数あり、ロールス・ロイスSMRの技術開発への参加を通じ、将来のグローバル展開において重要な役割を果たす。我が国の原子力部門の成長と繁栄の機会をもたらすものだ」と抱負を語った。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。運転期間は60年以上。なお同炉は、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペで、今年9月下旬、最終選考に残った4炉型の1つ。
30 Oct 2024
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仏フラマトム社は10月22日、同社の改良型事故耐性燃料(Enhanced Accident Tolerant Fuel: E-ATF)を使用した燃料集合体がこのほど、米サザン・ニュークリア社がジョージア州で運転するA.W.ボーグル原子力発電所の2号機(PWR、122.9万kWe)で18か月間の運転サイクルの最終の3回目を完了したと発表した。サザン・ニュークリア社は、先行試験用の燃料集合体(LFA)4体を2019年4月に原子炉に装荷、4年半(54か月)にわたる運転後、フラマトム社の支援を受けて取り外し、検査した。燃料は期待された結果と優れた性能を示していると判断され、これによりE-ATF LFAコンセプトの評価は終了。フラマトム社は今後、商業化に向けたライセンス取得の取り組みに活用する予定だ。フラマトム社は、米エネルギー省(DOE)が福島第一原子力発電所の事故後に開始した「事故耐性燃料開発プログラム」に参加している。産業界からは同社のほかには、GEベルノバ社の傘下企業であるグローバル・ニュークリア・フュエル社、ウェスチングハウス社などが参加している。4体のLFAは、米エネルギー省(DOE)の資金援助を受けるフラマトム社のPROtect E-ATFプログラムの一環として、ワシントン州リッチランドにある、フラマトム社の燃料製造施設で製造された。同プログラムは、世界の5タイプ6基の原子炉で実施された実績がある。GAIAとよばれるPWR用の高性能で堅固な先進的な燃料集合体は、同社製の最新鋭ジルカロイ合金製被覆管「M5」に先進的なクロムコーティングを施し、クロミア添加燃料ペレットを使用した4本の先行試験用の燃料棒を含む。クロムコーティングにより、高温耐酸化性を向上させ、万一の冷却喪失時の水素発生を低減する。また、この革新的なコーティングは、デブリ・フレッティングに対する耐性を高め、通常運転時の燃料破損の可能性を低減するという。
30 Oct 2024
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仏フラマトム社とMVMパクシュ原子力発電所は10月25日、ハンガリーで唯一稼働する、パクシュ原子力発電所(ロシア型PWR=VVER-440×4基)へ2027年から長期燃料供給の契約締結を発表した。本契約は、2023年9月にハンガリー・エネルギー省とフラマトム社が署名した覚書に基づいている。ハンガリーのC. ラントス・エネルギー大臣は、「パクシュ原子力発電所は40年以上にわたり、安全に、安価でクリーンな電力を供給してきた。国際的なエネルギー危機の中でも電力価格の維持に貢献している。同発電所は国内の発電電力量の約半分を供給し、安定した電力供給とともに、気候目標を達成する上で重要な役割を果たしている。今回の契約により、エネルギー供給源の多様化を拡大し、エネルギー安全保障をさらに強化していく」と述べた。MVMパクシュ原子力発電所のP. ホルヴァスCEOは、「電力会社であるMVMグループの戦略的目標は、パクシュ発電所の運転期間延長なしには達成できない。今回の契約は、現在の運転期間を超える初の燃料供給契約となる」と言及。1~4号機は現在、それぞれ運転期間の20年延長により、2032年~2037年まで運転が可能となっている。現在、EU域内では18基のVVERが稼働しており、100万kWe級のVVER-1000はブルガリアとチェコで各2基ずつ、50万kWe級のVVER-440はチェコで4基、フィンランドで2基、ハンガリーで4基、スロバキアで4基の計14基が稼働中。国際情勢を背景にフラマトム社は、ロシア製燃料への輸入依存や関連サービスの供給中断のリスク低減のため、燃料の設計から製造、燃料部品のサプライチェーンをEU域内に配置、100%欧州主権を実現できる唯一の燃料サプライヤーとして、VVER用燃料の設計開発と供給を加速させている。フラマトム社は今年6月、欧州連合(EU)から1,000万ユーロ(約16.5億円)の資金拠出を受け、欧州原子力共同体(ユーラトム)の研究トレーニングプログラム下で、VVER-440向けの燃料開発と供給を目的とした「Safe and Alternative VVER European(SAVE)」プロジェクトを実施中。なお、2018年からVVER-1000の燃料設計にも取組んでおり、2022年12月にはブルガリアのコズロドイ発電所と同6号機(VVER-1000)への2025年から2034年までの10年間の燃料供給契約を締結したほか、今年10月にはチェコ電力と燃料の効率性と安全性向上を目的にVVER-1000の燃料開発に関する了解覚書を締結している。首都ブダペストの南にあるパクシュ原子力発電所で稼働する1~4号機(VVER-440×4基)は、1982年から1987年にかけて運転を開始。現在、同発電所に隣接して、パクシュ原子力発電所Ⅱ建設プロジェクトが進められている。5、6号機を増設、出力120万kWeのVVER-1200を採用する。既存の4基の運転期間を延長しながら、5、6号機に徐々にリプレースしていく方針。同プロジェクトには、主契約者であるロシア企業に加え、ハンガリー、米国、フランス、ドイツ、オーストリア、スイスの企業が下請けでプロジェクトに参加する。現在、5号機の掘削作業が進行中であり、年内に初コンクリート打設を予定している。5、6号機が稼働すると、原子力発電電力量のシェアは70%となり、天然ガス消費量を30億㎥、CO2排出量を1,700万トン削減できるという。
29 Oct 2024
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米エネルギー省(DOE)は10月15日、米国で先進炉開発を進めるオクロ社のマイクロ炉「オーロラ」向け燃料製造施設の概念安全設計報告書(CSDR)を承認した。今回の承認は、先進的な燃料リサイクル技術を実証する重要なステップ。なお、DOEは今年1月、同燃料製造施設の安全設計戦略(SDS)を承認している。オクロ社は、引き続きアイダホ国立研究所(INL)と協力して施設設計を完了し、建設開始前にDOEの承認を得る予定。この燃料製造施設はINL敷地内に設置される。1964年~1994年にINLで稼働していた実験増殖炉EBR-IIの使用済み燃料から高濃縮ウランを回収、低濃縮ウランと混合・希釈してHALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))とし、燃料を製造する。オクロ社は、初の商用オーロラ発電所をINL敷地内に2027年に設置し、製造した燃料を装荷する計画だ。INLは電気化学プロセスを使用して、2028年12月までにEBR-II燃料から約10トンのHALEUを回収する計画。オクロ社は、2019年に競争入札で獲得したINLとの契約により、内5トンのHALEUの利用が可能である。DOEはHALEUの使用中も使用後もその所有権を保持する。「オーロラ」はHALEU燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~5万kW。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をクリーン・エネルギーに転換することもできる。DOEは2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、INL敷地内で「オーロラ」の建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)に「オーロラ」初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCは、審査の主要トピックスに関する情報がオクロ社から十分に得られないとして、2022年1月に同社の申請を却下した。オクロ社は同年9月、「オーロラ」の将来的な許認可手続きが効率的かつ効果的に進められるよう、NRCとの事前協議を提案する「許認可プロジェクト計画(LPP)」をNRCに提出している。
29 Oct 2024
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国際原子力機関(IAEA)が主催する小型モジュール炉(SMR)とその応用に関する初の国際会議がウィーンで10月21日~25日に開催された。SMRのサプライヤーや規制関係者など約100か国から1,000人以上が集まり、世界のSMR活動を評価し、新たな課題と機会について議論した。IAEAは同会議を、大手テック企業から海運業界や鉄鋼業界まで、脱炭素化の目標達成を目指すあらゆる企業にとって、SMRをあらゆる角度から検討するのに最適な場と位置付けている。会議冒頭、R. グロッシー事務局長は「SMRは原子力において、最有望で、エキサイティングで、必要とされる技術開発の一つであり、現実なものになりつつある。クリーンエネルギーの未来を実現する上で原子力の導入を加速する必要があるが、SMR は産業の脱炭素化、経済の活性化に貢献できる」と強調。そして世界の大手テック企業が、低炭素エネルギーによって生成AI(人口知能)やその他の科学イノベーションを推進するためにSMRに注目し、開発途上国にもSMRの利用を検討する国が増えていると指摘。SMRの導入支援の強化に向けてIAEAが開設したSMRプラットフォームを通じて支援及び専門知識を提供するほか、SMR導入には資金調達が極めて重要になることから、国際金融機関に対し、従来型およびSMRのような新型炉への投資を促していると言及した。オープニングセッションでは、ガーナのK. メンサー・エネルギー省次官、米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニックCEOから基調講演が行われた。会議の開催期間中には、4つの主要テーマ(①SMRの設計、技術、燃料サイクル、②法規制の枠組み、③安全性、セキュリティ、保障措置、④SMRの展開を促進するための考慮事項)に関するパネルディスカッションやポスターセッションが行われ、SMRの可能性について議論した。なお、10月21日、原子力の調和および標準化イニシアチブ(Nuclear Harmonization & Standardization Initiative:NHSI)の第3回年次総会が開催された。IAEAは2022年、先進炉、特にSMRの世界展開には、迅速かつ効率的に、また開発者がスケールメリットを達成するために、標準化された設計が複数の国において認可され、かつ安全に導入されるための各国間の調和された規制アプローチが不可欠であるため、同イニシアチブを創設。同イニシアチブは、規制トラックと産業トラックの別個でありながら補完的な2つのトラック構成により、各国を支援する。前者は、原子力安全と国家主権を損なうことなく、加盟国間の規制協力を強化し、取組みの重複を回避して効率を高め、共通規制の作成を促進することを目標とし、後者は、SMR の開発、製造、建設、運転のより標準化されたアプローチの開発に焦点を当て、認可手続き、コスト、展開の所要時間の短縮を目指している。今回の総会では、各トラックの作業の進捗状況をレビューし、ワーキンググループが提案する多くの推奨事項を実施するという次の段階に移行することとなった。
28 Oct 2024
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米エネルギー省(DOE)は10月16日、バイデン大統領の「米国への投資(Investing in America)」アジェンダの一環として、第3世代+(プラス)の小型モジュール炉(SMR)の国内初期導入支援を目的とした、最大9億ドル(約1,359億円)の資金提供の申請プロセスを開始した。米国内での先進原子炉の導入促進や産業力強化のほか、後続の原子炉プロジェクトの支援に繋げることが狙い。資金は、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」から、2024年連結歳出法(Consolidated Appropriations Act of 2024)に割り当てられたものを活用する。 DOEによると、資金提供は2つのカテゴリーに分けて実施される。1つ目のカテゴリーとして先陣を切る、ファースト・ムーバー・チーム支援(First Mover Team Support)では、DOEは、同時に複数のSMRの受注促進を目的として、コンソーシアム・アプローチ、すなわち、電気事業者、原子炉ベンダー、建設業者、エンドユーザーなどがチームとして参加することを条件とし、最大2チームを支援する。支援額は最大で8億ドル(約1,208億円)。2つ目のカテゴリー、ファスト・フォロワー・導入支援(Fast Follower Deployment Support)では、設計、許認可申請、サイト準備など、国内原子力産業が直面する課題解決のため、計画中のSMR建設プロジェクトを主導する企業や、SMRのサプライチェーンの強化やコスト改善をめざす組織を支援する。支援額は最大で1億ドル(約151億円)。最新のDOEの「リフトオフ報告書」は、米国の原子力発電設備容量が、2024年の約1億kWから2050年までに約3億kWまで3倍になる可能性があると指摘。また、2050年ネットゼロ達成のためには、少なくとも7億~9億kWの追加のクリーンかつ信頼性の高い発電設備容量が必要としており、原子力は、これを大規模に達成できる数少ない実証済みのオプションの一つであると強調している。中でもSMRは、大型原子炉と比べて、発電コストが割高でも、閉鎖予定の小規模石炭火力発電所や高温熱を必要とする工業プロセスの代替となり得る点や、潜在的な立地、建設、およびコストなどの点で利点を有すると評価されている。今回の支援について、DOEのJ. グランホルム長官は、「米国の原子力部門の活性化は、カーボンフリーなエネルギーの供給量を増加し、AIやデータセンターから製造業、医療に至るまで、成長し続ける経済の需要を満たすためのカギとなる」とその意義を強調している。なお、支援金の申請期限は2025年1月17日まで。
25 Oct 2024
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国際原子力機関(IAEA)はこのほど、「気候変動と原子力発電」に関する報告書2024年版を発行した。原子力発電の拡大目標を達成するためには、投資を大幅に増やし、強固な資金調達の枠組みの必要性があると指摘し、その課題とベストプラクティスに焦点を当てている。IAEAは報告書の中で、各国がエネルギー安全保障の強化と経済の脱炭素化を目指す中、原子力発電への関心が世界中で高まりをみせているが、2050年ネットゼロの達成には、クリーンエネルギーの急速な拡大が必要であり、原子力発電は重要な役割を果たすと明言。IAEAの高予測シナリオでは、2050年までに原子力発電の設備容量が現在の2.5倍の9.5億kWeになると予測している。報告書によると、2050年の原子力発電設備容量に関するIAEAの高予測を達成するには、2017~2023年までの年間約500億ドル(7.6兆円)を上回る、年間1,250億ドル(約19兆円)の投資が必要であるという。昨年、UAEのドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で日本をはじめとする米英仏加など25か国が、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという野心的な「原子力の三倍化宣言」に署名したが、その実現には年間1,500億ドル(約22.8兆円)が必要になるとした。一方、原子力プロジェクトは、投資家の信頼を得るため、建設コストの予見可能性確保による金融リスクの軽減が不可欠であり、特定のリスク管理には政府の関与が依然として重要であるものの、民間部門の財政的関与が益々現実的になってきていると評価。具体的な動きとして、今年9月下旬、ニューヨークで開催された気候イベント「Climate Week」のサイドイベントにおいて、世界有数の14の大手金融機関による、原子力発電所の新規建設プロジェクトへの資金調達の支援表明を挙げた。また、グリーンボンドやグリーンローンなどの金融メカニズムが、保証と相まってリスクを軽減し、より広範な投資家の参加のためのツールを提供する、と指摘。欧州の持続可能な経済活動の分類である「EUタクソノミー」において、原子力が一定の条件で含まれたことが好影響をもたらしているとしたほか、2023年のフィンランドとフランスにおける原子力発電向けの初のグリーンボンドの発行や、フランス電力(EDF)と金融機関とのグリーンローン契約締結を例示した。今後、商業銀行の関与が更に促進される可能性に触れる一方で、特に金融市場が黎明期にある開発途上国では、多国間開発銀行が支援的な役割を果たす可能性があると分析している。IAEAのR. グロッシー事務局長も、「原子力発電は、ほぼ1世紀にわたる運転期間全体を通じて、手頃な価格でコスト競争力があるが、初期費用を賄うことは、特に市場主導型の経済や開発途上国で課題となる可能性がある」と述べ、「民間の金融部門が資金調達に貢献する必要性はますます高まるが、他の機関も同様だ。IAEAは原子力発電への投資に関して、途上国がより多くの、より良い資金調達オプションを確保できるよう、多国間開発銀行とその役割について協議中である」と説明した。本報告書は、10月3日、ブラジルで開催された第15回クリーンエネルギー大臣会合(CEM15)の枠内で、IAEAとCEMの「原子力イノベーション:クリーンエネルギーの未来(NICE)」イニシアチブが共同開催したサイドイベントで発表された。CEMは、クリーンエネルギー技術を進歩させるための政策とプログラムを推進し、学んだ教訓とベストプラクティスを共有するハイレベルな国際フォーラム。サイドイベントでは、クリーンエネルギーへの移行に向けた資金調達が主要議題として予定されている、11月11~22日にアゼルバイジャンのバクーで開催されるCOP29を見据え、ブラジル、IAEA、国際エネルギー機関(IEA)、米国の講演者が登壇し、原子力発電プロジェクトへの資金調達を確保する最善策について意見交換を行った。報告書では、新興国・途上国(EMDEs)における資金ギャップを埋め、クリーンエネルギーへの移行を加速させるためには、政策改革や国際パートナーシップを含む多面的なアプローチが必要であると勧告している。強固な規制の枠組み、新たな実現モデル(特にSMR向け)、熟練労働者の育成、包括的なステークホルダー・エンゲージメント戦略により、持続可能なエネルギーへの投資の新たな道が開かれる可能性を示唆。原子力規模、労働力、サプライチェーンの開発を支援する、革新的な資金調達メカニズムと、世界の気候目標の達成における原子力の重要な役割に対する認識の高まりを背景に、IAEAは、原子力の資金調達の広範な受け入れと支援へのシフトに協力していくとした。
24 Oct 2024
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欧州原子力アライアンスは10月15日、次期欧州委員会(EC)((現EC委員の任期は2024年10月31日まで。任期は5年。))に対し2024-2029年の欧州の脱炭素化プログラムにおいて、原子力と再生可能エネルギーの貢献を認めるよう、共同声明を発表した。ECのエネルギー理事会(Energy Council)がルクセンブルクで開催されたのを機に、同アライアンスは会合を開催、声明を発表したもので、会合にはEU加盟14か国と欧州委員会の閣僚や上級代表が出席した。同アライアンスは2023年2月にフランスが中心となり、原子力発電を利用する国々の協力イニシアチブとして発足。現在12か国が加盟、2か国がオブザーバー参加((ブルガリア、クロアチア、チェコ、フィンランド、フランス、ハンガリー、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデンのほか、イタリアとベルギーがオブザーバーとして参加。))し、域内における原子力への支援拡大に向けた働きかけを強めているところ。EUでは現在、総発電電力量に占める原子力の割合は25%で、低炭素電力に占める割合は50%と半分を占めている。共同声明は、世界的な地政学的変動の中で、2024年から2029年までの次期欧州委員会の任務は、欧州経済の競争力と強じん性を確保しながら2050年までの気候中立の達成に向け、技術中立的なアプローチを採用し、あらゆる解決策の活用によって欧州の脱炭素化を追求することである、と指摘。そのうえで、原子力は、再生可能エネルギーと並んで、化石燃料を使用せずに電力の需要増に対応し、気候変動を緩和するためのコスト競争力のある解決策であり、安定したベースロード電源であることから、供給安定性と電力市場において必要な柔軟性の両方を併せ持つ、とその優位性を強調している。また、アライアンスは今年3月、強固な欧州の原子力産業を育成し、発電および非発電用途の核物質、とりわけ核燃料の供給保証を確保する欧州の枠組みの設定に向けて、以下に掲げる4つの行動の柱を提示したことを紹介。これら4つの柱に関して、アライアンス内や志を同じくする他のEU加盟国及び欧州委員会との協力を強化すると表明している。大型炉、小型モジュール炉(SMR)および関連する欧州のバリューチェーンを支援するための民間および公的資金へのアクセスの拡大、欧州の資金調達手段の可能性と利点の追求すべての民生用原子力利用のため、熟練した多様な原子力労働力の開発具体的なプロジェクトを通じた、欧州のバリューチェーン全体での産業、研究、イノベーションの連携の拡大エネルギーミックスの脱炭素化に関する全ての加盟国の選択を尊重、結束の強化共同声明では、「既存及び新規の原子力発電所のメリットは、原子力を選択する加盟国の国境を越える。水力や原子力のような低炭素ベースロードのエネルギーは、我々の共通グリッド及び欧州電力市場全体を安定させ、原子力発電および再生可能エネルギーは、欧州連合にとって真の共有資産」と原子力の価値を改めて強調。さらに、「原子力発電は、そのベースロード特性と低い運転コストにより、市場環境の変動が少ない。このようなエネルギーがなければ、EUが2050年までにネットゼロを達成しつつ、市民に手頃な価格で信頼性があり、豊富な低炭素エネルギーを提供する道はない」と明言した。これらをふまえ、アライアンスは、次期欧州委員会に対し、統合エネルギーシステムの将来に向け、技術中立的なアプローチを採用して、再生可能エネルギーとともに原子力の役割を十分に認識し、エネルギー政策のパラダイムシフトの実現を勧告している。
24 Oct 2024
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英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社はこのほど、米ニューメキシコ州ユーニスにある同社の濃縮プラントの拡張プロジェクトの一環として、最初の新型遠心分離機を設置。また仏オラノ社は、フランス南部のトリカスタン・サイトにあるジョルジュ・ベスⅡ(GB-Ⅱ)濃縮工場の拡張工事を開始した。背景には、脱炭素化やロシア製原子燃料への依存の回避、エネルギーセキュリティの強化を要因とする、世界的な原子力発電への評価の高まりを反映した、濃縮役務の需要増がある。ウレンコ社の米ニューメキシコ州にあるプラントは、北米で唯一稼働する商業用ウラン濃縮施設。同社は10月10日、生産能力を約15%増とする約700tSWU/年((SWU(Separative Work Unit)は、ウランを濃縮する際に必要となる仕事量の単位(分離作業単位)。例えば、100万kWeの原子力発電所で1年間に必要となる濃縮ウランの仕事量は、約120tSWU。))の拡張プロジェクトを発表しており、今回増設した遠心分離機による濃縮ウランの生産は、2025年に開始予定。ウレンコ社によると、同プラントの2023年の生産は4,400tSWU/年で、生産能力をさらに10,000tSWU/年規模まで拡張できるスペースとライセンスがあり、市場ニーズに応じて、米国での生産能力をさらに拡大する用意があるとしている。同社は英国、ドイツ、オランダでも濃縮プラントを所有・操業するが、米国のプラントで最初の拡張プロジェクトを実施し、2027年の完成後、国内外向けに供給し、燃料サプライチェーンを強化する計画である。現在の拡張計画では、ドイツとオランダのプラントを含め、3プロジェクトで合計1,800tSWU/年規模が追加される見込み。一方、仏オラノ社は10月10日、所有・操業するジョルジュ・ベスⅡ(GB-Ⅱ)濃縮工場の拡張工事の定礎式を開催した。既存の14基の遠心分離モジュールに4基を増設し、生産能力を30%以上、2,500tSWU/年規模を拡張する計画で、その投資額は約17億ユーロ(約2,776億円)。増設した遠心分離機による生産を2028年に開始し、フル生産を2030年に予定している。GB-Ⅱ工場は2011年に遠心分離による生産を開始、2016年には7,500tSWU/年のフル生産能力に達した。ジョルジュ・ベスI工場は、ガス拡散によるウラン濃縮を実施していたが、2012年に閉鎖されている。なお、今年9月には、オラノ社の米国法人であるオラノUS社がウラン濃縮施設の建設候補地として、テネシー州オークリッジ市を選定している。
23 Oct 2024
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このほど、米ウェスチングハウス(WE)社は、カナダのバンクーバーを拠点とするシースパン(Seasupan)社を、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、モントリオールを拠点とするヴェラン(Velan)社を、それぞれ自社が開発・展開する原子力プラントのコンポーネントや部品の供給者に選定した。WE社は10月10日、同社製大型炉AP1000および小型モジュール炉(SMR)AP300のカナダ国内外での展開に向けて、シースパン社とスプール配管や鋼鉄構造物などの原子炉コンポーネント製造に係る了解覚書(MOU)を締結したことを明らかにした。シースパン社は太平洋北西部で造船事業のほか、船舶修理や海上輸送を手掛けている。WE社によると、同社には大型造船および複雑な修理・オーバーホールのプロジェクト実施に関し長年の蓄積されたノウハウがあり、AP1000やAP300などの大規模建設プロジェクトの要件にも合致しているという。WE社はまた、カナダ国外で建設されるAP1000×1基ごとに、カナダの450以上のサプライヤーを活用して約10億加ドル(約1,089億円)の国内総生産(GDP)をもたらすと指摘。さらに、カナダ国内でAP1000×4基建設した場合、建設期間を通じて287億加ドル(約3.1兆円)の経済効果を生み、稼働を開始すれば、GDPが年平均で81億加ドル(約8,818億円)増加し、1.2万人もの高レベルな雇用をカナダ国内に創出すると試算している。一方、GEH社は10月10日、GEH社製SMRのBWRX-300の初号機建設に向け、ヴェラン(Velan)社をエンジニアリングサポートとバルブのサプライヤーに選定したことを明らかにした。ヴェラン社は発電、化学および石油化学などの分野で使用される産業用バルブの製造会社。オンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は、BWRX-300×4基の建設を同社のダーリントン原子力発電所の隣接サイトで計画中で、初号機の着工に先立つ事前準備作業はすでに完了している。カナダ原子力安全委員会(CNSC)から建設許可が発給されれば、2025年に着工、2029年末までに営業運転を開始する予定。4基の完成は2034年の予定で、GEH社とヴェラン社は初号機のほか、残り3基へのバルブ供給の協力も視野に入れている。GEH社は、ヴェラン社との協力によってカナダの原子力サプライチェーンがさらに強化され、同国に経済的利益がもたらされると強調。ヴェラン社を戦略的サプライヤーとして位置付け、BWRX-300の世界展開を目指すとともに、引き続きカナダのサプライヤーと協力する機会を模索するとしている。
22 Oct 2024
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スロバキアは10月8日、米政府の原子力エネルギー移行促進(NEXT)プログラムから小型モジュール炉(SMR)の建設に適したサイト選定を包括的に支援する、500万ドル(約7.5億円)の助成金を獲得したことを明らかにした。これにより2025年末までにサイト選定を完了させる。米国のJ. ケリー元・米気候問題担当大統領特使が立ち上げたNEXTプログラムは、SMR導入間近のパートナー諸国への技術支援が目的。今回の助成金は昨年、米国が主導する石炭火力発電所からSMRによる原子力への転換プログラムである「プロジェクト・フェニックス(Project Phoenix)」下で、石炭火力発電所跡地でのSMRの実行可能性調査(F/S)の実施に向けた200万ドル(約3億円)の助成金授与に続くものだ。プロジェクト・フェニックスとNEXTプログラムは、米国務省の「SMRの責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)」プログラムのサブプログラムの位置づけである。本助成金は、スロバキアの大手原子力事業者であるスロバキア電力のほか、スロバキア経済省、スロバキア工科大学、スロバキア原子力規制庁、スロバキア電力・送電システム社、エンジニアリング会社のVUJE、U.S. Steel Košice(在スロバキアの米製鉄企業)が国際入札に共同参加して獲得。NEXTプログラムは、SMR建設のための意思決定と、その実施のための能力開発に係わる活動を支援する。支援される具体的なプロジェクトは、SMRの技術的・規制的要件に関するコンサルティング、大学や原子力施設との協力、SMR導入戦略の策定など。スロバキア電力によると、2025年までにSMRの実行可能性調査(F/S)を終え、2029年までに環境影響評価(EIA)を含むSMRの初期設計と許認可手続きを完了、2035年の運転開始を目指している。既に米国務省の選定によって技術、コンサルティング支援を行う米エンジニアリング企業のサージェント&ランディ(Sargent & Lundy, L.L.C)社のスタッフがスロバキアを訪問し、F/S実施に向けた初期の現地調査を実施している。スロバキア電力のB. ストリチェクCEOは、電力需要が増大する中、SMRはスロバキアの電力需要の大部分をカバーする既存の原子力発電所をリプレースできるものではないものの、エネルギーミックスを補完し、エネルギーセキュリティを高めるものだと強調した。スロバキア電力の所有設備は、2023年のスロバキアの総発電電力量の70%以上を賄っている。ボフニチェ(3、4号機、各VVER-440)とモホフチェ(1、2号機、各VVER-440)の両発電所の他、31の水力発電所を稼働させている。2024年3月には石炭火力発電所をすべて閉鎖し、脱炭素電源100%を達成した。なお、モホフチェ発電所では追加の2基(3、4号機、各VVER-440)を建設中で、3号機は2023年1月に送電を開始した。スロバキア政府はまた、今年5月にボフニチェ発電所5号機(最大120万kWe)の新設を承認した。
22 Oct 2024
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米エネルギー省(DOE)の原子力エネルギー(NE)局は10月17日、バイデン大統領の「米国への投資(Investing in America)」アジェンダの一環として、HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の国内サプライチェーン確立を支援するため、濃縮役務を提供する国内4社と契約を締結した。バイデン政権は、国内に強固で信頼性の高いHALEUサプライチェーンを確立することにより、先進炉の実証と展開を支援、高レベルの雇用を創出し、同分野における米国のリーダーシップを確立したい考えだ。DOEは、2035年までに100%のクリーンな電力、2050年までにネットゼロの達成という政府目標を達成するためには、HALEU燃料を使用する先進炉の活用が欠かせないと予測。2020年代末までに先進炉用のHALEU燃料が40トン以上必要となるという。DOEのJ. グランホルム長官は、「先進炉の稼働により原子力発電は前進を続け、今後何世代にもわたり米国最大の無炭素電源を確保することとなる。今回の契約締結は、クリーンで信頼性の高い電力需要の高まりに応え、国内にHALEUサプライチェーンの構築を目指す、現政権の最新の取組みの現れ」と強調。ホワイトハウスのA. ザイディ国家気候アドバイザーは、「現政権の民間原子力部門への数十億ドルの投資は、閉鎖した原子力発電所の再稼働や、新しい原子炉の稼働、燃料サプライチェーンの構築など、全米各地で原子力産業を躍進させ、大きな成果をもたらしている」と評価した。NE局は、現在開発中の小型で運転サイクルが長い多くの先進炉では、高効率化のためにHALEUが必要になると指摘。今回の契約により4社間でHALEU製造の「競争原理」を生み出し、DOEが最適な企業を選択できるようにするという。契約は最長10年間、基本報酬として各社に最低200万ドル(約3億円)を支払う。契約を締結した4社は、 ルイジアナ・エナジー・サービス(Louisiana Energy Services:Urenco傘下)、オラノ・フェデラル・サービス(Orano Federal Services)、ジェネラル・マター(General Matter:新興企業)、アメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(American Centrifuge Operating:Centrus Energy傘下)。予算の確保状況にもよるが最大27億ドル(約4,028億円)の契約が可能だという。DOEは今年1月、濃縮サービスに関する提案依頼書(Request for Proposals:RFP)を発行していた。これは、2020年エネルギー法によりDOEが民間による国内研究、開発、実証、商業利用のためHALEUへのアクセスの確保を目的に、インフレ抑制法(IRA)から資金手当てを得て実施する「HALEU利用プログラム」の一部である。今回の契約を通じてDOEが取得するHALEUは燃料に加工され、DOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)を通じて開発中の、テラパワー社のNatriumやXエナジー社のXe-100などに供給される。なお、10月8日には、国内6社とHALEU再転換事業のサプライチェーン支援に関する契約が締結されている。米国では現在、商業レベルのHALEUの濃縮および再転換を行っていない。実証レベルでは、セントラス社が2023年11月、オハイオ州パイクトンのポーツマス・サイトにある米国遠心分離濃縮プラント(ACP)で20kgのHALEUを製造し、DOEに初納入した。現在、同社は年間900kgのHALEU製造フェーズに移行している。
21 Oct 2024
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国際エネルギー機関(IEA)は10月16日、最新の年次報告書の「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2024年版」を公表。原子力の拡大を予測するとともに、クリーンエネルギーへの移行を加速・拡大するためには、より強力な政策と大規模投資の必要性が高まっていると指摘した。報告書によると、地政学的緊張が続く一方で、2020年代後半に石油と天然ガスが供給過剰となり、太陽光や蓄電池など、主要なクリーンエネルギー技術の製造能力も大幅過剰となるとの見通しを示し、これまでとは異なる新たなエネルギーの市場環境になると予測。燃料価格の圧力から解放され、クリーンエネルギーへの移行に対する投資強化と非効率な化石燃料補助金の撤廃に取り組む余地が生まれることにより、政府や消費者による選択が、今後のエネルギー部門と気候変動に対する取組みに大きな影響を及ぼすとの見方を示した。WEOは、世界のエネルギー・ミックスに関する2050年までの見通しを次の3通りのシナリオで解説している。現行のエネルギー政策に基づく「公表政策シナリオ」(STEPS)各国政府の誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定した「発表誓約シナリオ」(APS)2050年ネットゼロ目標を達成する「2050年実質ゼロ排出量シナリオ」(NZE)報告書は、STEPSでは、2030年までに世界の電力の半分以上を低炭素電源がまかない、石炭、石油、天然ガスの需要はいずれも同時期にはピークを迎えると分析。一方で、クリーンエネルギーへの移行は急ピッチで展開されつつあるものの、世界の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標達成は難しいと警告している。また、過去10年間の電力消費量は総エネルギー需要の2倍のペースで増加しており、今後も世界の電力需要の伸びはさらに加速するとし、STEPSでは、毎年日本の電力需要と同規模の電力量が追加され、NZEでは、さらに急速に増加する。F. ビロルIEA事務局長は、「エネルギーの歴史は、石炭、石油の時代から、今や急速に電気の時代へと移行している」との認識を示している。さらに、クリーンエネルギーが今後も急速に成長し続けるためには、とりわけ、電力網とエネルギー貯蔵への投資を大幅に増やす必要があると指摘。現在、再生可能エネルギーなどに不可欠な支援インフラがクリーンエネルギーへの移行に追いついていない現状を問題視したうえで、電力部門の確実な脱炭素化には、これらへの投資を増やす必要性を強調している。世界の電力供給と原子力再エネに代表される低炭素電源は、すべてのシナリオで電力需要よりも速いペース(出力ベース)で増加し、それに伴い化石燃料の発電シェアは低下。2023年には、再エネの発電シェアは前年同数の30%だったが、化石燃料の発電シェアは60%(2022年: 61%)に減少し、過去50年間で最低となった。STEPSでは、2035年までに太陽光と風力の発電シェアは世界で40%を超え、2050年には60%近くまで増加する。一方、原子力の発電シェアは、どのシナリオでも10%近くにとどまる見通し。原子力について、報告書は、手頃な価格で確実なクリーンエネルギー移行の鍵となる7つの技術(太陽光、風力、原子力、電気自動車、ヒートポンプ、水素、炭素回収)のうちの一つであると指摘。これらの技術は、APSとNZEでは、2050年までのCO2排出削減量の4分の3を占める一方で、電力網や貯蔵インフラなど、これらの導入に対する障壁を克服することが最優先事項と強調した。原子力の現状についてIEAは、COP28での「原子力3倍化」宣言、欧州を中心とした原子力回帰の動きを受け、「原子力発電に対する政策支援が高まっている」と指摘。原子力発電設備容量と発電電力量はともに、他の低炭素電源よりも遅いペースではあるものの、いずれのシナリオにおいて拡大すると予測した。具体的には、世界全体で2023年に4億1,600万kWだった原子力の発電設備容量が、2050年にはSTEPSで6億4,700万kWに、APSで8億7,400万kWに、NZEでは10億1,700万kWにそれぞれ拡大すると予測しており、この拡大には、主に中国、その他の新興市場や開発途上国における開発が貢献すると分析したほか、いずれのシナリオでも、中国が2030年頃までに原子力発電規模において世界第1位になるとの見通しを示した。また、現在、世界各国が開発にしのぎを削る小型モジュール炉(SMR)については、適切なコストで市場投入に成功すれば、世界市場で原子力発電の新たな機会を創出する可能性があると分析した。すでにSMRが稼働している中国とロシア以外では、2030年頃に最初のプロジェクトが運転を開始すると予想している。
21 Oct 2024
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米大手テック企業のAmazon社は10月16日、米X-エナジー社が開発する小型モジュー炉(SMR)の商業化に向けて、約5億ドル(約750億円)を出資すると発表した。主に、同社の気候変動対策に関する誓約のための基金(Climate Pledge Fund)から拠出する。今回の出資には、多国籍ヘッジファンドCitadel社、オルタナティブ投資会社Ares Management社、エネルギーに特化した未公開株式投資会社NGP社、ミシガン大学も参加する。同基金は2020年、Amazon社が20億ドル(約3,000億円)を投じて設立。2040年までに同社事業の温室効果ガス排出量を実質ゼロとするために、持続可能な技術やサービス開発を支援している。Amazon社は電力需要が拡大し続ける中、再生可能エネルギーへの投資を継続するとともに、新たな電源としてカーボンフリーで規模の拡大が柔軟な原子力発電に着目。とりわけ、設置面積が小さく、送電による逸失を最小限にするためにデータセンターなどのサービス施設の近傍に設置可能で、建設期間が短いSMRを活用する考えだ。両社は今回の出資により、2039年までに米国内で合計500万kWe以上のX-エナジー社製SMRの稼働を目指す。Amazon社は自社のデータセンター事業を支えるため、SMR建設プロジェクトへの直接投資と長期の電力購入契約(PPA)を通じて、増大する電力需要に対応する考えだ。さらに両社は、SMR導入と資金調達のモデルを確立することで、標準化させることを狙っている。X-エナジー社への具体的な支援策としてAmazon社は、SMR設計や機器製造、許認可取得活動、およびテネシー州オークリッジのTRISO燃料(3重被覆層・燃料粒子)製造施設の第一期の完成作業のほか、ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウェスト社のX-エナジー社製SMR×4基による合計32万kWeの建設プロジェクトに直接資金を投入。12基、合計96万kWeへの拡張も視野に入れる。Amazon社は、原子力発電への投資はその拠点となる地域社会に雇用などの経済的効果をもたらすと指摘している。X-エナジー社製SMRは「Xe-100」と呼ばれる電気出力8万kWの小型高温ガス炉で、TRISO燃料を使用。連結して32万~96万kWの発電容量への拡張が可能。米エネルギー省(DOE)が2020年、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)で5~7年以内に実証(運転)を目指し、支援対象に選定した二つの設計のうちの一つである。X-エナジー社は、米・大手化学メーカーであるダウ・ケミカル社のテキサス州メキシコ湾沿いに位置するシードリフトの製造施設で、Xe-100を4基連結させた発電所の建設を計画。エナジー・ノースウェスト社とは2023年、同社のコロンビア原子力発電所(BWR、121.1万kW)の隣接地でXe-100を採用した発電所を建設する共同開発合意書を締結している。またAmazon社はドミニオン・エナジー社と、同社がバ―ジニア州で所有・運転するノースアナ原子力発電所(PWR、100万kW級×2基)の近傍に、少なくとも30万kWeのSMR設置を検討する契約を締結したことを明らかにした。ドミニオン社は今年7月、将来的なエネルギー需要を見据え、同発電所でのSMR導入の実現可能性を評価するため、SMR開発企業を対象に「提案依頼書(RFP)」を発行している。バージニア州には米マイクロソフト社、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)社をはじめ、世界の巨大データセンターのうち、約35%にあたる約150施設が立地している。ドミニオン社の予測によると、バージニア州の電力需要は毎年5%以上増加しており、今後15年間で倍増するという。生成AI(人工知能)の普及により、データセンターの電力消費量が急増する中、大手テック企業では、再生可能エネルギーへの投資とともに、信頼性の高い原子力の活用を進める動きが活発化している。米マイクロソフト社は今年9月、大手電力会社のコンステレーション・エナジー社と閉鎖済みのスリーマイル・アイランド(TMI)1号機(PWR、89万kWe)を再稼働させ、マイクロソフト社のデータセンターに電力を供給する、20年間の売電契約の締結を発表。また同機と同じくペンシルベニア州にあるサスケハナ原子力発電所(BWR、133.0万kW×2基)に隣接するデータセンターを今年3月、米Amazon傘下のAWS社が買収した。10月14日には、Google社と米原子力新興企業のケイロス・パワー社が2035年までに複数の先進炉導入による電力購入契約(PPA)を締結したばかり。
18 Oct 2024
1963
モルテックス・エナジー・カナダ社は10月3日、使用済み燃料を利用する安定塩炉廃棄物バーナー (Stable Salt Reactor-Waste Burner:SSR-W) のユニークな能力を実証する新たな研究を発表した。モルテック社は「SSR-W」によって、クリーンなエネルギーを生産しながら放射性廃棄物を大幅に削減、クローズド・サイクルの実現を目指す。SSR-Wは熱出力120万kW、電気出力30万~50万kWの第4世代のピン型熔融塩高速炉。熱エネルギー貯蔵タンクを備え、電力需要のピーク時の対応や水素製造、地域暖房、工業用熱供給などに利用可能だ。カナダのニューブランズウィック州、オンタリオ州のほか、英国や米国にも拠点を置くモルテックス・チームによる共同研究。研究発表では、カナダのCANDU炉の使用済み燃料バンドルに含まれる超ウラン元素(TRU)の大部分を消費できると強調している。SSR-Wは、原子炉内の核分裂の過程で生成され数千年にわたり放射性を持つTRUを燃料として消費するように設計されており、放射性廃棄物を削減する革新的アプローチであるという。SSR-WによるTRUの消費量は年間425㎏、全運転期間を通じて約25トンに達する。照射サイクルを繰り返すことで、すべてのTRUは減少し、中でも最も懸念されるPu-239の割合が著しく低下するという。なお、SSR-Wは自身の使用済み燃料を無制限にリサイクルすることができ、新たな燃料を投入する必要はない。SSR-Wの配備が計画されている、カナダのポイントルプロー原子力発電所(CANDU、70.5万kWe)の運転期間中を通じて排出される26万の燃料バンドルのリサイクルによって、SSR-Wは60年間の運転が可能。これは、使用済み燃料を一度か限られた回数しかリサイクルできない他の先進炉と比較しても優位性があるという。なお同炉は、2021年5月にカナダ原子力安全委員会(CNSC)による「許認可申請前ベンダー設計審査(VDR)」のフェーズ1を完了した。モルテックス社は、使用済み燃料をSSR-Wで消費できる形に変換するためのリサイクルプロセスであるWATSS(WAste To Stable Salt)システムも開発し、SSR-Wに併設する計画だ。TRUはウランおよび核分裂生成物とともに抽出され、SSR-Wの燃料となる。WATSSは純粋なプルトニウムを分離生成できないため核拡散抵抗性に優れているという。同社はまた、最終廃棄物の処分について、カナダの確立されたルートで処分できるよう、カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)との協力を実施中である。
18 Oct 2024
1098
米IT企業大手Google社と米原子力新興企業のケイロス・パワー社は10月14日、2035年までに複数の先進炉導入による電力購入契約(PPA)を締結した。この契約は、先進炉の複数基導入に関する米国初の企業間契約になるという。本契約により、ケイロス社が開発する先進炉のフッ化物塩冷却高温炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeが建設され、Google社のデータセンターに電力を供給する。初号機を2030年までに運転開始させた後、後続機を順次建設していく計画だ。なお、建設サイトや契約額などの詳細は明らかにされていない。ケイロス社は、米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」でフッ化物塩冷却高温実証炉「ヘルメス」(非発電炉、熱出力3.5万kW)の土木工事(掘削工事)に着手している。ヘルメスは2023年12月に、米原子力規制委員会(NRC)が50年以上ぶりに建設を許可した非水冷却炉だ。TRISO燃料(3重被覆層・燃料粒子)と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉の設計を簡素化しているのが特徴で、2027年に運開予定。ヘルメスは、DOEによる「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉でもある。また、ヘルメスに隣接し、同炉を2基備えた実証プラント「ヘルメス2」(発電炉、2万kWe)の建設許可が昨年7月に申請されている。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模の「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。Google社は脱炭素化に本格的に取り組んでおり、2010年以来、115件以上の契約により合計1,400万kWe以上の発電設備からクリーンな電力を調達している。今回の契約によりGoogle社は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの既存利用を補完するとともに、安定したカーボンフリーの電力供給と2030年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという野心的な目標の達成を目指している。Google社のエネルギー・気候変動担当シニアディレクターのM. テレル氏は今回の提携発表について、Google社とケイロス社が米国の電力網に新たに50万kWeのカーボンフリーの電力を年中無休で供給し、クリーンエネルギーへの移行を加速させると強調。先進的なエネルギー技術を商業化させて、規模を拡大し、将来的により多くのコミュニティがクリーンで安価な電力を享受できるようにするというGoogle社の強い意欲を示した。Google社は今年7月に公開した2024年の環境報告書で、2023年の温室効果ガスの排出量が2019年比で43%増加し、2030年までにネットゼロの目標達成は、データセンターの電力消費の増加とサプライチェーン・インフラによる排出量の増加で困難に直面していると指摘しており、クリーンかつ増大する電力需要を満たす電源の確保が急務となっていた。生成AI(人工知能)の普及により、データセンターの電力消費量が急増する中、大手テック企業では、再生可能エネルギーへの投資とともに、信頼性の高い原子力の活用を進める動きが活発化している。米マイクロソフト社は今年9月、大手電力会社のコンステレーション・エナジー社と閉鎖済みのスリーマイル・アイランド(TMI)1号機(PWR、89万kWe)を再稼働させ、マイクロソフト社のデータセンターに電力を供給する、20年間の売電契約の締結を発表。また同機と同じくペンシルベニア州にあるサスケハナ原子力発電所(BWR、133.0万kW×2基)に隣接するデータセンターを今年3月、米アマゾン傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)社が買収している。
17 Oct 2024
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フィンランドのステディ・エナジー(Steady Energy)社は10月12日、フィンランドのケラヴァ市が保有するエネルギー企業のケラヴァン・エネルギア(Keravan Energia)社と、ケラヴァ市での小型モジュール炉(SMR)を使用した地域熱供給に関する協定を締結した。早ければSMRの建設を2029年から行い、地域熱供給を2032年に開始する見込み。 ステディ社は2023年にフィンランド国営のVTT技術研究センターからスピンオフした、SMR開発を行うスタートアップ企業で、フィンランド国内では既にクオピオ市、ヘルシンキ市で同様の取り組みを進めている。 ケラヴァン社は、2030年までのカーボンニュートラル達成を企業理念として掲げており、現在の地域熱供給にはバイオマス燃料と泥炭が燃料として使用されている。同社のJ. レトCEOは「電力価格の変動に対抗するには、より安定した電源が必要である。ステディ社が開発するSMRは非常に現実的な選択肢だ」と強調した。 今後、SMRの立地適性および技術的・経済的実現可能性の評価、規制当局による許認可手続きなどが行われる見込み。 建設が予定されているSMRは、これまでの2都市と同様にステディ社の「LDR-50」(5万kWt)で、コストは約1億ユーロ(約162億円)と見積もられている。LDR-50は熱供給専用で、最大150℃の熱を発生させる。地域暖房以外にも産業用蒸気や海水淡水化での利用を視野に入れている。高さは約10mで、地下に建設される。 ステディ社は来年、LDR-50の機能性などの検証を目的に、LDR-50のパイロットプラント(電気加熱式)をフィンランド国内に建設予定で、建設コストは1,500万~2,000万ユーロ(約24~32億円)。建設候補地としてはヘルシンキ市、クオピオ市、エスポー市、ラハティ市が挙げられている。
17 Oct 2024
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欧州委員会(EC)は10月11日、今年2月に立ち上げた「欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)」による初回の支援対象として9件のSMRプロジェクトを選定したことを明らかにした。同アライアンスは、欧州域内での2030年代初頭までの小型モジュール炉(SMR)の導入加速と、熟練労働力の確保など堅固なSMRサプライチェーン確立を目的に今年2月に発足。SMR開発会社、電力会社、エネルギー集約型企業、サプライチェーン企業、研究機関、金融機関など300以上の組織が加入する。アライアンスは6月、具体的なプロジェクトの成果をあげるべく、アライアンスのプロジェクト・ワーキング・グループ(PWG)への参加を希望するSMRプロジェクトの募集を開始。その後、寄せられた22件の申請について審査と評価を行い、初回の支援対象となる9件のプロジェクトを選定した。プロジェクト提案の評価にあたっては、実現可能性は考慮していないという。10月7日の理事会で選定された9件のSMRプロジェクトは以下の通り。EU-SMR-LFR project(伊・Ansaldo Nucleare, ベルギー・SCK-CEN, 伊・ENEA, ルーマニア・RATEN)CityHeat project(仏・Calogena, フィンランド・Steady Energy)Project Quantum(米・Last Energy)European LFR AS Project(英・Newcleo)Nuward(仏・EDF)European BWRX-300 SMR (ポーランド・OSGE)Rolls-Royce SMR(英・Rolls-Royce SMR Ltd)NuScale VOYGR SMR (ルーマニア・RoPower Nuclear SA)Thorizon One project (蘭・Thorizon)PWGは5月下旬の総会にて設置が決定した8つの技術作業部会(TWG:①産業への応用、②技術および研究・開発・イノベーション、③サプライチェーン、④労働者の技能、⑤パブリック・エンゲージメント、⑥原子力安全と保障措置、⑦燃料サイクルと廃棄物管理、⑧ファイナンス)から、特定のニーズに応じて支援を受ける。各プロジェクトとの協力に関心のあるステークホルダーもPWGに参加することができる。なお、アライアンスから資金提供の支援はない。今回支援対象に選定されなかったプロジェクトに対しては、主な改善点の概要が示されており、2025年第2四半期に予定される第2回目の選考時に再申請が可能となっている。
16 Oct 2024
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米エネルギー省(DOE)は9月30日、報告書「Pathways to Commercial Liftoff: Advanced Nuclear(商業化へのパスウェイ:先進原子力((報告書が指す先進原子力とは、第3世代+と第4世代の原子炉において実証済みの技術から革新的な技術まで、大型炉/小型炉/マイクロ炉の3サイズがある。 報告書では一般例として、大型軽水炉=約100万kW、小型モジュール炉(SMR)=約5万~約35万kW、マイクロ原子炉=5万kW以下、と定義している。)))」の最新版を発表した。2023年3月に発表された同報告書の改訂版で、重要なクリーンエネルギーの商業化成功への道筋を示している。具体的には、新型炉の導入に至るスケジュール感などの認識を官民で共有し、より迅速かつ協調的な行動を促進することが狙い。報告書は、昨今の電力需要の増加、最新の大型炉であるAP1000 に対する関心の高まり、閉鎖炉の再稼働計画といった、既存炉が有する価値の再認識など、最近の原子力再評価の動きを反映した内容となっている。報告書はまず、米国の原子力発電設備容量が2024年の1億kWから2050年までに3億kWまで3倍になる可能性があるとの見通しを提示。背景として、人口知能(AI)やデータセンターによる電力需要が増加している現状を挙げ、それに伴い新規原子力への投資を支援する新たな顧客層が出現した、と指摘した。さらに、インフレ抑制法(IRA)のインセンティブが、既存原子力発電所および新規原子炉の評価に大きな変化をもたらしているとし、電力会社が2年前には原子炉を閉鎖していた状況から一変、2024年には原子炉の80年運転、出力増強、閉鎖炉の再稼働など、原子力の積極活用に舵を切っているとの現状認識を示した。また報告書は、原子力が再生可能エネルギーを補完する存在として、エネルギー移行に不可欠な役割を担っていると指摘。再エネの導入ペースにかかわらず、電力システムの脱炭素化モデルは、ネットゼロ達成のためには少なくとも7億~9億kWの追加のクリーンかつ確実な発電設備容量を必要としているとした。そして、原子力は、これを大規模に達成できる数少ない実証済みのオプションの一つであり、原子力を組み合わせることにより、安定しない電源の追加設置、エネルギー貯蔵、送電網の必要性を減らし、脱炭素化コストの削減にも寄与するとした。さらに、原子力は、脱炭素化においてさまざまな価値を提供すると紹介。具体的には、①カーボンフリー電力である、②再エネを補完する確実な電力を提供できる、③土地の利用が少ない、④分散型電源よりも送電に必要な条件が少ない、⑤高サラリーな雇用を提供し、地域経済にも大きなメリットがある、⑥ネットゼロへの公平な移行を支援し、産業用熱利用などさまざまな用途がある――ことなどを挙げた。そのうえで、今後の新規原子力の大規模展開に向けては、少なくとも同じ炉型を5〜10基シリーズ建設するという確約された受注が、商業展開を促進するための最初の重要なステップであると指摘。同一炉型を繰り返し建設することで、建設コストが大幅に削減されるとの見方を示した。また、最初のプロジェクトを適切にオンタイム、オンバジェットで実施することが不可欠とも強調。米国で30数年ぶりに建設開始し、このほど運転開始をしたボーグル3、4号機(AP1000×2基)の経験により、サプライチェーンの基盤や人材開発が整備され、さらに今後のAP1000の展開にあたっては、30~50%の投資税額控除やコストの最大80%のDOE融資プログラム局(LPO)による融資が適用されるなど、IRAにより大幅なコスト削減が可能、との見方を示した。最後に、商業化展開への障害として、①電力市場価格が原子力発電の価値を一貫してカバーしていない、②コストおよび超過リスク、③米国の原子力および巨大プロジェクトの実施基盤の不足――を挙げ、原子力産業界、投資家、政府、そしてより広範なステークホルダーらそれぞれが、これら課題を克服すべく役割を担っていると結論している。
16 Oct 2024
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米エネルギー省(DOE)の原子力エネルギー(NE)局は10月8日、バイデン大統領の「米国への投資(Investing in America)」アジェンダの一環として、HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の再転換事業のサプライチェーンを支援するため、国内6社と契約を締結した。NE局は、現在開発中の小型で運転サイクルが長い多くの先進炉では、高効率化のためにHALEUが必要になると指摘。今回の契約により6社間でHALEU再転換の「競争原理」を生み出し、DOEが最適な企業を選択できるようにするという。契約は最長10年間、基本報酬として各社に最低200万ドル(約2.9億円)を支払う。契約を締結した6社は、BWX テクノロジーズ(BWXT)社、セントラス・エナジー社、フラマトム社、GE ベルノバ社、オラノ社、ウェスチングハウス社。予算の確保状況にもよるが最大8億ドル(約1,196億円)の契約が可能だという。DOEは昨年11月、濃縮ウランを先進炉向けに再転換するサービスの提案依頼書(Request for Proposals:RFP)を発行していた。これは、2020年エネルギー法によりDOEが民間による国内研究、開発、実証、商業利用のためHALEUへのアクセスの確保を目的に、インフレ抑制法(IRA)から資金手当てを得て実施する「HALEU利用プログラム」の一部である。今回の契約を通じてDOEが取得するHALEU燃料は、DOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)を通じて開発中の、テラパワー社のNatriumやXエナジー社のXe-100などに供給される。米国では現在、商業レベルのHALEUの濃縮および再転換を行っていない。なおDOEは、HALEUサプライチェーンの全体をサポートする濃縮サービスの契約も締結する予定。DOEのD. トゥルク副長官はリリースの中で、「強力で信頼性の高い国内燃料サプライチェーンの構築によって、政府の野心的な気候目標の達成、および高賃金・高スキルの雇用の創出や経済競争力を強化する。今回の契約は、原子燃料のロシアへの依存を排除し、エネルギー安全保障の強化を掲げる米政府の姿勢を明確にするものだ」と強調した。DOEの予測では、2035年までに100%のクリーンな電力、2050年までにネットゼロの達成という政府目標の達成のためには、2020年代末までに先進炉用のHALEU燃料40トン以上が必要であり、毎年、追加の量が必要になるという。
15 Oct 2024
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フィリピンのエネルギー省(DOE)と韓国水力・原子力(KHNP)は10月7日、フィリピンのマラカニアン宮殿において、F. マルコス大統領と韓国のY. ソンニョル(尹錫悦)大統領の立会いの下、エネルギー分野の協力に関する覚書(MOU)を締結した。本MOUにより、韓国はDOEと協力して、フィリピンにあるバターン原子力発電所(BNPP)の修復に向け、包括的な実行可能性調査を実施する。フィリピンでは1985年に東南アジア初の原子力発電所となるバターン原子力発電所(米ウェスチングハウス社製PWR、62万kWe)がほぼ完成したが、1986年に発足したアキノ政権は、同年のチョルノービリ原子力発電所事故の発生を受け、安全性及び経済性を疑問視し、運転認可の発給を見送った。その後、急速なエネルギー需要が国産エネルギーの開発や輸入エネルギーの増加でも賄えない場合に備え、1995年から原子力発電の導入について検討が始まったが、2011年3月の福島第一原子力発電所事故を受け、再度原子力発電開発を断念した。BNPPの実行可能性調査は2025年1月に開始され、初期段階で改修が難しいと判断された場合、新規の大型炉もしくは小型炉の建設の検討も視野に入れる。なお、韓国はKHNP、韓電KPS、斗山重工業で構成される韓国チームが2008年と2017年に実施した調査により、BNPPに精通している。今回のBNPPの実行可能性調査に関連するすべての費用はKHNPが全額負担。フィリピン政府は調査後、さらなる評価を行うこととしている。また今回のMOUにより、KHNPはBNPPの調査だけでなく、他の炉型やサイト候補地の調査を実施し、フィリピン政府の意思決定プロセスの指針となる重要な情報提供も行う。フィリピンは2022年2月の大統領令により、原子力をエネルギーミックスに統合するプロセスを開始する決定を明確にした。人口増加が続くフィリピンでは、慢性的な電力不足が続いているほか、電力は輸入化石燃料への依存度が高く、発電のおよそ60%を石炭火力が占め、現在、エネルギーセキュリティーと環境影響の観点から原子力発電の導入を目指している。また、フィリピンは、最新のフィリピン・エネルギー計画(PEP)2023-2050において、2032年までに最初の原子力発電所を稼働させ、その後、2035年までに240万kW、2050年までに480万kWへと拡大する目標を示している。原子力発電は、エネルギーミックスの多様化、エネルギー安全保障の強化とともに、人材への投資を促進して労働生産性を向上させ、計画期間内の温室効果ガス排出量削減のための費用対効果の高い選択肢としての役割が期待されている。また、従来の加圧水型原子炉(PWR)と比較してより迅速な展開につながる可能性がある小型モジュール炉(SMR)またはマイクロ炉がコスト競争力のあるエネルギー供給源の代替案となり、送電網のない地域への持続可能な電力供給源となる可能性があると指摘する。DOEの主導により、原子力エネルギー計画機関間委員会(NEP-IAC)が組織され、同委員会の下で、国際原子力機関(IAEA)の新規導入国向けのガイドラインであるマイルストーンドキュメントに沿って、整備すべき19項目に対応する6つの小委員会が設置されている。9月には、オーストリアのウィーンで開催された第68回IAEA総会において、DOEのS. ガリン次官が一般討論演説の中で、原子力ロードマップ(NEP)を発表。原子力規制機関の設立のほか、原子力安全に焦点を当てた重要法律の推進を強調した。また、原子力発電の利用を進める中で、公衆衛生と環境を保護し、国家安全保障を維持する法的・規制的枠組みを確実に整備することが政府の優先事項であるとしている。
11 Oct 2024
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米輸出入銀行(US EXIM)は10月1日、ルーマニア南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュテイ(Doicesti)で計画されている小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトに対し、9,800万ドル(約145億円)の融資を承認した。 ルーマニアは現在、ドイチェシュテイで13年前に閉鎖された旧・石炭火力発電所サイトに、米ニュースケール・パワー社製SMRである出力7.7万kWeの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kWe)の建設を計画している。プロジェクトは、ルーマニアの国営原子力発電会社であるニュークリアエレクトリカ(SNN)と民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社の合弁企業であるロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社を中心に進められており、そのほか、大手EPC(設計・調達・建設)企業であり、ニュースケール社の大株主でもある米フルアー(Fluor)社、韓サムスンC&T社(サムスン物産)、米サージェント&ランディ(Sargent & Lundy)社も参画している。フルアー社は現在、7月にロパワー社と締結した同プロジェクトの基本設計の第2段階(Front-End Engineering and Design:FEED2)契約に基づき、作業を進めている。今後、同社は、プロジェクト実施に必要な設計・エンジニアリングサービスに加えて、最終投資決定に必要な安全・セキュリティ分析、最新のコスト試算、スケジュールを提供するとしている。今回のプロジェクトでは、約200名の正規雇用のほか、建設段階で1,500名、製造・部品組立で2,300名の雇用を創出するという。2029年の運転開始を目指しており、運転期間は60年、その間にも運転・保守に係る雇用がさらに創出される見込み。なお、ルーマニアのエネルギー省は、SMR初号機建設費用を現段階で49億ドル(約7,300億円)と試算している。ルーマニアのSMR建設をめぐっては、2023年5月、米国、日本、韓国、およびUAEの官民パートナーが、同プロジェクトに共同で最大2億7,500万ドル(約408億円)の支援の提供を発表しており、今回の融資はその一部と見られている。さらに、2024年3月にもUS EXIMと米国際開発金融公社(US DFC)は同プロジェクトに対して計40億ドル(約5,900億円)の融資を行うと発表するなど、米政府が後押ししている。ルーマニア政府は8月23日、「2050年を見据えたルーマニアのエネルギー戦略2025~2035年」を発表し、その中で化石燃料から再生可能エネルギーおよび低炭素エネルギー源への段階的な移行の必要性を強調。また、9月19~20日にフランスで開催された経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)による第2回「新しい原子力へのロードマップ」会議には、S.ブルドゥジャ・エネルギー大臣が出席し、ルーマニアが原子力分野において技術、教育面などから先進的な取組みを行っているとしたうえで、欧州のエネルギー転換において中心的な役割を果たすべく、原子力推進・拡大に向けて引き続き積極的に取り組んでいく姿勢を改めて示した。ルーマニアでは、1996年、2007年にそれぞれ運転開始したチェルナボーダ1,2号機(CANDU 6×2基)が運転中で、総発電電力量に占める原子力シェアは約20%(2023年実績)。1号機は、2061年までの運転が認可されている。建設中断中の同3,4号機(CANDU 6×2基)は、米加両政府などの支援を受けて、建設再開に向けた準備が進められている。
11 Oct 2024
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米ケイロス・パワー社は10月2日、ニューメキシコ州アルバカーキ市にある同社サイトにおいて先進炉向け熔融塩冷却材製造施設の起工式を開催した。同社がテネシー州オークリッジで建設中の低出力実証炉「ヘルメス」をはじめ、同社の先進炉に高純度の熔融塩冷却材を供給する。ケイロス・パワー社のへルメスおよびフッ化物塩冷却高温炉(KP-FHR)は、Flibe(フリベ)と呼ばれる化学的に安定したフッ化リチウム塩とフッ化ベリリウム塩の混合物である熔融フッ化物塩冷却材によって冷却される。独自の伝熱媒体により、原子炉は低圧で動作し、放射能を封じ込め、堅牢な固有安全性を確保、設計を簡素化する。建設される熔融塩冷却材製造施設は、オハイオ州にある熔融塩精製プラントから得られたノウハウをベースとしている。同プラントでは、昨年、非原子力工学試験ユニット(ETU 1.0)向け14トンのFlibeの生産に成功した。ケイロス・パワー社は独自の化学プロセスを採用し、高純度のFlibeを大量に生産。将来のプロセス最適化と、商用炉向けのFlibeの生産を拡大する能力の確立を目指している。重要な部品や材料の生産を自ら実施することで、同社はサプライチェーンのリスクを軽減、コストとスケジュールを確実に管理しながら、自社の先進炉の開発と展開を加速させたい考えだ。ケイロス・パワー社は、熔融塩製造施設の建設と操業を支える、20~30名の高レベルの雇用創出を予定している。同製造施設は、ニューメキシコ州とアルバカーキ市から資金支援を受けるプロジェクト。また、米エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラム(ARDP)からの資金も活用する。ケイロス・パワー社は2020年にアルバカーキ市のメサ・デル・ソルに製造開発に特化したサイトを開設。4年間で、同サイトへ1.25億ドル(約187億円)以上の設備投資を行い、現在130名以上の常勤のスタッフがいる。サイトには先進炉部品製造、Uスタンプ圧力容器製造、モジュール炉建設、大規模な非原子力試験のための施設やTRISO燃料の技術開発ラボがあり、今回、熔融塩の製造施設が加わることにより、ヘルメス実証炉の実現と商用炉向けの生産拡大が可能となる。また、これらの施設の操業により、ニューメキシコ州に、この先10年で4.78億ドル(約714億円)の経済効果をもたらすとの予測もある。熔融塩の製造施設は米国の原子力産業にとって初となるものであり、ケイロス・パワー社は、重要な材料の国内生産能力を確立し、海外サプライヤーへの依存の低減を狙う。
10 Oct 2024
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英原子力規制庁(ONR)による起訴を受け10月2日、セラフィールド社は4年間のサイバーセキュリティー上の不備により332,500ポンド(約6,500万円)の罰金を科された。英国原子力廃止措置機関(NDA)の傘下にある同社は、カンブリア州で広大な原子力施設を運営している。具体的には、旧原子力施設から発生した放射性廃棄物などの回収、プルトニウムやウランを含む特殊核物質の貯蔵、使用済み燃料の管理、サイト内の施設の解体処理などを実施している。ONRは、2019年から2023年にかけてのセラフィールド社のITシステムのセキュリティー管理が、2003年の原子力産業セキュリティ規則に違反していると認定。ONRによると、セラフィールド社はサイバーセキュリティーと機密性の高い原子力情報の保護に関し、定められた基準、手順、取決めを満たしておらず、かなりの期間にわたり重大な不備があったことが判明したという。セラフィールド社はこの状態を放置し、実際に脆弱性が悪用されたという証拠はないものの、同社のITシステムが不正アクセスやデータ損失に対して脆弱であったとONRは判断した。ONRの検査官は2023年、ランサムウェア攻撃が成功した場合、現場での重要な「危険性の高いリスク軽減」作業に影響を与え、IT運用がその後通常の状態に戻るまでに最大18か月かかる可能性があると指摘。セラフィールド社内でも、フィッシング攻撃や悪意のある内部関係者が、重要なデータシステムの損失や情報漏洩を引き起こす可能性があることを認識していたという。攻撃が成功した場合、業務は中断され、施設損傷もしくは、重要な廃止措置作業が遅延する可能性があった。今年6月にウェストミンスター治安判事裁判所で行われた審問で、セラフィールド社は情報技術ネットワーク上の機密核情報の適切な保護の確保を怠り、承認されたセキュリティ計画の遵守をしなかった罪状を認めた。同裁判所は10月2日、セラフィールド社に対し、違反が中程度の過失と裁定し、332,500ポンドの罰金と訴訟費用53,253.2ポンド(約1,033万円)を支払うよう命じた。ONRのP. ファイフ規制担当シニアディレクターは、「2003年の原子力産業セキュリティ規則の下での義務を遵守する同社の能力が不十分であったことが認められた。欠陥はかなり長い間知られていたが、我々の介入と指導にもかかわらず、セラフィールド社は効果的に対応できず、セキュリティ侵害とシステムの侵害に対して脆弱な状態となった。ただし、昨年、改善が実施されている」と評価し、「サイバーセキュリティを含むすべてのリスクに対する原子力業界の効果的な管理を保証するために、我々規制当局は必要に応じて厳格な監視を継続する」と強調している。
09 Oct 2024
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